2010年09月01日

ダンテ「学園都市か」1(準備と休息編 )

226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:26:23.82 ID:LRi8jbso

準備と休息編

―――

デュマーリ島。

この名は、新大陸の外れにあるとある二つ島の事を指す。

南北20km東西15kmの北島『デュマーリ=セプテントリオ』。

その南東、幅4kmの海峡を挟んで寄り添っている南島『デュマーリ=メリディエス』。
南北40km、東西17km。


この南島が、近世になってデュマーリ島の名を世界に知らしめる引き金となった。

40年前、この二つの島の権利を手に入れたウロボロス社が、
南島の地下に莫大な規模のレアメタル鉱脈を発見。

今のような精密電子機器が一般に行き渡っていない当時から、
ウロボロス社は先を見てこの島の開発に専念する。


その結果、2000年以上もほとんど変化が無かったこの島の風景画一変する。

以前のデュマーリ島の面影を残すのは、
南島の南端にある寂れた廃村周辺のみ。


北島には高層ビルが連なる近代都市が広がり。
更にその下には、地上の規模を遥かに凌ぐ研究・開発の為の地下都市。

そして南島には、採掘施設と直結する形でその上に工場施設が立ち並ぶ。


島の人口は50万人。
その98%は北島に集中している。
ウロボロス社社員、技術者、工員、そしてその家族等だ。

227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:30:49.55 ID:LRi8jbso
ウロボロス社の本社は別にあるが、
この島が実質的な心臓部と言っても過言ではない。


世界的軍事大企業ウロボロス社。


その心臓部であるデュマーリ島の名が知れ渡るのも当然。

だが、この島の実像は全くといって言い程に知られていない。

学園都市にも引けを取らない、厳重な情報・渡航規制が敷かれているのだ。
いや、学園都市よりも厳重だ。


地理的観点から見ると、この島は隣接する某超大国の領土ではあるが、
ここも学園都市と同じく完全自治権を有する『独立国家』だ。

周囲の海域には重武装の警戒艇やヘリが行きかい、
海底には最新の聴音・ソナー網が隙間無く張り巡らされ、
島の周囲にはあらゆるセンサーが取り付けられている物々しい堤防が連なっている。

防空網も強固であり、最新のレーダーや衛星とリンクした監視網、
高出力マイクロ波攻撃を行える無人機から、様々な迎撃用レーザー兵器等々、
正に難攻不落の要塞島である。


この内側で、ウロボロス社は人知れず様々な研究開発を行っているのである。
それも最先端技術を出し渋る学園都市とは違い、実際に大量生産し輸出される為のモノを だ。


『技術のデモンストレーション』ではなく、実際に戦場で使われる為の兵器を だ。

228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:32:48.18 ID:LRi8jbso

これ程の厳重さ。
一見すると度を越していると感じるかもしれない。

だが決して過剰ではない。

実際にこの島を標的にしたテロが後を絶たないのだ。

以前には、小型の核兵器が持ちこまれそうになった事件なんかもある。
当然全て未然に防がれたのだが。


こういう背景もあり、『まああの島ならばそれも仕方無いだろう』 というのが世間の認識である。

危険な火種となりうる施設を一箇所に集める事が、
テロに巻き込まれる一般被害を未然に防ぐ形にもなっている、と一部からは賞賛もされている。


禍の種である闇を一箇所に集めている と。


だが外の人々はデュマーリ島の真の姿を知らない。
いや、この島に住んでいる者達のほとんども知らない。


この島の深淵にある『本物の闇』の事は。

229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:35:37.46 ID:LRi8jbso

ウロボロス社、その創始者でありCEOであるアリウスがなぜこの島に目をつけたのか。
それはレアメタルの大鉱脈なんかでは無い。

そんな『小さなモノ』の為ではない。


ここに彼が真に求めるモノの『手がかり』があったからだ。


魔界魔術を極め、そして強大な力に魅了されたアリウスが望むモノへの。



デュマーリ島。

そこはスパーダと覇王の最後の戦いの場。

この地で覇王は敗れ、そして『虚無の底』に封印された。



その際に作られたのが『アルカナ』と呼ばれる『鍵』であり、
長きに渡って南島の地下深くに隠されていた。

つまり、このレアメタルの鉱脈そのものが隠れ蓑でもあったのだ。


この『鍵』を掘り出す為の。

230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:38:00.07 ID:LRi8jbso

開発が進む中、アリウスは裏でアルカナの発掘作業を進めた。

それと同時にデュマーリ島の闇の底では、様々な悪魔関連の実験が繰り返される事になる。
実験体となる悪魔はもちろん、島内には『人間』も腐る程いる。

それらを使った、非人道的実験も数え切れないほど行われてきた。
住民の失踪に関しては、洗脳魔術でもかけておけば何も問題は無い。

つまり背景や取り扱っている力は違うものの、
裏でやっている事は学園都市もウロボロス社も似ているのだ。

それどころか学園都市における御坂のような、闇に抵抗する者すら出てこない以上、
ウロボロス社の方がかなり徹底していたと言えるだろう。


これはトップの性格の違いでもあるだろうが。

一方のアレイスターは『偶然』を誘発させ、それらの因子を利用してプランを急速に進めていく。
強い刺激を与えて育てていくといった、ギャンブル性の強いやり方だ。


かたやもう一方のアリウスは当初の計画通り慎重に、
段階を確実に踏んでいきながら手堅く進んでいくやり方だ。

だが、慎重だからといって臆病という訳では無い。

計画通りに少しずつ進めるのだが、その計画内容は大胆極まりないのだ。

231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:39:30.13 ID:LRi8jbso
そんな『計画通り』を第一にしているアリウス。
彼は今、その貫いてきた理念を曲げざるを得ないのを感じていた。


北島『デュマーリ=セプテントリオ』を覆う大都市。
その中でも一際高く聳え立っている、地上580mにも達するビル。

そこの最上階のホールにアリウスはいた。

上質な椅子に深く腰かけ、葉巻を燻らせ、左手には水晶型の通信霊装を持ちながら。
彼の横には奇妙な古めかしい杖が宙に浮いていた。

『アルカナ』だ。


アリウス「…………」

覇王の封印を解く為の『鍵』は全て揃った。

あとは自分と融合できるよう少し調整するだけであり、
アリウスの『方』では三日もあれば準備が整う。


アリウスの『方』は だ。

今の問題は別の『方』。
彼を不機嫌にさせているのもそれだ。


フィアンマの『方』だ。

232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:40:23.65 ID:LRi8jbso

アリウス「…………ふん…………それでだ…………」


アリウスは苛立ちを隠さぬままを開く。


アリウス「―――随分と無様な結果だな。小僧」


通信霊装の向こうの―――。




フィアンマ『―――そう言わないでくれ』




―――学園都市にいる共謀者に対し。




フィアンマ『俺様とて好き好んで「ここ」にいる訳じゃあない』

233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:44:40.11 ID:LRi8jbso

アリウス「ハッ。そのザマになったのも自惚れるからだ」

フィアンマ『それは否定しないが、お前もわかるだろう?不測な事態が立て続けに起こったんだ』

アリウス「それは単にお前の判断ミスが積み重なっただけだ。己の経験不足を呪うんだな」

アリウス「悪魔と戦うのは初めてだったのだろう?言った筈だ」


アリウス「お前のそのチャチな『幸運』とやらは『魔』に通じんとな」


フィアンマ『はは、随分と言ってくれるな……』

アリウス「……それで用件は?」


フィアンマ『……俺様はこの通り、「肉体が無い」んでな。お前に天界の口も開けてもらいたい』


アリウス「……それはお前に言われなくともやる」

アリウス「『戦争』は必要だからな」


フィアンマ『天界の「鍵」は一週間もあれば複製できるだろう?どうせお前の事だ。影で情報を抜いていただろう?』


アリウス「お前があえて俺に流したのだろう?気付かないとでも思ったか」


フィアンマ『ははは、そうだろうな』


アリウス「生意気な口を叩くな小僧。俺はここでお前を切っても良いのだぞ?」


フィアンマ「……だろうな。だが俺様を切ったら『創造』は手に入らない。違うか?」


フィアンマ「『創造』の力が無いと『完全体』にはなれんと思うが?」

234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:46:30.66 ID:LRi8jbso
アリウス「…………」

ピクリと眉を動かすアリウス。

そう、『創造』が無いとアリウスが望む『全能』にはなれない。

覇王と、封印の底にあるスパーダの力。
それだけでもかなりの存在にはなれる。

だが、それだけじゃあダメだ。


覇王とスパーダ。

その強大な礎の上で創造の力を行使し、そして己を新たな唯一無比の存在へと創り変える。
スパーダの一族やジュベレウスすら敵ではない、想像を絶する力を持った『人間』へと。


『人間』として、だ。


勘違いされがちだが、彼は強大な力に魅了されているだけであり、
決して『悪魔になろう』としている訳では無い。

逆に人間としての誇りを持っている。
それは一般からすればかなり歪んでいるようにも見えるが。

いや、その誇りが強すぎるのだ。

アレイスターにかつて放った、『最期に勝つのは人間だ』という言葉は嘘ではない。
悪魔も天使も何もかもを越えた、頂点に君臨する『全能の人間』となるのが彼の野望だ。


そして『創造』が無いとその境地にはたどり着けない。


覇王とスパーダを手に入れただけでは、
悪魔に転生したままで終わる。


これでは意味がないのだ。

235 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:49:50.34 ID:LRi8jbso
魔帝の死で一時は諦めかけた夢。

アリウス「……」

これも人間の性か、彼は二度目の諦めはどうしてもできなかった。
この恵みともいえるチャンスを逃す『勇気』は無かった。


その『高み』を見定めてしまった以上、今更妥協などできない。

もう覇王とスパーダだけでは納得できない。


アリウス「……いいだろう」


フィアンマ『はは、良かったよ。さすがに拒否されたら俺様もどうしようもないからな』


アリウス「…………それでだ。当然、お前は『戻る方法』は既に見つけているんだろうな?」


フィアンマ『心配しなくても良い』


フィアンマ『俺様はただ時期を待つだけで良い』



フィアンマ『アレイスターが全てやってくれる―――』



フィアンマ『―――何も知らずにあの男は俺を「復活」させてしまうのさ』

236 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:54:05.85 ID:LRi8jbso
フィアンマ『器に使うであろう能力者のガキもな、ちょうど俺様の目の前で進化した』

フィアンマ『殺さなくてよかったよ全く』


フィアンマ『アレイスター風に言えば「ホルス」の世代の「種」か』


アリウス「そのガキは『界』を超えたのか?」


フィアンマ『腕だけな。まあ、一旦変化が始まったらすぐだ』


フィアンマ『で、俺様の「復活」もすぐ、と』


アリウス「ふん」


フィアンマ『この点ではアレイスターに感謝すべきだな』

フィアンマ『「手」の「結合」の手間も大きく省けるしな』


アリウス「それにしてもだ。お前は良くそんな所に潜り込んだな。中々やるな。まるでゴキブリだ」


フィアンマ『……賞賛の意もあるのだろうが、全く嬉しくないなその言葉は』


フィアンマ『まあ、アレイスターがこの「手」の事を詳しく知らなかったのも幸いだ』

フィアンマ『右方の前任者がこの「力」を使わなかった事にも感謝しなければな』

237 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 16:56:11.08 ID:LRi8jbso
アリウス「お前もその力を使うのは初めてだったのだろう?」

フィアンマ『そうだ。一か八かで使ってしまったよ。恐らく本当に使った右方は俺様が初だろうな』

アリウス「それにしても厄介な技だ」


フィアンマ『だがまあ、今の学園都市でなくては意味を成さないからな。この状況があってこその結果だ』


アリウス「ハッ」


フィアンマ『そうだ。そいういえばな、面白い話を聞いた』

アリウス「なんだ?」


フィアンマ『アレイスター、どうやらお前が天界の口を開けるのを察知しててな』

フィアンマ『お前のところに能力者の部隊を送る気だ』


アリウス「ほぉ……」

238 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 17:00:37.55 ID:LRi8jbso
フィアンマ『油断はしない方がいい。お前にとってはゴミ同然だろうが、一人注意するべき人物がいる』

フィアンマ『覚醒してるアラストルを所持した女だ。バージルともある程度やり合ったようだ』

フィアンマ『そこにフォルトゥナ騎士団やスパーダの孫の行動が重なれば、色々と面倒な事になるだろうな』

フィアンマ『ダンテもどう動くかはわからん』

フィアンマ『しっかり頼むよ?お前が潰されたら俺様も終わりだからな』


アリウス「ふん……」


フィアンマ『それと「エサ」がこっちにいるのだが。マーキングは完了してるのか?』

アリウス「まあな。ちょっとした『オマケ』も一緒だ。アレでスパーダの孫は一週間は俺に手を出せんだろうよ」

フィアンマ『はは、「あれ」か……お前も随分とセコイ手を使うな』


アリウス「貴様に言われたくは無いな」


フィアンマ『ま、お互い様だ。人間らしく存分に足掻こうじゃないか』


アリウス「ハッ…………それでだ……『連中』はどうなんだ?」



フィアンマ『…………バージルと魔女……か』

239 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 17:03:31.99 ID:LRi8jbso

アリウス「なぜバージルがそこにいた?奴は何を企んでいる?」


フィアンマ『知っていたらこんな苦労はしない』


アリウス「……」


フィアンマ『今更情報収集に専念する事はできない』

フィアンマ『あんな連中の事を懸念していたら一歩も進めなくなるだろう?』

フィアンマ『とにかく、今は出来るだけ事を速く進めるべきだ』


フィアンマ『幕は上がったのだからな。歩みを緩める訳にはいかない』


アリウス「……」


フィアンマ『お前はさっさと口を開けて、覇王とスパーダ、ついでにスパーダの孫の力も手に入れろ』

フィアンマ『そうすれば連中にも正面から対抗できる』


アリウス「黙れ小僧。貴様に指図されずともやるわ」


フィアンマ『はは、それはそれは頼もしい』


241 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 17:04:57.12 ID:uq3XYBEo
フィアンマとアリウス、仲良しだなww

242 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 19:30:49.16 ID:rJzCAYAO
なんか、どんどんフラグが立ってんなぁ、この二人はww

245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/22(日) 22:09:40.60 ID:dFuQ/8oo
なんというか、シリアスだけど、コイツらが何かやってるとほのぼのとしてしまうなww

246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:24:53.20 ID:LRi8jbso
―――

とある病棟の一階。

複数の長椅子と薄型テレビが設置されている大きなフロア。
つけっ放しのテレビから響く、緊急放送の機械的な声。


その大きなフロアの片隅で、とある二人の少女が向かい合って硬直していた。
お互いの距離は5m。


一方は瞳を見開き、瞬きもせずに無表情の赤毛の幼い少女。

警戒心の篭められた鋭い眼差しのルシア。
警察犬が吠えも唸りもせずに、耳を立ててジッと見据えているように。



もう一方はその強烈な目に囚われて、
金縛りにあったかのように固まっている佐天。


佐天「………………ッ…………!!!」

全身から冷や汗を噴き出し、一歩も動けない。


どうしてこうなったのか。

247 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:29:25.06 ID:LRi8jbso
自動販売機で苦戦しているルシアを助けようと、親切心から彼女に近付いていった佐天。
当然、ルシアは未確認人物の急な接近に反応する。

佐天が彼女まであと5mというところまで来た時。

ルシアは突如振り返り、佐天をその強烈な視線で押し留めたのだ。

まだ人間との交流経験が少ないルシアは、
佐天は何が目的で近付いてきたのかがよくわからないのだ。


そこに警戒心が生まれるのもまた当然。

確かに相手はどっからどう見ても、『匂い』もただの人間であり、
ルシアやトリッシュといるキリエにどうこうできるとは思えない。

だがルシアは決して油断はしない。


一方の佐天は。


佐天「……………………(ちょ、ちょっと…………これ……)」


久しぶりのこの『悪寒』。
デパートでの悪夢が脳裏を過ぎる。

この体の芯が急激に凍り付いていくような、
それでいてジリジリと焼き焦がされていく感覚。

佐天はその前回の経験から本能的に感じ取る。

この子は人間じゃない、と。

248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:31:09.24 ID:LRi8jbso
と、感じてはいたが。

佐天の心はあまり焦燥してはいなかった。

佐天「…………」

というのも何となくだが、あの瞳がネロに似ているような気がしたのだ。
全体の雰囲気もだ。

というか服装の系統もどことなく似ているような。

かなり一方的なのだが、佐天はこの目の前の赤毛の少女に対し、
勝手に親近感を持ってしまっていたのだ。

そして幸いな事に。


ルシアの側でも、似たような事が起きていた。


ルシア「……」

彼女はふと佐天の髪飾りに気付いた。
極僅かにだが、ネロの匂いがする髪飾りに。

そしてこう判断していく。

『この女はネロと何らかの面識があるかもしれない』

『人間の子供であるから、敵対関係とは考えにくい』

『こちらを欺こうと、何らかの術式で姿を変えている痕跡もない』、と。

249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:32:55.72 ID:LRi8jbso

警戒心を解いていったルシアの眼差しから威圧が消えていく。

と同時に、今度は佐天の事など一切気にする風なく、
ルシアは再び自販機の方へと目を戻した。

そしてまた同じく、自動販売機を軽く叩いては首を傾げて、と。


佐天「………………………………え、えーっと…………」


強烈な威圧から解放された佐天がようやく口を開き、そして一歩前に進む。

と同時にルシアはまたまた佐天のほうへと振り向く。
今度は威圧的な無表情ではなく、どことなくキョトンとした顔で。
何か用ですか?とでも言いたげにだ。


佐天「……ハ、ハロー……アーっと…………ジャパニーズ……アンダスタンド?」



ルシア「あ……に、日本語わかります」


佐天のたどたどしい英語に対し、
少し戸惑いつつも流暢な日本語で言葉を返すルシア。

250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:36:16.27 ID:LRi8jbso

佐天「あ、そ、そう!!えーっと…………飲み物買いたいのかな?」

お互いの距離は開いたままで、少しよそよそしい会話が続く。


ルシア「……はい」


佐天「…………買い方、わからないのかな?」


ルシア「はい」


佐天「じゃあ……お姉さんが教えてあげよっか?」


ルシア「…………………………………………」

その佐天の言葉を聞き、自販機と佐天の顔を交互に見るルシア。

そして視線を4往復させた後。


ルシア「……お願いします」

ペコリと頭を下げるルシア。


佐天「よっしきたぁ!!!!!!」

佐天はあっけらかんとした笑みを浮かべ駆け寄り、
ようやくその中途半端だった距離を詰めた。

251 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:38:10.06 ID:LRi8jbso

佐天「じゃぁ……それ貸して!」

佐天に促され、ルシアは右手に持っていた硬貨を佐天に手渡し。

佐天「一番最初にね、お金はここに入れるの」

佐天はその硬貨を専用の口へと入れた。

次の瞬間自販機のボタンのランプが付き、
それを見たルシアは驚いたのか、僅かに体を小さく揺らした。

佐天「よしっと、これで欲しいとこのボタンを押せば買えるよ」

少し誇らしげに笑いながら、傍らの赤毛の少女の顔を見る佐天。


ルシア「……水は……どれですか?」

佐天「えっと水?水ならここはタダで貰えると思うけど……」


ルシア「…………ではワインはありますか?」


佐天「ワ……さ、さすがにそれは無いなあ」


ルシア「……では……お茶はありますか?」

252 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:43:11.91 ID:LRi8jbso

佐天「お茶……」

自販機に目を戻す佐天。

お茶、と言っても色々な種類がある。

パパイヤ風味、焼肉風味等々。

学園都市住みの佐天にとっては普通なのだが、
学園都市の外ではこれらがかなりのキワモノとして扱われてる位は知っている。


佐天「(……無難なのでいった方がイイよねやっぱり)」

ここは普通のを選んだ方が良いのは当然。


佐天「OKOK、お茶ね♪」


普通の冷たい緑茶のボタンを押す佐天。


ガタンと取り出し口にペットボトルが落ちる音。
そこでまたルシアはビクッと体を小さく揺らし怪訝な表情を浮かべた。

253 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:45:32.74 ID:LRi8jbso

そんな彼女が見守る中、佐天はペットボトルを取り出し。

佐天「はいどうぞ♪」

にっこり微笑みながらルシアに手渡した。


ルシア「…………?????????」

ルシアはそのペットボトルを両手で恐る恐る受け取ると、
角度を変えながらまじまじと観察し始めた。

『お茶』と言えば、『カップに入ってる暖かい紅茶』というのがルシアの中での小さな常識。

だが今手の中にあるのは、母マティエがいつも作ってくれた『お茶』とは似ても似つかない。

『妙な容器に入っている冷たい液体』だ。
どこからどうやって飲むのかもわからない。

香りもしてこない。

というかこの容器のままで出てくるとは思ってもいなかったのだ。

あのディスプレイのところに置いてあるのはタンクか何かで、
そこからカップに注がれるとルシアは思っていたのだ。

254 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:49:31.53 ID:LRi8jbso
佐天「……(ペットボトルも……知らないのかな?)」

そのルシアの仕草を見て、佐天も何となく彼女の困惑に気付いた。
さながら、時代を飛び越えてきた100年前の女の子、といった感じだろうか。

佐天「っとね、そこの先っちょの部分をこう、クイッと軽く回せば蓋が開くよ」

ジェスチャーを交えて、ルシアに優しく促す佐天。

ルシア「?」

佐天の仕草を真似て、ペットボトルの蓋の部分を握るルシア。

佐天「クイッと、ほら、こうクイッと」

ルシア「…………くいっ……と?」

メキンと『バリ』が裂ける音がし、蓋が一回転。
そこでまたルシアが驚き手を止める。

容器を壊してしまったとでも思ったのだろう。

佐天「ううん、そのままでいいんだよ。そのままクルクルッてまわして」

ルシア「…………?」

佐天に促されるまま、恐る恐る蓋を回し。

佐天「ほ〜ら!そこから飲めるよ!」


ルシア「!!」

ようやくルシアはお茶にありつく事ができた。
『冷たい奇妙なお茶』だが。

255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:51:20.80 ID:LRi8jbso
ペットボトルを両手で握り締めたたまま、
その場で口をつけゆっくりと一口飲むルシア。

佐天「……どう?おいしい?」

その佐天の言葉に、ルシアは嬉しそうに微笑み返し小さく頷いた。

佐天「よしよし!よくできました!!」



ルシアの笑みは、ただ飲み物を手に入れたという事だけに対してでは無い。

本当の意味で『生』を知って未だ数週間。
こうした小さくささやかな出来事も、ルシアにとっては大きな大きな宝物なのだ。

人間との関わりが何よりも嬉しい。
人間の優しさと温もりが何よりも彼女の心を充実させていく。


この世界と人類へ向けた少女の淡い『初恋』。


人造悪魔という忌まわしき存在である以上、どんなに近付いてもその恋は決して実らないだろう。
少なくとも彼女自身は幼いながらもそう思っている。


だが彼女は幸せだった。


こういう、小さな小さな人間世界との繋がり。
それが何よりもルシアにとってはかけがえの無いものだった。

256 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:53:34.69 ID:LRi8jbso

佐天「♪」

この出来事がルシアにとってどれ程のモノかは露とも知らずに、
佐天は赤毛の少女を穏やかな目で眺めていた。


とその時。


ルシア「―――」

突如目を見開き、ピタリと硬直するルシア。


佐天「?」


ルシア「(帰ってきた!)」

ダンテが帰ってきたのを感じたのだ。


ルシア「あ、あの!!!ありがとう御座いました!!!」

今度はハッとしたかのように、慌てて佐天に頭を下げるルシア。


佐天「え?あ、いーってことよ!!あははははあは!!!」

257 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/22(日) 23:54:45.17 ID:LRi8jbso
ルシア「で、では……あ、あの失礼します!」

再度ぺこりと頭を下げ、ルシアは踵を返してパタパタとフロアの出口へと向かう。

佐天「―――あ、ちょ、ちょっと待って!!!!!」

とその時、佐天はそんなルシアの小さな背中に慌てて声を飛ばした。

ルシア「はい!?」

落ち着き無く、これまた慌てて振り返るルシア。


佐天「名前教えて!!私は佐天涙子!!!」


ルシア「え……あ!!る、ルシアです!!」


佐天「この病院にしばらくいるの?!」


ルシア「は、はい!!!」


佐天「じゃあ……ね、ねえ!また今度話さない!!!!??」


ルシア「…………は、はい!!お願いします!!」


三度ルシアは頭を下げると、パタパタと廊下の方へと消えていった。

佐天「……ルシアちゃんかぁ……」

その少女の背中が見えなくなって尚、
佐天は廊下の方を見つめていた。

穏やかな笑みを浮かべながら。

275 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/24(火) 23:55:11.54 ID:hmyUMVAo
―――

とある病棟の廊下の突き当たりにある、小さな談話フロア。
そこのソファーに患者衣を纏った麦野はだらしなく座り、背もたれに頭を預けて天井をボンヤリと仰いでいた。

さすがにあのボロボロの、胸の下着が見えてしまう服を着ている訳にもいかず、
とりあえず病室にあった患者衣に着替えたのだ。

左肩から伸びるアームは今は消している為、患者衣の左手の部分は一応残っている。
僅かに漏れている閃光で肩口のあたりが少し焦げていたが。


麦野「……ふぅぅぅ……ぁぁ……」

チリチリっと小さな閃光を右目眼窩から漏らしながら、
麦野は気の抜けた息を吐く。


アラストル『何しているんだ?マスターに会いに来たんじゃないのか?』

そんな彼女に対し、右脇に立てかけられている銀色の大剣が声が飛んできた。
ややナルシストっぽい、妙なエコーのかかかった脳内に直接響いてくるような声色。


麦野「……うっせえ」


アラストル『全く。人間の思考回路は理解しかねるよ。先程の威勢はどこにいった?』


麦野「……つーかさ、アンタだってアイツの前じゃコロッて態度変わるじゃん。口調も声の高さも」


麦野「なんかこう、“Yes, My Master.” とかって妙にかしこまっちゃってよ」

英語の部分だけを、ダンテを前にしているアラストルに真似て低い声で言う麦野。


アラストル『当然だ。マスターの前だ。無礼は許される訳がないだろう?』

276 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/24(火) 23:58:40.21 ID:hmyUMVAo
麦野「……」

麦野はそういうのでは無く、裏表がある点に対して言及したつもりなのだが。

だがそんな事は別にどうでも良い。
この妙なガラクタの『性格』など別に興味無い。

聞きたい事は別にある。


麦野「つーか聞くけど、アンタ達って一体何?」

そう、麦野は未だに知らないのだ。
神と呼べる程の存在をダンテに預けられていながら、だ。


アラストル『悪魔だ』


麦野「…………それは何となく聞いてたけどさ、具体的にどんなのよ?」


アラストル『別世界の住人だ』

アラストル『この世界にお前ら人間が存在しているのと同じく、魔界には我々悪魔が存在している』


麦野「……っつーこと事は、アンタも私達と同じ『生き物』って事?」


アラストル『表現上は同じくそう呼べるな。ただ理も法則も全く異なっているが』

277 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:02:07.20 ID:rn7q9i.o

アラストル『そうだな……一番わかり安い違いはだ、この世界の生命は物質的な面で縛られている』

アラストル『だが魔界は違う。魔界の生命は「力」に縛られてる』

麦野「……はぁ?」

アラストル『お前らには肉体の物理的限界がある。例えば寿命とかな。「魂と器」が無傷でも、肉体の損壊で簡単に死ぬ』

麦野「…………はぁ」

アラストル『だが我々魔界の存在は違う。我々は力、魂、器が破壊されれば、肉体が無傷でも命を落とす』

アラストル『逆に言えば、「単なる」肉体の損壊では死なない。ダメージすら無い』


麦野「……つまり今アンタをへし折って砕いても死なないって事?」


アラストル『いや。俺を折れる程の攻撃ならば俺は死ぬかもしれん』


麦野「はぁぁぁ?」


アラストル『これはまた別の事でな。お前ら人間の肉体の強度は決まっているだろう?』

アラストル『お前のような能力者でも、肉体はただの生肉だ。どんなに鍛えようとこの世界の物理的限界は超えられないはずだ』

278 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:08:25.83 ID:rn7q9i.o

アラストル『だが我々にはその物理的限界が存在しない。有する力に比例して、肉体も強化する事ができる』

アラストル『いくら肉体の損壊が問題なくとも、いちいち手や足が千切れていたらまともに戦えないだろう?』


麦野「……そりゃあ……」


アラストル『だから悪魔は戦う時は常に肉体の強度を最高に保つ』

アラストル『例外はあるがな。マスターや兄上殿のような、』

アラストル『あまりにも超越している存在は、相手の力量や状況に合わせて強度を決めている』

アラストル『そもそもマスターは娯楽も兼ねているからな』

アラストル『二ヶ月半前や先程の兄上殿との時のような事態でも無い限り、最高強度にはそうそうしない』


麦野「…………その最高強度状態の肉体を壊せば……』

アラストル『そうだ。それは悪魔にとって死に直結する』

アラストル『ただ「力」で強化された肉体には、「力」で強化された攻撃を叩き込まねばほとんど効果は無い』

アラストル『どれだけ物理的破壊力が高くともな』


アラストル『特に我々のような高位の存在にはな』


アラストル『下等な者達ならば物理的破壊でもそれなりに通じるが、俺のような高位の存在には一切ダメージにならん』

麦野「じゃあ……例えば核兵器が使われてもアンタは無傷って事?」

アラストル『ふん。笑わせる。その程度の「単なる」花火など、例え一万発貰ってもサビにすらならないさ』

麦野「……それじゃあ逆に言えば、物理的破壊力が針で指す程度でも、その『力』が莫大だったら殺せるって事?」

アラストル『そうだ。まあ、大体は力に比例して物理的破壊力も増すがな』

279 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:12:03.23 ID:rn7q9i.o

麦野「…………へえ…………あ〜……」


アラストル『難しく考えるな。存在する界が違う。根本的に格が違うんだ』

アラストル『紙の上の二次元世界で何をされようと、三次元の書き手と筆には何も影響は無いだろう?』


麦野「……………………まあ……」


アラストル『それと似たような概念だと思えば良い』

麦野「(何言ってんだよコレ。ますますわかんねーよ)」


アラストル『とりあえずそこは深く考えない方が良い。別次元・別の界の事をこの程度で、お前らの思念で理解できる訳も無いからな』

アラストル『そもそも、お前は頭で理解する必要は無いだろう?実際に俺と同化したのだ。本能的に感じることができるはずだが』


麦野「…………さっきの?」


アラストル『そうだ。兄上殿との戦いの際だ。あの時お前は俺と同化して、お前の「理」は魔界のモノとなった』

アラストル『その上での俺の力による強化が無ければ、兄上殿の刃の直撃を受けずとも「圧」だけでお前の肉体が消失していただろうな』


麦野「…………ちょっと待て。確か、前にアクセラレータもバージルと戦ったらしいけど、その時アイツも悪魔の力を使ってたって事?」


アラストル『…………あの白髪の小僧か?俺はその時の戦いを見ていないから確かな事は言えんが……』



アラストル『あの小僧は恐らく、「自分の力」で肉体の強度を上げているぞ』

280 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:16:44.15 ID:rn7q9i.o
麦野「はぁ……??じゃあ何??能力者でもできんのその『強化』って??」

アラストル『能力もどうやら「力」の一種だからな。可能と言えば可能だろうな。ただお前は無理だが』

麦野「何??どういう事??」


アラストル『少し見た程度だから断言はできんが、あの小僧は界を越えかけている』

アラストル『「既存」の人間界の理から外れかかっている』

アラストル『それで可能なのだろう。本人は気付いていないかもしれんが、生存本能で無意識下の内に強化されることもある』


麦野「…………」


アラストル『それにだ、あの小僧は自分自身の「力」を使ってるようだ。二ヵ月半前の時点で既にそうだったらしい』

アラストル『俺の感覚だと、お前らも含め他の能力者の「力」は借り物に過ぎん』

アラストル『同じ能力者という枠内であるだろうが、あの小僧とお前らが使っている力は根本的に「格」が違う』

アラストル『あの小僧は特別だ』


麦野「……」

そう言われればそんな気もする。
あの一方通行の黒い腕。
かなり異質だ。

そもそも、普通に考えてあのバージルの刃を生身で受けて生きている訳が無いのだ。
実際に打ち据えた麦野だからわかる。

二ヵ月半前、一方通行はバージルによって瀕死の重傷を負ったと聞いたが、
あんな刃で切り裂かれて『その程度』で済むはずが無いのだ。

そう考えると、『一方通行が特別』というのも納得できる。

281 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:19:31.03 ID:rn7q9i.o

麦野「じゃあさ、アクセラレータはアンタとかとも普通に戦える訳?」


アラストル『はは、それはまた話が別だ』

アラストル『あの小僧程度の者など、魔界には腐る程いる』

アラストル『俺のような列神・諸王の存在にはどう転んでも勝てんよ』

アラストル『良くて地方の田舎領主程度だろうな』


麦野「……は?そっちの魔界とやらにも『領主』とかってあんの?」


アラストル『こっちの言語だとこれが一番意味合いが近いと思うが』


アラストル『魔界のgakillahha語だとlaoatyighh、kajahgga語だとkjhggaeuueだな。kahagff語だと……』

次々と、様々な魔界の言語の該当する単語を口にしていくアラストル。


麦野「はぁ?」

だが当然、『界』が違う麦野には妙なノイズにしか聞こえない。

282 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:24:12.63 ID:rn7q9i.o

アラストル『―――jhslia、ytarwiil語だと(ry』


麦野「あー!!!わかったからもう良い!!!普通に話せ!!!」

麦野「で、こっちみたいにそういう、行政システムみたいのあんの?」

アラストル『……行政、ではないな。その地域地域、「界」でトップの奴の事を指す』


アラストル『魔界は「力」の強弱が全てだ。単純に強い者が上に立ち生き永らえる権利を持ち、弱い者は殺されるか奴隷となる』

アラストル『力を強くするには、戦い続けるか他者を喰らい続ける』

アラストル『そして強くなれば強くなるほど、別の強者が戦いを挑んでくる』

アラストル『殺さねば殺される。力の高みに昇る為に他者を殺し喰らい続け、強くなり続ける』

アラストル『敗者は死ぬか、取り込まれて勝者の力の一部となるか、それとも永遠の奴隷となるか、だ』


アラストル『これが魔界の一番のルールだ。お前ら人間界の者には忌まわしく聞こえるかもしれんが、』


アラストル『我々にとってこれが当たり前なのだ。これが魔界の理だ』


アラストル『お前らが当たり前のように呼吸するのと同じく、我々は戦い殺し合う』


アラストル『お前らが本能的に生の保全を図るように、我々は本能的に力を求める』



麦野「……随ッッッ分殺伐としてるわね………………ちょっと面白そうだけど。いいわねそういう力至上主義って」

283 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:35:17.59 ID:rn7q9i.o

アラストル『その戦いを這い上がり、億を越える悪魔を支配しその界を征服した者は「領主」と呼ばれる』

アラストル『この辺りから俗に言う「大悪魔」だな』


麦野「……………………億…………って……!!!」


アラストル『魔界は広いからな。人口も面積も人間界とは比べ物にならんぞ』

アラストル『魔界がこの世界の大洋規模とするなら、人間界の規模は浜の一粒の砂に過ぎん』

アラストル『領主の人数は大体5万だな。ただ広い分、名が知られていない者もいるだろうから、実数はこの1.5倍はあるかもしれん』


麦野「………………………………」


スケールの違いに最早言葉が出ない麦野。
あの一方通行と同等、もしくはそれ以上の奴が5万、場合によってはその1.5倍とかおかしい位にぶっ飛びすぎだろ、と。

先程の『面白そうね』という言葉を発した、自分の『世間知らず』っぷりがアホらしく感じる。


アラストル『そして50以上の領主を支配しうる力を有する者は、人間界の単語で現すと「王」や「神」と呼ばれる』

アラストル『俺やトリッシュがこの位置だ』


麦野「……………………じゃあ……アンタも『王』って事は国とか持ってんの?」

アラストル『これは行政的な意味ではなく「格」の表現だ。皆がみな国や領地を持っている訳では無いさ』

アラストル『悪魔にもそれぞれ個性がある。上の者ほど個性的になりがちだ。力が強くなれば強くなるほど自我の部分が大きくなるからな』

アラストル『国を持ち兵を率いる者もいれば、一人でより強い相手を求めて放浪する者もいる。俗世を捨てひっそりと暮らしている者、』

アラストル『より強い存在の下で、主の為に戦う道を選ぶ俺のような者も。様々さ』

284 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:37:23.56 ID:rn7q9i.o

麦野「へえ……つーかさ、アンタも結構スゴイのね」


アラストル『小娘、俺を誰だと思ってる。雷刃魔神「アラストル」だ』


アラストル『お前は今や、自らを遥かに超越した神を手にしているのだ。しっかりと自覚してくれ』


麦野「わかったって。喋る古臭い剣にしか見えないけど、アンタが凄いのはわかるって」

アラストル『ふん、俺の解放された真の姿を見たらそんな減らず口など叩けないさ」

麦野「じゃあ見せなよ。両手合わせて拝んでやるから」

アラストル『……それにはマスターの許可が必要でな…………で、俺は今謹慎中の身だ……』

麦野「なんでよ?」

アラストル『…………少し前に無断で外出してな…………いや、お前にこれを喋る筋合いなど無い』


麦野「あ、そう」


アラストル『それでだ、その「王」と「神」は俺が知る限りじゃ、今の人数は大体800前後だ』


麦野「……………………ちょ、ちょっと待て……アンタとかトリッシュみたいなのが800もいるの?」


アラストル『これでも「2000年前の対人間界戦時」以前に比べれば「三分の一」にまで減ったんだがな』


アラストル『それに俺やトリッシュのような、と言うのは少し間違ってる』

アラストル『同じ「王」や「神」の領域でも、上と下は天と地ほどの差がある』

アラストル『俺やトリッシュはこの位の中では「中の上」だ』

アラストル『俺達よりも強大な存在は200以上はいるだろうな』

285 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:41:14.35 ID:rn7q9i.o
麦野「…………なんつーか、もう呆れるしかないわね」

アラストル『お前らが先程話してた天界と比較するとだ』

アラストル『天界にいる、魔界の「領主」と同等の連中は多くても800、魔界の「神」や「王」に比する者は30程度だ』

アラストル『天界の現最高位の四元徳だが、魔界にはそいつらと同等の者が今も100以上はいる』

アラストル『中には遥かに凌ぐ者もな』


麦野「…………は…………ぁ…………」

いきなり言われても具体的にはわからないが、
とにかく魔界という世界のスケールの規格外さはわかる。

もしステイルや土御門が聞いていたらこう思うだろう。
『そりゃあ天界ですら恐れるわけだ』、と。

数も強さも桁違い。

この規格外の規模、そしてその熾烈な競争の中から頭角を現す規格外の『怪物』達。
魔界の『力のピラミッド』は、その裾野の幅に比例して頂点も凄まじい高さなのだ。

これが魔界の強大さの根源だ。


麦野「てかさ、天界と魔界って仲悪いんでしょ?良く言うわよね天使と悪魔は敵だって」


アラストル『まあな。一応今も戦争状態だ』


麦野「じゃあなんでとっとと潰さねーのよ?戦力の差は圧倒的なんでしょ?」

アラストル『今の魔界内ではな、諸王・諸神らが勢力争いしていてな、凄まじい内戦状態なんだ』

麦野「……………………へえ」


アラストル『「外」に構っている余裕など無い』

アラストル『天界のような小勢力の事など、今や誰の眼中にも無いのさ』

286 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:47:11.49 ID:rn7q9i.o

麦野「ところで…………アイツ……ダンテってどの位強いの?」

麦野「アンタ達よりも強いのはわかるけど、その魔界の基準とやらじゃどの辺よ?」


アラストル『最強だ』


麦野「…………!」


アラストル『頂点さ。マスターと兄上殿、一対一の決闘でこの二方に勝てる者は今の魔界にはいない』

アラストル『どの王も神も勝てん』


麦野「………………………………………!!!!!」


アラストル『単体で強いのなら「魔帝」がいたが、マスターと兄上殿、そして兄上殿の息子の三人に破れた』

アラストル『そもそも距離を詰めた接近戦に限定すれば、マスター達は一人でも魔帝を圧倒できるしな』


麦野「良くわかんないけど…………じゃあアイツらより強いのは今どこにもいないって事?』


アラストル『いや……魔帝よりも強いジュベレウスを屠った例の魔女ならば…………』

アラストル『…………いや待て。そもそも魔女は魔を召喚して力を借りている…………』


麦野「……………………は?」

287 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:50:36.06 ID:rn7q9i.o

アラストル『ジュベレウスの際は確か……「クイーン=シバ」を召喚したと聞いたが……』

アラストル『いや、そもそも「クイーン=シバ」は単一の悪魔ではなく「魔界そのもの」の「力場」の……』

アラストル『そうだな……アレは完全に反則だな……』


アラストル『アレがOKならばマスター達も……いや……それは無理か……?』


麦野「…………何ブツブツ一人で言ってんのよ?」


アラストル『いやすまん…………「単体」で強い者は俺の知る限り、存在しないな。「互角」はいくらかいるが』

アラストル『まあマスター達や例の魔女、魔帝やジュベレウスの領域になると、相性の問題がより強く絡むから一概には言えないな』

アラストル『魔帝のような、力の強弱が関係無い反則的な力を持っている場合もあるしな』

アラストル『そもそもどんな状況で戦うかでかなり変わる』


アラストル『俺が断言できるような事では無い』


麦野「…………ねえ、マテイとかジュベ何とかって誰よ。それに魔女って」

288 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:53:37.71 ID:rn7q9i.o

アラストル『魔帝はかつて魔界に君臨していた統一王だ』

麦野「統一?さっき魔界は内戦中って言わなかった?」


アラストル『そうだ。だが魔帝は2000年前に玉座から引き摺り下ろされ、そして二ヵ月半前にマスター達の手で滅んだ』

麦野「!!!」

アラストル『だから実質、マスター達が今の魔界の基準では最強なのさ』

アラストル『更に言うとな、魔界のルールからしたらマスター達が魔界の頂点の座に付くべきなのだがな、』

アラストル『あの通り本人達はその玉座には一切興味が無い』


アラストル『だから今、その空座を巡って内戦が激化しているのさ』


麦野「そう……で、ジュベ何とかって?」

アラストル『主神ジュベレウス』


アラストル『約1500万年前、魔帝・覇王そしてスパーダの三人によって敗れた、全ての世界を統べていた最上主神だ』

アラストル『そのスパーダがマスターと兄上殿の父君だ』


麦野「父…………はおうってのは?」


アラストル『当時の魔界の三番手だ』

麦野「……じゃあ、アイツらのおやっさんは?」

289 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:55:55.80 ID:rn7q9i.o

アラストル『スパーダの地位は二番手だったな。「単純」な力量は魔帝をも凌いでいたが』

麦野「じゃあ何で二番手なのよ?」

アラストル『父君は支配欲はなかったからな。それに魔帝の無二の友でもあった』

アラストル『そもそも、この二人が戦っても「完全」な決着はつかん』


麦野「何でよ?おやっさんの方が強かったんでしょ?」


アラストル『単純な戦闘能力はな。だが魔帝にはそれとは別に特殊な力があってな』

アラストル『覇王も同じく特殊な力を持っていてな』

麦野「?」

アラストル『まあ色々あるという事だ。先程言ったとおり、この領域は誰が誰よりも強いなどとそう断言できんのさ』

麦野「……あ、そう」

アラストル『それと、覇王についてはお前らにも関係あるぞ?』


麦野「何で?」

290 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 00:57:57.87 ID:rn7q9i.o

アラストル『お前らの標的のアリウスという男はな、この覇王を復活させようとしている』

麦野「っ……!!!」

アラストル『まあ、その方面ではマスター達が何らかの手を撃つと思うがな』

アラストル『一応言っておこう。もし鉢合わせたら逃げるぞ。俺でもどうしようもないからな』


麦野「……アンタより強いの?」


アラストル『当たり前だ。魔帝と父君がいなくなった後、あの魔界をたった二ヶ月で三分の二まで掌握した者だぞ?』

アラストル『俺があの「怪物」に敵う訳が無いだろうが』

アラストル『マスター達か、例の魔女じゃないと相手にできんよ』


麦野「………………その魔女って?」


アラストル『アンブラの魔女。一応人間なのだが、生まれながらにして「魔」でもある者達だ』

アラストル『お前ら普通の人間とは全く別の「界」にいる者だ』


麦野「…………?」

291 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:01:32.77 ID:rn7q9i.o

アラストル『この者達は、我等から言わせてもかなり異質でな』

アラストル『彼女達自身の力も強大だが、それ以上なのが「召喚技術」だ』

麦野「召喚?」

アラストル『原理は詳しくは知らんがな、それを極めた者は魔界の諸王・諸神と同化でき、その強大な力を自由に扱えるらしい』

アラストル『強者となれば、一人で何体もの王や神の力を使う事も可能だと』

麦野「……それってスッゴク強くなれるんじゃ……」

アラストル『そうなるな』


アラストル『中には「魔界そのもの」、我等が「クイーン=シバ」と呼んでいる存在の召喚に成功した者もいるらしい』

アラストル『その瞬間火力はマスター達をも上回るだろうな』

アラストル『ただ瞬間火力は、だ。どちらが強いかはまた別の話になる』

アラストル『そもそも「クイーン=シバ」の「性質上」、これをマスター達相手に使えるかどうかはわからんしな……』

麦野「…………はい?」


アラストル『いや……最後の部分は気にするな』

アラストル『でな、この魔女の生き残りがつい最近ジュベレウスに止めを刺した』

アラストル『「クイーン=シバ」を使ってな』


麦野「……へえ……なんつーか、色々と凄いわね色々と……」


麦野「頭がこんがらってきたけど」

292 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:04:59.26 ID:rn7q9i.o

アラストル『無理して覚えるな。人間の思考力など所詮高が知れている。雰囲気だけを掴め』


麦野「あ?私の事バカだっつってんの?」


アラストル『なに、そう悔しがる事ではないさ。人間と高位の悪魔じゃデキが違うからな』

麦野「……舐めてんじゃねーぞガラクタ。テメェで生ゴミ箱引っ掻き回すぞ」

麦野「ぐっちゃぐっちゃのゲチョゲチョになりてーの?」

麦野「それともお花付けたり模様書いたりして、カッッワイイデコレーションしてあっげようかにゃーん?」


アラストル『…………口を慎めよ小娘。俺を誰だと思ってる?』

麦野「テメェこそ。『今の主』は誰だと思ってんだよ」

麦野「私がアイツからお前を預かった。こっちはアイツのお墨付きなんだっつーの」

アラストル『…………』


麦野「じゃあじゃあそれを踏まえて聞きましょーねぇん。テメェの今の主は?」


アラストル『…………』


麦野「さっさと言えよコラ。落描きすっぞ」


アラストル『………………………………お前だ』


麦野「よろっっっすい」

293 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:08:23.40 ID:rn7q9i.o
とその時。

廊下の先からパタパタと走ってくる赤毛の少女の姿。
ルシアだ。

麦野「……」

ルシアはそのまま走ってきて、ソファーに座っている麦野の前で立ち止まった。

麦野「何?」

ルシア「あ、あの……暇潰してないで来いって……」

ルシア「ダンテさんとトリッシュさんが……」

麦野「!」

ダンテの名を聞き、ビクッと一瞬身を硬直させる麦野。


アラストル『ほら。さっさと行けよ。マスター代理』


麦野「……!」


アラストル『立てよ。行かないのか?マスター代理。ほれ。行くぞ?おら。何をして(ry』


麦野「う、うっせぇ!!!!!!!」


294 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:12:21.53 ID:rn7q9i.o

―――


何も見えない。

感じるのはズキン、ズキンと鼓動のような『胸の鈍痛』だけ。

それ以外には何も感じない。

触覚も。
気配も。
温度も。
匂いも。

それでいながら意識だけは妙にはっきりとしている。

「………………」

その明瞭な意識の中にあるもの。


それは罪悪感。

それは嫌悪感。

形容しがたいほどに凄まじい後悔の念。


295 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:14:53.97 ID:rn7q9i.o

聖人。

天使。

その存在の真実が、守ろうとしていた者達をどれ程までに傷つけていたことか。
どれ程の人間の犠牲の上にあったのだろうか。

何も疑問を抱かずに使ってきたこの力。

その力は一体何人の人間の『命』だったのだろうか。

千か。万か。いや、高位の天使に匹敵する力を使った以上、『億』に届くかもしれない。


彼女は心優しい。
高潔でそして清い心の持ち主。

そんな彼女だからこそ、この真実には耐えがたかった。
とてつもない自責の念に押し潰されてしまった。

「…………あぁぁ…………」

彼女にとって、これが何よりも苦痛だった。


何よりも。


肉体の痛みよりも。
肉体の陵辱よりも。


素晴らしいほどに清い精神から来る、この自責の念が何よりも耐え難かった。


これが彼女に与えられた罰。

これが彼女に課された地獄。

彼女の『芯』を折り、叩き潰し続ける苦痛。

296 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:16:42.61 ID:rn7q9i.o

気が狂えばどんなに楽か。

精神が消失してしまったらどんなに楽か。

だが意識は以前明瞭としたまま。


「…………」


時を刻んでいるかのような胸の鈍痛。

それが否応無く彼女を向き合わせる。

己の存在の罪に。


目を背ける事ができない。


「…………」


『完全な死』という許しは与えられないのだろうか。


永遠の時をこのまま過すのだろうか。


―――と思ったのも束の間。

297 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:19:23.57 ID:rn7q9i.o
ふと気が付くと。

「………………………?」

彼女は古めかしい白亜の大きなホールの中央に立っていた。
つまり、視覚が戻っていたのだ。

自分の体をぼんやりと見る。

そして目に入る己の胸を貫いている『愛刀』。

「………………」

彼女はおぼろげに自分の身に起こったことを思い出した。

そう、己は敗北しこの愛刀で胸を貫かれたのだ。


そして彼女はゆっくりと顔を上げ、周囲へと目を向けた。

そこは球天井の、列柱に囲まれた円形のホール。

「…………」

その列柱のところに沿って、彼女を取り囲むように並んでいる奇妙な女性達。


人数は25人。


皆、彫像のように白い無表情で彼女を見つめていた。
いや、本当に彫像なのかもしれない と思える程に血の気の無い顔で。

異常な程に整った顔立ちや、非の打ち所の無いスタイルがその感をより一層際立たせていた。


袖口や裾は大きく開いているが、体の部分は肌に密着している豪華な衣服を纏っている。
全体の雰囲気は修道服に似ているだろうか、だがその荘厳な装飾はまるで王族や貴族のようだ。

彼女達は手に皆それぞれ違う武器を持っていた。
古代ローマのグラディウス風の剣、クレイモアのような長剣、クロスボウ、ハルバード、等その種類は様々。
中には日本刀らしき物を持っている者も。

どうやら時計回り順に、武器の類が近代的になっていっているようだった。

11時方向を越えた女性は、フリントロック式の拳銃を両手に一丁ずつ持っていた。

298 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:20:52.66 ID:rn7q9i.o
「…………」

そして彼女達の頭上には、赤い光の紋章と奇妙な文字が浮かび上がっていた。

その奇妙な文字。
見たことは無い。

だがなぜか一目で意味がわかった。

あれは『エノク語の数字』だと。

武器の系統が古い所から『1』、一番最後のフリントロック式の拳銃を持っている者の上の数字は『26』。


25人で『26』。


そう、一つ数字が欠けていた。

その数字は『10』。


「…………」


と、彼女がその点に気付いた時。



『さて、気分はいかがかな?』



突如背後から聞こえてきた、透き通りつつも湿っぽい妖艶な女性の声。
口調は威厳のあるモノだがその声色が妙に色っぽい。

299 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:25:04.31 ID:rn7q9i.o
「!」

彼女が慌てて振り返ると。

3m程の所に一人の女がいつのまにか立っていた。

周囲に立っている女性等と同じく豪奢な衣服を身に纏ってはいたが、
それだけではなかった。

その上に羽織っている、カラスの羽のような飾りが付いた黒いマント。
そして顔の上半分を隠している、鳥の頭蓋骨のような不気味な仮面。

手には武器のような物は持っていなかったが、手首には大量の腕輪。


周囲の女性達とは何かが違う。

仮面の下から見える口も、周りの者とは違い薄い笑みを浮かべていた。

鳥の頭蓋骨状、その仮面の眼窩の向こうに見える瞳も生気が宿っていた。

少なくとも感情の色が見える。


『驚かしたか?まあまず自己紹介せねばな』

仮面の女が薄く笑いながら、呆然としている彼女に対し言葉を続ける。




『我は「第10代」アンブラが長―――』





『―――魔女王アイゼン』


300 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:26:08.36 ID:rn7q9i.o

魔女王アイゼン。
そう、女は両手を広げ少し顎を上げて誇らしげに名乗った。


「…………魔女王…………?」

だが彼女は魔女の事など何も知らない。
名乗りから王族、長なのはわかるがそれ以上の事は何も。


そんな彼女の様子に気付いたアイゼン。

アイゼン『ほれ、「クイーン=シバ」の召喚式を完成させ、初めて召喚に成功した者と言えば……………………わからぬか』


「……?」


アイゼン『22の魔界の王・神にアンブラへの専属契約を結ばせ、下々の者でもウィケッドウィーブを扱えるようにした……』

「…………?…………いえ……」

アイゼン『これでもわからぬか。仕方無い。大ヒントだ。『長の証』の腕輪を作ったのが我だ』


「………………………?…………………あのう……」


アイゼン『…………』

「…………」



アイゼン『―――――――――貴様ァァァァァァァアアアアアアアアアアア!!!!』



「ひっ…………!!!」

301 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/25(水) 01:27:22.63 ID:BmdwGe.o
ねーちん空気嫁よ

302 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:28:31.84 ID:rn7q9i.o

アイゼン『もしや魔女については何も知らぬ身で―――!!!』



アイゼン『―――ここに来たというのではあるまいなァッッッ??!!!ハァンン!!!!』


大きく身を捻らせ、腕を振るってその片方の指先で彼女を指すアイゼン。


アイゼン『アアァァァァァァァハァァァァァァァァァァアアアアアアアアアンンンッッッッッ!!!!!!!????』


そのオーバーな、かつしなやかな動き。
激しくもしっとりと捻られた腰。


「…………あ……!!!す、すみません!!!!!!すみません!!!!!!」


それに凄まじい既視感を感じながらも、
彼女は勢いに押されて平謝りしてしまった。

なんだがついさっき似たような挙動を見た気がするのだ。


この胸に愛刀が突きつけられる直前に、だ。


彼女がアンブラの魔女についてそれなりに知っていたらこう思っただろう。

この連中は、大昔からこういうノリが共通だったのだか と。

303 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:30:41.35 ID:rn7q9i.o

アイゼン『ハッッッッ!!!!!!もしやのもしやだが……まさか……なぜこの今の状況なのかも理解しておらぬのか!?』


「はい…………すみません……」


アイゼン『………………全く。何も教えとらぬとは……「表」の者共は何を考えておるのだ』

アイゼン『スパーダの息子といい我が子孫らといい……最近の若い連中はどうにも真剣身が足らん』


「……………………わ、私は……」

真剣身が足らない。
そう言われて、礼を重んじる彼女は反射的に反応した。

名乗られたのならば名乗り返す。
それが礼儀だ。

礼が染み付いている彼女は咄嗟に名乗り返そうとしたが。



「―――…………ッ……」


なぜか己の名前が出ない。
己の名前がわからないのだ。

言葉が出せず、金魚のように口をパクパクさせる彼女。

アイゼン『あ〜名乗らなくとも良い。そもそも名乗ることが「できぬ」だろう?』

そんな彼女を見てクスリと口の端を上げる魔女王アイゼン。


アイゼン『そなたの名は今は「奪われておる」からな』


アイゼン『その胸の魔剣にな』

304 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/25(水) 01:32:46.92 ID:rn7q9i.o

アイゼン『それとこの者達はな、我も含めて―――』

仮面の女が腕を広げ、ぐるりと回転して周囲を見るように促しながら。

アイゼン『―――3万4千年のアンブラの歴史そのものだ』

そして告げる。

アイゼン『かつての長達だ』

彼女達はアンブラの歴代の長だと。

アイゼン『皆死んでいる。いわば亡霊だ。魔に完全転生した我を省いてな』

アイゼン『さて、改めて歓迎しよう』

そして再び彼女の方へと向き直り、手を一度叩き歓迎の言葉を述べた。


アイゼン『ようこそ。煉獄最下層、「アンブラ列長の墓場」へ』

アイゼン『ここでそなたを見定めよう。「表」に戻すか否か』


『天の者』に対する裁きの始まりと。


アイゼン『永遠の地獄へ幽閉するか否か、をな』



アイゼン『―――神裂火織よ』



神裂「―――」


彼女の名を。


306 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/25(水) 01:42:01.03 ID:bdNwLNMo
ああ、むぎのんがどんどん可愛くなっていくな・・・・そしてアラストルwwww

308 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/25(水) 03:14:22.61 ID:jIDOQnI0
やっぱり歴代の魔女達も大体スタイリッシュ痴女アクションな人々なのか…

310 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/25(水) 15:17:51.10 ID:IJxtI6DO
ねーちん魔女になったら今でさえ痴女なのに下手したらただの変態になりかねないよね

314 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:08:21.75 ID:rHThjHko

―――

無能力者の元スキルアウト。
替えの利く駒として暗部に回された『タダ』のチンピラ。

ある時は撒き餌に。
ある時は切り捨てられ。
ある時は上位組織の雑用に。
ある時は幹部達のストレスのはけ口に殺され。
そしてある時は利用価値無しとされ処分される。

人権など笑止千万。
名すら呼ばれぬモブ。

泥にまみれ道端で無様にのたれ死に、墓も作られずに死体は焼却処分される。

学園都市の『闇の底』に積もっていく、小さな小さな塵の粒子の一つ。

『カス』が死のうと、姿を消そうと誰も気にも留めない。

誰の記憶にも残らない。
誰も彼らを探そうとしない。
誰も彼らの死を嘆き悲しまない。

そんな最底辺のゴミクズ。
部屋の隅に溜まるようなクズボコリ。


彼もまた、その中の塵の一つであったはずだった。


浜面仕上は。

315 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:12:18.14 ID:rHThjHko

この少年。

アレイスターのプラン上では、彼は暗部組織同士の抗争の中で
既に死んでいなければならなかった。

なのに生きている。
それどころかレベル5に打ち勝ってまでだ。

これはアレイスターにとって異常事態であった。


格の違う悪魔達や天使達、魔界や天界の力に強く影響されている一部の人間を省き、
全ての人類の行動とそこから来る結果をアレイスターは予測できる。

いや、厳密に言うと『予測』ではなく、『知っている』のだ。

とある力を使うことで、今のアレイスターは短時間ながらも人間達の『未来を見る』事ができる。

限界が無いとは言えないが、
それでも学園都市内の人間達の未来を把握するのは簡単だ。

学園都市内の人間達の未来は完全に把握していたのだ。


だからこそ。


だからこそ、浜面仕上の生存が異常事態だったのだ。

316 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:25:32.84 ID:rHThjHko

『知っている未来』から、ずれ始める分岐点となった二ヵ月半前の事態。

その『後』に起こった事ならばまだアレイスターは納得がいく。
そうならば説明はいくらでもできる。

事実、二ヵ月半前を発端とする悪魔達との関わりで、
浜面仕上のように『レール』から脱線しだした者が続出した。

だが浜面仕上は、悪魔達の介入以前に脱線したのだ。
それも前触れ無く突然。

理由を把握していれば、一方通行や上条のように『進路』を修正していく事もできる。

だが理由がわからなければ―――。


果たしてプランを根底から破壊するような『爆弾』なのか、
それとも僅かなズレから生じた、小さな小さなタダのバグなのか。
それすらも判断がつかない。

いや、現状では何も影響の無い小さなバグとは言い切れない。
第23学区の一連の騒動だって、それの大元の原因は浜面仕上だ。

一体因果はどこから繋がっているのか、この男が作り出した小さな渦が、
巡り巡ってアラストルが原子崩しの手に渡る要因にもなっている。

悪魔サイドの関わりが源となっている二ヵ月半前の件とは違う。
第23学区からの一連の件は、浜面仕上から始まっている。

彼は大きな流れに飲み込まれたのではなく、
逆に自ら一つの流れを作り出したのだ。

アレイスターの方が浜面仕上が作り出した渦に巻き込まれた、と言っても過言では無い。


これぞ正に『イレギュラー』。

317 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:28:16.07 ID:rHThjHko

ある意味アレイスターは、浜面仕上という存在に恐怖したのだ。

この不穏な、ダンテ達とはまた別の意味で未知である存在に。


唯一の解決策は排除する事。

経緯は違えど、そしてタイミングは違えど、
アレイスターが見た未来と同じ『死』という結果を与えること。

だがイレギュラーはイレギュラー。

何を引き起こすか全くわからないこそイレギュラー。
何がどうなり、どんな事態になるかがわからないからこそイレギュラー。


結局、浜面仕上の殺害は失敗した。

それも最悪の形で。
浜面仕上の物語は、別の巨大な物語と合流してしまったのだ。

ダンテの物語に。

浜面仕上の協力者である、絹旗最愛に差し向けた部隊はダンテに一蹴され。
それを見てアリウスに協力を求めたがそれも失敗。

更にアリウスが召喚した悪魔達のせいで、麦野はダンテに救われ懐柔されて改心。


あげくに浜面仕上もダンテに救われた。


これでアレイスターは最早手が出せなくなってしまった。


『浜面仕上の命はダンテに救われた』


この正にイレギュラーすぎる結果のせいで。

318 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:31:47.12 ID:rHThjHko
ダンテが守った命である以上、そう易々と手を出すわけにもいかない。
今はアレイスターにとって非常にデリケートな時期。

ダンテを刺激してしまうような因子は、どれだけ小さくとも避けたかった。
その為、浜面仕上の殺害の件については完全に保留状態となったのだ。


そういう事もあり、
この数週間浜面達は束の間の平穏の中へ。




その浜面仕上は今、第五学区にあるとあるビルの階段を昇っていた。


浜面「……」

携帯でテレビ放送を見ながら。


浜面「…………」


案の定、放送では何が起きたかなどという詳細は全く伝えていない。

絹旗に『情報収集してきてください』言われ、
外に出て辺りを行きかう人々にも話を聞いたが、皆言っている事がバラバラだった。

タンクローリーが爆発しただのテロが起きただの、
高位の能力者同士の戦いだの、ローマ正教側が和平協定を破って攻撃してきただの。

どれもこれも確かな証拠無く、誰が見たという訳でも無く。
人伝いに回ってきた噂に尾ひれが付いたようなものだった。

319 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:36:17.10 ID:rHThjHko

このどれかに真実が紛れ込んでいる可能性もあるだろう。

だが浜面そうは思えなかった。
絹旗や滝壺もこれには同意していた。

少なくとも、この『程度』の騒動ではない と。

遂先程、突如感じた強烈な悪寒。
近くにいた絹旗や滝壺も感じた、あの意識がすり潰されてしまいそうな威圧感。

彼ら三人はこれには覚えがあった。

数週間前の、第23学区に纏わる一連の騒動で味わったのと同種の感覚だ。

絹旗曰く、『私はあの日、もっと強烈なのを味わって超トラウマですよ』、

滝壺曰く、『あの時とおなじ。信号が強すぎて何もみえなくなっちゃった』との事だ。


あの日味わった今まで経験したことの無い、
今までの暗部生活が生易しく感じてしまうような『本物の狂気と闇』。

それと今日のは同じだった。

あの日の後、レベル5第三位に紹介してもらったカエル顔の医者。
滝壺の容態を安定させてくれた、浜面にとっては救世主的な人物だ。
(実はこのビルのアジトも、彼が手配してくれた)

彼はこの異質すぎる『何か』について良く知っているらしかったが、
浜面達には何も教えてくれなかった。

『これ以上踏み込んじゃいけないよ。一度深く関ったら二度と戻れなくなるよ』と。

320 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:38:35.26 ID:rHThjHko

浜面「どおなってんだよ…………」


だが知るなと言われれば、より興味が沸いてしまうのも人間の性。
というか、ここまで派手にされれば注意を向けざるを得ない。

今回は第七学区の中央辺りが騒動の中心地らしかった。

その規模は凄まじく、10km以上は離れているここにも、
例の悪寒や大地震のような揺れが到達し、
遠くの雷鳴のような凄まじい爆音が大気を大きく震わせ。

ここからでもはっきりと見えた、空を照らす様々な異質な光達。


そしてその光の中に、ビルの七階の窓から浜面は見覚えのある閃光を目にした。


それは青白いビーム。


見えたのは一瞬。
だが決して見間違えることは無い。

浜面は瞬時に確信した。


あれは麦野の力だと。


この距離からもはっきり見えるくらい、その太さも長さも光の強さも、
今までとは比べ物にならないサイズだったが。

それも一本だけではなく数え切れないくらいに大量に。

321 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:40:51.18 ID:rHThjHko

浜面「……」

麦野沈利。
あの第23学区での再開のシーンが、浜面の中でフラッシュバックする。


『は〜まずらぁ』


地下駐機場の闇の中から、青白い閃光を迸らせながら現れた麦野。
残った左目を大きく見開き、口を大きく引き裂いて笑うあの姿。

浜面にとって、狂気・死そのものに見えたあの女。


彼女があの後、どうなったのかがかなり気になっていた。
死んだのか、それとも生きて再び己達の前に立ち塞がる時が来るのだろうか と。

だが先程見たとおり、麦野は生き延びていたらしかった。
それどころか、今まで見たこと無いくらいの強大な力を行使していたようだった。

これは黙ってはいられない。
あの女が生きているとなると、非常に危険だ。


浜面「……………………」


だがその一方で、浜面はなぜだか彼女が生きていた事に安堵をも感じていた。
なぜなのだろうか。

相手は自分達をただ殺すだけでなく、
最悪の苦痛を味合わせようとしていた天敵なはずなのに。

なぜ憎み切れないのか。
なぜ完全な敵意を向けられないのか。

浜面自身でさえ、なぜそう思うのかがわからなかった。

322 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:42:35.00 ID:rHThjHko

あの第23学区での彼女の雰囲気。

何となくだが、今思えばどことなく悲しげなオーラがあった。

自暴自棄のヤケクソになり、泣き喚きながらとにかく暴れているような。

こんな事を直で言ったら殺されるだろうが、
浜面は彼女に恐怖する一方でこういう妙な感情をも抱いていた。


一体なぜ麦野はああなってしまったのか。


どうしてこうなってしまったのか。


アイテムとして過した日々。
お互い達の間にはそれなりの距離があり、とてもじゃないが友情と呼べる暖かい繋がりはなかったものの、
それとはまた別の仲間意識、いわば『戦友』と言えるような、
殺伐としながらも決して弱くは無い繋がりを浜面はメンバー間に見ていた。

浜面は人の心理を読むのに長けている訳では無い。
むしろ鈍感かもしれない。

だがスキルアウト時代の経験から、そういう組織内での空気というのには敏感だ。

駒場達との繋がりも感じたし、
自分がリーダーとなった時に、他の仲間達が己をどんな目で見ているかもはっきりと感じていた。


メンバーが女性であるアイテムはそういう男社会とはま別だろうが、
浜面は何となくその空気も読んでいた。


滝壺、フレンダ、絹旗達の関係は当然、
口や態度では突き放すような麦野も、根にはその繋がりがあったのでは? と。

彼女もまた、あのファミレスでのくだらない時間潰しの日々が楽しかったのではないか? と。

323 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:45:12.38 ID:rHThjHko

浜面「(…………何考えてんだよ俺……)」

と、そこで浜面は溜息を混じらせて小さく頭を振った。

そう、今更麦野の事を考えたって無駄だ。
何かが変わる訳でもない。

例えそういう繋がりを麦野が持っていたとしても、フレンダを手にかけた時点で彼女は一線を越えた。
これもまた、こういう世界で生きてきた浜面だからこそわかる。

何かとんでもない事が無い限り、こういう人物はとことん暴虐に手を染め決して戻らない と。
己の立ち位置にさえ気付かずに、とことん底に堕ちていく と。


何かこう、規格外の『大きさ』の救いの手が無い限り決して這い上がれないと。



浜面「…………」

そもそも浜面は、こう麦野の事を気にかけている余裕すらないのだ。
彼は今、どうしても守らなければならない人物、滝壺理后がいる。


それだけで一杯一杯だ。


滝壺が全てなのだ。

絹旗と共に彼女を守る。


それが今の浜面の『全世界』だ。

324 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:47:00.43 ID:rHThjHko

そう、あれやこれや考えながら、
浜面は階段を上がりそして七階の廊下へと。


浜面「―――!!!!!!!!!!!!」


と、その廊下の先を見た時だった。

浜面の目に入る、黒服の屈強な男達。
その者達は滝壺と絹旗がいる部屋のドアの前に立っていた。


経験上、ああいう連中はほぼ100%上層部の手の者。


浜面「(―――クッソッッッッ!!!!!!!!!!!!)」


最悪の事態が浜面の脳裏に浮かぶ。
手に持っていた携帯を放り投げ、即座に腰に差し込まれている拳銃に手を伸ばし―――。


―――そうとした瞬間。


真後ろから別の男に一瞬で組み伏せられてしまった。

325 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:49:47.15 ID:rHThjHko

数々の修羅場を越え、そして腕っ節にもそれなりの自信がある浜面だが所詮はチンピラ上がり。

一回りも二回りも体が大きい、正規の訓練を受けた屈強なプロには到底敵わない。
浜面は腕を捻り上げられ、足を掃われてあっさり床にうつ伏せに叩きつけられる。


浜面「―――がぁっっっ!!!!!!!」


「落ち着け」

黒服の男からの低い声。
だが熱くなった浜面は聞く耳を持たず、無駄にもがいては廊下の先を見据えて叫ぶ。


浜面「滝壺ぉぉぉぉぉぉッッッッ!!!!!!!!!!絹旗ぁぁぁぁああああ!!!!!!」


とその時。

廊下の先の扉が開き。


絹旗「超うるさいです。少しは空気を読んでください。相変わらず猿並に頭の中まで超筋肉状態ですね浜面は」

何事もなかったかのように姿を現した絹旗。

そしてその背後からヒョコッと顔だけを出す。


滝壺「はまづら、あわてないで。だいじょうぶ」


滝壺。

326 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:52:19.39 ID:rHThjHko

浜面「―――な…………??」


二人の様子を見ると、拘束されたどころか特に何もされていないように見える。
てっきり襲撃されたと思っていた為に拍子抜け。

そんな呆然としている浜面を見て、
押さえつけていた黒服の男がゆっくりと彼を解放した。


浜面「何なんだよ……?何が……?」

強く捻られた腕を軽く摩りながら、眉を顰めて立ち上がる浜面。


絹旗「話は後です。とりあえず超早く入って(ry」


「いや、君達からゆっくり話してくれ」

とその時。

絹旗の後ろ、部屋から出てきたこれまた屈強な男。


「我々はこの辺でお暇させてもらうよ」

立ち振る舞いから、ここにいる黒服連中のトップに見える。

327 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:54:04.19 ID:rHThjHko

絹旗「……」

滝壺「……」

それに対し何も言わずに鋭い視線を返す絹旗と、
相変わらずボーっとしている滝壺。

浜面「……?」

とりあえず『敵』というわけではなさそうだが、
滝壺はともかく絹旗の様子を見る限りでは友好的でもないらしい。

その頭であろう男はあからさまな作り笑いを浮かべながら、そのまま浜面の方へと廊下を進んできた。
それに他の男達も続く。

「忘れないでくれ。『彼』もだからな」

そして男は浜面とすれ違うかという時。
彼の肩へ軽く手を乗せ、絹旗の方へ半身振り返って。


「『三人』で来い。『全員』でだ」

「明日の午前11時だ。遅れるな」

それだけ言うと再び視線を前に戻し、浜面の肩から手を離すと階段の方へと消えていった。
他の男達もそれに続いていった。


浜面「…………おい……何なんだよ……?」

状況が掴めず、腑抜けた声色で口を開く浜面。


絹旗「…………仕事ですよ。『最後』の『引退試合』です」


浜面「し、仕事?……最後のって…………はぁ?」

328 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 00:55:21.52 ID:rHThjHko

絹旗「…………ッッッだあ゛ぁ゛ー!!!超ヤバそうです!!!!これは超超ヤバそうな気がします!!!!」

絹旗「ぎーぃぃぃぃぃ超ォォァァァァアアア!!!!!!!」

そんな浜面の返しなど聞こえていないかのように、突如うなりイラつきながら声を張り上げる絹旗。
小さい両手で、これまた小さい自分の頭を掻き毟る。

滝壺「でも、しょうがないよ。こればっかりはやらなきゃ」

絹旗「確かに!!!確かに超そうですがッッッ!!!!!って何でそう超落ち着いてるんですか滝壺さんは!!!!!」

滝壺「だいじょうぶ。皆で力を合わせればきっとうまくいくよ」

絹旗「こういう『最後』の大仕事に限って超最悪な事になるんです!!!!」

絹旗「大体にして、私達みたいなはぐれ者まで召集する必要がある程なんて、超超超超ォ〜ヤッッバイ事に決まってます!!!」

絹旗「条件も条件で!!!!!どうせ超死ぬから大盤振る舞いしとけって感じじゃないですか!!!」

絹旗「死亡フラグが超ビンビンですよ!!!!!!万年発情期の浜面よりも超ギンギンにおッ勃ッてますよコレは!!!!!!」

滝壺「??……きぬはた、何言ってるかちょっとわからないよ?」

浜面「………………なあ……」

絹旗「浜面!!!!!!!!」

浜面「お、おう!?」

絹旗「いつまで超アホ面してんですか!?さっさと入ってください!!!!」

絹旗「滝壺さんも!!!!」


滝壺「きぬはた、おちついて。深呼吸(ry」


絹旗「だぁぁッッッッきぁああああああ!!!!!!!!!!!」


滝壺「う、うん。わかった」

329 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 01:00:22.99 ID:rHThjHko
―――

とある深い森の中にある洋館。


ベヨネッタ「―――Hahahahahahahahahahahahahahahahahahahaha!!!!!!!!!」


ソファーに寝そべり、テレビを見て馬鹿笑いを上げているベヨネッタ。

ベロンベロンに酔っ払い赤くなっている頬。
全身で爆笑して身をよじる為、着ていたTシャツが捲り上がり、
パンツとしなやかな腹部が露になり、乳房の下方が見え隠れしていた。

更に事あるごとに、手に持っているビール缶から中の液体が零れ落ちる。
周囲には山積みになった空のビール缶。


ジャンヌ「……………………」

ジャンヌはそんな相棒の有様を冷たい視線で眺めていた。
部屋の片隅にある椅子に軽く腰かけ、優雅に足を組みながら。


ベヨネッタが見ているもの。
それは映画のDVD。

どこから持ってきたのか、いつのまにかかなりの本数がこのアジトに集められていた。

テレビの下に散乱しているパッケージ。
そのタイトルは、『オー○ティン=パワーズ』だの『ほぼスリー○ンドレッド』だの『ホッ○ショット』だの。


ジャンヌ「………………………………………………………………」

330 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 01:03:02.59 ID:rHThjHko

ベヨネッタ「んふ、んふふ、あははははははははははははははははは!!!!!!!」


ジャンヌ「…………」

確かに、アンブラの魔女は色々とトンでいる。
それは否定しない。


超近距離下での肉弾戦を好む、猛々しいアマゾネス的気質。
『魔女』という、色欲も重んじている淫魔的気質。
禁制などクソ喰らえとそれ以外の欲も否定しない、天界から言わせたら罰当たりな気質。

これらが組み合わさり、アンブラの魔女は一風変わった文化と気質を持つ集団となっている。

端から見ればハイテンションクレイジー集団に見えるだろう。


ベヨネッタ「ひっひ、へぁあははははははははははははは!!!!ちょっと!!!!こ〜れへあははっははは!!!!」


ジャンヌ「…………」

だが、そうだからといっていつもいつもクレイジーではない。
アンブラの魔女にも法と礼がある。

いや、むしろその部分を特に重んじている。

アンブラの魔女たる者、高潔にそして美しく、『品』の高き色魔であるべきである と。


ジャンヌもヒートすればぶっ飛ぶ事もある。
だが決して礼と品を保った威厳のある姿勢を崩さない。

331 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 01:05:22.74 ID:rHThjHko

ジャンヌ「…………」

ベヨネッタもベヨネッタで普段はそうだ。
バカな行動に見えるモノも、必ず一定の品と風格を保っている。
色情的でありながらも下品ではないのだ。


ベヨネッタ「あははははっはははっっっっ……!!!……げぇっふ…………ははははっははは!!!!!!」


ジャンヌ「…………」

だが今はどうだ。

馬鹿笑いし衣服をはだけさせ、
ベロンベロンに酔っ払ってビチャビチャとビールを零しているこの姿。

どこに品がある?

どこに魔女の高潔さがある?

ジャンヌ「…………」

この姿を見たら、偉大なる祖先達は一体何を思うのだろうか。
これが一介の魔女であるのならばまだ良い。


だがベヨネッタは特別だ。

『世界の目』を持ち、そしてジュベレウスをも倒した歴代最強の魔女だ。

アンブラ史上最高の戦士だ。

そんなアンブラの究極の境地である存在が、こんな有様とは。

332 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 01:07:00.95 ID:rHThjHko


だが。


ジャンヌ「…………」

これもまたいいのかもしれない。


確かに、アンブラの基準に沿っても『普通』とは言いがたいが、
普通じゃないからこそ、ベヨネッタは今まで誰も出来なかったことを成し遂げ、
そして前人未到の境地へと到達したのだ。


そして何よりも。

ジャンヌはこのベヨネッタの一面を否定するつもりはない。

これもまた大事な友の人柄の一面だ。

ジャンヌの大切な宝の一つだ。


ジャンヌ「…………」

と、しばらくすると。
いつの間にかベヨネッタの笑い声は止んでいた。


ソファーの上から聞こえてくる小さな寝息。

333 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/27(金) 01:09:30.73 ID:rHThjHko

ジャンヌ「(……まるで子供だな)」

小さく笑いながらジャンヌはゆっくりと立ち上がると、ベヨネッタの傍へと向かった。

ベヨネッタは見ていたその姿勢のまま、口を小さく開けたままスースーと寝息を立てていた。
メガネが微妙にズレているのはご愛嬌だ。

ジャンヌはそのベヨネッタの手からビールを静かに取り、そしてはだけている彼女のTシャツを元に戻す。

とその時。

ベヨネッタ「Hummmmm............................」

寝ぼけているのか、薄目を開けていきなり唸り始めたベヨネッタ。
そしてふわりと手を伸ばし。

ベヨネッタ「.......Yeah.......」

ジャンヌの胸を鷲掴みにした。

ジャンヌ「…………………………………………」


ベヨネッタ「....Yes..........middle size......Wow...........Yeeaaha-ha-ha...........」.


ジャンヌ「―――HA!!!!!!!!!」

次の瞬間、ベヨネッタの顔面に叩き降ろされた拳。
メガネが景気良く割れる音が聞こえ、
いや、ソファーが潰れ下の床板が砕ける音に、その小さな破砕音はかき消された。


ジャンヌ「黙って寝てなホルスタイン野郎」


そしてジャンヌは表情を一切変えずに口を開いた。

上半身が床下までめり込み、
足が床から生えているように見える体勢のベヨネッタに。


343 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:11:56.82 ID:6uASVZQo
―――

とある病室。

トリッシュ「へぇ…………なるほどね」

頭の中を整理しつつ小さく呟く、シーツに包まりベッドに座っているトリッシュ。
首から上だけを出しており、全身は完全に白いシーツで覆われている。

彼女の隣に横たわっているキリエは以前意識を失ったまま。
まあ単に気を失っているだけであり、明朝にもなれば目を覚ますのはほぼ確実だろう。


ダンテ「まだわかんねえ所が結構あるがな」

そして部屋の隅にあるソファーに寝そべりながら、
軽く手を挙げてトリッシュに言葉を返すダンテ。

アレイスターからの証言により、二人共一応の見解は纏め上げた。
とりあえず、バージルらはセフィロトの樹を破壊しようとしているらしい と。

だが『とりあえず』だ。

まだ謎は多い。
天界の軍勢を誘き出すのはわかるが、アリウスの方面はなぜ支援しているのか。
何となく思いつく事はあるものの、具体的な答えが未だに出てこない。

セフィロトの樹を破壊するにしても、具体的な方法は見当もつかない。

しかもそれはあくまで『過程』であり、真の目的はその向こうにあるようにも思える。

344 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:16:34.30 ID:6uASVZQo

ダンテ「……後で事務所に戻る。そのついでにロダンの所にも行って来る」

ダンテ「アイツなら色々知ってるだろうからな」

トリッシュ「よろしく。あ、あと私の銃もね」


シーツの下で突き出された左手により、ピンと張る純白の柔らかい布地。
その『頂点』は、ベッドの隅に置いてある二丁の大きな拳銃を指していた。

ルーチェ&オンブラだ。


右手がバージルに切り落とされた際、その莫大な力が流れ込んだのか、
その手に持っていた方の『内部構造』が破壊されていたのだ。

自動装填の術式はもちろん、
トリッシュが自作し刻み込んだ様々なシステムが悉く崩壊したのだ。


一応今の状態でも発砲はできるが、
悪魔的な力が全て削ぎ落とされている以上、最早『タダの大きめの拳銃』だ。


時間をかければトリッシュでも修復できるが、ロダンに頼んだ方がかなり早い。

二丁共持って行けば、無傷な方の一丁を参考にして
一日二日程度で完全修復してくれるだろう。

345 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:18:56.16 ID:6uASVZQo

ダンテ「おー」

トリッシュ「まあでも、これが直ったとしても私が治らなきゃほとんど意味が無いけど」

ダンテ「ハッハ、お前は『一回休み』だ」

ダンテ「黙ってここで寝てな」


         ソ イ ツ ラ
ダンテ「ルーチェ&オンブラは俺が可愛がってやるさ」

トリッシュ「あら、それは嬉しいけど。どうやって『四丁』使うのよ?」


ダンテ「…………さぁな。足にでもつけっか?」


トリッシュ「ふふ、いいかも知れないわねソレ」


ダンテ「(…………ギルガメスに同化させりゃいけるかもな)」


トリッシュ「……ってちょっと。本気で考えてんの?」

ダンテ「あ?面白そうじゃねえか」


トリッシュ「(まーた変な遊び方思いついたみたいね)」

346 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:20:58.53 ID:6uASVZQo

ダンテ「なあ、面白そうだと思わねえか?」

そうダンテは寝そべりながら頭だけを動かし、



麦野「…………っ!」



部屋の隅の椅子に座っている麦野へと言葉を飛ばした。
ここだけ日本語で。

突如話を振られ、えっとでも言いたげに目を少し見開く麦野。
というか、それ以前の会話が早口の砕けた英語だった為、
ほとんど聞き取れなかった。

銃を持って行ってどうのこうのっと、それぐらいしかわからない。

麦野「あー…………私は……良いと思う……かな?」

とりあえず良く分からないが、
ダンテに肯定的に答える。


それを聞きダンテはニヤリと笑い、
トリッシュは小さく頭を振りながら、呆れたように溜息。

麦野「…………あれ…………(ちょっと、私何かミスした?言葉の選択誤った?)」

347 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:23:43.42 ID:6uASVZQo

トリッシュ「あーところでアナタ。アラストルと結構仲良くなったみたいね?」

麦野「っ……!!!」

トリッシュ「さっき廊下で色々話し込んでたみたいだけど」

麦野「あーっと…………ま、まあ……(おい、なんか喋りなさいよ。聞こえてるんでしょ?)」

苦笑いしながら、頭の中でアラストルへ向けて言葉を放つ麦野。

アラストル『…………』

麦野「(何黙ってんだよ)」

アラストル『(俺はマスターの前ではヘラヘラと余計な事は喋らない。臣下たる者、寡黙であるべきなのさ)』

麦野「(寡黙だぁ?テメェこの野郎………………)」


トリッシュ「…………アラストル。どうなの?」

アラストル『問題はありません。我が主の命を忠実に果たしております』

アラストル『マスター代理の為、命を賭して戦い支援していくつもりです』

トリッシュ「あ、そう」

麦野「(………………………………言った傍からペッラペラかよクソッタレ)」

アラストル『(なあに、場合によりけり、だ。優秀な臣下たる者、場の空気を読み柔軟に(ry)』

麦野「(うっせえ)」

348 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:25:54.59 ID:6uASVZQo

トリッシュ「だってさ〜」

トリッシュが視線をダンテの方に戻し、続けて彼の方へと言葉を飛ばした。
それに対し、ダンテは特に興味無さそうに手を軽く振った。

トリッシュ「あ、そうそう、アナタさ」

そこでまたトリッシュは麦野の方へと視線を向け。


トリッシュ「少し手入れた方いいわね」


麦野「…………………………………へ?」


トリッシュ「カッコ」


麦野「……かっこ?」


トリッシュ「服よ服。もっとちゃんとしなきゃ。女の子なんだから」

349 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:28:41.19 ID:6uASVZQo
麦野「服……」

トリッシュ「今日着てたの破れちゃったみたいだけど、その前からボロボロだったわよね」

麦野「…………」

そう、バージルに切り裂かれる前から既に服はボロボロだった。
更に季節はずれの秋物で、そしてあちこちが破れススだらけ。

以前は身なりにかなり気を使っていたが、
左手と右目を失って以降全くと言って良い程に気にしなくなってしまった。

いくら気を使ったところで、こんな化物染みた姿じゃ意味が無い、と。

右目は無くなり、眼窩から光が漏れ出し周囲はケロイド状。
こんな顔じゃ、例え左手が残っていたとしても化物だ。

今までかなり気にしていたその反動か、
この自慢でもあった顔が、悲惨な状態になった事でプッツリと関心を失ってしまったのだ。

今はただ、『着れればいい』という考えしかなかった。


アラストル『(そうだな。この俺を持つ以上、お前には身なりを整えてもらうぞ)』

アラストル『(よしてくれよ?仮にも「主」がみすぼらしい姿じゃ、俺の名にも傷が付く)』

麦野「(うるせーっつってんだよ黙って『寡黙』になってろやボケ)」

麦野「今更……どんなカッコしたって同じよ。こんなナリじゃ」

内心ではアラストルにツバを吐き、
外面では小さく鼻で笑いながら、己を卑下して吐き捨てる麦野。


トリッシュ「そう?そう悪くないと私は思うけど」


だがトリッシュはそんな麦野の表情など一切気にすることも無く、
相変わらず淡々と言葉を続けた。

350 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:30:27.18 ID:6uASVZQo


麦野「……ハッ……どこがよ……」

トリッシュ「ダンテだってアナタの事ホットだって言ってたわよ。ねえ」

その言葉に合わせダンテが軽く手を挙げ。

ダンテ「スカーフェイスがクールになんのは男だけとは限らねえってな」

トリッシュ「傷が付いたのなら、それをカバーできるカッコにすればいいのよ」

麦野「………………??」

トリッシュ「さっき見た感じだと、今までのアナタの服装の系統じゃカバーするの難しいわね」

そう独り言のように呟きながら、トリッシュは包まっているシーツの下から左手を出し、
その指を軽く鳴らした。

すると小さな金の電撃が一瞬迸りその閃光が止むと、
どこから現れたのか小さな紙がトリッシュの前に浮いていた。

更に、これまたいつのまにか左手には万年筆。


トリッシュ「あー…………っと」

そして麦野の方をチラチラ見ながら、
なにやらその宙に浮いている紙に書き込んでいった。

352 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:32:14.98 ID:6uASVZQo

麦野「………………何してるのよ?」

トリッシュ「アナタのサイズ見てるの」

麦野「はぁ?」

トリッシュ「……85……。股下は…………」

怪訝な表情の麦野を尻目に、
トリッシュはブツブツ呟きながら手を動かしていく。

トリッシュ「ダンテ」

ダンテ「あ?」

トリッシュ「ダークグレーでいいと思う?」

ダンテ「知るか。俺に聞くんじゃねえ」

麦野「ちょっと……何の話してるのよ?」

トリッシュ「あ、ちょっといい?」

麦野「何?」

トリッシュ「アナタのその光、最高温度はどれくらい?」

麦野「…………最大出力で射出すれば……多分4万度とかまではいくかも」

トリッシュ「……射出じゃなくて……じゃあ今の『右目』内の温度は?」

麦野「?わかんないけどそんなに高くは無いと思うわよ」

麦野「……あんまり高かったら私が焼けるし」

353 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:36:41.78 ID:6uASVZQo

トリッシュ「そう…………ま、少し余裕あった方がいいわね……」

ダンテ「あ〜、タングステンの合金とかでいいんじゃねえの?目からビーム出さなきゃ充分だと思うが」

トリッシュ「ええ。それにこの街にはもっとすごい耐熱材あると思うわよ多分」

ダンテ「まあな。つーか最初からアラストルに強化させればいいじゃねえか」

トリッシュ「そうね。それで充分ね」


麦野「?????????」


トリッシュ「……こんな所ね」

と、一通りの記述を終えたのか、トリッシュは紙を軽く指に挟み。

トリッシュ「ルシア」

窓枠に座っていた少女の名を呼びながら、ピッと軽く上げた。
それとほぼ同時に、即座にトリッシュの傍へと駆け寄るルシア。

トリッシュ「これ、ある人に届けてきて欲しいんだけど?」

ルシア「?」

トリッシュ「さっきダンテが言ったところ、『匂い』で位置はわかるわよね?」

ルシア「は、はい」

トリッシュ「そこのビルの中に、逆さまに水槽の中に入ってる変な人いるから、そいつにコレ渡してきて」

354 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:41:11.85 ID:6uASVZQo

ルシア「?…………はい」

トリッシュの説明に首を傾げながらも、紙を手にするルシア。
まあ、実際に行って見ればトリッシュの言葉通りだという事がわかるのだが。

それはそれでまたルシアの純粋な疑問となるだろう。

あの人はなんで服を着たまま、逆さまにお風呂に入っているのだろう?と。


ダンテ「あー待て。ワインとピザはまだかって伝えてくんねえか?」

ルシア「あ、はい」

小さく頷くと、ルシアは即座に円に沈んでいった。



麦野「……ちょ、ちょっと……一体何よ?」


トリッシュ「ん?ああ、近い内に大仕事があるんでしょ?デュマーリ島で」


麦野「何でそれを……!?」


トリッシュ「それで、よ。大仕事だからこそビシッと決めなさい」


麦野「……もしかして…………私に服をって事?」

355 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/28(土) 23:41:31.78 ID:BXQp3WI0
>逆さまに水槽の中に入ってる変な人

…(;´Д`)実もフタもねぇなwwwwwwwwww

356 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:42:44.21 ID:6uASVZQo

トリッシュ「スーツとコートと……あといくつか小物ね。ホルダーとか。アラストルだって四六時中手に持ってる訳にはいかないでしょ?」

トリッシュ「その右目だって丸出しにしとく訳にもいかないし」

麦野「んな…………」

トリッシュ「文句言わないで受け取りなさい」

トリッシュ「これはアラストルの士気にも影響する事でもあるし」

アラストル『(正にその通り。みすぼらしい「使い手」など願い下げだ)』

アラストル『(「力と容姿」、そして立場に「見合った」服装をしてもらわなきゃな。「麦野沈利」よ)』

麦野「……」

トリッシュ「あ、でも着こなしは任せるわよ。アナタ結構センス良さそうだし」

トリッシュ「多分、明日の朝とかにでもアナタのところに届くと思うから」


麦野「……わかった。じゃあ有難くもらうわ」



トリッシュ「気張りなさい。そして堂々と。アナタは誰にも負けないわよ」



麦野「…………………………あ……ありがと」


357 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:45:58.73 ID:6uASVZQo
―――

少女は長い長い、そして奇妙な夢を見ていた。

はっきりとした映像ではない。
おぼろげな、断片的な光景。

見た次の瞬間、何を見たかを忘れてしまう。
いや、走馬灯のように次々と流れていくせいで、頭の処理が追いつかないのかもしれない。

だが何を見たのかを忘れても、何を思ったのかははっきりと胸の中に残っていく。


妙に懐かしい、遠い昔のような感覚。

心が温まる穏やかな感覚。

気高き戦士達。尊敬する『英雄』。

そして『家族』がいたあの遠い日々。


それは彼女の魂の中にあった記憶の断片。
先程『拘束』が外れた際に漏れ出した、彼女自身の『過去の物語』の一部。


彼女が見てきた、そして経験してきた『歴史』。


彼女はとある理由で、脳内のエピソード記憶は一年おきに完全削除されてきた。

だが、魂に刻まれていく記憶は決して消えない。
魂が経験してきた歴史は決して消えない。

それは彼女自身のモノ。
彼女だけの、彼女たる存在を示す証。

358 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:48:18.24 ID:6uASVZQo
その断片的な淡い物語。
穏やかな日々は突如終焉を迎える。

それは彼女がその日の勤めを追え、
近衛にいる『――――』の帰りを待ちながら自宅の庭の椅子に座り、日向ぼっこをしていた時だった。

突如脳内に響く、緊急の通信魔術。

そしてその瞬間、周囲の状況は一変した。


「―――うう…………」

突如現れた、空を覆い尽くす『白金の軍勢』。
凄まじい地響き。
飛び交う怒号。
響き渡る掛け声。

耳を劈く様々な破砕音。
飛び散る瓦礫と倒壊していく建物。

辺りを照らす赤や青、濃い紫の光。
それを一瞬でかき消していく白金の閃光。

そして斃れてく気高き戦士達。


少女は走った。
恐怖を感じ。

この空の下で今も激闘を繰り広げているであろう『――――』を探すべく。

古いホールを抜け。

崩れ落ちた噴水のある、
大量の天使の死骸と、多勢に無勢で斃れた戦士たちの亡骸が散らばっている庭を横断し。

列柱廊を駆け抜け。

そして少女は遂に探し人を見つけた。
『――――』は血にまみれ、傷を負いながらも生きていた。


青い髪の最愛の―――。

359 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:51:21.64 ID:6uASVZQo

『夢を見ている側の彼女』は、その人物の名が思い出せなかった。
顔はわかる。
いつも傍にいたのもわかる。

だが、なぜだが思い出せなかった。



その相手は彼女を見た瞬間、顔色を変えて駆け寄ってくる。

彼女も走り出―――。


―――そうとした瞬間。



「―――…………あ……………………」



胸からいきなり『生えてきた』、豪華な装飾の白金の槍。
背後から放たれた槍は、彼女の胸をいとも簡単に貫通していた。

次の瞬間、『――――』が上げるとてつもない咆哮。
いや、それは正に絶叫だった。
今まで彼女が聞いた事の無い程の悲痛な叫びだった。

そして放たれる魔弾と、青髪のウィケッドウィーブ。

彼女はゆっくりと地面に倒れ意識が薄れる中、
鬼神の如く奮戦する『――――』をぼんやりと眺め。


そこで『夢』は途絶える。

360 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:53:11.41 ID:6uASVZQo


ゆっくりと暗転したのではない。

真っ暗になった訳でもない。
ノイズ・砂嵐のようなモノに夢が消されたのだ。

まるで何者かによって『塗り潰された』かのように。


そして『夢を見ていた側の彼女』は、具体的に何を見ていたのかを再び忘れる。

残ったのは『心の震え』のみ。


そこからまた夢は飛ぶ。

今度はうって変わって近代的な風景。

さっきの夢とは、何だか己の感覚がどこと無く違う。
確かに同一人物なのだが。
別人のような気もする。

例えるならば、先程の夢が『前世』といったところか。


そしてそこから、また短くも穏やかな日々が始まった。

361 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:54:17.70 ID:6uASVZQo
彼女の『護衛』である、『――――』・『――』と共に過す日々。

『護衛』と言っても役職上のモノだけではなく、三人の中にはもっと強い繋がりが生まれていった。
まるで家族、兄弟のような。

だがそれも突如終焉を迎えた。


『最後の日』。


怯える彼女に対し、『――――』・『――』は言った。

「いつまでも友達だから。ずっと。ずっと」と。

それに対し、彼女は泣きじゃくりながらこう言葉を返した。

「絶対に忘れない。絶対に忘れないから」 と。


そしてこの『夢』も終わる。
見終わった瞬間、彼女は何を見たのかを忘れた。

何かに遮られ『記憶』できない。

だが心には響く。
揺れ動く魂は止まらない。


そして再び。


別の夢が始まる。


いや、ここからは『思い出』だ。

ここからは彼女の『頭』の中にも記録されている。
そして何よりも。

彼女の魂に、今までで最も深く刻み込まれた記憶だ。

もし彼女が今脳内をリセットされたとしても、
ここからの物語は決して忘れないだろう。

決して。

362 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:56:43.62 ID:6uASVZQo
彼女の思い出。

誰に出会い、そして何を見て、彼女がどうなったのか。
説明は不要だろう。


彼女の為に、そして彼女の為だけではなく、出会う人全ての為に戦おうとする少年。
決して諦めず、決して立ち止まらず、ただ人の為に突き進んでいく少年。


彼女はそんな少年の姿を傍で見続けてきた。
そして何度も救われ、いつもいつも守られてきた。

そんな日々の中、彼女の中で今までとは違う妙な感情が生まれた。
彼女自身は気付いていなかったが。

当初は『守られている恩』、『保護に対する』感情と区別が付かなかったのだ。
そもそも、そういう自己分析なども彼女はしない。

だが膨れ上がっていくその感情は、
いつしか無視出来ないほどにまで巨大化していった。


二ヵ月半前、その強烈な『胸の痛み』をようやく彼女は認識し。

デパート事件までの日々の中でその正体に思い悩み。

デパート事件の後、正体がわからぬままも彼女は惚けて。


そして今日。


彼に抱かれ、彼の顔を見た瞬間彼女は遂に知る。

遂に完全に認識する。

己のこの感情が何なのかを。



「―――とうま―――」

363 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/28(土) 23:59:28.42 ID:6uASVZQo

彼女は聞いていた。
先程の戦いの中の上条とステイルの会話を。

それを聞き、すぐにピンと来た。

思えば、おかしなことは多々あった。
出会った頃の話をすると彼はなぜだか相槌だけになり、話を広げようとはしなかったのだ。

上条は隠していたのだ。

記憶を失った事を。


だが、彼女はそれを確信しても何も思わなかった。

いや何も思わなかった訳では無い。
怒りも失望も、裏切られたというそういう負の念は何も思わなかったのだ。

出会った頃の、そこまでお互いを知っていなかった頃は怒ったかも知れなかったが、
強い絆で結ばれている今はそんな事など思わなかった。


ただ嬉しかった。


そして愛おしかった。


早く彼に触れたくなった。


再び彼の笑顔が見たくなった。

364 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/29(日) 00:03:19.68 ID:RJQ8j0go
「…………とうま」

彼女は最早立ち止まれなくなった。
この感情に全てを委ねたくなった。

これは拘束が外れ、『生来の気質』が一部沸き出したせいでもある。

彼女の脈々と受け継がれてきた『血』に刻まれた『本能』だ。
この感情を知り、そして相手を見定めてしまったこの『魂』は止まらない。

この一年間の『彼女』も。
そして深淵に眠っていた、別の『彼女自身』も。

『二人』とも、上条当麻という少年に心を囚われてしまった。


―――『恋する魔女』は強い。


―――『恋する魔女』の気持ちは永遠のモノ。


魔女が本当に恋するという事は、ある意味『呪い』でもある。

何としてでも成就させるか、それとも死か。
それだけしかこの『呪い』から脱する術は無い。


そしてそのような『恋』は、必ず巨大な『うねり』を作り出す。


宿敵であるルーベンの賢者の長に恋し、
後にアンブラの運命を変える子を産み落とした、あの黒髪の魔女のように。

魔女王アイゼンの孫であり後に長の座に付くと言われていながらも、
愛する者の為に都から離れ、全ての力を捨て一介の人間の身に落ちてまで


『最強の魔剣士』を追い、種族の壁を越えて結ばれたあの金髪の魔女のように。

365 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/29(日) 00:03:55.66 ID:RJQ8j0go

「…………う…………ん……」

そして少女はベッドの上で目を覚ます。
手から伝わってくる、温もりを感じながら。

「…………」

寝ぼけ眼のまま、ぼんやりとその手の先を見ると。
上条が彼女の手を固く握り締めたまま、ベッドに顔を突っ伏して寝息を立てていた。

「…………えへへ…………とうま〜♪……」

少女は穏やかに笑い、今の歓びに浸る。

「…………」

話したい事はたくさんある。
伝えたい事もたくさんある。
先程見た、『忘れてしまった夢』もかなり気になる。

だが今はこのまま、穏やかな温もりの中に浸っててもいいだろう。
この気持ちをもっとかみ締め、そして包まれたい。

彼女はもぞもぞと上条を起こさぬように体の位置を少し変え。

そして彼の頭に己の頭を寄り合わせるようにして、
手を優しくそれでいながら強く握り締めながら、ゆっくりと目を閉じた。


彼の空気と。
彼の体温と。
彼の存在を全身で感じながら。


インデックスは再びまどろみの中に落ちていった。


367 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 00:06:15.93 ID:zJf9L5Ao
イチャイチャしやがって

368 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/29(日) 00:06:41.56 ID:JVlZcRY0
胸キュン乙!!!!

369 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 00:08:48.22 ID:sbP6TkAO
まあ俺はもう麦のんとアラストルしか見えないけどな



posted by JOY at 15:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 禁書クロスSS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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