2010年08月22日

ダンテ「学園都市か」10(勃発・瓦解編)

720 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/21(金) 00:28:20.43 ID:W6j0Q8k0
勃発・瓦解編

―――

遡ること数分前。

学園都市。第七区。
上条宅。

一方通行は上条宅の扉の前にいた。

一方「クカカ……ハハッ…」
不気味な笑い声を立てながら、携帯をポケットに押し込んだ。
土御門・麦野と通話していたのだ。

この会話を当然インデックスに聞かせるわけにはいかない。
ということでこうして外で話していたという訳だ。

一方通行「メルトダウナーねェ……気に入ったぜェ。イイ女じゃねェか……カカカ…」

ゆっくりと振り向き、杖を突きながら扉を開け屋内に戻る。

禁書「お友達?」

ベッドに寄りかかりながらテレビを見ていたインデックスが声を向けた。

一方「………そンなところだ」

一方通行は適当に返事をし、靴を履いたまま玄関に座った。

723 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/21(金) 00:31:17.67 ID:W6j0Q8k0
一方「つーかもうそろそろだろ?なンか連絡とかねェのか?」

禁書「ないんだよ〜」
インデックスがテレビを見ながら返事をする。

一方「ハッ……呑気な野郎だ…」

禁書「待つんだよ。我慢した分楽しみも増えるんだよ!」

禁書「とうまも……………」

とその時だった。
インデックスの言葉が急に止まった。

まるで時間が止まったかのように硬直し、瞬き一つすらしない。
口も最後に放った『も』の形で止まったままだ。

一方「……おィ―――」

一方通行が声をかけようとした瞬間。


一方「―――」


妙な感覚。

ここ一帯の空気の質が瞬時に変わった。
異質な『何か』がこの部屋に充満している。
それが肌に当たり、チリチリと音を立てているような感覚だ。

一方「―――」

彼の数々の死線で鍛え上げられてきた勘が叫ぶ。


『何かが起こった』と。

725 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/21(金) 00:35:20.98 ID:W6j0Q8k0
一瞬で一方通行の目つきが変わる。

異変を感じ取った彼は、立ち上がりながら素早く首元のチョーカーに手を伸ばしスイッチを入れた。

能力が起動し、周囲の力場の状態を調べてみようとした矢先―――

―――固まっていたインデックスが横向きに床に倒れ込んだ。

一方「―――おィッッッ!!!!!」

杖を放り投げ、当然土足のままで一目散にインデックスの所へ駆け寄った。

一方「どォしたッ!!!!!??おィ聞こえるかァ!!!??」

床に横たわっているインデックスは、さっきまでの人形のような様子とは打って変って、
全身から汗を噴出して苦しそうに激しく呼吸をしていた。

一方通行の声を聞く余裕すら無いのは一目瞭然だ。

一方「――――」

そのインデックスの姿を見て、過去の記憶が脳裏に鮮明に呼び起こされる。

ウイルスに犯され、凄まじい負荷を受けて苦しんでいた打ち止めの姿が。

その映像が、今この目の前の少女と重なる。



一方「(――――ざっっっっっけンじゃねェぞッ!!!!!!!!!)」

726 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/21(金) 00:44:58.65 ID:W6j0Q8k0
上条と約束した以上、何が何でも対処しなければならない。

そしてこの少女の症状。

苦痛に呻く姿。

その姿が打ち止めと重なり、一方通行を更に強く突き動かす。


絶対に、どんな手を使ってでも救わなければならない と。


一方「(そォはさせねェ!!!!させねェぞこンチクショウが!!!!)」

一方通行は右手を少女の額にかざし、
能力を使用してバイタルチェックをする。

一方「(こィつは……!!!!)」

少女の内部に渦巻く力を検知した。
どうやらこれが諸悪の根源らしい。

能力を集中させ、さらに詳細にチェックする。

その力の『外側』の部分は一方通行にも何とか干渉できるモノのようだ。

一方「………シッ……」

いける…! そう心の中で呟く。

未知の力だが、解析すればある程度操作できるだろう。
上手くいけば囲い込んで遮断し、外へと排出させる事も可能かもしれない。

―――と思ったのも束の間だった。

727 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/21(金) 00:47:53.35 ID:W6j0Q8k0
一方「……な、なンだこりゃァ………」

その力の核の部分を見て一方通行は思わず声を漏らしてしまった。

核を構成している力の性質。

それは一方通行の手には負えない代物だった。何度も経験済みだ。
この系統の力で二ヵ月半前も死に掻けた。


悪魔が使う、彼が干渉できない力だ。


存在や量・強さ等の『外身』はなんとなくわかるが、
その本質の部分はどうやっても見えないのは経験済みだ。

演算し操作するなどもっての他だ。


一方「―――クッソ!!!!!!チクショウがッ!!!!!」


一瞬差した希望の光は一瞬で消滅した。
根源は排除できない。

一方「(考えろ―――!!!他には!!!!)」

一方通行は何とかして他の切り口を探そうと、
今度はインデックスの脳内電流に能力を集中させる。

728 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/21(金) 00:52:10.38 ID:W6j0Q8k0
そして読み取ろうとした瞬間。

一方「がッ!!!!!!!!!」

強烈な『何か』が一気に一方通行の頭の中へ流れ込んできた。

その『劇薬』は凄まじい頭痛を引き起こす。
あまりの痛みに一方通行は両手で頭を抱え込んでしまった。

一方「な………!!!!」

能力による検査を中断した瞬間痛みは治まった。

理由はわからないが、この少女の脳内を『見る』のはかなり危険らしい。
あのまま見続けていたらこちらの頭がどうにかなってしまいそうだ。

一方「………チッ!!!」

一方通行は右手で素早くインデックスを抱き上げると、ベッドの方に左手を向けた。

ベッドの上にあったインデックスの携帯が吸い寄せられるように飛び、彼の左手に収る。

そして能力を使い素早く立ち上がり窓へと突進する。
道を開けるかのように窓が吹き飛び、インデックスを抱いた一方通行が弾丸のように射出された。


今ここでできる処置は無い。

目指すはとある病院。

最後の頼みの綱、『冥土帰し』の下へ。

彼は夜空を突っ切って真っ直ぐに進んで行く。

729 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/21(金) 00:59:10.70 ID:W6j0Q8k0
一方通行はインデックスを抱えたまま、砲弾のように夜空を猛烈な速度で切り裂いていく。
日が沈んだばかりの空は、地平線の彼方がまだ僅かに赤く燃えていた。

一方通行は左手にあるインデックスの携帯を操作する。
もともと登録されている件数はかなり少なかったため、目当ての番号はすぐに見つかった。

『とうま』と表示されている番号をダイヤルする。

だが出ない。

一方「何してやがンだ三下ァ!!!!!!」

インデックスはぐったりと力なくうな垂れている。
小刻みな呼吸、汗が噴出している顔。

その姿が更に一方通行を焦燥させる。


一方「出ろ!!!!出ろやァァァァァ!!!!!!!」


その時だった。


一方「―――」


彼の能力が真後ろから来る、巨大な『攻撃性』を感知した。

そして次の瞬間、背中の反射膜に、
どこからか放たれてきた衝撃波のような攻撃が直撃する。

730 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/21(金) 01:02:15.24 ID:W6j0Q8k0
一方「チッ!!!」

かなりの力であり、そして未知の物でもあったが反射は何とか機能した。

だが解析しきっていないので正確には反射できなかったようだ。
爆音を響かせながらその『衝撃波攻撃』が、虹のようなカラフルな光に姿を変え無軌道に拡散した。

空で受けたのが幸いだ。
地上ならば、周囲一帯を破壊してしまっただろう。

一方「ッ―――!!!!」

一方通行はそのまま下の道路に着地した。

時刻はまだ午後六時。
それにここは学生寮が集中している第七学区。

通行人や、通りを行きかう車はまだまだ大量にあった。

爆音に次いで突然空から降ってきた、
少女を抱える白髪の少年に驚き通行人達が驚きの声を上げた。


一方「何見てやがンだァ!!?失せやがれ!!!!!!」


一方通行が声を張り上げ、続けて足元のアスファルトを能力で捲り上げる。
それを見て通行人達が慌てて離れていく。

731 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/21(金) 01:05:00.15 ID:W6j0Q8k0
一方「(どこだァ……どこにいやがる!?)」

周囲を見渡し、襲撃者の姿を探す。

このタイミング。
今抱きかかえている少女の状況と何か関係がある可能性が高い。
無視して病院に向かうのはマズイ。
後を追われ、施設ごと破壊されでもしたら治療どころではなくなる。


一方「カッ!!!!来いやァ!!!!ビビッてンのかァッ!!!!!!」


姿を見つけれず、苛立つ一方通行は声を張り上げた。


「なるほど」


その時、背後から声。

一方通行は勢い良く振り向いた。
彼から30m程離れた路上に立つ華奢な優男。

オレンジのストライプのスーツに、男にしては長めの赤い髪。
両手をポケットに突っ込んでいる。


「確かに『境界』は越えているな」


優男が独り言のように呟き、
高慢な笑みを浮かべながらゆっくりと歩を進めてくる。


一方「テメェかァァァ?!!」


一方通行は目を見開き、凄まじい敵意と殺意の篭った瞳で優男を見据えた。

732 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/21(金) 01:06:24.52 ID:W6j0Q8k0
「その子を渡してくれないか?」

一方「……ハッ…そォいう事か…」

優男が放ったその言葉。
この少女の症状と何か関係があるのは確実だ。

木原の時の様に、この少女を救う何らかの手段を知っている、もしくは持っているのかもしれない。

ならば手早く戦力を削いで生け捕りにするのが最適だろう。

殺すのはその後だ。


一方「生憎だが、断わン―――」


一方通行が軽く左足を振り。


一方「―――ぜェ!!!!!」


そして先ほど捲りあげたアスファルトの破片を一つを蹴り飛ばす。

破片は一瞬で音速の数倍にまで加速され、
摩擦熱で眩く輝きながら優男へと突き進んでいった。

光の矢が優男の左足の膝辺りに直撃し、大爆発を起こす。

地響きが起こり、衝撃波で周囲のビルの窓ガラスが砕ける。

だが被害を最小限にする為の一方通行の操作により、
ガラス片や瓦礫は飛び散ることなくその場に落ちた。

733 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/21(金) 01:09:00.72 ID:W6j0Q8k0
轟音が響き、逃げ惑う人々の悲鳴が聞こえる。
破壊は最小限に食い止めた為、少なくとも死者は出ていないだろう。

そしてこの爆音と地響きにより、周囲の一般人は皆逃げていくはずだ。

一方通行は軽く足で地面を叩く。
するともうもうと立ち込めていた粉塵が『割れ』、一気に晴れ上がった。

一方「……チッ」

優男は先と同じく悠然と立っていた。
足元の地面は大きく抉れているのに、優男には傷一つ、汚れ一つ無い。


「やはりな……では力ずくで貰おうか」

優男が薄い笑みを浮かべ、口を開いた。


「……そうだ、まず自己紹介でもしよう。一応の礼儀だ」


「俺様はローマ正教『神の右席』」



フィアンマ「右方のフィアンマだ」



一方「ハッ。ゴミクズの名前なンざいちいち覚えてらンねェンだ。こちとら脳ミソに余裕がねェンでなァ」


フィアンマ「心配しなくても良いさ。いくら脳ナシとは言え『最期』に聞く名ぐらいは覚えられるだろう?」


フィアンマ「お前はここで死ぬのだからな」


一方「カッ!!上等だぜェ!!!!やってみろやカマ野郎ォッ!!!!!!」



738 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/22(土) 23:35:14.20 ID:Bc16/PE0
―――

イギリス。

バッキンガム宮殿の一室。

エリザード「……なるほど…」

女王エリザードは椅子の手すりに右肘を付き、頬杖をしながら神妙な面持ちで呟いた。
彼女の前の机の前には、二つの書物型の通信霊装が置かれていた。

片方には、外見は18歳程の美しい金髪の女性、最大主教ローラ=スチュアート。
そしてもう片方には、五和から送られてきたヴァチカンの画像が映っていた。

七天七刀を構え力を解放して全身から光を放出している神裂、その正面の神像の上に立つポニーテールの女。
神裂の証言、更に今この瞬間の彼女の様子を見る限り、先日の聖ジョージの襲撃犯で間違いない。

そして。

エリザード「……魔女だな」

証言からでも薄々感付いていたが、実際に映像を見てエリザードは確信した。

あの装束。
あの武装。

間違いない。


あの女は『アンブラの魔女』だ。


エリザードは魔女の事を『良く知って』いる。
実際に会ったことも『数え切れない』くらいある。

739 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/22(土) 23:38:09.29 ID:Bc16/PE0
とはいえ、神裂が今向かい合っている魔女にはエリザードは会ったことは無い。
エリザードが会ったことのある魔女は別人だ。

エリザード「……で…間違いないのだな?」

エリザードはもう片方の通信霊装へ向けて、口を開いた。

ローラ『もちろん。本人でありけるのよ』


ローラ『ジュベレウスを屠った者』


通信霊装の向こう側の美しい女性は、いつも通りの余裕が溢れる態度を崩さずにあっさりと返答した。

エリザード「……」


エリザードよりも魔女という存在を『良く知っている』最大主教が言うのならば間違いは無い。


かの魔女はつい先日、天界で最上位に位置する四元徳を片っ端から打ち倒し、
そしてその四元徳の長であるジュベレウスをも倒したのだ。


つまり、所詮一介の『天使』である神裂に勝ち目はない。

どう足掻いても。


神裂というイギリスの最大戦力の一つを守るには、一刻も早く支援を送り脱出させるしかない。

彼女を救うにはステイルを送るしかない。

だが相手が相手だ。

二人とも狩られてしまう可能性が高い。
今の時点で、最大戦力を二つ失うのはイギリスにとってあまりにも痛すぎる。

エリザード「……」

740 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/22(土) 23:43:30.70 ID:Bc16/PE0
五和からの通信があった直後に、ステイルを『搭載』した弾道ミサイルがアイリッシュ海の原潜から放たれた。
十数分後にヴァチカンに着弾するだろう。

そして、襲撃犯がかの魔女だという事がわかったのはその発射の一分後だ。

五和から画像が届き、魔女を『知っている』最大主教がその顔を確認する頃には、
既にステイルはフランスの遥か上空の大気圏外を秒速7kmで飛んでいたのだ。

もう遅い。

ステイルが載っている弾頭を撃墜するという案も出たが、
(少なくともステイルは死なない。しばらくは弾頭の破片と共に地球を周回する為、帰還には時間を有するだろうが)
今やフランス上空であり、魔術もミサイルも射程外だ。

ステイルは確実にヴァチカンへ、あの『怪物女』の前に立つ事になってしまう。
そしてそのまま神裂と共に喰われ、イギリスは一瞬で二つの切り札を失う事になるかもしれない。

このままだとマズイ。

あの二人の存在がローマ正教・ロシア成教に対する抑止力にもなっていたのだ。
兵の数こそは少ないものの、戦力のみならばイギリスは優勢だった。

だがその優位性が瓦解する。

エリザード「……んむむむ…」

エリザードは重苦しい表情で言葉にならない呻き声を上げた。

ローラ『……』

通信霊装に映るローラは、相変わらずいつも通りの穏やかな表情でただ黙って待っていた。


エリザード「……一つ。『友』として頼みがある」

エリザードが通信霊装に映る美しい女性に向けて口を開いた。

741 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/22(土) 23:52:16.63 ID:Bc16/PE0
エリザード「これは命令では無い。『頼み』だ。聞いてくれるかな?」

ローラ『聞きたるわよ』

ローラがニコリと笑い返答する。
まるでエリザードがこれから言う事をもう知っているかのような顔だ。

エリザード「……そなたの『手』を借りたい」

ローラ『それは「最大主教」として?」


エリザード「いや、『ローラ』。そなた『自身』の手を借りたい」


ローラ『なるほどなるほど……あの「力」を使って欲したりけるのね』

ローラはわざとらしく うんうん と小さく相槌を打つ。


エリザード「……うむ」


ローラ『良きよ。私に任したるの』


エリザード「……」


ローラ『ただ、一つ良きかしら?相手が相手。二人共救えるとは限らぬのよ』


ローラ『それにそもそも「コレ」はいずれやって来る、「あの子」の封印を解く時の為に残したる物』

ローラが画面の向こうで、己の長い長い金髪の一房を手に取り、
エリザードに見せびらかすように振るう。


ローラ『今回の為に全力行使するわけにはいかぬのよ』


エリザード「かまわん。少しでも良いから手を貸してくれ」

ローラ『よし、ではその頼み、しかと受けたるわ』

742 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/22(土) 23:58:58.46 ID:Bc16/PE0
その時、エリザードがいる部屋の外から何やら騒ぎが聞こえてきた。

エリザード「む……」

ローラ『あら、わんぱく坊やが来たるのね?嫌われ者はお暇させて頂きけるの』


ローラがひらひらと手を振る映像の後、通信霊装の回線は切断された。

その僅か数秒後、この部屋のドアが今にも蝶番が弾けそうなほどに勢い良く開け放たれ、
険しい表情のネロがズカズカと踏み込んできた。


ネロはコートをなびかせ、エリザードの元へ真っ直ぐに早歩きで近付いてくる。
先ほどの部屋の外の騒ぎは衛兵とのものだろう。
いつもの事だ。

ネロ「ヴァチカンは?!状況はどぉなってやがる!?」

ネロが興奮を隠そうともせずに叫び、エリザードの前の机に叩きつけるように手を載せた。

エリザード「うむ……それなのだがな……」

エリザードは背もたれから体をゆっくりと起こし、言葉を選びながら状況を説明しようとした―――

―――矢先だった。

「ネロ殿!!!!」

開け放たれた扉の向こうで、フードで顔を隠した黒装束の一人の魔術師が息を荒げながら屈んでいた。
陛下の御前という事もあってか、床に膝を付き顔を伏せている。
急いでネロの後を追ってきたのだろうか、肩が激しく上下していた。

「緊急のお、お報せが!!!!」

ネロ「チッ―――うるせぇ!!後にしろ!!」

ネロは振り返りもせずに叫んだが―――。


「で、ですが!!!!ふ、フォルトゥナの件でして……!!!!」


その後に続いた言葉で勢い良く振り向いた。

743 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/23(日) 00:04:26.72 ID:Cbw1e8s0
ネロ「―――言え」


ネロがその魔術師を真っ直ぐに睨み、小さな、だが重く響く威圧的な声で呟いた。

「あッ……」

その凄まじい威圧感で一瞬魔術師はどもってしまったが、なんとか言葉を続ける。
この状態のネロに言うのはかなり勇気の入る内容だが。

「さ、先ほど、ふ、フォルトゥナから緊急通信がありまして……」


「大量の悪魔に襲撃されたと……」


ネロ「…………あ?」


ネロの放つ空気が一変する。
エリザードでさえ、その強烈な悪寒で体が固まり鼓動が早まった。

不気味な沈黙が部屋全体を覆い尽くした。

エリザード「……確かか?」

エリザードがその深く顔を伏せている魔術師へネロを挟んで声を飛ばした。

「は、情報部からの報告も届いております。こ、こちらに」
魔術師が立ち上がりおずおずとネロとエリザードの方へ進む。

そしてローブの袖から数枚の写真を取り出しネロに差し出した。
ネロはそれを乱暴に奪い取り、ジッと見つめた。

それはフォルトゥナを捕えた衛星写真。

彼の故郷の街が大量の粉塵で覆われていた。

744 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/23(日) 00:10:12.95 ID:Cbw1e8s0
粉塵の隙間からは倒壊したと思しき建物が見える。

ネロは顔を近付け、愛する者がいるはずの自宅を探す。
だが粉塵の陰に隠れていて見えない。

ネロの手に力が入り、写真に皺が寄る。


エリザード「良いぞ。下がれ」


エリザードが、憤怒するネロに怯えている魔術師に声を放つ。

魔術師は逃げるかのように足早に退室していった。

ネロ「……」

ネロが無言のまま、持っていた写真を床に放り投げた。
彼から放たれているオーラは更に強烈になっている。

それを至近距離で浴び、エリザードは己の全身から嫌な汗が噴出すのを感じていた。
心なしか、バッキンガム宮殿全体がネロの放つオーラで微振動しているように感じる。

いや、実際にこの宮殿に張られている結界が反応しているのだろう。

耐性の無い一般人なら一瞬で気を失ってしまうかもしれない。
それ程にネロの体から溢れる空気は凄まじかった。


今、このスパーダの孫は逆鱗している。


誰が見ても一目瞭然。
完全にブチ切れている。

エリザードは今にも爆発しそうな超新星の前にいるようなものだ。

745 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/23(日) 00:14:11.10 ID:Cbw1e8s0
エリザード「……契約は……解除しよう。そなたは自由だ」
エリザードが恐る恐る口を開いた。


ネロ「―――当たり前だ」


ネロがエリザードの方を見もせずに背中越しに返答した。
やや語気が荒く、脳内に直接響いてくるような声。
その一言を聞いただけで、寿命が10年縮んでしまったのではないかと思ってしまう程の強烈な威圧感。


ネロ「達者でな」


ネロはコートをなびかせ、足早に部屋から出て行った。
彼が一つ歩を進めるたびに、地響きのような音がして建物全体が僅かに揺れる。

今度は気のせいではなく、本当に確実に揺れたのだ。


エリザード「ふ〜〜……なぜこうも我が治世に……」

エリザードは背もたれに力なく体を預けながら、大きく息を吐き呟いた。


エリザード「……この件が終わったら隠居してやる。絶対にだ。誰にも文句は言わせぬぞ」


イギリス王室史上、一・二位を争うかという程の苦難の女王は、
遠ざかっていく『巨獣』の足音に耳を傾けながら天井をぼんやりと眺めていた。


だが、女王エリザードの苦難はまだまだ始まったばかりだ。

越えなければならない針の山はまだまだ眼前遥か彼方まで連なっている。

746 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/23(日) 00:21:33.32 ID:Cbw1e8s0
―――

聖ジョージ大聖堂の薄暗い一室。

時代を感じさせる古い石壁を蝋燭の淡い光が照らしている。

最大主教、ローラは小さな木作りの机の上にあった通信霊装をゆっくりと閉じた。


ローラ「………さて……早速点検でもしたるか。錆付いておらぬかな」


座っていた椅子からゆっくりと立ち上がり、髪留めを外す。
身長の2.5倍もの長さがある金髪がふわりと解放され、大きくなびいた。

ローラ「今から如何なる者も通すな」

ローラがその長い長い髪を手櫛でゆっくりと梳きながら、声を放つ。

『はッ』

どこからともなく従者の声が返ってきた。

ローラ「あ〜それとな、今から異常な『力』を検知したると思うが、それは私だから心配は無きよ」


『……りょ、了解』


ローラ「……さて上手く動きたるかどうか…な…」

一通り梳き終え、ポツリと呟く。


良く手入れがされた、美しい長い長い金髪。


この長い長い『髪』が彼女の武器であり、彼女の真の『姿』の象徴。

他は全て飾りだ。
天界の力を使う魔術も、この最大主教という地位も。
全ては彼女の長きに渡る人生を隠す仮初の姿に過ぎない。

747 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/23(日) 00:24:27.38 ID:Cbw1e8s0
ローラ「……どれどれ…試してみたるのよ」

目を瞑り、背筋を伸ばして深呼吸。

そして。


ローラ「MICMA」


エノク語で一言。


その瞬間、彼女の長い髪が突風に吹かれたかのように大きくなびき、
同時に眩く金色に輝き出した。

そして彼女の前方2m程の床に金色の魔法陣が浮かび上がり、
そこから金色の髪の毛が大量に噴出すように生えて来た。


大量の髪の毛が床の魔法陣から生えてくる。
そしてその金の繊維の網のの中に、高さ3m程、幅1.5m程の巨大な釣鐘型の黒い金属の塊が出現した。

頂上部には不気味な顔の彫刻。
円筒部には取っ手の様な物。

魔術に携わるものなら、これが何なのかは一目でわかるだろう。


拷問具、『鉄の処女』だ。


ローラ「ふむふむ。なかなかなかなか。上々上々」

ローラが己を賞賛するかのように軽く拍手した。

748 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/23(日) 00:26:09.56 ID:Cbw1e8s0
ローラは軽く床を足で叩いた。

次の瞬間、『鉄の処女』は魔法陣の中に沈み、大量の金髪も逆再生でもしているかのように沈んで行き、
そして魔法陣は消えた。

同時にローラ自身の髪の毛もその光が収まっていた。

ローラ「……久しいのよ…」
椅子にゆっくりと腰掛け、再び己の長い長い金髪を梳きながら呟いた。


この力を使うのは『幾百年振り』だろうか。


ローラ「……」

髪を梳きながら過去の記憶に耽る。

恐るべき戦いで死んでいった母と父。
死んでいった多くの同胞達。

その後は身分を隠し、己の心の姿を闇に隠しながら生きてきた。
かけがえの無い存在を封印し、敵の目から隠してきた。

そして、いつかの日か禍から解放されるのをずっと待ち続けてきた。

そして今。

確かに時代が変わりつつある。

今が『その時』なのかもしれない。


ローラ「懐かしけるのよ……のう?」



ローラ「―――『セレッサ』よ」



749 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/23(日) 00:30:59.84 ID:Cbw1e8s0
―――


ヴァチカン。
とある礼拝堂。

ベヨネッタ「―――」
ベヨネッタは神像の上でふと顔を上げた。

今、名前を呼ばれた気がしたのだ。
それもやけに懐かしい声で。

だが考えるのは後にした方が良さそうだった。


天使化した神裂が床を蹴り、猛烈な速度で突進してきているからだ。


神裂『シッ!!!!!』
神裂は神速で七天七刀を抜刀し、ベヨネッタの喉元目がけて横一閃に振るう。

だがベヨネッタは大きく仰け反り、軽々と交わす。
彼女の鼻先僅か数cmのところを青い刃が通過していく。

その刃から放たれた剣風が、ベヨネッタの背後の礼拝堂の壁に甲高い音を立てて筋を刻む。

ベヨネッタ「HA!!!!!!!!」

ベヨネッタが仰け反る慣性を利用し、刀を振り切った神裂の顎目がけて下から右足を振るう。
だが神裂は瞬時に反応し、鞘を持っている左腕を突き出す。

750 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/23(日) 00:37:04.96 ID:Cbw1e8s0
神裂の胸元で、凄まじい轟音を響かせながら彼女の左肘とベヨネッタの蹴りが激突する。
蹴りが顎に直撃するのは防いだ。

だが。

神裂『―――』

胸元の辺りで止めたため、ベヨネッタの左足に付いている銃口がちょうど神裂の心臓辺りに向く。

神裂『ハァ―――!!!!』

危険を感じ、咄嗟に左手に持っていた鞘でベヨネッタの足を右側に弾く。
一瞬遅れて、ベヨネッタの左足から驚異的な破壊力を秘めた魔弾が放たれた。

その魔弾は神裂の右わき腹の光の衣をかすり、そしてそのまま背後の壁をぶち抜いた。


弾きかわすと同時に神裂は右手に持つ七天七刀を返し、
仰け反っているベヨネッタの腰の辺り目がけて振りぬいた。

ベヨネッタ「Hu!!!!!」

ベヨネッタが左足を強く踏み込んでバック転し、その刃を跳ねてかわす。
踏み台となった神像が爆散する。

そしてバック転しつつ両足から大量の魔弾を神裂に放つ。

神裂はかわし、七天七刀で弾きながらその嵐をいなし、
鞘を放り投げると左手を突き出しゴッドブリンガーの拳を放った。

神裂『ハァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』

渾身の力を篭めて叩き込む。


しかし。


ベヨネッタ「Too late!!!!!!!!!!」

751 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/23(日) 00:45:14.99 ID:Cbw1e8s0
神裂『―――』

その拳は当たらなかった。

ベヨネッタが叫ぶと同時に、彼女の姿が残像となる。

天使化している神裂ですら、微かに黒い影を捕えることしかできない程の猛烈な速度。


神裂『な―――』


神裂『ツッ―――!!!!!』

それは一瞬だった。
ゴッドブリンガーの拳が壁に食い込み、その衝突エネルギーが伝わって破片を『生み出す』までの極僅かな瞬間。

ベヨネッタ「―――Ya!!!!!!Ha!!!!!Ha!!!!YeaaaaahAAAA!!!!Ha!!!!!!」

その間に無数の光の筋が神裂へ向けて走り、大量の魔弾が彼女の体に叩き込まれた。
何とか反応して七天七刀で捌こうとするも、弾けたのは一割程度。

残りは全て神裂に直撃した。

神裂『―――ッガァアアアア!!!!!!』

ようやくゴッドブリンガーの拳を受けて壁が砕かれる。
それと同時に猛烈な散弾を浴びた神裂が後方へと大きく吹っ飛ばされ、反対側の壁に叩きつけられぶち抜く。


吹っ飛ばされた神裂の体が壁を何枚も貫いてく。

そして彼女の視界が急に晴れた。
建物を何個も貫き神裂は、ヴァチカンの顔でもある広大なサンピエトロ広場に出たのだ。

神裂『カァッ!!!!!!』

ゴッドブリンガーを地面に突き立て、ブレーキをかける。
金色の巨大な拳が石畳に食い込み、捲りあげていく。

そしてある程度減速したところでそのゴッドブリンガーで跳ね、
広場の外円部に聳え連なっている列柱廊の上に着地した。

752 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/23(日) 00:53:57.84 ID:Cbw1e8s0
広場を囲むように聳える列柱廊。
屋根には、等間隔で140体の聖人像が並んでる。

その聖人像の間に神裂は屈んでいた。

神裂『くッ……』

一瞬で大量の魔弾を浴びたが、何とか無事だ。
傷も瞬時に塞がり、剥ぎ取られた光の衣もその厚みを戻す。

神裂はゆっくりと立ち上がり、今自分がぶっ飛んできた方角の列柱廊を睨む。

崩れている柱、その向こうの建物の壁に開いた大穴。

そしてその向こうから感じるあの女の視線―――。



サンピエトロ広場は一般にも開け放たれており、それなりの数の市民が散策していたようだ。

皆悲鳴を上げて、散り散りになって神裂がごっトブリンガーで穿っ場所から離れていく。
彼らからしてみれば何か爆発が起こったかのように見えたことだろう。

当然、高速で動いた神裂の姿を捉えた者はいない。

誰一人神裂の方を見ていなかった。

次の瞬間までは。



神裂『オァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!』


響き渡る神裂の咆哮。

そして広場にいた者は見た。


列柱廊の上に立つ、青く光る刀を持った、金色の羽を生やした『天使』の姿を。

753 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/23(日) 01:07:05.75 ID:Cbw1e8s0
神裂『―――アアアアアアアアアアッツ!!!!!』

神裂は力を更に引き出す。

それに比例して、右手にある七天七刀も青い輝きを増す。

神裂『―――ッツ!!!!』

七天七刀を持つ右手に走る、焼けるような激痛。
本来相容れるはずの無い魔界の力と天界の力が激突しているのだ。

なぜかは分からないが、この刀はウィンザー事件の際にとんでもないレベルの悪魔の力を宿したらしい。
実際、今の神裂でさえこの七天七刀の力を全て使いこなしているとは良い難い程のだ。

だが幸いな事にこの『魔剣』は神裂を主と認め、この莫大な力の乱流でも彼女の魂と自我が
押しつぶされないようにを守ってくれている。


そしてその七天七刀の声がする。

言葉として聞こえない。
だがこの『魔剣』の意志が伝わってくる。


神裂『―――』

神裂は痛みを無視し、七天七刀の意志に沿い右手を振り上げた。
七天七刀の青い光が更に増す。


そして思いっきり、あの女の気配の方へ振るった。



次の瞬間、七天七刀の剣筋に沿い青い光の線が走る―――。


それはまるで―――。


この魔剣の『親』とも呼べる、かの男の『太刀筋』と瓜二つだった――。

754 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/23(日) 01:08:15.63 ID:Cbw1e8s0
―――


五和「……ッ!!!」

礼拝堂の隅で見ていた五和にとって、瞬きする間に終わってしまうような一瞬の出来事だった。

あの女が神像の上で神裂に対して手招きをした瞬間、
神裂の姿が光になって消え、ほぼ同時に神像が砕け両側の壁が爆散したように見えたのだ。

何が起こったのか、全く捉えることができなかった。

ふと一方の壁際に目をやると、ベヨネッタが壁に垂直に『立っていた』。
足元がぼんやりと青く光っている。

そして反対側の壁に開いた大穴を『見上げて』いた。


五和「!!!」

五和は礼拝堂内を見渡すも、神裂の姿が見つからない。

まさかと思い、ベヨネッタの視線を追い反対側の大穴を見る。
壁の破片が音を立てて落ち大量のチリが舞い、それを大穴から差し込んでいる光が照らしていた。

状況を見る限り、神裂はベヨネッタの見ている巨大な穴の向こうへと吹っ飛ばされたようだ。

五和「……プリエステス……プリエステス!!!!!!!」

敵に見つかる危険性も顧みず神裂を呼んだ次の瞬間。


神裂『オァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!』


地の底から聞こえてくるかのような、神裂と思しき巨大な咆哮がその穴の向こうから響いてくる。

そして鼓膜が裂けそうな甲高い金属音と共に、青い光の筋が礼拝堂内に走る。

755 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/23(日) 01:12:29.26 ID:Cbw1e8s0
その青い光の筋は一瞬で壁・天井・そして反対側のベヨネッタの立っていた壁を切り裂く。

ベヨネッタは軽く鼻で笑いながら半歩動きスレスレでかわす。

五和「―――ひゃ!!!!」

青い光の刃が礼拝堂を一刀両断。
その切り口があまりにも滑らか過ぎ、礼拝堂は少し軋んだだけで崩れはしなかった。


ベヨネッタ「いい剣筋。そっくり」


ベヨネッタが嬉しそうに呟き、軽く壁を蹴って地面に降り立つ。

ベヨネッタが軽く鼻で笑いながら壁を蹴って、それをかわし床に降り―――

―――た瞬間。

ベヨネッタの全身からか黒い靄のような物が溢れ、彼女の体の形が一瞬で変わった。


セクシーな女体が、スマートな『黒豹』へと。


それとほぼ同時に、神裂が穴の向こうから更に放ったと思われる青い光の筋が、
再び礼拝堂を縦に掻っ捌いた。

何発も何発も、甲高い金属音と共に続けて筋が走る。

だが『黒豹』には当たらない。

756 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/23(日) 01:14:32.53 ID:Cbw1e8s0
『黒豹』は無駄のない身のこなしで軽々と剣撃をかわす。


黒豹の足が触れた床は砕け、
花弁が髑髏の不気味な花が一瞬で生えては、また一瞬で枯れて散る。


そのまま『黒豹』は髪飾りをなびかせながら目にも止まらぬ速さで駆け、
神裂が吹っ飛んでいったと思われる穴から外に出て行った。


数秒後、格子状に切り裂かれた礼拝堂が巨大な化物のような悲鳴をあげて軋んだ。
天蓋や壁の菱形・三角の巨大な破片がずり落ちてくる。

五和「!!!!」

五和は礼拝堂の出口に滑り込むように飛び込み、その崩落から何とか逃れる。


五和「ふぁッ!!!!」


息を吐き、今しがた潜り抜けてきた出口の向こうを見る。
天蓋が雪崩のように崩壊し、礼拝堂は完全に崩れていた。

757 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/23(日) 01:16:45.33 ID:Cbw1e8s0
五和はそのまま廊下を少し走り、石像の物陰に身を身を潜めた。
脅威はあの女だけではない。

いや、どちらかというと五和にとっての目下の脅威はここに大勢いるローマ正教の者達だ。


五和「支援は……!!まだですか……!!!」

五和は息を荒げながら右手のバングル型の通信霊装に声を放つ。


『3分20秒後に支援部隊がそちらに到着します』


『9分30秒後に、サンピエトロ広場に「イノケンティウス」が「着弾」します。それまで持ちこたえてください」


バングルから事務的な声が返ってくる。

五和「了解……!!!」
左手に持つ携帯用の槍を点検しながら返答した。



外から大地全体を揺るがす轟音が響いてくる。

怪物達の死闘の撃音が。


五和「プリエステス……どうか…どうかご無事で…」


767 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 00:42:59.77 ID:gTuFZOA0
―――


フォルトゥナ。

数年前の魔剣教団の暴走による破壊からも立ち直り、
再び以前の美しい街並みを取り戻しつつあった古都。

民の顔にも笑顔が戻り、騎士団も新生しフォルトゥナには再び平和が戻りつつあった。

―――戻りつつあったのだが。

突如襲来した悪魔の大軍。

フォルトゥナ全域が再び苛烈な戦火に包まれる。


キリエ「走って!!!」


キリエは廃墟と化した街を三人の子供達と走っていた。

目指すは、かの劇場。

数年前の事件の発端となった、ダンテが教皇サンクトゥスを襲撃した建物だ。

襲撃と同時に騎士団は即座に警報を発令し、
市民達に最寄の騎士駐屯所、もしくは劇場等の大きな建物に避難するように命令したのだ。

768 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 00:46:12.32 ID:gTuFZOA0
キリエ「はぁ!!!はぁっ!!」

道の向こうに見える、劇場の大きな屋根を目指し、
前を走る子供の背中を支え押しながらとにかく走る。

普段なら歩いて数分程の距離。
だが今は果てしなく遠く感じる。

距離が一向に縮まない感覚。

瓦礫が散らばる道路に足が取られ、体力だけがどんどん減っていき、
彼女を更に焦燥させる。

悪魔の咆哮と轟音、そして奮戦する騎士達の怒号が方々から聞こえてくる。

走る中、たびたび目に入る瓦礫の下から突き出している血まみれの足や腕。
下敷きになり、ピクリとも動かない人の姿。


キリエ「(ああ―――!!!なんで……どうして―――!!!)」


走っているキリエの頬を雫が伝う。

それは恐怖からではなく、いきなり降りかかった理不尽によって命を失った人々への想い。

口を固く結び、走りながら彼女は祈った。

不運な子羊達の魂を想って。

そしてまだ生きている者達の救いを求めて。

769 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 00:51:14.14 ID:gTuFZOA0
キリエ「―――!!!」

その時だった。

一段と大きな咆哮が響き、前方20m程の場所に丸盾を持ったトカゲのような悪魔が突如降り立った。

巨大な足の爪が石畳を砕く。

『アサルト』と呼ばれる悪魔だ。
フロストの亜種であり、氷を使わない熱帯仕様の兵といったところか。

更に続けて何体もどこからか跳躍して降り立つ。
道の両側の住居の屋根にも。

そして。

キリエ「!!!!」

彼女達の後方にも。

キリエは子供達の腕を掴み、即座に自分の身に寄せる。
子供達は皆キリエにしがみ付き、小刻みに震えていた。

キリエ「(囲まれた―――!!!!)」

どこか逃げ道が無いか周囲を見渡すも、見つからない。
数十体ものアサルトが完全に彼女達を包囲していた。

逃げ場は無い。

と、その時。

「キリエ殿!!!!!!!」

後方から若い男の声。
それに続く金属的な切断音と悪魔の咆哮。

770 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 00:53:33.97 ID:gTuFZOA0
キリエ「!!!」

3人ほどの若い騎士がアサルトの包囲網へと殴りこんできた。

アサルト達は一斉に咆哮を上げ、騎士達に一気に跳びかかって行く。

若い騎士達は雄叫びを上げ、道路の中央で勇猛に剣を振るい応戦する。
剣に搭載されている噴推装置イクシードが金属的な悲鳴を上げ、火花を散らす。

それと同時にもう二人の騎士が、包囲網が崩れた一瞬の隙を縫って彼女達の前に降り立ってきた。

「こちらに!!!」

キリエ「―――で、でも……!!!」

キリエは後方で戦っている騎士達の方に振り返った。

たった三人で数十体ものアサルトを相手にしている。
それぞれが互いに死角を守り合いながら完璧なチームワークで。

だがいつまでもつか。


対悪魔のエキスパートであるフォルトゥナ騎士。

しかし、数年前の事件で歴戦の精鋭達はほとんどが死んだ。
(教皇付きの最精鋭達はダンテとネロによって悉く葬られた)

今戦っているあの三人は、事件の後に称号を得たまだまだ若い騎士だ。

幹部クラスならまだしも、一介の新人騎士達だけであの数は捌けない。

このままだといずれ確実に死ぬのは、素人目に見ても一目瞭然だ。

771 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 00:55:01.39 ID:gTuFZOA0
キリエ「……あの方達が…!!!」

「構いません!!!!」

キリエの傍にいる騎士が即答する。

まあ、その答えはフォルトゥナの者なら誰しもが予想できる常識的なものだ。

あの騎士達は自分達の命と引き換えに、
彼女達を生きながらえさせようとしている。

それが騎士の最大の役割だ。

命を賭してでも市民を守るのが彼らの義務である。

キリエ「―――」

そんな事はキリエも知っている。


だがそれでも。

それでも心優しいキリエにとっては耐えられない。


しかし、今の彼女に出来ることはタダ一つ。

彼らの信念を蔑ろにしない事。

彼らの命を無駄にしない事。

『生きろ』という遺言を、あの騎士達は己の命を賭けて今体現しているのだ。

772 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 00:55:46.07 ID:gTuFZOA0
「さあ!!!早く!!!!!」

キリエ「……は、はい―――」

キリエは現実を噛み締め、前を向き地面を強く蹴り進む。


後方から響く剣撃音と怒号。


再び彼女の頬を慈しみの雫が伝った。



そして彼女は呼ぶ。


キリエ「(早く―――お願い―――守って)」


心の中で『彼』の名を呼ぶ。

フォルトゥナの守り神であり救世主、最高の騎士の名を。


キリエ「(皆を―――守って!!!)」


キリエ「(ネロ―――!!!)」


最愛の男性の名を―――。


774 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 01:01:54.75 ID:gTuFZOA0
―――

学園都市。窓の無いビル。

アレイスターがいる水槽の中に、二つのホログラム映像が浮かび上がっていた。

一つはヴァチカンで発生した事態に関する、ローマ正教・ロシア成教内での通信を傍受しリアルタイムで表示している。

もう一つは。

第七学区で一人の少女を賭けて激突する少年と男。

インデックスと一方通行。

そして。

アレイスター「右方のフィアンマ……か」


突如現れたローマ正教のトップ。
ヴァチカンの件により、彼らは遂に動き出したらしい。

聖なる都を襲撃した者の正体は分からない。
敵か味方か、そして属する勢力もだ。
画像の一つでもあれば判別が付くかもしれないが、ローマ正教・ロシア成教内の通信ではそれはまだ拾えていない。

それどころか『イギリス清教が宣戦布告し、攻撃した』として情報が飛び交っている。

戦争回避が最大の目的であったイギリスがこんな事をするはずはない。

ローマ正教内の慌てっぷりを見る限り、これは彼らにとっても完全なイレギュラーだということがわかる。
ウロボロス社も同様だ。
各地に今だ積み上げられたままの人造悪魔兵器を、慌てて急いで降ろし展開している。

そしてダンテ達やネロ、フォルトゥナもこんな大規模な戦争を望むわけがない。


つまり、このヴァチカンを襲撃した者は明らかな第三勢力だ。

775 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 01:05:45.73 ID:gTuFZOA0
状況を見る限り、この第三勢力は戦争を誘発させるのが第一の目的だろう。

そしてそれは成功するはずだ。

明日にでもローマ正教とロシア成教に率いられたロシアとイタリア・フランスが、
イギリスと学園都市に宣戦布告するだろう。

現に、ローマ正教内の通信でその命が各地に向けて発令されているのだ。



アレイスター「……早いな」


今、この人間世界のトップ達は皆、ヴァチカンの襲撃者の手の中で遊ばれている。

戦争が起こるのは確実だったが、それがこうも早いとは彼も思っていなかった。
少なくともあと一ヶ月先だと睨んでいた。

プランもそれに合わせて修正したのだ。

魔術サイドとウロボロスの連中が慌てふためき混乱するのは好都合だが、
こちらにもかなり面倒な事になった。

アレイスター「……」

一難去ってまた一難。

この二ヵ月半、彼が進もうとしている道のりは一気に険しくなった

目的地は見える。
だがそこまでの道が深い闇に包まれており、見通すことができない。

どんな障害があるのか。

手探りで進むしかない。

そしてその手が突然障害に『触れ』、存在を知ったと同時に問題が発生する。

今も正にその状態だ。

776 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 01:14:16.90 ID:gTuFZOA0
考えること、やるべき事は山ほどある。
だが、まず今の問題は第七学区の件だ。

右方のフィアンマ。

彼の目的はどうやらインデックス。

これは良い機会だ。
フィアンマがいずれこちらのプランの障害になるのは目に見えている。
みすみすインデックスを渡して、あの『聖なる右』を安定させるなど誰が許すか。

障害の芽は摘んでおくべきだ。


アレイスター「……」


こちらが手を打てば、一方通行は右方のフィアンマを打ち負かす事が可能だ。
再びミサカネットワークに未元物質の脳を接続し、二ヵ月半前の力を使わせれば良い。

魔人化していなかったとはいえ、あのバージルに血を流させた程の力だ。

確かに右方のフィアンマの力は強大だが、あの状態の一方通行なら一蹴できるはずだ。


アレイスター「……」


だが、今それを使う訳には行かない。

未元物質の脳が耐えられるのはあと一回だ。
次で未元物質の脳は、莫大な負荷を受けて完全に死ぬ。
そして下手をすると一方通行の脳も損傷する。

今この段階で重要なパーツを消費するのは論外だ。

換えのパーツの材料はあるものの、そこから作っている暇など無い。

一方通行と未元物質をあの段階まで昇華させ、
『境界』を越えさせたのにどれ程の時間と労力を費やしたことか。

一方通行と未元物質を失う訳には行かない。

どちらか一方を死なせ、それでもう一方を生かすのもダメだ。
それだと意味が無い。

777 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 01:19:22.33 ID:gTuFZOA0
ではどうするか?

あのレベルの戦いについていける者は、
今の学園都市にはエイワスとヒューズ=カザキリ、そしてアレイスターしかいない。

エイワスとヒューズ=カザキリを使用すれば色々と面倒な事になる。
これも一方通行や未元物質同様、下手に使うとプラン自体がお釈迦になってしまう。

だがアレイスター自身が出るのも問題だ。

彼自身もまたプランの最終局面に必要だ。
今ここで手傷を負うのは避けたい。


アレイスター「……ふむ」


と、こう考えると八方塞のようだが―――実はそうではない。
別の手がある。


幸運な事に、ちょうどこれから上条が帰って来る予定だ。
トリッシュも付いて来るだろう。

その二人が加われば、フィアンマはここで葬る事ができるはずだ。

今の状態のフィアンマでは、トリッシュと強化された上条、
そして一方通行の三人を一度に相手にするのは不可能だ。

アレイスターは上手く誘導すれば良い、いや誘導する必要も無いだろう。

彼はただ見ているだけで良い。

ローマ正教のトップが蹂躙され挽肉に変わるのを。

778 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 01:24:59.05 ID:gTuFZOA0
アレイスター「……」

第七学区の件は高みの見物でもしてればいい。

それと暗部のネズミ共が動き始めたようだが、今はもうどうだって良い。
アレイスターは、この戦争の後は学園都市がどうなろうと良いのだ。

ネズミ達はせいぜい理事会を襲撃してその貴重な時間を浪費してればいい。

アレイスター「さて……」

アレイスターはプランの修正作業に入る。
脳内で複雑なパズルを一度崩し、再び組み上げていく。

アレイスター「(問題は無いな)」

かなり大幅な修正が必要だが、結果的には問題は無いようだ。
そこに起こりえりそうなイレギュラー因子を想定し、ねじ込んでシミュレーションし、
バグを弾き出し更に修正していく。

―――と、そう作業している時だった。

アレイスター「―――」

突如押し寄せてきた悪寒。

この薄暗いビル内の空気が一気に重量を増す。

アレイスター「―――これは」

前にも一度体験したことがある感覚。
あのスパーダの息子が、このビルの壁を切り裂き強引に入ってきた時の感覚に似ている。


―――だが『似ている』だけだ。


―――確かに良く似ているが。


―――あの時のモノよりも更に鋭くて冷たい。


―――そして筆舌に尽くし難いほどの強烈な殺意―――。

779 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 01:26:49.12 ID:gTuFZOA0
アレイスター「―――」

アレイスターは水槽の中で一気に目を見開き、右手を横に勢い良く伸ばした。


次の瞬間、アレイスターのその開かれた右手に銀色のねじくれた杖が出現する。


彼の『杖』だ。

これがアレイスターの力の象徴であり、彼の最大の武器。
これが学園都市の頂点に君臨する、彼の地位を保証しているといっても過言ではない。


だが。


だがそれほどの武器でさえ―――。


アレイスター「―――」


水槽の目の前に、突如現れた男にとっては小枝のような物だろう。

アレイスターの前に立つ男。

銀髪を後ろに撫で付かせ、青いコートを羽織り左手には日本刀。


「そんなガラクタでどうするつもりだ?―――」


男が、アレイスターを凍てつくような瞳で真っ直ぐ見て、口を開いた。


「―――人間」


アレイスターは硬直する。

その瞳を見て。


―――バージルの瞳を見て。



780 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 01:30:03.26 ID:gTuFZOA0
―――


事務所デビルメイクライ。

トリッシュは地下室にて、リスボンで捕獲してきた小銃型の人造悪魔を解体していた。

トリッシュ「……」

木造りの大きな机の上にパーツやバラバラにした悪魔の肉片を並べ、一つ一つ入念にチェックしていく。

合成されていたのは複数体のムシラという下等悪魔だ。
『憑く』という性質が無い悪魔を強引に合成させていたらしく、拒絶反応が常態化していたようだ。

この哀れな悪魔達は四六時中かなりの激痛に襲われていた事だろう。
はっきり言ってこの合成の仕方はかなり雑だ。

だが力の性質を見る限りウィンザー事件の黒幕と、この人造悪魔の製造者が同一なのは間違いない。

大悪魔クラスもの人造悪魔を作り出せる程の、
まぎれもなく人類トップクラスの悪魔技術を持つ者がなぜこんなに手を抜くのか?

それは恐らく、この小銃は量産型だからだろう。
かなりの数を急いで作ったのだ。

とにかく頭数を揃えるのが第一の目的だったようだ。

腐る程いるムシラを使ったのも、個々の戦力よりも数を優先した結果だろう。

それを裏打ちするかのように、『数』では無く『戦力』メインの個体はしっかりと手が加えられていた。
貨物船に積まれていた戦車等だ。

あれには元から寄生する性質を持っていたインフェスタントが憑いていた。

インフェスタントを、小物の雑兵如きに憑かせるのは、
勿体無いと思うのはトリッシュも同感だ。

781 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 01:32:18.80 ID:gTuFZOA0
そして量産型というのが裏付けられた以上、
それはあのリスボンで処理した人造悪魔達は、全体の極々一部という事を暗示している。

更にあの貨物船はウロボロス社の物。
人造悪魔達もウロボロス社のコンテナに詰まっていた。

つまり、あの『兵器』達を出荷したのはウロボロス社。

やはりネロの推理が正しかったようだ。
ウロボロス社が大々的に人造悪魔を製造し、そして世界中にばら撒いている。

トリッシュ「……さて……どうしましょ」

人造悪魔が使われるとなれば、デビルメイクライ側も黙ってはいられない。

かの呪われし兵器群はもう世界中に配備され、その号令の時を待っているだろう。

トリッシュ「……」

だが、さすがのダンテでも今からその大量の人造悪魔を処理するのは厳しい。

いや、やりようによっては『短時間』でもできるだろうが、
その場合は人間界にかなりの負荷がかかり、無数の人命が巻き添えを食い『地図が書き換え』られてしまう。

当然そんなやり方はダンテ自身も確実に拒否する。

トリッシュ「……」


やはり司令塔、『頭』を潰すしかない。

782 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 01:34:45.28 ID:gTuFZOA0
こういう件は、大概は少数の首謀者が全体を牛耳っている。
頭を狩ってしまえば、事態は一気に沈静化するだろう。

それが一番手っ取り早い単純な解決方法だ。

問題はその頭が どこにいるか だが。

トリッシュ「……」

とにかく情報が必要だ。
だがいつものやり方、トリッシュが先に潜入して探る という手を使っている暇は無いだろう。

短時間で手に入り、かつ信頼性のある情報はどこにある?

そう考えた時、トリッシュの頭に一人の人物の顔が浮かんだ。

アレイスターだ。

学園都市はウロボロス社と共同関係にあるのは表の世界でも周知の事実だ。

あれ程の男が何も知らないと言う事は無いだろう。

トリッシュ「ま―――」

トリッシュは立ち上がり、机の上に置いてあった二丁拳銃を手に取り腰に差し込んだ。

トリッシュ「―――ちょうどいいわね」

ちょうどこれから上条を学園都市に送る予定なのだ。
そのついでに聞けばいい。

ただ、今回は今まで通りとはいかないが。

彼が言わないのなら、場合によってはちょっと乱暴な手段で聞き出さなければならない。


ちょっと乱暴な手段でだ。

783 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 01:39:48.98 ID:gTuFZOA0
―――


上条「よしっと…」

上条は朝食とその後片付けを済ませ、手を振りながら流し場に軽く寄りかかった。

テーブルに向かいペンを持ち、紙に何やら書いている御坂。

上条「?何してんだ?」

御坂「んーちょっとねー」

御坂が紙に目を落としながら返事をする。

御坂「ダンテがさー、たまに冷蔵庫漁って勝手に私達のを食べてるからさ……」

上条「あ〜…」

そういえば夜中にそれらしき物音と、
ダンテの「Yeah....」と、何かを見つけ嬉しそうな声がここ最近聞こえてきていた。

それにたまにダンテがワインを飲みながら、パンやレタスを摘んでいたのも何回か見たことがある。
その時は 毎日俺に付き合って動いてるから腹が減るんだろうなあ と上条は何となく思っていた。

ピザ等のデリバリーを頼める回数は、事務所の財布を握るトリッシュによって一日ごとに決められているらしく、
小腹が空いた時は二階のキッチンの冷蔵庫を漁って、何とか凌いでいたらしかった。

御坂「だから……ほらっ!」

御坂が跳ねるように上半身を起こし、手に持っていた紙を上条に見せる。

その紙にはゲコ太らしき絵と、そこから吹き出しで「Don't eat!!!!!」と書かれていた。

上条「……な、何でせうそれは?」

御坂「これ冷蔵庫に張るの!」

784 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 01:46:30.35 ID:gTuFZOA0
上条「なあ、俺達明日にはまた帰って来るんだぜ?別に一日ぐらい…」

御坂「その一日の間に全部食べられてたらどうすんのよ?ダンテならここぞとばかりにやりかねないわよ?」

上条「インデックスじゃあるまいし……それにそん時はまた買い直せば良いn」

御坂「ちょっとぉ!誰が買ってると思ってんのよ!!」

御坂「それに献立もちゃんと作ってあるのに、また一から買い揃えて献立も作り直せってんの!?」

上条「あ〜そうか……良いと思うぜ」

なら直接ダンテに言えば良いんじゃね と思ったが、
突っ込むと色々面倒臭そうなのでやんわりと肯定した。


御坂は もう! とプンスカしながらも、その紙を冷蔵庫に張った。
そして冷蔵庫の前に立ち、その己の描いた紙を見て今度は嬉しそうに口を綻ばせた。


御坂「よし!どう??!」

上条「良いと思うぜ」

まあ、どう考えてもダンテがあの張り紙程度で止まるはずは無いが、
上条はそれにも突っ込まないであげておいた。

それに御坂の可愛らしい笑顔を無闇に壊したくも無い。

785 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 01:48:59.91 ID:gTuFZOA0
御坂「ちょ、ちょっと!!!な、何よ!」

穏やかな顔で御坂を見つめていた上条に、彼女が少し言葉を詰まらせながらも声を飛ばした。

上条「ん?あっ……い、いや、何でもねえ!」

突っ込まれ、上条も少し焦りながらも言葉を返した。

御坂「そ、そう……」

上条「あ……ああ」

御坂「……」

上条「……」

しばし沈黙。

上条は頭を掻き、御坂は目のやり場に困ってそわそわ。
お互い共、少し気まずいのだ。

上条にはさっきの件がある。

御坂としては、その話の内容自体は既に自分の中でもある程度答えを出していたが、
己の想いを知られているというのはさすがに気まずい。

その時だった。

トリッシュ「時間よ!!」

階下から、その重苦しい空気を叩き割るトリッシュの声が響いてきた。

御坂「あ……じ、時間!!!」

上条「お、おう!!!い、行くか!」

二人はぎこちなくもドアに足早に向かい、
キッチンから出てそれぞれの部屋へ荷物を取りに向かった。

786 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 01:50:46.12 ID:gTuFZOA0
上条「ふぅううはああ〜〜〜!!」

上条は自室の扉を閉めると、大きく息を吐いた。

先ほどの二人っきりの沈黙。
呼吸することすら忘れていたかのように苦しかった。

上条「あ〜……何やってんですか上条さんは……」
頭を掻き苦笑しながらベッドに向かう。

そしてその上に置いてあった携帯を手に取った。
向こうに持っていく予定の荷物はこれだけだ。

上条「ん…?」

ふと、携帯の着信表示に気付く。

相手はインデックスだ。
ちょうど朝食を食べ始めた辺りにかかって来ていた。

上条「―――?」

首を傾けかけたが、

トリッシュ「早くしなさい!!!」

上条「お、おう!!!!」

再びトリッシュの声が響いてきた為、この件は上条の頭の中で後回しになった。
どの道もうすぐ後に会えるのだ。

ここで時間を潰すよりは、さっさと行ってしまったほうが良い。

787 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 01:52:57.88 ID:gTuFZOA0
上条が階段を駆け下り、一階のホールに飛び降りた。

御坂は既に荷物を持ってトリッシュの横に立っていた。
どうやら本当にあの大砲を持っていくらしく、弾が入っている大きなショルダーバッグを肩にかけ、
胸元にこれまた大きく長い包みを両手で抱いていた。

ダンテは相変わらずいつもの定位置で、机に足を載せながら雑誌を読んでいた。

トリッシュ「行くわよ。私も用事があるんだから」

上条「おう!」

トリッシュ「ちょっと待って、あれ、持って行きなさい」

トリッシュがビリヤード台の上に置いてある、上条の銃と右手の防具を指差した。

上条「い…いや…あれは……」


トリッシュ「持って行きなさい」

トリッシュが真顔のまま強い口調で再び言う。

上条「は、はい!!!」

その異様な気配を感じ、逆らわない方が良いと瞬時に判断した上条はそそくさとビリヤード台に向かい、
己の銃を腰に差し込み、防具を右手に装着した。


トリッシュ「さ、行くわよ」

上条「おう!」

御坂「うん!」

トリッシュ「っと、先にレールガンちゃんの寮ね」

御坂「うん!荷物を置きに!」

トリッシュ「OK」

三人を囲むように、床に金色の円が浮かび上がる。

788 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/05/25(火) 01:54:44.28 ID:gTuFZOA0
ダンテ「お〜」

ダンテが雑誌を振り適当な挨拶をし、それに御坂と上条が満面の笑みを返す。

そして三人は沈んでいった。


向かうは学園都市。



ダンテ「む……」

ダンテは再び雑誌を顔の前に広げていたが、
ふと何かを思い出したかのように雑誌をバサリを倒し、今しがた三人が立っていた空間に目をやった。

ダンテ「…………」

眉をしかめ、鼻を鳴らす。

先ほどのトリッシュの顔を思い出す。
その映像が脳裏に浮かぶたびに彼の悪魔の勘がざわざわと騒ぐ。

あの三人に関して何か、かなり嫌な予感がする。

特に―――。

―――トリッシュ。


はっきり言うと。


―――それは死相だった。


ダンテ「………トリッシュ」

ダンテは小さく呟きながら、雑誌を机の上に放り投げゆっくりと立ち上がった。
顔からはいつもの気の抜けた、ふざけた空気が消えていた。


ダンテ「学園都市か」19(勃発・瓦解編)



posted by JOY at 14:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 禁書クロスSS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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