2010年08月17日

ダンテ「学園都市か」4(勃発・瓦解編)

303 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:02:15.92 ID:/GU/YuMo
―――

フォルトゥナ港。

年季の入った寂れた港。

古い桟橋は黒ずみ、フジツボが柱に大量に固着している。

同じく古い倉庫の壁や鉄骨。

錆び対策のメッキが施されているものの建てられてからもう数十年、
長年かけてゆっくりと蝕んできた潮は、建物の外観を赤く染め上げていた。

その倉庫。

フォルトゥナ港の中でも一段と古く、ここ最近になってはほとんど使用されていなかった。

だが今は違った。

薄暗い屋内には大勢の人がいた。
質素な服で身を包んだフォルトゥナ市民が、怯え身を縮めて。


倉庫の外からは金属の凄まじい激突音が絶え間なく響いてくる。
この世の生き物とは思えない程の不気味な咆哮と共に。

倉庫を守り奮闘する騎士達と、
その防衛網を突破しようと絶え間なく押し寄せてくる悪魔達の群れ。


大きな倉庫の中には200人以上の市民。

一方でその外を守るのは15人程度の騎士。

そして彼らを囲み殲滅しようとしている悪魔の数は有に数百、
いや、最早数える意味など無い。

どんなに倒しても、
数が減るどころか次から次へと沸き出して更に増えていくのだから。

304 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:06:37.98 ID:/GU/YuMo
確かにフォルトゥナ市街全域を見れば、その情勢は騎士達の方へ傾きつつある。

多くの市民の避難場所がある市街地はそれに比例して騎士の数も多く、
主だった地区では既にほとんどの悪魔が掃討されていた。

だが郊外では状況は違っていた。

この港も。

もう中心部に向かったところで全体の状況は覆せないとでも判断したのか、
悪魔達はフォルトゥナの『弱点』へと群がってきているのだ。

多勢に無勢。

全滅し突破されるのは時間の問題だ。

だが騎士達はそれを知りながらもとにかく戦い続ける。

悪魔の体液と騎士本人の血が混ざり、その戦闘服を真っ赤に染め上げていた。

柄を握る拳から滴る赤い液体も、それが騎士の血なのか、
それとも刃を伝ってきた悪魔の血なのかは最早区別がつかなかった。

イクシードを噴かしながら無心で剣を振り続ける。
目の前に次から次へと迫ってくる悪魔達を片っ端から切り捨てていく。


そんな決死の奮闘を嘲笑うかのように数を増やしていく悪魔達。


そして激戦の中また一人、また一人と騎士が斃れて行く。

305 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:08:51.57 ID:/GU/YuMo
最早時間の問題だった。

騎士達の目は虚ろで、既に光は消えていた。

まるで死体が死に切れずに尚戦っているような光景。

しかし彼らの動きは止まることが無い。

意識が朦朧としている騎士達の体を今だに突き動かし、その心を支えている芯。

それは騎士としての誇りと使命。

そして現人神でありフォルトゥナの守護神である―――。



―――『ネロ』の存在。


騎士達は信じている。

あの御方が必ず来てくれると。

だが。


『救い』を求めているわけでは無い。


そして『助け』を求めているわけでも無い。

306 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:10:09.27 ID:/GU/YuMo
確かに戦闘能力はネロには遠く及ばない。

だがその信念の強さは同じだ。

心の気高さは同じだ。

同じ『フォルトゥナ騎士』なのだ。


恋人を愛し、家族を愛し、故郷を愛し、そして人間を愛する心はネロに負けないくらいだ。

騎士達はそれを自負している。

自分達は『強い』と。

そしてネロもそれを知っており、彼らを心の底から信頼している。


だからこそ『救い』は請わない。

救いを己から請うのは『弱者』のする事。



『強者』の彼らがネロに望む事は『救い』ではなく―――。



―――共に戦える『栄誉』だ。



同じ信念を持つ『戦士』としての。



そしてそんな彼らの願いが今。



叶う。

307 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:11:55.23 ID:/GU/YuMo
突如水平線遥か彼方にぶちあがる、
天を貫くほどに巨大な赤と青の閃光が迸っている水柱。

水中で核爆発でも起きたかのような光景。

その衝撃波が海面を撫でて白く広がり、上空の雲を円状に一気に押し退けていく。


突如起きた異様な光景に、悪魔も騎士も皆その動きを一瞬止める。

束の間の沈黙。

まるであの爆発で『音』も一瞬にして吹き飛ばされたかのような。


そして次の瞬間。

正に直後。

水柱のふもとで、炎のようなオレンジの閃光が瞬いたと思ったその時。

その光源からこの港まで、
まるで超音速戦闘機が海面スレスレで低空飛行をしてきたかのように水飛沫の『帯』。



そしてその飛来してきた『何か』は大量の爆炎を吐きながら―――。



―――騎士達と倉庫を囲んでいた悪魔の群れのど真ん中に着弾した。

308 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:15:41.27 ID:/GU/YuMo
凄まじい轟音と共に、数十体の悪魔が一瞬にして木っ端微塵になる。

そして騎士達は見た。

そのバラバラになった悪魔達の破片が降り注ぐ向こうに。

大きく穿たれた地面の窪みの中央。


そこに立っている―――。



―――現人神を。



巨大な炎を噴き出しているレッドクイーンを地面に突き立てて。


硬く拳を握ったデビルブリンガーを現出させている―――。


圧倒的な憤怒を秘めた赤い瞳の―――。



全身から青い光を湯気のように発している―――。



―――ネロを。


周囲にいた悪魔達は皆一斉に後方に跳ね、ネロと距離を開ける。
それと同時に騎士達からは堰を切ったかのように怒号じみた図太い歓声。

傷だらけの体をものともせずに皆剣を掲げ咆哮を上げる。

その咆哮の中、
ネロはレッドクイーンのイクシードを噴かしながら悪魔達をその圧倒的な目で見渡す。

ゆっくりと。

その間もレッドクイーンからは、
ネロの中で煮えたぎっている『怒り』を体現しているような爆炎が噴き出し続け、
彼の足元の地面を溶かしていく。

309 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:18:59.88 ID:/GU/YuMo
そしてネロは口を開いた。
これまたゆっくりと。


ネロ「よお―――」


怒号ではない。


ネロ「『俺ん家』に来客の予定は無かったはずなんだがよ―――」


大声でもない。
冷めた声だ。


ネロ「―――お前らの『土産』に免じて『歓迎』してやる―――」


だが。


ネロ「『フォルトゥナ式』でよ―――」



その言葉に篭められている『空気』は余りにも熱すぎた。


ネロ「何用かの話も聞いてやる。ゆっくりたっぷりじっくり な」


ネロ「だがまあ、ここで立ち話するのアレだしな、とりあえずはだな―――」


聞く者をそのまま炙り殺してしまう―――。



ネロ「―――まずは死ねや」




―――業火のような言霊だった。



ネロ「―――話はそれからだクソ共」

310 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:23:43.09 ID:/GU/YuMo
そして地面から抜かれたレッドクイーン。

それと同時に、悪魔達は一斉にネロに向けて飛びかかった。

他の騎士達などには一切目もくれず。


この下等悪魔達を突き動かすのは正に『狂気』だ。


仇敵の血を前にした底無しの『憤怒』からくる殺戮欲。
そしてその力に対する圧倒的な『恐怖』からくる防衛反応。

この二つが組み合わさって『狂気』となり彼らの闘争心は爆発する。

こうして下等悪魔達は必然的にスパーダの血に群がるのだ。
敵わないと知りつつも、自ら死の中に飛び込んでいく。

催眠術にでもかかったかのように。


その小さな魂の『器』が『狂気』に『寄生』されて―――。


そんな悪魔達の群れに向けてネロはレッドクイーンを横一線、前方を大きく掃うように神速で振りぬく。

精鋭のフォルトゥナ騎士でさえ、いや、『主』以外誰一人扱えないと言われていた『暴れ馬』、レッドクイーン。
大量の魔を切り捨て、そして主の絶大な力を浴び今や意識を有し『魔具』と化している。


その凶悪な刃が、複数体の悪魔を纏めて薙ぎ払う。

更にネロの底無しの憤怒を帯びた爆炎が、
刃から辛うじて免れた周囲の悪魔達を一瞬で焼き払った。

311 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:26:45.75 ID:/GU/YuMo
凄まじい速度で立て続けに振るわれるレッドクイーン。
薙ぎ払われ引きちぎられ焼き払われていく悪魔達。

その衝撃波が地面を何重にも削り剥いでいく。

そんな地面から破片が舞い散る『前』にこれまたとんでもない速度で振り下ろされるデビルブリンガー。
拳と地面の間には叩き潰された悪魔。


ネロは猛烈な速度で悪魔の群れの中を進みながら、鬼神の如く壮烈な憤怒を解き放ちそして撒き散らす。

一切の容赦なく。

悪魔達の外殻を砕き、肉を裂き、骨を破断し、血を撒き散らせ、魂を叩き割る。

この港を覆い尽くさんばかり程もいた悪魔達の数が見る見る減っていく。
そしてそれに比例して周囲に撒き散らされ積みあがっていく大量の肉塊。


その光景。

この場面だけを切り取ってしまえば正に『虐殺』に見えてしまう。

それ程までに一方的な戦いだった。


正に鬼の形相のネロは猛烈な勢いで悪魔達を刈り取って行く。

その後に続き、騎士達が残った悪魔達を掃討し、息がある者には止めを刺していく。


そして。

ネロが現れてから30秒程度。
たったそれだけの時間でこの港に集っていた悪魔達は全滅した。

一匹も残さず。

一匹も逃げれずに。


皆殺しに。

312 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:30:01.74 ID:/GU/YuMo
あるものは沸騰して蒸発するように、
あるものは氷り砕け散るように、
あるものは石化して崩壊し砂と化すように。

それぞれの悪魔の特性に合わせて、周囲に散らばっている大量の肉塊は消滅していく。

そんな中、まずこの場での『一仕事』を終えたネロはレッドクイーンを地面に突き立てて、
遠くの黒煙が上がっているフォルトゥナ市街の方へと目を向けた。


ネロ「…………」

感覚を研ぎ澄ませ、より強い感知能力を持つ右手に意識を集中させて、
この立ち込めている『大気』の質と流れを『見る』。

溢れ充満している『魔』を嗅ぎ分け、解析していく。


ネロ「…………」


フォルトゥナ市街には今だ多数の悪魔がいるようだが、どうやら一番密度が高かったのはこの港だったらしい。
市街に残っている数は多いと言えば多いが、それ程でもない。

己がいなくとも、どのみち市街は仲間の騎士達の手によって完全に掌握できる。

だからと言って己が来たのは無駄でもない。
もう数分到着が遅れていたら、まずあの倉庫に避難していた200人の市民は皆殺しにされていた。

むしろもっと早く帰還できてたら。


ネロ「……クソ……」


ここまでの惨状にはならなかっただろう。
こうして右手で『声』を拾っているだけでわかる。

多くの者が哀れにも命を落としていったことが。


己の力を持ってすれば救えるはずだった命。

その同胞達の、兄弟達の、家族達の『声』をネロはしっかりと耳に焼き付ける。

絶対に忘れはしまいと。

313 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:33:29.46 ID:/GU/YuMo
ネロがここまで来た方法は、彼がかなり苦手とする悪魔式の移動術だ。

例のフォルトゥナ争乱の後に、トリッシュのを真似て一度だけ試したことがあが、
その時はとんでもないことになってしまった。

その時の移動先は目的地とは全く違う場所であった。

また、彼は『口』を大きく開けすぎ更に流し込む力の量もかなりオーバーしたこともあって、
一帯が綺麗に円状に『消滅』してしまったのだ。
人気の無い野原で使ったのが幸いだった。

そのこともあって彼は二度と使わないと決意した。

移動先が定まらないのはまだしも、周囲を無駄に破壊してしまうなどもってのほかだ。
更に学園都市の一件でより強大な力を持ってしまった彼は、この技の事など頭の中から消し去っていた。


ダンテもそうだが、ネロがこの術を苦手とするのは育ちのせいだ。
この移動術は、基本的に魔界で生まれた者は皆生まれながらにして即覚える。

力が確立する前にだ。

そんな技を、ダンテやネロのように規格外の力を有する者が成熟後に覚えようとするなどかなり厳しい。

練習すれば何とかなるだろうが、
その力の大きさが例え練習であってもとんでもない事を引き起こしてしまう可能性が高いのだ。

(ちなみにバージルは幼い頃ダンテと離れて直ぐに習得した。これはダンテが劣っているというわけではなく、
 ただ単に悪魔の力と技術知識に対する積極性の差だ)

そういうこともあってネロはこの技を封じていたのだが。

差し迫る状況はそれを許さなかった。

トリッシュに連絡しても繋がらない。

権限を利用して、イギリスから超音速機を持ち出し向かっても一時間はかかってしまう。
ステイルのように弾道ミサイルに乗り込んでも20分、更にミサイルの場合は準備にかなり時間がかかる。

だから彼は使わざるを得なかった。

移動先をフォルトゥナ沖の海面に定めて。

案の定、あふれ出した力が爆発的な破壊をもたらしたが、
何とかこうして目的地に到達することはできた。

314 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:36:08.42 ID:/GU/YuMo
ネロ「………………状況は?」


しばしそうやって静かにフォルトゥナ市街を眺めていたネロが口を開いた。


「10分前に回線が切断され現時点の正確な状況は掴めませんが……」


そのネロの声に、いつの間にか彼の斜め後ろに立っていた騎士が応えた。
ネロと同じくらいの年齢の、この場の指揮を執っていた者だ。

重装騎士の篭手と脛当てを装着し、持っている剣も金の装飾が施された、
一般の物よりも一回り大きなモノだ。

鎖帷子や胸当て、兜等を装着しているヒマは恐らく無かったのだろう。
最低限の装備だけ付けて兵舎を飛び出したに違いない。


「その時点の情報によるとフォルトゥナ城と旧教団本部の防衛は成功」


「北部と南部は大規模な戦闘がありましたが掌握、東部と中央も直に制圧完了との事でした」


「そして西部は今の掃討で大方完了かと。現在回線の復旧を急いでおります」


ネロ「……市民の安全は?」


ネロは振り返らずに、遠くのフォルトゥナ市街を眺めながら問う。
一段と重い声色で。


「……7割は確実に」


ネロ「…………7割か」


7割。

つまり残り3割の安全は確保できていないという事だ。

315 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:39:41.97 ID:/GU/YuMo
ネロ「……あんたらはここを守っててくれ」

「了解」

ネロ「俺は街に向かう」

そしてネロはレッドクイーンを地面から引き抜き背負うと、
腰から巨大な拳銃『ブルーローズ』を右手で取り出す。

そんな彼に向かって。


「ネロ。聞いてくれ」


騎士は名を呼んだ。
その口調は敬語ではなくなり、親しき友に対するようなモノだ。


「最後の報告によると、キリエさんは歌劇場のあたりにいたそうだ」


そして告げる、彼の想い人の消息。
ネロはやっと騎士の方へ振り向いた。

その騎士。

ネロと同じくらいの、いや同い歳の同期だ。
以前の教団による争乱を生き延びた騎士の数少ない一人。

同じ教室で教育を受け、同じ修練上で技を高めあった者だ。

かつては、この騎士もはみ出し者のネロとはあまり関わりを持とうとはしていなかったが、
例の争乱以来ネロの事を認め、今は彼を支える友の一人だ。


ネロ「―――ああ、助かるぜ」


一瞬。

ほんの一瞬だけネロの顔が凄まじい形相に変わるも、
その影は即座に失せ彼フッと笑いながら左手でその騎士の肩を軽く叩いた。

317 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:41:56.45 ID:/GU/YuMo
「……それと……もう一つ良いか?」

騎士が少し言いにくそうにそんなネロへ向けて再び口を開く。

ネロ「……」

その様子を見て、ネロは彼が何を言おうとしているかを即座に察知する。

そして。


ネロ「ああ、わかった。『確認』してくる」


続く言葉を待たずに頷いた。

騎士も無言のまま頷く。

ネロは再び彼の肩をポンと叩くと、
クルリと踵を返しフォルトゥナ市街の方を向いた。

そして目を瞑り、もう一度感覚を研ぎ澄ます。

煮えたぎる凄まじい衝動を抑え、なんとか落ち着かせて冷静になりながら。



右手の『声』に耳を傾ける。


『絆』の『糸』が繋がっている先を探して。


キリエを。

318 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:45:00.01 ID:/GU/YuMo
ネロ「―――」

数秒後、ネロは目を見開き遠くのフォルトゥナの街の一点を真っ直ぐと見据えた。

ネロ「―――今行く」

そしてポツリと呟きながらブルーローズを天に掲げ―――。


―――引き金を引いた。


凄まじい炸裂音と共に、青い閃光を帯びた弾丸が天を貫く。

それは己の帰還を知らしめる狼煙。

今だ奮闘している騎士達と、怯え縮こまっている市民達へ向けての。


そして宣戦布告と死の宣告。

このフォルトゥナへ牙を向けた愚か者への。


撃ち出された閃光が合図となり、抑え込んでいたネロの憤怒が爆発する。
いや、彼は自ら爆発させた。

もう冷静に気を静めている必要は無い。

次にやるべき事は、この煮えたぎる熱で守るべきものを護り、
そして倒すべき者には死の鉄槌を叩き込む。


ネロ「オォオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!」


天を仰ぐネロの咆哮がフォルトゥナ全域に響き渡る。

それはフォルトゥナの者にとっては希望の声。


そして悪魔達にとっては―――。



―――『死神』の声。


319 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/07/05(月) 01:49:45.49 ID:/veKLFw0
ふおおおおおお!!!滾る!滾るぜネロ坊!!
320 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:51:41.70 ID:/GU/YuMo
―――

その遠くの港から放たれた青い閃光、
そしてその直後にあふれ出した凄まじい殺気をアリウスは見ていた。

アリウス「―――来たか」

やはり離脱するのが遅すぎた。

いや、スパーダの孫が来るのが予想以上に早かったと言った方が良いだろうか。


アリウス「……全く……ここで判断を誤るとは」

とはいえ、己の判断ミスが一番の原因なのは間違いない。
目標には既に『マーキング』という保険をかけるのが成功したのだ。

欲張らずにさっさと引き上げるべきだったかもしれない。

あのスパーダの孫はまずは即座に恋人の元へ向かい、
そしてその安全を確保した後、今度はこちらへと向かってくるだろう。

フォルトゥナ中の悪魔達を指揮するため、広範囲に渡って大規模な通信魔術を展開している。
それを探知されるのも時間の問題だ。


確実に捕捉される。


その魔術を解き痕跡を消すにも、もう時間が無い。
(まあ、マーキングを確認した時点で即座に帰還の作業に入っても間に合うかは微妙だったが)

彼が現れてしまったらもう遅い。

かといって痕跡の処理もせずにこの場を離れてしまうと、その痕跡を利用されて追尾されてしまう。

準備が整っていない内にこちらの本拠が襲撃されてしまったら全てが水の泡だ。


アリウス「(―――ふむ……どうするべきか)」


方法を考えなければいけない。

痕跡を残しつつも追尾させない方法を。

321 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:54:26.50 ID:/GU/YuMo
そんな難題に対しても、
アリウスの天才的な頭脳はこんな窮地の場でありながらも冷静に、
そして即座に答えを導き出した。

それもかなり確実な方法を。


アリウス「(……マーキングか……使えるな)」


一通り頭の中でシミュレーションし、確実性を再確認する。
そして彼はその為の作業に入る。

コートから直径5cmほどの小さな水晶を取り出す。
先程セクレタリーを呼んだ物とは別のだ。

そしてそれを握り、精神を集中して瞬時に手際良く作業を行う。

頭の中で複雑な術式を組み上げ、それを『ある者』の『魂』に遠隔で刻み込んでいく。


アリウス「(……こんなところだな……)」


最後にもう一度確認し、そして起動する。


即席の術式は問題なく稼動した。


アリウス「(さて……)」


そしてこの方法では、最後にもう一つやることがある。
それがアリウスにとって一番大変なのだが。


アリウス「(では会いにいくとするか)」

322 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/05(月) 01:57:57.13 ID:/GU/YuMo
ネロに直に会わなければいけないのだ。

最悪、姿を現した途端にあの怒り狂った『怪物』に一刀両断されるかもしれない。

叩き切られる前に『とある事』を説明しなければならない。


尤も、アリウスが死んだ場合はネロにも『それ相応』の『報復』を味わう事になるのだが。


―――『それ相応』の だ。


―――ネロにとっての最大の『痛み』を だ。



アリウス「さあ、どうする?―――」


そしてその事を聞いたスパーダの孫は。


アリウス「見物だな。俺を殺せるか?―――」



果たしてどんな決断をするか。



アリウス「―――若造」


全人類への脅威か―――。


それとも―――。


たった一人の人間への愛情か―――。



―――『どちら』を選ぶのか?

333 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:03:15.99 ID:cVCcspIo
―――

学園都市第七学区。


廃墟を照らすオレンジと白の光。
それに対抗する漆黒の闇。

そして。

この場に突如現れた三つ目の光源。


―――『白銀』の。


上条当麻。


彼は遂にここまでやって来た。

彼女を守る為に。

彼女を救う為に。

己を呼ぶ『絆』の声に応えて。

己の『魂』の叫びに従い。


そしてここからだ。
ここからが彼の本番だ。


上条『待ってろ。今そこから出してやるからな―――』


『竜王の殺息』を右手で押し留めながら、彼は穏やかな笑みを浮かべて囁き掛ける。


上条『―――インデックス』


虚ろな瞳をしている最愛の少女へと―――。

334 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:06:51.43 ID:cVCcspIo
やっとこの場に到達し三人の姿を捉えた上条。

襲撃者であろう背中から巨大な腕を出現させている華奢男、
その男に向けて猛烈な攻撃を放ち続けている一方通行、

そして、そんな一方通行の後方にふわりと浮いているインデックス。


困惑した上条は一瞬足を止め、その状況を確認しようとしたが―――。


―――その作業は後回しにされた。


声が聞こえたのだ。

それは上条の中の単なる幻聴だったかもしれない。

だがはっきりと聞こえた。


あの少女の声が―――。


「とうま!!あくせられーたを―――!!!」 と。


その声を聞いた上条は即座に動いた。
どんな状況なのか というのを考えようとする前に。


彼女の声が何を伝えたかったのか、
これから何が起こりうるかがなぜか手に取るようにわかったのだ。


そして無心のまま一方通行の背後に飛び込み―――。



―――こうして右手で受け止めたのだ。



ほぼ同時にインデックスから放たれた光の柱を。

335 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:12:31.44 ID:cVCcspIo
上条『(―――)』

こうして右手で受け止める中、ようやく上条は状況を冷静に分析し始める。

インデックスから放たれ押し寄せてくる光の濁流。
細かな粒子の集合体であり、そしてその一つ一つの光の粒には莫大な力が篭められている。
つまり厳密に言うとこれは『一つの大砲』ではなく、無数の『小さな大砲』の集合体だ。

まるで『散弾形式のレールガン』がガトリング砲のように凄まじい速度で連射されているようだ。

右手の幻想殺しを押し当て打ち消そうとするも、その処理が間に合わない。

またそれぞれの粒子の性質が微妙に違う為、それが更に幻想殺しの処理を遅延させていく。


処理し切れなかった粒子が飛び散り周囲を舞う。
その光輝く美しい粒子。

良く見ると『羽』の形をしていた。

正に『天使の羽』という表現がピタリと当てはまる程に美しい。

だが。

その美しさとは裏腹に。


上条『ぐッ―――!!!』


篭められている性質は『破壊』。

右手の処理からあぶれ舞い散る羽が上条の顔や体中にぶち当たる。

まるで砲弾のように。

今のように悪魔の力を有していない、
生身の頃の体だったらとんでもないダメージを負っていただろう。


とんでもないダメージを だ。

それこそ頭に当たったら『記憶が消し飛んで』しまいそうな程の だ。

336 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:14:42.82 ID:cVCcspIo
その光の散弾の中、上条は右手越しにインデックスを見据える。

己が最も守りたい存在を。


姿形は確かにインデックスだった。

だが醸し出していた雰囲気は余りにも別人過ぎた。


大きく見開かれた無感情な瞳。
顔の前に浮かび上がっている魔法陣。

人形のように生気の無い無表情。


そんな彼女の姿が上条の胸を締め付ける。


インデックスの身に一体何があったのか。


最愛の少女のその姿が、彼の心の奥底の闇を強く刺激し一気に肥大化させる。
そして彼の喉元までこみ上げてくる。

地底の底から火山の噴火口へ爆発的に駆け上がっていくマグマのように。


それと同時に声がする。

『あの時』のように身を委ねてしまえ と。

『力』に全てを任せてしまえ と。


だが。


上条『うるせぇ―――』


彼は押し留めた。
その狂気の声を一瞬にして押さえつけ黙らせる―――。

337 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:19:41.83 ID:cVCcspIo
このインデックスの姿を見た上条当麻。

以前の彼なら一瞬にして暴走状態となってしまっただろう。

だが今の彼は違う。

デビルメイクライで過した数週間で、彼自身は大きく成長した。

力はもちろん何よりも逞しくなったのは『心』だ。


ある意味皮肉な事だろう。

悪魔の力を捨てる為の試練が、
また一方で彼を生粋の『悪魔の戦士』へと鍛え上げてしまったのだ。

急速に、そしてより濃く悪魔の力に馴染み融合していった彼の魂。


そしてその過程で叩き込まれ続けたダンテの力。


そのダンテの力から流れ込んでくる思念の影響も大きかったかもしれない。



―――ハートは猛烈に熱くその一方で頭は常にクールに。



―――己の力を完璧に統制しどんな時でも自我を冷静に保つ と。



元から熱く強い魂を持っていた上条当麻。

そこにもう一つ、今度は『常に冷静な思考』というエッセンスが加わったのだ。

338 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:22:38.04 ID:cVCcspIo
例え感情が爆発しようとも自我は絶対に揺るがない。
今の彼は最早、己の昂ぶりに全てを任せて闇雲に突き進む『わがままな子供』ではない。
己の『信念』を貫き通す『力』と『覚悟』、
そしてどんな時でも自分を見失うことが無い強靭な『心』と『頭』を持った一人の『戦士』。

決して己の力に溺れることの無い、それでいて確たる自信と誇りを持った一人の『武人』。


それが今の上条当麻だ。

(この上条の精神の成長がダンテ達の一つ目の目的でもあった。『暴走』の危険性を取り除く為のだ)

暴走状態となれば、爆発的な力を使うことが出来る。
『幻想殺し』の作用を周囲一帯に行使できるあの『竜の頭』のようなモノも出せるかもしれない。

もう一人の『自分』に任せてしまえば楽になる と。

そんな甘い蜜のような誘惑が上条を唆す。


だが。

上条は知っている。

脅威では無くなった人間を、命乞いをする人間を一切の躊躇いなく殺す手で。

殺戮が快楽となってしまう手で。
血を喜び味わう『化物』の手で。


上条『お前を守るのは―――』


そんな手で。

あんな『奴』の手で。



上条『―――「奴」じゃねえ』


誰かを守れるわけが無い と。



上条『―――俺だ』



―――インデックスを救えるわけが無い と。

339 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:24:38.99 ID:cVCcspIo
フィアンマ「―――」

その上条の背中を一方通行越しに見たフィアンマの表情が変わった。
一方通行の死を確信していた笑みが消える。

だが決して危機を感じたわけでは無い。
一方通行の死の確信そのものが消えたわけでもない。

そんな『小さな事』など横に追いやってしまう程の、
より大きな感情が彼の中からこみ上げて来たからだ。


それは歓喜。


上条の『姿』に対しての。


そして彼の顔には別の笑みが浮かぶ。


―――不気味な笑みが。


フィアンマの背中から伸びている巨大な腕が、
彼の昂ぶる感情に呼応し大きく揺れる。


そして不敵に笑いながら、フィアンマは瞬時に後方へ下がり距離を開けつつ、
先程から上空に精製していたオレンジの光の柱を一気に振り降ろす。


一方通行へ向けて。


彼とメインディッシュとの間に居座る、邪魔な『ゴミ』を一気に払い除けるかのように―――。

340 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:26:22.84 ID:cVCcspIo
一方『―――』

一方通行の瞳に映る、急速に迫ってくるオレンジの光の塊。

確かに上条が彼の背中を脅威から守った。
だが結局間に合わなかったのだ。

フィアンマを押し切れなかったのだ。

この男の光の防御膜を叩き割ることができなかった。

そして今の満身創痍の彼には最早、
フィアンマの攻撃を耐え切る余力など残っていない。


だが彼の顔には絶望の色など欠片も無かった。


むしろ―――。


―――嬉しそうに笑っていた。


そしてフィアンマの攻撃が迫ってきているにも関らず、一切の防御行動も起こさずに―――



一方『―――上条ォォォォォ!!!!!!!!!!!』



―――背後のヒーローの名を、倒れるように振り返りながら叫ぶ。

341 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:29:58.01 ID:cVCcspIo
竜王の殺息を右手で受け止めながら振り返る上条。

二人の視線が交差する。

それはほんの一瞬。

銃弾が止まって見える程の二人にとっても極僅かな時間。


だがたったそれだけの時間にも関らず―――。


―――二人はお互いの考えを把握する。


その直後に、事前に口裏合わせでもしていたかのように二人は一気に動きだす。


上条はそのままフィアンマの方へ振り返る。

一方通行はインデックスの方へ向けて体を進める。


そして上条は光の篭手を纏っている左手をフィアンマの方へ突き出し。

一方通行は両手の漆黒の義手と背中の全ての杭をインデックスの方に突き出す。

二人はすれ違うように立ち位置を入れ替えたのだ。


一方通行の『漆黒の義手』がインデックスから放たれてくる竜王の殺息を押し留め。



上条は用済みとなった右手を引きながら―――。


左手でフィアンマが振り降ろした光の塊を受け止める―――。

342 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:31:32.63 ID:cVCcspIo
上条『ぐ―――!!!!!!』

オレンジの柱の『刃』が、上条が掲げた左手の前腕に激突し食い込む。

その凄まじい力が、彼の光の篭手を大きく歪め表面を凄まじい勢いで剥ぎ取っていく。
この程度じゃ防ぎきれないのは一目瞭然だ。

このままでは彼の左手が捻り潰されてしまう。

だが彼にはもう1本の腕がある。


このような『実体』を持たない力に対する究極の切り札が。


―――右手の『幻想殺し』が。


彼は左手で受け止めたオレンジの柱に右手をかざす。


そして『幻想殺し』はその『力』を纏め上げている『方程式』を読み取り―――。


―――『相殺』と『書き換え』を同時に行い―――。



―――『消滅』させる。



彼が右手で触れた数秒後。


オレンジの光の柱に巨大な亀裂が走る。

343 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:33:29.68 ID:cVCcspIo
亀裂が広がり砕け散るオレンジの柱。

周囲に飛び散る光の破片。

フィアンマが放った圧倒的な攻撃は、
その攻撃を生み出した彼の『聖なる右』の対である『幻想殺し』によって『破壊』された。


だがこの二人の少年の動きはそれだけでは止まらなかった。


上条『―――アクセラレータァァァアア!!!!!』


今度は上条が、地面を軽く蹴り宙に浮きながら背後の少年の名を叫ぶ。

『竜王の殺息』の凄まじい光の嵐を両手で遮っていた一方通行を。


その叫びを聞き一方通行は『竜王の殺息』を突き飛ばすかのように両腕を一気に伸ばし、
同時に後方へ、つまり上条の方へと全力で跳ねる。



その一方通行の背中、
ちょうど黒い杭が生えている付け根の辺りに、軽くジャンプしていた上条は足を当て―――。



―――踏み台にして前方へ一気に跳躍する。

344 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:35:40.88 ID:cVCcspIo
猛烈な勢いで噴射されている『竜王の殺息』、
その上にベクトル操作と黒い噴射物の力が上乗せされ、
凄まじい勢いで上条の方へと射出された一方通行。

その彼の背中を足場として、更に上乗せされた上条の悪魔的な脚力。


そんな莫大な運動エネルギーを携えて、上条当麻は後方へ下がりつつあったフィアンマを追うように爆進する。


砕け落ちたオレンジの光の破片が舞う中を切り裂いていき。


フィアンマ「―――」


一瞬にして到達し。


上条の飛び膝蹴りがフィアンマの顔面に。


フィアンマの身を包み守っている光の膜に―――。


そこに走る亀裂の上に―――。



上条『―――オォ゛ォ゛ォ゛ラァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!!』



―――叩き込まれた。


解き放たれた憤怒の雄叫びと共に響く、金属同士が激しく衝突したかのような轟音。


そして続く―――。


―――ガラスが割れて飛び散るような破砕音。

345 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:41:29.03 ID:cVCcspIo
オレンジの光の欠片を撒き散らせながら大きく仰け反るフィアンマ。

今だフィアンマの体を守っている光の衣は健在だったが、
確実にダメージは蓄積されていた。

特に一方通行のラッシュを浴び続けた部分はかなり薄くなっていた。

そこに上条と一方通行の力が組み合わされた『凶悪』な一撃が叩き込まれたのだ。


膜は大きく抉られ破片を撒き散らす。

残るは『半紙』のように薄く頼りない光の膜。


上条『シッ―――』


跳び膝蹴りを放った直後、
宙に浮いたままの上条は即座に左手を伸ばしフィアンマの光の衣を『掴む』。

そして思いっきり引き寄せ。


フィアンマの顔面へ―――。


最も光の衣が薄い箇所へと―――。


『右拳』を放つ。



その最後の壁をぶち抜き、その奥に控えている高飛車な顔を殴り飛ばすべく―――。


インデックスに手を出そうとしたクソッタレをぶっ飛ばすべく―――。

346 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:43:28.06 ID:cVCcspIo
だがその瞬間。

上条が拳を放つと同時に。

フィアンマの背中から伸びている巨大な腕が一気に前方へ、
上条の方へ瞬時に伸びそのまま二人の間に割り込む。

凄まじい量の力を放散しながら。

先程のオレンジの光の柱とは比べ物になら無いほどの力を。


上条『―――』


それに気付いた時はもう遅かった。
放たれた右拳は止まらない。

まあ、元々止める気などさらさら無いのだが。


上条はその一瞬で瞬時に判断する。

あのトカゲのような腕は少し透けており、
ホログラム映像のように揺らいでいる所を見ると恐らく『実体』は無い。


つまり―――。


―――右手が効く と。


上条『―――ッッッッんっらァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!』


そしてそのまま渾身の力をこめて叩き込む。


それならあの腕ごとぶっ壊しぶっ飛ばせばいい と。

347 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:44:58.84 ID:cVCcspIo
そして激突する。

上条の右拳と巨大なトカゲのような腕が。

『聖なる右』の本体に『幻想殺し』が。


本来は『一つ』であったはずの『二本』の手が。


壮絶な轟音を響かせながらトカゲのような腕がガラスのように砕け散る―――。


上条『(―――……へ?)』


―――と思いきや。


普通にゴンっとぶつかっただけだった。

ただそれだけだった。

それだけ。


その後は何も変化が起こらない。

ガラスのように破砕させるどころか、小さな亀裂すら入る気配が無い。


上条『…………は?』


目を丸くする上条。


そしてそんな彼の顔を見ながら心底嬉しそうな笑みを浮かべる―――。



―――フィアンマ。

348 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:46:25.73 ID:cVCcspIo
触れた瞬間に感じるこの独特の感覚。
それは打ち消す際にいつも感じる妙な感覚だ。

今この瞬間もそれを感じた。
つまり『幻想殺し』は機能した。

だが。

上条『(―――効いてねぇ……?)』

このトカゲのような腕が砕け散る気配が無い。
『幻想殺し』が確実に機能したはずなのに、全く効果が表れない。

いや、一つだけ変化があった。

あの巨大な腕から放散されていた力はいつのまにか消え失せており、
オレンジの光も無くなっていた。

幻想殺しは、一応外側に溢れ出ていた力は消したのだろう。
外側のだけは だ。

まあその現象も、幻想殺しがしっかりと機能したにも関らず『腕自体』には何も影響を与えていないという、
有難くない事実を裏付けているに過ぎなかったが。

光輝いてはいないが、巨大な腕は今だ健在でありその中に渦巻く莫大な力も感じ取れるのだ。


フィアンマ「はっ―――」


フィアンマ「―――ははははははははは!!!!!!!!素晴らしいじゃないか!!!!!最高だ!!!!!」


そんな混乱している上条と対照的に、
突如笑い声を上げ何かに対して絶賛の言葉を発し始めたフィアンマ。


フィアンマ「まさか今ここで『見れる』とは!!!!!!今日は正に―――」

次の瞬間その巨大な腕が大きく振るわれ―――。



フィアンマ「―――ラッキーデイだ!!!!!!!!」


―――上条の体を弾き突き飛す。

349 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:47:46.87 ID:cVCcspIo
上条『―――くっそッ!!!!!』

宙を舞う上条は即座に体制を建て直し、瓦礫が覆う地面に着地しようとした瞬間―――。


フィアンマ「さあ、もっと見せてくれ―――」



上条『―――』



「―――とうま!!!後ろ!!!!!」


―――上条の脳内に再び彼女の声が響く。


それに反射的に従い、右手をかざしながら咄嗟に振り返る上条。


そしてその右手の平に―――。


後方の地上から放たれてきた白い光の柱がぶち当たる。

インデックスが放った竜王の殺息だ。



上条『―――おぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!』

350 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:49:59.25 ID:cVCcspIo
再び光の濁流に襲われる上条当麻。

不安定な体制、そして空中にいることもあって、
彼の体がその光に押され斜め上空へと一気にぶち上げられていく。


だが。


その光の噴射が突如ピタリと止まる―――。


いや、正確には途中で遮られた。


インデックスの前に飛び込んだ一方通行によって。


一方『―――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!』

インデックスの正面僅か2mの場所に立ち、両手の義手で竜王の殺息をせき止める一方通行。

彼はそのままの体制で背中の杭を一気に伸ばす。

光の噴射を受けて上空遥か高くへぶち上がりつつあった上条へ向けて。


フィアンマ「お前まだいたのか―――」


そんな一方通行を見てフィアンマはあからさまに不機嫌そうな表情を浮かべ。


フィアンマ「―――邪魔だな。そろそろ消えてくれないか?」


手に持っている遠隔制御霊装で新たな命令をインデックスに。


―――先程のように、もう一度『竜王の殺息』を全面放射して一方通行を吹き飛ばせと。


―――とその時。


フィアンマ「…………ん?」

351 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:51:11.91 ID:cVCcspIo
彼は気付いた。

一方通行がこちらを見ながらニヤついていた事に。
竜王の殺息を懸命にせき止めながら。


その視線は良く見るとフィアンマではなく、
彼の少し後方へと向けられていた。


フィアンマ「―――」


そしてフィアンマも察知する。


後方に突如現れた気配を。

新たな第三者の気配を。


フィアンマの真後ろ5mの場所。

その地面に浮かび上がる金色の魔法陣。


そこから噴き上げるように大量に伸びる『金色の繊維』。

そしてその繊維の中に蠢く―――。



―――『炎獄』の業火。

352 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:52:32.66 ID:cVCcspIo
フィアンマ「―――」

振り返るフィアンマの目に映る、地面から吹き上がる灼熱の炎。


明らかに異質な―――。


―――悪魔の炎。


そしてその『地獄』の中から飛び出してきた―――。


―――黒い修道服とコートを纏った赤毛の『悪魔』。


凄まじい形相のステイル=マグヌス。


壮烈な怒りを放出している悪魔『イノケンティウス』。


憤怒の業火を放出しているステイルの両手には、同じく炎で形作られた刃。



ステイル『―――オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!』



それを振り向きざまのフィアンマへ向けて一気に叩き込む。


フィアンマ「全く……次から次へと―――」


だがそのステイルの炎の刃はフィアンマの肉体には到達しなかった。

巨大な腕が先の上条の時のように、再び間に割り込んできたからだ。


その鱗に覆われた腕にステイルの炎剣がぶち当たり弾かれた。

353 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:53:57.18 ID:cVCcspIo
一方『(―――あ?)』

その時。

ステイルとフィアンマの激突の瞬間を見た一方通行はある事に気付いた。


一方『(あの野郎……今―――)』



上条『(―――やっぱり な)』


上空にいた上条もそれと同時に、
いや一方通行よりもワンテンポ早くその点に気付いていた。


今のフィアンマからはオレンジの光が放出されていない。
彼の体から周囲に溢れていた力は、上条の幻想殺しが叩き込まれた瞬間に消えた。

そして今のステイルの攻撃は『腕』だけで防いだ。


つまり。


どうしてそうなったかは詳しくは分からないが、今現在のフィアンマには―――。


―――あの光の防護膜が無い。


―――フィアンマの身を守るモノはあの巨大な腕一つだけしかない可能性が高い。



上条は即座に左手を腰に回し、
ダンテから貰った拳銃を抜き出すと瞬時に銃口をフィアンマに向けた。


そして猛烈な速度で立て続けにトリガーを引く。


彼の力が篭められた白銀に輝く銃弾がフィアンマに向けて降り注ぐ―――。

354 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:55:15.33 ID:cVCcspIo
フィアンマ「―――」

上条から撃ち出された凶悪な『雨』に気付くフィアンマ。

再び振るわれたステイルの炎剣を背中の腕で大きく弾き、
今度はその腕で銃弾の雨を防いだ。

上条の方へは振り返らずステイルの方を向いたまま。

巨大な腕はまるで自動防御システムでもあるかのようにうねり、
降り注いでくる銃弾を次々と弾いてく。


そして一通り弾き終えようやくフィアンマは振り返り―――。


フィアンマ「―――気付いたか。だが俺様はその程度では―――」


―――上空にいる上条を見上げようとした瞬間だった。



上条『―――この「程度」でもか?』



フィアンマの瞳に映る、目の前で足を大きく引いている上条当麻。

上空にいたはずの上条当麻がなぜかすぐ背後にいた。


蹴りを放つ体制で。

355 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/07(水) 01:56:26.18 ID:cVCcspIo
上条の腰には一方通行の黒い杭が巻きついていた。

フィアンマは瞬時に思い出す。

先程一方通行は竜王の殺息を受け止めながら、一部の杭を上条へ向けて伸ばしていたことに。
あれは上条を瞬時に引き戻す為のモノだったのだ。


まあ、今更気付いたところで遅いのだが。


フィアンマ「―――」


正面からは上条の光り輝く足による凄まじい蹴り。

後方からは体制を立て直したステイルが再び振るう炎剣。


そしてフィアンマの『現在』の『防御策』はこの背中から伸びる『腕』1本。



フィアンマ「―――なるほど。さすがにk―――」



上条『―――オラァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!』



ステイル『―――ハァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!』



―――次の瞬間白銀の光と爆炎が溢れる。



―――凄まじい地響きと共に。



362 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/08(木) 23:44:18.44 ID:VbI6srso
―――


無人と言う点を省けば特におかしな所も無かった街並みが、
突如吹き荒れた超低温の凄まじい暴風によって一瞬で姿を変えた。

とある少年が行使した大規模魔術によって。


吹き抜けていく風。
宙を舞う無数の氷の結晶。

瞬時に凍結し、砕け散った周囲のビルや自動車。

その破砕された、凍りついた細かな粒子が周囲に降り積もり白銀の砂漠を形成する。

辺りは不気味な静寂に包まれている。

『砂漠』の粒子が擦れ流れる小さなのみが静かに響いていた。


そんな景色の中。


海原「……ぐっ……はぁっ……」


こめかみに血管を浮き立たせ、苦しそうに息を吐く少年。
周囲をこんな姿に変えてしまった張本人。

363 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/08(木) 23:46:26.70 ID:VbI6srso
海原「ッ……」

原典の力を大々的に使ったのは初めてだ。

太陽に敗れたトラウィスカルパンテクトリが姿を変えた、霜の神『イツラコリウキ』。

更に複数ある神話の一つにおいて『イツラコリウキ』は、
アステカの神々の中で最も大きな力を持つとされている『テスカトリポカ』と同一とされている。

そこを海原は『再現』したのだ。


『イツラコリウキ』の『冷』、
そして『テスカトリポカ』の忌み名の一つである『ヨワリ・エエカトル(夜の風)』を組み合わせた複合広域魔術だ。

その『神の冷気』は物質的には当然、魔術・霊的な力も篭められており生命の力そのものを、
魂からも『生の熱』を奪い取っていく。

最早一介の魔術師が使えるような魔術ではない。

アステカ魔術師の首長や部族長が使うようなレベルのモノだ。


だがそれ程の魔術でさえ―――。


これ程の破壊的な力でさえ―――。


海原「……だろうね……わかってるさ……」



―――あの『怪物』にとっては少し涼しいそよ風程度。


それだけのモノだった。

海原の視線の先、一帯に広がる白銀の氷原。

その中に悠然と。

先と全く変わらない姿勢で何事も無かったかのように立っている―――。



―――バージル。

364 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/08(木) 23:48:37.87 ID:VbI6srso
バージルは周囲の氷原をゆっくりと見回した後、再び海原にその鋭い視線を向けた。

海原「…………っつ……」

原典による強化があるにも関らず、その目を見た瞬間意識が途切れそうになる。
だが、それでいて目を離せない。

離す事が出来ない。

何と言うか、目を離してしまったらその瞬間に全てが終わってしまう気がするのだ。

まあ、目を離す離さない以前に。


海原「―――」


終わりは既に『目の前』にあったのだが。


ふと気付くと。


海原を取り囲むように、浅葱色の『剣』が大量に浮いていた。

切っ先を海原に真っ直ぐに向けて。

全方位一切の穴場無く。


いつ出現したのか全くわからなかった。

まあ、先に気付いていたところでどうにもならないのだが。

原典と繋がっているからわかる。
数本ならまだしも、こう数が多くちゃもうお手上げだと。


海原「―――ああ」


海原は瞬時に確信する。


今、己は『終わる』 と。

次の瞬間、己の肉体は串刺しとなりこの浅葱色の『剣』の中に埋もれてしまうだろう と。


そう思った瞬間だった。

365 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/08(木) 23:50:12.61 ID:VbI6srso
海原「…………?」

よくよくバージルを見ると。
その視線は海原の方には向いていなかった。

海原から右へ10数メートル、氷の山となっているビルの辺りを見ているようだ。

恐る恐るバージルの視線を追う海原。


そして。


海原「―――!!!!!!!!!!!!!」


海原は見てしまった。


海原「―――な、な、な、なぜ!!!!!!!!!!!」


この『地獄』に踏み入ってしまった第三者の姿を。



海原「―――なぜこんな所に!!!!!!!!!!!!」



彼とバージルを見て硬直している少女の姿を。


彼の『想い人』の姿を。


黒塗りの巨大な、妙な金属の筒を手に持っている―――。



海原「―――御坂さん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



―――御坂美琴を。


366 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/08(木) 23:52:29.29 ID:VbI6srso
―――

フォルトゥナ。
歌劇場近くの広場。


「(助けにだと?)」

突如予想外の行動と言葉を発した少女に対し、その場の指揮を執っていた年長の騎士は眉をしかめた。
少女は少し顔を俯き、緊張でもしているのかチラチラとこちらを見ては視線を逸らしてを繰り返している。

確かにあの仕草や雰囲気を見ると敵には見えない。
だが、高位な悪魔ほど巧妙な罠や策略を使う事もあるのだ。

―――と、そんな風に年長の騎士は考えていたが。

そんな彼の懸念など尻目に、周りの若い騎士達が突如馬鹿みたいな歓声を上げ始めた。
窮地に現れた『英雄』を歓迎し、そして生き永らえた喜びの声を。


そしてそんな彼らの喜びを更に後押しすることが。


「―――おい!!!!」


一人の若い騎士が、遠くの西の空を指差しながら叫ぶ。

フォルトゥナ港がある方角だ。

皆が一斉にそちらの方を振り向くと―――。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああ!!!!!!!!!!」


彼らから一段と大きな歓声が沸きあがった。
ある者は剣を高く掲げ、ある者は天を仰ぎ雄叫びを上げる。

彼らが見たもの。

それは天を貫く青い閃光。


その光は帰還の印。


守護神がフォルトゥナに帰って来たと言う希望の光。


ネロが帰って来たのだ。

367 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/08(木) 23:54:10.29 ID:VbI6srso
ルシア「…………!!!……ネロさんが来るまで……わ、私が守りますので………」


ルシア「こ、この御方を早く安全な場所へ……」


突如巻き上がった歓声にたじろぎながらも、
少女は青い閃光を一瞥し、気を失っているキリエを指してこの場から移動するよう騎士達を促した。


その言葉を聞き、若い騎士達が一斉にキリエの元へ向かって駆け出す。

「お、おい!!!待っ……!(ネロ殿を知っているのか……!?)」

今だ警戒心を解いていない年長の騎士は、
駆け出した彼らの背へ向けて制止の命を飛ばしかけたが。


その時だった。


ルシア「―――早くして」


突如少女の表情が豹変する。

さっきまでの俯き加減だった子供らしい色は影を潜め。

凍るような無表情。


彼女は『ソレ』を察知したのだ。


―――広場の向こうに立っている―――。


―――赤いマントと純白のスーツを身に纏った―――。


―――古代ギリシャ風のフルフェイス兜を被った男。


そして同時に動き出し起き上がる―――。


―――先程切り倒したはずのセクレタリー達。

368 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/08(木) 23:55:17.15 ID:VbI6srso
眉間にナイフが突き刺さりながらも、何事も無かったかのように起き上がるセクレタリー。

続けて少女の近くに横たわっている二体も動き出す。

頭が無いにも関らずムクリと上半身を起こす一体―――。


切り落とされた足の再生を始めるもう一体―――。


突如再び動き出した『絶望』。
それを目の当たりにし、騎士達が一瞬凍るが―――。


ルシア「―――早く!!!!」


―――響き渡る少女の透き通った声がその空気を切り裂く。

その声に突き動かされるように、一人の騎士は即座にキリエを抱き上げ周囲を他の者達が固める。


「―――ッ……!!行くぞ!!」


状況を見て、年長の騎士は即座に決断し、キリエを囲む騎士達の方へ駆け出す。
警戒している場合では無い。

この少女が敵か味方かなのか以前に、今再び起き上がりつつある悪魔達は確実に『敵』なのだ。

そして更に異質な空気を放つ者がもう一人現れたのだ。

選択は一つ。

この少女を信じるしかないのだ。

369 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/08(木) 23:56:51.52 ID:VbI6srso
ルシアは両手の剣を軽く振るい、そのまま腕を大きく広げ、
起き上がる周囲の三体の『姉妹』の動きに感覚を研ぎ澄ませ、

そして正面からゆっくりと歩を進めてくるその男を見据えた。


顔は隠れているが、あの男が何者かは一目瞭然。


ルシア「……」



『父』だ。


己を創り生み出した『父親』だ。


その姿が曲刀の柄を握るルシアの手の力を更に強める。



アリウス「久しぶりだな。『χ』」



そして響く、高慢な声。



ルシア「…………」



アリウス「まさか生きていたとはな」


アリウス「だがまあ、お前には用は無い」

370 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/08(木) 23:59:19.12 ID:VbI6srso
そして同時に。

ルシアに一斉に跳びかかる復活したセクレタリー達―――。


ルシア「―――」


セクレタリー。

ルシアにとっては血を分けた姉妹といっても過言ではない。

いや、姉妹以上と言っても良い。
体を形作っている基本的な設計は同一。

人間で例えるとDNAがほぼ一致しているようなものだ。

だがそんな『繋がり』を認識しているのは自分だけ。
この姉妹達にはそんな『自己認識』など無い。

あの頃の自分のように、ただ指令のまま動く。

そう、『あの頃』の自分のように。

己がどんなに彼女達の境遇を哀れんでも。
己がどんなに彼女達との繋がりに胸を痛めようとも。


彼女達は何一つ感じない。


己は何者なのかという認識が無い。
己が置かれている状況についても何一つ疑問は抱かない。

疑問という概念すら存在しない。

魂も体もその全てが模造品。


そんな忌むべき存在の『人形』達。

そして、自分もかつてはその一体に過ぎなかった。


あの日までは―――。

371 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/09(金) 00:06:49.56 ID:F/gPbXco
ルシアは幸運だった。

彼女がこうして自我を持てたのは、
あのウィンザーにおける一連の様々な要因が組み合わさっての結果だ。


覇王の力の一部を引き出す中継点として機能したルシア。

その莫大な力が流れ込んで来る中、彼女は確実に負荷で蝕まれていった。

そしてそこで彼女は命を落としていたはずだった。

覇王の力の一部を引き出すというアリウスの実験の為に生まれ、その実験が終わると同時に彼女は死ぬ。
その亡骸はアリウスによって回収され、サンプルとして解体される。

それが彼女の決められた一生だった。



しかし運命は彼女に手を差し伸べた。


ウィンザー城に潜り込む為に一時機能停止した、彼女の魂に組み込まれていた制御術式。
そしてその際の上条、インデックス、五和との接触。


その時に彼女の真っ白なキャンパスのような魂に初めて一点の色が付いた。



生まれて初めての食事。

生まれて初めての口での会話。

そして生まれて初めて味わった―――。


―――優しさと思いやり。

372 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/09(金) 00:11:06.57 ID:F/gPbXco
そんな小さな、極僅かな温もり。

だがそれが彼女の内面を急速に変化させていった。


その後のバージルによるアリウスと彼女を繋ぐ『回線』の切断。

ネロによる溢れ出した覇王の力の排除。

それが彼女の魂と体の崩壊を未然に防ぐ結果となった。



彼女は解き放たれたのだ。


彼女は生きていくことを『許され』、生きていくことを『命令』されたのだ。


感情を『知り』、そして『持つ』ものとして。


更に運命は彼女に新たなモノを授けてくれた。



『友人』と『家族』―――。



―――そして『母親』を。

373 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/09(金) 00:15:28.84 ID:F/gPbXco
『母親』と過した期間はたった数週間。

しかもその間のほとんどは『護り手』そしての様々な教育と修練に費やされた。

だがそれだけでもルシアにとっては素晴らしき日々だった。

『生きている』という事を実感できた。


修練によって荒ぐ息。

その吸い込む大気の美味しさ。


窓辺から、母親と一緒に眺めた海に沈む夕日。

その燃えるような美しさ。


母が淹れてくれた茶の温かさ。


あの日々の何もかもが彼女にとって新鮮であった。

そして彼女は知った。


自分はこんなにも素晴らしい世界にいたという事を。

374 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/09(金) 00:17:23.95 ID:F/gPbXco
ある晩ルシアは寝床で布団に潜りながら、
傍らの小さな椅子に座る母にとある『昔話』を聞かせてもらった。


昔々、一人の悪魔が人間界を護る為に立ち上がった と。
母の先祖達も彼の横に立ち共に戦った と。


そして彼はそのまま人間界を見守り続け、
そしてその息子と孫が今も人間界を護っている と。

お前を生かし、ここに導いたのも彼の息子と孫だ と。

そしてそれは太古から定められていた運命だ と。


お前の存在には高潔な意味がある と。

こうして日々剣を磨き、修練を積むのはその為だ と。

近い内にやってくる『その時』の為だ と。


ルシアは聞く。


お母さん、その時って何が起こるの? 

私は何をすればいいの? と。


母マティエは答える。


それは誰かに聞くことでは無いよ。

お前が見て、知り、そして自分自身の心で判断して進むこと。

焦らずともいい。今は眠りなさい。


娘よ と。

375 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/09(金) 00:18:24.82 ID:F/gPbXco
マティエは何かをルシアに強要する事は決してなかった。

運命の子ではあったが、ルシアを強引にその道に歩ませようとはしなかった。

運命の子なら、
いつかその時に自分自身の意志で進み始めると確信していたからだ。


そしてある日。


遂に『その時』が来た。


ルシアは己自身の足で、己の道を歩み始めた。


彼女はとある朝、ポツリとマティエに告げたのだ。


私、フォルトゥナに行く と。

良くわからないけど……行かなきゃならないの と。


ルシア自身はその原因が何かわかっていなかった。
だがこれが母が言っていたことだと何となく感じていた。

そんなルシアにマティエは小さく頷くと一言。


行きなさい と。

376 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/09(金) 00:19:48.15 ID:F/gPbXco
そして今。

ルシアは己自身の意志でこの『表舞台』に立っている。

まだ『なぜ』己がここに導かれたのかはわからない。


だが『何で』戦うかの理由は自分自身で見つけた。

自分の心に気付いたのだ。


彼女は己が愛するモノの為に刃を振るう。


あの昔話の英雄が守ろうとした世界。


この素晴らしい世界。

母が愛するこの世界。

そこに住まう人間達。


この数週間の間に彼女はそれらに『恋』してしまっていた。


初めての恋を―――。


初恋を―――。



ルシア「(お母さん―――)」



ルシア「(―――私、戦う)」



迫り来るセクレタリー。

ルシアは即座に神速の刃を振るう。


躊躇いもせずに―――。

377 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/09(金) 00:21:38.13 ID:F/gPbXco
『自分』は幸運だっただけ。

『自分』はこの選ばれた『体』に運良く宿っていた『思念』。

何かが違ったら、このセクレタリーのどれかが今の己の位置に立っていたかもしれない。


唯一自由を手に入れた自分。

そして。

自由の身である己だけが姉妹達を解き放てる。


それが彼女が見出した、己自身がやるべき使命の一つ。


『人造悪魔』という忌まわしき存在の『大罪』は―――。


哀れな『姉妹』達を繋ぎ止める負の『鎖』は―――。



―――己が全て背負う と。


―――姉妹達にその罪を背負わせない と。


金色の筋が宙に無数に走り、セクレタリー達の体が一瞬で寸断される。

今度はバラバラに。
再生する余地すら残さずに。

二度と立ち上がれないように。

二度と『鎖』に操られて戦わせられないように。

この凄惨な戦いの渦から解放を と。


『救い』から、『運命』から見放された姉妹達には―――。


自分とは違い選ばれなかった姉妹達には―――。



―――せめて安らかな眠りを と。

378 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/09(金) 00:23:15.23 ID:F/gPbXco
そして即座にルシアは再びアリウスを見据え、先と同じ姿勢に戻る。

そんなルシアを眺めながら。

アリウス「……ほお……さすがだな」

アリウスは小さく呟き再確認する。
ルシアの完成度を。

セクレタリー複数体を魔人化せずに一瞬で葬るれるのも当然。
何せアリウスの生涯を賭けた研究の集大成なのだから。


アリウス「……さて、気分はどうだ?『姉妹』達を殺す気分は?」

アリウスは手を広げ、尊大な口調でルシアに言葉を飛ばす。
そのマスクの下にあるあからさまに見下している表情が滲み出ている声を。


ルシア「…………」

ルシアが返すのは沈黙。


アリウス「『親』に何か言う事は無いのか?久々の再会だろう?」


ルシア「…………」


アリウス「自由と引き換えに舌を無くしたか?『χ』」


ルシア「…………違う」



ルシア「あなたは私の親なんかじゃない」



ルシア「私は護り手『マティエ』の娘―――」



ルシア「―――『ルシア』」

379 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/09(金) 00:27:55.87 ID:F/gPbXco
アリウスは豪快に笑う。

そのルシアの言葉に対して腹の底から。


アリウス「滑稽だな!!己が何者かもう忘れたのか!?―――」



アリウス「―――どうするつもりだ?!俺に復讐でもするつもりか?!」


そんなアリウスとは対象的に、ルシアは冷たく静かな声で。


ルシア「違う」


ルシア「我が母の名の下―――」


ルシア「我らが友である『スパーダ』の名の下―――」



ここに宣誓する。



ルシア「―――忌まわしき『絶望の覇王』を復活せんとするあなたを―――」


己の『過去』に対して。


ルシア「―――人間界に災厄を巻かんとするあなたを―――」


そして『今』の己の心に従い。



ルシア「―――『排除』する」


戦う事を。
380 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/09(金) 00:29:55.48 ID:F/gPbXco
ルシアの体から光が溢れ出す。

そしてその光の中から姿を現す魔人化したルシア。


アリウス「くだらん。くだらぬ幻想だ―――」


そんなルシアをアリウスは小首を掲げ『見下し』ながら鼻で笑う。



アリウス「―――もしやお前は俺を殺せると思っているのか?」



ルシアは言葉を返さずに、
両手の曲刀をクルリと回しながら腰を低く落とし。



アリウス「―――この俺を。お前のその手で。『ガラクタ』が」



そして一気に地面を蹴り突進する。


アリウスの首を刎ねるべく―――。


だが。


アリウス「―――もう一度聞く―――」



アリウス「―――己が何者かを忘れたのか?」

381 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/09(金) 00:32:18.44 ID:F/gPbXco
幼い少女がやっと手に入れた信念と覚悟。


それはあっけなく叩き潰された。


彼女を縛る『過去』の『鎖』によって―――。


彼女の魂の中に今だに刻まれている『過去』。



その忌まわしき『遺物』が『生みの親』に対する『反逆』を察知し―――。



―――彼女を内側から破壊した。



突如ルシアの体から急に力が抜け。


次いで魔人化が解け―――。



ルシア「―――けはッ」



―――口から大量の鮮血が噴き出す。

382 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/09(金) 00:39:49.19 ID:F/gPbXco
彼女はそのまま転倒し、
地面に叩きつけられ粉塵を上げながら慣性に従ってアリウスの方へと転がっていた。

アリウスはそのルシアの小さな体を踏みつけるように止め、
そして見下ろしながら。


アリウス「忘れたのか?―――」


もう一度問い―――。


アリウス「―――己が何者かを」


―――決して逃れられない『答え』を示す。



アリウス「―――『χ』」



―――彼女の『存在』を現す『名』を。


アリウス「お前の刃が俺に届くことは決して無い」


アリウス「決してな」


突きつけられる『過去』。
決して逃れられない己の『存在』。

そしてそれを前にした―――。


ルシア「あぁぁあ!!!!!!!!ぁああああああああああああああ!!!!!!!!!」


―――己の無力さ。


咆哮が響く。


少女の悲痛な咆哮が。

394 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:22:28.64 ID:8naS4AUo
―――

御坂は呆然としていた。

彼女に対し事あるごとにアプローチをしてきて、
その気が全く無いという事を匂わせても一切めげない海原。

ある意味『最高に幸せな思考』の持ち主であり、
そしてあまりにも人が良すぎて憎むに憎めない『ストーカー』。


そんな男が。


御坂「へ……?え……?!」


なぜあんな異様な殺気を身に纏って―――。



―――御坂にとってある意味『トラウマ』を植えつけたあの怪物と。



―――あのバージルと相対しているのか。


そもそもなぜ。



御坂「…………な、なんで……!?」



バージルがこんなところに。


そして。


御坂「………………ど、どうなってんのよ!!!!!!!?」


なんで明らかに海原と敵対しているのか。

395 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:27:24.64 ID:8naS4AUo
だがそんな大量の『なぜ』の答えを導き出しているヒマなどあるはずもなかった。


御坂「―――」


突如、彼女の手に持っている大砲がぼんやりと『赤く』光りだす。


『赤く』。


そしてそれと同時に。

海原の周囲に浮いていた半透明の浅黄色の剣、『幻影剣』の『全て』が。

クルリと方向転換し、その切っ先を御坂へと向ける。



海原「―――」


それを見た瞬間一気に理性が吹き飛んでいく海原。

なぜ御坂がこんなところに? とはもう考えていなかった。

今の海原の頭の中にある思念はただ一つ。

     ヒト
愛する女を―――。



海原「―――やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」



―――御坂を守る。

396 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:28:36.66 ID:8naS4AUo
御坂「(―――)」

その瞬間、御坂はふと気付く。

この『既視感』に。


そう。


『あの時』と同じ展開だ―――。


二ヵ月半前と―――。


打ち止めを守ろうとした一方通行。

そんな彼の腕を容赦無く切り落とし、胴を引き裂いたバージル。


御坂「(―――そん……な―――)」


『あの時』と『今』が重なる。
何もかもがあの時と同じだ。


ダンテから貰った武器を持つ御坂。

打ち止めを守ろうとした一方通行。

御坂を守ろうとしている海原。


二人の少年の姿が重なって見える。


そして―――。


―――同じ『結末』を迎えるのも―――。



御坂「(―――だめ―――)」

397 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:31:38.52 ID:8naS4AUo
響く海原の咆哮と同時に、彼の体を取り巻くように再び宙に浮き、
月明かりのような淡い光を放つ原典の帯。

その光からプクリと雫が湧き出してくる。

月明かりのような光を放つ球、いや、正に『小さな月』と言っても良い。

そんな球体が複数出現し。


海原の周囲に浮かぶ『幻影剣』のそれぞれに猛烈な勢いで射出された。

『剣』と『球』は激突し、凄まじい爆風と破砕音を轟かせながらガラスのように飛び散る。


だが『幻影剣』の全てを破壊できたわけでは無い。

撃墜できたのは半数だけだった。


海原は即座に跳躍し御坂前へ、『盾』となる位置へと着地した。

残った『幻影剣』の切っ先の延長線上に。



海原「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」



そして醸し出していた『予告』どおり。


射出される『幻影剣』―――。


御坂の前で仁王立ちし、雄叫びを上げる海原へ向けて。



御坂「―――やめてぇえええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」

398 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:32:28.32 ID:8naS4AUo
一気に叩き込まれていく『幻影剣』。

原典の加護がある海原にぶち当たり砕け散っていく。
同時に彼の『加護』も粉砕されていく。


そして二本の幻影剣が彼の肉へと深く食い込む。

一本は加護を貫通するも進路をそれて彼の脛に。

もう一本は右肩に。


海原「がぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


血が吹き上がる右肩を左手で握りこむように押え、身の毛がよだつ様な叫びを上げる海原。
貫通した幻影剣から流れ込んでくる力が彼の激痛を更に何倍にも増加させる。


物理的なだけでなく、『魂』を直接削り取っていく激痛を。

普通なら一瞬で気を失っている地獄のような苦痛。

だが海原は倒れない。

膝をつくどころかよろめきもしない。

目からは理性の色が消えていたが、闘争心の光はより一層強くなっていた。

その原動力は、背後にいる想い人を守る という思念のみ。

彼は呻き声を上げながら、震える左手で己の周囲に浮いている原典の端を握り締めた。
その瞬間、左腕そしてこめかみへと一気に血管が浮き上がる。


海原「―――ぎッッッはぁああああッ―――絶対……kjaai……mahhwe守る」


そして彼は更に原典と融合していく。

命と引き換えに最大最期の攻撃を放つ為に。

399 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:33:48.68 ID:8naS4AUo
御坂「―――」

そんな海原の背中。

もう完全に一致している。

あの時の一方通行の背中と。


もう確実だ。
このままいけばあの時と同じ結末となる。


御坂は思った。

どうにかしてこの『運命』を変えなければ と。

どうにかしてあの時とは別の『ルート』へと進まなければ と。


御坂「―――」


では、今己に何が出来る?


何が出来て、どうやって運命を変える?


そして御坂はたった一つだけ思いついた。

それは最も簡単で単純でありながら。
『あの時』とは決定的な違いを生み出す行為でありながら。


御坂「やめて―――おねがいだから―――」


何よりも勇気がいること。


御坂「―――戦わないで」


『闘争の放棄』。

400 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:39:31.98 ID:8naS4AUo
『闘争の放棄』。

だがそれは一方では全力の『闘争』でもある。


理性は恐怖に負け、恐怖は防衛本能を肥大させ、

その防衛本能は破滅的な闘争心を生み出し、

絶望的な闘争を自ら引き寄せ死へと己から歩み進む。


『あの時』一方通行は打ち止めを失う『恐怖』に負けた。
そして『死』に掛けた。

今、海原は御坂を失う『恐怖』に負けた。
そして『死』へと自ら進み始めた。

それは最早『闘争』ではない。

『理性を失った』その行為はただの『自殺行為』だ。


だが現在の御坂は。


御坂「―――だめぇええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


『恐怖』には負けなかった。

死へと導こうとする『闘争心』の甘露のような囁きには決して屈しなかった。

彼女は『闘争に勝ち』、『闘争の放棄』と言う選択を手に入れたのだ。


彼女は海原の背中へと一気に両手を伸ばす。


ダンテから授かった大砲を脇へ放り投げて。


それと同時に―――。


―――閻魔刀の柄へと手を静かに乗せる正面のバージル。

401 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:42:03.23 ID:8naS4AUo
海原「オ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!」

原典を固く握り締めた左腕を大きく引く。
大きくなびく原典の帯。
迸り溢れる月明かり色の光。

そして。

彼は命を代償とするアステカの究極の魔術を放―――。


―――とうとした時だった。


腰辺りがやさしくギュッと締め付けられ、それと同時に背中に当たる温もり。
『闘争心』の占有された彼の脳内を切り裂くように。

それでいながら優しく聞こえてきた穏やかな―――。


御坂「大丈夫だから―――」


―――御坂の声。


御坂「―――もう、戦わなくてもいいの」


それは正に『天使』の声だった。

海原「―――」

一方で、正面の『悪魔』から放たれてくる凄まじい殺気。

彼の僅かに残っていた思念が揺れ動く。


御坂の声か、闘争心の叫びか。

どちらの言葉を信じるか―――。


天使か悪魔か。

どちらのオーラを信じるか―――。

402 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:43:51.08 ID:8naS4AUo
そんな海原の一瞬の迷い、その間に運命は着実に『針』を進めた。

それは正に一瞬。
いつどうやってソレがここまで来たのか、二人ともおぼろげにさえ『見る』ことも出来なかった。

全く目で追えなかった。

さながら瞬間移動でもしてきたかのように。


御坂「―――」


海原「―――」


二人の目に映る。


不気味な光を放つ閻魔刀の刃。


その切っ先は―――。


海原の胸元から僅か数センチ。


そこで止まっていた。


バージルは閻魔刀を海原の胸へと突きつけていた。
そのまま押し込めば、海原に後ろから抱き着いている御坂もろとも串刺しにできる。


だが彼はそれ以上刃を進めようとはしてこなかった。

静かに、鋭く冷たい目で二人を見つめていた。


魂を直で見透かされてそうな瞳で。

403 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:45:55.75 ID:8naS4AUo
御坂「…………」

海原「…………」

硬直する二人。


そして数秒間の沈黙の後、
バージルが刃を突きつけたまま静かに口を開いた。


バージル「―――女」


御坂に向けて。



バージル「―――名乗れ」



御坂「…………………………………………御坂……美琴……です」



その凄まじい威圧感と、
この異常な緊張感で御坂は反射的に敬語を使って答えてしまった。

404 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:48:07.23 ID:8naS4AUo
バージル「―――そうか」

バージルはポツリと呟くと、パッと手際よく閻魔刀を鞘に納め、
踵を返してゆっくりと歩を進め氷原と化している街の中へ消えていった。


御坂「………………」


海原「………………」

二人はその後姿を呆然と見続けていた。
闇の中へ消えた後も。
海原が意識を失ってその場に倒れこむまで。


バージルが『現時点の障害』と定める『リスト』から、二人が外れたのは言うまでも無いが。

だが御坂は知る由も無い。

バージルに名を聞かれるという事、つまり彼に名を記憶されるというのがどれ程のことなのかを。
彼の記憶に刻まれるに足る条件はただ一つ。


『強者』として認められること。


そして御坂はここで一つの強さを見せた。


『弱さ』からではなく。

心の『強さ』から生み出された『闘争の放棄』という選択。

それもまた『強者』のあるべき姿の『一面』。
必要な時には全力で戦い、必要の無いに時には一切戦わない。

彼女はその心の『強さ』をこのバージルを相手にして示したのだ。


バージルは強さに関しては恐ろしいほどに公平な評価を下す。
種族は当然、戦闘力・精神力のジャンルを問わず全ての『強さ』に分け隔てなく。

そして今、バージルはそれ相応の『評価』を彼女にも下した。
一定のふさわしき『敬意』と共に。


貴様は『強い』 と。


405 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:49:20.23 ID:8naS4AUo
―――

学園都市。
第七学区。


同じ一人の少女を愛する二人が放つ『魔』。

ぶつかり絡み合う『憤怒』。


迸る白銀の閃光。

吹き上がる爆炎。

轟く地響きと大気の震え―――。



粉塵と炎の中から姿を現す上条とステイル。

向かい合って立っている彼ら。

その間にいたはずのフィアンマの姿は消えていた。


ステイル『…………』

上条『…………』


二人はゆっくりと顔を上げとある一方へと目を向けた。


その視線の先。

50m程離れた場所に立っている―――。



―――フィアンマ。

406 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:53:39.12 ID:8naS4AUo
フィアンマの鮮やかな髪の毛先の一部が黒ずみ、
スーツも所々が黒く汚れている。


一方で、彼の背中から伸びている巨大な腕にはオレンジの光が戻っていた。
そして同じく彼の体を覆っているおぼろげな光の衣も。


そのフィアンマの横にふわりと移動するインデックス。


フィアンマ「はっ。『再起動』が間に合って良かったよ。今のはさすがに少し焦ってしまったな」


スーツに付いたチリを掃いながら、
半ば呆れたような溜息を混じらせながら小さく呟くフィアンマ。


高慢な口調は相変わらずだが、
その顔と瞳からは先程までのお遊び感覚の色は消えていた。


そして入れ違いに薄っすらと滲み出てくる。


フィアンマ「おかげで久々に頭にキタな」


本気の『怒り』の色。


フィアンマ「良くやったな。この俺様を怒らすとは」


フィアンマ「お前ら平民共にはわかないだろうがな、このスーツは結構値が張るんだ」

407 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:55:39.65 ID:8naS4AUo
ステイル『―――黙れ!!!!そこまで大事ならあの世まで持って行くがいい!!!!』

ステイルは文字通り口から『炎』を吐きながら、そんなフィアンマを凄まじい形相で睨んだ。
足元の地面は溶解し、一帯の大気が熱せられて陽炎となる。


あのフィアンマの姿、そしてその横に並んでいる無表情のインデックス。


ステイル『―――インデックスを!!!!!!!彼女を返して貰おう!!!!!!!!!!』


その光景がステイルの憤怒を更に煮えたぎらせる。
頭の中が今にも沸騰しそうだ。

いや、実際に彼の体内はとてつもない温度にまで上昇していた。
生身の人間なら沸騰どころか一瞬で蒸発している。


フィアンマ「返せだと?それは少しおかしいな。禁書目録の今の『主人』は俺様だ」


ステイル『ふ―――』


そんなフィアンマの言葉でステイルの怒りが遂に臨界点に達し。


ステイル『―――ッッッッざけんなァア゛ア゛ア゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!』


彼は再び両手を広げ炎剣を精製しフィアンマへと突進―――。


―――しようとしたが。


ステイル『―――』


突如右手首を鷲掴みにされ制止させられた。


上条『―――待て』


横にいた上条に。

408 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:57:12.91 ID:8naS4AUo
上条の左手が、まるで枷のようにガッチリとステイルの右手首を握っていた。

ステイル『―――何を!!!!!?離せ!!!!!!!!!』

上条『落ち着け』

ステイルとは対称的な冷めた声の上条当麻。
その冷たい目は真っ直ぐとフィアンマを見つめていた。


ステイル『―――んだとぉおおオオオオオオ?!!!!!!!』


そんな彼の声と姿がステイルの怒りに更に油を注ぐ。

落ち着いて考えればそんな事は有り得ないとすぐにわかるのだが、
憤怒に駆られ冷静を失っている今のステイルは上条に対しても反射的に怒りを抱いてしまった。


インデックスがあんな状態になっているにも関らず何だその態度は? と。


ステイル『―――よ、よくもそんな!!!!!!!!!!!!』


お前は何も思うことが無いのか? と。


ステイル『―――良いだろう!!!!それなら僕一人でm―――』


その時だった。

そんなステイルの怒号を遮るかのように、彼の顔面に叩き込まれる―――。


上条『―――うるせえ』


―――上条の右拳。

409 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 00:59:48.51 ID:8naS4AUo
ステイル『―――……っ……』

軽くよろめきながら後ずさるステイル。


上条『落ち着けって言ってんだろが』

そんな彼に向かって、
上条は相変わらずフィアンマへと目を向けたまま淡々とした声だけを飛ばした。

その上条の固く握り締めている右拳。
指の間から血が滴っていた。
右腕を覆う専用の篭手の隙間からも。


上条の右腕は魔界の金属生命体で作られた篭手で守られてはいるもの、
内部の腕本体の筋力や強度は人間と同等。

そんな腕で『悪魔の顔』を直接殴るという事は自殺行為であるようなものだ。
ましてやステイルのように大悪魔に匹敵する存在に対してなど。

悪魔にとっては蚊に刺されたようなものなのだが。


だが上条は思いっきりぶん殴った。

それを受け、ステイルは確かに強烈な衝撃を受けた。


強烈な衝撃を だ。


物質的なものではなく。


直接脳内へ響いてきたような。


魂を『直接』ぶん殴られたような―――。


上条の『魂の一撃』は、ステイルの頭の中を占有していた憤怒を一瞬で払いのけてしまった。

410 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 01:02:32.68 ID:8naS4AUo
上条『頭に血昇らしてどうすんだよ』


ステイル『…………』


冷静になってようやく上条の『内面の状況』に気付く。

一見冷めた無表情である上条。

だがよくよく見ると、こめかみや眉間の部分がピクリピクリと不規則に小さく痙攣しており、
鼻息も少し荒かった。


ステイル『…………』

そう、上条もまた凄まじい憤怒に駆られているのだ。
己と同じように、いや己以上に濃くて猛々しいかもしれない。

だが彼はそれに身を委ねることなく冷静な思考を保っているのだ。



上条『バラバラで戦ったところで誰も勝てねえ』



上条『アイツを助けるにはお前の力も必要なんだよ』



上条『一緒に戦う「力」がよ』

411 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 01:04:35.37 ID:8naS4AUo
ステイル『……』


ステイルはこんな上条を見て、己の不甲斐なさを実感した。
『憤怒』に甘え、『闘争心に負けて』しまった己に。


そのドス黒い感情に身を委ねてしまった結果、
ステイルはある意味『インデックスを救う』という目的を放棄しかけてしまったのだ。


彼女の安全よりも、己の怒りを『優先』してしまったのだ。


一方で上条は何よりもインデックスを救う事を考えていた。


『憤怒』をも押さえつけてしまうほどに強く だ。


湧き上がってくる『闘争心』の甘い囁きには決して屈せずに。


『己の怒り』など『二の次』にして。


とにかくインデックスの為に。



彼女を救う為の『理性』をしっかりと保っているのだ。

412 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 01:05:57.02 ID:8naS4AUo
ステイル『…………ああ、そうだな。すまん』

殴られた頬を軽くさすりながら深呼吸し、
精神を落ち着かせるステイル。


上条『アクセラレータ』


上条がフィアンマを見据えたまま、
いつの間にか横に立っていた一方通行の名を呼び。

上条『あの野郎は何もんだ?』


一方『……名前はフィアンマつーらしい。神の右席だかなンだかホザいてやがった』


上条『神の右席……』


その名を聞いて、上条の目が一層鋭くなる。

『神の右席』ならば強いのも当然。

その名を冠する者とは今まで三人程戦ったことがある。
三人とも、それぞれが皆異常な程の強さを誇っていた。

特にアックアなんかはサシで戦えば今の己でも勝てる気がしない。


そして今、その最後の一人が相手というわけだ。

恐らく神の右席の中でも最強であろう一人が。

つまり、世界最大勢力であるローマ正教の『最強』が。

413 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 01:07:55.17 ID:8naS4AUo
上条『(…………待て……魔術師……だと?)』

と、そこまで考えたところで上条は妙な事に気付いた。
このフィアンマの力は今まで戦ってきた神の右席の力とは何かが違う と。

一般の魔術師と比べれば異質すぎる力を使う神の右席でも、
その力の『根源』は一般の魔術師と同じ。

能力には能力特有の、

魔術には魔術特有の、

悪魔の力には悪魔特有の、

打ち消す際にはそれぞれの『感触』がある。


決して間違えることは無い。

そして今までの経験上、
フィアンマの力を打ち消す際の感触は魔術特有のモノになるはずなのだ。

しかし実際に先程の感触を思い返してみると。


上条『(どうなってんだ……?)』

確かに魔術特有の感触もしたが。

もう一つ。

それと一緒に。


上条『(……)』


『能力』の感触もしたのだ。

本来ならば有り得ない。
魔術と能力の二つの力を有するなど有り得ない。

ましてやその二つが『融合』しているなど―――。

414 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 01:10:12.83 ID:8naS4AUo
上条『(……)』

これはあのトカゲのような腕が実体を持っていないにも関らずに、
幻想殺しが効かなかった事にも必ず何らかの関係があるだろう。


上条『(……まあいい。それは後だ)』

と、思索に耽りかけてしまったが今はこうゆっくりしている場合では無い。

とにかく今はインデックスだ。


上条『……インデックスはあの野郎に操られてんだな?』


一方『そォらしい。あの野郎が持ってる妙な塊が光った途端、こっちに攻撃をしかけてきやがった』

ステイルと上条は、フィアンマの手にあるダイヤル式の南京錠のような金属の塊に視線を移す。


ステイル『(……首輪、自動書記を操作できる霊装か……もしくは魔具か)』

以前にも自動書記が起動した状態のインデックスを目の当たりにしたことがある。
今へと続く、上条との腐れ縁の始まりでもあったあの事件の時にだ。

まあ、今のインデックスはあの時以上のとんでもない戦闘能力を発揮しているようだが。
あの事件の時は全力になる前に上条の右手によって収束したのだろう。


今の状態が本当の自動書記の力というわけだ。


とはいえ。

自動書記はあの時に破壊されたはずではなかったのだろうか。


ステイル『(あの女……)』

胡散臭い上司ローラからもそう聞かされたのだが。

それは嘘だったというわけだ。

ステイル『(ふざけやがって……)』


どうやら帰ってから聞くべき事がもう一つ増えたようだ。

415 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 01:12:12.19 ID:8naS4AUo
ステイル『霊装なら君の右手で。魔具なら力ずくで解体する』


ステイル『もしくは「あの時」のように君が首輪と自動書記もう一度破壊する。こんなところだな』


上条『……………………………………?』


「あの時」。


上条はその単語を聞き、ゆっくりとステイルの方へ振り返り彼の顔を見つめた。
無言のまま。


ステイル『…………どうした?』


上条『……あの時って「俺」が最初にインデックスを助けた時の事か?』


ステイル『何を言ってるんだい?他にいつがある?』


上条『ああ、そうだったな。悪ぃ。「あの時」のようにだな。「あの時」の……な……』


上条はピクリと眉を動かした後、
独り言のように呟きながら再びフィアンマの方を見据えた。


独り言のように だ。

何かを自分に言い聞かせるように。


ステイル『…………』

416 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 01:16:15.78 ID:8naS4AUo
フィアンマ「…………ふむ」

そんな三人を遠くに見据えながら、
フィアンマは己の思索に合わせ一人相槌を打つ。

上条に続き現れたあの悪魔。

直にこうして会うのは初めてだが、
恐らくイギリス清教所属の禁書目録の守り手『ステイル=マグヌス』で間違いない。

二ヵ月半前に悪魔に転生した男だ。

一方通行と同じく、あの男も殺せるうちに殺しておいた方が良い。

いくら『小物』とはいえ大悪魔に匹敵する力はさすがに無視できない。

今後の事を考えるとそれなりに邪魔になる可能性が高いのだ。


フィアンマ「(それにしても少々厄介になりそうだ…………―――)」

確かに今、これ程の力を有する三人を相手にするのは面倒だ。
それも一人は無傷のままもう二人は確実に殺す というそれなりに難しい立ち回りを強いられそうだ。

しかし。


フィアンマ「(―――だがこれなら充分かもしれないな)」


この状況はある意味フィアンマにとって好都合にも成り得る。

三人の強者がいる事によってのとある利益。


それは先程までの一方通行『一人』では成し得なかった事。


そう、『例の力』を引き出し確認する事―――。


―――インデックスの中に眠る『例の力』を。

417 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 01:20:52.36 ID:8naS4AUo
そしてそんなフィアンマの読み通りに。

彼の横にいたインデックスが口を開く。


禁書「二体の新たな敵性因子を確認」


禁書「記憶を照合」


禁書「一体目。性質がベオウルフに酷似」


禁書「以前の記憶を照合。右腕に『幻想殺し』を確認。警告。脅威度第二級」


禁書「二体目。性質がイフリートに酷似」


禁書「負傷しており予想最大稼働率は40%。警告。脅威度第三級」



禁書「警告。警告。現状では迎撃不可―――」



その声と同時に、手に持つ遠隔制御霊装を介して、
インデックスの内部の状態が共にリアルタイムで送られてくる。


『現在』のインデックスの『状態』では『戦力不足』だという警告が。

418 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 01:23:46.80 ID:8naS4AUo
そしてその『警告』はフィアンマにとって―――。



フィアンマ「―――ははっいいぞ」



―――『朗報』でもある。


今の今までは、このまま連れ帰って解析して引き出すつもりだったが、
その作業が無くなるのはかなり好ましい。

いくらフィアンマでも、インデックスの中にあるあの封印術式を破るのは
それなりの労力と時間が必要なのだ。


何せ魔女が作った術式。
核を構成しているのは『エノク語』。


最悪の場合、その防壁を敗れない可能性もあったのだ。


それを鑑みると、少々乱暴だろうが勝手に封印が解けて、
自ら例の『何か』の力が飛び出してくるのはかなり美味しい話なのだ。


ついでに後々に邪魔になるであろう、一方通行とステイルを処分できるとなれば一石二鳥、

いや、今現在の使用制限がある己の力を極力使わずして、
排除できるのだから一石三鳥だ。


引き出された例の力の情報を記録すれば、
そのデータを元にエノク語の核を解析することも簡単になる。


そう考えると一石四鳥でもあるのだ。

419 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 01:26:35.52 ID:8naS4AUo
一方『おォ、俺はゆっくりしてらンねェんだ』

一方通行が両手の義手で軽くパチンと手を叩きながら、首を傾け骨を鳴らす。
チョーカーのバッテリー残量はもう半分を切っている。

長引かれると今後の事に大きな影響を及ぼすかもしれない。

それにバッテリー以前に己自身の体力が危うい。


そして何よりも。

妹達に、そして打ち止めにこれ以上の負荷を与えるわけにはいかない。

この黒い噴射物を制御している状態で、更にこの妙な、『未知なる義手』も形成している。


義手についてのダメージは妙な事に、今のところ己には来ていないが、
その分ミサカネットワークに更なる負荷をかけている可能性もある。


一方『さっさとはじめンぜ』

そんな一方通行の声で上条とステイルも戦闘態勢へと。


ステイルは再び両手に炎剣を精製し、
上条は右手の篭手の状態を確かめ、
そして両手左手の光の装具に更に力を流し込む。


ステイル『それで作戦は?』


上条『俺の右手であの野郎の防護を打ち消す』


上条『それであの霊装か魔具を叩き壊す』


上条『それか……「あの時」と同じく自動書記……だっけか、それをぶっ壊す』


ステイル『いや、どう動けば良い?』

420 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 01:27:41.11 ID:8naS4AUo
上条『「さっき」と同じで頼む』

『さっき』と同じ。


一方『ハッ。まァた即効のアドリブかよ』


リアルタイムでそれぞれがそれぞれの動きを読み。


ステイル『全く君という男は。少し尊敬しかけたところでこれだ』


それぞれが己のやるべき事を見出し。


上条『何だよ。問題ねえだろ』


それぞれが全力でやり遂げる。


一方『まァな』


失敗すれば結果は最悪―――。


ステイル『まあ、確かに問題は無いな』


だが成功すれば効果は絶大―――。


上条『だろ?「俺ら」なら―――』




上条『―――できるさ』

421 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 01:29:50.23 ID:8naS4AUo
一方『おィマッチ棒。グダグダしてやがったらオマェもろとも吹っ飛ばすからなァ』



単純明快にして強者のみが使える究極の『作戦』。



ステイル『こっちの台詞だ。トロトロしてたら焼き殺してあげるよモヤシ君』



成功の鍵はお互いの絶大なる信頼。



そしてその信頼を裏付けるのは―――。



上条『―――行くぜ』



―――それぞれの『インデックスを救う』という覚悟と信念。



一方『おォ―――』


ステイル『ああ―――』



―――それだけで充分だ。

422 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/07/11(日) 01:31:09.04 ID:8naS4AUo
地面を蹴り爆進する三人の高潔なる『戦士』。

その先にいる、不敵な笑みを浮かべているフィアンマ。


そして彼の横にいる―――。


禁書「―――繰り返します。現在の状態では迎撃不可」


禁書「最終警告。特例、第66章6節に従い―――」


禁書「―――戦闘統制システムの第12章7節から第18章45節までを―――」



禁書「―――『アンブラの鉄の処女』に移行します」



禁書「―――『ローラ』、起動確認」


禁書「―――『メアリー』、起動確認」



禁書「―――稼動率、35%。システム点検中。異常無し」



禁書「―――拘束具、第二錠から第五錠、及び第七錠を解放します」



禁書「―――開錠完了まで残り20秒」



―――『目覚めの時』へ向けてカウントダウンを始めたインデックス。

ダンテ「学園都市か」23(勃発・瓦解編)



posted by JOY at 14:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 禁書クロスSS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。