2011年11月24日

上条「だからお前のことも、絶対に助けに行くよ」一方「……」5

811 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/17(日) 20:16:30.49 ID:Ud+X54BYo

「うえ、終バス終わってる……、不幸だ」

自分の腕時計とバスの時刻表を見比べていた上条は、思わずいつもの口癖を漏らしながらがっくりと項垂れた。
歩いて帰れない距離という訳ではないのだが、補習によって疲れ果てた身体にはなかなかに酷な仕打ちだ。
しかし、こんなところで文句を言っていても仕方がない。彼は一つ大きな溜め息をつくと、とぼとぼと歩き始める、
と。

「あ」

「ン」

「あれっ」

まさに、ばったりと表現するのがぴったりだろう。
それぞれ全く別の道から歩いて来た一方通行と美琴と、同時に遭遇したのだから。
上条は驚いたが、二人も驚いているようだった。

「すっごい偶然ね。アンタたち、こんなとこで何してんの?」

「俺はアパート探し。オマエらこそ、何してンだ?」

「俺は終バス逃して補習の帰り。ビリビリは?」

「ビリビリ言うな。……まあ、私はちょっと野暮用でね。さっきまで黒子たちと一緒に居たんだけど、たった今別れてきたとこ」

つまり、三人が三人とも全然違う目的を持って歩いていただけらしい。
凄まじい偶然だ。

「そうだわ、ちょうど良いし勝負しましょ! いい加減決着つけたいし」

812 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/17(日) 20:16:57.80 ID:Ud+X54BYo

「馬鹿言え。あれは完全にオマエの負けだったろォが」

「うぐっ。で、でも私だって一発も喰らってないんだからあんなの無効よ無効!」

「往生際悪ィなァ……」

「あー、悪いんだけど今日はちょっと勘弁してくれ。補習で疲れてるんだよ」

「むう……」

美琴はそれでも納得いかないという顔をしていたが、一方通行に宥められてようやく諦めてくれたようだ。
そんな彼女を見てほっとした上条は、ふと何かを思い出したようにはっとした顔をした。

「そういえばさ、ここらで英国式の教会ってのが何処にあるか知ってるか?」

「は? 教会? 何でまたそんなとこに」

「なンだ、オマエ十字教徒だったのか?」

「違う違う。忘れモン届けに行かなきゃなんねーかもだからさ……」

「忘れ物?」

「まあ、とにかく教会の場所を教えて欲しいんだ。知らないか?」

上条が尋ねてくるが、記憶喪失でろくにこの辺りのことを把握していない一方通行が教会の場所なんて知っている筈もない。
ということでここで頼りになるのは美琴だけなのだが、彼女もいまいち心当たりがないのか難しい顔をしている。

「うーん、教会ねえ……。神学系の学校が多い第十二学区になら沢山ありそうなもんだけど……」

813 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/17(日) 20:17:25.51 ID:Ud+X54BYo

「それじゃちょっと遠すぎるな。この辺にはやっぱないか……」

「あ、ちょっと待って。英国式かどうかは知らないけど、教会なら確か三沢塾の近くにあったかも」

「三沢塾? 何処だそこ」

「んー、あの辺ちょっと道が入り組んでて分かりにくいのよね。一回大通りまで出ちゃった方が分かり易いかも」

「ほう」

言いながら大通りの方を指差した美琴は、ここから見える道路を指でなぞりながら上条に道順を教えてやる。
手元に地図が無いので教えるのに少し苦労したが、上条はきちんと理解してくれたようだった。

「おお、分かった分かった。ありがとな、恩に着るぜ」

「別に良いわよ。でも、忘れ物なら私が風紀委員に届けてあげよっか?」

「いや、届けなきゃいけないかもってだけだから。もしかしたら自分で取りに来るかもしれないし」

「そう? なら良いんだけど」

何だか複雑そうな上条の事情に美琴は首を傾げたが、深く追及するようなことでもないだろう。
それにしても教会に忘れ物を届けるなんて、シスターさんが十字架でも落として行ったのだろうか。

「あァそォだ、俺も風紀委員に届けなきゃいけねェモンがあるンだった。支部が何処にあるか知ってるか?」

「支部? 黒子の支部なら真逆の方向よ。あそこの駅をずっと北に行ったとこ。忘れ物なら私が預かるけど」

「いや、直接届けなきゃいけねェモンなンだ。悪ィな」

814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/04/17(日) 20:18:20.76 ID:Ud+X54BYo

「ふーん。揃いも揃って一体どんな事情があるんだか。暴力沙汰になりそうになったら私にも教えなさいよねっ」

不満そうにしながら、美琴は一方通行に向かってびしっと指を立てる。
しかしそんな彼女を見て、上条は呆れた顔をした。

「それどういう意味だ……。まったく、お前も一応女の子なんだからあんまりそういうことに首突っ込むんじゃねえぞ?」

「お、大きなお世話よ! ほんとにもう、どいつもこいつも私を一般人扱いするんだから」

「一般人だろォが」

「そうだけど、そうなんだけど! 超能力者(レベル5)だもん!」

「はいはい、お前が強いってことはよく分かってるよ」

「何か馬鹿にされてる気がする! むぎー!」

美琴は苛立ちに任せて電撃を放とうとしているようだったが、上条に頭を撫でられているので電気は発現する前に打ち消されていた。
こうしておけば、危険な超電磁砲も間違いなくただの一般人だ。安全安全。

「遊ぶな。ったく、オマエらは気楽でイイよなァ……」

「な、何よ。私だっていろいろ大変だったんだから!」

「上条さんも今日はなかなかハードな一日でしたよ。朝はエセ魔術師に絡まれるし食料全部駄目になるし遅刻するし補習は居残りだし……」

半分くらいは自業自得な気がするのだが、この際ここはスルーしておこう。
一方通行と美琴が気になったのは、最初の言葉だった。

「まじゅつし? って何?」

「オマエも遂に壊れたか……。可哀想ォに」

「ち、違う違う! 可哀想なのは俺じゃなくて自称魔術師の方だと思います!」

「まあ何でも良いけど。何よそのまじゅつしって?」

美琴の質問に、上条は何故か困ったような顔をする。
そして彼は暫らく言葉に迷った後、苦笑いを浮かべながらこう言った。

「さあ。何だろうな?」



815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/04/17(日) 20:18:46.51 ID:Ud+X54BYo

―――――



ドアの開閉する音に、本に目を落としていた御坂妹が顔を上げる。
彼女は帰って来たのが一方通行であることに気付くと、席を立って彼に駆け寄って行った。

「おかえりなさい一方通行。何処に行っていたのですか? とミサカは一方通行を出迎えます」

「……御坂妹か。アパート探しだ、アパート探し」

「ほう。良い物件は見つかりましたか? とミサカは一方通行の様子を窺ってみます」

「まァな。金が出来次第引っ越すことにした」

「そんなに早くにですか? とミサカは寂しがります」

「つっても仕事は相変わらずここなンだから、そこまで変わったりはしねェと思うぞ?」

「ふむ、そんなものでしょうか……とミサカは思案します。ともあれ約束は忘れていませんよね? とミサカは確認します」

「あァ、アパート借りたら遊びに行かせろって奴だろ? 覚えてるから安心しろ」

「それなら良いのです、とミサカは安堵します。これでミサカがあなたの家に遊びに行く第一号ですね」

「オマエも物好きだな。……あ、上条と御坂には場所教えるンじゃねェぞ」

「おや、まだそんなことを言っていたのですか、とミサカは驚きます」

816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/04/17(日) 20:19:13.17 ID:Ud+X54BYo

驚いているというよりも呆れているようだったが、一方通行は意に介さなかった。
御坂妹には理解できないかもしれないが、こればかりはそう簡単に譲ることはできない問題なのだ。

「そォだよ、悪かったな。それより返事は」

「了解しました。ですが、それなら何故ミサカは良いのですか? とミサカは疑問に思います」

「オマエらのことだから、どォせ隠してもストーキングして人海戦術でアパートの住所突き止めるだろ。
 だったら、最初っから素直に教えといた方がマシだ。同じ顔したストーカーが百人単位で大挙して押し掛けてくるとかホラーだぞ」

「なるほど。実際その通りでしょうから賢い選択ですね、とミサカは納得します」

「……冗談だったンだが。半分くらい」

「冗談で返したつもりですが。半分くらい、とミサカも本来の意図を告白します」

「……そォか」

「はい」

半分というのは具体的に何処まで本気ということなのか気になったが、知らない方が幸せでいられるような気がしたので黙っておいた。
もう無闇に御坂妹にタチの悪い冗談を振るのは辞めようなどと考えていると、一方通行はふと彼女の持っている本が気になった。

「ソレ、何だ?」

「これですか? これは先日ぬいぐるみを大量購入した際に同時に購入した本です。羨ましいでしょう、とミサカは本を見せびらかします」

「……って、絵本じゃねェか。こンなン読ンで面白いか?」

「面白いですよ。ほら、この小鳥のイラストなどは非常に可愛いでしょう、とミサカは同意を求めます」

817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/04/17(日) 20:19:40.70 ID:Ud+X54BYo

「まァ可愛いは可愛いが……。楽しみ方が間違ってる気がする」

「?」

一方通行の言葉に、御坂妹は首を傾げてきょとんとしている。
可愛い絵を見たいだけなら、画集やイラスト本を買った方が良い気がするのだが。

「で、何て本なンだ?」

「ええと、『みにくいあひるの子』ですね。有名な童話のようです、とミサカは解説します」

その童話なら、一方通行も知識だけなら持っている。
生憎と記憶喪失なのでその童話を読んだことがあるのかどうかは定かではないが、大体のあらすじは把握していた。

「話はちゃンと読ンだか?」

「はい。可愛い絵柄とは裏腹になかなかにハードな話でした、とミサカは感想を述べます」

「ハード? 『みにくいあひるの子』はハッピーエンドだった筈だが」

「……果たしてそうなのでしょうか、とミサカは一人ごちます」

「? どォいう意味だ?」

一方通行の問いに、しかし御坂妹は何も答えなかった。
あんな子供向けの童話を読んで、彼女は一体どんなことを感じたのだろう。一方通行には分からなかった。
ただ彼女は一般人とは違った独特な感性を持っているので、その結末に何か思うところがあったのかもしれない。

「まあそんなことはどうでも良いのです、とミサカはざっくり切り捨てます」

「本当にざっくりだな」

818 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/17(日) 20:20:18.20 ID:Ud+X54BYo

「それよりミサカはあなたが手に持っているそれが気になるのですが、とミサカはあなたの手元を覗き込みます」

「ン? あァ、これのことか」

言いながら一方通行が持ち上げたのは、例の紙束だった。
ただし流石にその内容を御坂妹に見せる訳にはいかないので、中身は見えないように気を遣っているが。

「風紀委員への届けもンだ。大したモンじゃねェ」

「……そうですか? とミサカは訝しがります」

「そォだよ。オマエが気にするよォなことじゃねェ」

「ですが、風紀委員への届け物なら早めに届けなくて良いのですか?
 風紀委員の支部ならこの時間でも開いていると思われますが、とミサカは首を傾げます」

「急ぎじゃねェから良いンだよ、こっからだと遠いしな。ほら、オマエは大人しく本でも読ンでろ」

「あなたは何を? とミサカは質問します」

「部屋戻って寝る。あとオマエ、夜更かしは程々にしろよ」

「な、何故それを……とミサカは動揺します」

「夜中に目が覚めた時にオマエの部屋の前通ると、必ず電気が付いてンだよ。睡眠時間は大切にしとけ」

適当に返事すると、一方通行は動揺のあまりに固まってしまっている御坂妹を無視して研究所の奥の方へと歩いていってしまった。
そして自分の部屋へと戻ってきた一方通行は、持っていた紙束をベッドの上に放り投げるとデスクに座る。
備え付けられていたコンピュータを起動すると、凄まじい速度でのタイピングを始めた。

819 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/17(日) 20:20:47.82 ID:Ud+X54BYo

ちなみに、彼はこの部屋を与えられて初めて自分のコンピュータというものを持ったのだが、用も無いので大して触れたことは無かった。
しかし記憶喪失以前にコンピュータに触れる機会があったらしく、彼の指は自分でも驚くくらい滑らかに動いてくれた。

(この研究所のセキュリティレベルは高めに設定されてる、が……、書庫(バンク)にアクセスできるか……?)

多くの画面が現れては消え、現れては消えていく。彼は一通りの操作を終えたあと、緊張した面持ちで書庫へのアクセスを実行した。
すると、暫らくのラグの後、書庫へのアクセスを成功させたという旨のメッセージが表示される。

(行けた、か。さて、ここからだが……)

一方通行はベッドの上に放置されている紙束をちらりと振り返ると、再び高速でのタイピングを始める。
紙束に記載されていた大能力者のデータを検索しているのだ。
あの紙束にある情報は大能力者の顔写真と簡単なプロフィール、具体的な能力の内容くらいで、詳細が載っていない。
そこで、一方通行は狙われている大能力者の詳細な情報を書庫に求めたのだ。

(つっても書庫の情報にも限度があるからな。本当は監視カメラでもハッキングできれば良いンだろォが……)

入院中に美琴に面白半分でハッキングの方法を教えられたことはあるが、流石にパソコン初心者の身でそんな冒険に出たくはない。
なのであくまで合法的に、出来る限り多くの情報を集めたいのだが……。

(ン? コイツは……)

大能力者の情報を照会していた一方通行の目に留まったのは、一人の少女。
無論、大能力者だ。
見たこともない顔に、聞いたこともない名前。
けれど一方通行は、その少女が妙に気になった。

(……まァ良い。ちょうど珍しい能力らしいし、優先順位も高そォだ。コイツにするか)

820 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/17(日) 20:21:26.22 ID:Ud+X54BYo

一方通行は心中でそれだけ呟くと、彼女に関する更に詳細な情報を求めて書庫の更に深部へとアクセスする。
学校名と所属学科、居住している学生寮まで載っている。
まあ、あくまでただのデータ上の情報なのでどこまで正確なのかは分からないが。最近の学生には不良が多いらしいし。

(よし、これだけ分かりゃ十分だろ。あとはタイミングだが……、まァ何とかなるか)

彼らしくない楽観だが、実際現状で準備できることはこれくらいしかないので仕方がない。
本当は美琴辺りに協力を求めればもっと楽なのだろうが、最近は本当に何かと忙しそうなのでこれ以上の気苦労は増やしてやりたくなかった。
それに、こんな危なそうな事件に彼女を巻き込むということ自体にも抵抗がある。
一方通行は、既に彼女をもっと恐ろしいことに巻き込んでしまっているのだ。

(……これで、完了。行動開始は明日からでイイか)

ディスプレイに表示されていたウィンドウが、作業終了とともに次々と消えていく。
一方通行はそのままコンピュータをシャットダウンすると、椅子の背もたれに思いきり体重を掛けて天井を仰いだ。

(あっちも……、いつか決着、つけねェとな)



821 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/17(日) 20:21:57.37 ID:Ud+X54BYo

―――――



薄暗い路地裏。
その如何にもお嬢様然とした見た目にはまったく似つかわしくない場所に、白井黒子は笑顔で立っていた。
目の前には、これまた如何にもと形容したくなるような不良たち。
彼らは自分たちの縄張りへと悠々と侵入してきた白井を、威嚇するかのように睨みつけていた。

「御免あそばせ。幻想御手(レベルアッパー)について知りたいのですけれど、詳しいことを教えて頂けないでしょうか?」

「あ゛ー? 何言ってんだこのクソガキ」

あくまでにこにことしている白井。
対して、不良たちは敵意を隠そうともせずに彼女に迫る。

「運が悪いなお嬢ちゃん」

「普段なら追っ払ってお終いだが、先日アンタと同じ制服の女に怪我させられてね」

「アンタに恨みはねえが、ちょっと憂さ晴らしさせてもうらうぜ!」

822 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/17(日) 20:22:35.18 ID:Ud+X54BYo

白井は笑顔を崩さない。
けれど不良たちは、そんな彼女にも容赦なく襲い掛かってきた。

「ま、待て! その女は……」

しかしその中でたった一人、彼女に見覚えがあったらしい男が声を上げる。
が、時既に遅し。
本当にほんの一瞬の内に、白井は襲い掛かってきた不良を片付けてしまったのだ。

「まったく、愚かですこと。暗かったから分からなかったんですの? あなたたちに怪我させたのはわたくしたちですのよ」

言いながら、白井はぱんぱんと手をはたく。
彼女の目の前には、鉄釘によって服を壁に打ち付けられた不良たちがぶら下がっていた。
そしてそんな彼女の背後では、襲い掛かってこなかった不良が腰を抜かしている。

「さてっと、できれば善良な一般市民の自発的な協力を仰ぎたいのですが……。如何なさいますか?」

白井はくるりと振り返り、腰を抜かしている不良を見やる。
にっこりと笑っているだけの筈なのに妙な迫力を持っている彼女に、怖気づいた男は高速でこくこくと頷くほかなかった。


835 :◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/20(水) 21:09:23.85 ID:4F9GmDFbo

七月二十一日。
風紀委員、一七七支部。
コンピュータの前に座っている初春は、コンピュータが幻想御手(レベルアッパー)をダウンロードする様子をじっと見つめていた。
38%、64%、96%……完了。

「ダウンロードできたみたいですわね」

「これを聴くだけでレベルアップって、そんな事あるんですかね」

そう、幻想御手の正体は『曲』だったのだ。
そんな真相を聞いて訝しげな顔をする初春に、白井は少し物騒な笑顔を浮かべる。

「情報提供者の話ではそういう事らしいですわよ? しっっっかり訊いて来たので間違いないかと」

「ですけど、正直眉唾というか……」

「そう思うなら試して御覧なさいな。使ってみればすぐに答えが出ますわよ」

「えー、でも副作用があるとか言われてるんですよねえ。そんな危ないもの……」

しかしそこまで言い掛けて、初春ははっとする。
微妙に黒い考えが頭をもたげた。

(もしこれを使って白井さん以上の能力者になっちゃったりしたら……、今までの仕返しにあんな事やこんな事を……」

「途中から思考がだだ漏れになってますわよ、初春」

白井はにっこりと笑うと、イヤホンを両手で持つ。
その様子に嫌な予感を感じた初春は逃走を図ったが、それより早く白井の手が彼女の肩を捕まえた。

836 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/20(水) 21:09:54.12 ID:4F9GmDFbo

「わたくしへの恨みを晴らしたいのでしたら是非!」

「わーっ! 嘘です嘘ですよー!!」

そんな感じで二人は一頻りじゃれ合っていたが、白井が初春を捕まえてお仕置きをしたところでそれも終了する。
流石に白井も本気で彼女に幻想御手を使う気は無かったようだ。

「うう、白井さんの鬼……」

「何か言いました?」

「い、いえ、何も。
 ……ちなみに、業者に連絡してこの曲を公開していたサイトを閉鎖するまでのダウンロード件数は五〇〇〇件を超えてますね」

「げ……。そんなにですの?」

「全員が全員使用したわけではないと思いますが、ダウンロードできなくなってからは金銭で売買する人が増えてるみたいです。
 直接取引だったり振込みだったり……」

「広まるのを完全に止めるのは無理……、ということですわね」

想像以上に悪化している状況に、白井は苦い顔をする。
コンピュータを操りながら解説をしてくれている初春の顔も、険しかった。

「その取引の場所は分かりますの?」

「ちょっと待っててください」

初春が軽くタイピングすると、プリンターから何枚もの紙が吐き出されてきた。
彼女は出てきた紙をクリップで纏めると、それを丸ごと白井に差し出す。

837 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/20(水) 21:10:20.25 ID:4F9GmDFbo

「はい、時間と場所です」

「って、これ全部ですの!?」

白井は資料を受け取りながら悲鳴を上げたが、これも立派な風紀委員の仕事。
露骨に面倒臭そうにはしているものの、きちんと資料に目を通していた。

「……仕方ありませんわね。一つ一つ回って行きますか」

「え、白井さん一人でですか?」

「これが本物で実害があると実証されなければ、上は重い腰を上げませんもの。
 まずはできる限り拡大を止め、危険性を証明するしかありませんわ。初春は木山先生の見解の方をお願いしますの」

「あ、ハイ」

とにかく、今は動ける人間が動くしかない。
白井は学生鞄を手にすると、素早く一七七支部を出て行ってしまった。



838 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/20(水) 21:10:46.53 ID:4F9GmDFbo

―――――



(我ながら、すげェ豪運だな)

目の前の光景に、一方通行は呆れてさえいた。
確かに、追い掛けてはいた。
確かに、書庫(バンク)の情報を元に少女の動向を追ってはいた。
確かに、少女の優先順位は高かった。

しかしだからと言って、こんなにも早く探し物が見つかるものだろうか。
昨日の今日なのに。

「ようよう姉ちゃん、こんな所で何してんだ?」

「飛んで火に入る夏の虫ってかあ!? ギャハハハハ!」

道を一本向こうに行ったところで繰り広げられているのは、路地裏では大して珍しくもない不良によるカツアゲだ。
……いや、今回に限っては少々事情が違うか。
何故なら絡んでいるのは昨日一方通行に絡んできたあの不良たちで、絡まれているのは昨日一方通行が調べたあの少女だからだ。

(アイツら、学習しねェなァ……。昨日の場所からちょっと離れてるからって油断しすぎだろ)

一人ごちながら、一方通行はゆっくりと不良たちへと近付いていく。
不良たちは彼に気付いていない。まあ、昨日のことがあるので気付いていたら脱兎のごとく逃げ出すだろうが。
しかし、今回ばかりは奴らを逃がす訳にはいかない。情報が必要なのだ。

839 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/20(水) 21:11:20.29 ID:4F9GmDFbo

だから一方通行は、決して不良たちに気配を悟られないように静かにその背後へと近付いて行った。
……が、その時。

(げ)

「…………」

絡まれている方の少女が、一方通行に気が付いた。
だが彼女は一方通行を発見しても大した反応を見せることはなく、じっとこちらを見つめているだけだ。
……あれは、助けを求めている、のだろうか?

(まァ求められなくても助けるけどな)

また幸いなことに、少女は一方通行に気付いてもうんともすんとも言わなかった。
ただ、少女はこれでもかというくらいの勢いでこちらを凝視しているので下手をすると不良に勘付かれる可能性もあったが、
間抜けな不良たちは少女にばかり注意が行っていてまるでこちらに気付く様子が無い。

だから一方通行は、上手いこと不良たちに存在を悟られずに彼らの背後まで忍び寄ることができた。
そして。

「ぃぎッ!?」

「うお!? なっ、何だ!?」

まずは一人、手刀で首筋を打って気絶させる。そして不良たちが動揺している隙を突いて、能力を駆使し一気に三人の意識を奪った。
しかしろくに顔を見ずに襲撃した所為か、リーダー格の男は未だ健在だ。

「こいつ、昨日の……ッ!?」

「く、くそッ! 逃げろ!」

840 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/20(水) 21:11:46.65 ID:4F9GmDFbo

リーダー格の男を含む不良たちが一斉に逃走を図ったが、そんなことを一方通行が許す筈もない。
彼は一瞬で彼らの前方へと回り込むと、今度こそリーダー格の男に狙いを定めてその鳩尾を蹴り上げる。
ごぼりと空気を吐き出す音と共に、リーダー格の男は呆気なく沈んだ。

「これでよし、と。他の奴らはどォすっかねェ?」

「ひぃッ」

自分たちの頭が倒れてしまったからか、一方通行が逃げ道を塞いでいるからか、残った不良たちも全員腰を抜かして地面を這い蹲っていた。
かなり大人数だったのできちんと仕留められるか心配だったのだが、案外苦も無く処理することができて拍子抜けする。
黙って不良たちの注意を引き付けてくれていたあの少女のお陰もあるかもしれない。最初に四人減らせたと言うのはなかなかの戦果だ。

「っと、オマエは大丈夫か?」

「うん。へいき」

眠そうな目をした黒髪の少女は、まるで何とも無さそうな顔をしている。
しかし反射の様子を見るにキャパシティダウンは作動しているようなのだが、何ともないのだろうか。

「……頭痛はしねェのか?」

「? キャパシティダウンのこと? それなら、無理に演算しようとしなければほんの少し頭痛は軽減される」

「コレのことを知ってンのか?」

「ちょっとだけ。あなたも、何とも無さそうだね」

「あァ、俺は能力で防げンだ」

841 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/20(水) 21:12:13.45 ID:4F9GmDFbo

「良いな。私は耳栓忘れて来ちゃった」

「コレ、耳栓で防げンのかよ……」

「ちょっとは頭痛くなるけど、かなり」

しかし、軽減しているらしいとは言え痛いのは事実だ。
一方通行は路地裏の出口まで歩いていくと、少し開けた道路に停車してあった車の中にある機械を丸ごと破壊した。
音源はここだったので、恐らくこれがキャパシティダウンだろう。

前回はこの車ごと不良たちに逃げられてしまったのだが、今回はきちんと破壊できて良かった。
これで、もうこの不良たちによる犠牲者は出ないだろう。

「ありがとう。私、たきつぼりこう」

「あァ、……滝壷な」

「のん。たきつぼ」

「えっ」

「たきつぼ」

「……滝壺?」

「いえす。たきつぼ」

どう違うのか分からないが、取りあえず少女―――滝壺は、それで満足してくれたらしかった。
精神系の能力者ではなかった筈なのだが、一方通行の認識の違いをどうやって把握していたのだろうか。

842 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/20(水) 21:12:39.14 ID:4F9GmDFbo

「ところで、あなたの名前は?」

「……鈴科」

「すずしな。助けてくれてありがとう」

滝壺はやんわりと微笑むと、緩慢な動作でお辞儀をした。
こんな状況の中にあっても何処までものんびりしているので、何だか調子が狂ってしまう。

「それ、運ぶ?」

言って、滝壺が指差したのは倒れている不良だ。
つい先程まで自分に突っ掛かっていた人間だというのに、彼女は微塵も恐れを見せない。

「あ、あァ。訊きたいことがあるからな」

「訊きたいこと?」

「……そォか、オマエも何か知ってるンだったな。コイツらの目的が何か知ってるか?」

「知ってる。大能力者を襲うの」

「それは俺も知ってる。……まァそンなモンだよな」

「む」

彼女が一体何者なのかは分からないが、やはり詳しいことは知らないようだ。
そこまで期待していた訳ではないが、一方通行は少し落胆する。
しかし、滝壺は不機嫌そうに眉根を寄せて首を振ると、倒れている男に近付いて行ってそのポケットを探り始めた。

843 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/20(水) 21:13:06.71 ID:4F9GmDFbo

「オイ、何してンだ?」

「……これ。これを襲った大能力者に使うの」

「はァ?」

とてとてと戻ってきた滝壺が手渡してきたのは、何処にでもありそうな音楽プレイヤーだった。
一方通行はそれを矯めつ眇めつしてみるが、やはり何処をどう見ても不審な点など無い。これが一体どうしたと言うのだろうか。

「で、何だよコレ」

「音楽プレイヤー」

「それは見りゃわかる。これを大能力者にどォ使うってンだよ。曲を聴かせるとでも言いてェのか?」

「そう」

ますます訳が分からない。大能力者を襲って、曲を聴かせて、それが一体何になると言うのか。
もしかして適当なことを言っているだけではないのだろうか、という疑念が湧き上がってくる。至極真っ当な感情だが。
しかしその時、滝壺が予想だにしなかったことを口にした。

「それを聴かせると、数時間後に昏睡状態になる。遅行性の毒のようなもの」

「……これが、か?」

「嘘だと思うなら聴いてみて。すずしなには何も聞こえないから」

「?」

だが、そう言われたところで流石に試してみようという気にはなれない。何せ昏睡状態になると脅されているのだ。
確かに一方通行には反射があるが、それでも無駄に危ない橋を渡りたいとは思わない。
それに相手は音。もし一方通行が反射膜が通す音の許容量の幅を間違えていたら、即アウトなのだ。

844 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/20(水) 21:13:50.15 ID:4F9GmDFbo

「……聴くのが嫌なら、風紀委員に届けた方が分かり易いかも」

「そォする。つゥか、どォいう仕組みで曲を使って昏睡状態になンかするンだよ」

「知らない。詳しいことはきっとそっちの人の方が詳しいし」

「そォか」

確かに彼女の言う通りだ。この不良たちは間違いなく当事者なのだから、滝壺よりもこの事件について詳しいに違いない。
どう考えても、普通にこの不良たちを締め上げて情報を吐かせた方が手っ取り早いだろう。

「で、どォしてオマエはそンなに詳しいンだ?」

「それは、」

「滝壺さん!!」

唐突に言葉を遮られて、滝壺は自分の名前を呼んだ誰かの方を振り返る。
つられて見やると、滝壺よりもいくつか年下に見える少女が大慌てでこちらに向かって駆けてきているのが見えた。
すると、それに応じて滝壺がひらひらと手を振る。

「きぬはた。どうしたの?」

「どうしたもこうしたもありません! 超遅かったので私が様子を見に来たんですよ」

「そうなんだ。ありがとう」

「まったく、あれほど路地裏は通らないで下さいと超お願いしたじゃないですか。あなたに戦闘能力は超無いんですから」

「うん。ごめんね」

「……今度からは超気を付けて下さいよ」

「分かった」

845 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/20(水) 21:14:15.39 ID:4F9GmDFbo

ぼけっとしている滝壺の表情からはいまいち申し訳なさが感じられなかったが、絹旗と呼ばれた少女はそれ以上彼女に詰め寄らなかった。
すると、絹旗がこちらを振り返る。
途端、彼女は一瞬驚いたような顔をした。

(……やっぱこの色は目に付くか。一応帽子は被って目立たないよォにはしてるンだが)

珍しいと言うか非常に目立つ髪と瞳の色なので、彼女はきっとそれに驚いたのだろう。
そう思った一方通行は、一応これ以上無駄にその色が他人の目に触れないようにと更に目深に帽子を被り直した。
流石に髪の色全てを隠すことはできないが、瞳の色くらいは影になって見えなくなった筈だ。

「あの、……あなたは」

「すずしな。助けてくれた」

「…………、そうだったんですか。私は絹旗といいます。滝壺さんを助けて下さって超ありがとうございました」

「いや。これからは気を付けろよ」

それにしても、先程滝壺には戦闘能力が無いとかいう言葉が聞こえた気がしたのだが、あれは本当だろうか。
戦闘能力もないくせに、最近テロが頻発している物騒な学園都市の路地裏を歩こうとするとは、勇気があるというか無謀というか。
資料で見た能力の概要はAIM拡散力場に干渉するというものだったのだが、あれは戦闘能力無いのか。

「それでは、私たちはこれで超失礼させて頂きます。鈴科さんも、こんなところを超歩いていてはいけませんよ」

「分かってるさ。じゃァな」

絹旗はぺこりと頭を下げると、滝壺の手を引いて路地裏を立ち去って行く。
一方通行はそんな二人の後ろ姿を見送りながら、何だか不思議な感覚に囚われていた。


847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/20(水) 21:39:13.68 ID:8BtSFYpSO
まさかここで絹旗ちゃンが出るとは…!

850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/21(木) 19:01:09.22 ID:vuFLhTvYo
一方さんが探ってたのは滝壺だったのか
ここからアイテム関わってくるのかな楽しみだ

853 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/23(土) 21:27:51.62 ID:gPO8oWVwo

「お、俺たちは本当に知らない! 知らないんだ!」

「……嘘吐いても為にならねェぞ」

「本当だ! 嘘なんか吐いてない!!」

「あっそォ」

一方通行は、締め上げていた男の襟首から手を放す。
重力に従って地面に崩れ落ちた男は久しぶりの新鮮な空気に暫らく咳き込んでいたが、一方通行はそんな束の間の休息も許さなかった。
彼の影が自分の視界を覆ったのを見た男は、ぎくりとして一方通行を見上げる。

「だったら用済みだ。残念だったな」

「待て、待ってくれ! 俺は本当に知らな……」

「じゃァな」

パァン、と何かが弾ける鋭い音が鳴り響く。その音と共に泡を吹いた男は、そのまま意識を失ってどさりと地面に倒れ伏してしまった。
それを見ていた一方通行は、不良に向けていた自分の手のひらを見やりながら感心したように呟く。

「いやァ、人って演出だけで気絶すンのな。コイツの気が小さかっただけかもしれねェが」

一方通行は、能力を使って手のひらで掴んだ範囲内の空気を小爆発させて大きな音を出しただけだ。
小爆発と言っても衝撃波が外部まで届くようなものではないし、音自体も威力を持つほどの大きさではない。
にも関わらず気絶してくれたということは、まあつまりはビビり過ぎて失神したということだ。

(っても、どォすっかねェ。黒幕の居場所が分かンねェンじゃどォしよォもねェじゃねェか)

854 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/23(土) 21:28:26.43 ID:gPO8oWVwo

一方通行が不良たちを尋問して得られた情報は、それほど多くは無い。
滝壺が教えてくれたとこととそう変わらなかったのだ。

(まァ、取り敢えずまとめとくか)

まず、ピンクの駆動鎧を着た研究者に大能力者(レベル4)を襲撃するように頼まれたこと。
それと同時にキャパシティダウンを渡され、それなりの額の報酬も用意されたこと。
大能力者の資料も、その研究者から渡されたものであること。
襲撃した後、音楽プレイヤーに録音された『毒』の曲を聴かせるように言われたこと。

(ただし、毒は遅効性。聴かせてすぐに症状が出る訳ではなく、暫らくは普通の生活を送れる。数日普通に生活する場合もある)

だから不良たちは、襲撃した大能力者たちに特に手を出したりせずに、曲を聴かせるだけ聴かせてあとは放置する。
余計な傷をつけてしまうと、研究者の『実験』に支障が出てしまう場合があるかららしい。

すると、当然目を覚ました大能力者たちは普通の生活に戻ろうとする。
警備員や風紀委員に通報する者もいるかもしれないが、あれは基本的に現行犯以外にはあまり頼りにならない。
……そして、暫らく普通の生活を続けた後に突然倒れ、そのまま昏睡状態に陥る。

(つっても、そォいう事件の話は聞かねェしな。混乱を避ける為に情報統制されてるって可能性もあるが)

不良たちは、聴かせた相手が昏睡状態になるということまでは知っていたが、その先は知らなかった。
つまり、一度昏睡状態になった人間はきちんと目を覚ますのかどうか。

(……報道されてねェってことは、少なくとも今までに目覚めた奴はいねェンだろォな)

考えてみれば、恐ろしい事件だ。
キャパシティダウンなんて恐ろしい兵器を使って能力を封じた上で、大人数で囲んで暴行する。
気絶したら、『曲』を聴かせてあとはトンズラ。
しかし遅効性の毒が回って来たら昏睡状態に陥り、そして二度と目覚めない。

855 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/23(土) 21:28:52.75 ID:gPO8oWVwo

(まァキャパシティダウンも破壊したし資料も全部燃やした、不良どももあれだけボコしとけばもォ馬鹿なことをしよォとは思わねェだろ)

……これは、ただの不良を殺してしまうことに躊躇いを覚えている自分への言い訳だ。
しかしそれを自覚していても、やはり彼らを手に掛けたいとは思えない。

「……チッ」

一方通行は舌打ちをすると、踵を返して歩き始めた。
しかしその手の中には、不良たちのリーダーを務めていた男から強奪した携帯電話が握られている。
少しでも例の研究者についての情報を手に入れたかったから、だが。

(アイツらの言ってたことは本当らしいな。……マジで何の情報も無いとは)

まああの状況でまだ嘘を吐いていたとしたら大したものだが、それでも淡い希望を捨てられずにいた一方通行は深い溜め息をついた。
結局、彼が得られた例の研究者についての情報はほとんどゼロだった。
居場所どころか名前や容姿、どんな研究をしていた人間なのかもさっぱりだ。これでは埒が明かない。

(……ホント、どォしたモンかね)

一方通行は溜め息をつくと、何の情報源にもならなかった携帯電話を投げ捨てる。
苛立ち紛れに結構な勢いで投げたからか、地面に叩き付けられた携帯電話はバラバラに砕け散った。

(…………。取り敢えず風紀委員にこれを届けておくか。今更な気もするが、もしかしたら黒幕に辿り着くかもしれねェし)

路地裏から表通りへと出る。
美琴の話では、白井たちの勤めている風紀委員一七七支部はここからそう離れてはいなかったはずだ。
確かこっちだったか、と記憶を掘り起こしながら歩き始めようとした、その時。

856 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/23(土) 21:29:19.35 ID:gPO8oWVwo

「う、おっと」

「きゃあっ!?」

考え事をしながら歩いていたからか、うっかり走ってきた少女とぶつかってしまった。
一方通行は軽くよろめいただけで済んだが、少女はかなりの勢いで走っていたからか転んで持ち物を地面にぶちまけてしまう。

「悪ィ。大丈夫か?」

「い、いえ、あたしもちょっと不注意だったので……」

ぶつけたらしい膝を擦りながら立ち上がる少女の顔を見て、一方通行ははっとした。
何処かで見覚えがある顔だったからだ。
……彼女は、確か。

「……佐天、涙子だったか?」

「あ、鈴科さんだったんですか。どーも済みませんでした」

「いや。それより色々落としてンぞ」

「うわっ、いっけない!」

地面にばら撒かれてしまった自分の持ち物を、佐天は慌てて拾い集め始めた。
こうなったのは半分以上くらい自分の所為なので、一方通行も彼女の持ち物を拾い集めるのを手伝ってやる。

ふと、一方通行はバス停のベンチの下に音楽プレイヤーが落ちているのを発見した。
恐らくこれも佐天のものだろう。
彼はしゃがみ込んでだいぶ奥まですべり込んでしまっていた音楽プレイヤーを取り出すと、持ち物の確認をしている彼女に向かって差し出した。

857 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/23(土) 21:30:00.22 ID:gPO8oWVwo

「オイ、これもオマエのだよな?」

「へ? あっ、そうです! ありがとうございます!」

佐天は彼の手にある音楽プレイヤーを見るなり、大慌てでそれを受け取った。
ともすれば引っ手繰られたと表現しても過言ではない程の勢いに、一方通行は少し驚く。よっぽど大切なものなのだろうか。

「……あの、これの中身とか見えちゃいました?」

「見てねェよ、心配すンな」

「そ、そうですか」

一方通行の言葉に、佐天は密かに安堵しているようだった。
その意図が分からずに彼は首を傾げたが、知られたくないことのようだし詮索しない方が良いだろう。

「それじゃ、あたしもう行きますね。本当に済みませんでした」

「あれは俺も悪かったから、気にすンな。ただし、今度はちゃンと前見て歩けよ」

「はい、気を付けます」

佐天は丁寧に頭を下げると、何処かへと歩き去ってしまおうとする。
そして一方通行も風紀委員の支部へ行かなければならないことを思い出して歩き始めようとした時、唐突に引き留められた。

「あ、あのっ!」

「……何だ?」

858 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/23(土) 21:30:27.17 ID:gPO8oWVwo

歩き去ろうとしていたはずの佐天が、こちらに向き直って声を掛けてきたのだ。
一方通行も振り返り、それに応じてやる。

「ええと……、その。鈴科さんって何歳ですか?」

「……高一。十五」

適当だが、上条もそれくらいだったので多分合っているだろう。
それを聞いて、佐天は何故か複雑そうな顔をする。

「じゃああたしの三学年上ですね。あたし、中一なんで」

「それがどォかしたのか?」

「あ、あはは。別に何でもないですよぉ。……それと、もう一つ良いですか?」

「……? 構わねェが」

「その、……鈴科さんって、レベルいくつですか?」

唐突な質問に、一方通行は訝しげな顔をする。
……そう言えば、佐天は自己紹介の時に自分のことを無能力者と言っていた気がする。やはり、それを気にしているのだろうか。
一方通行は少し迷ったが、ここは嘘を吐くような場面ではない。素直に答えた。

「……大能力者だ」

「そ……、そうなんですか。すごいなあ、白井さんと一緒ですね!」

「まァ、な。……何かあったのか?」

859 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/23(土) 21:30:58.50 ID:gPO8oWVwo

「いえいえ、何も無かったですって! 嫌だなあ、あたしってばそんなに挙動不審ですか?」

「それなりに」

「ばっさりですか……。とにかく、変なこと訊いちゃって済みませんでした。それじゃ、今度こそ失礼しますね」

「あァ。気ィ付けろよ」

「……はい。じゃあまた」

佐天は再び軽く頭を下げると、今度こそ去って行ってしまった。
一方通行はどう考えても様子のおかしかった彼女に、気持ち悪い引っ掛かりを感じる。
あの、音楽プレイヤー。

(まさか、な)

きっと、ただの偶然だ。
佐天の持っていた音楽プレイヤーとあの音楽プレイヤーの形が良く似ていたので、根拠もなく同一視してしまっているだけだ。
一方通行はそう思い込むことによって嫌な考えを振り払うと、本来の目的地である風紀委員の支部へと向かっていく。

(……と。ここか?)

思っていたよりも近かったらしい。数分も歩かない内に到着してしまった。
そして一方通行は取り敢えず一七七支部の扉の前までやって来てそのノブを引こうとしたが、当然ながらロックが掛かっていて開かない。

「?」

しかし一方通行は風紀委員の支部を何だと思っているのか、不思議そうに首を傾げた。
どうやら彼は風紀委員の支部を交番のようなものだと思っているらしい。
よって、自由に訪ねることができないのはおかしい、と思っているようだ。

860 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/23(土) 21:31:30.99 ID:gPO8oWVwo

(っつゥことは、留守か? ……まァ、中で待ってりゃイイか)

留守というのはまあ正解なのだが、このまま中に入るのは立派な不法侵入だ。
だが勘違いしたままの一方通行は能力を使って強制的に鍵を回して扉を開閉可能な状態にすると、悠々とその中へと入って行く。
一応帰って来た風紀委員が鍵が掛かっていなくて驚くといけないので、鍵は元に戻しておいた。

(コレだけ置いてっても良いンだが……。それじゃあまりにも不親切すぎるか)

一方通行は懐に仕舞っていた紙束を取り出すと、それを適当なデスクの上に置いた。
そして自分もそのデスクの椅子に座り、白井たちを待つことにする。
……当たり前だが、待っている間は非常に暇だ。彼は暇潰しできるような道具を持っていないし、こんな場所にそんなものがある筈もない。

(ン? ……これは)

ちょうど向かいのデスクに置いてあったものを見つけて、一方通行は手を伸ばした。
彼が手に取ったのは、見覚えのある音楽プレイヤー。美琴のものだ。
そう言えば美琴はかなり頻繁にこの一七七支部に出入りしているとか言っていたので、うっかり忘れて行ってしまったのだろう。

(今日はやたらと音楽プレイヤーに縁があるな。どォいう日なンだ?)

下らないことを考えながら、音楽プレイヤーを弄ってみる。
意外と、収録されている曲数は少なかった。
確かこの音楽プレイヤーは新型で、つい先日買ったばかりなんてことを言っていたからまだ少ないのだろう。

(御坂がお勧めっつってた曲は……、どれだ? まァ良い、暇だし適当に聴いてくか)

付けっ放しにされていたイヤホンを装着し、一方通行は再生ボタンを押してみる。
そして流れてきたのは、静かなインスト曲だった。少し意外だ。

(……、…………。眠くなってきた)

静かな曲の所為か、急激に眠気が襲ってきた。
しかし拒む理由も無いので、一方通行は大人しく睡魔に身を委ねて机に突っ伏する。
腕の中に頭をうずめた一方通行は、数分も経たないうちに眠りに落ちた。



861 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/23(土) 21:31:58.58 ID:gPO8oWVwo

―――――



「はあ、災難でしたわ……」

「お疲れ様でしたー。それにしても、本当に病院行かなくて良いんですか?」

「そうよ、こういう時は大事を取らないと!」

「お気遣い感謝します。ですがそうはいっていられない状況ですので……。お姉様も、お手を煩わせてしまって申し訳ありませんでした」

「良いのよ、こんな時くらい頼りなさい。可愛い後輩の為なんだからさっ」

三人で何処かに出かけていたのか、美琴と白井と初春が揃ってぞろぞろと177支部へと流れ込んできた。
しかしその中でも白井は負傷しているらしく、あちらこちらに包帯やガーゼが当てられている。
結構な怪我であるにも関わらず応急処置で済ませてしまっているので、美琴たちは本当に大丈夫なのだろうかと心配そうな顔をしていた。

「でも、白井さんは暫らく休んで下さいね。その身体じゃとてもじゃないですけど取引現場の差し押さえなんてできません」

「大丈夫ですわ! 見た目ほど大したことはありません」

「駄目だってば。黒子が復活するまでは私が初春さんの手伝いをするから。ね?」

「お姉様、こういうのは風紀委員の仕事であって一般人のお姉様が関わって良いようなことではありませんのよ?
 今回の戦闘行動は風紀委員の手伝いということで大目に見ますが、通常なら一般人の対人能力使用は立派な暴行ですわ」

「分かってるってば。だからきちんと初春さんの指示の範囲内に留めて……ん?」

862 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/23(土) 21:32:39.77 ID:gPO8oWVwo

話している途中で、美琴が室内の異変に気付いた。
人の気配がするのだ。
彼女たちが帰って来るまで、支部は無人だった筈だ。鍵だって掛かっていたし、セキュリティにも異常は見られなかった。

「誰でしょう? 今日は私たち以外はみんな出払っちゃってる筈ですけど……」

初春が首を傾げ、美琴と白井が互いに目配せする。
侵入者の可能性を危惧しているのだ。
美琴と白井は小声で指示を出し合うと、警戒しながら人の気配のする方へと近づいていく。
すると。

「……鈴科さん?」

「あ、アンタこんなところで一体何やってんのよ」

気配の正体、机に突っ伏して熟睡している一方通行の姿を見つけた美琴と白井は、一気に脱力した。
どうやってこんなところに侵入したのかは定かではないが、彼の便利能力に掛かればきっと難しくないのだろう。
美琴は溜め息をつくと、一方通行を揺さぶって起こそうとした、が。

「これ、って」

一方通行を起こそうとした美琴は、その直前で彼の耳から伸びている黒い線に気が付いた。
なんて事のない、ただのイヤホンだ。
しかし、そのイヤホンの繋げられている先にあるものが問題だった。

白井の音楽プレイヤー。
幻想御手が収録されている、サンプルとしての音楽機器。

863 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/23(土) 21:33:09.26 ID:gPO8oWVwo

「ちょっ……とアンタ! なんてモン聴いてんのよ!? 起きなさい!」

「し、白井さん。あの、幻想御手って……」

「……ええ。確か、聴いた人間の大多数が昏睡状態に陥る、という疑いが掛けられていましたわね」

美琴が乱暴に揺さぶるが、一方通行は起きる気配がない。
その横で白井は彼の耳に付いていたイヤホンを外し、音楽プレイヤーを停止させて稼働時間を確認した。
ちょうど初春と入れ違いになる形でここに入って来たのか、かなり長時間聴いていたようだ。

「この様子では、確実に幻想御手を聴いてしまっていますわね」

「きゅ、救急車呼んだ方が……?」

「コラ! お・き・な・さ・い・よ!!」

痺れを切らした美琴が一方通行の脳天にチョップを喰らわせた、その時。
きゅいんと妙な音がして、美琴の手が明後日の方向に弾き飛ばされた。痛みは無いが、何だか変な感じだ。

「へ?」

「…………、……うっせェ……」

「お、起きた!?」

「ンだよ、堂々と安眠妨害しといてその言い草は」

「ひいっ、済みません!」

一方通行に睨まれて萎縮した初春が悲鳴を上げる。
が、その一方で美琴と白井はぽかんとしていた。

864 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/23(土) 21:33:36.59 ID:gPO8oWVwo

「アンタ、何ともないの?」

「何ともって、何がだ。俺はオマエの音楽プレイヤーで曲聴いて寝てただけだぞ」

「この音楽プレイヤーはわたくしのですわ! どうしてそのような勘違いを……」

白井が首を傾げながら難しい顔をするが、その横で美琴ははっとした。
彼女は、一方通行に自分の音楽プレイヤーを見せたことがある。
そしてその音楽プレイヤーは、白井とお揃いのものなのだ。しかも買ったばかりなので、二人とも何の装飾もしていない。
これでは白井の音楽プレイヤーを美琴のものだと勘違いしても仕方がない。

「ごめん、これ私のじゃないわよ。私のはこっち。黒子とお揃いなのよ」

「……あー、そォいえばそンなこと言ってたな」

「いえ、こんなところに危険なものを放置したわたくしにも非はありますわ。……それよりも、本当に何ともないんですの?」

「だから何がだよ」

「…………?」

白井は、再び自分の音楽プレイヤーの稼働時間を確認してみる。
つい先程まで再生されていた曲の順番と各曲の再生時間から計算してみると、間違いなく彼は幻想御手を聴いてしまっていた。
ただ、昏睡は即効性がある訳ではない筈なので今大丈夫なだけという可能性はあるが。

「……そうだ。アンタ、反射は?」

「ン? ……今は展開してねェが」

「反射って有害なものを感知すると無意識に展開するのよね? さっきみたいに。それって曲にも適用される?」

865 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/23(土) 21:34:10.67 ID:gPO8oWVwo

「曲っつゥか、音にも適用されるぞ。許容範囲の設定をミスってればアウトだが」

「じゃあ、音が有害のフィルタに引っ掛かった時ってアンタにはどういう風に知覚されるの?」

「普通に音が聞こえなくなる。……そォいや、一曲だけ無音の曲があったな。あれはどォいう目的で入れてるモンなんだ?」

「…………。ごめん、黒子ちょっと貸して」

「お姉様!?」

美琴は一人で納得したように呟くと、白井から音楽プレイヤーを奪い取って操作を始める。
暫らくして彼女は何らかの設定を完了させると、机の上に投げ出されたままだったイヤホンを一方通行に差し出した。

「悪いんだけど、これもう一回聴いて貰える?」

「御坂さん、それって……」

「どうせ一回聴いちゃってるんだから、二回目も三回目も同じよ。確かめたいことがあるの」

「分かった」

一方通行は状況を把握できていないようだったが、素直にイヤホンを受け取るとそれを耳に装着した。
それを見た美琴は暫らく躊躇ったが、やがて意を決したように再生ボタンを押す。

「……曲、聴こえる?」

「いや、何も聞こえねェ。……何がしたいンだ?」

「やっぱり」

美琴は、一方通行の言葉から何らかの確信を得たようだった。
その背後に立っている白井と初春も、驚いた顔をしている。

……斯くして、『幻想御手』の有害性が確定した。


868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)[sage]:2011/04/23(土) 21:40:38.21 ID:C4fbg9kGo
反射ほんと便利な力だな、これでも能力の一端でしかないのだからベクトル操作は恐ろしいww

871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/24(日) 01:32:05.16 ID:TzwjrFTL0
幻想御手の有害性も分かるとかベクトル操作マジ万能

873 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/26(火) 17:41:38.83 ID:qA9b4sbZo

ご褒美に缶コーヒーを進呈。
釈然としないが、好きなものは好きなので素直に喜んでおくことにする。

「美味ェ」

「アンタって意外と安上がりよね……」

缶コーヒー(自販機産)を飲みながら寛いでいる一方通行を眺めながら、美琴が呆れたように呟いた。
聞こえていたが、否定もできないので一方通行はスルーして話を元に戻してみる。

「で、結局何だったンだ?」

「んー、話すと長くなるんだけどね……」

一方通行と美琴は、開いた机に向かい合って座りながら凄まじい勢いで作業をしている風紀委員コンビに目を向ける。
彼には彼女たちが一体何をしているのかはさっぱり分からなかったが、二人の必死な表情からかなりの真剣さは窺うことができた。

「えーっと、この間話した幻想御手(レベルアッパー)のことは覚えてる?」

「覚えてる。使用者のレベルを上げるっつゥ何とも胡散臭い道具のことだろ」

「そうそうそれ。で、それが見つかったんだけど、どうもおっそろしい副作用があるみたいなのよね」

「副作用?」

不穏な単語に、一方通行が眉を顰める。
そんな彼に同意するようにして、美琴はこくんと頷いた。

「そう、副作用。幻想御手を使うと二度と目覚めない昏睡状態になるみたいなの。確証はないから、まだ疑ってる段階だけどね」

「!」

874 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/26(火) 17:42:07.31 ID:qA9b4sbZo

美琴の言葉に、一方通行が反応した。
しかし彼女は気付かずに、そのまま説明を続ける。

「どうも先週あたりから、原因不明の昏睡状態に陥る学生が増えてるみたいなの。で、その学生の殆どが幻想御手使用者なのよ」

「殆ど、ってのは?」

「それが、幻想御手を使用した形跡が一切無い人もいるのよね。
 まあ上手く痕跡を隠しただけって可能性もあるんだけど、それにしては数が多いから幻想御手は関係ないんじゃないかって線もあるわ」

「…………」

聞きながら、一方通行は机の上に投げ出されていた紙束を引き寄せる。
それを見ていた美琴は、首を傾げて紙束を指差した。

「それ、何?」

「昨日言ってた風紀委員への届けモンだ。ちょっと厄介なことになっててな」

「またぁ? ったく、そういう時は私に言いなさいって言ったじゃない」

「オマエも人のこと言えねェだろォが。……オイ白井、ちょっと良いか?」

「少しだけでしたら」

ちょうど作業が一段落ついたところだったのか、パソコンに向かって作業していた白井がこちらに向き直る。
そんな彼女に、一方通行は例の紙束を投げて渡した。

875 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/26(火) 17:42:39.35 ID:qA9b4sbZo

「わわっ、何なんですの?」

「最初の数ページ、赤ペンで印の付けられた能力者。見覚えはあるか?」

「へ? ちょっと待ってくださいな」

一方通行に促されて、白井は慌てて紙束に目を通してみる。
すると、一ページ目でいきなり彼女の顔が険しくなった。
しかもそれだけでは留まらない。二ページ目、三ページ目と先に進んで行くごとにどんどん彼女の目つきが鋭くなっていく。

「……鈴科さん。何処でこれを?」

「俺に絡ンできやがった不良を締め上げたら落としてった。どォも厄介な連中らしい」

「その不良たちの居場所は分かります?」

「数時間前に締め上げたばっかだが、流石にもォいねェだろォな。絡まれた場所はここから南にある大通りの東側の路地裏だ」

「そうですか……。他に、何か聞きました?」

「そのリストに従って大能力者(レベル4)を襲ってるらしい。襲った後はある曲を聴かせて後は放置、だそうだ」

「曲、というのは?」

「聴いたら復帰不能な昏睡状態になる曲らしい。流石に俺も聴いてねェが、サンプルならぶンどって来た」

「渡して頂けます?」

「あァ。ほらよ」

876 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/26(火) 17:43:06.53 ID:qA9b4sbZo

一方通行は懐から強奪してきた音楽プレイヤーを取り出すと、それを白井に再び投げ渡した。
彼女はそれを受け取るとすぐさまパソコンに繋げ、その内容を確認する。

「これは……」

「な、何? どうしたの?」

「……幻想御手、ですわ」

震えた声で紡がれたその答えに、美琴も驚愕する。
これは一方通行にとっても予想外の結果だったが、彼はあまり驚かなかった。

「もっと詳しいことは分かりますか?」

「そいつらはある研究者に依頼されて大能力者を襲ってた。キャパシティダウンっつゥ道具を使ってな」

「キャパシティダウン?」

「能力者の演算を阻害し、頭痛を誘発させる音響兵器だ。耳栓である程度防げるし、無理な演算をしなけりゃ頭痛は少し抑えられるらしいが」

「そんなものが……」

「あ、アンタそんな奴らに襲われて大丈夫だったの?」

「言っただろ、俺は反射で大抵のモンは防げる。キャパシティダウンの『音』も反射の無害フィルタに引っ掛かって阻まれた」

一方通行の話を聞きながら、美琴はもはや茫然としていた。
白井も情報を纏めるので精一杯なのか、こめかみを抑えて眉間に皺を寄せている。

877 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/26(火) 17:43:49.68 ID:qA9b4sbZo

「その『ある研究者』というのは?」

「俺も詳しくは知らねェ。ただ、ピンクの駆動鎧を着て女の声で話してたらしい。
 まァ声なンかいくらでも変えられるし駆動鎧もいくらでも着替えられるから、さっぱり頼りになンねェけどな」

「それだけですの?」

「それだけだ。俺だってもっと情報が欲しいくらいさ」

「…………、分かりましたわ。こちらでも出来る限り調べておきます」

「あァ、頼む」

「ごめん、話について行けないんだけど」

紙束を見せて貰えなかった所為で一部置いてけぼりを喰らってしまった美琴が、所在なさげにしていた。
そんな彼女を見て、白井は溜め息をつきながら紙束を渡してやる。

「あ、ありがと。……あれ、これってこの間病院で見た昏睡状態の患者さん?」

「その通りですわ。しかも、幻想御手を使用した痕跡のなかった方々ばかりですの」

「なるほど。幻想御手を使ってないのに昏睡状態に陥った人たちは、みんなその不良たちに襲われて強制的に幻想御手を聴かされたと」

「概ねその通りでしょう。気絶させて聴かせたらその後は放置、だそうですから使用した痕跡が無いのも当然です」

「不良どもは襲撃後は対象に一切関与しなかったみてェだからな。襲った相手のレベルが上がってるかどうかなンて確認する訳がねェ」

「それ以前に大能力者は幻想御手を使ってもレベルが上がりにくいみたいだから、本人も気付かなかった可能性もあるわね」

878 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/26(火) 17:44:20.55 ID:qA9b4sbZo

「そういうことですわ。……初春、話は聞きましたわね?」

「はい、ばっちり!」

恐るべき速度でのタイピングを続けながら、初春が威勢良く返事をする。
その途端、ただでさえ驚異的な速度で行われていた作業が更にスピードアップした。指がどうなっているのかさっぱり分からない。

「……アイツは何なンだ?」

「初春さんは凄腕のハッカーなのよ。調べられないことなんかないんじゃないかってくらいの」

「ハッカー? ハッキングは犯罪だった筈だが」

「風紀委員だから、ある程度合法的にハッキングができるみたい」

「イイのかそれ……」

「まあ事件解決に一役も二役も買ってる能力だから、上も何だかんだ言って黙認してくれてるみたい」

「ふゥン」

作業をしている初春の瞳には、ウィンドウが高速で現れたり消えたりしているパソコンの画面がそのまま映し出されている。
それを逐一確認している彼女の視線も、同じくらいの速さで移動していた。
美琴たちは彼女の仕事の邪魔にならないように大人しくしていたが、暫らくすると初春が大きな溜め息をつきながら背凭れに寄り掛かった。

「駄目です、やっぱりヒントが少なすぎますよぅ……」

「だよなァ……」

879 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/26(火) 17:44:47.38 ID:qA9b4sbZo

「初春、諦めたら試合終了ですわ! もうちょっと粘って下さいまし!」

「もちろんですよ。て言うかいくつか怪しいところはあるんですけど、どこも風紀委員よりも強い権限を持ってるところなんですよね」

「強行突破はできませんの?」

一筋の希望に、白井が初春のパソコンを覗き込む。
しかし、初春の返事は芳しくなかった。

「出来ないことはないですけど、見つかったら後が怖いですね。風紀委員の権限だけじゃ侵入が許されない領域ですし」

「罰則覚悟なら何とかなる、と?」

「……罰則程度で何とかなると良いんですけどね。ダメもとですけど、上と掛け合ってからの方が良いですよ」

「それでは時間が掛かり過ぎてしまいますわ」

「それはそうですけど……。せめて、先輩と相談してからの方が良いんじゃないですか?」

「ですが、あの頭の固い先輩が許してくれるかどうか……」

「どうせ同じ支部に居るんですからやったら絶対にばれますよ。だったら一応最初から言うだけ言っておいた方が良いんじゃないですか?」

「うう……」

ここが初春なりの妥協点のようだったが、白井はまだ悩んでいるようだった。
一方通行はそんな彼女たちをじっと眺めていたが、やがてそれを見限って無言のまま席を立つ。
すると隣に座っていた美琴が、それを見て不思議そうな顔をした。

880 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/26(火) 17:45:17.15 ID:qA9b4sbZo

「どうしたの?」

「いや、野暮用を思い出してな。世話ンなった」

「いえいえ、情報提供感謝しますわ」

「鈴科さんもありがとうございましたー」

状況に似合わず意外と暢気な声の初春たちに見送られながら、一方通行は一七七支部をあとにした。
外に出た彼は、頭の中で必要な情報を仕分けしながら目を伏せる。

(出来るだけ時間は掛けたくなかったンだが、このザマじゃ仕方ねェ。……あれで行くとするか)



881 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/26(火) 17:45:50.80 ID:qA9b4sbZo

―――――



七月二十四日。
一方通行は、とある不良たちのアジトへと出向いていた。
それは、あの不良たちが根城にしていた場所。
かつて彼らが『例の研究者』と接触を図っていた場所でもあった。

(七月二十四日。確か、今日が『例の研究者』がこのアジトに新しい大能力者のリストを持ってくる日だったな)

あの不良たちを締め上げた時に聞いた、唯一の研究者に関する情報を手に入れられる機会。
彼らはなかなか口が堅かったので、これを訊くのには苦労した。
だが、それはその分だけこの情報が確かなものであるということを示している。
なのでここで『例の研究者』に関する情報を手に入れられる確率は、かなり高い筈だ。

(奴らによるとそろそろ来る頃の筈だが……)

一方通行は、アジトの物陰に隠れて入口の様子を監視している。
不良たちがいないことを不審に思われていないだろうかと不安になったが、確か接触するときは人払いをして必要最低限の人員しか
配備していないと言っていたので、問題は無い筈だ。
すると。

「!」

ガシャン、と入口の方から物音が聞こえてきた。
しかも一つ二つではない。かなりの数だ。
一方通行は駆動鎧の実物を幾度となく目にしてきたから分かる。これは、駆動鎧の集団の足音だ。

(複数? どォしてだ? 確か接触の時には毎回ピンクの駆動鎧が一人だけ、って話だったが……)

882 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/26(火) 17:46:16.58 ID:qA9b4sbZo

一瞬ハメられたかと思ったが、あの状況であんなただの不良が自分の命を賭けてまで嘘を吐こうとするだろうか。
それに実際に一方通行の能力を見れば、彼に駆動鎧なんかが通用しないことも分かっている筈。
だからこれは、何者かの思惑による策の類ではない。ただ単に、偶然ピンクの駆動鎧が来れなくなって代わりが寄越されただけなのだろう。

(しかし、どォすっかねェ)

ここから飛び出して、駆動鎧をのすのは簡単だ。あの程度の駆動鎧、ちょっと殴ればすぐに稼働しなくなる。
しかし、問題はその先。殴って気絶させて、そこからどうやって情報を手に入れるか。
恐らくあの駆動鎧たちは『例の研究者』の直接の部下の筈だ。不良たちよりも遥かに口が堅いに違いない。

(……そォだ、イイこと思いついた)

ニヤリと邪悪に笑い、一方通行は立ち上がる。
そしてなんと、彼は堂々と歩いて行って駆動鎧たちの目の前に姿を現したのだ。

『!? 誰だ!』

当然ながら、駆動鎧は警戒して携行していた銃器を一方通行に向ける。
だが一方通行は動じず、それどころか似合わない笑顔さえ浮かべながら駆動鎧に近付いていく。

「あァ、警戒すンなよ。今リーダーたちは出払っちまってるから、代わりに俺がここで待機してろって言われただけだ」

『見ない顔だが』

「新入りだ。大能力者襲撃の成績が良かったから、ごく最近に信頼されるようになった」

駆動鎧たちは顔を見合わせる。
そして互いに頷き合うと、その中の一人が前へと進み出て一方通行と向き合った。

883 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/26(火) 17:46:42.81 ID:qA9b4sbZo

『他の連中はどうしていないんだ?』

「ちょうど良いカモ集団を見つけてよォ。上手く行きゃあ超能力者(レベル5)もとっ捕まえられるンじゃねェかって話だ。
 こンな機会は滅多にねェから、見逃してもらえるか?」

『……なるほど、了解した。では、これが次に襲撃してもらう大能力者のリストだ。きちんとリーダーに渡しておくように』

「了解。……それから、一つ聞いて良いか?」

一方通行に紙束を渡した駆動鎧が、言葉に反応して首を動かす。
当たり前だが、ヘルメットに阻まれてその表情は一切確認することはできない。

『なんだ?』

「リーダーたちテンション上がったまま出て行っちまったから、襲撃済み大能力者のリストを持って行ったままなンだよ。
 また取りに来させるのも悪いし、次に接触する日までかなりあるからそっちも困るだろ? だからオマエたちの研究所の場所を教えてくれねェか?」

『………………』

すると、先頭に立っていた駆動鎧は背後を振り返って仲間と目配せした。
ヘルメットの横にあるランプが明滅しているのを見ると、どうやら駆動鎧間でのみ通用する通信を行っているらしい。
彼らは暫らくそうして会話していたが、暫らくすると一方通行に向き直った。

『分かった。絶対に外部には漏らさないと約束できるか?』

「もちろんだ」

真面目な表情をして答えている裏で、一方通行は嗤っていた。
こんなに簡単に行くとは思わなかった。どうやら不良たちは『例の研究者』によっぽど信頼されているらしい。
いや、もしかしたら信頼されているのはキャパシティダウンなのかもしれないが。

884 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/26(火) 17:47:08.83 ID:qA9b4sbZo

『先進状況救助隊本部、先進状況救助隊付属研究所だ。テレスティーナ・木原・ライフライン所長に報告してくれれば良い』

「……なるほどな。お疲れさン」

駆動鎧に不穏を感じさせる暇さえ与えなかった。
一方通行が軽く腕を振ると、それだけで凄まじい突風が巻き起こってすべての駆動鎧を薙ぎ倒してしまう。
状況を把握できていない駆動鎧たちは、混乱から恐慌状態に陥った。

『な、何が……!?』

「オマエらはもォ用済みってことだよ。邪魔にならねェように、ここで暫らく眠ってろ」

がん、と地面を勢いよく踏み抜く。
途端に狭い範囲に巨大な地震が発生し、振動や落下する瓦礫に次々と駆動鎧は傷付けられ、機能を止めていった。
無機質なエラー音が、まるで輪唱のように周囲に鳴り響く。

このままでは全滅してしまう、何とかしなければ、と思ってはいても一方通行の前ではどうすることもできない。
結局、駆動鎧たちは何の抵抗も許されないままに倒れていった。

「ハイ、しゅーりょォー」

数秒後には、そこに立っているのは一方通行だけだった。
気絶しているのか故障の所為かは分からなかったが、駆動鎧たちはみなピクリとも動かない。

「それにしても先進状況救助隊、ねェ。仮にも救助隊と名の付いてる組織がこンなことしてイイのかよ。まァ俺には関係ねェが」

手近に落ちていた駆動鎧を軽く蹴ると、一方通行は足早にその場を立ち去って行った。
無論、先進状況救助隊付属研究所へと向かう為に。



885 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/26(火) 17:47:35.01 ID:qA9b4sbZo

―――――



「ここか」

想像よりも大きな建物を見上げながら、一方通行は一人呟いた。
当然だが、警備が厳重だ。
流石先進状況救助隊、なんて名の付いている集団の本部なだけある。

(さて、どォやって侵入するか)

入口で見張りをしている駆動鎧に見つからないように身を隠しながら、一方通行は研究所の門を覗き見ていた。
例によって、駆動鎧を撃退するだけなら簡単だ。五秒もいらない。
だが、ここは駆動鎧たちの拠点だ。いったいどれだけの駆動鎧が潜んでいるのか、想像もできない。
それに、もし長期戦に持ち込まれたら厄介だ。彼の能力には制限時間がある。

(あれからも訓練は続けてるが……。一時間はもたねェな、流石に)

それで十分な気もするが、黒幕らしいテレスティーナとかいう研究者が何処に潜んでいるか分からないというのもネックだった。
駆動鎧たちに気を取られて、テレスティーナを逃がしてしまっては元も子もない。すべて振り出しだ。

(こっそり侵入するのがベストなンだろォがこの警備状況じゃそれもほぼ不可能だろォし、俺一人じゃ工作も難しい。コネもねェしな……)

強行突破してそれっぽいところに特攻し、偶然テレスティーナに遭遇するという偶然に恵まれるとも思えない。
そんな運頼りは御免だ。無謀が過ぎる。
つまるところ、一方通行はここまで来て手詰まりになってしまったのだ。
が、その時。

「そんなところで何をしているんですか?」

唐突に背後から掛けられた声に、一方通行はぎくりとした。
見つかったか。ここは騒ぎにならない内に相手を黙らせておいて、奴らの仲間に状況が伝わってしまう前に行動を開始するのが最善の筈。
そう思い至った一方通行は背後を振り返り身構えようとして、そこに居る人物に驚いた。
見覚えのある、小さな体躯。フードの付いた袖なしカーディガンにホットパンツ。下手をすれば小学生に見えてしまいそうな程に幼い容姿。

「……オマエは」

いつか、滝壺を助けた時に出会った少女。
名前は確か、……絹旗。


888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/26(火) 18:48:05.03 ID:JjFs9YWSO
絹旗ちゃァァァァン!

889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/04/26(火) 20:34:48.94 ID:LpX6WD9z0
最愛たァァァァン!

896 :◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/29(金) 21:34:04.77 ID:5TmlY6Ogo

「超驚きました。まさかただの超一般人が、あそこからこんなところにまで辿り着くとは」

絹旗最愛に連れられて、一方通行は研究所の外周部を歩いていた。
その慣れた様子に不審を感じるが、不思議なことに敵意や悪意は感じない。
だからなのか、一方通行は何となく彼女を突っぱねてわざわざ別行動を取ろうとは思えなかった。

「……オマエは何者なンだ?」

「超難しい質問ですね。まあ風紀委員の超少数精鋭バージョンだとでも思って頂ければ超結構です」

「風紀委員? 治安維持組織なのか?」

「まあそんなところです。一般には超知られていませんが、一応学園都市公認の組織なので超安心してください」

何だか余計に胡散臭くなった気がするが、一方通行は必要以上に追及しなかった。
今重要なのは、彼女の正体なんかではない。

「で、その自称治安維持組織が俺みてェな一般人にンなこと喋っちまってイイのかよ」

「超人手が足りないんです。そこで、あなたにご協力頂こうかと」

「俺に?」

「そうです。あなたは超……、えーと、大能力者ですよね? 超独力でここに辿り着いたことも含めて、そこそこの戦力になるとお見受けしましたが」

「その口調不便そォだな。超能力者か大能力者か分かりゃしねェ」

「ちょ、超うるさいです! そんなことより超協力してくれるのかくれないのか、はっきりしてください!」

897 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/29(金) 21:34:30.72 ID:5TmlY6Ogo

「行くさ。当然だ」

即答したからか、絹旗は一瞬面食らったようだった。
しかしすぐに元の調子に戻り、にやりと悪戯っぽく笑う。

「超良い返事です。やはりそう来なくては面白くありません」

「あァ。宜しく頼む」

言って、一方通行は絹旗に向かって右手を差し出す。
そして彼女は、迷わずにその手を取った。
……思えば、一方通行がこうして自分から初対面の相手に歩み寄るのは初めてかもしれない。

「じゃァ、作戦の概要を教えてくれ」

「もちろんです。まず、私たちは超先行してキャパシティダウンやその他研究機材を超破壊します」

「先行?」

「はい、メインの襲撃は後発隊の麦野……私たちのリーダーに超任せてありますので、私たちはあくまで超陽動です」

「そンなンでイイのかよ」

「流石に超一般人にそこまで高度なことは求めていません。それに、陽動だって超立派な仕事ですよ? それなりに危険ですし」

「ふゥン」

一方通行が拍子抜けしたように軽い調子で答える。
と、唐突に絹旗が足を止めた。
彼は危うくその小さな背中にぶつかってしまいそうになったが、何とか立ち止まって彼女の様子を窺ってみる。

898 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/29(金) 21:34:57.68 ID:5TmlY6Ogo

「どォした?」

「……超まずいですね。別行動で超先行していた馬鹿が超ドジをやらかしたようです」

「大丈夫なのか」

「まあ、少々予定は狂いましたがそこまで問題があるわけではありません。
 ただし、最初に予定していた侵入経路よりも超危険な道を通るハメになってしまいましたね。準備は超大丈夫ですか?」

「あァ」

そう返事をする一方通行の声は、少し緊張していた。
しかし絹旗は構わずに、軽く地面を蹴って高く跳び上がり研究所の塀の上へと着地する。

「超手助けはいりませんよね?」

「当然」

一方通行もそれに倣って跳び上がり、彼女の隣に着地する。
途端、ほんの一瞬だが頭痛に襲われた。
しかし、それはすぐに反射に阻まれて消失する。

「……キャパシティダウンが動いてるな」

「私たちよりも先に侵入していた超馬鹿が見つかってしまったみたいなんですよ。超申し訳ありません」

「俺は大丈夫だが。……オマエとそいつは大丈夫なのか?」

「私は能力で外部の音が超聞こえないようにしていますので平気です。あっちも無能力者ですから超問題ありません」

899 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/29(金) 21:35:23.62 ID:5TmlY6Ogo

「……会話できてるみてェだが」

「読唇術が使えますので、超普通に喋っていただいて構いません。ただ、こちらを向いてくださらないと意味はありませんよ」

「了解」

そして、二人はほぼ同時に塀から飛び降りて研究所の敷地内へと降り立った。
不思議なことに警報は鳴り響かなかったが、近くを警備していたらしい何体かの駆動鎧が襲い掛かってくる。

「フレンダは超仕事をしたようですね。セキュリティは一応切ってあるようです」

「キャパシティダウンは動いてるのにか」

「キャパシティダウンは電源装置がセキュリティとは超別の場所にあるんですよ。もともと切れるとは超思っていません」

「にしても……、前に見た時よりでかくなってねェか」

「超改良に改良を重ねたようですね。ですがその分巨大になり、喰う電気も超跳ね上がっている筈です。見つけるのが簡単なのは超助かりますね」

「確かにな」

世間話でもするような調子で喋りながら、二人は苦も無く駆動鎧を薙ぎ倒していく。
一方通行は風や地震などを駆使して戦っているが、絹旗はなんと素手で鉄の塊を殴る、なんていう荒業をやってのけていた。
恐らく身体強化系の能力なのだろうが、拳が痛くなったりはしないのだろうか。

「そォいや、オマエはレベルいくつだ?」

「大能力者です。あなたと超同じですよ」

900 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/29(金) 21:35:52.59 ID:5TmlY6Ogo

「滝壺も確か大能力者だったな。で、もォ一人の陽動は無能力者か。変わった組織だ」

「自分でも超そう思います。まあ仕事さえきちんとこなせれば能力のレベルなんて超関係ありませんが」

「その通りだな」

低能力者(レベル1)の初春が風紀委員で活躍していた姿を思い返しながら、一方通行は同意する。
そしてちょうど二人の会話が途切れた頃、最後の駆動鎧が地面に倒れ伏した。

「さて、これで暫らくは超大丈夫なはずです。それでは早速キャパシティダウンを超破壊しに行きましょう」

「アレか」

「アレもそうですが、東西南北にそれぞれ一ヶ所ずつ、計四か所に配置されているようです。それらを順番に超壊して行きましょう」

「手分けすンのか?」

「はい。私が北と東、あなたが南と西にあるキャパシティダウンを超破壊します。制限時間は十分。できますか?」

「五分で行けるだろ」

「超頼もしいですね。お願いしましたよ」

絹旗は薄く笑いながらそう言うと、軽く手を振ってからあっという間に走り去ってしまった。
……そう言えば、先程は彼女を身体強化系の能力者だと推測したが、それならキャパシティダウンの音をどうやって防いでいるのかの説明がつかない。
耳栓をしているようには見えなかったし、一体何の能力だったのだろうか。

(っと、ンなこと考えてる場合じゃねェな)

901 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/29(金) 21:36:20.77 ID:5TmlY6Ogo

制限時間は十分。いや、大口を叩いてしまった以上五分で片付けなければならないか。
しかし、それでも充分だ。
駆動鎧は彼の行く手を阻む壁にさえならない。
彼にとっては何の害にもならないのだから、無視して突っ切って行ってしまっても良いくらいだ。

(さて、行くか)

一方通行は悪い笑顔を浮かべると、地面を蹴って一瞬で姿を消す。
後に残されたのは、山と積まれた無数の駆動鎧だけだった。



902 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/29(金) 21:36:52.52 ID:5TmlY6Ogo

―――――



絹旗と外周部を歩いていた時も思ったことだが、この研究所の敷地は非常に広い。
気を遣ってくれたのか、二人が研究所に侵入した位置は西のキャパシティダウンにほど近い場所だった。
なので一つ目のキャパシティダウン破壊はすぐに為し得たのだが、問題はその次だった。

早い話が、遠いのだ。
能力の使用制限のこともあるのであまり能力を浪費したくないのだが、何とか制限時間以内に目的を達成するには能力をフル活用して
走り続ける他に無い。まあどちらにしろあちらこちらから駆動鎧が湧いてくるので、かなりの頻度で反射を使わなくてはならないが。

(ったく、一体何人潜ンでンだ?)

向かってくる駆動鎧を次々と薙ぎ倒しながら、一方通行は溜め息をつく。
キャパシティダウンは見えているが、まだ遠い。
また、やはり要であるキャパシティダウン周辺の警備は厳重になっているのか、倒しても倒しても駆動鎧が湧いてくる。
しかも、先進状況救助隊と言うだけあってその駆動鎧は悉くが最新型だ。

(金掛けてンなァ……。勿体ねェ)

一方通行はどんな攻撃が来たとしてもすべて反射で跳ね返せるから良いが、これでは絹旗が少し心配だ。
彼女が一体どういう能力者なのかは知らないが、こういう攻撃からきちんと身を守れるような能力なのだろうか。

(…………、まァ自称プロだからな。俺は俺の仕事をするだけだ)

向かってくる駆動鎧を風で吹き飛ばし体勢を崩したところに、首に手刀を落として破壊する。
大抵の駆動鎧には装備している人間の意識を補助して操作させる為の機構があるのだが、その中枢は大体首に備え付けられている。
だから、そこを破壊すれば最小限の力で駆動鎧を無力化させることができるのだ。
あまり能力を無駄遣いできない状況なので、こうした節約はとても重要だ。

903 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/29(金) 21:37:19.39 ID:5TmlY6Ogo

(身体強化程度なら消耗は少ないしな。風は演算が複雑だし、地震は使う力が大きいから消耗が激しい。
 一度に大勢を排除できるから便利は便利なンだが)

一番簡単なのは反射状態のまま突っ込むことなのだが、流石に相手も学習しているのか無闇に攻撃してこない。
彼の弱点を把握しているわけではないだろうが、時間稼ぎに重点を置いているのも少し面倒臭かった。
駆動鎧たちにしてみれば、「手も足も出ないのでせめて時間稼ぎくらいはしよう」という考えなのだろうが。

(無視しても良いンだが、後々厄介なことになりかねない。敵の戦力は少しでも多く潰しておくに限る)

キャパシティダウンが近づいてくる。
同時に、駆動鎧の数も増えてきた。
その型も、先に進むごとに強固で性能の高いものに変化して行っている気がする。
攻撃自体は脅威ではないが、破壊には一苦労だ。

(キャパシティダウンまでそォ距離はねェが、何があるか分からねェからな。念の為に節約しておくか)

一方通行は更に強く地面を蹴って、加速する。
マシンガンを向けてきたグリーンマーブルの駆動鎧に向かって駆け、銃口に手のひらを宛がって塞ぐ。
その速度に反応できなかった駆動鎧は、引き金を引く指を止めることができずにマシンガンを暴発させた。
流石に駆動鎧を着ているので中身の人間を負傷させるには至らないが、駆動鎧を故障させて稼働停止に追い込むにはこれで充分だ。

(……現在三分経過。充分か)

続いて、今度はブルーマーブルの駆動鎧が三体同時に現れた。
どういうコンセプトの駆動鎧なのか、三体とも銃器などの武器らしい武器は持っていない。

(まァ、銃器なンてモンは俺に対しては逆効果だから、それが正解かもな)

飛び掛かって来た一体目の駆動鎧の足を掴み、そのまま地面に叩き付ける。
そこにすかさず接近してきた二体目の駆動鎧が一方通行の顔面を狙って殴り掛かってきたが、彼はあえて回避しなかった。
言うまでもないだろうが、その必要が無いからだ。

904 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/29(金) 21:37:47.23 ID:5TmlY6Ogo

案の定一方通行の顔面を殴って腕を大破させた駆動鎧は、怯んで一歩後ろに後ずさった。
ここで追い打ちを掛ければ良かったのだろうが、背後で三体目の駆動鎧が何やら不穏な動きをしていたので、彼はそちらに意識を向ける。

ガチャガチャと何かを組み立てる音と同時に向き直ると、そこには腕をホースのような形に変形させた駆動鎧。
また銃器の類かと思って、一方通行は構わず三体目の駆動鎧に攻撃を加えようとした、が。
彼はその砲口から飛び出してきたのが、砲弾ではなく炎であることに気付いて慌てて飛び退いた。
火炎放射器か。

(っぶねェ。炎自体は脅威じゃねェが、あの火力じゃ酸素を奪われかねねェな)

よくよく見れば、ブルーマーブルの駆動鎧には三体とも背中に巨大な酸素ボンベのようなものが装着されている。
あの駆動鎧は、もともと炎の中もしくは炎を使って戦うことを前提とされたタイプらしい。

(が、戦法が分かっちまえばこっちもモンだ)

確かにあの火炎放射器は高威力だし、殆ど爆発のように炎を一気に吐き出すものだから酸素を奪ってしまう。
よってまともに喰らえば一方通行でも辛いのだが、同時にああいう武器は使用者の視界を奪うのだ。
また、一回目の発射から二回目の発射までに、燃料の再装填の為のタイムラグが存在する。そこがあの駆動鎧の弱点だ。

一方通行は掃射が一旦終了するタイミングを見計らって、一気に駆動鎧に接近する。
炎とそれに伴う煙が晴れると同時に目の前に現れた一方通行の姿に、駆動鎧は驚いて背後に飛び退った。
が、たったそれだけで逃げ切れるほど彼は甘くない。

「遅ェってンだ、よッ!」

ごがん、と凄まじい音を響かせながらのアッパーカット。
打ち上げられた駆動鎧の顎部分はものの見事に破壊され、そのまま罅が伝播するように広がって頭部全体が破壊される。
今回ばかりは駆動鎧でも威力を殺しきれなかったのか、中の人間は血を吐いてそのまま倒れた。

905 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/29(金) 21:38:18.63 ID:5TmlY6Ogo

(他にもまだトドメを刺してねェのが……ン?)

しかし振り返った先には、一体の駆動鎧が倒れているだけだった。
確かにあと一体の駆動鎧がいたと思ったのだが……。

(逃げた、のか? まァ賢明な判断だな、どォ頑張ったところで手も足も出ねェンだから)

一方通行は最初に倒したブルーマーブルの駆動鎧に近付いていき、確かに気絶していることを確認する。
二体目の駆動鎧は最初に腕を破壊してしまったので大丈夫だろうが、一体目は地面に叩き付けただけなので火炎放射器が生きている可能性がある。
だからこの駆動鎧にまた立ち上がられて、不意打ちで火炎放射器を使われてしまったら少し危ないのだ。

(酸素を奪われた時の辛さは経験済みだからな、流石に勘弁願いてェ)

彼は、倒れている駆動鎧の右手を軽く蹴って火炎放射器を破壊する。
念の為中の人間の様子も確認してみたが、操縦者は白目をむいて完全に失神していた。これなら問題ないだろう。

(さて、キャパシティダウンは……。もうすぐそこだな)

一方通行は首を動かしてキャパシティダウンを見上げると、能力の出力を上げて一気に跳んだ。
そのまま彼はキャパシティダウンの上へと着地し、躊躇うことなく全力の拳を真下に向かって振り下ろした。
途端、凄まじい破壊音と共にキャパシティダウンが砕け散る。

しかし僅かに機械としての形を残した部分が煙を上げ、漏電しはじめた。
だが一方通行は、構わずに軽くキャパシティダウンを更に蹴りつけて追い打ちを掛ける。

その直後に、キャパシティダウンは大爆発を起こす。
無論、一方通行は反射によって無傷。
それどころか、それら爆発を反射で跳ね返して更に徹底的にキャパシティダウンを破壊した。

906 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/29(金) 21:38:47.53 ID:5TmlY6Ogo

「任務終了、っと。5分ジャスト、こンなモンか」

「超お疲れ様でした。まさか本当に5分以内に任務を達成してしまうとは超思いませんでした」

「うおッ!?」

突然掛けられた声に、一方通行は驚いて振り返る。
そこには、背の高い建物の上に足を組んで座っている絹旗の姿があった。非常に悠々としている。

「オマエの方の任務は?」

「ドジやった無能力者が名誉挽回する為に超頑張ってくれたようです。私は一つ壊すだけで済みましたよ」

「そりゃ結構。そいつは汚名返上できそうか?」

「まあお仕置きは超確定ですが、若干軽くなるのではと思います。結果的に私も超楽が出来ましたしね、フォローくらいはしてあげようかと」

絹旗は立ち上がると、躊躇なく建物の上から飛び降りた。
そして猫のようなしなやかさで地面に着地すると、未だキャパシティダウンのあった場所に立っていた一方通行に降りるよう促す。
彼はそれに従って飛び降りたが、反射の方向を少し間違って地面に盛大に罅を入れてしまった。

「げ」

「……あなたが大能力者な理由が超分かった気がします。能力的には殆ど超能力者なのに」

「うるせェな、慣れてねェンだよ。
 他にも設定を変えたばっかだからか反射の精度もイマイチだし、威力の高すぎる攻撃は反射できねェことがあるし……。超能力者には程遠い」

907 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/29(金) 21:39:13.90 ID:5TmlY6Ogo

一方通行が拗ねたようにそっぽを向くと、ふと絹旗が笑った。
偶然彼女のそんな表情を見てしまった彼が意外そうな顔をしていると、絹旗は恥ずかしそうに咳払いしてから口を開く。

「と、とにかく超撤退しましょう。麦野たちももう侵入できたようですし、私たちの仕事は超終了です」

「こンなモンか、拍子抜けだな。その麦野ってのに加勢しに行かなくてイイのか?」

「麦野は余計な水を差されることを超嫌うので、下手なことはしない方が超身の為ですよ。帰りましょう」

「黒幕の顔くらいは見ときてェンだが」

「駄目です!」

ぴしゃりと冷たく言い放った絹旗に、一方通行は思わずびくりとしてしまった。
しかし同時に絹旗も自分の言い方や雰囲気に驚いたのか、慌てて元の調子に戻って取り繕う。

「す、すみません。とにかく、私は麦野の怒りに超触れたくないんですよ。あなただってそんな人の怒りを買うのは超御免でしょう」

「……分かった。それなら仕方ねェな」

一方通行はそれでもまだ少し不満そうだったが、絹旗が本気で嫌がっているようなので諦めてくれたようだ。
そんな彼を見て、絹旗はほっと胸を撫で下ろした。よっぽどその麦野という人が怖いのだろうか。

「で、どっから脱出するンだ?」

「セキュリティは超解除されているので出ようと思えば何処からでも出れるのですが、そうですね……」

ちょうど良い場所を探して絹旗がきょろきょろと周囲を見渡していた、その時。
ガシャン、ガシャンという駆動鎧の足音が聞こえてきた。
一つではない。しかも、そのひとつひとつの足音が今までの駆動鎧が立てていた足音よりも大きい。
どういうコンセプトの駆動鎧かは知らないが、少なくとも先程まで彼らに襲い掛かってきていた駆動鎧よりもサイズが大きいもののようだ。

908 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/04/29(金) 21:39:49.87 ID:5TmlY6Ogo

「どォする?」

「どうするもこうするも、超倒すしかないでしょう。麦野の負担を超減らすことにもなりますし」

「了解」

そして、暗がりから四体の駆動鎧が姿を現した。
色は、ピンク。
それを見た絹旗が驚きに目を見開いたが、一方通行は相手が黒幕かもしれないことよりも駆動鎧の右腕に装着された砲口が気になった。
何となくだが、嫌な予感がする。

「あれは、テレスティーナ……?」

『目標を発見。指示を』

『―――、――! ―――!』

『……了解。戦闘行動を開始します』

「指示を仰いでるところを見ると、下っ端っぽいが」

「…………、……。
 ええ、こちらも超確認しました。麦野は間違いなくテレスティーナと超交戦しています。あれはただの超下っ端のようです、が……」

一瞬安堵したような顔になった絹旗の表情が、すぐに苦いものに変化する。
そして次に彼女から発せられた言葉に、一方通行は自分の嫌な予感が現実のものとなったことを知った。

「あの駆動鎧の、右腕。第三位の『超電磁砲』を超再現したもののようです」



913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/04/30(土) 08:02:30.66 ID:hJ90sEXdo
別に書いてもらう必要はないけど、浜面がこの時期にアイテムにいるのはなんでだろう

914 : ◆uQ8UYhhD6A[sage]:2011/04/30(土) 09:59:59.13 ID:Pt458K39o
>>913
書いてもらう必要はないとのことですが、どうしても気になったので……。
ごめんなさい、あれは浜面ではなくフレンダのことです。
新約でフレメアが無能力者だったので、それに合わせてフレンダも無能力者にしました。


915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/04/30(土) 15:13:48.49 ID:1l1wQd0E0
駆動鎧の右手ってまさがガトリングレールガン?

916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)[sage]:2011/04/30(土) 16:03:17.68 ID:c37qs2BXo
アニレーの最後にテレスティーナが使ったやつだぜ

917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/05/01(日) 01:55:45.46 ID:5Bj8hOny0
アニメ超電磁砲見たことないが
そんな武器があるのか……

レールガンを連射出来るの?
なにそれ怖い

918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage]:2011/05/01(日) 02:05:39.48 ID:jgy2tuBGo
アニメのは駆動鎧の腕に装着した携帯用レールガンだね。
別に連射とかはしないし美琴の能力は関係ないただの近未来兵器って感じ。

919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)[sage]:2011/05/02(月) 15:40:03.45 ID:AwrBIO0lo
>>918
一応、美琴の能力再現したものとは言ってたがな
禁書最新刊のオーバー5につながる複線

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上条「だからお前のことも、絶対に助けに行くよ」一方「……」4

624 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/12(土) 23:58:24.46 ID:TV+d/oJ/o

今日は仕事はお休みだった。
何でも未成年を過剰に働かせる訳にはいかないとかで、不定期ながらも彼には週二日の休日が与えられることになったのだ。

それでも彼は自室でごろごろしているつもりだったのだが、不健康だと怒られて追い出されてしまった。
彼にとって外は危険な場所であるのだが、彼らがそんなことを知っている筈もない。
事情を話すわけにもいかない一方通行は結局反論することができずに、嫌々ながらもこうして外に出てくるハメになってしまった。
しかし、だからと言ってやることがある訳でもない。

……よって、一方通行はいつかのように路地裏に出張してスキルアウトを虐めていた。
いや、虐めていたのではなく厳密には戦闘慣れする為の訓練なのだが、能力差故に戦況はあまりにも一方的だったのでそう表現するのが適切だろう。

「今日はこンなモンか……」

足もとに転がる無数のスキルアウトを見回しながら、一方通行は呟いた。
今日はわざわざスキルアウトの多そうな路地裏の奥深くまでやってきて絡まれに来たので、先日よりも遥かに多くの人数を相手にしたのだ。
如何に一方通行と言えど、流石にこの数を相手にするのは少々骨が折れた。
彼は疲れたように溜め息をつくと、倒れたスキルアウトを踏まないようにしながら路地裏を去ろうとする。


――と、その時。
突然、彼の真横を何か大きなものが掠めていった。
数瞬遅れて、背後でけたたましい音が轟く。金属製の箱のようなものが、派手に壊れた音だった。

「な、ンだ?」

突然の出来事に驚いて、一方通行は暫らく固まってしまった。
音のした方を振り返ってみれば、そこには見る影もなくバラバラになってしまった巨大なゴミ箱。
続いてゴミ箱の飛んで来た方向を見やれば、そこには巨大と表現するしかない程の大男が立ちはだかっていた。

「……身体強化系の能力者か。まったく、手加減くらいしてほしいものだな」

まるでコピー紙をそのまま吐き出しているかのような、陰鬱な口調。
見上げるほどの巨体を持った、スキルアウト。

「コイツらは、オマエの仲間か」

「そういう訳ではないが……。まあ、同じスキルアウトの仲間と言えなくもないかもしれないな」

言い終わるが早いか、大男は目にも止まらぬ速さで一方通行に蹴りかかる。
一方通行はその攻撃を間一髪で回避したが、本当に危ないところだった。いや、殆ど勘で避けたようなものだった。

(オイオイ、なンだあの威力!? あンなモン反射しちまったら、折れるどころか千切れかねねェぞ!?)

練習台にしてしまった時点で外道なことをしている自覚はあるが、それでも美琴を見習って後遺症が残らない程度には抑えている。
にも関わらず、この男は全力で自殺しに来ていた。
いくらスキルアウトとは言え、一方通行もそこまでするつもりはない。
スキルアウトとは、ただ自分の能力に絶望してこの都市から零れ落ちてしまっただけの子供たちなのだ。

625 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/13(日) 00:00:27.37 ID:TFC+/ROzo

「……なるほど、なかなかの高位能力者のようだな」

「なるほど、じゃねェよ! 殺す気か!」

正確には「自殺する気か」の方が正しいのだが、相手は何の事情も知らないのでこう言った方が分かり易いだろう。
しかし男は、表情を変えもせずにこう続けた。

「近頃、能力者が無能力者を悪戯に襲撃する事件があることは知っているか?」

(あ、コイツ話聞く気ねェわ)

持ち前の頭の回転の速さで、一方通行は素早くそう判断した。
要するに、この男は彼のことをその事件の犯人だと思い込んでしまっているらしい。正義感に溢れていて立派なことだ。
しかし、もちろん一方通行はそんな事件の犯人ではない。
だがその一方で彼がスキルアウト即ち無能力者を虐めていたのは事実なので、言い逃れすることはできない。現行犯逮捕だ。

しかも彼が相手をしたのはあっちから絡んできたスキルアウトだけなのでぶっちゃけ正当防衛なのだが、
そんな話にこの男が耳を傾けてくれる筈もない。
と言うか、この状況を見てそんな話を信じてくれる人間が一体どれだけ居るか。それだけ、彼の置かれた状況は悪かった。

(強そォだから練習台には持って来いなンだが……、流石にこの状況でそンな暢気なことは言ってらンねェな)

一瞬外道な考えに至りそうにもなったが、そんなことをしている場合ではない。
このままでは本当にこの男を死なせてしまいかねないのだ。
そう判断した一方通行は、即座に方向転換を行って逃走を開始する。
しかし。

「逃がすと思うか?」

(なンだコイツ、図体でけェ癖に滅茶苦茶速ェ!)

一方通行は能力をフル活用して走っているというのに、大男はそんな彼に追い付きかねないほどの勢いで追い掛けてきている。
正直、すぐに撒けるだろうと楽観していた一方通行は焦った。
このままでは本当に追い付かれてしまいかねない。
どうするべきか、と一方通行が考えを巡らせようとした、その時。

「こっちだ!」

突然横道から手が伸びてきて、一方通行の手首を掴む。
あまりにも突然の出来事だったので一方通行はそれに対応することができずに、その手に引かれるまま横道に引きずり込まれてしまった。
混乱していた所為でそのまま連れて行かれてしまいそうになった一方通行は、すぐに我に返ってその手を振り払おうとする、が。

もはや見慣れた後ろ姿に、一方通行は振り払おうとした手を止めた。
彼の手を引いているのは、上条当麻だった。

裏路地の構造を知り尽くしているらしい上条は、男を撒く為にかわざわざ複雑で曲がりくねり、身を隠しやすい道を選んで走ってくれた。
しかし彼はきちんと道のりを把握しているらしく、迷うことなくずんずん先へ先へと進んで行く。

上条に誘導されるまま、走って、走って、走って、走って。
やがて二人は表通りに出た。

626 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/13(日) 00:06:13.53 ID:TFC+/ROzo

「はあ、はぁっ、はぁ……、ここまで来ればもう大丈夫だろ」

「……オマエ」

「あのなあ、裏路地は危ないって前から散々言ってるだろ? それともあんなところに何か用でもあったのか?」

息を切らしながらも、呆れたような怒ったような口調で上条が詰め寄る。
しかし正直に答えようものなら間違いなく説教を喰らうので、一方通行は彼の問いに答えずに黙っていることしかできなかった。
そんな彼を見たからか、上条も諦めたように溜め息をつく。

「まあ、言いたくないってんなら無理強いはしないけど。あんまり危ないことするなよ、心配するだろ」

「……悪ィ。助かった」

「それは別に良いよ。ただし、もうあんなとこ行くなよ」

一方通行はばつが悪そうにしていたが、上条がまるで保護者のようにそう言うと割と素直に頷いた。
それに実際、上条の警告を軽んじて嘗めて掛かっていたことには違いなかった。

「ところで、お前これから何か予定あるか?」

「無い」

「俺ゲーセン行くとこだったんだけどさ、お前も一緒に来ないか? 流石に一人じゃちょっと寂しいしな」

「……いつもの二人はどうしたンだ? 青髪ピアスと、……土御門だったか」

「それが、二人とも用事があるとかで帰っちまったんだよ。薄情な奴らめ」

「ふゥン。……そォいえばオマエ、前にこの時期はテストがあるとか言ってなかったか? こンなところで遊ンでてイイのかよ」

「……現実逃避してる」

「後で泣きを見ることになるぞ……」

「覚悟はしてる」

とは言え、つい最近までの上条は一方通行や美琴に勉強を教えてもらっていたので、そこまで酷いことにはならない……、と思う。
まあ、それでも今までの成績があまりにも悪すぎるので、夏休み中の補習は決定だろうが。

「まァ、俺には害はねェから何でも良いンだが。……ゲーセン行くならついてく」

「お、そうか。じゃあ行こうぜ」

「本当に現実逃避してンのな……」

補習確定を悟っているからなのか、もうどうにでもなれと諦観している上条を見て一方通行は呆れた顔をした。
とは言え、一方通行もそんな彼を咎めようとはしない。
スキルアウトも上手いこと撒けたし路地裏に入った時の様子を見るに例の追手などの危険も居なさそうなので、今は暇潰しが最優先なのだ。
……我ながら、友達甲斐の無い奴だという自覚はある。

627 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/13(日) 00:07:55.54 ID:TFC+/ROzo

そしてゲームセンターの前までやって来た二人はさっそくその中に入ろうとしたが、入り口に立っている華奢な後姿を見つけて足を止める。
御坂美琴だ。

「……お前、こんなところで何してんの?」

「へ? あっ、アンタたち何で!?」

振り返って二人の姿を確認した途端、美琴は驚愕の表情を露わにした。
しかし、二人は構わず美琴の近くへと歩いていく。

「いや、どっちかと言うとそれはこっちの台詞だと思うんだが。俺はいつもこのゲーセンで遊んでるしな」

「へ、へー、そうなんだ。私もまあそんなところかな?」

「……オマエ、立場上ゲーセンには来にくいとか言ってなかったか?」

「そっ、そんなことも言ったかしら? でも最近は結構通うようになってきたのよね、やっぱり楽しいし?」

「…………」

その反応を見て、上条も漸く美琴が何を目的としてここにやって来たのか見当がついたようだ。
と言うか、先程から彼女の視線がちらちらとそちらに向かっているので気付かない方が難しいかもしれないが。

「……素直に言えよ。クレーンゲームのカエルを取りに来ましたって」

「この間御坂妹が取ってたのがよっぽど羨ましかったンだな……」

「うっ、うるさい! 何よ、私がゲコ太のぬいぐるみを取りにわざわざこんなところまで来てるのがそんなにおかしいわけ!?」

「別にそこまでは言ってないだろ。て言うか、お前がアレ好きなのなんか既に周知の事実だし」

「むしろ何を今更隠し通そうとしてンだよ。遊園地でのはっちゃけぶりを忘れたとは言わせねェぞ」

「その台詞前にも何処かで聞いたわね……。まあ、アンタたちが私の邪魔をしないなら別に何でも良いわ」

当然、二人にはそんなつもりは毛頭ない。
しかしそれ以上に、上条は美琴の言葉に引っ掛かりを感じて思わず聞き返す。

「……と言うか、自力で取る気なのか?」

「当たり前じゃない! ああいうのは自分の力で取ってこそ価値が生まれるのよ」

「まあ止めはしないけど、あのクレーンゲームは難しいことで有名なんだぞ?
 それにお前は滅多にゲーセンになんか来れないんだから、クレーンゲームには慣れてないだろ。取れるのか?」

「そんなの、やってみないと分からないじゃない。いざ、限定ゲコ太ぬいぐるみ!」

美琴は自分に気合いを入れるようにガッツポーズをすると、二人を置いてけぼりにしてさっさとゲームセンターに入って行ってしまう。
残された上条と一方通行は何とも言えない表情でそれを見送っていたが、やがて彼女の後を追って中へと入って行った。



―――――

628 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/13(日) 00:09:35.46 ID:TFC+/ROzo


様々な音が飛び交うゲームセンター。
一通り遊び尽くして疲れた一方通行は、いったん上条と別れてゲームセンターの隅に設置してあるベンチに座っていた。
そばにあった自動販売機でコーヒーを購入すると、プルタブを開けて一気にあおる。
冷たいコーヒーは喉を潤し、ゲームセンターにこもった熱気の所為で熱くなった身体を冷ましてくれた。

「あら、アイツは?」

すると、ふと真横から美琴の声が聞こえてきた。
見やれば、美琴は何処かで見たことのあるカエルのぬいぐるみを抱いていた。例のクレーンゲーム限定のぬいぐるみだ。

「まだ遊ンでる。パズルゲームで知らねェ奴と対戦中」

「ふうん。アンタは何してるのよ?」

「見て分かンねェか? 休憩中だ。少し疲れた」

「じゃあ、隣良い?」

「構わねェよ」

一方通行の答えに礼を言うと、美琴はすとんと彼の隣に座った。
膝の上にのせたカエルのぬいぐるみが愛らしい。

「そのカエル、取れたンだな。……ゲコ助だったか?」

「ゲコ太よ! まったく、散々私が語ってあげた上に遊園地にまで行ったのに、まだ覚えてなかったの?」

「悪かったな、記憶力が悪くて。それより、それ取るのにどれくらい掛かったンだよ?」

「……五千円は使ってないわ」

「つまり、五千円近く使ったってことか。それだけ使えば十分だ」

「何よ、好きなんだからしょうがないじゃない。どうしても欲しかったのよ」

「別にオマエの趣味にケチ付ける訳じゃねェけどよォ。その為に上条を放って置くってのはどォなンだよ」

「……ど、どういう意味よ」

「良いことを教えてやろォか。御坂妹曰く、アイツは意外とモテるらしい。さっさと素直になっておいた方が後で後悔しねェと思うぞ」

「はあ!? 何よそれ!」

叫びながら、美琴が驚いてがたんと席を立つ。
幸い騒がしいゲームセンターの中だったので大勢の人の注目が集まるようなことは無かったが、それでもやはり恥ずかしかったのか、
美琴ははっと我に返るとそっと席に戻った。

「べ、別にアイツがモテようとモテなかろうと、私には関係ないわ。何なのよ、もう」

629 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/13(日) 00:13:08.89 ID:TFC+/ROzo

「まだ自覚が無かったのか。こりゃァオマエも相当重症だな」

これ見よがしに溜め息をつく一方通行を見て、美琴はむっとした顔をする。
照れの所為なのか不機嫌の所為なのか分からないが、彼女が渾身の力で抱き締めている所為で、ぬいぐるみは大変可哀想なことになっていた。

「……あ、そうだ。ずっと言い忘れてたことがあるんだった」

「? なンだ?」

「ほら、私たちって四人で遊びに行くと必ず何かに巻き込まれて台無しにされちゃうじゃない?
 だから三度目の正直ってことで、また四人で何処かに遊びに行こうと思って。ちょうど良いとこのチケットを貰ったのよ」

「あァ……、そォ言えばそォだな。いろンな事件に巻き込まれるよォになったのは、御坂妹と遊ぶようになってからだったか」

「そうなのよ! それに気付いたらなんか腹が立ってきて、今度こそは何が何でも四人で遊び通してやる! って思ったのよ」

「そりゃまた、ガキっぽい理屈だな」

「が、ガキっぽくて悪かったわね! でも、その所為であの子は一度もこのメンバーで平和に遊べたことないのよ? それって可哀想じゃない」

確かに、それもそうだ。
ただでさえ色々と複雑な事情を持ったクローンでなかなか遊んだりできないというのに、こんな仕打ちはあんまりだろう。
その点については、一方通行も文句なしに同意だった。

「……二度あることは三度ある、とも言うけどなァ」

「やめてよ、そういう不吉なこと言うの……」

「ま、確かにオマエの言うことにも一理あるからな。良いンじゃねェか?」

「本当? 良かった、これで後は妹に確認取るだけね」

「ン? 上条にはもォ言ったのか」

「うん、さっきここに来る前にね。大賛成だってさ」

「そォか。で、何処に行く予定なンだ?」

一方通行が尋ねると、美琴は待ってましたと言わんばかりにポケットの中から四枚のチケットを取り出した。
コーヒーをまた一口飲みながら、一方通行は得意げにしている美琴からチケットを一枚受け取る。

「どうよ! 水族館のチケットよ。行きたかったんだけど行けなくなっちゃったっていう友達に譲って貰ったの」

「ふゥン。良いンじゃねェの?」

「でしょ? 学園都市の技術をフルに使って演出した最高の水族館なんだから」

「へェ……。それならアイツも喜ぶな」

630 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/13(日) 00:16:44.84 ID:TFC+/ROzo

学園都市の技術をふんだんに使った水族館、と言われてもいまいちどう凄いのか想像がつかないが、
美琴がこれだけ楽しみにしているのだからきっと相当すごいのだろう、と一方通行は勝手に結論付けた。
それに、御坂妹は普通の人なら何でもないようなことにいちいち興味を示したり感動したりするので、それほどのものなら申し分ない筈だ。
一応名目上は御坂妹の為になっているのだが、美琴もかなり期待しているらしく瞳をキラキラさせている。

「そうそう、それから日時はいつが良いかしら? テストがあるからすぐには無理なんだけど……」

「夏休み中、もしくはテスト明けだろォな。まァ俺はいつでもイイが」

「あ、そうだ。この間アイツにも直接テストのことについて突っ込んだんだけど、アイツはあんなことしてて大丈夫なの?」

「駄目っぽいな。見ての通り、現実逃避してる」

「駄目じゃない」

「あァ、駄目だ」

二人の視線が遠くの上条に向く。
彼は、まるでテストのことなど忘却の彼方に捨て去ってしまったかのように無邪気にゲームを楽しんでいた。
それを見て何となく微妙な雰囲気になってしまったことに気付いた美琴は、慌てて話題の転換を図る。

「で、でももしアンタが学校に通ってたりしたらきっとテストなんか楽勝なんでしょうね! 羨ましいわ」

「オマエだって超能力者の第三位なンだから、成績は良いンじゃねェのか?」

「普通の学校だったらそうなんだろうけどね……。
 でも常盤台は大学レベルの授業をやるから、テストの内容はそこそこ難しいのよ。私もちょっとは勉強しないと流石に危ないかなー」

「とンでもねェ中学もあったモンだ」

「まったくね」

購入したヤシの実サイダーのプルタブを開けながら、美琴がはあっと溜め息をついた。
学校に通ったことなどない一方通行にはよく分からない感情だが、とにかくテストと言うものは相当に精神的に重いもののようだった。
美琴の学校と上条の学校では圧倒的な差があるとは言え、果たして上条はアレで本当に大丈夫なのか。

「あら、もうこんな時間? そろそろ帰らないとまた黒子にぶつぶつ言われちゃうわ」

「ン? あァ、もォこンな時間なのか。どォりで腹減ったと思った」

「寮の門限まではもうちょっとあるけど、ちょっと距離あるから早めに出ないといけないのよね。寮監もすごい厳しいし……」

「そォか。気ィ付けて帰れよ」

「誰に向かって言ってるのよ、私は超能力者の第三位よ? ちょっとやそっとじゃどうこうされないわよ」

「ハイハイ、それは失礼しましたねェ」

「そうよ、平気平気。それじゃ、また今度ねー」

「おォ、またな」

そして席を立った美琴は上条の方へと歩いて行って軽く挨拶すると、彼らに軽く手を振りながら駆け去った。
一方通行はそんな彼女を見送ると、飲み干して空になってしまったコーヒーの缶をベンチの隣に置かれてあったくずかごへと投げ入れる。
からんと小気味の良い音がして、缶はくずかごの底に落ちて行った。


640 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/17(木) 23:57:50.15 ID:DkvGYgrTo

完全下校時刻を過ぎてしまった、暗い夜道。
閉店時間になってからようやくゲームセンターから出てきた二人は、並んで帰路に就いていた。

「ったく、まさかこンな時間まで付き合わされる羽目になるとは……」

「悪い悪い、ついつい夢中になっちゃってさ」

苦笑いしながら謝る上条を見て、一方通行が溜め息をつく。
とは言え一方通行もあの後また上条に付き合って遊び始めていたりしたので、あまり人のことは言えないのだが。

「つゥか、テスト本当に良いのか?」

「……まあ、今更だしな」

「ふゥン。俺には関係ねェから別に良いンだけどよォ、御坂との約束に影響が出ないよォにはしろよ?」

「ど、努力はする……」

上条にしては珍しく信用ならない言葉だが、こればかりは彼一人の力でどうこうできるようなものではないので仕方がない。
だったら大人しく勉強すれば良いのにと思っていると、ふと立ち止まった上条に合わせて足を止めた。

「どォした?」

「いや。俺の寮、ここだからさ」

「あァ、そォいえばそォだったか。じゃァここまでだな」

「待て待て、制服渡すからちょっと上がってけよ。ついでに夕飯も食ってくか?」

「夕飯はいい。制服だけ貰ってく」

「遠慮すんなって! お前のことだからどうせコンビニ弁当ばっか食ってるんだろ? たまには家庭料理食べないと身体に悪いぞー」

「いや、だから制服だけ……」

「良いから良いから! 上がってけ!」

「人の話を聞け」

一方通行の言い分を完全に無視して、上条はその腕を掴んで寮に強制連行しようとする。
能力を使って逃げようにも、右手で掴まれてしまっているのでそれも叶わない。
当然、単純な腕力で一方通行が上条に敵うはずもなく、彼はあえなく引き摺られて行ってしまった。



―――――

641 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/17(木) 23:58:38.48 ID:DkvGYgrTo

「すぐに出来るから、テレビでも見てて待っててくれ」

「ハイハイ。ったく……」

結局上条に丸め込まれてしまった一方通行は、上条宅で寛ぎながら夕飯ができるのを待っていた。
手持ちご無沙汰な一方通行は部屋の中をきょろきょろと見回し、上条宅を観察する。

以前来た時はこうしてゆっくり見る余裕もなかったので気付かなかったが、部屋は男子高校生の自室にしてはかなり片付いている方だった。
ベッドはきちんと整えられているし、本も床に散乱することなく綺麗に本棚に収納されている。
しかし潔癖と言うほどでもなく、部屋には適度な生活感も感じられた。
何となく、温かい雰囲気。きっと上条の実家もこういう雰囲気の場所なのだろうな、と思った。

(親のことなンざ覚えてねェけどな。……居るかどォかも怪しいが)

記憶喪失の一方通行には、当然肉親の記憶もない。しかし自らの境遇を考えると、肉親など居ないのではないか、という気もする。
あんな実験動物扱いされているのだから、きっと自分は置き去り(チャイルドエラー)なのだろう。
けれど、不思議と悲しい気持ちになったりはしなかった。
記憶喪失になる前の自分はそれが当然だったからか、それとも。

(……くっだらねェ)

自嘲しながら、一方通行は視線を下ろす。
すると、ベッドの脇にリモコンが落ちているのが目に付いた。

先程の上条の言葉を思い出した一方通行は、何となくそれを手に取ってテレビを付けてみる。
映った番組は、ニュースだった。
先日のテロ事件について報道している。

いや、正確にはテロではなく一方通行を追い回していた連中の残した爪痕がテロと勘違いされているだけだ。
見覚えのある路地裏が、銃弾や爆発、衝撃波に晒されて破壊されていた。
そこには一方通行の覚えのない破壊痕もあったが、ほぼ間違いなく彼を巡って付けられたものだろうと彼は推測する。
幸いその事件による犠牲者はゼロだったらしいが、物的被害は甚大だった。

「出来たぞー。……って、何見てるんだよ」

「ニュース」

「ふーん……」

テーブルの上に食器や料理を並べていきながら、上条もテレビに目をやった。
そしてすぐに、それが何のニュースか気が付いたようだ。

「…………、あのさ。こういうの、あんまり気にしなくていいと思うぞ? お前が悪いわけじゃないんだし」

「………………」

「悪いのは全面的にアイツらなんだ。お前には一切非は無いんだからさ」

642 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/18(金) 00:00:22.68 ID:1L/yEOX/o

言いながら、上条は一方通行の頭をぽんぽんと撫でてやる。
俯いていた一方通行は顔を上げて上条を見ると、むっとした顔をした。

「ガキじゃねェンだ。御坂じゃあるまいし、その慰め方やめろ」

「はは、悪い悪い。つい癖でなー」

「……癖? 弟でもいたのか」

「いや、弟も妹も居ないぞ。でも仲の良い従妹がいてさ、妹みたいに可愛がってたんだ。だからそれが癖になっちまって」

従妹のことを思い出しているのか、上条はやんわりと微笑みながら最後の食器をテーブルに載せる。
その一方で一方通行は意外な事実に少し驚いていたが、同時に納得もしていた。通りで人の世話を焼くのが板に付いているわけだ。

「よし、配膳終わり。食べようか」

「ン」

「いただきます」

「……いただきます」

やはりまだ少し照れがあるのか一方通行の声はとても小さかったが、確かに聞こえてきたその言葉に上条は苦笑いした。
そして、二人はさっそく夕食に手を付け始める。
二人とも食事中はあまり喋らない性分なのか、暫らく静かな食事が続けられた。

「急いで作ったやつだから簡単なので悪いな。口に合うと良いんだが」

「不味くはない」

「そ、それはどういう感想なんだ……? まあ不味くないなら良かった」

曖昧な感想を述べた割りには、一方通行はがつがつと料理を掻き込んでいた。
その行動が既に答えになっているような気がするのだが、指摘すれば機嫌を損ねること請け合いなので上条はあえてスルーする。

「お前、いつもどんな食事してるんだ? 本当にコンビニ弁当とかばっかりだと身体に悪いぞ」

「研究所に食堂があっから、そこで食ってる。人の手で作られたモンだから大丈夫だろ」

「そうか、それなら良いんだけど。て言うか、お前は自炊とかしないのか?」

「……出来るように見えるのか?」

「いやまあ出来ないとは思うけど、自分から挑戦しないといつまでも出来るようにならないぞ。自炊の方が安上がりだし」

「ふゥン……」

一方通行は興味無さそうな声を出すと、茶碗と箸をテーブルの上に並べて置いた。
それを見て、上条は少し意外そうな顔をする。遠慮をするような性格でもないはずなのだが。

643 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/18(金) 00:01:33.54 ID:1L/yEOX/o

「あれ、もう良いのか? お替りあるけど」

「いい。十分だ」

「そう言えば、お前って元々あんまり食べないんだっけ。今までは病院暮らしだったから気にしなかったけど」

「……そンなンだからもやしなンだとか言ったら殺す」

「へ? 何か言ったか?」

「いや、何も」

ぼそりとだけ呟いた一方通行の言葉を聞き取れなかった上条は首を傾げたが、気にする程でもないと思ったのかすぐに食事を再開させる。
食事を終えて暇になってしまった一方通行が再び上条の部屋を観察していると、ふとベッドの上に置かれている白い箱が目に付いた。
すると、一方通行が見ているものに気が付いた上条が食事の手を止めて箱を見やる。

「あれが制服。そうだ、ちゃんと試着しなきゃな。大丈夫だとは思うけど、万が一サイズが合わなかったら交換してもらわないとだし」

「ふゥン。じゃァ着てみるか」

一方通行は席を立つと、さっそく白い箱の中から制服を取り出して試着を始めた。
上条の学校の制服はもともとシャツの上に着れるようになっているタイプなので、試着も簡単だ。
しかし上条は、箱の中の男物の制服を見た一方通行が一瞬微妙な表情をしたのをうっかり見てしまい、だらだらと汗を流していた。
……男で良かったんだよな。男だよな。そう信じてますよ上条さんは!

そんな上条の心中を知る由もない一方通行は、取りあえず上着だけを試着していた。
何も言わないところを見るとこれで文句はないようだが、何かこう微妙な雰囲気が漂っているので気が気でならない。
しかもズボンを履き替えようとしないのが更に気に掛かのだが、それに特に深い意味はないことを願いたい。

「……まァ、こンなモンか。サイズは問題ねェが、微妙に似合ってねェ気が……」

「いやいやそんなことは無いぞ! 非常によくお似合いですとも!」

「そォか? それなら良いンだが。……つゥか、オマエ何かおかしいぞ。どォかしたか?」

「な、何もないぞ? 嫌だなあ、何を仰るのやら」

「?」

いやに白々しい上条を見て、一方通行は首を傾げる。
とにかくサイズの確認を終えた彼は試着していた上着を脱いでしまうと、それを適当に畳んで箱の中に押し込んだ。
……ところで畳むのが下手とかいう次元の話ではないのだが、彼は服を畳んだことがなかったのだろうか。

「で、話は変わるがテストってのはいつからなンだ?」

「うぐっ、その話題は出さないで下さいお願いします」

「だから、勉強見てやるっつってンだよ。それでちょっとはマシになンんだろ」

644 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/18(金) 00:02:22.88 ID:1L/yEOX/o

「え、良いのか?」

「夕飯の礼だとでも思ってくれりゃイイ。おら、さっさと出せ」

「ありがとうございます! いやーほんとに助かったあ!!」

「そンなに切羽詰ってるンならさっさと相談しろよ……」

「いや、でもやっぱりこういうのは頼みにくくてな……。ビリビリは教えながら罵ってくるし」

「……ご愁傷様」

「言うな……」

当然ながら美琴には悪気はないのだが、彼女が簡単に解くことの出来る問題で年上である上条が引っ掛かっていると、
ついついあれこれ言いたくなってしまうようだ。気持ちは分かる。
しかしその『あれこれ』は、確実に上条の精神にダメージを与えてしまっていたらしい。可哀想に。

「でも、ここまでやって貰ってるんだから頑張らないとな。テストが終わったら夏休みだし」

「夏休み?」

「そう、知らないか? 夏になると長期休暇があるんだよ。えーっと……、確か、うちの学校は七月二十日からだっけ」

「二十日……? って、本当にすぐじゃねェか」

「そうだぞ。だから、夏休みになったらまたみんなでどっか遊びに行こうな。水族館は決定してるけど」

テーブルの上の食器を二人で片づけながら、上条は夏休みについて語りはじめた。
よっぽど楽しみにしているのだろうか。
とは言えその前には乗り越えなければならないテストという難関が待っているのだから、現時点では手放しに喜べないのだが。

「そうだ。学園都市に申請通せば、『外』にも遊びに行けるかもしれないぞ」

「俺は無理だろ。偽造IDがあるとは言え、基本的には不法滞在扱いなンだ。流石にゲートは誤魔化せねェよ」

「そうか? 意外と行けそうな気がするが」

「オマエ、本当に楽観的な……」

「これでも一応危機感持ってるつもりなんだけどな……」

しかし、上条の平和そうな顔からはそんな感情など微塵も感じ取れない。
一方通行はそんな彼を見て、小さく溜め息をついた。



―――――

645 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/18(金) 00:03:17.66 ID:1L/yEOX/o



「……ン」

差し込んできた日差しの眩しさに、一方通行は目を覚ます。
寝ぼけた眼を擦りながら顔だけを上げてカーテンの隙間から見える外の景色を覗いた途端、一方通行はがばっと起き上がった。

(あ、アホか! 油断し過ぎだ!)

机に突っ伏して眠っていた一方通行は上半身を完全に起こすと、苛立ちを紛らわすかのように頭を掻き毟る。
その向かいでは、先程までの彼と同じように上条が眠っていた。

どうやら昨日の勉強会が夜遅くまで続いてしまった所為で、二人ともいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
思い返してみれば、確かに昨日の勉強会の最後の方の記憶が無い。
最後の方は二人とも凄まじい眠気と戦いながら勉強をしていたので、記憶がひどく曖昧になってしまっているのだ。
それにしても、どちらが先に眠りに落ちてしまったのかさえ覚えていないとは。

(あークソ、ホント調子狂う……)

あまりにも上条の勉強が進まないので意地になって夜遅くまで付き合ってしまった彼も彼なのだが、取りあえずは八つ当たりだ。
一方通行は眠っている上条の額にでこぴんをお見舞いすると、テーブルに頬杖をついて間抜けな寝顔を観察する。
相変わらず、何も考えて無さそうな顔だ。涎まで垂らしている。……ノートが思いっ切り濡れて滲んでしまっているが、まあ良いか。

「……ん、ふぁ、あれ? 一方通行?」

「おォ、オハヨウ」

「あ、ああ、おはよう。あれ、お前泊まっていったんだっけ?」

「違ェよ。オマエに勉強教えてるうちに居眠りしちまったみてェだ」

「そう言えばそうだっけ。悪かったな、遅くまで付き合わせちまって」

「別にそれは良いンだが……」

最近の様子を見ればその可能性は限りなく低いが、最悪ここで眠っている間に奴らに襲われる可能性もあった。
そんなことになっていれば、確実に上条も巻き込むことになってしまう。
今回何事もなかったのは幸いだったが、これからはもう二度とこのようなことがないようにしなければならない。
……一方通行は自らの迂闊さに嫌悪した。

「そうだ、朝食も食べるよな? 米とパン、どっちが良い?」

「どっちでも」

「分かった。じゃあトーストと目玉焼き……。っと、コーヒーもだな」

「ン、頼む」

「おう。って、ノートが大変なことに!?」

646 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/18(金) 00:04:10.32 ID:1L/yEOX/o

無残な姿を晒しているノートを見て悲鳴を上げると、上条は必死で汚れを拭きはじめる。
ティッシュで乱暴に吹いた所為でますます滲みが酷くなってしまったノートに嘆く上条を見て、一方通行は呆れたような顔をした。

「ったく。ちゃンと管理しとけっての」

「うう、返す言葉もない……」

「後やっとくからメシ作ってこい。腹減った」

「悪いな……。じゃ、後よろしく」

「あァ」

一方通行は適当に返事をしながら、テーブルの上にうずたかく積み上げられた教科書やノート、プリント類を片付けていく。
尚、滲んでしまったノートはもうどうにもならないので、そのまま閉じて重ねておいた。
やがて片付けを終えてしまって何もすることが無くなった一方通行は、取りあえずリモコンを操作してテレビをつける。
しかし何処にチャンネルを回しても、朝のニュースか天気予報くらいしかやっていなかった。

(変わり映えのねェ……)

しかも、どの番組も似たようなことしか言っていない。なの、で一方通行は適当な番組にチャンネルを合わせるとリモコンを置いた。
そしてふとテレビの左上に表示されている時計を確認してみると、現在の時刻は七時過ぎ。
自然にこんな時間に起きるのは珍しいなと思いながら、彼は昨晩とは打って変わって平和なニュースをやっているテレビを眺めていた。

(…………、……。平和だな)

これほど自分に似合わない台詞も無いだろうという自覚はあるが、
今日のわんことかプールの繁盛模様などといったつまらないことしか報道していないニュースを見ているとそう思わずにはいられなかった。
すると、キッチンから目玉焼きを焼く音とコーヒーの良い匂いが漂ってくる。
そのあまりの心地よさに二度寝してしまいそうになったが、一方通行は何とかそれに耐えてテレビに意識を集中させようとしたりしていた。
……束の間の平和は、とても暖かかった。


651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/18(金) 00:59:18.63 ID:+Lx8FJ9DO
あれ?まさか百合子フラ(ry
いや、そんなわけないな…うん…

653 :◆uQ8UYhhD6A[sage]:2011/03/18(金) 01:13:17.75 ID:1L/yEOX/o
>>651
制服着せるに当たって男だと確定させてしまうと原作的にちょっと納得いかなかったのでああいう演出をしただけです。
前に誰かも言ってたけど、一方さんはもう性別一方通行で良いんじゃないかな……

655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/18(金) 07:10:51.27 ID:5dpxPQ1oo
頭ポンポンしたり、デコピンしたり、なるほど。
俺はこういう関係の2人を見たかったんだな。BLとかじゃなくて。

657 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/18(金) 12:51:06.88 ID:1L/yEOX/o

目を閉じて、能力の行使に神経を集中させる。
……反射設定の、再構築。
ブラックリスト方式ではなく、ホワイトリスト方式へ。
指定した有害なものを反射するのではなく、指定した無害なもの以外をすべて反射するように、設定を変更。

(『指定する無害なもの』は空気、音、光、その他諸々、すべて許容量の範囲内のみ。……これで良い、か?)

生存に必要不可欠なものはすべて指定した……はず。
少々の不安が残るが、取りあえず展開してみないことには効果を確認することができない。
彼は設定の再構築を一時完了させると、反射を展開した。

途端。
浮遊感が襲い掛かり視界が反転したかと思ったら、体中に衝撃が掛かったのを感じた。
実際には衝撃は受けていないし痛みも無いのは、もちろん反射のお陰だ。

「……重力か。設定すンの忘れてた」

何か忘れている気がするなあと思ってはいたのだが、重力だったか。一応何度も確認したつもりだったのだが。
しかし、何はともあれ命に関わるものは忘れていなかったようなのが不幸中の幸いだったか。
とは言え屋外で重力を反射したら大気圏外まで吹っ飛んでしまうので、ここが室内じゃなかったら大変なことになっていただろうが。

(重力を設定に追加)

念じると、すぐに天井に張り付いていた一方通行の身体がすとんと床に落ちてきた。
これで本当に設定完了だ。
部屋に少々の損害が出てしまったが、まあ大丈夫だろう。
そんな軽い現実逃避をしながら能力を解除すると、大きな音を聞き付けた部屋の主が慌てて戻ってきた。

「なんかすごい音が……ってうわ、何だこれ! 天井が大変なことに!?」

「何でだろうなァ」

「いやさっきまではこんなの無かったぞ! これ絶対お前がやっただろ!」

帰って来るなり大騒ぎしながら上条が指差したのは、盛大にへこんでしまった天井だった。
一方通行が重力を反射してしまった時に、彼がぶつかった衝撃+彼に返ってくる筈だった衝撃がすべて天井に叩き付けられてしまったのだ。
幸い穴は空いていないものの、天井を構成していた素材がぼろぼろと毀れてきている。

「ああもう、どうするんだよこれ。今月きついのに……」

「……弁償はする」

「いや、まあそれは別に良いんだが……。何をしててこんなになったんだ?」

「ふと思い立って、例の第二位対策に反射の設定を組み直してたンだよ。そォしたら重力まで反射しちまったンだ」

「ああ、いつだったか何とかリスト方式とか言ってたやつか? 重力なんか忘れるか、普通」

「空気の内訳と許容量の計算で手一杯だったンだよ。悪ィか」

658 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/18(金) 12:53:58.73 ID:1L/yEOX/o

上条に呆れられたのが悔しかったのか、一方通行はぶすっとした顔をしてそっぽを向いてしまった。
普段はやたら思い詰める癖に、こういうところは子供だ。

「ま、とりあえずメシ出来たから早く食おうぜ。冷めちまうし」

「ン。……ところでオマエ、今日も学校だろ? そンなにのンびりしててイイのか?」

「まだ時間あるし、大丈夫。それよりお前は仕事は平気なのか?」

「今日も休みィ」

言いながら、一方通行は朝食を口にし始める。……ちなみに、もちろんいただきますは言わされた。
上条もそれに倣って食べ始めたが、そうしながら物憂げな溜め息を漏らした。

「そっか、羨ましい……。俺は土日の休みも高確率で補習に駆り出されるからなあ」

「こンだけ教えてやったンだから、もォ大丈夫だろ。むしろこれでまた赤点取りやがったらぶン殴る」

「ええっ!? それは勘弁してほしいんだが」

「だったら赤点取らなきゃイイだろォが」

「いやそれはそうなんだがなんと言いますかまだ自信が無くてだな……」

「言い訳無用。キリキリ勉強しろ」

「不幸だ……」

がっくりと項垂れている上条を無視して、一方通行はトーストに齧りつく。
流石に時間が無いからか、上条は暗い表情のまま俯きながらも食事を口に運んでいた。器用だ。

「あ、一方通行。すごい申し訳ない頼みなんだが、まだいくつか分からないところがあるからまた教えてくれないか?」

「それは別に構わねェが、御坂に訊けばいいじゃねェか。アイツも教えるの上手かったはずだ」

「それでも良いんだけど、何となく頼みにくくってな。ほら、アイツも一応女の子だし」

「一応ってなンだ一応って。アイツに聞かれたら殺されるぞ」

「どうか御内密にお願いします」

「はァ……」

すかさず床に額を擦りつける上条を見て、一方通行は深い溜め息をついた。
まったく、これでは美琴も報われないはずだ。

「と言うか、流石に中学生の女の子を自分の部屋に呼んで勉強を教えてもらうってのはおかしいだろ。
 ファミレスみたいなとこに居座るのも良いんだが、それだとお店の人に悪いしな」

「……まァ、俺に言えた義理はねェがたまにはアイツを頼ってやれ。アイツはあれで意外と寂しがりだからな」

659 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/18(金) 12:55:51.64 ID:1L/yEOX/o

「あー、何か分かるなそれ」

「分かってンなら構ってやれよ」

「そうしたいのは山々なんだけどさあ、アイツ俺のこと嫌いみたいだからなあ」

「……オマエ、ソレ本気で言ってンのか?」

「へ? あれ、俺何か変なこと言ってるか?」

「これは重症だな……」

「?」

露骨に呆れた顔をして一方通行が呟いても、上条はきょとんとしているだけだった。
鈍感も、ここまで来ると罪だ。

「そうだ。それよりさ、確認するけどお前今日休みなんだよな?」

「それよりってオマエ……。まァ休みだけどよォ」

「それなら俺の学校に来てみないか? 見学ってことで。ほら、制服着てれば意外とばれないかもしれないぞ」

「アホか。そォいうことは俺の髪と瞳の色を見てから言え」

「大丈夫だって、うちは校則緩いから変な髪の色してる奴大勢いるし。俺は染めてないけど土御門や青ピはすごい色してただろ?」

「……、…………」

久しぶりに聞いた名前に、一方通行は僅かに反応する。
そしてかつての土御門の言葉を、思い出した。

……彼の言っていたことは、正しい。いや、紛れもない真実だ。
そして、一方通行自身もそれをきちんと理解している。
だから彼は、出来る限り今以上に多くの人間と接点を作ってはならないと思っていた。
巻き込んでしまう可能性のある人間は、少ない方が良いからだ。

それに、上条と美琴は彼とその周りの人間たちを絶対に守り切ると宣言してしまっている。
彼らの性格から考えるに、一方通行が多くの人間と知り合えば知り合うだけ彼らの守る対象=負担が増えてしまうことになるだろう。
だからこそ、それだけは避けなくてはならなかった。

「おーい、また何か変なこと考えてただろ。お前は何も考えずに好きなことやってりゃ良いんだってビリビリも言ってただろ?」

「……、…………はァ」

「何ですかーその溜め息は。上条さんたちがそんなに頼りないとでも言いたいんですか?」

「その通りだボケ。第二位に手も足も出なかった癖に」

「ぐふっ、今のは結構グサッと来たんだが……。でも、次は絶対大丈夫だって。鍛えてるし」

660 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/18(金) 12:58:02.33 ID:1L/yEOX/o

「具体的には?」

「ビリビリと命を懸けた鬼ごっこを少々」

「逃げる気満々じゃねェか!」

「いやでもだってそれが一番手っ取り早いだろ? 鳩尾蹴ってダッシュすれば一発だって」

「そして地味に鬼畜なンだが」

しかも幻想殺し(イマジンブレイカー)があるので、本当にそれが可能なのが上条の恐ろしいところだ。
この間の垣根のように拳銃みたいな武器でも持っていれば良いのだろうが、彼ならばそれさえも気合で避けてしまえそうで困る。
それくらい、上条の火事場の馬鹿力は半端ではないのだ。

「まあそれはどうでも良いんだが」

「良いのかよ」

「良いんだよ。今はそんなことより学校だろ」

「それもそォか」

学校よりも優先順位の低い第二位が、未だかつていただろうか。
一方、件の第二位は某研究所の医務室で原因不明のくしゃみをしていたのだが、そんなことなど二人は知る由もない。

「で、学校行くぞ」

「いや行かねェよ。ヤベェ今ちょっと流されかけた」

「チッ、作戦失敗か……」

「舌打ちすンな。つゥか作戦だったのかよ」

「まあ冗談はこれくらいにして」

「冗談だったのか」

「お前、これからどうするんだよ。どうせ暇なんだろ?」

「……その辺ぶらぶらする」

「やっぱりな……。それならやっぱり学校に行った方がよっぽど有意義じゃないか」

「ほっとけ。休日なンだから俺の好きなよォにしたって罰は当たらねェだろ」

「そりゃそうだけどさ。まあ、気が変わったらいつでも声掛けてくれよな」

「そンな日は永遠に来ねェから諦めンだな」

「ちぇー」

661 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/18(金) 13:02:35.13 ID:1L/yEOX/o

上条は子供みたいに拗ねて見せたが、テレビの左上に表示されている時計の時刻を見るとびくりと身体を跳ねさせた。
どうやらタイムリミットのようだ。

「やっべえのんびりし過ぎた! 遅刻する!」

「俺なンかに構ってるからこォなるンだよ」

「って、何でお前は優雅に食後のコーヒー二杯目!? てかどうやって淹れたの!?」

「細けェこたァ気にすンな」

「気にするよ!? ってああもうほんとに時間が無い! 悪い、合鍵渡すから出てく時はそれ掛けてってくれ! 今度返してくれればいいから!」

「あ、待て、俺も出る」

「良いから! つうか待ってる暇もねえじゃあな!!」

「ちょっ、おま……」

引き留める声も虚しく、上条は驚くべき速度で出て行ってしまった。
彼を引き止めようと空を切った右手が何とも物悲しい。

「……はァ」

一方通行は小さな溜め息をつくと、とりあえずテーブルの上に放置された食器を片付けて、ついでに能力で天井の穴をちょっとマシにしてから出て行こうとする。
しかし、彼はそこでとても重要なことに気が付いた。

「……合鍵、何処だ?」



―――――



朝の通りをのんびりと歩いている人影が、ひとつ。
その人影の正体たる一方通行は、やっとの思いで見つけ出した上条宅の合鍵を手の中で弄びながら人通りの少ない道を行く。
いや、この通りはもともと人通りは多い。
ただこの時間は殆どの生徒が学校に行ってしまっているので、一時的に人が少なくなってしまっているのだ。

しかしそんな中で、一方通行は前方を一人の学生が歩いていることに気が付いた。
それは見覚えのある後姿。やたらと派手な髪の色をした少年。

「あれ? キミ、確かカミやんと一緒に居た……」

「……青髪ピアス、だったか?」

「おお、やっぱりそうかいな! 久しぶりやなー」

662 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/18(金) 13:05:05.85 ID:1L/yEOX/o

真っ青な髪にピアスをした少年、青髪ピアスは人好きのする笑みを浮かべると一方通行に近付いてきた。
……尚、彼はきちんと制服を着ているし、鞄も持っている。
詳しいことは知らないが、確かこっちは上条の高校がある筈の方向だ。

よって彼が学校に向かっていることは間違いなさそうなのだが、上条が遅刻すると悲鳴を上げながら出て行ってから随分経っている。
これでは遅刻どころか、一限目の授業に間に合うかどうかさえ怪しいのだが。

「そうや、キミ名前は? 前はカミやんが一方通行って呼んでたのに合わせてたけど、あれ能力名やろ?」

「あ、あァ」

「やっぱりなー。名前はなんて言うの?」

やばい。勢いに押されてうっかり能力名であることを肯定してしまった。
自分でも『一方通行』という名前が本当に能力名なのかどうか、まだよく分かってないというのに。
しどろもどろしている一方通行を見て、青髪ピアスは怪訝そうな表情をする。
その時一方通行は、はっと先日の出来事を思い出して咄嗟に口を開いた。

「す、鈴科!」

「鈴科くんかいな? 覚えたで。ほな、改めて宜しゅうなー」

まさかこんなところであの時に考えた偽名が役に立つとは思わなかった。御坂妹に感謝しなくては。
しかし胸を撫で下ろしているのも束の間、青髪ピアスは首を傾げて更に質問を追加してきた。

「ところで、鈴科くんは学校行かへんの? こんな時間にこんなところうろうろしてたらあかんでー」

「お、オマエこそこンなところで何やってンだ? 上条はだいぶ前に走ってったぞ」

「ああ、僕はかまへんねん。ちゃんと目的があってこうしてんねや」

「目的?」

何か用事があって、それで遅刻してしまったのだろうか。
そう言えば青髪ピアスはパン屋に下宿していると聞いたことがあるから、その手伝いの所為で遅れてしまったのかもしれない。
パン屋の朝は忙しいのだ。たぶん。
……というのは一方通行の想像であって、現実は決してそんなに綺麗なものではなかったりする。

「そう! 小萌先生に叱られたくてわざと遅刻してるんや!!」

「………………」

リアクションに困って、一方通行は思わず固まってしまった。
しかしどうやらそのリアクションが普通だったらしく、青髪ピアスは彼の反応をまったく意に介さずに話を続ける。

「確かに小萌先生のあの可愛らしい瞳を涙で濡らしてしまうのは心が痛む! しかしそれ以上に! あの怒った顔!
 叱っている時は僕だけを写す瞳! そしてあの愛らしい声で罵りなじってくれるあの瞬間に僕のリビドーはげぼぉっ!?」

「よく分かンねェが、ヒト泣かすな」

663 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/18(金) 13:09:24.99 ID:1L/yEOX/o

「す、鈴科くんもやるようになったんやね……。良いチョップ持ってるやないか……」

一方通行と青髪ピアスの間にはかなりの身長差があるので頭頂部を狙った筈のチョップはそのまま青髪ピアスの顔面に直撃したわけだが、
それがクリティカルヒットしたらしい。青髪ピアスはふらふらとしながら鼻を押さえて蹲った。
流石にベクトル操作で威力増幅まではしていないが、チョップする手が痛くならないように手にだけ反射を展開させていたのでかなり痛い筈だ。

「取りあえず、オマエがとンでもねェ変態だってことはよく分かった。今更だが」

「それは違う! 僕はなあ、落下型ヒロインはもちろん義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪銀髪
 ロングヘアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテールお下げ三つ編み二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛セーラー
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 包容力をぐはぁっ!?」

「変態確定」

「鈴科くん手厳しいなあ……」

早くも二撃目を受けた顔面を擦りながら、青髪ピアスがか細い声で呻いた。
どうやら今回も相当痛かったようだ。
しかし、一方通行はもちろん反省などすることなくその様子を眺めているだけだった。

「ところで、鈴科くんは学校通ってへんの?」

「ン。事情があって通ってねェ」

「そうなんか、勿体ないなー。素晴らしい青春を過ごせるのは今だけなんやで?」

「くっだらねェ」

「くだらんことあらへんよ、学生時代の体験って大切なんやで?
 鈴科くんがどういう事情で学校に通ってへんのかは知らんけど、無為に過ごすと後で後悔する羽目になるでー」

「…………」

青髪ピアスの言葉に、一方通行は黙り込んでしまう。
正直に言うと、彼だって別に学校に通いたくない訳ではない。けれど今の状況を鑑みれば、そんなことをしている場合ではないのは明白だ。
だから、一方通行自身が何を思っていようと他の誰が何を言おうと、関係が無い。意味も無い。

「っと、すまん。余計なこと言うたかな?」

「……いや、気にすンな。それよりオマエはさっさと行け。それとも一限すっぱ抜くつもりか?」

「おわ、もうこんな時間かいな! 小萌先生と一緒に居られる時間が減ってまう! すまんかったな鈴科くん、ほなな!」

「もォ寄り道すンなよ」

664 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/18(金) 13:10:08.99 ID:1L/yEOX/o

流石にもう時間ギリギリだったらしく、慌てて駆け去ってしまった青髪ピアスを一方通行は見送った。
そしてやがて青髪ピアスの後ろ姿が完全に見えなくなってしまうと、一方通行は踵を返して帰路につこうとする。
しかし、その時。

「一方通行、とミサカは呼び掛けます」

「ン?」

突然聞こえてきた声に一方通行が振り返ると、そこには御坂美琴そっくりな容姿をした少女―――妹達が立っていた。
御坂妹では、ない。
一方通行は彼女を見て暫らく思考を巡らせてから、自信なさげにこう言った。

「……10039号か?」

「よく分かりましたね、とミサカは一方通行の記憶力に感心します」

「殆ど勘みてェなモンだがな。どォしたンだ?」

「研修中です。近々ミサカたちも『運用』されることになりますので、社会経験を積む為の訓練を行っているのです、とミサカは説明します」

「運用?」

「はい。正確な日時は決まっていないのですが、ミサカたちは学園都市の『外』で運用されることになっているのです、
 とミサカは更に補足します」

「『外』? オマエたちが?」

ミサカ10039号の言葉に、一方通行は素直に驚く。
学園都市の自治法ではもちろん、『外』の法律……と言うか国際法でも人体のクローニングは厳重に禁止されている。
にも関わらず、そのクローンの実物である彼女たちが『外』で運用されるとは。

「ああ、ご心配なさらず。
 『外』と言っても学園都市の協力機関ですので、ミサカたちの存在が公にされることは絶対にありません、とミサカは解説を続けます」

「……それでも、大丈夫なのか?」

「もちろんです。完全に信用できる機関にしかミサカたちは配置されませんし、
 万が一にも悪用されることがないようにミサカネットワークを監視する為の『上位個体』は学園都市に留まることになっていますから、
 とミサカはミサカたちの安全性を立証します」

ミサカ10039号は淡々と説明していくが、しかし一方通行はそこで首を捻った。
聞き慣れない単語があったからだ。

「上位個体?」

「おや、一方通行は上位個体をご存じありませんでしたか? とミサカは意外に思います」

665 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/18(金) 13:11:54.15 ID:1L/yEOX/o

「あァ、初耳だ」

「そんなことより」

突然、ミサカ10039号がずいっと顔を近付けてくる。
そう言えば御坂妹にも何度か同じことをされたが、これは彼女たち『妹達』特有の癖のようなものなのだろうか。

「な、なンだ?」

「ミサカは遊びたいです。一緒に何処かに行きませんか? とミサカは提案します」

「遊ぶって……。オマエ、研修はイイのかよ」

「研修とは言っても適当に外をぶらぶらして来いというだけで実際の内容については指定されていませんし、問題ないでしょう。
 それで、あなたの予定は大丈夫なのでしょうか? とミサカは再度質問します」

「あァ、今日は仕事も休みだから大丈夫だが……」

「それならば一緒にその辺りを歩くことにしましょう。何処かお勧めはありますか? とミサカは先行しつつ尋ねてみます」

「…………、……まァ良いか。付き合ってやるよ」

一方通行は諦めたように溜め息をつくと、僅かだけこちらに目配せしながら先を歩くミサカ10039号について歩いていく。
ミサカ10039号は何の感情も浮かべていない無表情だったが、一方通行の目にはほんの少しだけ楽しそうにしているように見えた。


668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/03/18(金) 13:22:09.77 ID:bhY/9kt30
ミサカシリーズが可愛くて仕方ない

678 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/21(月) 21:53:11.92 ID:phNmQ4HQo

「お嬢ちゃんたち、カップルかい? お熱いねー」

「いえ、彼とミサカはそのような関係ではありません。認識の修正をお願いします、とミサカはあくまで冷静に訂正します」

「え、そ、そうかい? それは悪かったね……」

驚くべき冷静さでアイスクリーム屋の店主をたじろがせながらも、ミサカ10039号は生まれて初めて購入したアイスクリームを受け取った。
これが御坂妹だったらもうちょっとくらい狼狽えそうなものなのだが、彼女は決してそのようなことはしない。

それが、彼女の特徴だった。
彼女は非常に冷静で、滅多に驚いたり狼狽えたり戸惑ったり恥ずかしがったり、というような感情表現をしない。
いや、妹達はもともと感情表現に乏しいのだが、彼女の場合は特にその傾向が顕著なのだ。

これが上条なら「せっかく可愛いのに勿体ない」などと歯の浮くようなセリフを言うのかもしれないが、
一方通行はこれが個性が希薄になりやすい妹達の中での彼女の個性だと思っているので、これはこれで良いのではないかと考えている。
それに、感情表現なんて周囲に強制されて行うようなものでもないのだから。

「一方通行。アイスクリームの購入に成功しました、とミサカは任務の達成を報告します」

「任務って……。まァ良いか。つゥか、本当に金は良いのか? 奢るぞ」

「いえ、自分の持っている金銭を使用してこその買い物です、とミサカは主張します。
 それに、こうした買い物はミサカにとって重要な経験になると共に立派な研修として成り立つのでこれで良いのです、とミサカは主張します」

「ふゥン……」

彼はミサカ10039号が買ってきたアイスクリームを受け取ると(こちらはきちんと一方通行がお金を出している)、彼女と一緒にベンチに座った。
アイスクリームの種類はミサカ10039号に任せてしまったので少し不安だったが、彼の好みに合わせてくれたのか彼女の選んだもののように異常に甘ったるくは無かった。
彼女に自分の好みを教えた覚えはないのだが、恐らくミサカネットワークとやらを通じて知ったのだろう、と一方通行は勝手に結論付ける。

「ふむ、これはなかなかに美味です。他の妹達にも教えなくてはなりませんね、とミサカは早速ネットワークに接続します」

「あー……。その前に、ちょっと良いか?」

「? 何でしょうか、とミサカは静かに問い返します」

「……さっきの。上位個体とやらについて説明してもらえるか?」

「ああ、そのことですか。先程は説明を省いてしまいましたからね、とミサカは先程の出来事を回想します。
 そうですね、何から話すべきでしょうか……」

呟きながら、ミサカ10039号はミサカネットワークで情報を整理しているのか遠い目をして思考に耽る。
一方通行は彼女の思考を遮らないように、黙ってミサカ10039号の言葉を待っていた。

679 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/21(月) 21:53:54.82 ID:phNmQ4HQo

「……まず上位個体とは、外部の人間がミサカネットワークに干渉する為に存在する、コンソールのような役割を持つ個体です。 
 また、『上位命令文』という妹達に対して絶対的な強制力を持つ命令をミサカネットワークに流すことの出来る個体でもあります。
 この上位命令文を流すことによってミサカたちの反乱を防ぎ、ミサカたちの意に反した行動を強制することができるのです、
 とミサカは上位個体の概要を明かします」

「それは……、逆に平気なのか?」

「それは悪用されることは無いのか、という意味の質問ですか? とミサカは曖昧な質問に対する確認作業を行います。
 でしたら、その可能性は低いのでご心配なく。
 上位個体は研究員が扱いやすいように肉体(ハード)も精神(ソフト)も未完成のまま留められていますし、
 上位命令文自体も外部の人間が流すには洗脳装置(テスタメント)を使って上位個体に直接コードを入力する必要があります。
 ですので何の知識も無い外部の者がミサカたちを悪用するのは難しいかと、とミサカは上位個体に関する解説を締めます」

「へェ……」

「ご理解頂けましたか? とミサカは気のない返事をしているあなたに問い掛けます」

正直に言うと難しい単語が多すぎて少々分かり辛かったのだが、まあ概要は大体理解できたのでそのまま流しておいた。
しかしこの説明を聞いてもまだ安全性に多少難があるような気がするのだが、本当に大丈夫なのだろうか。
実物を見たことがないから何とも言えないが、学園都市の最新技術で本当に厳重に管理されているのなら大丈夫そうだが。

「それにしても、あなたが上位個体について何も知らないというのは意外でした。
 てっきりミサカ10032号からとうに説明を受けていたものかと、とミサカは私的な感想を述べます」

「意外? どォしてだ?」

「…………、ミサカたち妹達を扱うにあたって知るべき必須事項だからです。
 あの研究所にいて誰も上位個体についてあなたに伝えなかったのを少し不思議に思いまして、とミサカは研究員の職務怠慢を疑います」

「あァ、まァ俺もまだあの研究所じゃ新人だしな。ここのところは忙しかったし、教える暇も無かったンだろ」

「これはあくまで個人的な意見ですが、何か恣意的なものを感じます、とミサカは―――」

「おっ姉っ様――っ!」

話している途中で、ミサカ10039号は唐突に背後から何者かに抱き着かれた。
同時に思いきり前方に押し出されてしまった為、彼女が手にしていたアイスクリームはべしゃりと派手な音を立てて地面に叩き付けられる。
ミサカ10039号は地面の染みと化してしまったアイスクリームを無感情な瞳で見つめていた。

「……アイスクリームが落ちてしまいました、とミサカはあくまで冷静に状況を報告します」

「こっ、これは申し訳ありませんお姉様! 後ろからではアイスクリームを持っているのが見えなかったもので……」

「……アイスクリームが落ちてしまいました、とミサカはあくまで冷静に状況を報告します」

「落ち着け」

見た目には完全無欠に無表情だが、どうやら相当ショックだったらしい。
隣でわたわたしている謎の少女と合わせて、何だかとてもシュールな光景だった。

680 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/21(月) 21:54:49.19 ID:phNmQ4HQo

「いいいいい今すぐ同じものを買って参りますわ! 少々お待ちくださいませ!」

「あ、オイ待てオマエ……」

しかし一方通行が引き止める間もなく、謎の少女は長いツインテールを靡かせてアイスクリーム屋へと消えて行ってしまった。
そしてその場に残されてしまった一方通行は、押された時の体勢のまま固まってしまっているミサカ10039号を見やった。

「オイ、大丈夫か?」

「……何も問題はありません。たかだかアイスクリームが地面に落ちただけです、とミサカは無理やり自分を納得させようとします」

「語尾に本音が出てンじゃねェか。……ホラ、ツインテールが買い直してくるっつってたから元気出せ」

「はい……。ですが、先程の彼女は一体何者だったのでしょうか、とミサカは我に返って疑問を呈します」

「なンだ、オマエの知り合いじゃねェのか」

ミサカ10039号の言葉に、一方通行は驚いたような声を出す。
彼女はそれに対して頷いたが、やはり視線は地面に落ちたアイスクリームに固定されたままだった。

「はい。ミサカは殆ど研究所から出たことがありませんでしたから、学生の知り合いと言えば布束砥信とあなたくらいしか居ません、
 とミサカは自らの交友関係について暴露します」

「……じゃあ、アイツは……」

「ええ。恐らくミサカのことをお姉様(オリジナル)と勘違いしているのでしょう、とミサカは推測します」

地面に落ちていたアイスクリームが、掃除ロボットによって綺麗さっぱり掃除されてしまう。
ミサカ10039号はアイスクリームを吸い込んでいった掃除ロボットを名残惜しげに眺めていたが、すぐに諦めたように視線を逸らした。

「それにしても困りました、とミサカは頭を抱えます」

「どォしてだ? いつかの御坂妹みてェに妹のフリすればイイじゃねェか」

「それが、そうもいかないのです。彼女は見たところ常盤台中学の生徒ですし、ミサカたちよりもお姉様と近しい関係のはず。
 お姉様の家族構成が把握されている可能性がありますので、妹のフリをするのはかえって危険です、とミサカは問題点を提示します」

「なるほどなァ……」

しかも先程の少女のあの行動を見ると、彼女と御坂美琴の関係は浅からぬものであるようだ。
あの様子なら、彼女が美琴の家族構成を知っている可能性もある。
そしてそれ以上に、少しでも疑問を持たれて学校側に家族構成を問い合わせられてしまったら一巻の終わりだった。
流石にクローンだということまではばれたりしないだろうが、美琴が不信感を持たれるようになることには変わりがない。

「どうしましょう? とミサカは一方通行に意見を求めます」

「どォするってオマエ……。そりゃ、御坂本人のフリをするしかねェンじゃねェのか?」

「やはりそれが最善でしょうか、とミサカは思案します」

681 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/21(月) 21:55:33.29 ID:phNmQ4HQo

「自信がねェのか?」

「まあ、演技などしたことがありませんから、とミサカは遠回しに肯定します」

「……出来るだけフォローはしてやるから、まァやるだけやってみろ」

「ありがとうございます、一方通行。……おや、さっそく帰って来たようです、とミサカは報告します」

言いながら、ミサカ10039号は装着していた電子ゴーグルを外して一方通行に押し付けた。
どうやら完璧に美琴を演じるつもりのようだ。
実際、電子ゴーグルを外されてしまうと見た目だけでは美琴とまったく変わらない。クローンなのだから当然だが。

「お姉様! 同じものを買って参りました!」

「うん、ありがと。ごめんねー、私もちょっとぼーっとしててさ」

「いえいえ、お姉様が謝る必要など何処にもありませんわ!」

……意外と上手い。一方通行は素直に感心した。
もしかしたら洗脳装置で演技の仕方も強制入力されているのかもしれない、と思ってしまうくらいだった。
そんなミサカ10039号の意外な特技に一方通行が呆然としていると、彼女にアイスクリームを手渡した少女がぐりんとこちらに向き直る。
どう贔屓目に見ても、好意的とは思い難い目つきだった。

「ところでお姉様。こちらの方はどなたですの?」

「ん? ああ、友達よ友達。それがどうかしたの?」

「……どォも」

こういう場面で露骨な悪意を向けられたことのない一方通行は一瞬驚いたが、すぐにいつもの調子を取り戻して返事をする。
しかし、それでも少女の目つきは変わらない。じとっとした目で一方通行を睨み続けている。

「な、何? どうかしたの?」

「……いえ。先日の類人え……、上条さんと言い、お姉様には『学舎の園』の外にご友人が多いのですわね」

「そ、そうかなあ? そんなことないと思うけど……」

慌てて取り繕いながら、ミサカ10039号はちらりと一方通行に目配せする。
それに気付いた一方通行は、少女に気付かれないようにそっとミサカ10039号に触れて能力を発動させる。
生体電気と脳波を操作することによって、彼女と自分の間に回線を作り出すのだ。

(どうやら彼女は特にお姉様と親しい間柄の人間なようです、とミサカは苦い顔をします)

(みてェだな。つゥか思い出した。コイツは多分白井黒子っつゥ御坂のルームメイトだ。特徴と言動が一致してる)

(ルームメイト……、ですか。これはなかなか厄介ですね、とミサカは苦言を呈します。他に何か彼女についての情報はありますか?)

(御坂にベタ惚れ……、いや、これはもはや崇拝の域だな。とにかく御坂に執着してて、露払いを自称してる空間移動能力者だ。
 それから御坂に学舎の園の外の人間が近づくのを嫌ってる節があンな。ゲーセンに行くのも嫌がられるっつってたか……?)

682 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/21(月) 21:56:19.51 ID:phNmQ4HQo

(つまりお姉様のお目付け役と言うことですか、とミサカは情報を纏めます。それであなたに敵意を?)

(恐らくな。まァ常盤台はお嬢様学校だったから、気持ちは分からないでもねェンだが)

(と言うか上条当麻とも面識があるようですね、とミサカは思い返します。こちらはどうするべきでしょう?)

(ほっとけ。類人猿とか言いかけてたし、どォせまたなンか気に障るよォなことをコイツにしたンだろ。
 そォじゃなきゃここまで敵意丸出しになンねェよ)

(では上条当麻には触れない方針で? とミサカは尋ねます)

(それがイイだろォな。思い出させればそれだけ機嫌を損ねるだけだ)

(了解しました、とミサカは一方通行の言葉に従います)

「……先程から、何を黙りこくってらっしゃいますの?」

「う、ううん、何でもないわ。そんなことより、アンタはどうしてこんなところにいるのよ?」

流石に長く会話をし過ぎてしまったようだ。少女、白井が怪訝そうな顔でミサカ10039号の顔を覗き込んでいた。
これ以上余計なことを悟られないように一方通行はそっとミサカ10039号から手を放すと、回線を切って能力を解除する。
これで秘密裏に意思疎通を行うことはできなくなってしまったが、まあここらが潮時だろう。

「何って、風紀委員のパトロールですわ。お姉様にお教えしませんでしたか?」

「あ、ああパトロールね。すっかり忘れてたわ」

よく見てみれば、白井の腕には風紀委員の腕章が装着されていた。
どうやら風紀委員に所属しているようだ。
ミサカ10039号が非難するように目配せしてきたが、これは一方通行も知らない情報だったので仕方がない。
いや、美琴に風紀委員の友人が居ることは知っていたのだが、それがまさか目の前にいるこの少女だとは思わなかったのだ。

「それより、それはこっちの台詞ですわ! どうしてお姉様はこんなところに?」

「どうしてって、私がここにいちゃ悪いの? ちょっと友達と駄弁りながらアイス食べてただけじゃない」

「わ、悪いということはありませんが……」

強気に出るのは一種の賭けだったが、どうやら正解だったようだ。
白井は不機嫌そうなミサカ10039号の言葉に口籠もり、勢いを失ってしまう。……少し可哀想かもしれないが。

「そんなことよりアンタたち、自己紹介しなさいよ。お互いに初対面でしょ?」

「こ、これは失礼しました。申し遅れました、わたくしは白井黒子と申します。お姉様の露払いを務めさせて頂いております」

「俺は一方……、鈴科だ。……よろしく」

「以後お見知りおきを、鈴科さん」

683 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/21(月) 21:57:28.86 ID:phNmQ4HQo

白井はお嬢様らしい可憐なお辞儀をすると、にこりと綺麗な作り笑いをした。
……そう、作り笑いだ。
いったい何をすればここまで『外の人間』に対する印象を悪くできるのか。上条の行動は、本当にまったく厄介ったらない。
一方通行はそんな彼女の笑顔を見てほんの少しだけ目を細めると、ちらりとミサカ10039号を見やった。

「そんなことより……、黒子。こんなところで油売ってて良いの? パトロールなんでしょ?」

「黒子にはお姉様よりも重要なことなんてありませんわ!」

「馬鹿なこと言ってないで、さっさと仕事に戻りなさい。最近はテロリストも多いんだから大変でしょ?」

「むう、お姉様がそう言うのでしたら仕方ありませんわね……。お姉様も早めにお帰りになって下さいませ」

「分かってるってば。じゃ、風紀委員のお仕事頑張ってね」

「ううっ、黒子はお姉様のその一言だけで三徹はできますわ……!」

白井は滲む涙を懐から取り出したハンカチで拭うと、ミサカ10039号に向かって深々と頭を下げてから立ち去ろうとする。
しかし彼女はその直前で振り返ると、じろりと一方通行を睨みつけながらこう言い放った。

「お姉様は渡しませんわ!」

その台詞にぽかんとしている一方通行をよそに、白井はべーっと舌を出すと一瞬でその場から姿を消した。空間移動(テレポート)だ。
残された一方通行とミサカ10039号は暫らく茫然としていたが、やがて我に返ると緩慢な動作でそれぞれ顔を見合わせた。

「……上条は一体何をしたンだ?」

「さあ、とミサカは曖昧に言葉を濁すことしかできません」

……アイスが、溶けかけていた。



―――――



結局、一方通行は一日中ミサカ10039号に付き合わされてしまった。
その所為で一方通行はへとへとに疲れ果ててしまったが、いつもは無表情なミサカ10039号が心なし楽しそうにしているのを見てまあいいかと思い直す。
ミサカ10039号は自分のお金で購入したひよこのぬいぐるみを抱き締めながら、一方通行の前を歩いていた。

「今日はありがとうございました、とミサカは感謝の言葉を口にします」

「ン。気が向いたらまた付き合ってやるよ」

「本当ですか? とミサカは確認を取ります。
 ですが次にこのミサカに外出許可が出るのはだいぶ先なので、できれば別のミサカに付き合ってあげて下さい、とミサカは希望します」

「他の妹達にか? 俺なンかが付いて行っても面白くもなンともねェぞ」

684 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/21(月) 21:58:52.37 ID:phNmQ4HQo

「そんなことはありません。気が向いたらで構いませんから、どうか他のミサカにも構ってあげて下さい、とミサカは再度お願いします」

「……まァ、本人がそォして欲しいってンならその時に考えてやるよ」

「ありがとうございます。きっと彼女たちも喜ぶはずです、とミサカは一方通行に感謝します」

すると、ミサカ10039号は一方通行に向かってぺこりと頭を下げた。
それを見て何を思ったのか、一方通行は難しい顔をして軽く頭を掻く。

「ったく、分っかンねェなァ……」

「そうですか。ですが、あなたもいい加減こういった感情の機微を理解した方が良いですよ? とミサカは今更ながら助言します」

「……感情の機微、ねェ」

ミサカ10039号の言葉を反芻しながら、一方通行は苦い顔をする。
別にそういったものをまったく理解できない訳ではないのだが、一方通行はとりわけ妹達のことに関しては理解しがたいと思っていた。
ミサカネットワークで御坂妹と記憶を共有しているとは言え、どうしてそこまで自分に執着しているのか。

条件は、上条や美琴と同じだ。
いや、むしろ美琴は妹達のオリジナルで『お姉様』として慕われているのだから、一方通行よりも彼女に執着して然るべきだ。
しかし彼女たちは、ただ手近なところにいると言うだけの理由でひたすら一方通行にだけ構って貰いたがる。
美琴や上条も御坂妹以外に何人かのクローンがいることは知っているのだから、気兼ねなく会いに行くことは出来るはずなのに。
……誰にとは言わないが、気を遣っているのだろうか?

「ともあれ、今日はとても楽しかったです、とミサカは研修に対する感想を述べます」

「そりゃァ良かった」

「はい。本当に良かったです、とミサカは……」

いつもの口癖を途中で止めて、ミサカ10039号はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて俯いた。
……こういう時に掛ける言葉を、一方通行は持っていない。
だから彼は何も言わず、黙ったままのミサカ10039号を見守っていた。

「……あ。研究所に到着してしまいました、とミサカは状況を報告します」

「あァ、そォだな」

「これでミサカの研修も終了ですね、とミサカは名残惜しく思います」

「……そォか」

一方通行とミサカ10039号では、向かうべき棟が違う。
だから二人は、ここで別れなければならなかった。
……別に、ここで別れたからってもう二度と会えなくなるわけではない。明日の仕事で、また顔を合わせることになるだろう。
けれど彼女の研修は、ここで彼と別れてしまった時点で本当に終わりになってしまうのだ。

「それでは一方通行。また明日、とミサカは別れの挨拶をします」

「……あァ。また明日、な」

「はい。さようなら」

ミサカ10039号はそれだけ言うと、駆け足で自分の向かうべき棟へと帰って行った。
まるで、何かを振り切ろうとしているかのように。
一方通行はそんな彼女の後姿を見送りながら、何も言うことができなかった。
……何かを、言うべきだったのではないかと考えながら。


687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)[sage]:2011/03/21(月) 22:30:19.08 ID:NsXgTstVo
最後がなんか切ないぜ・・・

688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)[sage]:2011/03/22(火) 00:52:26.94 ID:OhD8bQjG0
さよなライオnいやなんでもない

691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/23(水) 02:59:07.49 ID:a5+gUCNi0
な、なんだよ…なんか嫌なフラグじゃないよね…?(´・ω・`)

696 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/24(木) 23:06:42.29 ID:bmJudz08o

ピピピピピピピ。

埋め込み式時計のアラーム音で、一方通行は目を覚ました。
彼は暫らくアラームの音を無視してぼーっとしていたが、時間が結構ギリギリなことに気付いてアラームを停止させ、起床の準備に入る。
白衣に着替えながら、彼は大人しくなった時計をちらりと見やった。

……七月、十六日。

確か今日は身体検査(システムスキャン)の日だったか、なんて取り留めのないことを考えながら、一方通行は眼鏡を掛ける。
そして準備の最終確認をしていると、不意に部屋の扉がノックされた。

「なンだ?」

「あの、ミサカ19090号です、とミサカは自らの検体番号(シリアルナンバー)を報告します。少し遅れているようでしたので、様子を見に……」

「あァ、オマエか。わざわざ悪かったな。今行く」

「い、いえ、ゆっくりで構いません、とミサカは慌てて付け足します。それではこちらで待たせて頂きますね」

しかしミサカ19090号が言い終わるよりも早く、一方通行は部屋の扉を開く。
それが予想外だったのか、扉の横に立っていたらしい彼女は驚いてびくりと身体を跳ねさせた。

「……驚きすぎだろ」

「も、申し訳ありません、とミサカは謝罪します。それでは研究室にご案内します」

「ン? いつもの場所じゃねェのか?」

「はい。少々問題が発生しまして、第六研究室に変更になりました。確か、あなたはまだ第六研究室に行ったことがありませんでしたよね?
 そこで、このミサカが案内役を申し付けられた訳です、とミサカはここに至るまでの経緯を説明します」

ミサカ19090号の言葉に気のない返事をしながら、一方通行は先行する彼女の後について歩きはじめる。
すると彼は唐突に何かを思い出したような顔をして、前を歩くミサカ19090号に声を掛けた。

「そォいえば最近御坂妹……、ミサカ10032号を見かけねェンだが、オマエなンか知ってるか?」

「ミサカ10032号、ですか? 彼女は確か現在任務遂行中だったと思われます、とミサカは報告します。そろそろ帰って来るはずですけど」

「任務?」

「はい。ただ、任務と言うよりは彼女個人の知り合いからの頼み事、と言った方が正しいでしょうか、とミサカは訂正します。
 どちらにしろ危険なことではないので心配することはありませんよ? とミサカはすかさず補足します」

一方通行も御坂妹の強さは重々承知しているので、別にその身を心配しているわけではないのだが。
しかし、最後に会ったのがあのゲームセンターの時だったので、少し気に掛かっているのだ。
あの時の御坂妹の様子は、少しおかしかった。
御坂妹がいったい何を思って行動しているのかは知らないが、彼女も彼女でなかなかに事件に巻き込まれやすいタチだし、
何かおかしなことに巻き込まれていないと良いのだが……。

697 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/24(木) 23:07:22.72 ID:bmJudz08o

「何か気になることでも? とミサカは尋ねてみます」

「…………、……いや。何でもねェよ。変なこと訊いて悪かったな」

「そんなことはありません。これからも何か尋ねたいことがあれば何なりと、とミサカは自らの有用性をアピールします」

「ハイハイ。頼りにしてますよォ」

「む。ミサカのことを馬鹿にしていませんか? とミサカは疑いの眼差しを向けます」

「気のせいだろ」

それでもミサカ19090号は納得いかないというような顔をしていたが、一方通行は無視して歩き続ける。
そしてやがて目的地に辿り着いた二人は、ノックをしてから第六研究室へと足を踏み入れていった。



―――――



ぱかり、と携帯電話を開く。
死に体で教室の机に突っ伏していた上条は、それが一方通行からのメールであるということに気付いて顔を上げた。
そのメールの内容は、仕事が終了したので誘いに付き合ってやっても良い、という旨のもの。
上条はそれに適当な返信をすると、再び机に突っ伏した。

……どうして彼がこんなにもぐったりしているのかと言うと、テストの結果が散々だったからだ。
いやまだ結果は帰ってきていないのだが、結果を見なくても分かるくらい酷かったのだ。
ちなみに身体検査の方は、当然のごとく無能力(レベル0)だった。こちらはもはや決定事項と言うか予定調和なので今更気にしない、が。

(うう、これじゃわざわざ勉強を教えてくれた一方通行やビリビリに申し訳が立たねえ……)

特に一晩中付きっきりで彼の面倒を見てくれた一方通行には申し訳なくて仕方がない。
一体、どうして自分はこんなに頭が悪いのだろうか。
一方通行や美琴の優秀さをほんの少しで良いから分けて頂きたい。
て言うか神様俺のこと嫌いすぎだろ常識的に考えて……。

(ちくしょー……)

しかし、悪態を吐いたところでテストの結果が良くなるわけではない。実に腹立たしいが。
そんなこんなでうだうだしていると、横合いから突然土御門が声を掛けてきた。

「どうしたんだにゃーカミやん? 浮かない顔して」

「どうしたもこうしたもねーよ……。テストが……テストがな……」

「そんなん今に始まったことじゃないぜい」

「うう、まあその通りなんだけどな……」

698 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/24(木) 23:08:09.22 ID:bmJudz08o

反論できずに、上条はさらに項垂れた。
これは流石に重症だと思ったらしい土御門は、苦笑いしながら話題の転換を図る。

「そんなことより、例のオトモダチはどうなってるのかにゃー?」

「友達って……、ああ、一方通行のことか? 別に普通だよ、普通。この後も一緒にメシ食いに行く予定だし」

「あ、そういえばこないだその鈴科くんに会ったでー」

すると、そこで青髪ピアスが会話に唐突に割り込んできた。
しかしそれ以上に、上条は彼の言葉に驚いて振り返る。

「会った? アイツに? って、鈴科?」

「そうそう、本名鈴科くん言うんやろ? 一方通行って能力名で呼ぶのはなんかちょっとそっけない気がしてなー」

「あ、う、そ、それもそうだな! あはは……」

まさか、自分から早速あの偽名を使っているとは。
まあ確かに一方通行という名前は明らかに能力名っぽいし、気まぐれに普通の名前らしい名前を名乗ってみたくなったのかもしれない。
それにこれからのことを考えればそちらの方が好都合だしな、と上条は先日の美琴との会話を想起しながら思った。

「そんなことより、お前何処でアイツに会ったんだよ? 何してたんだ?」

「こないだ、学校に行く途中でちょっとなー。それにしても、あの子は良いツッコミになるでえ!」

「いやホントに何してんだよお前……」

「そんなことよりカミやん、時間は良いのかにゃー? さっきメシ食いに行くとか言ってたけど」

「うおっ、そうだった! もう出ねえと!」

土御門に指摘されて現在時刻に気が付いた上条は、項垂れている場合ではないことに気が付いて大慌てで帰宅の準備を始めた。
そして驚くべき速度で鞄に荷物を詰め込み終わった上条は、土御門たちに向き直ってしゅびっと手のひらを立てる挨拶をする。

「それじゃ、俺先に帰るな! また明日!」

それだけ言うと、上条はばびゅんという効果音でも付きそうなくらいの速度で教室を出て行った。
土御門と青髪ピアスはそんな上条を見送りながら、けらけらと笑い合う。

「ほんま、カミやんはいつも元気やなー。羨ましいわ」

「まったくだぜい。ま、それもいつまで続くかにゃー?」

「?」

「何でもないぜい」

意味の分からない土御門の発言の青髪ピアスは首を傾げていたが、土御門はそれ以上何も言わなかった。
言う意味も無かった。



―――――

699 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/24(木) 23:08:55.35 ID:bmJudz08o


「ふいー、ようやく任務が終了しました……、とミサカは久しぶりの休息に身を預けます」

「お疲れ様、ミサカ10032号」

ミサカ10032号こと御坂妹は芳川に差し出されたコップを受け取ると、まるで瓶の牛乳を飲んでいるかのようにぐいっと一気に飲み干そうとする。
途端、御坂妹は咽そうになったのか一瞬苦しそうな表情をしたが、何とか耐えてココアをすべて飲み込んだ。

「あらあら。熱いからそんなに一気飲みしたら火傷しちゃうわよ?」

「ごふっ、そういうことはもっと早くに言って欲しかったです、とミサカはひりひりする口を抑えます……」

「ごめんなさい。まさかそんなに喉が渇いているとは思わなくて。冷たい方が良かったかしら?」

「今度からはそうして頂けるとありがたいです。
 研究所内は冷房が効いていて寒いくらいですが、外はかなり暑くなってきているので、とミサカは外の気温状況を報告します」

繰り返すが、本日は七月十六日。
よって外はどんどん暑くなってきているのだが、ずっと冷房の効きすぎた研究所の中にいる芳川にはそれが感じられていないようだ。
実際、芳川は彼女の言葉を聞いてきょとんとした顔をした。

「ああ、そう言えばそうだったわね。そろそろ夏休みの時期かしら。羨ましいわ」

「……お姉様と上条当麻の学校は、ちょうど七月二十日から夏休みが始まるようですね、とミサカは想起します」

「あら、本当にもうすぐなのね。あの子にも夏休みあげた方が良いかしら」

「彼の場合、仕事が無くなってしまう方が困るのでは? とミサカは一般論を述べてみます」

「ふふ、冗談よ。あ、だけどあなたにはご褒美として数日の自由時間が与えられているわ」

「……自由時間、ですか? とミサカは鸚鵡返しにします」

「ええ。自室でごろごろしても構わないし、街に出て遊びに行っても良いそうよ? 良かったわね」

「………………」

せっかく貴重な休日が与えられたというのに、御坂妹の表情は浮かない。
どうしたのかと思って芳川が首を傾げていると、不意に御坂妹が口を開いた。

「、あの。ミサカに休日は必要ないので、他のミサカたちに自由時間を与えては頂けないでしょうか、とミサカは申し出ます」

「…………。悪いけど、それはできないわ。
 他の妹達はあなたほど外の環境に慣れていないし、調整も完璧ではない。あなた以外では、万一のことがあっても対応しきれないもの」

「そう、ですか……。とミサカは落胆します」

700 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/24(木) 23:09:52.23 ID:bmJudz08o

「ごめんなさいね。何とかできれば良いんだけど、上からの要請で妹達に実験投入用の調整を施さなければならないことになっているから。
 ……あなたも、小まめな調整が必要でしょう?
 今のところ、実験用の調整をした上で外の環境に長時間耐えうるだけの調整を施されているのはあなただけなのよ」

「いえ、お気になさらず。事情は分かっていますから、とミサカは理解を示します」

「……せめて、ネットワークに接続したまま遊びに行ってあげなさい。記憶を共有すれば、他の子たちも楽しめるはずよ」

「もちろんです。それでは失礼させて頂きます、とミサカは席を立ちます」

「ええ、いってらっしゃい。……そうそう、あの子は今例の上条君に会いに第七学区に行ってるから、もしかしたら会うかもね」

「……了解しました。お気遣いありがとうございます、とミサカは情報提供に感謝します」

御坂妹は最後に深々とお辞儀をすると、そのまま部屋を出て行った。
芳川はそんな彼女の後姿を眺めながら、空っぽの部屋の中、一人寂しくこう零す。

「……ごめんね」



―――――



遠くの方で、見覚えのあるツンツン頭が手を振りながら駆けてきている。
一方通行はその人影に向かって手を振り返すと、ちらりと時計塔を見やってから腕を組んで電灯のポールに寄り掛かった。

「わ、悪い! 今何時だ!?」

「待ち合わせ時間25秒前。ギリッギリ」

「せ、セーフ……」

ギリギリもギリギリで待ち合わせに間に合った上条は、安堵から大きなため息を吐いた。
学校からここまでずっと走って来たのか、かなり激しく息切れしている。

「つゥか、テストどうだったンだ?」

一方通行がそう尋ねた途端、肩で息をしていた上条が突然硬直する。
彼はそれだけでなんとなく答えを悟ったが、顔を上げて凄まじい遠い目をした上条を見て何かもう色々諦めた。

「燃え尽きた……、真っ白にな……」

「まァ大体想像どォりだな。あと元ネタを良く知りもしねェ癖に真似すンな」

「どうもすみません……。あんなに勉強見て貰ったのに」

701 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/24(木) 23:12:00.39 ID:bmJudz08o

「それは別にどォでもイイ。でも平均60点以上は取れよ」

「それは無理!」

恐ろしい発言に上条が悲鳴を上げると、一方通行がけたけたと笑う。
それを見ながら、上条は申し訳ないんだか恨めしいんだかといった微妙な気分になっていた。

「つっても、これでもかなりボーダー低く設定してンだぞ?」

「それでも無理なものは無理なんですーお前らと一緒にしないで下さいー」

「拗ねンな」

「どうせ俺なんて……」

ちょっと弄り過ぎたようだ。上条はがっくりと項垂れると、魂が抜けてしまいそうなくらい盛大な溜め息をつく。
流石に可哀想だと思ったらしい一方通行は、そんな上条の肩をぽんぽんと叩きながら慰めてやる。

「所詮、テストなンかただの目安だ。昼メシ奢ってやるから元気出せ」

「本当か!?」

「……オマエ、本当に現金な」

突然元気になってガバッと顔を上げた上条を見て、一方通行は呆れた顔をした。
しかし上条はそんなことなど全く気に留めず、嬉しそうに瞳を輝かせている。先程までの憂鬱っぷりは一体何処に行ってしまったのか。

「ただし、あンまり高いのはナシな」

「分かってるよ。あー良かった、今月苦しかったんだよなー」

「先月も同じこと言ってなかったか? 今度は何したンだよ」

「いや、色々あって特売やタイムセールに行き損ねてですね……」

「あァ……」

少し前までは美琴に追い掛け回されていた所為で、最近は補習や勉強、そして度重なる不幸の所為で……、と言った具合に、
上条の節約しようという努力はことごとく踏み躙られているのだ。
そうした事情を知っている一方通行は、上条を可哀想なものを見る目で見ていた。

「と、とにかく! もうすぐ世間でも昼飯時だし、外食するなら店が混む前に行こうぜ」

「それもそォだな。何処が良い?」

「んー、そうだな……。その辺のファーストフード店とかで良いんじゃないか? 安いし」

「身体には悪そォだけどな……」

702 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/24(木) 23:13:51.83 ID:bmJudz08o

「あれ、お前そういうのあんまり気にしない方じゃなかったっけ?」

「御坂妹達の調整なンかをやってると栄養管理もやることがあるからな。なンとなく目に付くよォになったっつゥか」

「ふーん。まあこれを機に自炊なんかしてみると良いんじゃないか? 安上がりだし結構ハマるぞー」

「つっても研究所には食堂付いてっからなァ……。まァ考えとく」

話しながら、二人は第七学区の大通りを適当にふらふらと歩いていた。
別に空腹で死にそうという訳でもないし慌てて店を探すことも無いだろうということで、どちらかと言うと暇潰し優先なのだ。

「あ。そう言えばこの間ちょっとビリビリと話し合ったんだけどさ、今度からお前のこと鈴科って呼ぶことにしたんだ」

「はァ? そりゃまた何で」

「ほら、一方通行って名前は『奴ら』も知ってる名前だからさ。
 普段からその名前で呼びまくってたら奴らの目に付きやすくなっちまうんじゃないかと思って」

「そォか? 結構今更だと思うが」

「まあそれはそうなんだけど、念には念をってことだろ? 奴らに見つからないに越したことはないんだし」

確かに上条の言う通りだ。それに、青髪ピアスも言っていた通り一方通行という名称は名前としても多少不自然だし若干呼びにくい。
今まではそこまで気にしたことはなかったが、特に抵抗がある訳でもなかったので一方通行は快く承諾した。

「そうだ、ビリビリと言えば今日はアイツどうしたんだ? 確か誘ったって言ってなかったっけ」

「あァ、アイツは連絡付かなかった。まァ今日身体検査だしなァ」

「なるほど。やっぱ超能力者(レベル5)ともなると測定に時間が掛かるのかね」

「プールの水を緩衝剤にしても加減しないとヤベェっつってたからな。新しい測定方法でも試してンじゃねェの?」

「でも、学園都市はそういうとこ不精な気もするけどな……」

と、その時。
ドォン、というとんでもない爆音が轟いたと思ったら、遠くの方で乗用車が回転しながら空を飛んでいるのが見えた。
しかもその直前に、見覚えのある光が迸った気がした……、の、だが。

「……アレが新しい測定方法か?」

「いや、それは流石に無いと思う」


703 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/03/24(木) 23:14:56.28 ID:bmJudz08o
投下終了。お疲れ様でした。
次回は恐らく三日後に。

ちょろっと超電磁砲の内容に触れますが、そんなにがっつりやらない予定なのであまり期待しないで下さいね……。

706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/25(金) 00:17:19.08 ID:njldHMbio
まさかの第一話かwwwwww
二人の感想がシュール過ぎるわww

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上条「だからお前のことも、絶対に助けに行くよ」一方「……」3

413 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/03(木) 00:18:42.03 ID:JQC41bBwo

地に伏している垣根は、前代未聞の混乱状態に見舞われていた。
まったく意味が分からない。
自動防御は問題なく展開させていたし、それ以前に背中の側には翼がある。それを突き抜けて攻撃してくるなんて、有り得ない。

有り得ない、筈だ。
なのに、その有り得ないはずのことが起こってしまった。
なんだこれは。
なんだこれは!

「ご、ぁ……」

殴られた顔面を抑えながら、垣根はふらふらと立ち上がる。
鼻から血が流れていた。
もしかしたら、折れているかもしれない。
こんな激痛を味わわされるのは、本当に久しぶりだ。最後にこんな風に殴られたのは、一体いつのことだっただろうか?

「テ、メェ。何を……」

「テメェこそ何なんだよ! 第二位だか何だか知らねえが、こんな下らねえことしやがって! 何が目的だ!」

上条が怒りに任せて叩き付けてきた言葉に、垣根の眉がぴくりと動く。
だが、それだけだった。
それだけで垣根は余裕を表す為の笑みを取り繕うと、まるで何事もなかったかのように鼻から流れてくる血を拭う。

「……ハッ、テメェらなんかに教えてやる義理なんかねえ。それより、覚悟はできてるんだろうな?」

「うっせえ! それはこっちの台詞だ!」

「大口叩きやがって。本気でテメェ如きにそんなことができると思ってんのか?」

「そんなん知るか。ただ、俺はお前をブッ飛ばして二人を連れて帰る。それだけだ」

「……馬鹿が。調子に乗るなよ、無能力者」

凄む垣根に、しかし上条は怯まない。
それどころか彼は右手を握って拳を作ると、垣根に向かって走り出し、その拳を振りかぶった。



一方、美琴は垣根を上条に任せて壁際に蹲っている一方通行に駆け寄った。
誰かが駆け寄ってきた気配に感づいた一方通行は、緩慢な動作で顔を上げる。
ほんの少しの間だけだが、戦いの場から引き離され休息を得られたことで、少しずつ意識がはっきりしてきた。
けれど彼は、目の前にいる美琴と垣根と戦っている上条を見ても、今更驚いたりしなかった。いや、諦めた、と言った方が正しいだろう。

美琴はポケットからハンカチを取り出すと、怪我をしている一方通行の足にそれを押し当てて少しでも出血を抑えようとする。
けれど、こんなのはただの気休めだ。
だが、彼女はそれでも何かをしてやらなければ気が済まなかった。

「……オイ」

「動かないでよ。出血が酷くなったらどうするの」

414 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/03(木) 00:21:20.50 ID:JQC41bBwo

「馬鹿か、オマエら。あンなのに挑むなンて、どォかしてるンじゃねェのか」

「アンタにだけは言われたくない」

ちらりと美琴の表情を窺い見れば、少し怒っているようだった。
それでも呆れが隠し切れずに、一方通行は盛大に溜め息をつく。
そんな一方通行を見て美琴は少しむっとした顔をしたが、突然彼が動き出そうとしたので慌ててそれを抑え込んだ。

「ちょ、ちょっと! じっとしてなさいって言ってるでしょ!?」

「いや、もォ大丈夫だ。足、放して良いぞ」

「はあ!? だって血がこんなに……」

しかし、美琴はそこで絶句した。
先程まではあんなに酷く出血していたのに、もうその血が止まりかけているのだ。
しかもよくよく見てみれば、一方通行の足首を押さえていたハンカチもそれほど汚れていなかった。

「な、何で……?」

「どォも、そォいう能力らしい。やっと分かった。『方向を操る能力』か。……どォりで分かりにくい筈だ、漠然とし過ぎてンだろ」

「方向を……? でも、それでどうやって血を止めたの?」

「千切れた血管と血管を繋ぐように血流を操作してンだ。あとは、あンまりやらない方が良いンだが、生体電気を操って傷の回復も促してる。
 ……だから、もォ大丈夫だ」

それだけ言うと、一方通行は美琴から離れて壁に体重を預けた。
まだ自力で自分の身体を支えることができる程には治癒していないようだが、それでもあれだけ消耗していたのだから、その回復力は相当だ。

「どォせ、逃げろって言っても聞かねェンだろ。……上条の加勢に行ってやれ。アイツには右手があるが、それでもアレの相手はキツい」

「わ、分かったわ。アンタは動けるようになったらすぐに病院に行くのよ? ここは私たちに任せてくれて良いから」

しかし、一方通行は何も答えない。
そんな彼を心配してか、美琴は何度も背後を振り返りながら、それでも上条たちが戦っている場所へと走って行った。



―――――

415 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/03(木) 00:23:22.99 ID:JQC41bBwo



一方、上条と垣根の戦いは膠着していた。
最初の一撃以来、上条は一発も垣根に入れられていないのだ。
とは言え垣根も似たようなもので、小さな傷くらいならいくつか付けることができるものの、未だ決定打を与えることができずにいる。
得体の知れない上条の強さに、流石の垣根にも少しずつ焦りが見え始めていた。

(ックソ、妙な手品使いやがって。どういうことだ!?)

どんな手段を使って攻撃しても、そのことごとくが何故か防がれてしまう。
AIMジャマーとも滝壺の能力『能力追跡』とも違う方法で、能力の行使が阻害されているのだ。

だが、別に能力の発動自体を妨害されているわけではない。
むしろ、能力そのものは何の問題も無く発動している。
にも関わらず、上条に攻撃を加えようとした途端、突然発現した能力が消滅してしまうのだ。
まるでガラスを叩き割るようにして、翼も杭もバラバラに砕け散ってしまう。
……どういう理屈でそうなっているのか、さっぱり分からない。分からない、が、垣根にはひとつだけその正体に心当たりがあった。

「……まさか、幻想殺し(イマジンブレイカー)か?」

「!」

その言葉に、上条は一瞬だけ反応してしまう。
しかし、垣根にとってはたったそれだけで十分だった。
それだけで、推測は確信に変わる。

「……なるほど、『非論理的な現象を否定するための基準点』ね。アレイスターめ、知ってて黙ってやがったな」

「はあ? テメェ、なに一人でぶつぶつ言ってやがる!」

垣根が唐突に攻撃の手を休めたので、上条も彼と少し距離を取って攻撃を中断する。
能力を駆使して闘っているだけの垣根と違って、上条は己の体力と身体能力のみによって攻撃を行っているので、ぜえぜえと肩で息をしていた。

「いーや、何でもねえよ。それにしても、『超電磁砲』に『幻想殺し』ときたか。こりゃ、ますます数奇なメンバーだ」

「さっきから、何をごちゃごちゃと……」

「ただの独り言さ、気にするな。お前には何の関係も無い」

それでも尚くつくつと嗤い続けている垣根を見て、上条は訝しげな表情を浮かべる。
そして、同時に不愉快だった。
一体、この状況の何処がそんなに可笑しいというのだろうか。

するとそんな彼の隙を突いてか、光り輝く直線が垣根に向かって撃ち込まれた。
しかし垣根はその場から飛び退いてそれを回避すると、光線の発生源となっていた場所を見やる。

416 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/03(木) 00:26:21.47 ID:JQC41bBwo

「おいおい、揃いも揃って不意打ちが得意技なのかよ。正義のヒーローにしちゃ些か卑怯すぎやしないか?」

「う、五月蠅いわね! アンタが勝手に笑いはじめて、警戒を解くのが悪いんじゃない!」

「おお、そりゃそうだ。だけどやられっぱなしってのも性に合わねえからな、ちょっくら俺も卑怯な手を使わせてもらうことにするよ」

相変わらず余裕の表情を崩そうとしないまま、垣根は翼を広げて夜空へと飛び上がった。
……彼は、幻想殺しへの対処法を知っているのだ。

幻想殺しの効果範囲は、右手首から上だけ。
いや、それ以前にそもそも上条自身が遠距離の攻撃手段を持っていない。
なので、上条の攻撃から逃れるのに最も効率的な方法は、上条の手の届かない場所、例えば上空などに逃げてしまうことなのだ。

「こ、の!」

「格下、しかも一般人を虐める趣味は無いんだけどよ。邪魔だから、殺すわ」

垣根が、六枚の翼を一際大きくはためかせた。
途端に暴風が吹き荒れ、地上に立っている上条と美琴に襲い掛かる。

異能そのものならいくらでも無効化できるものの、異能による二次災害に対する防御能力を持たない上条は、両腕で顔を庇いながら垣根を睨みつけた。
対して、美琴は垣根の異能そのものを防御することは難しいが、異能による二次災害――例えば、ただの風――ならいくらでも対処できる。
彼女は大きな看板を引き寄せてきて風除けにすると、上条が風に対処できていないのを見て適当な障害物を引っ張ってきてくれた。

「くそ、あんなところに行かれたら手が出せねえ……」

「そんなに慌てないでよ。今のアイツなら、私でも何とかできるわ」

「え?」

美琴と垣根に実力差があることには何となく察しがついているのか、上条はきょとんとしたというか、疑念の眼差しを向けてきた。
それを見て美琴は少し不機嫌そうな顔をすると、ポケットからゲームセンターのコインを取り出す。
言わずもがな、そのコインは彼女が超電磁砲を放つときに愛用しているものだ。
彼女はいくら風除けがあってもこの状況でコインを真上に投げるのは危険だと判断したらしく、右手でコインを持ち、左手でコインを弾いた。
瞬間、彼女の超電磁砲が炸裂する。


……美琴と垣根の間には、そう大きな距離はない。せいぜい十メートルと言ったところだろうか。
なので彼女は、コインを五十メートルも保たそうとは考えない。
そう、垣根に当たりさえすればそれで良い。十メートルちょっと保ってくれれば、それで良いのだ。

つまり、熱の摩擦によってコインが溶けてしまうことを考慮して手加減しなくて良い。
よって美琴は本当に本気で、いつもの何倍もの力を使ってコインを射出した。
コインが一体どれくらいの速度を出したのかなんて、分かるわけもない。
ただ、美琴の超電磁砲は垣根でも反応できない速度でもってその白い翼を貫き、燃やし、融解させた。

「ッ、チッ!」

417 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/03(木) 00:29:27.74 ID:JQC41bBwo

片方の翼を完全に破壊された垣根は、バランスを崩して地へと落下を始める。
しかし彼は空中で素早く体勢を整えると、不完全ながらもなんとか翼を修復させて、無傷での着地を成功させた。

(上手く行けば落下の衝撃でダメージを与えられるかと思ったけど、そんなに上手く行かないわよね。
 ま、どちらにしろこれで空を飛んで距離を取ろうなんて真似はしにくくなるはず。
 あっちは能力がかなり不安定になってるみたいだし、その状態で何度もあんな緊急対応が成功するとも思えないしね)

(空に逃げれば幻想殺しは気にしなくて済むが、翼を使う分こっちの攻撃手段も制限されるし第三位の攻撃が厄介だ。
 建物の上に行くのも得策とは言えねえな、超電磁砲で建物ごと破壊されたらさっきよりも危ねえ、か。
 あークソ、あの時麦野たちにさえ鉢合わせしなかったらここまで面倒くさいことにはならなかったんだが……)

両者が、睨み合う。
すると何を思ったのか、垣根は突然翼を消滅させると二人に向かって駆けてきた。
いや、二人と言うよりも、上条に向かって、か。

突然の行動に上条は少し驚いた顔をしたが、怯んだりしない。
それどころか、上条は近付いてくる垣根に向かって自らも走り出した。無論、拳を握りしめて。

「う、らァッ!!」

そして上条は、垣根に向かって右拳を振り下ろす。
しかし垣根は突然地面を蹴って後方に跳び、緊急停止・後退を行うとともに上条の攻撃を回避した。
当然上条の拳は見事に空振り、彼は思いっ切り体勢を崩してしまう。

(幻想殺しは確かに厄介だが、攻撃手段は殴打のみ。身体能力はそこそこだが、決して一般人の範囲から逸脱してるわけじゃねえ)

垣根帝督は、この学園都市の暗部に生きる人間だ。
与えられる仕事の殆どをその強力な超能力によって処理してきた彼だが、それでも超能力のみによってすべての死線を潜り抜けてきたわけではない。
もちろん、今回のように能力の使用を制限される、といった状況に陥ったことも何度もあった。

……つまり、彼の武器は超能力だけではないのだ。
とは言え、単純に身体を鍛えている、というわけではない。いや、当然それもあるが、それだけでは不十分だ。
もっと暗部らしい武器を、彼は所持している。


垣根が、裂くような笑みを浮かべた。


パチリ、と何かが弾けるような音。
それと同時に美琴がはっとした顔になり、驚愕の形相で上条に向かって叫んだ。

「右手を後ろに引きなさい!!」

何が何だか分からなかったが、体勢を崩しかけていた上条は片足を前に突き出して地面を踏み、転倒を回避するとすぐに右手を後ろに引いた。
そして顔を上げて垣根を見た彼は、美琴の言葉の真意を理解する。
垣根は上条に拳銃を向け、今まさにその引き金を引かんとしていたのだ。

418 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/03(木) 00:31:54.19 ID:JQC41bBwo

流石に、今から回避を間に合わせることなどできない。
それでも急所に当たることだけは避けなくてはと思い体を捻ろうとしたと同時に、拳銃から銃弾が放たれた。

しかし、そこで上条は不思議な現象を見た。
本来なら自分に向かって真っ直ぐ飛んでくるべき銃弾が、上条の目の前で方向を転換させて明後日の方向へ飛んで行ってしまったのだ。
けれど上条は、その光景に見覚えがあった。

「間に合った……」

「……忌々しい能力だ」

美琴が右手を引けと言ったのは、こういうことだったのだ。
上条の右手は、それが悪意によるものだろうが善意によるものだろうがまったく関係なく、すべての異能を打ち消してしまう。
だから美琴は右手を引かせ、磁力によって銃弾の軌道を操作することを阻害させないようにしたのだ。

「っぶね……、悪ぃ、助かった」

「ちょっとは後先考えて行動しなさいよね、もう」

美琴が呆れたように言いながらもほっとした顔をしている一方で、垣根は面倒くさそうに目を細めていた。
幻想殺しの性能を逆手に取ったつもりだったのだが、拳銃が金属製だったばかりに美琴に即座にその存在を悟られ、あっけなく失敗してしまった。
しかし上条に拳銃が有効なのは確実だし、美琴が銃弾から上条を守るためには幻想殺しを引かせなければならない。
それなりに有効な攻撃手段ではあるのだが、いまいち決定打に欠ける。

(……膠着、してんな)

使えないと判断した拳銃を後方に投げ捨てながら、垣根は正直にそう思った。
それに、先程からずっと一方通行が大人しいのも気にかかる。
……こうなったら、少し無茶をしてでも奴らを退けなければならない。

ざあ、と不自然な風が巻き上がる。
AIMのさざめきを感じ取った美琴は、それが何かを仕掛けてくる前兆だと悟って身構えた。

瞬間。
垣根が鋭く地面を踏み砕き、凄まじい速度で距離を詰めてきた。
標的は、美琴。

(ま、ずい!?)

この至近距離で能力を展開されたら、美琴であってもそのすべてを防御できるかどうか分からない。
しかし、ピンチとはチャンスでもある。
これだけの至近距離であれば、相手も美琴の十億ボルトを完全に防ぐ術など持っていないはず。
負傷覚悟で突っ込めば、行ける。

(こ、れ、くらいで)

虚空から滲むようにして、三対の翼が現れた。
それらすべてが、美琴に襲い掛かるべくしてその刃先を向けてくる。

(怯むもんか!)

けれど、美琴は前進をやめない。
彼女の全力、十億ボルトを垣根に向かって解き放った。

雷鳴と風切り音が、共鳴する。



419 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/03(木) 00:35:50.75 ID:JQC41bBwo



……だが、そのどちらもが、相手に達することは無かった。
美琴が驚愕を通り越して茫然とした表情を浮かべ、垣根がにやりと不気味な笑みを零す。

……そう。チャンスとは、ピンチでもある。

『それ』をピンチだと判断してしまった上条が、美琴を助けようとして右手の力を使い、二人の力をすべて打ち消してしまったのだ。
だが、垣根はこれを予見していた。
そこが、垣根と美琴の差だった。

垣根は無防備になった美琴の鳩尾に、容赦なく膝蹴りを叩き込む。
上条の力の所為で磁力を使った緊急回避すらままならなかった美琴は、為す術もなく蹴りを喰らって背中から壁に叩き付けられた。
彼は位置的に障害となっていた上条を蹴り飛ばすと、追撃すべく美琴に向かって拳を振り下ろそうとする。

美琴はぐらぐらする視界の中でなんとかそれを受け止めようと両腕を顔の前で交錯させるが、垣根はすぐさま拳を引くと再び彼女の腹に蹴りを入れた。
吐瀉物を吐き出しそうになりながらも、美琴は既に自分たちが上条の右手に能力を阻害されない位置まで出ていることに気が付いた。
しかし、それは垣根も同じこと。しかも、垣根の方が早かった。

垣根は美琴よりも早く能力を展開させると、翼で彼女を薙ぎ払う。
亀裂が入るほど強くコンクリートの地面に叩き付けられた美琴は、そのまま動かなくなってしまった。
不幸中の幸いか、翼は刃物状にはなっておらず真っ二つは避けられたようだったが、強く打った頭から血が流れ出している。

上条は思わず美琴に駆け寄りその状態を確認したが、彼女はぐったりとしていてまったく目を覚ます気配がない。
しかし呼吸は正常なので、今のところ命に関わるようなことはないだろう。
それを確認すると、上条は美琴を背後に庇いながら垣根を鋭く睨みつけた。

「テメェ!!」

「おいおい、そんなに怒るなよ。テメェが余計なことしなけりゃ、こうはならなかったんだけどな」

美琴の覚悟と信念を、面白いくらい台無しにしてくれた愚か者が怒りに震えているのを見て、垣根は思わず噴き出した。
まったく、滑稽ったらない。

……実は、垣根は美琴を殺す気などさらさらなかった。
別に一般人だから容赦してやろう、なんて殊勝なことを考えているわけではない。
流石に第三位の超能力者を殺害してしまったら、後からいろいろと面倒くさいことになってしまう。
特に、彼にとっては。

しかし、幻想殺しは違う。
裏ではどう思われてるのかなんて知らないし興味もないが、少なくとも表ではただの無能力者として扱われている。
超能力者の広告塔として知られている美琴を殺害すればすぐに公になるだろうが、彼は違うのだ。
無能力者の一人や二人、死んだところで暗部組織のリーダーをも務めている彼ならば簡単に隠蔽することができる。
……それに。

「じゃ、そろそろお別れだ。さようなら、幻想殺し」


420 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/03(木) 00:38:08.36 ID:JQC41bBwo

空中に、無数の杭が浮かび上がる。
何十、何百、何千、何万。
大量に、広範囲に顕現したそれは、とてもではないが上条の幻想殺しだけで打ち消すことの出来る数ではない。

しかし、上条は拳を握る。
絶対に諦めないと、その瞳が言外に語っている。
垣根はそれが、途轍もなく気に食わなかった。

だから、垣根は容赦なく上条を殺しに掛かった。
もはや壁と言ってしまっても過言ではない量の氷柱が、一斉に上条に向かって飛んでいく。
それを迎え撃つべく、上条が右手を構える。


しかし、その瞬間。
上条の目の前に、一方通行が立ち塞がった。


その光景に上条は驚愕したが、それよりももっと驚いたのは垣根だった。
もう、氷柱を緊急停止させるだけの時間さえ残されていなかったのだ。


421 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/03(木) 00:40:28.53 ID:JQC41bBwo

「……は?」


そして。
垣根は自分の目を疑った。
あんなにも大量にあったはずの杭は、一方通行に傷ひとつ付けることはなかった。
無論、上条も。
……つまり、二人ともまったくの無傷。

杭は、何処に行った?
そう思った垣根は首を動かそうとしたが、動かない。
いや、身体全体が動かない。

そこで、垣根は漸く気付いた。
……ああ、そういうことか。
垣根は力無く笑みを浮かべると、そのままゆっくりと血の海の中に沈んでいった。



「……未知の物質(ダークマター)、解析完了」



一方通行はぽつりとそれだけ呟くと、自らもまた、意識を手放した。



424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/02/03(木) 00:47:26.41 ID:ux64JH1Jo
うおおおおおおおおおお
熱い!!熱いよ!!!!!

425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/02/03(木) 00:49:59.77 ID:wlCJP1FBo
垣根つええ
が、ジャストのタイミングで現れる一方さんかっけぇ
つか上条さんいいとこ無しwwwwwwww

427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/02/03(木) 01:30:16.74 ID:JlTm5fnvo
原作の主人公属性がついてない上条はこのくらいの強さな気がする
簡単に負けるほど弱くはないけどボスには勝てないくらい

429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/02/03(木) 01:33:36.75 ID:inDeaTYi0
ここのスレは一方さんが主人公属性を持ってるから上条さんはそれで良いと思う
ぶっちゃけ攻めよりも守りの方が向いてる

右手だけが武器とか主人公属性ないと無理すぎる

440 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/07(月) 22:15:20.64 ID:K0zOCZ8xo



優しい誰かが、いた気がした。
その時、自分は一人ではなかった。
たくさんの大好きな人たちに囲まれていて、とてもとても幸せだった。
いつまでも、こんな時間が続けば良いと思っていた。



441 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/07(月) 22:15:52.73 ID:K0zOCZ8xo

目を覚まして真っ先に目に飛び込んできたのは、見知らぬ薄汚れた天井だった。
いつもの、病院の天井ではない。
一方通行は驚いて飛び起き周囲を確認したが、そこはやはり見知らぬ部屋だった。

しかし、不思議と不安は感じない。
その部屋はあまりにも生活感に満ち溢れていたし、なんとなく見覚えのある雰囲気が漂っていたから、だろうか。
それでも一応警戒を怠らずに周囲を見回してみると、すぐ隣にあるベッドに美琴が寝かされていた。

「うお、もう起きたのかよ」

聞き慣れた声に振り返ってみれば、大きな鍋を持った上条が歩いて来ていた。
どうやら、ここは彼の家らしい。
一方通行は悟られぬようにほっと息をつくと、胡散臭そうに上条の持っている鍋を見つめた。

「何だ、ソレ?」

「何か食べさせないとと思ったから、お粥。怪我人に何食べさせたら良いのか分からなかったから定番メニューで」

「そンなモン、病院で食べ飽きたんだが」

「わがまま言うな。二人とも結構出血してたから本当なら肉が良いんだろうけど、残念ながら上条家にそんな余裕はありませんでした」

「そ、そォか……」

若干遠い目をしている上条を見て、一方通行が少したじろいだ。
触れてはいけないことだったようだ。
しかし上条はいつものことと言わんばかりに軽く流すと、机の上に置かれた鍋敷きの上に大きな鍋を載せる。

「本当なら病院に連れて行くべきなんだろうけど、事情が事情だったからな。
 ちょうど俺の家が近かったし、いつもの病院はちょっと距離があったからこっちにした。応急処置はしたけど、後でちゃんと病院行けよ」

「お、おォ……」

「いやあ、それにしても二人を同時に運ぶのは骨だったぞ。近いとはいえ、俺も無傷ではなかったし。まあでも二人とも無事で良かった」

見やれば、上条も体のあちらこちらに包帯を巻いていた。
あのときは垣根の能力の逆算に全神経を注いでいたから気付かなかったが、二人とも怪我をしているのだ。
それを思い出して、一方通行はふと表情を翳らせる。

「……ま、とりあえず食えよ。腹減ってるだろ?」

茶碗にお粥をよそっていた上条が、彼に向かって湯気の立つ茶碗を差し出してくる。
すると、不意に美琴が身じろぎした。

442 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/07(月) 22:16:26.67 ID:K0zOCZ8xo

「ん……」

「お、ちょうど良かった。ビリビリも起きたか」

「……ビリビリ言うな!」

「へ? ……ぎゃああああ!!」

もはや美琴のこれは条件反射らしい。まだろくに目も開けていないのに、これだ。
上条は手に持っていたお玉を床に落としながらも、何とか彼女の電撃を右手で受け止める。

「うーん……。あれ、ここ何処?」

「電撃はスルーですか? あと、ここは俺の家だけど」

「へ? アンタの?」

眠そうに目をこすりながらも、美琴はきょろきょろと辺りを見回した。
そんな彼女を見ながら、上条は少し恥ずかしそうに頬を掻く。

「そんなにまじまじと見られると恥ずかしいんだが……。散らかってて悪いな」

「なっ、べ、別にまじまじとなんて見てないわよ!」

「そ、そうか? まあ良いけど、とにかくお前もこれ食えよ。口に合わないかもしれないけど」

美琴は顔を赤らめながら上条が差し出してきたお粥をぶんどると、温度をよく確かめもせずにお粥を口に運ぼうとした。
それを見て、上条は慌てて彼女を止めようとする。

「待て! それ出来立てだからそんなに慌てて食べたら……」

「!? げほっごほっ! 〜〜〜〜〜〜!!」

「ああ、言わんこっちゃない……」

湯気が立っているのを見ればお粥が熱々なことなんて分かるだろうに、がっついた美琴は涙目になりながら悶えていた。
冷めた目でその様子を見ていた一方通行は、きちんとお粥を冷ましてから口に運ぶ。

「っ、そ、そういうことは早く言いなさいよね!」

「いや、言おうとしたんだがその前にお前がかっ込もうと……」

「口答えしない!」

「すみませんでした」

「理不尽」

「うっさい!」

443 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/07(月) 22:17:42.79 ID:K0zOCZ8xo

正直美琴の自業自得なのだが、こんなやりとりに慣れきっているらしい上条は素直に頭を下げていた。
しかし、とりあえずそれで怒りは収まってくれたらしい美琴は、今度はちゃんと息でお粥を冷ましてから口に運ぶ。
上条は口に合うかどうかわからないなんて言っていたが、お粥は存外に美味しかった。

「……さて、俺はもォ行くわ。ごちそーさン」

早くもお粥を食べきった一方通行が、床に敷かれた布団から立ち上がろうとする。
しかしそんな彼の両手を、上条と美琴ががっしりと拘束した。

「おいコラ待て。何処へ行く」

「……びょ、病院」

「嘘つけ! お前意外と嘘下手だな!」

「目が泳いでるわ。さあ座りなさい」

素直に怒りを顔に出してくれている上条よりも、にこにことらしくない笑みを浮かべている美琴の方が怖かった。
上条に掴まれている所為で能力は使えないし、もとより非力な彼が二人の手を振り払える筈もない。
そして何より後が怖い。
と言うわけで一方通行はあえなく降参し、素直に座ることを余儀なくされた。

「さて、どういうことなのかちゃんと説明してもらうわよ」

「ここまで来たんだから、流石にもう無関係とは言わせないぞ」

「…………」

一方通行は迫る二人に無言の抵抗を試みようとするが、頑固な二人が見逃してくれる筈もない。
それでも彼はしばらく躊躇っていたが、遂に観念したのか、やっと口を開いてくれた。

「……言っておくが、俺も一部しか知らねェし、殆どが推測だ。あンまり期待すンじゃねェぞ」

「お前だって記憶喪失だからな、そこは分かってる。知ってる範囲で良いよ」

すると、一方通行は小さくため息をついて目を閉じた。
頭の中で、情報を整理しているのだろうか。
そしてやがて彼は目を開くと、ぽつりぽつりと語り始めた。

「まず、俺を追ってる奴らのこと。
 俺も奴らがどォして俺を追い回してるのか、奴らが誰なのか、はっきりしたことは何も分からねェ。……ただ、今回でひとつ分かった。
 俺を追ってる奴らの一人は、超能力者(レベル5)の第二位。名前は……、垣根帝督、だったか」

「私も、第二位については少し聞いたことがあるわ。……あんまり良い噂は聞かないわね。
 だけど一つだけ確かなのは、もしアイツが万全の状態だったら私なんか為す術もなく瞬殺されてたってこと。
 第二位以上と第三位以下には、圧倒的な力の差があるの」

「……御坂には悪ィが、俺もそォ思う。今回何とか倒せたのも、運によるところが大きい。
 それと奴らの目的について。これは完全に推測だが、俺の能力が欲しいらしい。俺を殺さないよォに細心の注意を払ってたからな」

444 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/07(月) 22:18:22.09 ID:K0zOCZ8xo

「それは何となく分かる。それにしては容赦が無かった気がするが」

「まァ、学園都市の医療技術を駆使すればちょっとやそっとの損傷は何の問題にもならねェからな。
 ただ『死なれると困る』よォなことは何度も言ってたから、そこは間違いねェと思う。
 ……それから、俺の記憶について」

遂に提示された本題に、上条と美琴は思わず緊張してしまう。
そもそもこんなややこしいことになっているのは、彼の記憶喪失の所為だからだ。記憶さえ取り戻せれば、多くのことが分かる筈なのだ。
……しかし。

「俺の記憶……、エピソード記憶の方だな。戻る見込みがまったく無いらしい」

「え!?」

突然の告白に、上条と美琴は声を揃えて驚いた。
今までそんなこと一言も言っていなかったし、そんな素振りも見せていなかったのに。
それ以前に、この科学の発展した学園都市で『絶対に記憶が戻らない』なんていうこと自体が驚くべきことだった。

「記憶が戻らないって、どういうことだ?」

「その前に。……オマエら、洗脳装置(テスタメント)って知ってるか?」

「……知ってるわ。五感に電気的な信号を入力することによって、脳内に情報や技術を強制入力(インストール)する装置のことでしょ。
 でも、それがそうかしたの?」

「どォも俺はそれを応用した装置にかけられて、エピソード記憶を全部削除されたらしい。空白で上書きした、って言った方が正しいか?
 パソコンで言えば、リカバリした状態に近い。
 だが当然そンなンは普通の使い方じゃねェから、洗脳装置が事故って一部の意味記憶と手続記憶まで飛ンじまったってことだそォだ。

 ただ、事故っただけだから意味記憶と手続記憶はまだ思い出せる見込みはある……、つゥか、今でも少しずつ思い出せてるから問題ねェ。
 ただしエピソード記憶だけは、電気的に完全に消去されちまってるから思い出しよォがねェンだと」

「……なんで、そんな」

「そンなン俺が知りてェよ。冥土帰しが言うには、そこまでされてるからには何かとンでもねェ実験の被験体にされてたンじゃねェかとさ」

「それって……、やっぱり、アイツらがやったのかしら」

「……順当に考えるなら、そォだろォな。あくまで推測だが」

一方通行の口調は、どこまでも淡々としていた。
そして、だからこそ上条と美琴は絶句してしまう。どうして彼はこんなことを、まるで何でもないように語れるのだろうか。

「で、その大事な被験体が逃げ出したモンだから、連中も血眼になって俺を探してるンだろォよ。
 だから、俺は何とかして奴らの手の届かねェ場所に行かねェといけねェンだ。
 ……つゥか、そォでもしねェと次は一体何されるのか分かったモンじゃねェからな」

「…………」

445 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/07(月) 22:18:55.27 ID:K0zOCZ8xo

相変わらず他人事のように喋る一方通行を、二人は黙って見ていることしかできなかった。
そして、束の間の沈黙が降りる。
しかし暫くの間を置いてから、上条が慎重に口を開いた。

「……それで、お前は何処へ行こうとしてたんだ?」

「外」

今更隠すまでも無いことなのだろう、即答だった。
そして実際、それは上条たちも予想していた答えだった。いや、彼は以前に一度だけそう言っていた。
ただ、それが本気だったというだけのことなのだ。

「あては、あるのか」

「冥土帰しが手配してくれた。信頼できる知り合いの病院らしい。
 外の機関なら学園都市の連中でもおいそれと手出しはできねェし、そもそも範囲が広すぎて捜索だけで尋常じゃねェ手間が掛かる。
 だから、俺にとってはそれが最善の策だった」

「学園都市じゃ、駄目だったの?」

「俺は、学園都市にいる限り永遠に狙われ続ける。俺一人が困る分には構わねェが、他の連中まで巻き込めねェだろ」

結局のところ、それが彼の答えだった。
自分の勝手な都合で、周りの人間まで危険に晒すわけにはいかない。ただ、それだけなのだ。
そこに、彼の意志は介在しない。

「……お前は、それで良いのか?」

「俺がどォ思うとか思わないとか、そォいう次元の問題じゃねェンだ。俺はただそこに存在するだけで……」

「そういうことを訊いてるんじゃねえ。お前がどうしたいのかって訊いてんだ」

珍しく怒気を孕んだ上条の口調に、一方通行はたじろいだ。
そして、少し驚いた。
自分が本当はどうしたいのかなんて、考えもしなかった。

「……俺、は」

だから、彼は言葉に詰まる。
どうしたいのか。
本心では、どう思っているのか。
……そんなの、答えは最初から決まっている。

「…………、……。俺は、ここにいたい」

その一言を搾り出すのには、途轍もない勇気を必要とした。
こんなにも正直に自分の本心を吐露するのは、記憶喪失になってから初めてだからかもしれない。

446 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/07(月) 22:19:34.62 ID:K0zOCZ8xo

けれど、一方通行はそれを言ってしまってから少し後悔した。
今更そんなことを言ったからといって、一体何になるというのか。
こんなの、余計に惨めになるだけだ。

……けれど上条は、その言葉を聞いて嬉しそうに笑った。
彼がどうしてそんな顔をしたのか、一方通行にはまったく分からなかった。

「だったら、そうすれば良い」

「……はァ?」

今度こそ、一方通行は上条の正気を疑った。
……コイツは、何を馬鹿なことを言っているんだ。

「オマエ、ちゃンと俺の話聞いてたか? それは無理だって言ってンだろォが」

「そんなことないだろ。お前はあっち側の最高戦力であるはずの第二位を、自分の力で倒せたじゃないか。
 だったら、アイツらだってもうそんな簡単に手出しはしてこなくなるはずだ」

「アレは不意打ちのまぐれ当たりだ。そもそもアイツは、あの時点で既にかなり弱ってたンだぞ?」

「でも、ちゃんと対策は立てられたんだろ。それに、アイツはかなりの重傷を負ってた。
 あれなら当分動けないだろうから、暫らくは俺たちに手出しはしてこれないと思う。その間に、根本的な問題を解決しちまえばいいじゃねえか」

「………………」

実は、それだけではない。
彼はその他にも、様々なヒントを得ていた。
垣根にも驕りがあったのだろう、致命傷とも言うべきとても大きなヒントを。

けれど、それだけでは足りない。
自分の力で守れるのが自分だけでは駄目なのだ。
彼がここにいる為には、もっとたくさんのものを守り切らなければならない。

「それに、こんなの納得できるかよ。お前は何にも悪いことなんかしてねえのに、何で逃げなきゃなんないんだ。悪いのはアイツらじゃねえか。
 ああくそ、思い出したら腹立ってきた。もう一発くらい殴ってやればよかった」

「そうよ、こんなの理不尽じゃない! どうしてアンタばっかりこんな目に遭わなきゃいけないのよ!」

「い、いや、……、俺は」

「私たちのことを気にしてるんだったら大丈夫。自分の身くらい自分で守るし、その他大勢だって守って見せるわ。ね!」

「おう。次こそは返り討ちにしてやるさ」

「……オマエらのその自信は何処から来るンだよ」

447 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/07(月) 22:20:03.08 ID:K0zOCZ8xo

一方通行は、もはや驚きを通り越して呆れることしかできなかった。
コイツらは絶対に事の重大さを分かっていない。そして、自分がどれだけの疫病神であるのかも。
……それに、自分は。

それでも。
この二人が言うと、本当にそうすることができるような気がするのはどうしてだろう。
本当に、ここにいても良いのではないかという気さえしてくる。

「……気持ちだけ受け取っとく。でも、やっぱり俺は」

「ええい、わがまま言うな! お前はここに残る! ハイ決定!」

「そうよ、アンタにここを去るなんて選択肢は残されてないわ。何が何でも留まってもらうから」

「あのなァ、俺の話を聞け! 相手がどンな規模だか分かってンのか!?」

「知らねえし、興味もねえ。ただ、俺たちに手を出してきたらぶっ飛ばす。それで良いだろ」

「そうそう、それから私たちから逃げようなんて気は起こさないことね。地の果てまで追いかけて連れ戻すから。
 逃走防止に首輪とリードで繋いでも良いのよ?」

「いや、流石にそこまではしないけれども」

「冗談よ」

美琴はしれっとそう答えたが、目が割とマジだったのは気の所為だったのだろうか。気の所為だったのだろう。
ともあれ、そういうことにしておいた方が心の平穏が保てるのは確かだ。

「とにかく、絶対に残ってもらうわよ。万が一にも逃がしたりなんかしないから、覚悟しなさい」

「話の趣旨が変わってねェか?」

「つーか、どっちにしろタイムオーバーだと思うぞ。『外』に行くつもりだったんだろ?」

軽い調子で言いながら、上条が時計を指差す。
見やれば、時刻は既に三時過ぎだった。なんだかんだ言って、結構な時間が経過してしまっている。
……そして、一方通行は上条の言葉の通りであることを知った。

「なになに、どういうこと?」

「こんな真夜中に『外』に出るってんだから、当然脱走するつもりだったんだろ?
 あれからもうだいぶ時間が経ってるし、どういう風に手を回したのかは知らないけど手遅れになってると思うぞ」

「……ああ、そっか。学園都市の警備システムを掻い潜るには、私みたいな能力でも無い限り事前の根回しが必要だもんね。
 で、もうその根回しが効果を為す時間も終了してしまったと」

「大体そういうことだな」

「………………」

448 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/07(月) 22:20:31.09 ID:K0zOCZ8xo

幸か不幸かと言うべきか、残念ながらと言うべきか、上条の言う通りだった。
いや、正直に白状すれば根回しなんかしていなかったのだが、一方通行が狙っていたのは真夜中に警備員の交代が行われる時刻だったのだ。
交代の為に一時的に警備が疎かになるタイミングを見計らい、多少の強行突破は覚悟した上で脱走するつもりだった。

しかも一方通行はこうした騒ぎが起こされるのを見越していたので、少なくない人数の警備員がそちらに回されることも計算に入れていた。
つまり、彼に脱出が許されていた時間は、もうとっくに終了してしまっていたのだ。
このようなチャンスが次に回ってくるのは、一体いつになってしまうのだろうか。皆目見当もつかない。
……漸くそんな絶望的な状況に気が付いた一方通行は、ただでさえ白い顔を更に白くさせた。

「そんなに残念がるなよ。残りたかったんだろ?」

「……だから、何でオマエらはそンなに楽観的なンだよ。信じらンねェ」

「大丈夫だろ。さっきも言ったけど、あの垣根って奴はどう考えても重傷だったし、暫らくはアイツが直接手を出してくるってことは無いだろ」

「それで、ソイツが回復する前に首謀者を突き止めてボッコボコにすれば良いだけの話なのよね? あら、思ったより簡単じゃない」

「……マジで信じらンねェ……」

がっくりと肩を落として項垂れている一方通行とは対照的に、上条と美琴は満足そうににこにこしている。
そんな二人を見た一方通行はまた、信じらンねェ、と零した。



―――――

449 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/07(月) 22:21:02.05 ID:K0zOCZ8xo



「こういう場合って、賭けはどうなんの?」

不意に背後から声が聞こえてきたので、御坂妹ははっとして声のした方を振り返る。
そこには、建物の上に足を組んで座っている垣根の姿があった。
一方通行によって血みどろにされたはずなのに、と思ったのも束の間、よくよく見れば垣根はきちんと血みどろになっていた。
だが、垣根はそんな怪我などまるで何でもないかのように淡々と言葉を続ける。

「お前の企みは失敗したが、その本質は達成された。これってお前の勝ち? それとも負け?」

「……そうですね。賭けは立ち消えということでどうでしょうか、とミサカは卑怯な提案をしてみます。
 流石にここで降参して、上位個体の居場所を教えるわけにはいきません。
 ですが彼が学園都市に残ることになった以上、あなたにもうこれ以上彼を狙うなと言うこともできません、とミサカは曖昧に言葉を濁します」

「そうだよなあ。まあ木原のおっさんは賭けに参加するつもりはなかったみてえだし、そうするとつまり賭けの参加者は俺とお前たちだけ。
 だから賭けの行方については、俺たちの合意で決めちまって良いよな?」

「どういう意味ですか? とミサカは訝しげな顔をします」

「お前の意見に賛成ってこと。賭けは立ち消え、よって現状維持。それでオッケー?」

血塗れの顔でにこりと笑った垣根を見て、御坂妹はきょとんとした顔をした。
まさか、ここまであっさりと交渉が成立してしまうとは思わなかったのだ。特に、彼はこのことに関しては非常に強く執着していたから。

「正直、意外です。もっとごねるかと思っていたのですが、とミサカはあなたに対する認識を改めます」

「だからお前は俺のことを何だと思ってるんだっつーの。仕方ねえだろ。俺もお前も、誰もこんなことになるなんて思いもしなかったんだ。
 だが、結局はそうなっちまった。だったら、もう互いに妥協するしかないだろうが」

「確かにそれはそうなのですが。……あなたは、これからどうするのですか、とミサカは尋ねます」

答えなんて、最初から分かり切っている癖に。
そう自問した御坂妹の心中を知ってか知らずか、垣根は一瞬の躊躇いもなくこう答えた。

「お前と同じさ、諦めねえよ。俺はアイツを取り戻す為なら、どんなことだってやってやる」

「……そうですか。では何も変わりませんね、とミサカは諦めの悪いあなたに辟易します」

「それはお互い様だろうが。ったく、自分のことを棚に上げやがって」

言いながら、垣根が立ち上がる。
その拍子にぼたぼたと何滴かの血雫が落ちたが、誰も気に留めなかった。

「ですが、これまでと同じ方法では何も取り戻せないと思いますよ。他の方法を考えなければ、とミサカは敵に塩を送ってみます」

「分かってるさ。だから帰って作戦会議かねえ、面倒くせえ。
 ま、お前らはせいぜいそれまでの間、ほんの少しだけ延長された余生を楽しめば良いさ。じゃな」

「ええ、作戦会議ができる限り長引くことを祈っていますよ。いっそのこと永遠に終わらなければいいのですが、とミサカはぼそりと呟きます」

御坂妹がそう言い切る前に、垣根は姿を消していた。
何処に行ってしまったのかは、分からない。
これからどうなってしまうのかも、さっぱり分からない。

ただ一つ確かなのは、彼らの戦いはまだ終わらないということだけだった。



451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/02/07(月) 22:53:15.81 ID:h1llIaKO0
上条さんも美琴も暗部の怖さ知らなさ過ぎる・・・・・・
彼らの明るさが吉と出るか凶と出るか
木原クンが出てきたらもう終わりにしか見えない

453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/02/08(火) 12:20:57.62 ID:ofa5QVfQo
三人とも結構大怪我してた筈なのにピンピンしてるなww
ある意味原作通りと言えなくも無いwwww
つか、一方上条美琴ってSSへの登場率の高さの割りにこの三人だけって組み合わせは実際かなりレアな気がする
展開も三人の距離感も物凄くツボでたまらんわぁ

458 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/10(木) 21:11:40.14 ID:DJLHstIAo
「………………?」

閑散とした部屋の中、上条は一人静かに目を覚ました。
身体の節々が痛い。
昨晩の戦いでそこそこ深い傷をいくつか負ってしまったからかと思ったが、どうやらそれだけではないようだ。
固い床に直接眠っていた所為で身体が痛いらしい。自業自得だ。

そう、昨晩は怪我をした美琴と一方通行にそれぞれベッドと布団を譲って、上条は床で寝たのだ。
本当は来客用の布団がもう一式あったのだが、
あまりにも疲れていた所為でそれを引っ張り出すことさえ面倒くさくなってしまった結果、そのまま床に眠ってしまったのだ。

……ちなみに、一応美琴と同じ部屋に寝るのは流石にどうかとは思った。
思ったのだが、自分だけが風呂場に行くならまだしも怪我人である一方通行まで付き合わせるのは悪かったので、結局妥協してしまったのだ。

上条は痛む身体を宥めながら、のろのろと体を起こす。
時計を見ると、まだ七時前。目覚まし時計が鳴る前に目が覚めてしまったようだった。
眠りについたのが確か四時頃だったので、あれから三時間も寝ていない。にも関わらず、目だけはやたらとすっきりしていた。
頭はまだぼうっとするが、もう暫らくすればすぐに覚醒するだろう。

……しかし、上条は何か妙な違和感を感じた。
何か、ぽっかりと胸に穴が開いてしまったような。当たり前にあったはずのものが無くなってしまったような。
そんな、虚無感。

上条ははっとして布団の方を振り返る。
しかし、そこに居るはずの一方通行の姿は無かった。
慌てて室内を見回してみても、何の意味もない。
一方通行は何処にも居なかった。

「あの野郎……」

上条は歯軋りをして苛立ちを露わにしたが、すぐに諦めたようにはあっと大きな溜め息をついた。
……アイツらしいと言えば、アイツらしい。

それに先刻説明した通りの事情によって、一方通行は学園都市の外に出ることはできない。
その上足を怪我していたから、あの状態のまま遠くに行くことはできない筈だ。

ならば、彼はきっとまだこの第七学区の何処かにいる。
だったら、探して見つけてやれば良い。
同じ学区の中にいるのだから、見つけ出すのはそう難しくはないだろう。

(……まったく。馬鹿な奴)

本人が聞けば間違いなく憤慨するであろう台詞を呟きながら、上条はついでとばかりにもう一つ溜め息をつく。
真っ白な朝日が、燦々と輝いていた。



―――――

459 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/10(木) 21:15:05.67 ID:DJLHstIAo



風通しが良いからか、廃ビルの中は意外と涼しかった。
硝子(ガラス)も扉も何も填められていない荒涼とした廃ビルの中を歩き回りながら、一方通行はそんな感想を抱いた。

(……、この辺り、か?)

一方通行は適当な部屋を見つけ出すと、その中に入って様子を確認する。
その部屋にもやはり窓には硝子が填められておらず、扉も付いていなかった。文字通り、吹きっ晒しの部屋だ。
しかし、すぐ目の前に別の建物が立っているので、そこまで雨風に荒らされてはいない。
それでも他の部屋よりかは幾分かマシ、というレベルだったが。

一方通行は持っていた小さな鞄を部屋の壁際に置くと、窓の方へと歩いて行った。
……とは言え目の前に建物の壁があるので、何も見えはしないが。
故に、日当たりは最悪で部屋の中は薄暗く、じめじめしている。暑い季節なので、肌寒いことが苦にならないのは不幸中の幸いか。

(ま、こンなモンか)

流石に寒い季節になって来たらこんな場所にはいられないだろうが、ここはあくまで仮の宿だ。
夏が始まる頃には、もっとちゃんとした家に住めるようになっているだろう。
とにかく彼の当面の目的は、その為のアパートを探すことだった。

(金、は……。まァ、贅沢さえしなけりゃそれなりに持つな。ただ、アパートを借りるには心許無い……)

何はともあれ、金だ。
なんとも世知辛い話だが、やはり先立つものが無ければ何もできない。
綺麗事だけで渡って行けるほど、世の中は甘くないのだ。

(取りあえず、仕事だな。何とかしねェと……。しっかし、無所属の子供にまともな仕事なンかあるのかね……)

本当なら、上条の言っていたように学校に行って奨学金を貰うのが最善なのだろう。
しかし一方通行は、その気は更々なかった。
学校なんかに行ってしまえば、きっと今よりもたくさんの人たちを自分の事情に巻き込むことになってしまう。
それだけは、絶対に避けたかったのだ。

しかし、仕事をするにしても多少の人間に知り合うことになってしまうだろう。
よってこれ以上誰も巻き込まないというのは難しいだろうが、せめて人数だけは最小限に留めたかった。
その点、学校という場所にはあまりにも多くの人間が居過ぎる。
かつ、かなりの数の人間とも関わり合わなければならなくなってしまう。それは、彼にとって最悪の状況だった。

(さて、どォすっかね……)

一番確実な方法は、冥土帰しを頼ることだ。
出ていく彼に対してここで働いてくれても良いと言ってくれていた程だし、信用もできる。
しかし、彼はこれ以上冥土帰しを頼りたくなかった。

あそこが病院だから、と言う理由もある。
けれどそれ以上に、もうこれ以上あの医者に借りを作りたくはない、と言う自己のプライド保持が大きな理由だった。

460 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/10(木) 21:18:05.33 ID:DJLHstIAo

下らないことに執着する自分の性格に辟易してしまうが、それでも一方通行はどうしても冥土帰しを頼ろうという気にはなれなかった。
……よって、自分のことはすべて自分でやらなければならない。
上条と美琴からも逃げ出して来てしまった以上、これからは誰も頼ることができないのだから。

(仕事を探さねェと、だが……。今日一日は休養に充てた方が良いだろォな)

昨晩上条にお粥を食べさせてもらったし、もともと食が細い方なので今のところ空腹の心配はなさそうだ。
今日一日は、何も食べなくても我慢できるだろう。

それに、無闇に外をうろうろしたくなかった。
追手が自分を探しているかもしれないという懸念もあるが、それ以上に怖いのは上条と美琴だ。
黙って出て行ってしまったので、きっと今頃怒っているだろう。
しかし、やはり、あの二人だけは巻き込めない。巻き込みたくない。昨晩のようなことを、もう二度と起こしてしまってはならないのだ。

……それに、昨晩はああいう風に言ってくれたものの、あの二人では垣根帝督に敵わない、と言うのが一方通行の見解だった。
あれに対処できるのは、一方通行だけだ。
しかし、それでもあの二人を守りながらでも勝利できる自信はない。
だからこそ、彼が下した決断がこれだった。

(……、……。寝るか)

ともあれ、今は眠って少しでも体力を回復しなければ。
上条と美琴が完全に寝付いたのを確認してからすぐに出てきてしまったので、彼はろくに眠っていないのだ。

それに、眠りつつ能力で怪我の回復を促さなければならない。
こうすれば、明日には怪我は殆ど治ってくれているはずだ。

……彼は病院暮らしが長い所為か、戦闘に使うような大きなベクトルを操るよりも、
生体電気を操って回復を促したり運動神経を向上させたり、といった微細なベクトル操作の方が得意になっていた。
よって、この程度なら簡単に治すことができるだろう。


一方通行は部屋の隅までやって来ると、壁に背を預けて蹲る。
そして鞄の中から長袖の上着を取り出すと、それを布団代わりに身体に掛けてゆっくりと目を閉じた。



―――――



上条宅からほど近い公園。
壊れた自販機の隣にあるベンチに座っていた彼女は、膝の上に置いたPDAを凝視しながらもの凄い勢いで何事かをタイピングしていた。

……言ってしまえば、彼女のやっていることはハッキングだ。
いわば犯罪行為。
風紀委員に見つかってしまえば、間違いなくしょっ引かれてしまう行為だ。
けれど、今の彼女はそんなことなど気にしていなかった。

別に、ハッキングすることに抵抗が無いわけではない。彼女はきちんとそれが犯罪行為であることを理解している。
しかしそれを理解した上で、それでも彼女はハッキングをやめなかった。
そうするだけの理由があったのだ。

461 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/10(木) 21:20:33.92 ID:DJLHstIAo

(……アイツが唯一覚えていた言葉、『一方通行』。手掛かりには違いない筈なのに、まったく引っ掛かってくれない。どうして?)

本当ならば風紀委員の権限を使ってある程度合法的にハッキングが行え、
しかも美琴よりも遥かに情報処理能力に長けた知り合いがいるにはいるのだが、美琴は今回ばかりは彼女を巻き込んではいけないと思っていた。
何しろ、相手はあの第二位を含む謎の組織である。万が一にも巻き込んで、危険な目に遭わせるわけにはいかない。

(こればっかりは、一方通行と関わったからどうこうってレベルじゃないからね。情報ってのは、知られたってだけで脅威になる。
 うっかり知ってしまったってだけで、アイツらは本気で命を狙ってくるわ。流石にそこまでは巻き込めない)

けれど、彼女の能力ではここらが限界だった。
どうしても手掛かりを見つけられない。

危険を冒すくらいならいくらでもできる。けれど、危険を冒してもどうしても開けられないセキュリティがいくつもあったのだ。
さしもの超電磁砲(レールガン)でも、こればっかりはどうしようもない。
最悪、研究所に殴り込んで直接それっぽいパソコンから情報を抜き出せれば良いのだが、その研究所の所在地さえ分からない。
正に八方塞だった。

(けど、そのお陰で逆に分かったことがあるわ)

……それは、『一方通行』が書庫(バンク)なんか目じゃないくらいの最重要機密であるということ。
これだけやって見つからないのだから、それだけは間違いない。

(まったく、まさかここまで厄介だなんて思わなかったわ。アイツ、一体どんな境遇だったのよ)

人為的に記憶喪失にされて。
第二位に追い回されて。
何度も何度も、幾度となく狙われて。

そこまで考えて、美琴は思考を中断させた。
考えただけで腹が立ってくるからだ。
一体どんな大義名分があるか知らないが、こんなのは絶対に許さない。
そう、どんな手を使ったって守り切ってやる。

(それっぽい研究所に片っ端から殴り込んでやろうかしら。……流石に無謀か)

不穏なことを考えながら、美琴はPDAに映し出されていたウィンドウを次々と消していく。
これ以上は時間の無駄と見て、ハッキングを諦めたのだ。
しかし、諸悪の根源を見つけ出すことを諦めるつもりはさらさら無い。
さてこれからどうしようかと考えながら唸っていると、不意に背後から声が聞こえてきた。

「お姉様? こんなところで何を?」

「っひゃあ!?」

聞き慣れた声に振り返ってみれば、そこには茶色い髪をツインテールにした少女が立っていた。
身に纏うのは、美琴と同じ常盤台の制服。
美琴のルームメイト、白井黒子だ。風紀委員の仕事中なのか、肩には腕章が装着されている。

462 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/10(木) 21:22:49.15 ID:DJLHstIAo

「く、くくくくくく黒子!? どうしてこんなところに!?」

「どうしてって、風紀委員のパトロール中ですの。お姉様こそ何をしていらっしゃいますの?」

「べ、別になにもしてないわよ? ぼーっとしてただけ」

「折角PDAを立ち上げたのに、ぼーっとしていただけですの? お姉様のことですから、ゲームでもしていたのかと思いましたわ」

「ああ、うん。ゲームはこれからやろうと思ってて……。ほら、何のゲームをしようか悩んでたのよ!」

「……お姉様」

露骨に怪しい態度を取る美琴を、白井がじとっとした目で睨んでいる。
……これは、まずい。
白井は誇り高い風紀委員だ。美琴のしていたことがばれようものなら、きっと事務所に連行されてしまうだろう。

何とかして誤魔化さなければ。
そして必死に言い訳を考えている美琴の予想に反して、白井はこんなことを言った。

「まーた例の殿方との『勝負』ですの!?」

「だ、だからそんなことしてないってば……、あれ?」

「黒子には何でもお見通しですのよ! 早めに学校を出たかと思ったらふらふらと街に繰り出して殿方を追い掛け回して!
 門限を無視し、今日だって朝にお帰りになられたかと思えば急に学校を休むと仰られて! 一体どういうつもりなんですの!?
 はっ、まさかその殿方に気があるのでは……!?」

「ぶっ、そ、そんなわけないでしょ!? 誰があんな奴なんか……」

しかし、本当のことを言うわけにはいかない。白井を巻き込みたくなかった。
と言うか、「男(上条)の家に一晩泊まりました」なんて正直に白状しようものなら、白井が発狂するのは目に見えている。
別に何もまったくやましいことなど無いのだが、きっと白井はその事実だけで大騒ぎするだろう。

尚、彼女が学校を休んだのは病院に行く為だ。
白井に心配を掛けない為に怪我したことも隠してこっそり病院に行ったのだが、どうやら逆に邪推する隙を与えてしまったらしい。
ちなみに冥土帰しに診てもらったお陰で、見た目には何でもないように見えている。

「ですがお姉様、でしたら何故こんなところにいらっしゃいますの? よもやあの殿方を待ち伏せしているのでは!?」

「だ・か・ら、違うって言ってんでしょうが!! まったくもう、何処をどうすればそんな結論に辿り着くのよ……」

「……本当に、本当ですの? 信じても良いんですの?」

「ええ、一片の疑いも持たずに全幅の信頼を置いてもらって一向に構わないわ。誓って私とアイツはそんなのじゃないんだから!
 大体アイツは鈍くて気が利かなくて向こう見ずで考えなしですぐ逃げるしお人好し過ぎて死にかけるし覇気が無いし「不幸だー」が口癖だし!
 あんなのを好きになるわけないじゃない!」

463 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/10(木) 21:25:06.60 ID:DJLHstIAo

「そ、そうですか……」

そこで、ふと美琴でも白井でもない人間の声が何処かから聞こえてきた。
異常に聞き覚えがある声だ。
……と言うか、つい数時間前に聞いたばかりの声だった。

何だか途轍もなく嫌な予感がする。
だから美琴は、錆びついたからくり人形のようにぎこちない動きで背後を振り返った。
そこには、一人の少年。
しかも、両手を地面についてうちひしがれていた。

「そこまで……、そこまで言わなくったって良いじゃないか……。俺だって傷付くんだぞ……」

「まあ、この殿方が例の? 本当に冴えない方ですのね」

「ちょ、ちょっと! この状況で追い打ち掛けなくったって良いじゃない!」

「追い打ちも何も、最初に悪口を言い出したのはお姉様ではありませんか」

「うぐっ……」

白井の指摘に、美琴は言葉を詰まらせてしまう。事実なので、言い返せないのだ。
よって、彼女は無理矢理話題を方向転換させることにした。

「そ、そんなことよりどうしてアンタはこんなところをうろうろしてるのよ! アンタは学校行ったんでしょ、いつもの補習は!?」

「……今日は珍しく記憶術(かいはつ)の補習が無かったんだ。
 ほら、最近はいつもお前らに勉強見て貰ってたから、それ以外の教科は結構マシになってきてさ、補習も無くなってきたんだよ。
 今日の補習は、確か現国と数学だったっけ」

「ふうん……、良かったじゃない。まあ、この私が見てあげてるんだからそれくらいは当然だけどね」

「……な、な……」

上条と美琴は至極普通の会話をしていたつもりだったのだが、何故かそれを聞いていた白井は真っ白な劇画調になっていた。
何だかあそこだけ違う話みたいだ。
そんな彼女を見た上条と美琴は互いに首を傾げるが、その瞬間に白井が弾けるようにして目を覚ます。

「お、お姉様ああああああああ!! 黒子は、黒子は悲しゅうございます! よもや、よもや、こんな類人猿とそこまで進展していたなどとは!」

「かっ、勘違いしないでよ! 私とコイツはそんなんじゃ……」

(何か凄い子だな……)

大暴れする白井とそれを抑えつけようとする美琴を他人事のように眺めながら、上条は失礼な感想を抱いていた。
女子校ってみんなこんな感じなのだろうか。怖いな。


464 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/10(木) 21:27:16.66 ID:DJLHstIAo

やがて美琴はやっとの思いで白井を大人しくさせることに成功させるが、未だに白井の興奮は収まらない。
それどころか、上条をぎろりと睨みつけてびしいっと指まで差してきた。

「こんな、こんな類人猿なんかにわたくしのお姉様を渡してたまるものですか! 宣戦布告ですわ!」

「いや、だから俺とビリビリは本当にそんなんじゃないって」

「ここまで見せつけておいてまだ誤魔化そうとするとは、まこと許し難いですわ!
 良いですの? わたくしの名前は白井黒子! お姉様の露払いを務めさせて頂いていますわ。よく覚えておきなさい!」

まるで捨て台詞のようにそれだけ言うと、白井は一瞬にしてその場から姿を消してしまった。
そういう光景を初めて見たわけではなかったが、上条は少し驚いた。それは、とても珍しい能力だったからだ。

「……何だったんだ、アイツ?」

「ああいう子なのよ、あんまり深く考えないで。悪い子じゃないんだけどね……」

「まあ、それは何となく分かるから良いんだが。お嬢様ってのは、みんなあんな感じなのか?」

「まさか。あの子が特別なだけよ。それに、あの子の本性はこんなもんじゃないんだから」

「へえ……。お前も苦労してるんだな」

「でもいざって時には頼りになるのよ? いや本当に。風紀委員だし」

「ああ、そう言えば腕章してたな。それにしても、空間移動能力者(テレポーター)か。珍しいよな。あんまり居ないんだろ?」

「そうよ。だからあの子は風紀委員でも重宝されてる。大能力者(レベル4)だし、訓練で鍛えてるから体術もそこそこいけるのよ」

「じゃあ、強いのか」

「もちろん。ま、流石に私には及ばないけどね」

言いながら、美琴は得意げに胸を張った。
なんだかんだ言って、美琴は自分が超能力者であることに誇りを持っているのだ。その強さに対するプライドも、人一倍高い。

「それよりビリビリはここで何してたんだ? ここ、常盤台から結構離れてるだろ」

「単にここが私のお気に入りってだけよ。そう言うアンタはどうしてこんな公園に来たの?」

「たまたまここを通りかかっただけ。ほら、ここって俺の寮に近いだろ?」

まったく意識していなかったが、そう言えばそうだった。
つい数時間前まで上条の寮に居たというのに、すっかり忘れてしまっていた。ここは間違いなく上条宅の近辺だ。
見回してみれば、確かにここからも上条の寮が見える。

「……ん? でもアンタ、鞄持ってないじゃない。これから何処か行くつもり?」

「いやー、あはは……」

465 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/10(木) 21:29:01.42 ID:DJLHstIAo

曖昧に笑う上条を見て、美琴が怪訝そうな表情になる。
これは、何かを隠している時の反応だ。

「何よ、アンタ何か隠してるでしょ。素直に白状しないと痛い目を見ることになるわよ」

「あー……、いや、まあ、お前にも話しておかないととは思ってたんだが……」

「だから、何?」

「一方通行に逃げられた」


……一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
コイツ、今なんて言った?

「ごめん、よく聞こえなかったわ。もう一回言ってくれる?」

「へ? ああ。今朝は混乱を避ける為に何も言わなかったんだが、実はアイツ、俺が目覚めた時にはもう居なかったんだよな。つまり行方不明。
 お前が何か言ってくる前に見つけて連れ戻そうと思ったんだが、これがなかなか見つからなくてさあ……」

「……アンタねえ……」

目の前で、聞き慣れた電撃音が唸り始める。
上条はそれを見て一瞬きょとんとしたが、すぐにそれの意味するところを察して目の前に右手を突き出した。
途端、紫電が上条に襲い掛かったが、彼はそれを難なく無効化する。

「な、何すんだよビリビリ!」

「それはこっちの台詞よ! そういうことはすぐに言いなさいよ、すぐに!」

「いや、すぐに見つけられると思ったから下手に心配させない方が良いかと思って……。意外と見つからないもんだな」

「当たり前でしょ!? 第七学区だけで一体どれだけの広さがあると思ってんのよ!」

「あ、やっぱり?」

「……呆れてものも言えないわ」

美琴は溜め息をつくと、頭痛を耐えるように頭を押さえる。
一応まずいことをしたという自覚はあるらしい上条は、それを苦笑いで誤魔化そうとしていた。

「まったく、アンタはどうしてそんなに楽観的なのよ……。もう良いわ、私も探しに行く」

「ああ、それは助かる。第七学区の中にはいるだろうけど、流石に一人でこの範囲を全部探すのは結構骨が折れるからな」

上条がほっとしたようにそう言うと、美琴はまた呆れたような顔をした。今度はじとっとした眼差し付きだ。
それを見た上条は気まずそうに彼女から目を逸らしたが、それで彼女の視線から逃れられる訳ではない。

466 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/10(木) 21:30:52.64 ID:DJLHstIAo

……しかし、一方通行にも言われたが、やはり楽観的すぎるだろうか。
それで人の気分を害してしまうようならば改善しなければとは思うのだが、これはもはや生来の性格なのでなかなか直せそうにない。
そんなことを考えていた上条は、ふと美琴に聞きたかったことがあるのを思い出した。

「……あ。そうだ、御坂妹のこと何か知ってるか?」

「妹? 何か用があるの?」

「そうじゃないんだけど、結局あれ以来会ってないからちょっと心配でさ。お前なら何か知ってるかと思って。
 知らないなら別に良いんだけど」

「いえ、一回会いに来たわよ。わざわざ常盤台まで挨拶しに。
 ……でも、そう言えばあの時のあの子はちょっと様子がおかしかったかしら。何だか急いでるみたいだったし……。連絡してみる?」

「いや、いいよ。用も無いのに電話するのは流石に悪いしな」

「そう?」

それ以前に上条も御坂妹の連絡先は知っているので、連絡したかったら自分からしている筈だ。
申し出を断られた美琴は、取り出しかけていた携帯と膝の上に置きっぱなしになっていたPDAをポケットの中に仕舞う。

「それに、御坂妹っていつも忙しそうじゃないか? だから、何となく連絡しにくいんだよ」

「いつも? そうだったかしら」

「あれ、知らないのか? 街で見かけると、いつも早歩きで歩いてるんだよ。声掛けても気付かないから、何か用事があって急いでるのかと思って。
 まあ、たまたま俺が忙しいときにばっか遭遇してるだけかもしれないが」

「そうなの? 私はあんまり街中であの子を見かけないから……」

「ん、そうなのか? でも確かに御坂妹はあんまりそういう素振りを見せないから、分かりにくいかもしれないな」

「……あら、上条ちゃん?」

唐突に聞こえてきた幼い少女の声に、二人は少し驚いた。
そして名前を呼ばれた当人である上条が振り返ってみると、そこには桃色の髪をした小学生くらいの女の子が立っていた。

「こ、小萌先生?」

「……先生? これが?」

「ああ、俺のクラスの担任の先生。……学園都市の七不思議にも指定されてるんだが、先生はこれでも大人だぞ」

「これでもとは何ですか、これでもとは! 先生は立派な大人なのですよ!」

「なるほど、学園都市の不老不死実験の被験者か何かかしら……。気の毒に」

「ち、違います! 先生は至極まっとうな人生を歩んできた上でこういう身体をしているのです!
 ああっ、そんな可哀想なものを見る目をしないで下さい!」

467 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/10(木) 21:33:10.40 ID:DJLHstIAo

「ああ、なるほど。実験の被験者だったからそういうことになっちゃったんですね。先生は」

「上条ちゃんまで!?」

小萌先生は大袈裟なリアクションを取りながら叫ぶと、その体勢のまま固まってしまった。
そんな小萌先生を見た上条は小さく噴き出すと、軽く謝りながら頭を下げた。少しからかい過ぎてしまったようだ。

「とまあ、冗談はこのくらいで。小萌先生はこんなところで何やってるんですか? 最近はずっと忙しそうでしたけど」

「はい。最近はあまりにも事件が多くて警備員の先生方が出払ってしまうということで、
 残された先生方の負担を軽減する為に雑務が減ることになったのですよ。
 もちろん授業の準備や研究には手を抜きませんけど、会議や諸々の報告事項が大幅に削減されたお陰でだいぶ楽になったのです。
 それに、最近は学校の方が事務をやってくれるアルバイトの方を雇ってくれているので、そちらの方もかなり負担が減ったのですよー」

「へえ、良かったですね」

「はいー。これで漸く上条ちゃんの相談にも乗ってあげられます」

小萌先生がは頼もしげに胸を叩いて見せたが、まだ目の下にはクマがあるし顔色も悪い。
それに、一方通行のことはあまり気軽に人に話してはいけないということがつい昨晩判明したばかりだ。ここで余計な心労を増やすべきではないだろう。
そう判断した上条は、申し訳ないが小萌先生を誤魔化すことにした。

「あー、それについてはもう解決したんで大丈夫です、心配させちゃったみたいですみませんでした」

「そうなのですか? ちょっと残念です」

「?」

蚊帳の外状態の美琴がきょとんとしている。事情が分かっていないのだ。
すると、突然小萌先生の視線が美琴に向き直った。

「ところで上条ちゃん。この子は?」

「ちょっとした知り合いです。えーっと、超能力者の御坂美琴っているじゃないですか? それがコイツです」

「あら、上条ちゃんはそんな凄い子とお知り合いなのですか?」

「あー……、まあ、そんな感じですね」

「御坂美琴さん、初めまして。上条ちゃんがお世話になってるみたいですね。これからも仲良くしてあげてくださいー」

「は、はあ……」

小萌先生に手を差し伸べられて、美琴は訳も分からないまま握手に応じる。
そしてやがて手を放すと、小萌先生は上条を見てにこりと笑った。

「それにしても、ここで会えたのは運が良かったです。ちょうど連絡しようと思ってたところだったんですよ」

「え? それってどういう……」

「上条ちゃん、これから先生の家に来れますか? 用事があるならその後でも良いんですけど」

「あー、えーと……。これからちょっとやらなきゃいけないことがあるので、後でも良いですか?」

「構いませんよ。それじゃ、これが先生の家の住所です。遅くなっても平気ですから、用事が終わったらちゃんと来て下さいね?」

「は、はい」

「それじゃ、絶対に来て下さいよー」

小萌先生はそれだけ言うと、意味が分からずに困惑している上条を残してあっという間に去って行ってしまった。
あんなに小さな身体をしているのに、実に素早い。
結局何が何だか分からずじまいだった美琴も、展開について行けずに茫然としたままの顔をしていた。


475 :◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/15(火) 19:54:14.57 ID:2woxd/9Lo

結局、あれから一方通行を見つけ出すことはできなかった。
けれどなかなか諦めることができなかった所為で、捜索を中断したのはだいぶ辺りが暗くなってしまってからだった。

……時刻は、既に八時過ぎ。
当然、完全下校時刻はぶっち切ってしまっている。

しかし遅くなっても構わないということだったので、上条は今更ながら小萌先生の家へと向かっていた。
小萌先生から貰った地図を頼りに夜の学園都市を彷徨っていた上条は、
持ち前の不幸でもって迷いに迷った末に、漸く小萌先生の自宅へと到着する。

「……ここ、か?」

だが、やっとの思いで目的地に辿り着いた上条を迎えたのは、見るも無残なボロアパートだった。
これなら上条の学生寮の方が何倍もマシ、と断言できる程の年季の入りようだ。

(確かに公務員の給料は削減する方向って聞いたが、流石にこれは……。よっぽど金遣いが荒いのか?)

しかし、それはあの教師の鑑と言うべき小萌先生からはかけ離れた人物像だ。
うっかりそんな想像をしかけてしまった上条はぶんぶんと頭を振ってそれを掻き消すと、小萌先生の部屋の呼び鈴を鳴らす。
するとわざわざ待機していてくれたのか、小萌先生はすぐに扉を開けて上条を迎え入れてくれた。

「いらっしゃいなのですよー。すみませんね、こんな時間にわざわざ来てもらっちゃって」

「いえ、大丈夫ですよ。こっちの用事に手間取った所為ですし」

申し訳なさそうに言う小萌先生に笑顔で返していた上条だが、小萌先生の家に入った瞬間にその表情が凍りついた。
そんな上条の表情を見て、小萌先生は恥ずかしそうに身体を縮こませる。

「す、すみません。これでもだいぶ片付けた方なんですけど……」

「……い、いや、あはは。でも一人暮らしってこんなもんですよ、うん……」

何とか取り繕おうとするが、上条は室内の惨状を見て顔が引き攣っているのが自分でも分かった。
しかし、上条がそんな反応をしてしまうのも無理はない。
何故なら小萌先生の部屋は、およそ彼女の外見からは想像できないほどに荒れ果てていたからだ。

煙草の吸い殻の詰め込まれたビールの空き缶がいくつも転がり、ハズレ馬券と思しき紙切れが無数に散乱している。
これではまるで、タチの悪い酒飲み親父の家だ。……テレビドラマでも見たことが無いようなレベルの。

「そ、そんなことより! 上条ちゃんに来てもらったのは、これをお渡ししたかったからなのです」

「? 何ですかこれ」

悲惨な室内をまじまじと見つめられることに耐えられなくなったらしい小萌先生が、ずいっと白くて大きな箱を差し出した。
上条は、この箱に見覚えがある。結構最近目にしたものだ。

476 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/15(火) 19:56:16.17 ID:2woxd/9Lo

「……先生、これって」

「上条ちゃん、先生を誤魔化そうとしてもそうはいかないのですよ。
 少し悪いとは思ったのですが、上条ちゃんが病院通いをしていると聞いて事情を調べさせてもらいました。
 どうやらまた何かに首を突っ込んでいるみたいですね」

その言葉に、上条はぎくりとする。
小萌先生が一体どこまでの事情を把握しているのかは分からない。
しかし、一方通行のことを風紀委員や警備員に報告されてしまったら一巻の終わりだ。

「それで、これを上条ちゃんのお友達に渡してあげてください。そして、学校に通うように呼びかけてあげてください。
 先生たちは、いつでも誰でも大歓迎ですから!」

「……その、小萌先生。このことは、警備員や風紀委員には……」

「……え? どうしてそこで風紀委員や警備員が出てくるんですか?」

しまった。
上条の表情が凍りつく。
小萌先生は、上条が思っている程事情を把握していなかったようだ。

いや、それはそれで幸運なことだ。
深い事情は知れば知るほど、小萌先生を危険に晒すことになる。
しかし今回は、それが不運に働いた。
余計なことを言ってしまったと後悔してももう遅い。小萌先生は疑念の眼差しで上条を見つめてきている。

「……上条ちゃん、それはどういうことですか? まさか、もしかして、本当にもの凄い厄介ごとに巻き込まれてたり……」

「い、いや、別にまったくもってそんなことは無いというか……」

「上条ちゃん?」

だらだらと大量の汗が流れる。言い逃れは不可能だ。
しかし、ここで白状してしまうわけにはいかない。そんなことをすれば、小萌先生まで巻き込むことになるかもしれないからだ。

「……すみません、言えません。
 ただ、アイツのことは風紀委員とか警備員とか、とにかく上層部みたいなところには絶対に報告しないで下さい。お願いします」

「………………」

上条が、深々と頭を下げる。
しかしそれを見ても、小萌先生は難しい顔をしたままだった。
暫らくの、無言。

上条は頭を上げない。
そんな彼を見ていた小萌先生は、やがてはあっと呆れたような溜息をついた。

477 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/15(火) 19:58:16.00 ID:2woxd/9Lo

「……分かりました。先生は、何も聞かなかったことにします」

「ありがとうございます!」

上条が、再び頭を下げた。先程よりも深く。
小萌先生はそれを見ると慌てて頭を上げるように促し、上条の持っている白い箱を見ながら言った。

「……それは、ちょうど余りがあったのを譲って貰ったので、その子に無償でプレゼントしてあげようと思って持って来たものです。
 ただ、サイズがちゃんと合っているかどうかが分からないので、上条ちゃんが確認してくれますか?」

「は、はい」

上条が、慌てて白い箱を開く。
その中には、綺麗に折り畳まれた新品の制服が収められていた。

通常よりも少し小さめの制服。
一方通行は普通の人と比べて華奢なので、きっとこのサイズでぴったりの筈だ。
……これさえあれば、一方通行はいつでも学校に行くことができる。

「これで、大丈夫だと思います。……本当にありがとうございます」

「いえいえ、先生の勝手なお節介です。気にしないでください」

「絶対にアイツに渡して、学校に通うように言いますから。少し時間が掛かるかもしれませんけど……」

「はい。期待して待っていますね」

にこり、と小萌先生が無邪気な笑顔で笑う。
ここまでして貰ったからには、絶対に一方通行を連れ戻して、自分たちと同じような普通の生活を送らせてやらねばならない。
上条は改めて決意を固くすると、制服の入った箱の蓋を閉じた。

「それじゃ、上条ちゃん。今日はもう遅い時間なので、そろそろ帰った方が良いですよ? それから、明日はちゃんと遅刻しないで来て下さいね」

「わ、分かってますよ。じゃあ、お邪魔しました」

上条は最後にもう一度小萌先生に向かって頭を下げると、見送られながらその家を後にする。
一人帰路を急ぐ上条は紙袋に入れた白い箱を眺めると、袋の持ち手を握っている方の手をぎゅっと強く握り締めた。



―――――

478 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/15(火) 20:01:42.90 ID:2woxd/9Lo



廃ビルに、照明などあるはずもない。
一方通行は月明かりさえ届かない真っ暗な部屋の隅で、壁を背にして携帯電話を弄っていた。
よって、この場における光源は携帯電話のみ。

目が悪くなってしまうことも気にせずに、一方通行は真面目な顔で携帯を操作し続けている。
携帯電話の画面に映っているのは、学園都市の求人情報。
今日一日は休養に充てることにしていたのだが、それでもまったく何もしないというのも勿体ない気がしたので、
あれから目を覚ました彼はこうしてずっと携帯を通じて仕事を探していたのだった。

……しかし、どれもこれも条件が厳しい。
冥土帰しに偽造してもらった身分証があるからその辺りの心配はいらないのだが、条件に『学校に通っていること』という項目があるのだ。
それは一般の大人がスキルアウトのような子供たちから身を守る為のものなのだが、今の一方通行にとっては非常に難しい条件だった。

一方通行くらいの年齢の子供は普通、学校に通っている。
にも関わらず学校に通っていない子供なんてのは、通常スキルアウトくらいのものなのだ。
だから、相手の言い分も理解できる。

……理解はできるのだが、今の一方通行にとってこれほど恨めしい条件は無かった。
学校に行くことができないから仕事を探しているのに、学校に行っていないからと言う理由で仕事に就けないとは。

(……どォしたモンかねェ……)

何処をどう探してみたところで、やはり目ぼしい仕事は見つからない。
一方通行は溜め息をつくと、結局何の情報も彼に与えてくれなかった携帯電話をぱたんと閉じた。
途端、辺りは真っ暗闇に包まれる。

(やっぱり、自分の足で探して直接交渉なりなンなりするしかねェな。最悪、能力を利用した実験台も覚悟するか。……限度はあるが)

辺りは真っ暗で何も見えないというのに、一方通行は少し離れた場所にあった鞄を正確に引き寄せて携帯電話を仕舞い込む。
そして冷たく硬い地面にごろんと横になり、目を閉じた。
ちなみに、流石に目が覚めた時に体中が痛くなっているのはごめんなので、多少能力で身体を保護している。

つい数時間前に起床したばかりだというのに、眠気はすぐに襲ってきた。
そしてうとうととし始め、いよいよ意識が睡眠の闇の中に落ちそうになった、その時。

こつん。
足音。
少し遠くから、しかし確実にこちらに向かって歩いてきている、足音。
その音に、眠りに落ちようとしていた一方通行は飛び起きた。

(何モンだ? 追手、いやただのスキルアウトの可能性も……)

しかし、どちらにしろ敵には違いない。
一方通行は起き上がると、壁に背を付けて部屋の外の様子を窺った。
遠くの方に、小さな光が見える。
どうやら、相手は懐中電灯を持っているようだ。

479 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/15(火) 20:04:57.06 ID:2woxd/9Lo

足音は、どんどん近付いてくる。
数は、一つ。
今更どんな奴が出てきたところで後れを取ることはないだろうが、警戒するに越したことは無い。
一方通行は徹底的に気配を殺しながら、近付いてくる足音の正体を探る。

そして、遂に足音は一方通行の部屋の目の前までやって来た。
同時、彼は能力を発動させて廊下にいる筈の人物の目の前に飛び出す。
すると。

「おや、一方通行ではありませんか、とミサカは予想外の遭遇に驚きます」

「……御坂妹ォ!?」



―――――



「まあ、端的に申しますと少々悪さが過ぎて研究所から追い出されてしまったのです、とミサカは自らの置かれている状況を説明します」

「……大丈夫なのか? ソレ」

「永久追放と言うわけではありませんし、大丈夫でしょう、とミサカは楽観します」

御坂妹が持って来た折り畳み式の机を挟んで、二人は向かい合って座っていた。
天井には、同じく御坂妹持参の照明が取り付けられている。
本人が言うには追い出すにあたって一通り必要なものを預けられたとのことなのだが、それは果たして追い出す意味があるのだろうか。

「だが、オマエは生きる為に定期的に調整が必要なンじゃなかったか?」

「その通りです。ですが、調整が必要になったら帰って来ても良いということでしたので問題ありません、とミサカは某研究員を思い出しながら解説します」

「ふゥン……、意味分かンねェ」

これではますます追放された意味がない気がするのだが、まあ彼女にも色々な事情があるのだろうと思うことにして自分を納得させた。
そして、一方通行は部屋の隅に置かれている御坂妹の鞄をちらりと見やる。
御坂妹の持って来た鞄は、一方通行の鞄の何倍も大きく、しかもぱんぱんに膨らんでいた。

「……で、オマエは何でこンなところに居るンだ?」

「目的はあなたとほぼ同じかと。寝床を探して彷徨っていたら偶然あなたと遭遇したにすぎません、とミサカは説明します」

「あァ、そォ……。他当たれ」

「何故ですか、とミサカは驚愕を露わにします」

「何故って、オマエなァ……。ここにはもォ俺がいるだろォが。だからオマエは他の所行け」

480 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/15(火) 20:07:31.37 ID:2woxd/9Lo

「でしたら一緒に住めば良いではないですか、とミサカは提案します」

「駄目だ」

「どうしてですか、とミサカは首を傾げます」

「どォしてもだ」

「それでは、あなたはミサカをこの物騒な夜の学園都市に放り出そうとするのですね。
 そしてミサカが夜な夜な学園都市を徘徊しているスキルアウトに襲われて、あーんなことやこーんなことをされても一向に構わないと、
 そう仰るのですね、とミサカはあなたの薄情さに慄きます」

「そこまでは言ってねェだろォが!」

「と言うわけでミサカを守ってください、とミサカは図々しく申し出ます」

「……はァ」

本当に図々しい御坂妹を眺めながら、一方通行は頭を抱えた。
……コイツには本当に敵わない、と思う。

しかし、御坂妹の言うことももっともだ。
如何に軍用クローンと言えど、肉体年齢中学二年生の少女を飢えた野獣どもの徘徊する学園都市に放り出すのはよろしくない。
しかも、スキルアウトはただの不良ではない。武装しているのだ。
確かに御坂妹はかなり戦闘に長けている方だが、それでも寝込みを襲われたり、武装した複数人に襲われたら危ないかもしれない。
安心して眠る為には、信頼のおける人間がそばにいる必要がある、と言うのも事実だった。

「……、……。御坂の寮に行けば良いじゃねェか。アイツなら快く受け入れてくれるだろ」

「ご存じありませんか? お姉様の寮を管理している寮監は、非常に厳しいことで有名なのです。
 もしお姉様が学校に秘密でミサカを匿った場合、お姉様が一体どんな目に遭うことになるのか考えただけで恐ろしいです、
 とミサカは暗にお姉様は頼れない旨を伝えます」

「オマエを放り出した研究者どもに金は渡されてねェのか。ホテルでもなンでも行けば良いだろ」

「一応お金は渡されていますが限られていますし、学生の多い第七学区にホテルなどほとんどありません。
 今から探しに行くのもそれはそれで危険かと、とミサカは可能性を潰していきます。……そろそろ諦めたらどうですか?」

「………………」

その時、御坂妹がほんの僅かだけ勝ち誇ったような表情をしたのを、一方通行は見逃さなかった。
非常に腹立たしい。
……腹立たしい、が。

「わァかったよ。好きにしろ」

「ありがとうございます、とミサカは感謝します」

遂に折れた一方通行に、御坂妹はにこりと笑う。
そんな彼女を見て、彼は再び大きな溜め息をついた。

481 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/15(火) 20:10:19.60 ID:2woxd/9Lo

……しかし、止むを得ないとは言え、厄介なことになってしまった。
今は垣根帝督を撃破した直後なので比較的安全な状況とは言え、それでも彼がまだ狙われているということには変わりない。
これでは、きっと御坂妹まで巻き込んでしまうことになる。

それは、何としてでも避けなければならない。
一体彼女が研究所から追い出されているのはどれくらいの期間になるのかは分からないが、それまでの間、何とかして彼女を守らなければ。

「……とまあ、色々と不安を煽ってはみましたが、ミサカもそこそこ戦えると自負していますのでそこまで緊張しないでください、
 とミサカは難しい顔をしている一方通行に語り掛けます」

「……そンなンじゃねェよ。それより、オマエはいつまで研究所に帰れねェンだ?」

「そうですね、それほど長い期間ではありません。三日と言ったところでしょうか、とミサカは追放期間を提示します」

「ふゥン……、まァ、それくらいならいけるか……?」

「…………」

ぶつぶつと独り言を言っている一方通行を見ても、御坂妹は何も言わなかった。
それどころか彼女は一方通行を無視して巨大な鞄を漁り始め、更にその中から毛布を引っ張り出しはじめる。しかも、何故か二枚。

「オマエ、なンだそりゃ」

「見てわかりませんか? 毛布です、とミサカは愛しいこのもふもふを見せびらかします」

「そンなことを訊いてンじゃねェよ。このクソ暑ィ時期に、なンで二枚も毛布なんか持ってきてンだ?」

「ミサカは寒がりなのです。ですが今回は特別に一枚あなたに貸し出してあげます、とミサカは懐の広さをアピールします」

「いらねェよ」

「遠慮なさらないで下さい。こんな固い地面に直に寝たら身体が痛くなってしまうでしょう、とミサカは親切心を発揮します」

「能力で保護してる。心配ねェ」

「なんて勿体ないことに能力を使っているのですか。
 それでいざというときに頭痛になったりして、能力が使えなかったらきっと困りますよ? とミサカは諭します」

「……はァ、分かったよ。使えば良いンだろ、使えば」

「素直で何よりです、とミサカは説得に成功して満足します」

言いながら御坂妹が毛布を差し出すと、一方通行はひったくるようにしてそれを奪い取った。
御坂妹はそれを見て満足そうな動作をすると、自分用の毛布を身体に巻き付け、そのままその場にごろんと寝転がる。

「おいコラ、ちょっと待て」

「何でしょうか、とミサカは睡眠を妨害されて不機嫌になります」

482 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/15(火) 20:12:05.07 ID:2woxd/9Lo

「そこで寝ようとすンな。他の部屋行け」

「何故ですか」

「この状況は客観的に問題があンだろォが! そンなことも分かンねェのか?」

「おや、それではあなたはミサカに手を出すつもりがあるのですか? とミサカはエロ親父のようなニヤニヤ笑いを浮かべます」

「うぜェ! ンなことする訳ねェだろォが、客観的に見ておかしいだろっつってンだ」

「ですが、ミサカが他の部屋に行ってしまうことによってミサカが襲われた時にあなたに気付いて貰えなかったら大変なことになります。
 それともあなたはミサカが何者かに」

「あー! もォ分かったよ、勝手にしろ!」

「はい、勝手にさせて頂きます、とミサカは言い逃げして眠りにつきます。おやすみなさい」

有言実行、御坂妹はそれだけ言うと再び地面に寝転がった。
そして驚くべき寝付きの良さによって、彼女はわずか数秒で寝息を立てはじめる。

一方通行は御坂妹の寝顔をしばらく見守っていたが、やがて点けっぱなしになっていたランプの明かりを消して部屋の壁際へと歩いていく。
流石に彼女のそばで寝るのは悪いと思ったのか、それとも彼女に対する最後の抵抗だろうか。
ともあれ彼は部屋の壁際までやって来ると、御坂妹のように毛布をかぶり、壁に背を付けて座るとそっと目を閉じる。


彼は暫らく様々な考えを巡らせていたが、すぐに眠りに落ちていった。



484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/02/15(火) 20:20:32.48 ID:jaWXy5euo
久々の御坂妹と一方さんの絡みとは・・・!
つかあっさりと知り合いに見つかっちゃったな一方さんwwww

486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/02/16(水) 00:16:12.63 ID:WVBUUAuP0
このss内で記憶を失った一方さんが見せる何気ない仕草に凄く心を打たれる。

489 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/20(日) 00:32:33.59 ID:k31JosIBo




殺される夢ではなく、
殺す夢を見た。





490 :◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/20(日) 00:36:33.80 ID:k31JosIBo

「…………!」

廃ビルの一室で眠っていた御坂妹は、驚いてがばっと飛び起きた。
しかし周囲を見回せば、そこは眠った時と寸分違わぬ静かでひんやりとした灰色の部屋。昨晩と全く同じ、何も変わらない。
壁際では、御坂妹の持って来た毛布に身を包んで眠っている一方通行の姿もあった。

それを見て、御坂妹は漸く平静を取り戻す。
そして彼女は鞄の中に入れておいたタオルを取り出し、僅かに伝う汗を拭った。
大した発汗もなく息切れも起こしていないので見た目には何とも無いように見える彼女だが、心臓はばくばくとしている。
彼女は、胸に手を当てて鼓動が収まるのを待った。
やがて鼓動が穏やかになってくると、彼女は被っていた毛布を剥ぎ取って一方通行の眠っている場所へと歩いていく。

そして一方通行の目の前までやって来た彼女は、その場に座り込んで未だ眠り続けている一方通行の顔を覗き込んだ。
寝息を立てている。動いている。生きている。何も、問題ない。

(……それにしても珍しい夢でした、とミサカは暢気な感想を述べます)

御坂妹はそもそも夢自体、滅多に見ることは無い。
だと言うのに、たまに夢を見たと思ったら、これだ。……気分が悪い。
もう二度と夢など見たくないな、と彼女は思った。

(時刻は……、13時32分ですか。明らかに寝過ごしてしまいました、とミサカは目覚ましを掛け忘れたことを後悔します)

……一方通行の護衛の為にミサカネットワークを駆使して彼を捜索していたにも関わらず、こんなところに隠れられていた所為で見つけるのに手間取ってしまった。
しかしそれ以上に、昨晩は事後処理や諸々の作業に追われて非常に忙しかった。
恐らく、御坂妹も一方通行と同じで疲れが溜まっていたのだろう。
とは言え、今のところこれといってやるべきことはない。今はただ、ここでこうしていることしかできないのだ。

御坂妹は小さくため息をつくと、再び一方通行の顔を覗き込む。
もうずっと見つめ続けているというのに、飽きないのだろうか。
彼女は暫らくそのままじっとしていたが、やがて観念したように一方通行がもぞりと身動ぎした。

「……オイ、いつまでそォしてるつもりだ?」

「おや、起こしてしまいましたか、とミサカは申し訳なく思います」

「最初っから起きてた。オマエが突然目の前に来たから起きづらかったンだよ」

「そうでしたか、それは申し訳ありませんでした、とミサカは謝罪します」

御坂妹が目の前から退くと、彼はすっくと立ち上がって少しだけ汚れの付いてしまった服をはたき始めた。
はっとして、御坂妹も自分の服装を見下ろす。
制服のまま毛布にくるまって眠っていた所為で、ブラウスもスカートもくしゃくしゃになってしまっていた。
流石にこれではみっともないので、御坂妹は必死になって服の裾を引っ張って皺を伸ばそうとする。

「服の替えはねェのか?」

「あるにはありますが、あと一着しかないので無駄遣いはしたくありません、とミサカは倹約を宣言します」

「あァそォ……。つっても、ソレじゃ外に出れねェだろ」

「だから今こうして一生懸命引っ張っているのではありませんか、とミサカは引き続き人力アイロンを実行します」

491 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/20(日) 00:38:18.24 ID:k31JosIBo

「止めとけ、服が伸びて余計にみっともないことになるだけだ。素直に着替えろ」

「ですが服の替えが無いといざというときに困ります、とミサカは渋ります」

「それを寝巻にして、もう一着を外出用にすれば良いだろォが。それか、ランドリーがその辺にあった筈だからそこにぶち込ンどけ」

「ふむ……。ではあなたの言う通りにしましょう、とミサカは妥協します」

「そォしろ。俺は出てくる」

早速着替えを始めようとした御坂妹に背を向けて、一方通行が部屋から出ていこうとする。
それに気付いた御坂妹は、すかさず彼を引き止めた。

「待ってください。何処へ行くのですか? とミサカは質問します」

「仕事探しだよ。いつまでもこンなところに住むワケにはいかねェだろォが。金も無限じゃねェし、オマエと違って帰る場所もねェンだよ」

「それでしたら、ミサカが力になれるかもしれません、とミサカは胸を張ります」

「……はァ?」

思わず、と言った調子の声を上げながら一方通行が振り返る。
するとそこには、ブラウスのボタンを全開にしたまま得意げに胸を張る御坂妹の姿があった。

「……オマエ、何してンの?」

「おおっと、これは失礼しました。すぐに着替えを完了させるのでしばらくお待ちください、とミサカは慌てて服を脱ぎます」

「そっちじゃねェよ、アホか。もォ良い、俺はあっちに行ってるからな。着替え終わったら呼べ」

それだけ言うと、一方通行は踵を返してすたすたと立ち去ってしまった。
とは言え、足音は少し行ったところですぐに止まってしまったので、隣の部屋に移動しただけのようだが。
御坂妹は一方通行の行動の意味が分からないとでも言うように首を傾げていたが、すぐに本来の目的を思い出して着替えを再開した。



―――――



「で、仕事のアテがあるって話だったか?」

「そういう話でしたね、とミサカは同調します」

着替えが完了してパリッとした制服に着替えることの出来た御坂妹は、心機一転といった調子で一方通行と向かい合っていた。
その隣にはくたびれた制服が畳んでおいてある。結局、御坂妹はあれを寝巻にすることにしたようだった。

「そのアテってのはなンだ?」

492 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/20(日) 00:41:05.31 ID:k31JosIBo

「ミサカの調整を行っている研究所のことです。ちょうど人手が足りないと嘆いているところだったので、恐らくすぐに雇ってくれるでしょう。
 それに、法的に禁止された人間の体細胞クローンを研究する場所ですから、ぶっちゃけ後ろ暗い連中ばかりです。
 誰も深く詮索はしてこないでしょうし、多少素性が分からないような人間であっても問題ないかと思われます、とミサカは説明します」

「ほォ、確かにそれならうってつけだな」

「そうでしょう、とミサカは得意げに無い胸を張ります」

「それもォ止めろ」

両手を腰に当て、再び平べったい胸を前面に押し出している御坂妹を見て、一方通行が呆れたように言った。
すると、御坂妹は少し不服そうにしながらもそのポーズを止める。

「他でもないあなたの願いなら聞き入れる他ありませんね。それから、言い忘れていましたがこれには一つ問題があります、とミサカは告白します」

「なンだ?」

「ミサカは現在研究所を追放されている身ですので、最低でもあと二日は研究所にあなたを紹介することができません、とミサカは項垂れます」

「あァ、その程度なら構わねェ。仕事を探すのに、もっと時間を掛けることも覚悟してたからな」

「そうですか? それなら良かったです、とミサカは胸を撫で下ろします」

もちろんこれは、もともと最低でも三日は彼のそばにいる為の方便だったのだが、最初にそう説明してしまった以上今更翻すこともできない。
それに彼は異常に記憶力が良いので、下手なことを言って矛盾を発生させてしまうと追及されてしまう。
なので御坂妹は、無理に最初の発言を覆したりはせずに話を合わせた。
正直この状況は願ってもいないくらいの好転だったので今すぐにでも彼を研究所に案内したかったのだが、そんな無茶をして疑われてしまっては元も子もない。

「というわけで仕事は決定してしまったわけですが、これからどうするつもりですか?
 ミサカにも特に予定はありませんので、何処かに行くのでしたらミサカも同伴させて頂けると嬉しいです、とミサカは希望します」

「俺もこれと言って予定はねェな。……何処か行きてェ場所があるのか?」

「特にはありませんが、ここでじっとしているのは嫌ですね。取りあえずこの辺りをぶらぶらしましょうか、とミサカは提案します」

「ン、じゃあそォすっか。腹も減ったしな」

「そう言えばまだ何も食べていませんでしたね。ついでに食事も済ませてしまいましょう、とミサカは外食に心躍らせます」

「……期待してるとこ悪ィが、この辺は大したモンは無かったはずだぞ」

「料理の質自体にはさほど興味はありません。外食という行為自体、何かわくわくしませんか? とミサカは自らの価値観を語ります」

「ま、オマエが良いならなンでもイイけどよ……」

一方通行が席を立ち、部屋から出ようとする。
もちろん御坂妹もその後について行く為に、立ち上がってその背中を追おうとした。

493 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/20(日) 00:45:19.19 ID:k31JosIBo



すると、その時。
何故か唐突に、先程見た夢が目の前の彼に重なって見えた。




咄嗟。本当に、思わず。
御坂妹は、一方通行の手首をはっしと掴んでしまった。
彼女の突然の行動に驚いた一方通行が、珍しくきょとんとした顔をして御坂妹を見つめている。
そんな彼の顔を見て御坂妹ははっと我に返ると、慌てて彼の手首を解放した。

「……なンだ?」

「い、いえ、何でもありません。驚かせてしまって申し訳ありません、とミサカは頭を下げます」

「いや、それは別に良いンだが……」

一方通行は何か言いたそうにしていたが、そこで言葉を切ったきり、何も言わずに再び御坂妹に背を向けてしまった。
御坂妹も彼に倣って何も言わずに、黙って後を付いて行くことにする。

(……夢、ですか。まったく馬鹿馬鹿しいですね、とミサカは一人溜め息をつきます)

黙々と彼の後に続きながら、御坂妹はあの夢のことを考えていた。
けれど、どちらにしても有り得ないことだ。
そう。殺すにしても殺されるにしても、有り得ない。
どうして今更あんな夢を見てしまったのか、自分でも不思議なほどだ。

そう言えば何処かの心理学者が夢は自分の願望を表すとか言っていたが、アレは嘘っぱちだ、と御坂妹は確信する。
だって自分は微塵もそんなことを望んでいないし、そうならない為に今日まで頑張ってきたのだから。
そして、その気持ちには何の嘘偽りも無い。紛れもない本心だ。

(そう、有り得ないことです。……有り得ないようにする為に、ミサカたちは……)

……『反対派』や木原数多たちとの戦いは、現在休戦状態にある。
どちらも予想していなかった結果になってしまった為に、両者ともがどうしたら良いのか分からず作戦会議を行っているからだ。
本当なら『推進派』のリーダー格である彼女もそれに参加するべきなのだが、どうもそうする気になれない。
と言うか、正直に言うと何の案も出ないに決まっているので面倒くさいのだ。
それにこちらの方がよっぽど有意義な仕事だし、何より楽しい。他の妹達には申し訳ないが、彼女が適任なのも事実なのだ。

(はあ。本当に、これからどうすれば良いのでしょうか、とミサカは途方に暮れます)

彼がこの学園都市に残るということに関しては、一抹の不安が残るがまあ構わない。それに、彼の意志が最優先だ。
しかし、この先。この先をどうするかが問題だった。
いくら彼が強くなったと言っても、幻想殺しと超電磁砲が味方に付いていると言っても、この状況を維持するのは難しい。
だが、彼女たちの仕事はそれを何とかして維持させることだった。

……いや、もしかしたらあの三人の力をもってすればそれも可能かもしれない。
しかしそこはもう完全にあの三人の領分であって、彼女たちの出る幕は無いのだ。彼女たちの戦闘能力は、そこまで高くない。
出来ることと言えば、せいぜい一方通行の天敵である木原数多と彼率いる猟犬部隊を牽制することくらいだ。
しかもそれは完璧ではない。訓練された暗部組織である猟犬部隊を完全に抑えられるほど、彼女たちは強くないのだ。

494 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/20(日) 00:47:30.43 ID:k31JosIBo

(……とにかく、足手纏いだけはごめんですね。とにかく情報封鎖から始めないとでしょうか、とミサカは結論付けます)

「オイ、早くしねェと置いてくぞ」

突然一方通行に声を掛けられて、御坂妹は慌てて顔を上げた。
考え事をしている内に、歩調を遅めてしまっていたらしい。
御坂妹はいつの間にやら置いて行かれていたらしく、一方通行がかなり先に行ったところで立ち止まってくれていた。

「申し訳ありません、とミサカは慌てて歩調を早めます」

「……顔色が悪ィな。体調が悪いのか?」

「いえ、そんなことはありません。昨日からろくにものを食べていないので空腹の所為かと、とミサカは推測します」

「ふゥン……」

一方通行は一瞬胡散臭そうに御坂妹を見つめたが、それだけだった。
彼はそのまま踵を返し、すたすたと歩いて行ってしまう。
その後を、御坂妹は慌てて追いかけていった。ただでさえ距離が開いているので、これ以上先に行かれたら見失ってしまう。

御坂妹は一方通行を追って、駆け足で廃ビルを後にした。



―――――



一方通行が御坂妹と共に昼食を食べに出ている頃。
上条と美琴もまた、行方不明になってしまった一方通行を探して第七学区を彷徨い歩いていた。

「ったく、アイツ一体何処にいるんだよ……」

「目ぼしいところは大方当たってみたけど、全部ハズレとはね。一つくらいヒットするかと思ったんだけど」

何処の誰に聞いても知らないという答えしか返ってこないので、最初は楽観視していた上条も少し焦り始めていた。
一方通行くらいの子供が働く場所を探そうとするのなら、第七学区くらいしかアテはない筈。……にも関わらず、まったく見つかる気配がない。

実際は、一方通行はあれからちっとも行動を起こしていないから見つからないだけなのだが、二人はそこまで考えていないようだった。
何しろ上条は驚異的な回復力で自力で怪我を治してしまったし、比較的重症だった美琴はさっさと病院に行って治してもらったので、
当然一方通行も彼らと同じように回復してすぐに行動を開始しているものと思い込んでしまっているらしい。

「流石に第七学区内にはいると思うんだが、第七学区も広いからなあ……」

「一応、アイツの行動パターンを考えて範囲指定してるけどね。もうちょっと探索範囲を広げるべきかしら?」

「そうかもなあ……。アイツのことだから、できるだけ人を巻き込まないように第七学区の中でも人気の無さそうなところにいるんじゃないか?」

「その考えには大方同意だけど、一体この第七学区にどれだけの数そんな場所があると思ってるのよ?」

495 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/20(日) 00:50:27.22 ID:k31JosIBo

「第七学区って意外と寂れてるところ多いんだよな。隠れやすい廃屋なんかも多いから、よくスキルアウトが根城にしてるし……」

もちろん、そういう場所を探しては見た。
しかし当然ながらそういう場所にはスキルアウトが跋扈しているので、わざわざ彼らを排除してから探し回らなければならない。
準備だけでも一苦労なのだ。

スキルアウト相手なら少しくらいなら上条も戦えるが、相手が三人以上なら迷わず逃げる。
つまり大量のスキルアウトが潜んでいそうな場所を探索するときは美琴に頼らざるを得ないので、なかなかそういう場所には行けないのだ。
自身が情けない以上に、上条は女の子である美琴にあまりそういう場所に近付いてほしくなかった。

「まあ、スキルアウトが隠れやすいってことはアイツが隠れてる可能性も十二分にあるんだけどね。やっぱりその辺を中心に探すのが……」

「いやいや、危ないって。俺だってあんまり大量のスキルアウトは相手できないし……」

「何回言わせるつもり? 私があんなスキルアウトに負ける訳ないでしょ。そんなに心配してくれなくても大丈夫だってば」

「でも、あそこはお前が思ってる以上に物騒なんだぞ? 本当に。それに、最近はスキルアウトも狂暴化してるって話だし」

「……そう言えば、そんな噂もあったわね。テロが頻発し始めた頃だったかしら?」

「言われてみればそれくらいだな。武器が大量に横流しされたりしたのか? 学園都市の治安はどうなってるんだか」

「ま、その武器だってどうせ金属製なんだから私には関係ないんだけどね」

「まあお前にとってはその通りなんだろうが……。何か、スキルアウトが能力を持ち始めてるって話も聞いたな」

「……スキルアウトが、能力を? それスキルアウトじゃないんじゃない?」

「確かにスキルアウトの定義が微妙に崩れてるけどな……」

スキルアウトとは、武装無能力者集団のことだ。
要するに、構成員のほぼ全員が無能力者。
まったく能力者がいないというわけではないだろうが、それでもかなりの低能力者の筈なので実戦には向かないはずだ。

……にも関わらず、『能力を持ち始めている』と言う噂が立つほどになっている。
それはつまり、スキルアウトが能力を使って脅迫や暴行を行っている現場を見た人間が居る、ということだ。

能力を持っていないが故に武装していたはずのスキルアウトが、能力を持ち始めている。
武装能力者集団。
問題になっているという話は聞いたことがないが、もしそんなものが実在するとしたら脅威だ。
殆どの学生の安全が、脅かされることになってしまうだろう。

「それでも私の敵じゃないけどね」

「そりゃそうだろうけど、頼むから危機感を持ってくれよな。お前の能力が通用しない新兵器とか能力とか、無いとは言い切れないんだからな」

「新兵器はともかく、相手が能力者ならアンタが負ける訳ないじゃない」

「……ビリビリはほんと、俺のこと買い被り過ぎだって。上条さんはそんなに強くありませんのことよー」

「そういう台詞は一回でも私に負けてから言いなさいよ。何だかんだ言ってあれから勝ててないのよね……。あ、なんか腹立ってきた」

496 : ◆uQ8UYhhD6A[saga]:2011/02/20(日) 00:52:39.98 ID:k31JosIBo

「頼むからこんなところで放電しないでくれよ。俺はともかく、ほぼ確実に周囲に被害が及ぶから」

「分かってるわよ。流石にアンタ以外に迷惑をかけるのは、ね」

「ちょ、それどういう意味ですかビリビリさん?」

「つーんだ」

美琴はそう言って上条から顔を背けると、少し歩調を早めて彼を追い抜かしてしまった。
先に行ってしまおうとする彼女を、上条は慌てて追いかける。
追われる美琴は一度だけ振り返ってあっかんべーをすると、更に上条を引き離すべくさっさと走って行ってしまった。

498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage ]:2011/02/20(日) 01:22:14.12 ID:g/9UH//X0
一方さん達と上条さん達は外食先で合流できるか……?

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posted by JOY at 08:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 禁書SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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