2010年09月13日

八九寺「あなたのことがきらいです」一方通行「はァ?」

18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/27(火) 02:20:29.77 ID:dsjgltQo
一方通行「おイ」

八九寺「話しかけないでください、あなたのことがきらいです」

一方通行「はァ?」

八九寺「聞こえなかったのですか? ならもう一度言います。あなたのことがきらいです」

一方通行「いや、意味わかンねェし。案内板見てェからそこ退けよ」

八九寺「ああ、そういうことだったのですね。なら早く言ってください紛らわしい
    てっきり私は、あなたがロリータにコンプレックスを抱いてるお人で、私に欲情して声をかけたのかと」

一方通行「『おイ』の一言だけで性犯罪者ですかァ!? いくらなンでも物騒すぎンだろうがァ!」

八九寺「通学中の小学生に声をかけた近所のおじちゃんでさえ立派な犯罪者になる世の中ですよ?
    もやしっ子の癖に異様に目つきの悪い天性のヒキオタニートが、私のような可憐でキューティクルな幼女に声をかける。
    それを世間は極悪犯罪と呼ぶのです。良かったじゃないですか朝刊一面写真付きで載りますよ?」

一方通行「俺は引きこもってもなけりゃ、オタクでもねェ! ましてやニートなンかじゃねェよォ! 体の色素が薄いのは能力の弊害だ!
     それと、キューティクルは髪の表皮の組織の名前だ! テメェは全身キューティクルで覆われてンのかァ!?」

八九寺「あら、それは失礼しました。しかし能力ときましたか、なるほどなるほど……学園都市してますね」

一方通行「あァ? 『学園都市してますね』っておまえ、"外"の人間か?」

八九寺「うーむ……外といえば外ですが、中といえば中のような気がします」

19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/27(火) 02:23:41.87 ID:dsjgltQo

一方通行「めンどくせェ喋り方だなァくそ。ハァ、もういいから退けよ。付き合ってらンねェ」

八九寺「な! このタイミングで別れ話ですか!? ひどい! 
    あんなに濃密な言葉を交わしたというのに! こんな簡単に捨てるなんて!」

一方通行「出会って一分で惚れた腫れたの話もねェだろうがよォ!」

八九寺「でも確か、あなたはロリータにコンプr」

一方通行「違ェつってンだろうがァ!! ついさっきそれ否定しましたァ! ダンゴムシ以下の記憶力しかねェのかテメェはよォ!
     つーか、いい加減そこ退きやがれ!」

八九寺「あーはいはい、わっかりましたよ。うるさいウサギさんですねぇ」

一方通行「………………」

八九寺「? ど、どうしました、ウサギさん?」

一方通行「……おまえがどこの誰様なのか知らねェが……よォォおっぽォど、愉快にぶちまけられたいらしいなァ!!」

八九寺「うにゃっ!? お、下ろしてください! バックをつかんで振り回すのはやめて下さぃぃいい!!」

……
…………
………………

一応時系列的には原作前のつもりなんだけど、一方通行ハッチャケすぎだよね。なんかとりあえずゴメン

20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/27(火) 02:33:11.63 ID:CtdbP9Ao
「構わん、続けろ」

21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/27(火) 03:02:00.44 ID:dsjgltQo
八九寺「……回ってましゅー……雲が、壁が、地面が、ぐーるぐるぐーるぐる回ってましゅー」

一方通行「あァ、そォかよォ。愉快でよかったじゃねェか」

八九寺「そーでしゅねぇー…………って、違います!!

一方通行「なンだァ? えらく早いお目覚めだなァ」

八九寺「ふんっ! この私をそんじょそこらの一般小学生と一緒にしないことですね!
    なにせ、私は100人にひとりの天災なのですから!」

一方通行「天才の字が違ェし割合が思いのほか高ェ! ンな、ひとつの街に数千数万単位で天災が転がっててたまるかァ!」

八九寺「おぉ、さすがのツッコミですね、……えーっと? …………だれさんでしたっけ?」

一方通行「あー……まぁいいか、一方通行《アクセラレータ》ってンだ」

八九寺「ふーむふむなるほど、日本人っぽくはないお名前ですね……
    でもまぁ、そう言われれば異様な色をしたその髪、肌、目もどうにか納得出来そうです。
きっと、ロシアの獄中でドタバタやってたんでしょうね」

一方通行「おまえなに言ってンだよ」

八九寺「ウサビッチですよ。知らないんですか?」

一方通行「そンな、雄ウサギとよろしくやってそうな名前のウサギは知らねェよ」

22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/27(火) 03:04:20.89 ID:dsjgltQo
八九寺「はぁ……これだからヒキコモリは。内向的で自分の殻から飛び出そうという意思が見受けられませんね」

一方通行「おまえまだその設定引きずってたのかよ。あいにく職には困ってねェよ」

八九寺「あら? 学生さんではなかったのですか?」

一方通行「ま、そうっちゃそうだが、違うっちゃあ違うなァ」

八九寺「あなたも人の事を言うくせ、なかなか面倒な喋り方をするではないですか」

一方通行「自分で分かってっから良いンだよ。そういやおまえは名前言わねェのな」

八九寺「そうでしたねすっかり忘れてました、人に名前を聞いたくせに自分の名前を言おうしないやつは人じゃない。
    と、昔祖母に言われたので私も名乗りましょう。私は八九寺真宵と申します。以後、あまりお見知りおかないでください」

一方通行「口上から、名乗りまで全部前衛的で攻撃的だなァオイ。
     あとお前バァさン理論なら今のオマエは人じゃねェンじゃないのかよ」

八九寺「……そうとも言います」

一方通行「あァ? どういうこt」

八九寺「それではアセロラさん! 私はコレで失礼しますね」

一方通行「なァ!? 俺はンな健康食品的な名前じゃねェ! ってあら? アイツどこいきやがったンだ?」

……
…………
………………

24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/28(水) 01:16:41.21 ID:BwS0yVUo
芳川「遅かったじゃない一方通行。なにかあったの?」

一方通行(ちくしょう話し込ンで遅れるなンざがらじゃねェことしちまったなァ)

一方通行「なンもねェよ、起きンのがだるかっただけだ。
     で、今日の実験はどこの部屋でやンだよ」

芳川「今日はここの地下の第二軍事演習室でやるわ。ちょっといつもの場所に比べて耐久性が心もとないけれど、
   あなたが意図的に壊しでもしない限り今回の実験内容なら問題ないでしょう」

一方通行「ふーン。で、今回の『縛り《ハンデ》』はなンなンですかァ?」

芳川「『外部への能力を使った干渉ができない』これだけよ」

一方通行「あーハイハイ。体を中から爆散させたりとか、鉄骨使ってすりこぎとか、そういう愉快なことができなくなるだけだろ?」

芳川「まぁ、実験の意図としては、『能力を使った身体操作法の確立』とかそういうものなのだけれど」

一方通行「知らねェよ。俺は"一方通行"な殺戮ゲームやってるだけだ。内容まで求めてくンじゃねェ」

芳川「はぁ、あなたらしいわね。じゃあ、第6709から第6759次実験まで一気にやるけど大丈夫?」

一方通行「ハッ、何の心配をしてンだよ。こちとらうン千人同じ顔したやつブチ殺してきてンだぜ?」

芳川「……そうだったわね。ではさっそくだけど向かってくれるかしら?」

一方通行「あァ、行ってくらァ」

25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/28(水) 01:49:51.39 ID:BwS0yVUo
一方通行「おォ……よくもまぁ誰も使わねェ空間にビル群なンざ作ったなァ」

6709号「他の研究所で行われる多くの実験と違い、この実験は学園都市の本望である『SYSTEM』へ近づく研究ですので、
    予算が有り余るほどもらえるらしいです。と、ミサカは内部事情を教授します。」

一方通行「数十万で作れるクローン二万体ブチ殺すつってもせいぜい数十億しかかかンねェンだがなァ」

6709号「それでは、『実験』開始まであと二分三〇秒ですが準備はよろしいでしょうか? と、ミサカはこの場にいるミサカ全員を代表して確認をとります」

一方通行「あァ? 一人一人素手でブチ殺すだけだ。準備も糞もねェよ
     しっかし、おンなじ顔したやつがこンだけ集まると壮観だなァ、おい」

6709号「ミサカ達は同じ遺伝子から生み出され、ほぼ全て同じ環境で育ち、同じ人格をインストールされましたので、
    顔立ちに差異がないのは当然と言えます。と、ミサカは詳細を含めて説明します」

一方通行「……ほンとに気味の悪ィ『人形』だよおまえらは、これから殺されるってェのになンの感慨もねェのかよ」

6709号「それがミサカ達の生み出された意味ですから。と、ミサカは淡々と事実を告げます」

一方通行「そォいうのが気味悪ィっつゥンだよ、もうちっと泣くだの喚くだの命乞いだのしねェとこっちも殺しがいがねェだろうが」

6709号「『実験』の内容上、殺されるまでに最大限の戦闘行為は行います。と、ミサカは殺しがいという点に関して提案します。
    しかし、それ以外の行動は必要性がないと判断出来るため、残念ながら行うことはありません。
    と、ミサカはあなたの期待に添えないことを発表します」

一方通行「もう、めンどくせェなぁおい。さっさと始めンぞ」

6709号「分かりました。と、ミサカは首肯し、カウントダウンを始めます。
   『実験』開始まで、残り四〇秒……三〇秒……二〇秒……一〇、九、八、七、六、五−−−−
    これより、第6709次実験から第6759次実験までの短縮実験を始めます。被験者一方通行は所定の位置について下さいと、ミサカは伝令します」

26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/28(水) 02:32:10.32 ID:BwS0yVUo
一方通行(くそ、ノらねェ。もう二〇人は殺ったか? ぜンぜっンテンションあっがンねェな)

一方通行(あと三〇人……ちまちま殺ってくのもめンどくせェし、もう……終わらせちまうか)

一方通行(体表に掛かる『力』を全反射設定。『重力』を操作)

 演算を完了させ、一方通行は"真横"へと"落ちて"いった。
 ビルの壁にぶつかろうが、その体へ加わるハズの反作用は全て反射され、一方通行の速度へは干渉出来ない。
 そうして、加速度的に勢いを増しながら、一方通行の体は渦を描くように"落ちる"。
 厚みを増していく空気の壁にぶち当たろうが、一方通行の体に当たったビルの破片が粉々に砕けようが、
 "轢かれたミサカがミンチになろうが"、それは些細な問題にすらならない。はずだった。

 ベクトルを操作し、一方通行は地に降り立った。

一方通行「はい、オシマイっとォ」

 ところどころが血に濡れた、赤いコンクリートの上を歩きながら出口へ向かった。


一方通行「おい、終わったぜェ」

芳川「モニタで見てたから分かってるわよ。まったくむちゃくちゃにしてくれて、ミサカを回収するのはこっちなのよ」

一方通行「だから、そっちの事情なンて知らねェよ。おまえらは文句言わずにやることやってろ」

芳川「はいはい」

一方通行「じゃあ俺はもう良いよなァ、帰らしてもらうぜ」

芳川「…………ねぇ一方通行」

一方通行「あァ?」

芳川「あなた、なにかあった?」

30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/04/28(水) 07:02:07.18 ID:qrcdSkDO
この時期なら一方さん帰りたくねえだろうな。

33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/04/28(水) 19:43:58.96 ID:BwS0yVUo
>>31忍野さん何やってるんスか。いやまじありがとうございます


一方通行「……さっき、なンもねェつったところだろうが、同じ質問してんじゃねェよボケてンですかァ?」

芳川「いえ、質問の"意味"は同じだけど、"意図"が全く異なるわ」

一方通行「はァ?」

芳川「どうして、今回の実験はあんなに"苦しそう"だったの?」

一方通行「……おまえ、何言ってンだ」

芳川「今回の実験『外部への能力を使用した直接的な干渉が不可能な状態での体多人数戦』
   普通の能力者、それこそ他のレベル5であったとしても苦戦するであろう条件。
   でも、あなたの能力『一方通行』のベクトル操作は体内への衝撃を例外なく『反射』できる。
   そんな、苦戦しようのない実験で、なぜあんな表情を見せたの?」

一方通行「…………」

芳川「『あの子たちを一人づつ、ゆっくりと嬲り殺していく』これは私の勝手な推測だけれど、普段のあなたならそうしたでしょうね。
   いつもの『残任で狂気に染まった』一方通行なら、笑いながら手足の一つや二つもいで見せたはず。でもあなたはそうしなかった。
   いえ、実際は、そう"振舞おうとしていた"ようだけれど、結局駄目だったのね。一〇人を超えたあたりから狙いを心臓に定めたし、
   二〇人を超えればセットを破壊してまとめて叩き潰すなんて力技を使った。
   一見すると、容赦のない攻撃の用に思えるけど、普段の執拗なまでにサディスティックなあなたを見ているから話は別。
   あの子達を、そして手を血で染める自分自身を想いやった、とても優しい攻撃だったわ」

一方通行「……面倒になったから全部まとめてぶっ潰しただけだ」

芳川「ええ、本当はそうなのかもしれない。でも、ただ"気になった"の、あきらかにいつもと違う行動パターンを見せたあなたが。
   ……じゃあ改めて聞くわ、一方通行。"なにかあったの?"」

37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/29(木) 01:17:10.33 ID:jOjNiH6o
一方通行「…………うるせェよ、ただの"研究者"のおまえが"教師"の真似事ですかァ? めんどくせェことしてんじゃねェぞおい」

芳川「質問に答えてくれないかしら、一方通行?」

一方通行「だから、"なンもなかった"つってンだろうがよォ! 仮に"なンかあった"としてもおまえにはなンの関係もねェ!」

芳川「いいえ、実験の監督者の一人として私には『被験者一方通行』のことを知る必要があるわ」

一方通行「あァそうかい! だがなァ、おまえらにとっての『被験者一方通行』は『欠陥電気を[ピーーー]存在』だろうがよォ
     つまりは、結果的に殺しゃあおまえらは文句ねェんだろ? おまえらはそのセッティングだけすりゃァ良いンだ。
     さっきも言ったがその過程《プロセス》にまで口出しするんじゃねェ!」

芳川「…………」

一方通行「チッ、胸糞悪ィ。今度こそ俺ァ行くぞ」

38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/29(木) 01:43:34.43 ID:jOjNiH6o
sagaり忘れたorz ……まぁいいか


芳川「はぁ、行ってしまった……か……」

芳川「ほんとにダメね私。ただ、"甘い"だけ。人に道を教える"優しい"教師になんてなれやしない」

芳川「あそこで、一歩踏み込む勇気がなかった。ギリギリ"研究者"でいられるラインを超えることが出来なかった」

芳川「『リスク』と『チャンス』を天秤にかけて、リスクが下がったから踏み込むことはしなかった」

芳川「結局は自分に甘いだけなのよね。あそこで境界線を超えていれば、目の前に現れた彼の引き金を引いていれば、何かが変わるのは分かっていたのに」

芳川「その変化が、自分に危害を加える可能性を考えて、手を出せなかった。ホントに甘い、甘い考え」

芳川「……でも、私が境界線を超えなくても、引き金を引かなくても、彼は確実に今までと何処か"違っていた"」

芳川「だから、とても、とても甘い考えで、とても最低な願い事だけど」

芳川「『誰か、もう一度彼を変えて下さい』」

芳川「願わくば、彼にとって、良い方へと……」

40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/04/30(金) 00:51:37.07 ID:BrP.cNAo
ハプニングが去りました
結局昨日は書きためを放出しただけなので書けてません
すっからかんのすっぽんぽんでパッパラパーです

>>39
そう言われるとものすごく助かるますます
がんばってGW中には終われる用にしたいけどどうなることやら

……
…………
………………

一方通行「……はァ」

一方通行「ガキとペチャクチャおしゃべりして、お人形遊びもそうそうに切り上げた。しまいにゃ研究者にキレると来たもんだ」

一方通行「なンか違ェよなァ……いや、もうぜンぜン違ェ。確実にいつもの俺じゃねェ……」

一方通行「俺は、どうなってンだ…………」

 一方通行は、その昔『怪獣』になったことがある。
 『イラッ』と思っただけで、数十、数百、果ては数千、数万という単位で人が傷つきかねない。
 自分の感情の起伏が周りの人間の生き死にに直結する『怪獣』。
 彼は決意した。心の動かない『氷』のような人間になろうと。誰も愛さず、誰も憎まず、誰も近づかないような人間になろうと。
 そうして『氷』となった彼の心は、他人を寄せ付けないための、もうひとつの解を導き出した。
 それは、『絶対』となること。誰であっても、相対することが馬鹿らしくような『絶対』の存在になること。
 その二つを彼は、彼自身に誓った。
 『氷』になり、これから『絶対』になると。

 それから彼は、律儀にそれを守り続けた。守り続け、守り続け、それこそが本来の自分であると思い込むほど、深い心の底までその誓いを守らせた。
 そうして他人に関心を持たない『氷』になったし、これから『絶対』になる。
 それこそが一方通行《アクセラレータ》。

 だからこそ、今日の一方通行は『異常』だったのだ

49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/01(土) 23:28:26.13 ID:kNOJiJgo
某微笑動画等で化物語について勉強し直して
「真宵の可愛さは地球を平和にするね」とか考えたりしてたら結局あんまり書けませんでした
やっぱり遅筆でお送りしますので一時間に一回くらいのペースでスレを覗いてくれればなと思います。



 −−一方通行は、『答え』にたどり着かない『自問』を繰り返し続けた。

 来た道をなぞるように足を動かす。

 −−なぜ、研究員にあんなに感情的になったのか。『絶対』になるための、道具に過ぎないはずなのに。

 行きに案内板で探し、見つけたコンビニでブラックの缶コーヒーを買い漁った。

 −−なぜ、欠陥電気達をなぶり殺さなかったのか。自分への、欠陥電気への、『けじめ』のはずなのに。

 その中から一本を取り出し、一気に胃へ流し込んだ。

 −−なぜ、『ハチクジマヨイ』に構い続けたのか。だれにも感情を向けない『氷』になったはずなのに。

 近くの清掃ロボットへと、空き缶を投げ、なんとなく横道へ目をやった。

 −−なぜ−−こんなにも、『マヨイ』続けるのか。

 紙切れを片手に、辺りをキョロキョロ見回す、『八九寺真宵』が視線の先にいた。

51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/02(日) 00:06:00.20 ID:8XcYNnwo
 『自問』を中断し、進路を変更。
 それこそ『異常』なのだと分からぬまま、一方通行は八九寺真宵のもとへ歩いていった。

一方通行「おイ」

八九寺「話しかけないでください、あなたの−−」

一方通行「『ことがきらいです』ってか? 振り向きざまに暴言吐こうとしてんじゃねェぞ」

八九寺「んなっ!? そんなことありません! 最後まで聞かないで勝手に人のセリフを決めつけるのはよして下さい!」

一方通行「最後まで聞かなかったのは、オマエが言葉に詰まってっからだろォがよ。
     じゃあいま、なンて言おうと思ってたんですかァ?」

八九寺「……『あなたのことが大好きです』と言おうと思ってましたよ」

 一拍おいて、言葉を口にした八九寺は、そこそこに膨らんだ胸を張りながら、ニヘラと−−心の底から嬉しそうに−−笑った。

一方通行「はァ!? 前の文と後の文で相手に向ける感情が真逆じゃねェか!」

八九寺「ちっちっち、これだから乙女心の分からない男性は嫌なのです」

一方通行「オマエに乙女の心なんてあったンかよ

八九寺「すごく失礼な言葉を言われた気がしますが、まぁ良しであげましょう。
    いいですか? 乙女心とはすべからく、段落と段落、文と文、単語と単語の間に挟まってこびりついているものなのです!」

一方通行「なンか歯の間に挟まった残りカス見てェな扱い受けてんなァ乙女心! ならさっきのはどこに乙女心が挟まってンだ」

八九寺「『……ください、あなたの……』のあたり……ってなんか此処だけ引用すると酷く卑猥です!
    いったいなにを言わせるんですかアクセロリータさん!」

一方通行「知らねェよ! てめェが勝手に引用したんだろうか!
     それに、俺は一方通行《アクセラレータ》だ! 名前に性癖引っさげるような変態じゃねェ!」

52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/02(日) 00:08:03.16 ID:vKm5kMMo
きたぁ、お約束! wwktk

53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/02(日) 00:40:43.82 ID:8XcYNnwo
>>51「まぁ良しであげましょう」→「まぁ良しとしてあげましょう」
なんかもう誤字とか一方通行さんの「ァ、ィ、ゥ、ェ、ォ、ン」とかいろいろ酷いけど適当に脳内補完お願いします
「もう意味分かんねぇ」ってなったらなじりつつ指摘して下さい



八九寺「なっ、そんなまどろっこしい手段ではなく、直接襲ってやるぜぐえっへっへということですか!?」

一方通行「ちっげェよォ!! なンでロリコンが大前提で話が進んでンだ! あと、そのわかり易すぎるキャラはどこのどいつだ! オマエのなかで俺はどうなってやがンだよ!」

八九寺「『ロリコン』じゃない……? ということは、まさか! オールラウンダーな変態!?
    直接だけの話ではなくもっとすごいプレイを数多く強要させるつもり!?
    つまり『名前に自分の性癖なんて入れたら呼び終わるのに一生かかっちまうぜ』ということ訳ですね!」

一方通行「今のは別に『俺を見くびンなよ』とかそういう類の言葉じゃねェ!
     っていうか最後なンで『?』付けなかったんだオイ! てめェひとりで、疑問が解消されてホクホク、みてェな顔してンな!」

八九寺「まぁ、セロリさんの歪んだ嗜好は良いとして、話を戻しましょうか、えーっと? 本題は、
    『セロリさんって失恋しても、未練たらたらに彼女つけ回しそうだよね』でしたっけ?」

一方通行「だから! オマエの中の俺はなンでそンなに色恋沙汰の方面で歪ンでンだ!
     つーかその呼び方知らねェやつが聞いたら『変わったあだ名』になンだろうけど、俺ァ成り行き知ってっから『嫌なあだ名の一部分』としか思えねェンだよ!
     それと、さっき話してたンは乙女心の場所だろうが。自分で振った話をなンで忘れンだ、ちっと前にも言った気がすっけどその記憶力どうにかしやがれ」

八九寺「ああ、そうでしたね。私が卑猥な言葉を口にさせられたアレですね」

一方通行「あー。なンかツッコンだらまた堂々巡りになる気がすっから続けろよ」

八九寺「なっ! 今のに一方通行さんがツッコまない!? どうしたんですか!?」

一方通行「ダァああああ!! なンでそこで食いついてくるンだよォ! 俺の話を進めようって配慮を悟りやがれ!」

54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/02(日) 02:30:26.15 ID:8XcYNnwo
八九寺「『一時間置きくらいに見に来て下さい』とか言っておきながらこの体たらくはなんなんでしょう」

一方通行「なにメタ発言してやがンだよ」

八九寺「いや、ごめんなさい。他スレを眺めてニヤニヤしてるコイツの姿が妙に腹立たしくて。
     そういえば、メタ発言という言葉は『アニメ、マンガ、ライトノベル等の創作キャラクターが、その世界観の外の人物、出来事、もしくはその世界の設定へ言及する』場合によく使われますが、
     とうぜんながら、本来の意味はもう少し広いんですよね」

一方通行「ン? あァ、ンなマンガとかのためだけに作られた言葉じゃねェからな。『ある言語の意味を記述する際に使われる、高次元の言語』とかだったか?
       まァ今の意味は『メタ発言』じゃなく『メタ言語』を示してるンだがな。よく使われるメタ発言ってのはメタ言語の『高次元』って部分だけのイメージで広まってった言葉だろうよ」

八九寺「おォ、学園都市一位。流石ですね。一応、簡単に言いますと、普通の『発言』に対しては、その人の『身振り』や『表情』、言葉の『リズム』や会話事態の『テンポ』、
     もしかするとそのときの、『服装』や『化粧』なんかがメタ言語になるんですよね」

一方通行「ようするに、『言葉』の意味の他に、ソイツの『感情』とか、会話の『流れ』とかを示すもンだな。
       今俺らが『発言』してっけど、SSだとそういう『メタ言語』にあたンのが『口調』とか、『文のリズム』くらいで極端に少ねェから、キャラクターの感情とかを表現するのはなかなか難しいンだよな」

八九寺「そこで、です」

一方通行「あ? なにが『そこで』なんだよ」

八九寺「わかりませんか? 描写出来ないということは−−裏で何をやっているのかハッキリと伝わらないということです」

一方通行「ハッ!?」

八九寺「あー。なんだか異様にあつーくなってきましたねー」

一方通行「そ、そんな大胆な姿に!?」

八九寺「うっとうしいですねぇ。これも取っちゃいましょうか」

一方通行「なァ!? そんな大事な部分を」

八九寺「あー床がひんやりしてますねー」

一方通行「オマエ! そんなカッコでそんなカッコしたら、大事なところがァ!?」



ゴメンナサイちょっと書きたかったんです
『メタ発言』についてはうろ覚えの知識なのでほんとにこの通りなのかは知りません

55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/02(日) 02:38:08.32 ID:vKm5kMMo
いいんじゃないかな。っぽくて。

56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/02(日) 03:42:25.56 ID:8XcYNnwo
>>53

八九寺「ほぉ、一方通行さんの口から配慮なんて言葉が聞けるなんて思いませんでしたよ」

一方通行「俺だってそんな言葉言うなんざ思ってもみなかったわ」

八九寺「では、そんな一方通行さんに免じて、乙女心の在処をお教えしましょう!」

一方通行「在処は聞いたっつゥの、その場所に『何』が有るかって話題にはいる所だ」

八九寺「……むぅ、せっかく盛り上がったところでしたのに、話の腰を折ってくれましたね。
    まぁいいでしょう。その乙女心とは!」

一方通行「その乙女心とは?」

八九寺「『ツンデレイズム』です!」

一方通行「ツンデレイズムゥ?」

八九寺「そうです。ツンデレイズム。まぁツンデリズムでも構いませんよ?」

一方通行「いや、呼び方に引っかかってんじゃねェよ。で、その『ツンデレイズム』とやらに則ったら、そこにどんな言葉が入ンだよ」

八九寺「えっとですね、『あ、やっちゃった……私って馬鹿だなぁ。でもここで素直にならなくちゃ、いつまでもツンツンしてたって何も始まr」

一方通行「ダウトォオ!! あの一瞬にンなクソなげェ葛藤入るわきゃねェだろうがァ! っていうか一レスじっくり引っ張といてそんなありふれた答えかよォ!?」

八九寺「本編でメタ発言は謹んで下さい!」

一方通行「まぁそれもメタ発言だがなァ」

八九寺「っていうか私は一方通行さんのツッコミが心地よくてつい、ですね。ネタを振ってしまうわけですよ。つまり一方通行さんが悪いんです」

一方通行「いくらなんでも論理が飛躍しすぎだろうがァ! 風桶論法展開してんじゃねェ!」

57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/02(日) 04:48:49.13 ID:8XcYNnwo
八九寺「まぁまぁ、終わった話はどうでもいいじゃないですか。
    そんなことより、さっきから一方通行さんが動くたびガランガラン音をたてるビニール袋が気になるんですが」

一方通行「ンあ? こりゃ、コーヒーだ」

八九寺「いやまぁ、それはなんとなくわかるんですけど……そのビニール袋の耐久性を無視してるとしか思えない量を買ったんですか?」

一方通行「あァ、重さは能力でどうとでもなるしなァ」

八九寺「な!? よくみると全部同じ銘柄じゃないですか! 棚にあるものを全て買い占めたというのですか!?」

一方通行「いや、足りなかったンで、奥からいくつか持ってこさせた」

八九寺「くっ、想像以上です……ブラック、無糖のコーヒーをこれだけ買うなんて、大人度が段違いです」

一方通行「ハッ! ガキはガキらしく甘甘のMAXコーヒーでも飲むんだなァ!」

八九寺「ぬぅう……っ! ココで引き下がるわけには……しかし、あれは子供の味覚に対応しつつ大人の世界の片鱗を味わわせる逸品……っ! 魅力に抗えない!」

一方通行「クハハハハ!!」

 手に持った缶コーヒーをガラガラいわせながら高笑いをする一方通行に、片膝をつきながら苦々しい表情をする八九寺。
 どう贔屓目に見ても、『誰も』が『異常』に思う光景がそこにはあった。

61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/03(月) 00:04:58.74 ID:QX1YU6oo
 そんな――『異常』な光景に近づくものが、一人。

??「あー、気分良さげに笑ってるとこ申し訳ないんだけど、ちょっと聞きたいことがあるんだ――いいかな?」

一方通行「あァ? ……だれだオマエ」

 一方通行が振り返ると、サイケデリックなアロハシャツにぼさぼさの髪という、とても見られた格好でない、軽薄そうな男が立っていた。

忍野「姓は忍野で名前はメメ。仕事の依頼でちょっと学園都市までやってきたんだけどさ、困ったことに道に迷っちゃってね」

 両手を軽く上げ、肩をすくめて見せた忍野。その左手には学園都市製のGPS付き携帯用地図が握られていた。

一方通行「迷っただァ? ンなもん持っててどうやったら迷うんだよ」

忍野「うーん、どうやってと言われてもね。現に僕は迷ってしまっているんだ。
   迷ってる人に『なんで迷ったんだい』と聞いて答えられる人は少数派なんじゃないかなぁ」

一方通行「あァもうめんどくせェなァ……ちっとそれよこしやがれ」

一方通行「…………オマエ、ほンとになンで迷ったンだよ。しっかりきっかりナビゲートしてンじゃねェか」

忍野「いやぁ、携帯とかそういう機械の類には弱くてイマイチわかんないんだよね」

一方通行「……ハァ、この学園都市でアナログ人間に出会うことになるたァよォ……」

忍野「良かったじゃないか。希少であるとソレだけで価値が発生するのが世の常なんだから、
   希少なものに出会えたキミはなんかいいことあるよ。きっと」

一方通行「ハイハイ、そうですねェ」

忍野「と、いうワケで、道案内をお願いしたいのだけど。いいよね?」



メメさんこんなんかなぁ……

62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/03(月) 00:32:42.81 ID:yjxFwQk0
いい感じだが、もうちょい意味ありげな感じとチャラさが欲しいな

63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/03(月) 02:36:23.49 ID:QX1YU6oo
一方通行「はァ? なンで俺がンなことしなきゃいけねェんですかァ?」

 不敵に笑みを浮かべながら口を動かす一方通行に、忍野は少し言葉を溜めた。

忍野「――『人助け』って素晴らしいと思わないかい?」

一方通行「ハッ! 人助けて自己満足しまショってかァ? ンなもんクソ食らえだ」

忍野「はっはー。奇遇だねぇ、僕もおんなじさ。人を『助ける』なんざクソ喰らえだよ」

 自分の発言を否定する忍野に、一方通行は眉をひそめた。

一方通行「言ってることが矛盾してンじゃねェか、どォいう事だ」

忍野「いやぁなに、簡単なことさ。キミにとっても――『その子』にとっても、きっと益のあるお誘いだよってこと」

 いつの間にか忍野から隠れるようにして、一方通行の右足にしがみついていた八九寺の体から、ビクッという振動が一方通行へ伝わった。

一方通行「あァ? ……何企んでやがる……オマエは『偶然』ここに来たんじゃねェのか」

 右手で八九寺を自身の後ろへ追いやる。
 自分の周りでこの少女が傷つくことを、なぜか一方通行は許容することが出来なかった。

忍野「ああ、『偶然』さ。『たまたま』とか『まぐれ』なんて言い換えることもできるけどね。
   僕がここに来たのも、キミと僕が出会ったのも、全部まとめて純然たる『偶然』だよ」

64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/03(月) 13:10:06.78 ID:ReQ7A9ko
いいよいいよー

65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/03(月) 17:11:18.95 ID:QX1YU6oo
一方通行「…………」

 一方通行は目の前の胡散臭い男を睨みつける。

忍野「まぁまぁ、そんなことはどうでもいいじゃないか。キミは僕を案内する。僕はキミらの『益』となる情報を提供する。
   ほら、利害関係が一致しただろう? これ以上なにか必要かい?」

一方通行「……はン、オマエは馬鹿ですかァ? 俺ァオマエになンかされるつもりはねェし、コイツだって今しがた出会った怪しすぎるオマエを信用出来るかよォ。
     まァ、なンか道に『迷ってる』みてェだが、ンなもん最悪俺かオマエじゃねェ誰かが連れてきゃいい話じゃねェか。
     オマエに貸しを作らなきゃいけねェ理屈なんざどこにもねェンだよ」

忍野「んー……そっかそっか。なるほどね」

一方通行「はァ?」

忍野「学園都市って、超能力とか、もはやオカルトって研究とかしてるって聞くし、正直外れてたらどうしようかと思ってたんだ。
   でも、まぁ、今ので『きっと』から『ほぼ絶対』に変わった。これは『ほぼ絶対』キミに――『益』のあるお誘いだよ」

一方通行「……どォいうこった」

忍野「いやぁ、いくつか候補はあったんだ。別にほっといてもどうとでもなるだろうなぁ、っていうのもあったんだけど、
   キミの場合は、僕みたいなのが口出しないと、ちょっと困ったことになるだろうから」

一方通行「わっけわかんねェこと言って煙にまいてんじゃねェぞアロハ野郎が、なンのつもりだァ!」

 右腕を大きく振りながら一方通行が叫んだ。
 それに驚いた八九寺は、右足を手放し、今度は左足へとしがみついた。

忍野「まったく、随分と元気がいいなあ。何かいいことでもあったのかい? まぁそんなせっかち君に免じて『困ったこと』を教えてあげるよ。

 そう言うと、忍野は自分の左手で、一方通行の『左側』を指さした。

忍野「その子は決して『目的地にたどり着くことはない』。あと、キミもそのままじゃ、絶対に『目的地にはたどり着けない』。
   ようするに、ずっとずっと迷子ちゃんってことさ」

69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/03(月) 17:59:39.47 ID:QX1YU6oo
一方通行「……オイ、ちょっとまちやがれ」

忍野「ん、なんだい?」

一方通行「オマエは――『どこ』見て話してやがるンだ」

 一方通行の『左足』にしがみつく八九寺。
 一方通行の――忍野から見て――『左側』を指さす忍野。
 忍野は、虚空を指さしながら『その子』と言った。

忍野「あれ? 外れちゃったのかい? うーん、さっき右手で後ろに押すような仕草が見えたからそっちだと思ったんだけど。
   いやぁ、いざ決め台詞。ってところだったのにかっこつかないよねぇ、まったく」

 なんとなくバツが悪そうに、どうということもなさそうに、片手で頭を掻きながらぼやく忍野。
 そんな、忍野とは対照的に、一方通行はその表情に怒りやら、戸惑いをまぜこぜにしていた。

一方通行「オマエ……見えてねェってのか? コイツが」

 一歩通行は左足にしがみつく八九寺の肩に手を置くと、確かめるように、力を込めた。


忍野「うん? ああ、全然見えないよ。ついでに声も聞こえない。
   まぁ、キミの振る舞いを見てたら、たぶん子供なんだろうなっていうのと、おおよその背丈くらいは想像がついたけどね。
   僕にはその子の髪の色も髪型も、服装も、性別すらわからない。
   あ、性別は別に見えても分からないかもしれないなぁ。確認までに聞くけどキミは男の子でいいんだよね?」

 忍野の軽口が一方通行の左手に一層の力を込めさせた。

八九寺「……あの、痛いです、一方通行さん」

73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/03(月) 18:54:26.81 ID:QX1YU6oo
 八九寺の声が響き、一方通行は八九寺から手を離した。

一方通行「ンあァ、悪ィ八九寺」

忍野「ふぅん、その子は『ハチクジ』っていうのかい? そうだな、ちょうど良い。話を本題に戻そうか、その子の下の名前はなんていうんだい?」

 さっきの質問などどうでもいいというように質問を重ねる忍野に、一方通行は一瞬の逡巡のあと、答えた。

一方通行「……『真宵』だよ」

忍野「『ハチクジマヨイ』、か。字は? どう書くんだい? たぶん苗字は八、九、寺で『八九寺』。まぁこれで間違いないと思うんだけど、名前は?」

 忍野の問いに、決して届くことの無い、すこし震えた声で八九寺が答えた。

八九寺「……真実の『真』に、宵の刻の『宵』で真宵です。お父さんとお母さんがくれた、大切なお名前です」

 少しだけ強く足をつかんだ八九寺に一方通行は、力肩から離れて所在を求めていた左手を頭に置いてやった。

一方通行「……あァ、そうか」

 八九寺の体が強張ったが、気にせずガシガシと乱暴に撫でてやる。
 一方通行自身、なぜ自分がこのようなことをしているのか分からなかったが、少しの間撫で続けた。

 撫でるのを止めても、手は置いたままにして、一方通行は忍野に八九寺の説明をそのまま伝えた。

76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/04(火) 17:09:39.58 ID:8Fsnlc.o
支援されると興奮します。遅筆でごめんなさい。



忍野「『八九寺』に『真宵』で、『八九寺真宵』か……出来すぎだね、仕組んで名付けたんだろうってくらい出来すぎだ」

一方通行「あァ? 何がだよォ」

忍野「んー、説明してもいいんだけど……その前に、そろそろ返事が聞きたいんだけど? 結局、キミは僕の案内人になってくれるのかい?
   今、僕が話を続けてる目的はそこだし、何もしてくれないのに便利な話だけしてあげるお優しい人になるつもりもないんだよ」

一方通行「ちっ……今の話のどこに確証らしい確証があったンだよ。一から十まで、ぜーンぶまるっとオマエの妄想でしたァってオチの方がよっぽど信じられらァ」

忍野「たかだか道案内だっていうのに渋るねぇ、キミは。ただちょっとそこまで連れていってもらえれば良いだけなんだけど。
   うん、まぁでも、ずっとキミに馴染みのない話してたしね。無理もない反応だと思うよ。
   で、信用してもらうには実際にそっちのお嬢さん連れて、どこらか目指して練り歩いてもらうのもいいんだけど――ここはやっぱり直接聞くのが早いんじゃないかなぁ」

一方通行「直接だァ?」

忍野「うん。まさかその子だって自分のことを全く知らないって訳でないでしょうよ。
   その子が、自分について知ってることをキミに洗いざらい吐いてくれりゃあ、キミも僕の話を少しは聞く気になるんじゃないかい?
   ま、その子が全然なーんにも知りませんっていうなら、ニ、三〇分程学園都市観光に時間が潰れることになるんだろうけどね」

 そう言いながら、忍野は一方通行の左手の下――八九寺の頭――あたりに手のひらで促すような仕草をした。

忍野「さあ、お嬢ちゃん。そっちの怖ぁいお兄ちゃんと、ちょっとばかしディープなお話をしてくれるかな?」

77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/04(火) 18:33:35.85 ID:8Fsnlc.o
 そう言うと、忍野はポケットからタバコを取り出し、口に加えて、火を着けることもせず、近くの壁に寄りかかった。
 興味はないからさっさと終わらしてくれ。そう告げているようだった。

一方通行「八九寺……」

 一方通行は視線を落として、相変わらず手の下に居る八九寺を見る。
 表情は、見えなかった。

八九寺「ええ、きっと、そちらのお兄さんのおっしゃってることは間違っていません。
    なんど、なんど行っても、たどりつけないんですから。
    私は、決して、いつまでも、たどりつけないんです」

一方通行「……」

八九寺「だって、私は……蝸牛《かたつむり》の迷子ですから」

一方通行「どォいうことなんだよ」

八九寺「そうですよね、分かりませんよね。……じゃあ少しだけ昔話をしましょうか、ほんの、十年ほど前の話です――」

79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/04(火) 21:56:50.57 ID:8Fsnlc.o
 この学園都市で、一組の研究者の夫婦がその関係に終焉を迎えました。
 きっかけは些細なことかもしれませんし、そうでなかったのかもしれません。
 その夫婦には娘が一人いました。
 夫婦の一人娘は父親が引き取ることになりました。
 幾許かの時を一人娘は父親と過ごしました。
 どんな思いも風化していきます。どんな思いも劣化していきます。
 一人娘は驚きました。自分の母親の顔がおもいだせなくなっていたのです。
 母親の写真を見ても、それが本当に自分の母親なのかどうか、わからなくなっていました。
 だから一人娘は母親に会いに行くことにしました。
 父親の机を、棚を漁って、見つけた住所を紙に書き。
 母親との思い出の品を、大きなリュックにいっぱいいっぱい詰め込んで。
 母親に会いに行きました。
 その年の母の日に。
 けれど、一人娘はたどり着けませんでした。
 母親に会うことは出来ませんでした。
 母親の住むところへは、たどり着けませんでした。
 どうしてでしょう、どうしてでしょう。
 本当に、どうしてなんでしょう。
 信号は、確かに青だったのに――

80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/04(火) 23:33:27.42 ID:bJYSowAO
八九寺の話はいつ見ても悲しくなる

81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/04(火) 23:57:53.06 ID:8Fsnlc.o
八九寺「――その一人娘というのが私です」

 学園都市は、科学の発展した街である。
 しかし、その発展は『効率』を引き上げる方向へ特化している。
 『大きな実験場』という、学園都市の一側面も手伝い、『安全』の発展は、『効率』の二の次となっていた。
 『車』もそのご多分に漏れず、運転性能や、燃費効率といった部分は『外』と比べ物にならない程発展しているが、
 人が運転するという点に、変化はないため、やはり偶発的な事故は起こってしまう。

一方通行「……てェことはよォ……オマエは十年近い間、ずゥっとここらをさまよってたってことなのか?」

八九寺「……はい。なんど、なんど目指しても、お母さんのところには……たどり着けませんでしたから」

一方通行「……蝸牛……クソがァ……」

 最期の最期に優しい幻想を抱くことすら出来ずに死んだこの悲しい少女を、死んだ後も苦しめ続けている何かが許せなくて。
 それに怒りを抱くことが、不自然だと知りつつも、怒りを隠すことなく、一方通行は忍野に怒鳴った。

82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/05(水) 00:06:52.73 ID:KgZZUQMo
一方通行「アロハ野郎ォォォおおおおおおおおお!!」

 予期せぬ大声に、加えたタバコが宙を舞い、慌ててそれをキャッチしながら忍野は振り向いた。

忍野「おわっ!? ……っと、まったく。元気がいいなぁ、何かいいことでもあったのかい?
   それといきなり安易なあだ名を叫ぶのはやめて欲しいのだけど」

一方通行「道案内でも、仕事の手伝いでも、何でもやってやらァ! だから、オマエが持ってる、コイツにとって『益』になる情報とやらをさっさとよこしやがれェ!!」

忍野「うーん、せっかくだし……一応その子に関するバックボーンとかを説明しようかなぁ。とか思ってたんだけど、
   そういうのは必要ない感じなのかい?」

一方通行「まどろっこしい説明なんていらねェよ。さっさとコイツがこの地獄から抜け出す術を教えろっつってんだ」

忍野「あれ? なんか認識がずれてるけど。そこまで言うなら、まどろっこしいのは一切なしで、キミがどうすれば、現状の最善を得られるのか、教えてあげるよ」

一方通行「あァ。さっさと言いやがれ」

忍野「やれやれ、ここまで強引なのは今まででもそうはいなかったなぁ。まぁいいか、じゃあ、言うよ?
   とりあえず、キミがすべき、最善の行動は――その子に関わらないこと。だよ。わかったかい?」

83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/05(水) 00:08:07.91 ID:vUDf/g.o
さすがセロリさん、スタンスぶれませんねww

85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/05(水) 00:30:53.67 ID:KgZZUQMo
一方通行「……は、はは、いったいなんの冗談だ、笑えねェ、笑えねェぞおい。オマエ自分で言いやがっただろうが、
     コイツが一人でどんなに頑張っても『目的地にたどり着くことはない』ってよォ!!
     なのにほっとけってか!? なにをどう考えたらそれが最善になンだよォ!?」

 激昂し、詰め寄る一方通行に、忍野は肩をすくめた。

忍野「だから言ったじゃないか。認識がずれてる、って。僕はそのセリフのあとにこうも言ったろう?
   『キミもそのままじゃ、絶対に「目的地にはたどり着けない」』ってさ?
   『目的地にたどり着くことはない』のが確定事項なら、その被害者は少ない方が良いに決まってる。
   たぶん、まぁコレは、キミの振る舞いを見てて考えた、僕の勝手な憶測だけど。
   その子も、キミを巻き込むことをよしとしないんじゃないかい?」

 忍野の言葉に一方通行が振り返ると、そこには、笑みを浮かべる八九寺真宵がいた。

八九寺「……えへ、ありがとうございました。優しい優しい一方通行さん。
    あんまり優しいんで、ちょっと甘えすぎちゃいましたけどね」

一方通行「八九寺……」

 出会った時、八九寺が言った言葉を思い出す。
 ――『話しかけないでください、あなたのことがきらいです』
 最初は、凶悪な目つきをする自分に怯えて出てしまった言葉かと思った。
 だが、八九寺は、二度目にあった時、相手を確認する前に、同じ言葉を言おうとしていた。
 それは、あきらかな拒絶。
 自分に関われば、自分と一緒に居れば、その人が道を見失ってしまうから。
 そうならないよう。八九寺は自分が見えてしまう人全員にそう言うのだろう。



書いてると、メメさんとリアルゲコ太がダブって困る

88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/05(水) 01:04:21.43 ID:vUDf/g.o
がんばれ、あと気になっているんだろうが、そのレベルなら誤字報告しないでもよいと思う。文意が変わってしまう場合のみ報告してくれると助かる。

89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/05(水) 01:32:20.11 ID:BeAzwds0
あぁ泣けてくる

90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/05(水) 01:44:29.60 ID:KgZZUQMo
>>88
なるほど。一方通行の口調とかも直したくてうずうずしてましたが、これからはそんな感じで行きます。
実はこの作品でバージンブレイクなので、イマイチそこら辺が分からないので助かります。




八九寺「その人の言うとおりです。私は、一方通行さんにまで迷って欲しくありません。
    だから……どうぞ行って下さい。その人を、『目的地まで辿り着かせてあげて下さい』。
    そして、何処かで私を見つけても『話しかけないで下さい』。
    優しい一方通行さん、どうかお願いします」

 精一杯の笑顔を浮かべながら八九寺は一方通行に頭を下げた。

 きっと辛いはずだ。ずっとずっと一人ぼっちだったのだから。
 十四、五の少女が、その精神のまま、何十年も、死ぬことも出来ずに、誰と触れることもできずに、一人ぼっちだったのだから。
 決して、本望ではないだろう。
 人恋しい年頃の、一方通行とあんなに楽しそうに話していた女の子が、
 もう一度、終りの無い一人ぼっちの『迷い』になんて戻りたくないはずだ。

 それでも。
 少女はそれを願っているのだから、願いを受け入れるのが『正しい』のだろう。
 論理的にも、この少女の願いを受け入れ、二人が『迷わなくなる』方が『正しい』に決まってる。
 ましてや、この少女はすでに『人でない』のだから。

 『一方通行』なら、願いを受け入れて、見放すハズだ。
 一を見捨てて十を助ける選択を取るはずだ。
 道に迷うことなど嫌い、自分を突き進む、『氷』の『一方通行』なら。

 だが――

91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/05(水) 02:57:00.55 ID:KgZZUQMo
一方通行「……断る」

 一方通行はこの少女と関わりすぎてしまった。
 物理的な意味ではなく、精神的な、彼の生きざまでもあったはずの『氷』の『反射』を、なぜか抜けてきた、この少女と、近くで触れ合い過ぎてしまった。
 『迷わせる』少女に、触れ過ぎて、『迷い』過ぎて、『目的地』を見失って――
 ――今、新しい『目的地』を見つけた。

 もう、『氷』は溶けていた。
 もう、一を見捨てることは出来ない。
 もう、八九寺を見捨ててやることは出来ない。

 一方通行は見つけたのだ。
 だれも近寄らない『無敵』じゃなく、『誰か』を守る『最強』になる道を。
 『誰か』の意志に反してでも、『誰か』を守り通す。そういう『最強』になる道を。

 六〇〇〇人を殺した癖にと。自分の中の自分が言う。
 偽善だ、贖罪のつもりか、と。
 なにも罪の意識が消えたわけではない。
 むしろ、誰かを助けること意識し、罪の意識は感じる。
 でも、だからこそ、一方通行は決めた。
 欠陥電気、妹達……これ以上は、殺さない、殺させない。『それ』も全部、守ってやる。
 いままではひとり残らず、平等に、[ピーーー]ことが『けじめ』になると思っていた、その少女も守りぬいてやる。
 それが、それこそが、彼が小さな頃求めていた、『誰も傷つけない』結末に繋がると、今なら信じられた。
 
 もう、一方通行は『迷わない』。新しい『目的地』へとただひたすら、『一方通行』に突き進む。

92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/05/05(水) 03:03:09.03 ID:72dMlUwo
どうでもいいけど
> 十四、五の少女
小5じゃなかったっけ

93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/05(水) 03:07:05.34 ID:KgZZUQMo
あ、ァァああああ……
小五の『五』のイメージだけが妙に強くて変な方向に引っ張られました……

>>90
十四、五の少女が、〜〜
→小四、五の少女が、〜〜

でお願いします。>>92さんありがとう

94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/05(水) 16:46:41.84 ID:KgZZUQMo
>>93
小四、五っておかしさ満点だよね。小学生四、五年と解釈してくだしあ



八九寺「え?」

 顔を上げた八九寺が、素っ頓狂な声をあげた。

一方通行「オイオイ、聞こえてなかったのかァ? ならもういっぺン言ってやるよ、あァついでに後ろのアロハ野郎もよく聞きやがれ
     八九寺を置いてくなンざ――お断りだ。
     そもそもオマエらは俺を誰だと思ってンだ、学園都市に七人しかいねェ超能力者《レベル5》。その頂点に君臨する一方通行《アクセラレータ》様だぞ?
     『絶対たどり着かない』だの『蝸牛』だの意味のわかんねェこと言ったって所詮、迷子の道案内でしかねェンだ。俺に出来ねェ訳がねェ」

忍野「……一応言っておくと、キミが超能力者っていうのも、一方通行だっていうのもは、僕は初耳だよ?
   まぁ、なんていうかさ、今の一瞬でなにかあったのかい?
   なんか妙に吹っ切れちゃってるけどさぁ、まさか『人助け』、なんかしちゃうつもりなのかな?」

一方通行「あァ?」

 首をひねって一方通行は忍野の方へ視線を向けた。

一方通行「別に何があったわけじゃねェよ、それこそオマエが言った通り、ただ単に、吹っ切れたンだ。
     やっぱ、『悩む』とか『迷う』なンざ柄じゃねェンだよなァ。ぜンぜン違ェンだ、ンなもん『一方通行』じゃねェ。
     俺は、俺がやりてェ事をする。俺が進む『方向《ベクトル》』は絶対に他人に『操作』させねェ。
     ま、その結果で、どこぞの『誰か』が勝手に『助かってる』かもしンねェけどよォ」

 体も振り返らせて、両手を広げ、もう決して『迷う』ことのない少年はニヤリと『不敵』に笑う。

忍野「ふ、はは、いいねぇ。僕はそういうの嫌いじゃないよ。好きでもないけどね。
   でも、どうするつもりなんだい? 『絶対に目的地にたどり着けない迷子』を『目的地にたどり着かせる』。
   まるで、禅問答じゃないか」

一方通行「言ってンだろうがよォ。『俺に出来ない訳がねェ』って。
     まァ、今すぐ送り届けンには、ちィっとばかし情報が少なすぎだよなァ。
     つゥ訳で、オマエはとっととコイツについて知ってること全部、今すぐ吐きやがれ」

忍野「はぁ、キミは全く強引だなぁ。でもまぁ、いいよ。教えてあげよう、この子がどういう状況なのかを。
   あ、途中棄権は別に歓迎するからいつでも言ってくれて構わないよ?」

98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/09(日) 01:16:49.70 ID:tEiftzIo
一方通行「はン。オマエはちゃンと今の話聞いてたンですかァ?」

 そこで、一方通行は後ろに手を伸ばし片手で八九寺を引き寄せた。

八九寺「はわっ!?」

 自身の前に引っ張ってきた八九寺の頭の上に、ぽんっと手を乗せ、一方通行は忍野に言ってのけた。

一方通行「俺は絶対にコイツを送り届ける。さっきからそう言ってンだろォがよ」

 頭に手を乗せられたまま八九寺が振り返る。

八九寺「え、い、いや、一方通行さん?」

一方通行「あン? なンだよ」

八九寺「さっきから超弩級の急展開で、私、八九寺真宵は着いていけないのですが……」

一方通行「ン、なら簡単に言ってやるよ。オマエの母ちゃンとこまでお邪魔すンだよ」

八九寺「いや、だから、話はちゃんと聞いていましたか?」

一方通行「あァ? さっき言ったろォが、こちとら学園都市一の頭脳だ。ンな数分前のことくらい覚えてるに決まってンだろ」

八九寺「私と居ると、どこにも行けないんですよ? どこにもたどり着けないんですよ? あの、だから、その……」

99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/09(日) 02:07:17.50 ID:tEiftzIo
八九寺「にゅわぁっ!? な、何をするんですか!」

一方通行「なァにウジウジやってンだよ、オマエの担当はギャグパートだっつゥの。
     これ以上シリアスパートにしゃしゃり出てくンじゃねェ」

八九寺「い、いや。で、でもですね、でもですよ?」

 まだ言葉を探し、続けようとする八九寺の頭を、一方通行はもう一度叩いた。

八九寺「うやあっ!?」

一方通行「だァかァらァ! 迷子のガキはちィっと黙ってろ。こっからはまたシリアスパートだ。
     まだ喋りたンねェってンなら、ハッピーエンドのエピローグでワーギャーワーギャーやりゃァいいだろうがよォ」

 八九寺の頭に乗せた手をガシガシ動かす一方通行。
 先程の同情や、慈愛に満ちたそれではなく、心配なんていらないという自負に満ちた動作。

八九寺「……」

 そんな、決して『迷う』ことのない一方通行に、八九寺の心の『迷い』がちょっと取れて。

一方通行「あン? 黙って睨みやがって。なンなンですかァ?」

八九寺「……そのときは」

 この人ならなんとかなるのかもしれないと思うことができた。

八九寺「あなたにも付き合ってもらいますからね?」

一方通行「ハッ、わァったよ。じゃ、手始めにエンディングまで済ましちまいますかァ」

100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/09(日) 02:51:54.40 ID:tEiftzIo
忍野「んーと、話はもう終わったのかい?」

一方通行「あァ、またせたなァ」

忍野「ほーんとだよ。いきなり二人の世界にトリップしないでもらえるかなぁ。
   片方の声が聞こえない会話ってさ、聞いてると案外不快なんだよ? ほら電車で大声で電話しちゃうおっさんいるじゃない?
   あれといっしょだよ。人って、『わからない』のを続けられるといい気分しないんだよ?」

一方通行「そら、こっちのセリフだ。秘密主義な癖に、思わせぶりな結果だけ押し付けやがってよォ」

忍野「そうだっけ? まぁいいや、じゃあ……そうだな、どこから話せばいいんだろう?
   ……うん、キミは『怪異』って言葉を知ってるかい?」

一方通行「『怪異』つゥと、バケモンとか摩訶不思議なそォいうンだろ?」

忍野「そう、実際すっごく意味の広い言葉でね。お化けも『怪異』、妖怪も『怪異』。
   真面目な信者の方々に聞かれると嫌なんだけど、言ってしまえば天使や、神様だって『怪異』さ。
   つまり、『怪異』ってのは『存在しないのに存在するもの』、『人がいるから存在できる』、
   いわゆる超常現象的なものをなんでもかんでもひっくるめたものなんだよ」

一方通行「で、それがどうしたっていうンだよ? 『存在しないのに存在するもの』つゥのは
     『ありもしねェ話が出来上がっちまってる』ってことじゃねェのか?
     所詮怪異なンざ、民間伝承だとか都市伝説にしか出てこねェ嘘っぱちの存在じゃねェのかよ」

忍野「んー、半分ハズレだね。確かに最初はそうだったよ? ありもしない幻想だった。
   だけどさ、人の間で伝えられていくうちに、生まれちゃうことがあるんだよ。ほんとの意味で
   ――『存在しないのに存在するもの』が」

101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/09(日) 03:14:36.69 ID:sjO7nDgo
盛り上がって参りました。
こりゃ、一方さんのかこいい決めゼリフが聞けそうだ。

102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/09(日) 03:19:26.55 ID:tEiftzIo
今日はまだまだいけます



一方通行「……オカルトもオカルトだな。正直この場面じゃなけりゃ信じてねェぞ」

忍野「うん。とりあえず、今は僕の話を信じてもらえると話が早く進んで助かるよ。
   で、そう、オカルトさ。そんでもって、僕はその『オカルト』の専門家なんだよ」

一方通行「専門家ァ?」

忍野「そ、オーソリティで、ついでに言うとプロフェッショナル。『怪異』のアレコレを解決して、いろんなところを回ってるんだよ。
   学園都市に来たのもその仕事の一つでね」

一方通行「ほォ……学園都市がこンなの入れるってこたァ、そのオカルトも眉唾もンじゃねェってことか……
     で、専門家っつゥと、アレか? 『怪異退治』みたいな事やってンのかよ」

忍野「退治だなんて、まったく考え方が乱暴だなぁキミは。何かいいことでもあったのかい?
   さっきも言ったけど『神様』だって怪異なんだし、こっちに何かあったからって、一概にこっちが悪いなんて云いきれないことがあるんだよ。
   いや、むしろ、怪異に人間になにかするときは、さきに人間が『何かしてる』ことの方が多いからね。
   だから僕はあくまでも『専門家』なんだ。基本的には人間と怪異の間を取り持つだけ、場合によれば荒っぽいこともするけどさ」

一方通行「ン、なら怪異ってのは大概話し合いでなンとかなるもンなのか」

忍野「んー。その楽観的な考え方はどうかと思うけど、ま、そうだねその認識は決して間違いじゃないよ」

一方通行「なら今回は八九寺になンかしやがった怪異を頼むか殴るかでどォにかしたら、八九寺は開放されるって話じゃねェのか?」

忍野「はぁ、ほんとに……キミは人の話を聞かないんだね」

一方通行「あァ?」

忍野「話し合いの余地があるって言うなら、僕がもうやってるよ。なんで僕が『その子に関わるな』なんて言ったと思ってるのさ」

103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/09(日) 03:42:28.01 ID:tEiftzIo
一方通行「なンだ? 手に負えねェほどムチャクチャやるやつなンかよ」

忍野「そういうのなら、話し合いの余地はなくとも殴り合いの余地があるさ。僕だってだてに専門家を名乗ってはいないし、それで全部丸く収まるならそうするさ。
   というわけで、コレはそういう問題じゃないんだよ。追い出すとか、消すとか、そういう問題じゃない」

一方通行「……あァくそ! オマエはまどろっこしィンだよォ! ずばっと言えってンだ!」

忍野「あー、だからさ、この話はそもそも『怪異に行き逢っちゃったかわいそうな八九寺ちゃん』の話じゃないんだよね。
   どっちかって言うと『怪異に行き逢っちゃったかわいそうな一方通行』、キミの話さ」

一方通行「――ってことは」

忍野「んー? なにをびっくりしたような顔してるのかな? キミが『怪異』と聞いてどんなのを思い浮かべたのかはしらないけど、
   はじめに言ったじゃない。『お化け』、つまり『幽霊』だって『怪異』なんだよ?
   その子は『怪異』に行き逢ったわけじゃない。その子自身が『怪異』なんだ」

一方通行「……は、はは、なるほどなァそォいうことかよ」

忍野「うん、理解が早くて助かるよ。
   その子を『迷わせる』なにかに対してなにかするんじゃない。
   だれかを『迷わせる』その子に対してなにかしなきゃいけないんだ」

104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/09(日) 03:58:39.67 ID:tEiftzIo
一方通行「で、その対策の最善策ってェのが、『関わるな』か」

忍野「ま、そういうことだね。関わった相手ならどこに居ようと迷わせる。みたいな強力な怪異ではないし、
   関わりさえしなければ特に害はないってこと」

一方通行「オーケェ、わかった」

忍野「そ、現状じゃそれが最善策だと思うんだけどね。で、途中棄権はどうするのかな?」

一方通行「ハッ、いちいちくどいンだよオマエは。途中棄権なンざありえねェ」

忍野「はぁ……言うと思ったけどさ。あんまり強がるのはよしてくれよ? 僕だってめずらしく暇じゃないんだから」

一方通行「ならとっとと全部吐けよ。まだ『途中』棄権なンだろォが」

忍野「あー、わかったわかった。もう聞かないよ。ったく、ほんとに面倒だねキミは」

105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/09(日) 04:16:27.46 ID:tEiftzIo
忍野「いいかい? そのお嬢ちゃん、八九寺真宵は『迷い牛』っていう怪異なんだ」

一方通行「はァ? 『迷い牛』ィ? なんだよオイオイ、蝸牛ってェのはカンケェねェのか?」

 忍野は頭を振った。

忍野「『怪異』は『人』の文化が発展したから生まれた存在なんだ。だから文化を伝えるもの、つまり『字』が重要なんだよ。
   ほら、『蝸牛』って牛って字が入ってるじゃないか」

一方通行「いやいや、なら他にもあンだろ、天牛(カミキリムシ)なンかもそォだろうが」

忍野「えぇとね、蝸牛の前の字にも意味があるんだ。『蝸』ってあるだろう? コレの『咼』って部分、『渦』の右側だね。
   今回はそいつがけっこう大事になるわけだ」

一方通行「あァ?」

忍野「もともとはこの字、人の間接を模した字でね、窪みに骨がはまってる様子から、『穴』っていう意味を持って他の字に使われるようになったんだ。
   例えば、『禍』。『神』のたたりを受けて、思いがけない『穴』にはまっちゃうってことから、わざわいって意味がついた。
   例えば、『渦』。穴のような水のうずまきって意味だ。ま、これは分かりやすいね」

一方通行「で、それがどォ八九寺に繋がンだよ」

忍野「じゃ、『蝸』をそれを踏まえて見てみると、あんまりいい意味の漢字には見えないよね? そもそも『渦を巻いたまるい穴のような虫』って不吉な意味だし、
   『禍』と『渦』、その二つと接点を持っちゃってる。『渦』のように人を『禍』に巻き込む虫……そんな字に見えないかい?」

一方通行「ンだそりゃあ? こじつけじゃねェか」

忍野「あぁ、こじつけさ。でもね? 誰かがそう『伝えちゃった』から仕方がない。
   晴れて迷い牛、『蝸牛』は『自身も迷子として人を巻き込む、自分の不幸へ人を巻き込み落とし込む』そんな怪異になっちゃった。って訳だよ」

107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/09(日) 05:24:30.59 ID:tEiftzIo
一方通行「……その『迷い牛』ってのがどォいうのかってのは大体わかったけどよォ、それと八九寺、どこに接点があるってンだ」

忍野「なら、一つ確認するよ? さっきキミはその子の昔話を聞いたみたいけど、たぶん『どこかに行こうとしたとき』に亡くなってないかい?」

 一方通行は、八九寺の話を思い出した。母親の所へ向かっている途中に跳ねられ死んだ、少女の話。
 思わず、歯をギリリと鳴らした。

一方通行「あァ……」

忍野「そっか、ならそれで、『自身も迷子』って条件は満たしたね。
   まぁそもそも路上で亡くなる人ってそういう人ばかりだろうから、これだけで『迷い牛』になるってわけじゃないけどさ。
   うん、そこで、その子の名前だよ」

一方通行「『マヨイ』だから『マヨイ牛』です。ってかァ? いくらなんでも安直過ぎだろうがよ」

忍野「それもあるんだけど、もーっといっぱいあるんだよね。
   例えば、八九寺の『八九』は『厄』、すなわち『八九寺真宵』は『迷いの厄』がある名前なんだ」

一方通行「……」

忍野「あと、『八九寺』って苗字は四国八十八箇所に通じるところがあって。『八十九箇所目の寺』ってことになるんだけど、当然ながら、そんな寺は無いよね?
   そこで、『八十九箇所目=〇箇所目』って意味が出てくる。時計でいうところの『一二時=〇時』って解釈だ。
   で、それはつまり『四国八十八箇所巡りの行き帰り』を意味する言葉になる。
   『八九寺真宵』って名前を、今度はそういう視点で見ると『行き帰りで迷う』って漢字の意味になるよね。いやいやおもしろい名前だよほんとに」

一方通行「まったく強引だなァオイ」

忍野「言葉や、漢字の成り立ちなんてだいたいこういうモノだよ。万人が納得できる成り立ちっていうと数えられるくらいしかないんじゃないかな?」

 人を馬鹿にした笑みを浮かべながら忍野は続ける。

108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/09(日) 05:42:41.77 ID:tEiftzIo
忍野「で、名前の『マヨイ』なんだけど、これは元来織り糸が乱れることを言うんだ、だから糸偏で『紕う』なんて書くんだけどさ。
   これって死者の成仏の妨げになるんだよね。
   あと、ついでに『真宵』って漢字。『宵』には、夜になりかけの時刻っていう意味と、夜そのものって二つの意味があるんだけど、
   ここで万葉集第一五巻三六三九句目よろしく、後者の意味で考えると、『真宵』が指すのは『夜の真ん中』、ちょうど二時頃。
   これってさ――丑三つ時なんだよね」

一方通行「丑三つ時……」

忍野「で、これら全てを統括して『八九寺真宵』って名前を見直すと、さぁどうだろう?」

一方通行「こりゃあ確かに……『出来すぎ』だわなァ」

忍野「そーいうことさ。どう? 『迷い牛』と『八九寺真宵』。これら二つを『オカルト』的に考えて、
   これはもう『迷わない方がおかしい』と言っても良いレベルじゃないかな」

 『八九寺』も『真宵』も、『八九寺真宵』も、全てが『迷い牛』に通ずる名前。
 忍野、怪異のオーソリティをして、『出来すぎ』と言わせる名前。
 迷わない方がおかしい。
 迷うのは、仕方ない。

一方通行「確かに、絶対に迷っちまうなよァこれじゃ」

 そう、迷う『のは』、仕方ない。

138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/27(木) 23:27:59.60 ID:0p2BqzEo
では、だらだら投下していきます。


一方通行「でもよ」

 それは、八九寺真宵という少女が、迷い『続ける』理由にはならない。

一方通行「迷ったンなら導きゃイイ。間違えたんなら正しゃイイ。そンだけの――簡単な話じゃねェか。
     『迷わない方がおかしい』ンだとしても、だ。迷った事実に変わりはねェ」

 少女と自分を重ねながら、一方通行は言った。
 迷い、間違いは、正すのが、正解なのだ。
 間違った理由はあれど、間違い続ける理由なんてそうは存在しない。

一方通行「オマエがどンだけ八九寺が迷ったワケをグダグダ言おうが、俺が結局やることはなァンにも変わンねェンだよ」

 迷い子を、導いてやるだけ。
 ただひたすらに、一方通行に道を突き進むハズだった自分を、強引に、脇道へと引き込み迷わせた迷い子を。
 先に『道へと帰った』自分が、手を引いてやるだけ。

139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/28(金) 00:00:30.00 ID:kRsrc5Uo
忍野「うーんなるほど、もう僕が何を言おうが、キミの耳には念仏なんだよね」

一方通行「ハッ、学園都市最高の頭脳を捕まえて何言ってやがる」

忍野「いやいや、結局話をしてもキミはなんにも変わって無いようだし、人を変えない、動かさない言葉なんて意味のない念仏だよ」

 あまり困った風もなく忍野が肩をすくめると、「違いねェ」と一方通行は一笑した。

 乾いた笑い声が路地のビル壁に薄く反射して、消える。
 夕日も落ちかけ、薄暗くなった路地に、二人と一人だけが残った。
 二人の内の一人、忍野はその顔をニヤつかせたまま言った。

忍野「じゃあ……そろそろこの話も終りにしようか」

 先ほどと、なにも変わらず同じ口調で言う忍野に、一方通行も変わらぬ調子で答えた。

一方通行「あァ、俺もさっさと終わらしてェンだ」

 この言葉は人を変えない。この言葉、この確認に意味など無い。
 結末はすでに決まっているのだ。

一方通行「『誰もが笑って帰れる』そォいうご都合主義全開のハッピーエンドでよ」

 それこそが、一方通行の結末。

142 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/28(金) 00:43:16.44 ID:kRsrc5Uo
一方通行「ンじゃ、オマエの根拠を聞かせてもらおうじゃねェか。
     コイツが一生以上のクソ長ェ間迷い続けなきゃなンねェっていうことの根拠をよ」

忍野「ん? あー、やっぱりキミとは話がかみ合わないなぁ。
   僕としてはさっきからのアレが根拠のつもりだったんだけど。根拠ってなんの根拠だい?」

 迷う理由、迷う根拠。迷うのだから迷い続ける。
 原因が事象であり、事象が原因となる迷いの螺旋。
 忍野はそれを説いた。

一方通行「とぼけてんじゃねェクソアロハ、オマエは『八九寺から離れる』ことを『現状の最善』っつっただろォが」

 対して一方通行が聞くのは、螺旋から逃れられぬその『訳』。

忍野「たしかにそう言ったねぇ。そこの迷子ちゃんから僕らが離れる、二度と関わらないようにする。
   それが『現状の最善』だよ。うん間違いない」

一方通行「だから、その根拠を聞かせろってンだ。なンで現状じゃそれが最善なのか、だよ」

 『現状』でなければどうなるのか、『現状』でなければこの螺旋から八九寺真宵を導き出すことができるのか。
 それを考えるためには、まず何が現状をだめにしているのかを知る必要がある。

忍野「なぜ、か。じゃあ例えばの話。迷子ちゃんすら救われるIFの世界のお話をしようか。
   迷子ちゃんが救われる――まぁ最初っから『八九寺真宵』じゃなけりゃよかったとか、
   そもそも、亡くならなけりゃ良かったとか、ありえないのはほっといて――
   その、現状じゃ全く揃ってない条件はいくつかあるよ」

一方通行「条件……なンか儀式でもやンのかよ」

忍野「んー、そういうんじゃないんだよ。儀式なんてやる必要はない。
   結局迷子ちゃんは突き詰めたとしても迷子ちゃんでしか無いんだから、家に帰すのが一番の対策だよ」

 忍野の言葉に一方通行は顔をしかめた。

一方通行「あ? そりゃ無理なんだって今自分で長々喋ったところだろうがよ」

忍野「あー、別に絶対出来ないわけじゃないよ? ただ、『ここ』学園都市じゃ無理だって話さ」

145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/31(月) 00:24:35.34 ID:IiC.zW2o
一方通行「なンだそりゃあ。まさか、科学の街じゃオカルトの対策はできませン。なンてことじゃねェよな」

忍野「いやいや、僕はもともとオカルトの専門家としてきてるんだから。
   一応プロ名乗ってるんだし、働けない場所でお金は貰わないさ。
   そうじゃなくって、ここの地理的状況がまずいのさ」

一方通行「……風水でも関係すンのかよ」

忍野「違う違う、だからそういうのじゃなくてだね。
   ……あー、うん。ざっと説明するよ」

146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/31(月) 00:31:27.13 ID:IiC.zW2o
忍野「まず、迷い牛といっても、無条件に人を迷わせるわけじゃない。
   そもそも『帰りたくない』と思ってないと行き逢うことがないしね」

 一方通行は忍野の言葉に首を傾げた。

一方通行「はァ? 『帰りたくない』だ? 俺ァはそもそも帰るとこだったンだぞ?」

忍野「ああ、帰るっていうのは『住居』じゃない。『家庭』なんだ。
   英語でいうと『house』じゃなく『home』って感じかな」

一方通行「家庭……ねェ」

 久しく聞いたことの無かった言葉を頭の中で反芻する。

忍野「まあ、僕はキミのことを知らないけど、迷い牛に行き逢ったってことは、家庭に対して後ろ暗い気持ちがあるか、
   その家庭自体に問題があるはずだよ。別にそのことを詮索するつもりはないけどね」

 後ろ暗い、問題、一方通行が抱える家庭の不和はそういうものではなかった。
 なぜなら、一方通行の中に、「家庭」から浮かび上がる情景は、何一つなかったのだから。

 だが、忍野の言葉は間違いでない。
 記憶も曖昧なほどの昔に、学園都市へと預けられた一方通行。
 学園都市から外の親からの連絡がなく、もしかすると『置き去り』なのかもしれないが、
 幼いころから研究所をたらい回しにされていた一方通行には判断のしようがなかった。
 もしかすると研究所が次々変わるせいで連絡が付きにくかったのかもしれない、
 そうじゃなく「一方通行」を学園都市が独占したかったのかもしれない。
 小さいうちは家庭に対するというものが一方通行の中に存在していたが、
 あのとき、自分の力が全てを傷つけると知ったとき、そういうものもまとめて全部、氷の中に閉じこめてしまっていた。

 そうして、今も。氷、心の中の間違いが解けた今でも、一方通行は家庭に帰りたい、という気持ちは沸いてこなかった。
 妹達を大量に殺した自分に、そういう形での救いがあるとは思えなかったからだ。
 誰かを救う救世主《ヒーロー》にはなれても、みんなに慕われる主人公《ヒーロー》にはなれない、なってはいけない。
 誰かを「救う」ことに資格なんていらないが、「救われる」ことはそうじゃない。
 その資格を得るのに、明確な境界線なんてものはないが、少なくとも、どんな理由があろうとも、
 云千人を殺した、云千の可能性をつぶした自分が得られるものではない。
 だからこそ、一方通行は頭の中にすらない「家庭」を求めることをしなかった。

153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/31(月) 02:21:53.51 ID:IiC.zW2o
すみません

>>146 と >>147のあいだにこれ挟んで下さい

一方通行「あァ……そういやそうなンかもしンねェな」

 確かに、一方通行は帰ることを拒んでいた。
 意識すらしない、無意識の中で。

 だがそれがどうした。帰るべき、家庭がなかったからこそ八九寺真宵に出会えたのだから。

一方通行(ガラにもねェ、バカなこと考えてやがンなァ)

 自嘲の笑みを浮かべる一方通行に忍野は話し続けた。

忍野「ま、帰りたくないってのは、見えるか見えないかの選択が行われるだけだから、
   たとえ行き逢ってしまっても、なかなかなお人好しでなければ迷惑を被ったりはしないんだけどね」

一方通行「はァ? お人好しィ?」

忍野「そう、キミみたいな、拒まれても――『善意』を押しつける人種のことだよ」

 皮肉をたっぷり塗りつけた忍野が発した言葉、「善意」。

 だが、一方通行はそれに噛み付くことをしなかった。
 ただ、その言葉に違和感を覚え、押し黙った。

 一方通行のリアクションに疑問を抱きつつも、忍野は続ける。

忍野「あと、迷わせるにも課程ってものがある。迷い牛は、何度も言うけどそこまで強力な怪異じゃないからさ、
   段階も踏まずに迷いの結果だけ残す。なんていうどこぞのマンガみたいなことはできない――」

 そこで忍野は言葉を切って、足下に転がっていた小石を一つ、左手で拾い上げた。

忍野「つまり、目的地が近づくと、いろんな角度から干渉しまくって、『迷い牛』が人を迷わせるわけだ」

147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/31(月) 00:37:06.23 ID:IiC.zW2o
一方通行「……具体的になにをどォすンだ」

 一方通行はつぶやくように言った。
 忍野は拾った小石を左手で弄びながら答える。

忍野「うーん、ほんとにいろいろやるんだけど……一番分かりやすいのは、人の方向感覚を狂わせること。だろうね。
   気がついたら目的地を通り過ぎていたり、目的地とまったく逆へ行ってたり、ひたすらに狂っちゃうんだよ」

 人の感覚、認識を狂わし、意識を遮る。
 そこで、一方通行は「善意」の違和感に一つの仮定を導き出すことができた。

一方通行「……脳への干渉……か」

 人の思考の母体。迷い牛はその脳に干渉しているのだろう。

 「善意」という言葉に対する一方通行の違和感もそのせいだ。
 一方通行は元来、「善意」で動かない。完全に「利」のみで動き、それ以外は知ったことではない。そういう生き方だった。
 だが、今の一方通行は、贖罪の気持ちはあれど、完全に「善意」で動いている。
 自分が変わったことも感じているし、理解もしている。
 ただ、それを改めて他人の口で言葉にされると、自分のあまりに急激な変化にやはり違和感を覚えた。

 しかし、精神感応の「能力」は、一方通行に通じないはずだ。
 学園都市には、レベル5の心理掌握《メンタルアウト》を筆頭に、精神感応系の能力者はあまたといるが、
 それら全ての能力は一方通行に干渉することができない。
 なぜなら、一方通行はその干渉の向きを反転させることができる。
 さらに、万一脳の操作までこぎ着けたとして、それは科学の領分あり、科学的に説明できる、
 「脳のなにかの流れの操作」でしかないのだから、そこでの優先権は一方通行にある。
 
 つまり、なにをどうしようが、彼の脳を操作することはできない。

148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/31(月) 01:00:48.74 ID:IiC.zW2o
 そう、できないはずなのだ。

 一方通行は自身の能力、一方通行《アクセラレータ》に意識を移した。
 全ての「ベクトル」を感知し、操作、反射を可能にするその能力。
 その能力は確かに「何か」による脳への干渉を捉えていた。
 非常に微弱ではあったが、その「何か」は、一方通行の能力による対抗の影響を受けながらも、
 反射のフィルターを通過し脳の操作までこぎ着けていた。

 それは、その干渉が一方通行にとって、果ては科学において、まったくの未知であることの証明であり、
 微弱とはいえ、そのような干渉を受ける一方通行が、未だ無敵に至っていないということの証明でもある。

 しかし、今の一方通行に取って問題はそこではない。
 問題なのは、

 「今の」一方通行が干渉を受けていること。

 そして、その干渉の根源が――八九寺真宵、すなわち「迷い牛」であるということ。

149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/05/31(月) 01:02:12.35 ID:IiC.zW2o
 一方通行は唇を噛みしめた。

 干渉されていることが問題なのであれば、それを打ち消す方法はいくらでもある。
 いくら不可思議なものといえども、ここまで持続的に干渉するのであれば、
 パターンを解析し、反射設定に組み込むことくらい一方通行の演算力を持ってすれば造作もない。
 仮に反射設定ができなくとも、脳の流れを制御し、普段の状態に保つことだってできる。

 けれど、そうじゃない。
 一方通行は干渉され続けなくてはならない。
 八九寺真宵――「迷い牛」からの、迷いの干渉を受け続けなくてはならないのだ。

 事実を頭の中で反芻し、何度も確認した。
 そのたび、一方通行の望まない未来が覗き見えた。

忍野「さっきから、苦虫を数百噛み潰したみたいな顔してるけどいったいどうしたんだい? 僕の話は聞く気がないのかな」

 一方通行の様子に今まで口を閉ざしていた忍野が声をかけた。

一方通行「……なンでもねェ。なンでもねェからオマエは喋ってろ」

 おそらく、たぶん、いやきっと――八九寺を救えば、自分は妹達を救えない。

186 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 01:21:05.91 ID:G6DJanQo
>>149

 もし、八九寺からの干渉がなくなれば。

 一方通行は「元」に戻るだろう。最強で、無敵を目指した一方通行に。

 それはダメだ。一万三千の少女を殺してしまう。
 なにをやっても、相手がそれを望まなくとも守ってやると、ついど誓った少女が死んでしまう。

 それに、今干渉を切ったとすれば、そもそも八九寺すらも助けられないだろう。
 向かってくる者は反射、向かってこない者には見向きもしない。それが一方通行だった。
 助けても得することのない八九寺を、一方通行が能動的に助けることはありえない。

 どうすれば、妹達を助けられるか。どうすれば、八九寺を助けられるか。

 考えて、考えて、考えた。破壊の能力しか生み出さなかったその学園都市第一位の脳で、人を、誰かを救うことだけを、ひたすらに考え続けた。

188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 01:23:03.68 ID:G6DJanQo
 一方通行に続きを促された忍野は、苦悶の表情を浮かべ、眉間に深いしわを作るその様子をいぶかしみながらも、話を続けた。

忍野「……はあ、そういうなら聞いてるものとして話を続けるけどさ」

 そう言って手に持っていた小石を自身の後ろの壁に突き立てて、傷を付け始めた。
 ガリガリという耳障りな音が路地に響く。

 音が鳴り終わると、ちょうど「井」のそれそれの線が波打っているような、歪んだ図が壁にできあがった。

忍野「んじゃ、これからするのは『もしこうだったら』。つまりifの話だから、それほど期待せず、ぼちぼち聞いてくれればいいよ」

 そう、嫌味ったらしく前置きして、忍野は八九寺を助ける一つのすべを語った。

189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 01:25:33.66 ID:G6DJanQo
忍野「まず、迷い牛ってのは、そんなに高尚な、頭の良い怪異じゃない。っていうのは何度か言ったよね?」

 だから、と続けて忍野は先ほど書いた図形の上に、今度こそきれいな「井」の字を書き加えた。

忍野「線が一つの道だとして、こういう具合に道を書き換えてしまう。現実的に言えば区画整理かな?
   ともかくそういうことが起これば、頭の悪い迷い牛は、そこの道を通る人が、どうすれば迷うのか判断できなくなるんだ」

 忍野は、用済みとなった石を足下へと投げ捨てた。

忍野「ついでに、記憶力も皆無だから、『書き換えられた道を覚える』なんてことはできない。
   ってなわけで、迷い牛のマイナーな解決法は『迷い牛の知らない道のみを通っていく』ということだね」

忍野「まあもっとも、この方法がどうして無理なのかとかいう理由は僕よりキミの方が分かってるんじゃないかな?
   学園都市はそもそも歴史の浅い街。設計段階から完成形を目指してその通りになってるんだから、区画整理なんて必要ないんだよね」

190 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 01:27:41.38 ID:G6DJanQo
 言うべきことは言ったとばかりに、忍野は口を閉ざした。


 ――八九寺は助かる。

 忍野の話を聞いて、一方通行はまずそう考えた。
 正しくは、一方通行なら、自分なら八九寺真宵を助けられる。

 ようするに、忍野が助けることを不可能だと断定したのは、学園都市の「超能力」を知らなさすぎた。それだけの理由によることだったのだ。
 知っていたとしても、せいぜい巷にあふれている念話能力、念動力などだけで、
 一方通行の能力もせいぜい、その程度のものとしか捉えられなかったのだろう。

 忍野は言った。迷い牛に「記憶」という概念はない。

 迷い牛が発生した。つまり八九寺が死んだそのときに、迷い牛という存在は完結した。
 つまり、迷い牛は、そのとき八九寺に備わっていた地形への記憶のみを頼りに人を迷わせるのだ。
 だから、大災害で大きく地形が変わったり、区画整理が行われて、そのあたりの道がまるっきり変わった場合。
 晴れて迷い牛は迷い牛としての機能を果たさなくなる。

 ならば、そんな"些細"なことならば、一方通行にとって障害でもなんでもない。

 一方通行がその気になれば、大災害級の地形の変化だって起こせるだろうし、
 そんなことをしなくとも、迷い牛が「知らない」道。空とか、なんなら建物でもを突き破りながら進んでやればいい。

 そう、障害はないはずだった。

191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 01:29:33.36 ID:G6DJanQo
 一方通行がそれを実践すれば、今すぐにでも「八九寺真宵」は助けられる。

 だが。

 ――「妹達」は、どうなるのだろうか。

 ここで一方通行が八九寺を助けるのは、それこそ朝飯前だ。

 だが、その後は?

 「八九寺真宵」という"今の"一方通行を形成する一つのピースが抜け去った後は?
 
 きっと――誰も助からないだろう。一方通行は一人残さず、殺しきってしまうだろう。

 "今の"自分は決めたのだ。誰も、一人も死なさないと。

 歪んだ「井」に正確な「井」が重なった妙な図形の横に立つ忍野を置き去りに、
 一方通行は「誰もが助かる」ハッピーエンドを求め、思考の底へと沈んでいった。

192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 01:32:05.84 ID:G6DJanQo
 まず、現状の整理。
 八九寺は「助けられる」。迷い牛の干渉を受けた一方通行は八九寺を「助ける」。
 つまり、八九寺真宵と一方通行が同時にいるかぎり、八九寺真宵は「助かる」。

 次に、妹達。こちらは八九寺ほどシンプルではない。八九寺がいなくなれば干渉が途絶えて、一方通行が持つ「守りたい」という気持ちすら消えてしまうだろう。
 そうなっては元も子もない。どうにかして、八九寺が居る間に、妹達が「死ぬことのない環境」を作り上げなければならない。

 一方通行に「殺されない環境」ではなく、「死ぬことのない環境」。

 そもそも、妹達は捨てられた技術のはずだ、今の一方通行が研究員に、もう絶対に実験はしない。などと言ってしまえば、
 妹達に一方通行がレベル6に至るまでの材料以上の価値はないのだから、さっさと処分されてしまうのがオチだろう。

 それではダメだ、「とりあえず生かしておくか」というところまで持っていかなければならない。
 そうすれば、延命のための調整を受け、ひとまずは生き延びるはずだ。

 ひとまず生きてさえくれれば良い。なにも、永遠を生かそうと思ってなどいない。
 自身の生死を、自分で選んでくれるようになればそれで良い。
 まあ、彼女たちが自分で生きたいと思ってくれれば、それが最良だ。

193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 01:34:57.66 ID:G6DJanQo
 その環境を作るために。
 妹達を殺さないために。
 「とりあえず」妹達に生きてもらうために。
 まずしなければならないことはなんなのか。

 たとえば、どんなに実験続行の判断が難しい状況になろうとも、樹刑図の設計者にデータを入力してしまえば、
 結果は必ずYES or NO。「中止」or「続行」なのだ。

 実験の終了、もしくは何らかの形での再開。前者なら妹達は用済みだろうし、後者であれば一方通行自身が妹達を殺し尽くすだろう。
 学園都市で、絶対的な判断基準である樹刑図の設計者が居る限り、「とりあえず」のような曖昧な答えは出てこないのだ。

 仮に、樹刑図の設計者がなければ、まだ停止した実験に、レベル6への可能性が残されている「かもしれない」と、研究者が判断すれば、
 その生産に二十数億かかった妹達の全廃棄、もしくは転用には踏み切ることなどできないはずだ。


 だから、「しなくてはならないこと」。それは学園都市の頭脳とも言える、最高の量子コンピュータを破壊することだろう。

194 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 01:37:44.77 ID:G6DJanQo
 高すぎるスペックを持ち、様々な組織からねらわれる樹刑図の設計者は、安全のためおりひめI号に格納されている。
 だが、学園都市外でも宇宙開発が活発化している中、学園都市の技術を狙う組織の「上空」に樹刑図の設計者を置きはしないだろう。

 つまり、樹刑図の設計者は十中八九、学園都市上空にあるはずなのだ。

 都合良く、今日は快晴。雲などの障害物さえなければ、大気によって拡散された光を選択除去することで、直接宇宙空間を見ることができる。

 見ることができるなら、見つけることもできる。見つけることができたなら――壊せる。

 自らに触れる、ありとあらゆる力を一点に集中させれば、宇宙空間をたゆたう人工衛星を打ち壊すことなど、一方通行にとって造作もないことだ。


 ともあれ樹刑図の設計者を壊す算段はついた。

 妹達と八九寺真宵が助かって、あとに憂いの残らない。そんな最高の未来へ手が掛かった。

 最高の未来を手に入れるためには、あと「一手」――。

195 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 01:41:40.71 ID:G6DJanQo
 ――――――
 ――――
 ――

一方通行「クッ、ハ、ハハ! クハハハハ!!」

 大声で、喜色に色づく顔を隠すことなく、感情を思い切り笑いにして吐き出した。

一方通行「最ッ高じゃねェか!! これ以上を望む必要もないくらいに最高のハッピーエンドだ!!」

忍野「急に大きな声を上げたと思えば……もう結論は出たのかい?」

一方通行「あァ! 誰もが望ンだご都合主義のハッピーエンドへの道ってのが今見つかったんだよォ!」

 自分が間違っているとは欠片も考えていないその自信たっぷりな口調に、忍野は驚いた。

忍野「……夢を追いすぎて幻覚を見ちゃいけないよ? ほんとにそれは『最高』への道なのかな?」

 短いやりとりの中で、一方通行が頭のいい少年であることは分かっている。
 それだけに、おそらく無理だと思っていた「八九寺真宵」が救われる結末を一方通行が見つけだしたということに、驚いた。

一方通行「ハッ! 俺が『最高』っつゥンだからそれは『最高』なンだよ! オマエのものさしで俺を測ってンじゃねェ」

 一方通行が発するのは、ただ自信のみ。

 方法もなにも教えられていないのに、それだけで忍野は一方通行を信じれるような気になった。

196 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 01:43:28.98 ID:G6DJanQo
一方通行「さァて……オイ八九寺!」

八九寺「え? あ、はい!」

一方通行「ぼけっとしてンじゃねェぞ? もうエンディングの時間だ。物語のヒロインが上の空じゃ締まらねェよなァ」

八九寺「…………ほんとに、私は、お母さんのところへ……帰れるんですか?」

一方通行「当たり前だ、この俺が最初からそう言ってンだろ。いい加減そのネガティブ思考改めろってンだ」

 緩く拳を握って、それを八九寺の頭の上に落とした。

八九寺「あいたっ!」

 こづかれた頭を両手で擦る八九寺。なんとなく動きがコミカルでおもしろく思えて、一方通行は笑った。

一方通行「そォだよ、それでいいンだ。こちとら、オマエの母親の住所聞いたらすぐ行ける状態なンだよ。
     ……つってもその前にちょっとやることがあるンだな。まァ何分か待ってろ。すぐ終わる」

八九寺「やること?」

 ちょっと涙目になりながら八九寺が聞き返した。

一方通行「あァ。世界で一番頭良いとか抜かしてやがる天気屋をちょっとぶち壊すだけだ」

197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 01:45:49.58 ID:G6DJanQo
 それだけ言って、一方通行は八九寺に背を向けた。

 頭を後ろに倒し、空を見上げ、目に飛び込んでくる光を操作する。
 光源から直接地球に届き、大気で回折したのみの光線を拒絶。周りの物々から反射し飛び込んでくる光も、選択し拒絶していく。
 念入りに、他の星々から届く光も拒絶した。そうすると目に飛び込むのは、月といくつかの惑星、そしてたゆたう人工衛星だった。
 屈折率を調整し、拡大縮小を繰り返して――。

一方通行「……見ィつけたァ」

 ニヤリと笑みを浮かべる。
 樹刑図の設計者を捜し当てた。

 拒絶していた光を徐々に受け入れ、光に慣れたところで地面を軽く足で叩く。
 操作されたベクトルが、地面をちょうど一辺3mの立方体に切り離し、浮き上げた。

 それを後ろで見ていた忍野は驚き、一方通行の力の大きさというものを理解した。
 そして、完全に、一点の曇りなく確信した――これなら助けられる、と。

198 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 01:49:03.52 ID:G6DJanQo
 浮き上がった石の固まりに手を当て、再びベクトルを操作する。
 石にかかるすべての力を内側に変換、加える力に対する抗力も内側に変換し、圧縮し続ける。
 すると、十数秒後には、一方通行の手に、切り出したときの半分以下の大きさになった球体が出来上がっていた。

 そこから続けて何かしようとする一方通行に忍野が後ろから声をかける。

忍野「まさか……そこまでけた外れな能力だとは思わなかったよ」

 出来上がった高密度の球体の形を、再びベクトル操作で調整しながら、振り向くことなく一方通行は答えた。

一方通行「初めから言ってただろォが。俺は学園都市第一位、最強の能力者なンだよ。こンなもン朝飯前だ」

忍野「なるほど。たしかに僕の認識不足だったよ…………で、その危なーい武器でなにをするつもりかな」

 忍野の視線の先、一方通行の手の中にはすでに球体の石はなく。流線型の先端を備えた、さながらライフルの弾丸のような物体があった。

一方通行「あァ、うン、そォだな。よし、八九寺ちょっと来い」

199 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 01:52:01.66 ID:G6DJanQo
 一方通行が巨大な弾に手を当ててる方とは逆の手で、袋いっぱいのコーヒーをガラガラ鳴らしながらそう手招きすると、八九寺がその背中にテクテクと歩いてきた。

八九寺「? なんでしょうか一方通行さん」

一方通行「今からちょォっと危ねェことやるからよ、俺の背中ンとこひっついとけ」

 自分の背中を指さしながら一方通行は言った。
 その言葉に、八九寺はちょっとだけ考える。

 先ほどの、ある部分で自分より常識はずれな一方通行の能力を見るに、
 一方通行の言う「危ないこと」というのは「そうとう危ないこと」なんだろうと思う。

 だから、ちょっとだけ考えた結果、一方通行の背中からお腹へと、腕を回してしっかり抱きつくことにした。

八九寺「こ、これでいいでしょうか?」

 ビクつきながら、背中にしがみつく八九寺はなんとなく滑稽であった。

一方通行「クハッ、おォそれで大丈夫だ。忍野、オマエも吹き飛ばされたくなけりゃ俺の背中に隠れてろよ」

200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 01:54:35.58 ID:G6DJanQo
 そそくさと、自分の背中の影へ移動する忍野を見て、一方通行はポキッと気合を入れるように首の骨を鳴らした。


一方通行「さァて、これはどォ使うか、つってたよなァ」


 もう一度、光を取捨選択し、樹刑図の設計者の位置を確認する。
 そして、手作りの大質量ライフル弾を構えた。


一方通行「教えてやるよ」


 あたりに存在するベクトルを感知、数値化、自分だけの現実へ入力する。


一方通行「これはなァ――」


 その情報を元に、頭の中で膨大な演算式を組み立ていく。


一方通行「こォ――」


 そうして、肌に触れる流れすべて、弾自身に掛かる力すべてを一方向に束ね、


一方通行「やって――」


 演算が――終了した。


一方通行「――使うんだよォォオオ!!」

201 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 02:01:48.80 ID:G6DJanQo
 瞬間。弾丸は消え、風景はブレた。

 重力、自転、風、ありとあらゆるベクトルが、ただ力のみへと変換され注ぎ込まれた。

 自転を数秒遅らせ、重力を無視し、天へと突き進む。

 カテゴリー5の最大瞬間風速を遙かに凌駕する、超音速の風を纏いながら、大気圏を越え――。

 ――弾丸は、樹刑図の設計者を打ち抜いた。

202 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 02:03:54.29 ID:G6DJanQo
 一方通行は、探索時と同じように光を操作しつつ肉眼でそれが壊れるのを確認した後、再び光を取り込んだ。
 成功したことで気分が高翌揚していたのか、勢いよく光が目に入り、少しばかりの痛みを覚えた。

 ベクトル操作で目の痛みをどうにかしようとしていると、声がかけられた。

八九寺「もう……大丈夫なんですか?」

 未だに八九寺は、一方通行の腰にがっちりしがみついてる。

 風のベクトルを操作し打ち出したとき、できるだけ進行方向以外に拡散させないよう、
 特に自分の背中より後ろは風が吹かないようにしたが、それでも訪れた若干の余波が怖かったのだろう。

一方通行「あァ、もう離れても平気だ」

 そう言ったはずなのに。八九寺は離れなかった。

一方通行「ン?」

 痛みの収まった目で、八九寺を見るとよほど怖かったのか腰が抜けてしまっている。
 辺りを見回すと、風を吹かせないようにした一方通行の後ろ以外の場所は、
 ものが吹き飛び、ビルはきしみ、すごいことになっていた。
 台風一過。それに勝るとも劣らぬ被害を一瞬で出してしまっていたようだ。

203 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 02:05:02.64 ID:G6DJanQo
一方通行「……そォか」

 いくら長い間迷い続けたといっても八九寺は小学生だ。こんな怪獣スペクタクルなものを間近で見せつけられたら怖いに決まっている。
 別にしばらくしがみつかれて困ることもないか、と思ったが、八九寺を帰らさなくてはいけない。
 どうしようかと考えて、

一方通行「オラ」

八九寺「うひゃうっ!」

 抱っこすることにした。
 ベクトル変換で重力を相殺し、片方の腕の上に八九寺を乗せる。

八九寺「ア、一方通行さん? コレは、な、なんなんでしょうか?」

一方通行「腰抜けてンだろォが、おとなしくしとけ」

八九寺「あ、いや、そうなのですか、なんていうか、恥ずかしいというか」

一方通行「どォせほとんど誰にも見えねェンだから恥ずかしがる必要なんかねェだろ。
     ンなことよりとっとと場所言え。行き先わかんなきゃ流石にどォしようもねェぞ」

 乙女心を「そンなこと」で済まされた八九寺は、しばらく納得がいかなそうにうーっと唸るが、
 一向に表情を変えない一方通行に観念すると、母親の家の場所をつぶやいた。

204 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 02:05:44.47 ID:G6DJanQo
 一方通行は、八九寺の言葉をそのまま記憶の中の地図に照らしあわせる。

一方通行(そンな遠くはねェな。道なりに行って1km、直線距離で700mってとこか)

 場所の地理条件などを加味して、いくつか考えていた「既存の道を使用しない」行き方をそれに照らしあわせる。

一方通行「まァ、問題はねェか」

忍野「……後ろには問題しかないんだけどね」

 一方通行が起こした「若干の余波」で埃まみれとなった忍野が後ろから恨めしそうに言う。

一方通行「お? あァ忍野か、そろそろ移動するぞ」

 悪びれる様子がいっさいない一方通行に、忍野は浅いため息を吐いた。

忍野「相変わらず僕の扱いがひどいなあ。まあ構わないけど。で、どうやって移動するのかな?」

 一方通行は目の前の地面を指差す。

一方通行「こっからまっすぐ行くンだよ」

 迷うことなく言った一方通行が指さした先は、先ほど石を切り取ったときにできた大きな大きな――穴だった。

205 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 02:08:06.80 ID:G6DJanQo
 カツンカツン。音を響かせ、道を"作り"ながら進んでいく。

忍野「……そりゃあ、地下に道を作れば、その道は誰にとっても未知のものになるけどさぁ。
   まったく無茶するよね、迷子ちゃんを届けた後、ここはどうするつもりなんだい?」

一方通行「あ? ンなもん知らねェよ。配電線やら何やら避けた上で崩れねェように道作ってンやってンだ。誰も困りゃしねェ」

忍野「はあ、そんなものなのかな?」

一方通行「そンなもンなンだよ」

 片方の手に大量のコーヒー缶。もう片方には八九寺真宵を乗せて、カラカラ笑いながら一方通行はそう言った。

 光の届かない真っ暗闇のなか、ベクトルを感知することができる一方通行は何の問題もなく進むことができるが、忍野はそういうわけにいかない。
 怪異のエキスパートというだけで、あくまでも普通の、能力を持たない人間なのだ。
 しかしながら、仲良く手をつないで行くというのは、一方通行にとって受け入れがたかったため、
 さきほどライフル弾を作った要領で棒を作り、忍野にはそれを握らせている。

206 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 02:10:19.86 ID:G6DJanQo
一方通行「……っと、ここだな」

忍野「着いたのかい?」

一方通行「あァ、間違いねェ」

 一方通行は立ち止まり、タンッとつま先で地面を叩いた。
 すると、ガバァッ! と低い、唸り声のような音と共にアスファルトの天井が開いた。

 飛び込んでくる光に、一方通行の腕の中にいる八九寺と、使い道がなくなった棒を手放した忍野がほとんど同時に眩しそうな顔をするが、
 一方通行は、ついぞそれを経験しているので光量をあらかじめ押さえておいたため二人のようになることはなかった。

一方通行「オラ忍野、手ェだせ」

忍野「……あ、えっ?」

 出せと言いながら、強引に手首のあたりをひっつかむ。

忍野「っ! うわッ!!」

 そのまま、一方通行は二本の腕に二人を繋いで大きく跳躍し、外に躍り出た。

207 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 02:12:18.47 ID:G6DJanQo
 怪我をしない程度には配慮しつつ忍野を投げ捨てて、一方通行は目の前の"光景"を見つめる。

 頭の中の住所と改めて比較しても、住所に間違いはなかった。

 なかった、のだが。

八九寺「……」

 一方通行は、呆然としながら、同じくなにも喋れない八九寺をゆっくりと、丁寧に下ろしていく。

 ――住所を聞いたときに、一方通行はたぶん分かっていた。
 それでも、なにがどうなろうとココへ八九寺を連れてくるとこが、八九寺にとってのマイナスになるとは思わなかった。
 いや、今もそんなことは思っていない。それでも、想像していた中での"最悪"だった。

一方通行「……忍野、この場合はどォなンだ」

 一方通行等が今いるのは第19学区。学園都市で、もっとも"廃れた"場所。
 用済みとなった前時代の研究施設、宿舎などのが多くが順に、更地へと戻る場所。
 ここも、その多分に漏れることなく、目の前の土地には「なにもない」があった。

208 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 02:14:00.13 ID:G6DJanQo
忍野「イタタ……ん? あぁなるほど。こういうこともあるよね」

 目の前のことよりも、むしろ自分の体を気にしながら忍野は立ち上がる。

忍野「でも――問題はないよ。迷い牛は"頭の悪い"怪異なんだ。目的地に何があろうと"なかろう"と、その場所に着きさえすれば問題ない」

 忍野の言葉を聞いて、一方通行は自分の腕に乗る八九寺に視線を向けた。

八九寺「…………う、ぅぇえ……」

 小さな体が小さく震え、目に溜まった涙が更に八九寺を小さく見せた。

一方通行「……」

 嗚咽を漏らす八九寺を、一方通行は、そっと、少しの振動も与えぬよう細心の注意を払って、地面へと下ろす。
 それが、自分が"唯一"救える者に、できる"最後"のことだったから。

209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 02:15:03.34 ID:G6DJanQo
 八九寺は、一歩、二歩と、よろけるようにして前に出て、一つ鼻をすすった。
 すでに瞼から涙は溢れてしまっており、顎を伝って地面に落ちていく。
 ポタポタと、八九寺と一方通行にしか聞こえない音が響く。
 八九寺の頬に軌跡を残して落ちる滴は、地面にその跡を残さない。
 けれど、その涙は、――一方通行の目に焼き付いた。

 たしかに"生きていない"少女は、それでも、たしかに此処に"居た"のだ。

 一方通行の、自分だけの現実の中へ、その存在を刻み込んだ八九寺は、涙で塗れた顔を両手のひらでぐしぐしと拭いて、振り返ることすらせずに――走り出す。




八九寺「――ただいまっ、帰りましたっ」

210 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 02:16:53.98 ID:G6DJanQo
 音も、光も何も残さず"迷い牛の少女"はこの世から居なくなった。

忍野「……終わったのかい?」

一方通行「……あァ、間違いねェよ」

 目の前で消えた。それだけで十分だったが、加えて一方通行は感じていた。
 自分の中から――「八九寺真宵」が無くなっていくのを。

 だから、一方通行は忍野の方へと向き直って、

一方通行「……忍野」

忍野「うん? なんだい?」


一方通行「――ありがとうよ」


 "柄にもない"ことを、今の内に言っておこうと思った。

 一方通行のその言葉と、共に差し出された手に、忍野はめずらしく、驚いた表情を見せた。

211 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 02:17:38.74 ID:G6DJanQo
忍野「……似合わないことをするんだね」

一方通行「うるせェよ馬鹿。期間限定特別サービスだ、ごちゃごちゃ言ってねェでさっさとしろ」

 はいはいと、軽い相づちを打ちつつも、なんだか懐きにくい猫を懐かせたような、そんな妙な気持ちになって、忍野は手を取った。

 ぎゅっと、お互いが、お互いを認めるようにして、強く握り合った。

一方通行「もう一回言ってやる。ありがとう、たぶん俺一人じゃどうしようもなかった」

忍野「んー、流石にこの距離で何回も言われると恥ずかしいというか、なんというか」

212 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/03(金) 02:19:01.73 ID:G6DJanQo
 忍野をじっと見つめ続ける一方通行の視線に、やっぱり慣れなくて忍野は視線を逸らした。
 だから、その視線にどんな想いが込められていたのかを、忍野は知ることができなかった。

 急速に薄れゆく自分の中の「八九寺真宵」に、一方通行はもの悲しさを覚えつつ。

一方通行「あと、ワリィ」

忍野「ん?」

一方通行「――『サヨナラ』だ」

 直後、バチンッ! と、電力ヒューズが飛ぶような音が鳴り響き、一人が、ちょうど糸が切れた操り人形のごとく、崩れ落ちた。

218 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/03(金) 06:53:30.29 ID:kSWz1u.o
マジで待っててよかったぜ・・・乙。。一方さんはやっぱかっこいいや

しかし樹形図の設計者を打ち落とすとは・・・無茶苦茶やるなぁwwww

222 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/08(水) 00:07:47.34 ID:Bfltitso
化も禁書も好きな俺には最ッ高のスレじゃねェか!

224 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/13(月) 04:27:59.38 ID:1LYrfBMo
 ――するっ、手の中から何かがこぼれていく感触。

忍野「…………はぁ?」

 ぱたり、というよりも、がらがらがらと、盛大に缶コーヒーをならしながら、白髪白肌でとってもとっても白い少年が倒れた。

 なにがどーしてこうなった。忍野には皆目見当が付かなかった。

忍野「……はぁあ?」

 もいちど、気の抜けた声を出したら、ころころすこーん。転がっていった無糖コーヒーの一つが例の大穴に落下。
 ホーン効果で大きくなった音が耳に届いて、ようやく頭が回転し始める。

忍野(道を造って迷子ちゃんを送り届けて……超能力には反作用でもあるのか? いや、つらそうなそぶりは見せなかったし、なにより倒れ方が唐突すぎる)

 ぐるぐると、頭の中を情報が巡っていくが、その情報はどう考えても不足している。
 とりあえず不足分の補填するため、一方通行のそばに屈んで、手首と胸に手を当て脈と呼吸を確かめた。

忍野(……死んでは……ないか)

 脈はきっと正常で、胸もゆっくりと上下している。
 確かな生きてる証。心の臓が、その鼓動を止めない限り、命の終わりはないのだから。

 でも、忍野には、そのうっすらと笑みを浮かべた真っ白な顔が、まるで――"死人"のそれに見えてしまった。

忍野「……おいっ」

 なんだか、妙な胸騒ぎを覚えてゆさゆさと、胸に当てた手で一方通行の身体を揺らす。
 徐々に大きく、擬音で表すのなら、ゆっさゆっさぐわんぐわんごろごろごろごろ。

 揺らすたびに早くなっていく自分の鼓動に急かされて、力を入れすぎ転がってしまった一方通行

 それでも、反応は、なかった。

225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/13(月) 04:29:49.76 ID:1LYrfBMo
 ――――――
 ――――
 ――

一方通行(……ンあ?)

 暗闇の中で一方通行は目を覚ました。いや、正しくは、進化とかれう゛ぉりゅーしょんとかそういうのじゃない意味で覚醒した。

一方通行(……成功……なのか?)

 動かない体に、なにも伝えてこない感覚神経達。外界から隔絶された、まさに「自分だけの現実」。
 知覚できないことを知覚してから、今の自分の「意志」を確認する。

一方通行(いや……この『八九寺に影響されたまま』の意志でものを考えられてンなら、大成功か)

 確かに隔絶された此処で、消えてしまった八九寺からの影響が残っているようには感じられないが、結果としてこの心が残っている。
 それで良いのかもしれない。
 いや、良いんだろう。少なくとも今の一方通行は、八九寺に影響された今の自分が好きなのだから。

226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/13(月) 04:31:32.86 ID:1LYrfBMo
 ――「八九寺真宵」と「妹達」。二つを救うための「あと一歩」。
 それは、「一方通行」を、正しく"永遠の眠り"へ就かせることだった。

 そのために一方通行が行ったことは簡単で、一方通行が何の変哲のない日常でよく行っていたこと。

 「脳内電流」の逆流。

 妹達の死亡原因でランキングを作るのなら、トップ争い必死の、ありふれた殺害方法。
 不規則に規則正しく流れる電流をビリッと乱して、脳の活動をストップ。脳が止まれば、人の鼓動は消えてなくなるのだ。

 もちろんその死の法則は一方通行にも当てはまる。
 脳のすべての電流が逆流し、細胞を焼いてしまえばさしもの第一位でも為すすべはないだろう。
 一方通行を一方通行たらしめる「一方通行」を生み出す脳が止まってしまうのだ。
 結果として残るのはただの「死」だが、失うものはふつうの人間よりも大きいのかもしれない。

227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/13(月) 04:33:24.70 ID:1LYrfBMo
 ただ、それは脳の"すべて"だった場合だ。

 一方通行を一方通行たらしめる「一方通行」を生み出す脳の「演算部分」。
 理論上、不可能なことはないとすら言われる一方通行のベクトル操作という能力。
 一方通行は、ちょうどそこだけを避けるように能力を行使した。

 それさえ残っていれば、一方通行は、自他ともに「一方通行」という化物でいられるから。

 能力をフルに使って脳内電流を制御し、生命活動と思考能力を維持させる。
 そうすることで、自分はあくまで「学園都市第一位の能力を使役する一方通行」でいられる。

 しかし、脳の中で渦巻くすべての電流を解析し、それを完全に再現させる。
 それを行う為に必要な処理量は、普段使う「反射」や「操作」などとはまるで比較にならない膨大な量だ。
 だから、一方通行の能力のすべては「生命活動の維持」という一点に当てられる。
 だから、他の、身体操作や情報の拾得等と言った部分はまったく使えない。

 ようするに、自己の能力で生命を維持する植物人間。
 それは、間違いなく前例のなく、治しようのない、また、実験の中止を人間では判断しようのない、まさしく「中途半端」な状態なのだ。

228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/13(月) 04:41:52.37 ID:1LYrfBMo
一方通行(馬鹿みてェな金を使ってたっつう事実以上に、研究者どものくっだらねェプライドが研究の中止を認めねェだろォな。
     嬉しそうに妹達を殺せ殺せとのたまってた奴らが、生き続けろっつゥンだからなんつーか皮肉なもンだ)

「中途半端」に死んだ一方通行はそこまで考えて、

一方通行(……あァ、なンだ。俺も同類かよ)

 毛嫌いする人間達に共通項を見いだして、心の底からあきれかえった。

 いや、むしろ、根底にある感情ががらりと変わってしまった自分のほうが質は悪いのかもしれない。

 1000人をぐっちゃぐっちゃとじっくり殺して、1000人をビリビリと一瞬で殺して、1000人をズガンと反射して殺して、
 1000人をびちゃっとまきちらして殺して、1000人をベリベリと剥いで殺して、1000人をぐしゃっと叩き潰して、あとは覚えてない。

 そこまでしておきながら、自らのエゴで悪人を止めようという自分こそが、誰よりも最悪の人間なのかもしれない。

一方通行(でもまァ、生かさず殺されずってのは、7000人を殺した殺人鬼にはお似合いの末路かもしンねェな)

 だから、一方通行は死なない。

 一方通行はいつでも、演算を止めれば苦しみを味わうことなく死ぬことができる。
 それをするのは今ではない。

一方通行(7000人×80年=56万年。アイツらの分だけ生きて業を償うってのは……さすがに不可能か。
     だが、『死』は悪人にとっちゃ救い。なら、生きれるとこまで生きてやろォじゃねェか)

 自分に生きるための栄養が供給されなくなるのはいつだろうか。
 それとも、もはや「反射」すらもなくなったこの身体に誰かが刃を突き立てるのか。

 死ぬのはいつかわからないが、絶対に自分から死んでなるものか。

 そんな、後ろ向きに前向きな。それでも確固たる想いを、一方通行は動かない体でただただ脈打つ心臓に誓った。

229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/13(月) 04:49:57.22 ID:1LYrfBMo

fin.


こんな前向きなBADENDでもいいかもしれないなと、思ってしまいましたがやっぱりもうちょっと続きます。

ただ、以前書きましたが私学生でして、今テスト期間でして、今ほとんで書けませんでして。次の投稿は最速でも10月になると思いますでして。

なので、これでお腹いっぱいになれた方はタブを閉じても良いと思います。この後はHAPPYなアレしかありませんですので。

231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/13(月) 04:52:06.70 ID:8P7nkgAO
読めて良かった。良くできた結末だ

233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/13(月) 05:49:14.93 ID:56VyXBI0

この後の展開が凄く気になるな

HAPPYENDになるなら待ってるぜ



posted by JOY at 14:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 禁書クロスSS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。