2010年11月14日

ダンテ「学園都市か」1(デュマーリ島編 )

472 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/12(金) 23:56:36.56 ID:ErduE1so

―――



「地獄―――」



「―――ここは本物の地獄だな」


とある超高層ビルの最上階にて、全身を最新式の戦闘服・武装で固め、
そして左肩の上腕部に『星条旗』のワッペンをつけている一人の男。

彼は、眼下に広がる薄闇の中の超高層ビル群を眺めながら呟やいた。


「…………神も天使もいませんね……少なくともここには」

そんな彼の独り言のような声に、同じく独り言のように言葉を返した斜め後ろにいる同じ軍装の男。
彼らが今いる場所。

そこは、ビルの管理用のフロアであり配線や基盤が至るところに犇いていた。
窓辺の二人の後ろ側には、もう三人同じ軍装の男達がおり、
二人はあちこちの配線・基盤を弄り、一人は携帯用のPC端末を操作しながらマイクになにやら呼びかけ続けていた。

そしてこのフロアには更にもう三人いた。

ウロボロス社のマークが刻印されているパワードスーツを着込んだ男達。
それぞれがフロアのドア付近に立ち大口径の銃を手に警戒していた。

このパワードスーツ、学園都市のそれとはかなり見た目が違っていた。
表面は黒い『筋繊維らしき』構造で覆われており、さながら皮膚体表を剥がされたかのような外観だ。
着込んでしまったら身長も体格も一切わからなくなってしまう学園都市製のと対照的に、
そのスーツの厚み自体も差ほどのものではなく、
黒いシルエットだけにしたら筋骨隆々のボディビルダーと同じくらいに見えるだろう。


そんなウロボロス社製の最新装備をした男達とアメリカの特殊部隊の男達。

彼らは今ここで何をやっているかというと。

途絶された通信の回復を試みているのだ。
このビルの頂点に立っている巨大な通信等を使って。

473 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:01:59.18 ID:tJ.4jHwo

「……状況は?」

窓辺から街を見下ろしていた男。
この質問は何度目になるだろうかと自覚しながらも、背後の部下へと言葉を飛ばした。

「変化無し。全ての帯域で呼びかけておりますが、応答はありません」

「それと……やはりジャミングされている可能性はありません。信号は『全て正常』です」

「…………」

何度聞いても不可解だ。
ジャミング無し。
こちらの信号は異常なく正確に飛んで行っている。

ではなぜどこも応答しない?

軍用回線だけではなく、民間回線にも満遍なく信号を送っているのに。

この島の周囲や天面全てを、
いかなる『線』をも遮断する非透過性の金属壁で囲むでもしないとこんな現象はまずありえない。

この島のそのものが、何かの方法で外界と隔離されたのか。

「…………」


「もしかすると、『外の世界の方』が消えちまったかもですね」


その時、基盤を弄っていた一人の部下がポツリと呟いた。

474 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:04:08.61 ID:tJ.4jHwo

外の世界の方が消えてしまった。

その言葉に対し、誰も返答しなかった。
普段なら『ありえねえ』『バカか』『SFの読みすぎたアホ』といった言葉が返されただろうが。

この時はそんな言葉達は飛び交わなかった。


なぜなら。


誰も否定できなかったから。

現に、この島で彼らは『ありえない』光景をいくつも目の当たりにしてきた。

いまや、24時間常に『薄闇』に包まれているこの島。
星も出ないし太陽も出ない。

雲が無いのにも関わらず妙な質感の揺らぎ、
まるで『面』そのものが鼓動しているかのように見える漆黒の空。


漆黒であり、そしてどこにも灯りが無いにも関わらずボーっとやけに見通しの聞く『奇妙な闇』。


この世のものとは思えない、この猛者達ですら今まで経験したことの無かった異質な空気感。



そして。



あの『異形の化け物』たち―――。

475 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:06:32.01 ID:tJ.4jHwo

この島に送り込まれた特殊部隊は複数あり、それぞれ別の任務を与えられていた。

あるチームは空爆や砲撃の誘導と観測。
あるチームはこの島の防御機構への破壊工作。
あるチームは滞在していたアメリカ要人の保護。

そしてここにいる男達のチームに与えられた任務は『情報の取得』。
この島の厳重なメインサーバーにハードから侵入し、消去される前に『極秘情報』を全て強奪する。

学園都市につぐ先進勢力ウロボロス社、その科学の結晶を本国に持ち帰ることだ。


だが実際にこの島にやってきたら。


何もかもが瓦解した。
当初の計画など全てが吹き飛んだ。

この島での現実離れし過ぎた異常事態に。

一応極秘情報の奪取は成功したものの、彼らはこの島から出れなくなってしまった。
通信も途絶し孤立。

島内に残っていたチーム間で相互に情報を交換したり合流したりしていた矢先の事だった。


異形の化け物達が、突如島全土に溢れ出したのだ。

476 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:08:30.14 ID:tJ.4jHwo

どこからともなく出現した無数の怪物達は、目に付いた人間達を無差別に捕食していった。
当然、この島を守るウロボロス社の武装部隊が出動しそれなりに奮戦したものの、
結果的に一時間もしないうちに壊滅。

怪物の中には、戦車砲を至近距離から受けても死なないような存在までもいた。

そんな怪物とどう戦えと?

普通の対人戦ならスペシャリストだが。


あんな化け物相手にどうしろと―――?


そこを見て、この米特殊部隊のチームは正面から激突することを極力避けるように行動した。

だからこそ今でもこうして『生きている』。

ちなみにその過程で、ウロボロス社兵や科学者、民間人の生き残りともいくらか合流した。

最早こんな状況で人間同士で対立している訳にもいかなかったのだ。
(そもそもウロボロス社の一般兵・一般人達は、自分達が今アメリカと敵対関係にあることさえ知らされていなかった)

彼らはこの異質すぎる狂気の世界を生き残るために、
それぞれの力を出し合って協力する事を決めた。


ただ今のところ。

生き残る、もしくはここから脱出する目処は全く立っていなかったが。

もう街には、人影が自分達以外見当たらなくなっていた。

彼らははっきりと認識していた。


生存者は恐らく自分達だけ。


ここにあるのは血と肉塊と死だけ―――と。

477 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:16:34.86 ID:tJ.4jHwo


「そちらはどうだ?」

窓辺から闇に浸る街を眺めながら、男は下階にて待機している別働隊へと通信。


6名の特殊部隊員、3名のウロボロス社兵、
2名の科学者と道中で保護した8人の民間人がこのビルの1階にいる。

『医療品が底を突きました。ブラボーから一名、民間人が二名の計三名が失血死』

『ウロボロス社の連中に現在棟内の医療品と「食べれる」食料を探させていますが、今のところ収穫はありません』

「……了解。現状を維持しろ」

『了解』

「…………」

どんどんと事態は悪化してきている。
他にも負傷している物がいる以上、医療品の欠如はかなり痛い。
それにもしあの怪物と戦闘となると、必ず重傷者が出る。
(ここの来るまでに何度も襲撃され、その都度死人と重傷者が出てきた)

更に食料と水。

これだけの大都市ならばそこら中にあると思われがちであったが、
この異質な世界はそれをも許してはくれなかった。

蛇口から出るのも排水溝のも、全ての水が真っ黒で異臭漂うドロドロした液体となり。
食料は全て腐っていた。
冷凍庫の中のものまでだ。

水も食料も医療品も無し。

このままでは明らかにもたない。
全てが絶望的であった。


ただ武器だけは、
街に出ればウロボロス社兵が使用していたものが腐るほど転がっていたが。

478 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:19:55.75 ID:tJ.4jHwo

とその時。

一人の部下が、窓辺の男の方へとPDAを片手に歩み寄って来。
そのPDAの画面を男に見せながら。

「さっきから一つ気になっていたんですが……入手したデータバンクの中にこれが……」

「……」

その画面に映っていたのは、円の図形のようなものに奇妙な文字が満遍なく描かれているものだった。
一目見て、誰でもこう思うだろう。

「『オカルト』……ですか?なぜ……こんな代物が最高度セキュリティの中に」

オカルト?、と。

良く見るとそのオカルトチックな図面は、この北島に広がる大都市の地図の上に描かれていた。

「……………………お前は知らんかもしれんが、俺は少しそれらしき『世界』に関わったことがある」

「世界?」

「…………『魔術』、さ」

「……はい?」

「何なのかはともかく最高度セキュリティの中にある。とにかく重要な代物なのは確かさ」


と、男が腑に落ちない表情をしている部下の肩を軽く叩いた直後。


「―――信号が!!!!!!!信号を受信!!!!!!」

PC端末に向かっていた男が突如声を張り上げた。

479 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:21:47.51 ID:tJ.4jHwo
「どこからだ?!」

振り向き、言葉を返す窓辺の男。


「……発信源は近海の超高高度……!!!」

「航空機か?」

「はい……発信源数から見て……機数は恐らく20かと……」

「速度は?」

「……マッハ7でこちらに向かってきています!!!本島上空通過は5分後弱かと!」

マッハ7。

「……」

その言葉を聞いて、男の頭の中にはとある無人機が思い浮かんでいた。
去年米空軍に配備されたばかりの、超音速のスクラムジェット機だ。

だが、その直後に彼の思考が否定される。

「―――音声通信!!!音声通信です!!!」

「(…………有人機……だと?)」

「スピーカーに!」

端末の前の男が手際良く操作。
変換された通信信号が音声となりスピーカーからもれ始めた。


『………射出ポ………まで………5………』


『何………だ!!!………つら………』


『こちら……………被弾!!!!………隔壁……傷!!!!……分解s―――』


『………3!!!………後ろ…………』

480 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:24:48.62 ID:tJ.4jHwo

「(交戦中か……??!)」

ノイズの中に途切れ途切れに聞こえてくる怒号。
そして声の後ろにて凄まじい轟音が響いている。

「(……アメリカではないな……)」

マッハ7に達する性能を誇る実用の有人機なんかを所有している勢力は、男の知る限り二つしかない。
学園都市かウロボロス社だ。

「(……英語圏でもない……)」

そして、飛び交っている言葉は英語だがネイティブの発音ではなく、
アジア系の訛りがある。

つまり。


音声の主は学園都市の者達で間違いない。


「…………暗号化はされていないのか?」

「はい。機密回線ではありません」

「そうか……」

短距離用・機密回線としては使えない変わりに、
最も信号が強く単純でジャミングの妨害等に強い性質を持つ帯域を使っているのだ。
彼らもまた、ここと同じく奇妙な通信妨害にあっておりこの帯域を使いざるを得なかったのだろう。

そしてこれはまた別の点でも好都合なところがある。

「ノイズを除去できるか?」

単純であるため、復元作業も行いやすい。

「しばしお待ちを」

481 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:28:12.05 ID:tJ.4jHwo

「完了、流します」

そしてクリアになった音声が、スピーカーを通じてフロア内に響き渡り始めた。


『―――が多すぎる!!!!対応しきれない!!!』

それは壮絶な声達だった。

『気密維持不能!!!本機はここまd―――』

『「Gwaihir 12」が空中分解した!!!!脱出は無し!!!!!繰り返す!!!脱出は無し!!!!』

『―――クソが!!!!バケモノ共が!!!!さっさとクタバリやがれ!!!!』

『来るぞ!!!!3時方向!!!!』

『命中!!!命中!!!』

聞こえてくる声は激しい交戦中のもの。

「「……」」

男達は無言のまま、
空の彼方の地獄からの声に耳を傾けながら顔を見合わせていた。


『「AIMストーカー」から報告があった!!!目標の島高高度一帯に非常に高密度な「力の壁」を確認!!!』

『機体強度の超過が予想され突破は不可能!!!繰り返す!!!突破は不可能!!!!』

『突入予想時刻は2分30秒後!!!!』


『危険は把握した!だが何があっても編隊を崩すな!!現コースを維持しろ!!!護衛機は輸送編隊を死守せよ!!!!』


『全「天使」の射出完了までコース変更は無い!!!!!』


『このまま突入する!!!!』


『―――射出ポイントまであと4分―――』

482 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:32:39.79 ID:tJ.4jHwo


「(……天使……?)」

何かを島に投下するつもりなのか。
口ぶりから、爆弾等の何らかの兵器を落とすのとはまた違う風にも聞こえる。

『―――「Gwaihir 9」が撃墜された!!!!!脱出は確認できない!!!!』

『―――4時方向だ!!!!!』

『―――どうなってんだよ「こいつら」は―――!!!!!??』


『全機へ告ぐ!!編隊10時から2時方向までを「メルトダウナー」により一斉掃射する!』


『繰り返す!「メルトダウナー」により一斉掃射する!』


『前衛機は輸送編隊後方へと後退せよ!』

「……」

メルトダウナー。
何らかの兵器のコードか?と思っていた次の瞬間。


『―――さっさと退けやがれ!!!纏めて吹っ飛ばすわよ―――!!!!』


奇妙なエコーがかかった若い女の、
異様な圧迫感をもった脳内に直接聞こえてくるような声が響き。

直後、飛び交っていた大量の通信が全て潰れてしまうほどのとんでもないノイズが走った。


「……!!何だ?!何が起こ―――」

何が起こったか?
直後、その答えの一端を彼らは見た。

いや、否応無く見せさせられた。

483 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:35:14.51 ID:tJ.4jHwo

フロアにいた全員がその瞬間感じた。
強烈な圧迫感を。

全身が強張り、寿命が縮んでしまいそうな閉塞感。

そして彼らは、そのプレッシャーが押し寄せてきた方向を反射的に振り向いてしまった。
皆の視線は窓へ、その向こうの外の景色へと向けられた。


それとほぼ同時に。


聳えている街並みの向こう、水平線の遥か彼方。


その果ての果ての空にて、『紫』と『青白さ』の混じった奇妙な光が明滅した。


「―――」


雷が瞬いているように。
良く見ると光の柱のような筋も幾本も見える。
だが、もし雷であったら非現実的な規模すぎる。

ここからならばかなり小さく見えるものの、
そもそも地球は球体である以上、遠くの物は水平線の下に隠れて見えない。
例の学園都市の連中が高高度飛行中であることを考えても、まだまだ直接見えない距離なのだ。

それなのに、光がこうして見えるとは。

つまりあの現象は、
光源から20km四方が光に満たされるくらいのとんでもないスケールの『何か』なのだ。

484 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:37:52.15 ID:tJ.4jHwo
その光をボーっと見つめながら、皆はそれぞれ口を開いた。
覇気の無い、呆然とした声色で。

「…………何だ……あれは……」

「……核……か?」

「核があんな色で光るかよ……」

「……反物質爆弾とか言う代物じゃねえか?」

「いや、パルス兵器の一種に見えるな……あの色……」

「……そういえばオーロラに似てるな……」

「……あの光の筋……何かの光線兵器に見えるが」


「通信の回復はまだか?」

「ただ今……回復しました!」

そして再びスピーカーから通信音声が漏れ始めた。


『―――だ!!!!確認!!!!』

『敵性因子24%の排除を確認!!!!』


『結標ッ!!!私から見て2時方向の護衛機を後ろに「飛ばせ」!!!!邪魔で仕方ねえのよ!!!!』


『無理よ!!!!離れすぎてる!!!!』


『ああクソ!!!こちら「メルトダウナー」だ!!!編隊が密集しすぎてる!!!これじゃあ思いっきり撃てねーんだけど??!!!』


『輸送機以外は「巻き添え」も許可する!!!輸送機だけは傷つけるな!!!!』

『聞こえたな!!!巻き込まれるぞ!!!!護衛機は編隊の後方へ下がれ!!!!至急下がれ!!!』


『退避!!!』

『退避せよ!!!』


「(メルトダウナー……兵器ではなく個人コードか?……それも女か……?)」

485 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:40:30.91 ID:tJ.4jHwo

そして空の彼方が何度も明滅した。
『光源』が接近しつつあるためか、更に激しくハッキリと。


『―――目標島上空、高高度の「力の壁」詳細観測解析結果!!!』

『現コース現速度で突入した場合、衝撃は機体及び電磁シールド強度を超過!!!』

『シールドの喪失、外殻損傷、気密隔壁破断によって突入後3.28秒以内に空中分解します!!!!』

『「力の壁」突入まであと1分!!!』


『クソ!!輸送編隊各機へ!!射出開始時刻を早める!!!データ転送!!!』


『照準補正作業、第三段階から第七段階は飛ばす!!!ムーブポイントが最終着弾補正を行う!!!』

『全機へ告ぐ!現コースを維持せよ!!!繰り返す!!!射出完了まで現在速度とコースを維持せよ!!!』


『こちら「ムーブポイント」!!!位置に付いた!!!「撃ち漏らし」は私が全部拾うから!!!!』


『―――射出ポイント変更。確認。適用補正完了』


『―――「天使」の射出開始15秒前。各員衝撃に備えてください―――』


『―――12.37秒で全天使射出完了予定―――』


『――――――3、2、1、射出開始―――』

486 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:42:46.21 ID:tJ.4jHwo

「(その速度から更に『射出』だと―――?)」

「来るぞ!!!衝撃に備えろ!!!!」

『天使』と呼ばれてはいるが、具体的に何が来るのかはわからない。
だがあの速度から何かが放たれる、そして射出と言うことは更に加速されているかもしれない、
という事を考えると、飛来する物体が何であろうと着弾点が徹底的に破壊されるのは確実だ。

男の放った声に、最精鋭の軍人達は反射的速度でそれぞれの姿勢をとった。

「(頼むから―――このビルには直撃するなよ―――!)」



『―――全天使射出完了。着弾まであと20秒―――』


『こちら「メルトダウナー」。降下する』

『こちら「ムーブポイント」。降下する。今のところ着弾補正の必要なし』


『輸送編隊より「天使」達へ。我々はここまでだ。各員、健闘を祈r―――』


『―――警告。「力の壁」突n―――』


機械的な警告音声を遮る様に大ききな轟音が一度響き。

通信信号はそこでぴたりと途絶えた。

そして。

「―――」

男達は窓の向こうに見た。



超高高度をまるで流星群のように、『砕け散り』ながら過ぎ去っていく大量の光点を。


一方、その空の下。

街には『砕け散らず』しっかりと形を保った『流星』が着弾した。
猛烈な速度で。

487 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:46:35.62 ID:tJ.4jHwo

落下してきた光の玉の数は10個前後だろうか。

いや、あまりにも速すぎる為、『玉』ではなく『筋』と言った方が良いか。

ビルを何本も『貫通』し、地響きと共に巨大な粉塵をぶち上げ。
まるで戦艦からの砲撃が行われているかのような、壮烈な破壊を撒き散らして光は着弾した。


「―――おおお!!!!!!」

幸いこのビルには直撃しなかったが、一番近い着弾地点は500m程先。
その凄まじい衝撃にビル全体が大地震の如く振動し、強化ガラスにも亀裂が走り。
柱や壁に寄りかかったり床に伏せたりなどしている男達の体を揺らしていく。

「大丈夫か!!!?」

窓辺にいた男は耳の通信機に指先をあて、再び下階の別働隊へと通信を飛ばした。

『一応は!!!』

「負傷者は?!」

『出ていません!!』

「我々は今から降りる!!!とにかく移動するぞ!!!準備しろ!!!」

『どこへです!!?』

「北でも南でもどこでも良い!!とにかくまずこの街から出る!!!移動準備だ!」

『了解!それと一体何があったんですか?!』


「ああ、空から―――」


―――何かが降ってきた、そう言おうとした時だった。


窓の向こう、粉塵があちこちに巻き上がっている街の中、『それ』は舞い降りてきた。


『青白い』閃光に覆われた、『紫』色の巨大な翼を生やした『何か』が―――。

488 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:50:29.07 ID:tJ.4jHwo

「―――」

『それ』は、男達の場所から3.5km程離れているビルの頂点にふわりと降り立った。
この距離からでは、大きな翼は見えるものの翼を生やしている物体が一体何なのかは判別できなかった。
だが視覚的にそうであっても、男達はその規格外の異形の力を感じていた。

本能的に、だ。

遠くの光り輝く翼から目を離せない男達。


そして舞い降りてから数秒ほど経った頃、
光り輝く翼がとまっているビルの根元周辺にて、なにやらゾワリと黒い塊が動いた。

「…………あれは……」

無数の何かが集まった異質な『群れ』。
遠目でもわかる。

あれは無数の異形の化け物の集まりだ、と。

それらが寒気立つような動きでビルを急速に這い上がっていき。

そして翼に触れるかという瞬間。

「―――」

翼の『根元』にある何かから、青白い光の柱が数十本も出現した。

一本一本が10m近くの太さがあるかもしれないその光の柱。

群がってきていた無数の化け物共を一気に薙ぎ払い吹き飛ばし、
それでも留まらずに周囲のビルを幾本も貫通し、遥か彼方まで延びていった。

そして寸断されたビルの上辺が、ズルリと滑り落ち倒壊していく。

「―――…………ッ……」

男はその一部始終をはっきりと見ていた。

見ていたのだが。

『―――応答を!!!何があったんです?!!!』

「…………」

通信機から響いてくる問いに対し、返す言葉が見つからなかった。
この異質すぎる光景と感覚を、どう説明すれば良いのかがまるでわからなかったのだ。

489 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 00:56:27.95 ID:tJ.4jHwo
と、その時。


「―――『天使』―――……」


部下の内の一人がそう小さく呟いた。
十字を胸元で切りながら。

その単語。
先ほどの通信の中で幾度と無く交わされていた言葉だ。

「…………」

そう、その言葉。
男はそこでようやく、あの『光の翼』を表すに相応しい言葉を見つけた。
難しいことは無かったのかもしれない。
あの通信の中で既に答えが出ていたのかもしれない。

アレが何なのかは。

『応答を!!!どうしたんです!!?今の轟音は!!!?』



「―――…………『天使』だ……」


男は光り輝く翼を見つめながら、ポツリと呟いた。
恐怖と喜びと、希望と絶望が入り混じった奇妙な表情を浮かべながら。


『―――…………は?』



「………………『天使』が舞い降りて来たのさ―――」



「―――この地獄に。ちょっとアブねえ感じのな―――」


―――――――――――――――――――――


               デュマーリ島編


―――――――――――――――――――――
490 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/13(土) 00:59:23.44 ID:wYlumsAO
うおおおぉぉぉぉおぉおぉおぉおおおおぉぉ
麦ストル!!!!!!

504 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/14(日) 23:52:40.97 ID:SzF6rqoo
―――

デュマーリ北島。

天井まで50mはあろうかという、暗く広大な地下倉庫。
ここは倉庫であり『通路』でもある。
幅は200m程だが奥は延々と続いており、
学園都市第23学区の地下駐機場にも似ている構造をしている。

灯りは一切付いておらず、広大な空間は闇に包まれていた。

ただ、灯りが無いにも関わらず物体が良く見えるという、この世のものではない奇妙な『闇』であったが。
そして肌が焼け付くような、それでいて凍て付いてしまいそうな魔の大気。

そんな忌まわしき空間となっていたこの倉庫、その冷たい金属の床の上で。


佐天「…………う………………ん…………?」


目を覚まし、頭の鈍痛に顔を顰めながらも起き上がった佐天。

佐天「―――へ??」

そしてその目で周囲を見渡せば当然。


佐天「―――えっ!!?ええっ!!!!!??ここどこっ!!!!?」


豹変した光景に驚く。
何の変哲も無い普通の反応だ。

505 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/14(日) 23:56:59.57 ID:SzF6rqoo
ルシア「―――静かに」

その直後、佐天のちょうど背後から響いてきた、聞きなれた友の声。
声色は普段とは明らかに違い、鋭く尖っていたが。

佐天「……!!!?」

佐天は座ったまま身を捩り、ルシアの方へと振り向いた。

幼い容姿の赤毛の少女は、
佐天の方へ横顔を向けている形で仁王立ちしており、
延々と続くこの倉庫の奥の方をジッと見つめてた。

無表情で。

鋭く冷徹な瞳で。

そしてその隣にて、しゃがんで張り詰めた表情でルシアとは逆の方向を睨んでいるキリエ。

佐天「何が―――」

キリエ「シッ。静かに…………」

事態を今一つ掴めず再び大きめの声で口を開きかけた佐天、
キリエの小さくも鋭い声に即静止させられた。

506 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/14(日) 23:58:59.60 ID:SzF6rqoo

ルシア「私達、飛ばされました」

ルシアが奥の闇を微動だにせず睨みながら、小さく口を開いた。

佐天「……飛ば……された?」

ルシア「……魔の力によってです」

ルシア「ここは学園都市ではありません」

佐天「………………っ……!」

普通ならばここで理解できずに何で?なぜ?と混乱してしまうだろう。

だが佐天の思考はそこまでは乱れなかった。

確かに驚きだが、思考停止してしまうほどではない。
前にも『鏡の世界入り』という奇妙な体験はしている。

ただ、何も精神的ストレスが無かった、という訳ではない。
むしろ彼女は凄まじいストレスを感じていた。


佐天「(……じゃ、じゃあ…………ま、『また』―――?)」


『理解できず混乱』ではなく、『理解した上での恐怖』が。

『知っている』からこそ、『本当』に怖いと思えるのだ。

脳裏に鮮明に蘇る『デパートでの悪夢』。


佐天「(――――――)」


それが彼女の体を固く縛った。
冷たく巨大な恐怖という『手』が心を鷲掴みに。

507 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:00:32.51 ID:1tlWYyYo
キリエ「……ルシアちゃん……ここはやっぱり……」

じっと闇の向こうを見つめながら、恐る恐る背後のルシアへと言葉を放つキリエ。

ルシア「デュマーリ島です。間違いありません」

それに対し、既に臨戦態勢のオーラを纏っているルシアの冷徹な返答。

キリエ「…………とにかく移動しましょう。ここの転送地点にいたらすぐに見つかって―――」

ルシア「いえ」


ルシア「―――もう見つかってます―――」


キリエ「―――」


ルシア「それと残念ですが隠れ場所はありません」

ルシアはキリエの案に対し絶望的な言葉を返し。


ルシア「―――この島には『死角』がありませんから」


そして『経験』と目で見えている情報からの事実を伝えた。

無表情で、冷酷に淡々と。

508 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:02:37.74 ID:1tlWYyYo

キリエ「…………じゃあ…………どうする?」


ルシア「少し待っててください。今考えてます」

『故郷』の『古巣』を望む、大きく見開かれているルシアの瞳。
そこにははっきりと映っていた。

この地下倉庫も、そしてその向こうも。
この島全体を覆う魔の息吹を。

この島は外界と隔絶され、完全な魔境と化している。

ここはアリウスの『腹の中』だ。

抜け穴は無い。
隠れ場所も無い。

どこへ向かっても、どこにいてもこの『網』に必ずかかってしまう。

ルシア「…………」

この島から離脱する為、普段使っている悪魔の移動術ももちろん試した。
だがここはもう『人間界』とは呼べない、全く別の界と化していた。

509 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:03:29.25 ID:1tlWYyYo

その為、現在地の座標の算出もできず『穴』も構築できなかった。
更にレディやトリッシュへの通信魔術も全く繋がらない。

ルシア「…………」

この魔境はアリウスの手が入っているのだ。
妨害工作がしっかりと練りこまれててもおかしくはない。

ルシアは身をもって知っている。

あの男の妥協の無さを。

恐らく、この妨害工作は非常に強固な『防護術式』に守られており、
端から術式に浸入して解除するのは困難だ。


『コア』を破壊しない限り―――。


そしてもちろん、その『コア』の周囲はとんでもない力か何かの存在が守っているはず―――。


キリエと佐天を連れたままそんなところへ行くことなどできない。

510 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:04:59.31 ID:1tlWYyYo

ならば、残された道は一つ。

二人を物理的に島の外へと運び出すしかない。

ルシア「(…………)」

しかしアリウスの事だ。
そう易々とこの魔境の外へ出れるようにしておくとは考えられない。
入るのは容易く、出るのは非常に困難であるのは確かだ。

それに既に見つかっている以上、必ず追っ手が来るし待ち伏せもされるだろう。

だが現時点では、ルシアはそれしか思いつかなかった。

ルシア「(…………)」

この二人をこの魔境から出す方法は。


ルシア「…………あなた達を島の外へと『運び』ます」

キリエ「…………」

ルシア「ここから一番近い港は北へ3km。そこから船で」

ルシア「航空機は危険ですから」

キリエ「……ええ」

511 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:06:35.56 ID:1tlWYyYo
キリエ「ルイコちゃん、さあ、立って」

硬直し座り込んでいる佐天の手を優しくとり、立ち上がらせるキリエ。


ルシア『―――急ぎましょう。「彼ら」が来ました』

その時ルシアが、瞳を輝かせてエコーのかかった声で追っ手が迫っている事を告げ。
両手を軽く広げ、床に魔方陣を出現させ。

そこから出現した二本の曲刀を手に取った。

ルシア『では、あなた方を運びます』

次いでルシアの背中から光が溢れ、一対の巨大な白い翼が出現した。
ルシアは半魔人化し、魔人化時の翼だけを出現させたのだ。

ルシア『動かないで下さい』

そしてルシアは二人に背を向ける形でその巨大な翼を広げ、彼女達を包み込んだ。
まるで親鳥が翼で雛を優しく抱き上げるかのように。

その体制は、ルシアが背負う形であったが。

ルシア『苦しくありませんか?』

キリエ「うん。大丈夫」

佐天「…………」

ルシア『では行きます』


ルシア『「少し」揺れますが、我慢してください』


そしてルシアは、翼に包まれた二人を背負いながら床を強く蹴り出し。
闇の中へと飛び込んでいった。

512 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:08:58.80 ID:1tlWYyYo
追っ手はその直後、すぐに現れた。

ルシア『―――』

肌に感じるざわめきと、
延々と続く倉庫の向こうにひしめく無数の赤い光点。

悪魔の移動術が使えないのは、
ルシア達だけではなくここにいる全ての悪魔に共通していることなのだろう。

恐らくアリウスの直接的な意志が無い限り使えないのだ。

ルシア『―――』

その制限はある意味好都合だ。

移動術の制限が無かったら、
追っ手はどこでも即湧き出てくる。

だが制限があれば。

『足』だけが物を言う今の状況ならば。

『物理的に距離』を離せば、その『文字通り』距離を置けるのだから。


逃げ切る事も充分可能だ。

513 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:11:04.97 ID:1tlWYyYo
ルシア『―――シッ―――』

小さく息を吐き。


眼前に迫った無数の悪魔の群れへと、ルシアは真っ直ぐに飛び込んだ。


そして両手に握っている二本の曲刀の柄を緩やかに、かつ神速で振りぬき。

円を基調とした無駄の無い剣捌きで悪魔の『壁』に穴を切り開いていく。

放たれる金色の斬撃。
響く魔の咆哮の重奏をバックに、舞い散る悪魔の首手足と体液。


一滴も返り血を浴びず華麗に、
かつ猛烈な速度で、『穢れなき許されざる魔天使』は駆け抜けていった。

群がる魔に死を与えながら。

背中にある、大切な大切な儚い命達を守るべく。


ルシア『―――』


そんな中、ルシアはとある理由で周囲全体に意識を集中していた。
周りの悪魔達に向けてではない。


『一つ』。


気になる『悪魔の視線』があったのだ。

514 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:12:09.92 ID:1tlWYyYo
ここに群がってきている下等悪魔のものではない。

アリウスのものでもない。
あの男は今現在、こちらの状況を逐一見ているだろうが、
アリウスはそれ以前に悪魔ではなく人間だ。

こんな視線ではない。

今、ルシア達をどこからか観察しているその視線は、明らかに純粋な悪魔のもの。

それもかなり『強大』な。

ルシア『(―――どこから……?)』

群がる悪魔を切り捨て進みつつ、周囲をくまなく観察するルシア。

この倉庫内に感じるのは、大量の下等悪魔と背後の二人の鼓動と『闇』だけ。


ルシア『(―――闇…………)』


そう、『闇』。


    シャドウ
―――『 影 』だ。

515 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:13:14.81 ID:1tlWYyYo

『影』。

そこに意識が向いた時。

ルシアの悪魔の勘が大きくざわめく。

そしてゾワリと全身を突如這い回る悪寒と共に勘が叫ぶ。


―――来る―――、と。


ルシア『―――』


『影』。


それに類し、今のような攻撃を繰り出してくる存在はルシアの知る限り『一種類』しかいない。
いや、間違いない。
以前アリウスの下にいた頃、試験的に戦わされたことがあるのを記憶している。


『シャドウ』だ。


『闇獄』に住まう、『影』で体を構成している戦闘種族。

特定の条件下において、刀剣等の近接武器攻撃を
その威力関係なく無力化してしまうという特殊な能力を有する、非常に厄介な存在。

とは言うものの、有する力自体は高くても高等悪魔『程度』であり、このルシアにとっては別段敵でも無―――。


―――かったはずだったのだが。

516 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:14:56.85 ID:1tlWYyYo

ルシア『―――ッ―――』


この『シャドウ』からと『思われる』攻撃は、明らかにルシアのその『知識』と『経験』とは合致しなかった。

いや、攻撃の性質や特徴は『シャドウ』と全く『同じ』だったのだが。

『スケール』が違った。

『力の強さ』が。


肌で否応無く感じる『存在の格』が―――。


これは間違いなかった。

相手は高等悪魔『程度』ではない。

これ程の濃度の力―――。


―――確実に『大悪魔』だ。


そう彼女がこの異様な殺気の源を認識したと同時に。

この倉庫全体に立ち込めている『闇』そのものが『全て』動いた。

その『影』らがズルリと形を変え。

『無数の切っ先』となる。

四方八方360度全方位、
天井、壁、床、全ての面が剣山に変わってしまったかのように。

そして凄まじい速度でその無数の刃が伸びた。

ルシアを正確に目指し。


彼女を貫くべく。

―――
517 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:17:34.72 ID:1tlWYyYo
―――

崩れ傾いたビルと、
巻き上がる巨大な粉塵。

そして悪魔達の断末魔と、
その大量の肉塊が300m下の地上に叩き落ちる地響き。

そんな情景の中。


麦野『…………』


『許されざる女神』、『穢れ危うい天使』と化している麦野沈利が佇み立っていた。
とある超高層ビルの上に聳え立つアンテナ塔の頂点に。


左目を赤く輝かせ、右手に白銀の魔剣アラストルを握り、
背中から表面が『青白い閃光』に覆われた巨大な『紫』の翼を生やし。

右目の眼帯の隙間から青白い光を迸らせ、
左肩から少し離れた宙空、スーツの袖が焼けない位置に浮かび上がっている青白い巨大なアーム。


魔界の力と人間界の古の力が、完全に融合した異質極まりない存在。


それが今の彼女だ。

518 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:20:03.20 ID:1tlWYyYo

麦野『……滝壺。能力展開を許可するわ。全人員のAIMを掌握しろ』

街を見下ろしながら、麦野はポッと宙に向けて言葉を放った。


滝壺『…………うん…………はい。完了したよ』


そして麦野の脳内にて響く滝壺理后の声。


現在の麦野の異質な力には、滝壺は干渉できない。

しかし信号を認識できる以上、
そして麦野側が許可してくれればある程度の割り込みは可能だ。

知覚共有等の高度なデータリンクは不可能だが、
既存の通信機程度の簡単な音声送受信ならば何とかできる。


麦野『私を省く生存人員数を報告しろ』


滝壺『…………むぎのを省いた幹部を含めて91人』


滝壺『降下したときに……すこし減ったよ』


麦野『…………』

519 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:23:16.71 ID:1tlWYyYo

結標『―――あ、それで報告』

その時、麦野と違い完全に滝壺とAIMリンクしている結標の声も響いてきた。

結標『最後に射出されたシェルなんだけど、間に合わなかったみたい。「上」の「力の壁」を掠ったせいで外殻損傷、』

結標『で、乗ってた内の「生きてた」2人は私がすぐ地上に飛ばしたんだけど、残りは無理だったわ』


結標『外殻損傷した時点の破片で即死してたから』


麦野『…………了解』


麦野『……レールガン。どうだ?漏らしてない?』


御坂『―――誰がッッ!!!』

麦野、結標とはまた違う接続方法の御坂からも、生存を示す声。


麦野『土御門?そろそろ死んだか?』

土御門『あー、あー、聞こえるか?悪いが生きてるぜよ』

520 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:25:42.46 ID:1tlWYyYo
滝壺『つちみかどのAIM、すごく弱いから捕捉しにくい』

土御門『…………悪かったな』

麦野『重要株は欠けてない。人員も90%以上は確保してる』

麦野『サブプラン移行の必要は無し。ファーストプラン可能と見る。異論は?』

土御門『無し』

結標『無し』

麦野『よし、各チームに術式のランドマークを一つずつ虱潰しに調査させろ』

土御門『気になる物・奇妙な物を見つけた場合は俺に』

滝壺『はい』

土御門『俺は俺で気になる地点を当たっていく』

結標『私は全部隊の保全管理と直接指揮。滝壺もサポートね』

滝壺『はい』

麦野『私とレールガンは、まずは「遊軍」となり片っ端から悪魔を狩る』

麦野『何かあった場合は私らに繋げろ。近い方が現場に急行する』

滝壺『はい』


麦野『OK、滝壺。全員に伝えろ。ファーストプラン開始だ』


滝壺『うん、任せて』

521 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:28:29.81 ID:1tlWYyYo

結標『あ、それと、諸々が確定するまでやたらに街破壊しないでね』

麦野『私?私に言ってんの?』

結標『そうよ。街の総破壊は一応土御門の判断の後だから』

麦野『でもさ、群がってきたら纏めて吹っ飛ばすに限るでしょうが。ちまちま削ってなんかいられねーっつーの』

麦野『考えて見ろよ。私らの部下はコイツらのせいで死ぬハメになった。殺しまくって何が悪い?』

結標『…………ん、ちょっと待って。「お客さん」が来た―――』

と、その時。


麦野『―――』

悪魔の感覚で、
麦野は遠方にて蠢く大量の悪魔の群れを察知。

その方向へ目を向けると、2km程先のビルに大量の悪魔が群がっているのが見え―――。


―――た次の瞬間。


ビルが悪魔の群れごと一瞬で『消失』した。

キレイさっぱり、特に振動等も音も無くと。

522 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:33:41.15 ID:1tlWYyYo

麦野『……』

そしてその消えたビルと悪魔の群れがどこに行ったかと言うと。

答えは直後に『降って』来た。

突如天高く、そのビルがパッと『出現』。

300m近くもあろうそのビルは、遥かな高みから猛烈な速度で垂直に降って来、
街中のど真ん中へ激突。

地鳴りが響き渡り、大気が振るえ街全体が大きく振動した。

麦野『(…………へぇ。中々……)』

あれが『誰』の仕業なのかすぐに悟った麦野。
ぶちあがった粉塵と飛び散る破片を眺めながら小さく笑った。

そして放たれてくる力を肌で認識し。
物質的な『見た目』だけではない、その確かな力の強さを認め。


ただ、一つ気になる点があったが。
あのビルの落下速度。

重力に従うだけでは、ビルはあそこまで加速はされない。
どう見ても重力以外の『別なる何か』が加わっていた。

麦野「(……ま、別にいいわ)」

だがまあ、別に麦野にとっては興味がない事だ。
確たる戦力ならばそれで良い。
その攻撃原理など知ったこっちゃない。

523 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 00:35:37.25 ID:1tlWYyYo


結標『―――…………まあ、ちまちま削ってなんかいられないってのも一理あるわね』


そして、あの破壊の『元凶』からの声が再び響いてきた。

麦野『でしょ?』

結標『それに、やっぱり私もあんの化け物共殺し捲くりたいわ。ムカムカしてきた』

麦野『ね?』

御坂『ちょっとアンタ達!気持ちはわかるけど「生きてる仲間」に巻き添えでたらどうすんのよ!気をつけてよ!?』

土御門『俺も言わせて貰うぜよこの怪物共が。あまり街を壊すな。俺がゴーサイン出すまでは』

麦野『わかってるって』

結標『はいはい』


土御門『…………よし……じゃあ早速……』

結標『……ええ。ここからね』

御坂『OK…………やってやるわよ』


麦野『―――気合いれな。「本番」だ』

530 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:11:30.36 ID:ObWO5UQo
―――

白井黒子は、薄暗い路上の真ん中に静かに立っていた。

冷めた目で己の足元の地面に視線を降ろしつつ。

レディから貰った刃渡り5cm程の小さなナイフを、
指の間に挟み込むようにして握り締めながら。

拳の指の間から突き出しているその刃、
白銀の先端から滴る、『赤黒』とも『緑黒』ともいえる奇妙な色合いの濃い液体。


それは『体液』だ。


先ほど彼女が狩り取った悪魔の。


黒子「…………」


この地において、白井黒子はやけに落ち着いていた。

これは一種の諦めなのか、勇気なのか。
それとも感覚が麻痺したのか。
どれにせよ、少なくとも彼女の精神はこの空間に適応してしまっていた。

彼女にとっての日常と非日常が、今や完全に反転していた。

『いつ』それが反転したのか。

二ヵ月半前、黒子にとって『始まり』であるあの凄惨な殺戮現場を見た時からか。

ゴートリングの放つ恐怖に潰れ、
悪魔と言う存在の格を叩き付けられた時か。

勇気を出して奮い立ち、御坂と共に悪魔を狩りブリッツに立ち向かった時からか?

どれがきっかけでどれが決定打なのか、
今考えると、思い当たる節が『多すぎ』てわからない。

531 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:13:15.13 ID:ObWO5UQo

ただ、どの時点で既に完全に変わっていたのかはわかる。

約一時間前、学園都市から乗り心地の悪い超音速機で飛び立ち。
生きた心地がしない、人造悪魔達のとんでもない猛攻の中をなんとか潜り抜け。
8人乗りの砲弾型のシェルに詰め込まれて撃ち出され。

この地獄へ着地したその時には、
既に黒子の『生きる世界』は変わっていた。

そしてそれこそが、黒子の望む世界だった。

少し前までは嫌悪し距離を置きたかがっていたが。

ここ最近は踏み入りたくて仕方がなかった世界だ。


ただ、決してその狂気や混沌・死に心惹かれたわけではない。
むしろ嫌悪感は常に増大しつつある。


彼女がこの世界に入りたかった理由は一つ。


黒子「(―――お姉さま)」


黒子「(わたくし、今実感しておりますの。ようやくこのわたくしめも―――)」


黒子「(―――『そちら側』の一員となれましたの)」


ただ、最愛のお姉さまと『同じ一緒』の世界で戦いたかったから。

532 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:15:22.01 ID:ObWO5UQo

彼女の前、1m程の所の地面の上に、小さなぬいぐるみ。
3〜4歳の女の子が胸に抱いてそうな、可愛らしいぬいぐるみだ。

いや、『可愛らしかった』と過去形で言うべきだろう。

何せ、今のソレは真っ赤に染まっていたのだから。
真っ赤に染まった子供用の玩具は、
そのギャップが相まって戦慄してしまうような不気味さを漂わせていた。

黒子「…………」

ぬいぐるみの横には、
『主』のものであろう小さな小さな靴の片方が転がっていた。

そして地面には。
同じく『主』のものであろう、『引きずられた血痕』が生々しく付いており。

その赤い道筋は黒子の足の下を通り、彼女の後方4m程のところ、


黒子「…………」


そこに横たわっているアサルトと呼ばれる悪魔の、『頭部の無い』死体の方へと続いていた。


黒子の手にある刃、その表面を伝う『体液』の『源』だった肉塊へと。


黒子「……………………」

533 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:18:44.82 ID:ObWO5UQo

と、そう彼女がぬいぐるみの『幼い主』を襲ったであろう惨劇に、
静かに想いを巡らせていた時。

黒子「…………」

彼女はふと背後に気配を感じた。
そしてその瞬間彼女の頭の中には、
接近物体のデータが瞬時に浮かび上がった。

強化調整以来、異様に研ぎ澄まされている五感、そこに能力が加わった『六感』。

更に滝壺を介した演算補助で底上げされている今。

彼女の能力は、自身から20m以内ならば目視せずとも、
認識さえできれば対象の座標、重量、形状、体積を即座に把握できる程にまでなっていた。



黒子「…………」

接近してきた気配の源は何か。
データで直ぐにそれは判明した。

同じ機・同じシェルに乗っていた同じチームのメンバーだ。


黒子は今、8人程のチームに所属している。

「…………ひどい所だよね〜」

そのメンバーの一人、やや茶色かかったショートヘアの女が、
黒子の隣に並び立ちながらぽつりと呟いた。

整った顔立ちに人形のように白い肌、身長は御坂と同じくらい、
身なりの雰囲気から見て高校2、3年生か。

534 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:21:57.09 ID:ObWO5UQo

黒子「……」

「…………ちっちゃい子?」

女は黒子の横から、彼女と同じように目の前の地面に転がっているぬいぐるみに目を移し、
再び小さく呟いた。

黒子「…………恐らく」

「…………へえ…………」

黒子「……」

「ところでさ、キミ、テレポーターなんだ?」

黒子「……はいですの」

                          C Q H B
「やっぱり。キミだよね、レベル4勢の『近距離高速戦』適性テストで、トップタイム叩き出したジャッジメントから来た子って」

黒子「……まあ…………」

「さっきもすごかったもん。しゅぱぱぱッ!!!って。何やったのかぜんぜん見えなかったし。キミ、名前は何て言うの?」


黒子「……『Charlie 4』」


「いや、そうじゃなくて『名前』……いやいいか」

「こんな所に来ちゃってから『名前』知り合ってもしょうがないしね」


「『他人』の方が良い ってね」


黒子「…………」


「ということで、知ってると思うけど改めて。私は『Charlie 6』。よろしくね」


黒子「…………よろしくですの」

535 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:24:14.40 ID:ObWO5UQo
とその時。

黒子「―――」

脳内にて、突如『地図』とその『座標』、
それに関する概要文が浮かび上がった。
『AIMストーカー』から送られてきたデータだ。

「全員、AIMストーカーからの目標ポイント座標を受信したな!行くぞ!」

そして直後、黒子の背後25m程の場所から響く、図太い声。

         AIMストーカーの支援
「俺達には『 天 使 の 加 護 』があるが万能じゃあない!気を抜くんじゃねえぞ!」

このチームのリーダーである黒髪に短髪の体つきの良い男のものだ。
黒子の隣の女と同じくらいの歳であろう。


「じゃあ……行こうか」

黒子「…………はいですの」

隣の女と共に、踵を返しメンバーの後に続くべく歩みだそうとしたその瞬間。


滝壺『ちょっとまって「Charlie」。そっちに34個の反応が北から急速接近してるよ』


滝壺『接敵は35秒後に』


チームの全員の脳内に響く、敵の接近を告げる『天使の声』。


536 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:30:26.61 ID:ObWO5UQo

先天的に防御ステータスが圧倒的に弱い人間達にとって、
対悪魔戦にて最も被害が出やすいのが強襲・奇襲された場合だ。

だが滝壺がいれば、このように強襲も奇襲も成立しない。


これが、滝壺がいることの強みの一つでもある。


滝壺『信号から見て「下等悪魔」だけだけど支援は要る?』

滝壺『「レールガン」の射程内だから、すぐに火力支援できるけど?』

「この程度にそんなご大層なものは良い。必要ない。他にとっておいてくれ」

滝壺『わかった。がんばって』


「聞いたな!!!先に連中を潰す!!!!」


あちこちにつぶれた乗用車が転がっている薄暗い路上。
そこに響く、チームリーダーの声。

そして各々、北から来る脅威に向けて臨戦態勢に入る少年少女達。

先ほどから、既に左手にナイフを握っていた黒子は
体の向きを北側に変えただけだったが。

537 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:32:56.72 ID:ObWO5UQo

黒子の隣の女は、両手を軽く横に広げていた。

黒子「…………」

その女の手の先。
大気が何かの影響で揺らいでいるのか、背景が『歪んでいた』。

黒子の視線に気づいたのか、女も黒子の方へ視線を移し。


「キミには負けるかもだけど、私も結構やるよ?」


黒子「そうですか。来ましたの」

そして少年少女たちは、北の方へと真っ直ぐに視線を向けた。
敵は連なるビルの間にすぐに『捕捉』できた。


34体の『アサルト』。

トカゲのような姿をしている、体長2〜3m程の悪魔。
片方の手には巨大なおぞましい爪。
もう片方の手首あたりには円形の盾が括り付けられていた。

フロストの『熱帯向け』といった具合か。


それらがビルからビルへと、壁面を伝い猛烈な速度でこちらに向かって来た。
人間側に自分達の存在が既にバレているのを知ってか、
凄まじい獣染みた咆哮を挙げながら。

538 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:35:16.97 ID:ObWO5UQo
先に仕掛けたのは人間側だった。

悪魔の一団がビル壁面から跳ね、弾丸のように一行に飛び掛った瞬間。

黒子「―――」

妙な耳鳴りがし。
そして先頭の3体のアサルトのが見えない『何か』によって弾き飛ばされ、
近くのビルへと叩き込まれていった。

それは黒子の隣にいた女が放った現象だった。

女の両手周囲の揺らぎはさらに強まっており。
そして指をパチンと小さく鳴らされたと同時に、再び耳鳴りを伴う見えない『何か』が悪魔達を弾き飛ばした。


黒子「(……音波?……何らかの衝撃波の一種?)」


黒子「(射程はまあまあ………………威力は……)」


女の指鳴りと同時に出現する見えない『何か』。
今度は路上に着地した瞬間の数体のアサルトを真上から叩き潰したが。

アスファルトに埋め込まれたアサルト達は死んでおらず、
興奮したように咆え破片を撒き散らしながら這い上がってきた。


黒子「(…………足りませんの。このお方は防御向きの後方支援タイプですのね)」

539 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:38:16.94 ID:ObWO5UQo
そう冷静かつ客観的に思考しつつ、黒子は自身の能力を発動させた。

一気に30m程前方へ『飛び』。


とある一体のアサルトの『頭上』へ。


黒子「―――」


常人ならば、黒子の動きには全く反応できないだろう。
死角からの完全な奇襲となるはずだ。

しかし、相手は悪魔。
それも『死神もどき』といった雑魚ではなく、人間世界で言えば『職業軍人』である純粋な戦闘タイプ。

そう簡単にいくはずがない。


転移したその先で黒子が見たのは、真っ直ぐこちらを見上げていたアサルトの不気味な瞳だった。
『ようこそ』と言わんばかりに。


俗に言えば、これは『悪魔の勘か』。


一応、学園都市側においても、その現象について科学面からの報告が出ている。

それは黒子の脳内にも、資料としてある程度書き込まれている。

「能力者がその能力を行使する際、力(AIM)に必ず予備動作的予兆が見られる」。

そして別の項では、

「基本的に悪魔は力(AIM)を感じ取る事が可能」
「悪魔もAIMと似た力を常に纏っている為、対象『そのもの』に対し作用する能力は阻害・もしくは相殺される場合もある」、
「能力者のAIMと悪魔の力では、後者の方が『能動的な生』であり絶対的優勢である」、
「その為、同程度の濃度で干渉し合った場合はほぼ確実に押し負ける」、

「悪魔が纏っている力にダメージが入らない限り、もしくは相手が意図的に力を緩めない限り、」
「同程度のAIMが打ち勝つことはまずあり得ない」、と。

540 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:42:14.48 ID:ObWO5UQo
黒子の転移先を完全に見切っていたアサルト。
即座に彼女に向けて、強靭な尻尾が鞭のようにしなり振るわれた。

直撃してしまったら黒子の小さな体など一瞬で挽肉だ。


ただ、当たればの話だが。


当たるかという寸前、黒子の体が小さな風切り音と共に消失し。
振るわれたアサルトの尾は、黒子が一瞬前までいた空間をむなしく切り。


『同時』に、今度はアサルトの『喉の下』に出現した黒子。

そして次の瞬間。

彼女は、指の間に二本のナイフを挟んだ左手をアサルトの喉に向け振るった。



レディ謹製のナイフは、悪魔の固い表皮と『纏っている力』を滑らかに切り裂いていった。
黒子の腕力だけで、抵抗も無く易々と。


そして『纏っている力』に穴が開くということは。

その穴の中の部分に関しては、黒子の能力を妨害するものは一切存在しない。


黒子の拳から突き出ている二本の刃が、アサルトの皮膚を裂いて行き。
それと同時に、切断筋の周囲幅20cm程が黒子の能力によって『消えていく』。


小さなその手でたった一振り。


それだけで、アサルトの喉が『消えてなくなった』。

いや、正確には『分離して彼方に飛ばされた』。


541 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:46:04.94 ID:ObWO5UQo
アサルトの喉から即座に吹き出すおぞましい体液。

しかし黒子は一滴すら浴びずに、瞬時にアサルトの後方へと飛ぶ。

当然、同時に黒子の移動先を察知するアサルト。
猛烈な速度で背後に振り向き、彼女の転移先へ巨大な爪で横に凪ぐも。

またしても黒子は『既に』そこにはいなかった。

彼女はアサルトの頭上に飛んでおり。
そして出現したと同時にアサルトの脳天に向け、十字を描くように刃を握りこんだ拳を振るった。


次の瞬間、アサルトの頭部は消失した。


喉下が欠けた、下あごの断片を残して全て。


黒子がこのアサルトへ向かっていってから約0.4秒。
その間に彼女は4回飛び、アサルトの喉に一切りと脳天に二切り

そして瞬時に狩った。


黒子は仕留めたばかりの獲物の後方に転移し、静かに降り立つ。

振り向きもせずに次の標的を見定める彼女の背後で、
頭部の大部分が消失したアサルトがゆっくりと倒れ込んだ。

糸の切れた人形のように。

542 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:49:56.85 ID:ObWO5UQo

彼女の戦い方の原理は簡単。

察知されるのなら、察知できないくらい素早く連続して飛べば良い。

相手の体内に物体を打ち込めないのなら、『直接』やればいい。

相手の力によって能力に障害が起きるのならば、その力にダメージを与えれば良い。

それだけのことなのだ。


ただ、強化調整による飛ぶ際の時間的ラグの『消失』と『連続使用』が可能であってこそ、

そして黒子自身の鍛え上げられた戦闘センスがあってこそできる戦い方であり、
誰にでも真似できるものではないが。


更に、少し掠っただけで肉体が削がれていくような、
そんな一撃即死攻撃の射程内へ進んで身を投じる戦い方を選ぶなど、
傍から見れば正に狂気の沙汰だろう。


だがそれが人間対悪魔との戦いの真理だ。
肉体的に極端に劣る人間にとって、攻撃こそ最大の防御。

相手の攻撃を一発たりとも許すまじと、とにかく攻勢に出ること。

それが人間にとって、確実な勝利を手に入れられる唯一の手段なのだ。


恐怖を克服し、その境地にようやくたどり着いたテレポーター、白井黒子。

彼女は今正に本物のデビルハンターと化していた。

543 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:52:22.63 ID:ObWO5UQo

そして彼女は『空間を舞う』。

ブラフを織り交ぜてアサルトの至近距離へ飛んでは、刃で切り裂き同時にその部分を『飛ばし』。

チームメンバーの支援を受けつつ、
またチームメンバーが殺し損ねたアサルトに止めを刺し。

悪魔達の体の部分部分を奪っては次々と狩り取っていった。

どうやら、このチーム内で戦闘においては彼女が最も激しく攻撃的らしかった。

次第に縦横無尽に飛び交う彼女を他の七人がサポート、
という戦術がこの場で構築され即座に適用され。

相互に作用しあい、チーム全体の戦闘能力を更に高め洗練させていく。


ただ。

ついていけない者・力が及ばない者は当然、容赦無く『脱落』していく。
『この程度』で消える者はどの道消える。

あっけなく。

あっさり。

ここには『慈悲』も『救い』も無い。


あるのは『戦い』と『死』のみだ。


そして『脱落者』達もそれを知った上でここに来ている。


どうなろうと自業自得だ。
どんな結果になろうと、文句を言う権利など一切無い―――

544 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:54:43.71 ID:ObWO5UQo
黒子「―――」

戦いの中。
黒子が感覚に従い、次の獲物の方へと振り向いたその時。

彼女が捉えたアサルトの前に、一人の女が立っていた。

先ほど彼女に話しかけてきた『Charlie 6』だ。

黒子「―――」

いや、彼女がアサルトの前に立っていた、と言うよりは 
アサルトが彼女の背後に立っていた、と言うべきか。


そして次の瞬間。


「――――――ぇ゛ッ―――」

肋骨を砕き、肺を貫き、皮膚を引き裂き。

女の胸から突如『生える』、緑がかった薄汚れた大きな『爪』。


それは背後のアサルトからの一突き。


黒子「―――」


次いで、すかさず添えられたアサルトのもう片方の手と強靭な顎によって、
女の体はあっけなく引き千切られた。

断末魔も苦痛の声を漏らすヒマなく。
自分に何が起こったのかさえ知るヒマなく、女は文字通り『赤く散った』。


黒子「―――――――――…………」


――――――――――――。。。。

545 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 00:56:11.22 ID:ObWO5UQo
一分後。


「―――――――…………こちら『Charlie』」


「報告。敵性因子の排除完了―――」

再び静けさを取り戻した薄暗い街の中。
淡々としたチームリーダーの声が響いていた。

路上には激戦を物語る捲れあがったアスファルトと、大量の悪魔の死体。

そして。


「―――損害は戦死1名。負傷者は無し。任務継続する。以上」


人間の少女一体分の―――。


『こっちでも確認したよ。了解「Charlie」。任務継続して』


「よし、行くぞ。少し時間を押している。急ぐぞ」

相変わらず淡々としたリーダーの声。
それに従い、メンバー達も動き出す。

「『Charlie 4』……さっき『Charlie 6』と話したよな?」

とその時、黒子の傍にいた背の低い黒髪の少年が、
彼女に向けて小さく口を開いた。

黒子「……まあ」

「もしかして知り合いだった?」

黒子「………………………………いえ」



黒子「―――『他人』ですの」

―――
549 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 01:13:58.05 ID:DIg9U0oo

つか悪魔ってのは単純な肉体の破壊程度で殺せるものなのか?
なんか首飛ばされても死ななそうなイメージあるが

552 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/17(水) 01:24:45.64 ID:DCecOUU0
>>549
いつだか説明された魂のダメージってやつだろ
下級悪魔程度なら首をはねられた程度のダメージで死ぬんじゃない?
ダンテとかになると顔弾けても死なないみたいだけど

553 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 01:38:16.73 ID:ObWO5UQo
>>549
単純な物理攻撃はほとんど意味を成しませんが、
>>61などでも触れているとおり
能力者の攻撃は悪魔達の攻撃と同じく魂にダメージを与える事が可能です。

更に黒子の場合、レディナイフで防御ステータス0状態にしたところに力を叩き込んでますので、
ますます効果が倍増してます。


554 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 01:51:15.24 ID:DIg9U0oo
ああなるほど
てことは黒子や美琴みたいな特製の武器があるかレベル5みたいに単純に能力の強度が高くないとダメージは与えられないのか。

555 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 02:25:56.25 ID:TL9XkcAO
テレポートってのはかくあるべきだな
まさにチート

558 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 10:52:05.98 ID:TcnrQIDO
黒子の精神が強靭になり過ぎてヤバイな


564 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:01:05.02 ID:TLDG3swo
―――

全方位から猛烈な速度で迫ってくる『影の刃』。

ルシア『―――』

彼女は瞬時に全ての感覚を周囲に集中させ、
全てを回避行動に傾ける。


光沢が一切無い、塗りつぶしたかのような『黒』。

その刃が首からわずか数ミリのところを突き抜けて行き。
こめかみを掠り。
捻った腰、わき腹の衣服の表面を裂き。
仰け反ったルシアの顎先を真下から掠っていき。
真横から、ルシアの鼻先数ミリのところの大気を貫通していく。

全てがギリギリであった。

これは刃筋を見切った余裕のある回避行動ではない。
ルシアにとって本当に間一髪だったのだ。


ルシア『――――――ふぁッ!!!!!!』

この猛撃の『一つの波』をひとまず潜り抜けたルシアは、
溜め込んでいた胸の空気を吐き出し。

滑り込むように着地し低く曲刀を構えて周囲を見据えた。

影の刃いなした曲刀、
その柄を持つ手の痺れと震えが、この漆黒の刃の誇る凄まじい膂力を示し。

彼女の全身いたるところある、
赤い雫がジワリと漏れ出している浅い切り傷が、
回避が非常に困難である速度と密度を示していた。

565 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:07:46.32 ID:TLDG3swo

ルシア『…………はッ…………はッ……』

見通す限り、倉庫の先も奥も全てが『影』に覆われている。

今の攻撃の激しさから考えても、
このまま突き進んで行くのは厳しすぎる。

ルシアがまずもたない。

現状の非魔人化状態では必ず回避に限界が来る。
あの刃に串刺しにされ。
動きが止まった瞬間、更に無数の刃によって細切れにされ。

最終的に死ぬ。

ルシア『(…………ッ……)』

あの影の刃は、ルシアだけを狙っていた。
キリエに傷がつくの事は避けているようだ。

だがそうだとしても、今のルシア達にとっては何の利益も無い。

ルシア自身、この背中の二人が助かるのならば命を差し出しても良いと覚悟しているが、
今の状況下では、ルシアという存在の消失は二人の死に直結しかねない。

今こんなところでは彼女は絶対に死ねないのだ。

しかし背中の二人の事を考えると、魔人化するのもダメだ。
背負ったまま魔人化すると、二人はルシアの放つ力に到底耐えられない。

かと言って降ろして進むというのは論外だ。
それはどう考えても危険が増すだけだ。

567 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:11:43.61 ID:TLDG3swo

ルシア『(…………どうしよう…………どうすれば……)』

ではどうする。

背中の儚い二つの鼓動が、少女を更に焦燥させていく。

そしてこうしている今も、どう感じても高等悪魔『程度』ではない、
強烈すぎる視線と殺気を全方位から感じる。

『影』がある限り、どこまで行っても逃れられない。

つい一瞬前までは港まで行くことを考えてはいたが、
今となってはそれはもう無意味な行動でしかないだろう。

ルシア『(………………動けない……定点で耐えるしか選択肢が……無……)』


と、その時だった。

倉庫の向こう。

闇の中から。


ルシア『―――…………!!!!』


革靴の足音が響いてきた。

ルシアが聞きなれた、そして彼女の『怒り』を刺激する足音が。


「―――お前も来たとはな。『χ』―――」


彼女の存在を示す『言霊』と共に。

568 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:15:41.08 ID:TLDG3swo

闇の中から姿を現した男。

アリウス。

その顔を一目見た瞬間、ルシアの中で『何か』がピキリと軋む音が響く。

ルシア『―――…………ッ……』

だが、彼女はその『何か』が『暴発』しそうなのを堪えた。
漲る自身の衝動をとにかく押さえ込もうとしていた。

アリウスに対する凄まじい殺気と敵意を。

これに染まってしまったら、フォルトゥナの二の舞だ。

魂に刻まれている『呪縛』は再び―――。


フォルトゥナの時とは違い素顔を露にしていたアリウスは、
相変わらず葉巻を燻らせ、全てを見下しているような傲慢な表情を浮かべながら。

アリウス「我慢しなくても良い―――」

アリウス「お前は言ったな?己は『製造コード』ではなく『名』を持つ存在だと」


アリウス「ではさっさと証明したらどうだ?」



アリウス「―――それがお前の『心』とやらなんだろう?」



ルシアから15m程のところまで進み、
そこで立ち止まった。

あざ笑い、『挑発』という危険な誘惑の声を飛ばしながら。

569 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:17:32.91 ID:TLDG3swo
ルシア『―――』

とその時、アリウスの背後。

闇の中にぼんやりと二つの赤い光点が浮かび上がった。

悪魔の瞳だ。
その体のサイズは大型か、光点の大きさはルシアの頭ほどもあった。

闇に隠れている体、目の大きさから推測するにその全長は30m近くになるのかもしれない。

そして強烈な威圧感を持つ、『豹』のような瞳―――。


ルシア『(―――間違いない―――)』


やはり間違いない。
あれは先ほどの『影の攻撃』を仕掛けてきた存在であり、『シャドウ』と呼ばれる悪魔族だ。


ルシア『(でも―――普通……じゃない…………?)』


しかし。

そのスケールがルシアの知識とは明らかに違っていたのも確実となった。


滲みででくる力の格が―――。


570 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:19:54.21 ID:TLDG3swo

そのルシアの表情を見、
彼女が何を思っているのかを悟ったアリウス。


アリウス「……俺に味方する魔界の強者はアスタロトとトリグラフだけではない」


相変わらずの傲慢な表情を浮かべ、
軽く右手を挙げながら己の後方を指して告げた。


アリウス「『彼』、『闇獄』の『神』もだ」


ルシア『…………神……』


アリウス「『彼』の魔界での呼び名は『jlkahsgengg』」

アリウス「人語の呼称は存在しない。今まで一度も人の前に姿を表す事はなかったからな」

アリウス「そもそも魔界でもあまり名は知られてはいない」


アリウス「魔界の呼び名を人語に訳すのならば……」


アリウス「『影豹王』(レクス=パンテラ=アートルム)とでもなるか。まあ好きに呼ぶが良い」


ルシア『…………』

571 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:25:42.23 ID:TLDG3swo
アリウスの言葉が正しければ。

一つの『界』を統べている存在ならば。

彼の背後に控えている『アレ』は、大悪魔の中でもかなり高位の存在。


ルシア『―――』

実際に戦ってみないとわからない、とは一応言えるものの、
いくらルシアでも戦うのが厳しすぎるのは明らかだ。

『戦い』にすらならないかもしれない。


と、そこで一際緊張した表情のルシアを見たアリウス。

アリウス「安心しろ。お前如きの問題で『彼』の手は煩わせん」

わざとらしく眉を寄せ、なだめる様な表情を浮かべ。
嘲笑が混じった声色で言葉を飛ばし。


アリウス「お前の背中には俺の『客』がいる。俺がやるのが道理だろう?」


左手をスッとルシアの方へと向けた、その次の瞬間。


アリウス「そして―――」


アリウス「―――お前を破壊するのは『お前自身』だがな」


ルシア『―――ぐ…………ッッッ……?』


突如、ルシアの口から鮮血が噴出し。


そして彼女は力なく前に倒れこんだ。

572 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:28:39.45 ID:TLDG3swo
崩れ落ちるルシア。
背中の翼も力なく開き、中からキリエと佐天が転げ落ち。

キリエ「―――ルシ……アちゃん??!!ルシアちゃん!!!!!」

ルシアの惨状を見たキリエは即跳ね起き、
直ぐに彼女に駆け寄ろうとしたが。


アリウス「―――『客人』よ。そのような忌まわしき『液体』で身を汚すな」


キリエ「あッ―――…………ぐッ…………」

アリウスがそう告げたと同時に、
跳ね起き立ち上がったそのままの状態でキリエの動きが止まった。

キリエ「(…………動か…………が……―――!!!!!!??)」

その次の瞬間、彼女は胸の中の猛烈な痛みに襲われその場に膝を付いた。

表情を曇らせ。
冷や汗を噴出し。
苦しそうに呼吸しながら。


ルシアとキリエ。
二人は、完全にアリウスの術中に嵌っていた。
魂に刻まれた術式によって。

573 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:30:09.46 ID:TLDG3swo


ルシア『(―――……な……ん…………?)』

この崩壊現象。
これはフォルトゥナの時と同じ作用だ。

しかし、今ルシアはアリウスに刃を『向けよう』とはしていなかった。
何とか堪え、明確な殺意をあの男には向けていなかった。

それなのに彼女の魂に刻み込まれていた術式、『呪縛』は起動した。


アリウス「不思議か?……『ここ』がどこなのか、お前は忘れたのか?」


呆れた表情を浮かべ、冷徹な言葉を浴びせかけるアリウス。
自身が吐いた血に喘ぎ溺れている彼女へと。


アリウス「なぜ『俺の腹』と化したこの島にて、俺がお前との『接続』を修復する可能性を想定していなかった?」


アリウス「まさか『この程度』の事でさえ想定外とでも?」


アリウス「全く……我ながら情けなくなるな、その愚鈍なる知能の低さには」


アリウス「正にお前は『駄作』だな」

574 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:33:38.58 ID:TLDG3swo
アリウス「さて…………」

ルシアに向け吐き捨てた後、アリウスは軽く足で床を叩いた。
直後、彼の前の床の影が大きく盛り上がり。

その影の中から、黒い大きな球体の上半分が出現した。
下に隠れている部分を考えると、直径3m程はあろうか。

表面の三分の一ほどが削り取られたかのように透けており、
そこからオレンジとも赤とも言える光が漏れていた。

ルシア『(―――あ………れ……は……)」

ボンヤリとした意識の中、その大きな球体を目にしたルシア。

見覚えがある。
いや、断言できる。


あれは『シャドウ』の『コア』だ。


やはりサイズは、知ってる物よりもかなり巨大であったが。

地に伏せっているルシアの視線など欠片も気にせずに、
アリウスはその球体に手をかざし重要な言葉達を口にした。


アリウス「『アルカナ』を起こせ。さっさと俺に覇王を『降ろせ』」


アリウス「それと『照合』も終わった。天の門の構築を開始しろ」


その次の瞬間、巨大なシャドウのコアの光が増し、
表面に様々な光の紋様が浮かび上がった。

575 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:37:51.53 ID:TLDG3swo
ルシア『(――――――………………!!!!!!!!!)』

浮かび上がった光の紋様、あれは明らかに何らかの術式だ。

アリウスの言動、そして今の現象を見て、ルシアは一つの推測を打ち立てた。


                 ア レ
ルシア『(まさか……「シャドウのコア」が…………「核」…………?)』


『核』。


少なくともアリウスの言葉から、
『アレ』が覇王復活と天の門を開く術式の制御核と考えることも可能だ。


しかし、シャドウのコアを『間借り』してそこに核を隠し込むなど、余りにも突拍子も無い―――


―――いや。

むしろ、『それ』がアリウスらしいではないか。

なぜなら、ルシア達にとって『あそこ』は最悪の隠し場所なのだから。

『影の中』に隠れられてしまったらどうしようもない。

見つけ出すのは困難だ。
影の方から出てきてくれない限り、こちらから手を出す事ができないのだから。


ルシア『(―――…………)』


ただ、これは誰かに伝えねばならない情報なのは確かだ。
ネロが一番好ましいが、今この街に来ているかもしれない能力者達でも良い。

とにかくこの情報を誰かに託さねば―――。

576 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:39:57.59 ID:TLDG3swo
―――と、思うものの。

この現状では、誰かに情報を託すことさえ困難だ。
無傷の佐天がいるが、彼女に喋ったところでどうする?

アリウスが、重要な情報を持った人間をご親切に解放するか?

そんな事絶対にありえない。


ルシア『―――…………』

とにかくこのままでは誰一人、ここから動けない。
キリエは捕らわれ己と佐天は命を落とす。

どうにかしてこの状況を大きく―――。


―――と思っていたところ。


ルシア『―――…………?』

ふと、胸の辺りの妙な触感に気付いた。

その触感の発信源は。

小さな細い杭。

キリエの魂に刻み込まれた術式を解く為にレディが作った『鍵』だ。
胸元に仕舞い込んでいたそれが、
うつぶせになっている為彼女の皮膚に押し付けられていた。


ルシア『………………………………………………………………』


577 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:42:24.37 ID:TLDG3swo


その彼女の後方、2m程の所。


そこの床に佐天は座り込んでいた。


佐天「―――」

悶え苦しむキリエとルシアに、大きく見開いた瞳を向けながら。

その瞳は不気味なほどに透き通っていた。
『光が無く』、まるで底無しの穴のような。

そう、陰りの無い『恐怖の瞳』だ。

佐天「―――」

振動している体。
震える顎により、歯の小刻みな衝突音が鳴り響く。

彼女の精神は既に限界だった。

この張り詰めた糸がいつ切れてもおかしくはない。

578 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:45:47.51 ID:TLDG3swo

佐天「―――あ…………」

アリウス。
その背後にゆらぐ、巨大な赤い二つの光点。
うつぶせに倒れ、血を吐くルシア。
呼吸困難に陥ったかのように喉を鳴らしうずくまるキリエ。

それらにより、彼女の精神をつなぎとめている最後の糸が徐々にほつれていき。


佐天「―――………………あ……あ……」


そして―――。


と、その時だった。
咽び蹲りながらも、キリエが佐天の方へと顔を向け。


佐天「―――」


強引に笑みを浮かべ。


キリエ「…………ルイ…コ……ちゃん……『大丈夫』だか……ら…………」

579 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:50:42.98 ID:TLDG3swo

佐天「――――――――――――――――――」


そのキリエの姿と声、『大丈夫』という言葉で、

彼女の中で『何か』が弾け飛んだ。


佐天「(―――)」


そして遂に彼女の精神がトンだ。


だが恐怖によって『廃人』化した訳では無い。


『吹っ切れた』という事だ。


佐天「(―――)」


黒子とは『逆』、御坂と『同じ』である『放散型』で。


キリエの言葉により蘇る、あの悪夢の日の記憶。

鏡の世界の中でのあの『シスター』の姿と声。

彼女が佐天に囁き続けてくれた、『大丈夫だから』という言葉。

恐怖に飲み込まれた彼女を繋ぎ止めた、天使のような声。

580 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:55:44.00 ID:TLDG3swo
佐天「―――」

あの時、あのシスターは無力にも関わらず身を挺して佐天を守ろうとした。
そして励まし続けてくれた。

あのシスターが守ってくれなかったら、ネロが来る前に佐天の命は消えていた。

力は無くともできる事がある。
あのシスターは、力が無くとも佐天の命を繋ぎ止めたのだ。

今、あの時のように救いが来るのかどうかなどまるでわからない。
佐天にとって絶望的かどうかさえもわからない。

でも。

諦めたらそこで終わりだ。

万が一にでも救いが来るとしたのならば。

状況が大きく変わる『何か』が到来するのなら。

その確率が僅かでもあるのならば。


『それまで』繋ぎ止めるべきだ。


―――今度は私が―――。


例え力が無くとも。


―――私がやらなくちゃ―――。


全力で全身全霊で。

581 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/18(木) 23:58:46.67 ID:TLDG3swo

佐天「(――――――立ってよ―――)」

瞳に光が戻り、自身の芯を確立した少女。

佐天「(お願い―――立って―――)」

恐怖によって凍りついた己の体を何とか動かそうとする。


佐天「(―――立つんだってば―――)」


全身に力を入れ、熱気を流し込み活性化させ。


佐天「(立て―――立てよ―――!!!!!!!!」

そして遂に。



佐天「―――立てェエ!!!!!!涙子ォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」



佐天「うぉっしゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


恐怖という拘束を引きちぎり、人間の少女は立ち上がった。
自身に向けた怒号を響かせながら。

その体は未だに小刻みに揺れていたものの、彼女は力強く確かに立っていた。

582 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:04:56.64 ID:5Z/u3mEo

アリウスはコアに手を翳したまま眉を顰め。
突如叫び声を挙げ立ち上がった佐天に目を向け、


アリウス「……………………………………………………何だお前は?」


やや意表を突かれたのか、小さく口を開いた。
いや、実際アリウスとしてはこれはかなり想定外の事であった。

現に彼の意識が離れてしまう。

床でゆっくりとなにやら動いていたルシアから。


佐天「―――私は佐天 涙子だオラァッッ!!!!!!!」


佐天「―――ルシアちゃんとキリエさんの友達!!!!!!!!」

鼻息を荒げながら声高に堂々と宣言する佐天。


アリウス「………………………………そうか。それは『災難』だったな」


その佐天の言葉を聞き、今度は日本語で返すアリウス。

この佐天の余りにも突拍子も無い登場に、
アリウスでも小さく笑ってしまっていた。


佐天「ささささ災難なんかじゃない!!!!!!!!」


アリウス「……………………それは良かったな」


佐天「ううううううるさい!!!!おいオッサン!!!!!アンタにい、いいいい言っておくッ!!!!!!!!!


佐天「―――二人には絶ッッッッッッッ対に手を出させないッッ!!!!!!!!!!!」


アリウス「………………………………………………お前は何を言っているんだ?」

583 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 00:08:29.36 ID:DbHM8oI0
がんばれ涙子。無能力でも人の意地があるトコロを見せてやれ。

熱烈支援

584 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:15:08.21 ID:5Z/u3mEo

アリウス「(………………………………何だコレは)」

アリウス「(……この小娘は何で動いている?勇気か?蛮勇か?自殺願望か?)」

アリウス「(それとも状況を理解していない単なるバカか?もしくは救いようの無い究極のバカか?)」

アリウス「(…………滑稽だ。ふん、やられたな。さすがに俺でも想定外だった)」

アリウス「(引っ付いてきたカスがまさか『道化』だったとは)」


佐天「な、何がおかしいッッッッ!!!!!!!!!!!」


アリウス「……生憎―――」

アリウスは小さく笑いながらも、作業を済ませ『巨大なシャドウ』のコアを再び影の中に戻し。


アリウス「―――俺の舞台に『道化』は必要としていない」


踵を返し、佐天に背を向けながら。


アリウス「ご退場願おうか」


軽くサッと手を掲げた。
すると、佐天の両脇の闇の中から二体のアサルトがゆらりと姿を現した。


佐天「――――――ま…………ままままっまあま―――!!!!!!」

585 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:17:28.96 ID:5Z/u3mEo

佐天「(―――これ―――)」


両脇からゆっくりと歩み寄ってくる二体の異形の化け物。

おぞましい牙をむき出しにし、粘ついた涎を垂らしては獣の声。
ご馳走を前にして、どう食そうかの思索を楽しんでいるような動作。

まず『友好的』では無いのは明らか。

佐天でも容易にわかる。


佐天「(ヤバイよ!!!!!絶対ヤバイ!!!!!!!)」


このままでは『死ぬ』、と。

ではどうするか。
両脇の化け物には、どう転んでも自身が何かをできそうには思えない。

でも。

佐天「(―――あのオッサンなら少しは―――!!!!!!)」

見た目は人間に見えるアリウス。

体つきは佐天とは比べ物にならない程逞しいが、
両脇に迫る人外の化け物よりはかなり難易度が低く見える。

もちろんそれでも『勝つ』、というのが困難なのは佐天もわかるが、
彼女から見てもアリウスが『ボス』なのはわかるし、
それなりに食いつけば何らかの活路を見出せるかもしれないのだ。


佐天「―――うッッ―――」


引っかき傷の一つくらいなら何とかつけられるかも、と考えた佐天。


佐天「―――うォォォォォォりャァアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!」


雄たけびを上げながら前へと飛び出し。
小さな拳を振り上げ、アリウスの背中へと飛び掛った。

586 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:21:30.03 ID:5Z/u3mEo

アリウス「…………」

『仕方なかった』といえばそれまでだが、佐天はあまりにも無知だった。

確かにアリウスの見た目は人間だ。
いや、アリウスは正真正銘の『人間』だ。

だが『人間』もピンキリだ。
大半は佐天のような『普通』の者だが、
中には一方通行のような『神族』の領域に入った『特別な人間』もいる。

そして、このアリウスもその一人だ。

『特別な人間』だ。

その瞬間。

アリウスの足元の床から後方に向けて、銀色の光沢がある大きな『鎌状の腕』がズルリと出現した。
長さは3m程、全体の形状はカマキリの腕に似ているだろうか。
表面はうろこ状だったが。

ギチリと一度軋んだ後、先端が佐天の喉へ向けて振るわれた。
彼女が、目視どころか存在を認識する事も不可能な速度で。


そして、彼女の首は一瞬で刎ね飛ば―――。


アリウス「―――…………」


―――されるはずだったのだが。

587 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:25:54.18 ID:5Z/u3mEo

もし『運』というのがあるとすれば、それは佐天に味方していたのかもしれない。

いや。

こう言った方が良いか。

佐天は自ら立ち上がったことにより、その『運』を強引に引き寄せた、と。


アリウスにとって、彼女はクダラナイ『道化』なのは確かだ。
だが一旦舞台に上がってしまった『道化』は、その劇の空気を変えてしまう力を持つ。

どんな小物であろうとも、『登場人物である以上』、だ。

最初の影響は小さい為、別段気にする必要も無いと思われるが。
確実に劇の筋書きは変わっていく。
そして気付いた時には、既に修正不可能なところにまで達する。

このアリウスの物語もまたそうだ。


彼が書き上げた物語は崩壊していく。
狂い始め、彼が決して予期し得なかった結末へと向かっていく。


最初はゆっくりと。


最期は怒涛の如く。



そしてその崩壊の『始点』が『この時間』だ。


佐天涙子が作り出した小さな小さなピースだ。


これが崩壊の火種だ。

588 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:28:19.61 ID:5Z/u3mEo
響く『金属音の衝突音』。
どう聞いても、人の肉が断たれた響きではない。

更に、アリウスの背中の中ほどに走った『微妙な衝撃』。

アリウス「……………………何?」

佐天「……………………へ?…………へ?」

佐天自身、何がどうなったのか良く把握できていなかった。

前に駆け出し放った彼女の拳は、
アリウスの肩からかけている上質なコートに軽くめり込んだ。


そしてようやく彼女の目にも映る、銀色の巨大な『鎌状の腕』。
その不気味に光る大きな刃は、彼女の首の横僅か数センチのところで制止していた。

佐天「………何…………これ…………ッ!!!??」


と、その時。


『―――佐天さん―――伏せてください―――』


背後から響く、エコーのかかった声。
そして背中を強く押され


佐天「―――えッ―――あッッッ!!!!!!」


佐天は前のめりに、半ば倒れこむようにして伏せた。


その瞬間。

『金色』の光の筋が走った。
彼女の後方から彼女の頭上を通り、そしてアリウスの大きな背中めがけて。

甲高い金属音を奏でながら―――。

589 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:29:48.80 ID:5Z/u3mEo
光の筋。

アリウス「―――」

それは斬撃。

その放たれた力の『刃』が、振り向きかけたアリウスの肩からわき腹にかけて直撃した。
斬撃の甲高い飛翔音に続き響く、今度は耳を劈く凄まじい激突音。

佐天「―――わ―――ひッッッ―――!!!!!!!!!!!

更に立て続けに何発も何発も放たれては、
佐天の頭上を通過しアリウスの居た方向へと炸裂していった。

光が弾け飛び、斬激の余波が衝突点から放射線状に走り、
床に一瞬にして複数の溝を刻みこんでいく。

捲れあがる倉庫の床や壁、飛び散る破片や火花、荒れ狂う衝撃波の渦。

そしてその斬撃の嵐に襲われ、アリウスは一瞬にして弾き飛ばされ、
倉庫の奥へと吹き飛んでいった。


佐天「―――な…………な……な……?」

頭を守るように手を添えながら、恐る恐る顔を上げ、
変わり果てた前方の有様を呆然と眺める佐天。

アリウスが断っていた場所、そこから向こうは完全な廃墟となり。

天井の大きな割れ目は地上まで達していたのか、倉庫内の空気が急速に流れ始め、
巻き上がっていた粉塵を押し流していく。

590 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:36:15.43 ID:5Z/u3mEo
『―――助かりました。あの男の気を引いてくれて』


佐天「―――!!」

そして後方から再び響く声と共に、
突如腕を掴まれ引っ張り上げられる形で立たされた。

その声の方へと振り向くと。

キリエに肩を貸しているルシアが立っていた。
キリエとは反対側の右手には、ぼんやりと金色に光っている曲刀。

そして彼女の胸には。


佐天「―――ルシアちゃん……!!!!む……胸……!!!!刺さって……ち……血が……!!!!」


細い杭が深々と突き刺さっていた。

痛々しすぎる光景に慌てふためく佐天だが、
ルシアはそんな彼女の事など気にもせず平然と更に過激な行動を取った。

キリエを床に座らせると、右手を胸の前に掲げ握っている曲刀の柄で

佐天「わわわわわやめややややめッッッッッ―――!!!!!!!!」

突き出ている杭の頭を思いっきり叩いた。
当然、強い力で押された杭は彼女の胸を貫通し、
背中側から飛び出して床に金属音を響かせながら落ちた。

佐天「ちょちょちょちょわわわっわわっわわわわっわわわわ(ry」


ルシア『落ち着いてください。大丈夫です。私は頑丈ですので』


最早言葉になっていない声を挙げている佐天に対し、
ルシアはやや強めの平然とした口調の言葉を飛ばした。

ルシア『落ち着いて。「大丈夫」です』

背中から血を滴らせ噴出しながら。

591 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:39:19.66 ID:5Z/u3mEo
次いでルシアはテキパキとした動作で杭を広い、
キリエの横に屈み。

その杭の切っ先をキリエの胸に当てがった。

佐天「―――……な……なな……何…………するの…………!?」


ルシア『…………楽にします』

佐天「へ?『楽』ってちょっと―――ッ!!!!!!!!!!!」

ルシア『キリエさん、少し痛みますが我慢してください。麻酔魔術も保護魔術も施す時間はありませんので』

佐天を完全に無視しつつそう言葉を告げるルシア。

何をするのか悟ったキリエ。
ルシアの瞳を見つめて小さく頷いた。

そんな彼女の顔を見、ルシアは躊躇い無く杭をキリエの胸に沈ませた。
メキリと湿った音が鳴り。

佐天「―――ちょっとぉぉぉやめやめやややややおおおぎゃああああああああああああ!!!!!!!!!」

キリエ「―――ッッッ…………く…………はッッッッッ…………!!!!!!」

激痛にも関わらず声を挙げずに堪え、
押し出されるように軽く短く息を吐くキリエ。

キリエ「はッ―――!!!!!はッ……!!!!」

そして次第に彼女の呼吸は安定し、その顔にも少しだけ覇気が戻り始めた。
胸に杭が突き刺されたにもかかわらず、逆に生気が漲ってきていた。

佐天「…………な……ななあな……ひぇええええ……」

592 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:42:12.43 ID:5Z/u3mEo
ルシア『少し……楽になりましたか?』

キリエ「ええ。ありがとう…………だいぶ楽になった……立って歩けると思う」

ルシア『「鍵」は第四肋骨と第五肋骨の間の胸骨寄り、心臓と肺の隙間を通してます』

ルシア『今は時間がありませんので簡単な安定術式のみですが、』

ルシア『一応「呪縛」の機能は一時停止しています』

ルシア『そして「引き抜けば」術式を破壊できます。が、このまま引き抜いてしまうと魂も砕けます』


ルシア『つまり死にます』


キリエ「…………」

ルシア『後ほど、「浸透」と肉体保全・保護術式を施してから引き抜いてください』


ルシア『該当術式は―――』

そしてルシアは該当する魔術の名称を次々と並べては、手順を簡潔に示していった。
キリエは脂汗を滲ませながらも、
頷きつつ小さく口を動かし、復唱しながらルシアの言葉を記憶していく。

脇で聞いている佐天にとっては、この飛び交う専門用語はもちろんチンプンカンプンだった。

いや。

佐天「…………………ひぇえ…………ひぇえええええぇぇぇ…………ひぇぇえぇ…………」

それ以前に、目の前の痛ましい光景のせいで、
冷静に聞き耳を立てる余裕も無かったが。

593 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:44:39.59 ID:5Z/u3mEo

ルシア『―――これらなら大丈夫です』

キリエ「ええ。わかった」

ルシア『ネロさんなら問題なく扱えますが、さほど難易も高くないため他にも扱える方がいると思います』

ルシア『とにかく私達に友好的な、魔術に精通した方を探してください』

ルシア『この街に来る学園都市側の方々の中にも、魔術に精通しているお方がいるみたいですので』

ルシア『その方は天界系専門のようでしたが、代替魔術もたくさんあるはずです』

キリエ「うん……わかった」

ルシア『良いですか?コレはあくまでも一時的な処置です』


ルシア『15分以上経ってしまったら恐らく手遅れになります。「反動」がきます』


ルシア『それよりも前に、先言った全うな手順で処置を完了させてください』


ルシア『あ……それと「核は影にあり」。これも覚えてください』


ルシア『ネロさんか、もしくはその同志の方に必ず伝えてください』

キリエ「…………ええ」

594 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:46:46.17 ID:5Z/u3mEo
ルシア『では佐天さん。キリエさんをお願いします。一緒にここから離れてください』

佐天「へ……へ?!!!」

キリエ「…………ルシアちゃん……」

ルシア『早くここから。200m程の地点に地上へ繋がる階段があります』

ルシア『決して止まらず振り返らずに進んでください』

佐天「―――!!ルシアちゃんはどうす―――」

ルシア『私はここで戦います』

佐天「そ、そんな!!!じゃ、じゃあ私も一緒に―――!!!!!」

ルシア『キリエさん一人ではここから離れられません。佐天さんがいないと無理です』


ルシア『それにここにいたら二人とも巻き添えになります』


佐天「―――」


ルシア『これより先、あなた方を巻き込まずに戦える自信は「ありません」』


佐天「―――…………でも!!!!!!―――」


佐天「―――『友達』を置いていくなn―――!!!!!!」


ルシア『―――私もです。「友達」を死地に置いておきたくはありません』


佐天「―――…………」


ルシア『……お願いします。お願い…………行って……さあ……』

595 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:53:49.05 ID:5Z/u3mEo
佐天「…………………………………………」

3秒間。

佐天は無言のままルシアの瞳を見つめた後。

無言のまま頷き。
キリエに肩を貸し、足早に示された方向へと駆けて行った。


ルシア『………………………………………………………………………………』



二人を移動させるのは、アリウスの手から遠ざけるため?

それは厳密には違う。

力を解放した自身とアリウスの戦いから遠ざけるためだ。

この島の中に居る以上、アリウスの手からはどう足掻いても逃げられない。
どこへ逃げても、あの『闇獄の神』かもしくはアリウスにどの道行く手を塞がれるだろう。

先ほど足止めされた時点で、港へ一気に突っ走るという方法は『不可能』と立証されたのだ。
彼女に今できることは一つしかない。


それはアリウスを今ここで―――。


―――そう、あの男さえ潰せば、『全て』何とかなる。


今、ルシアにとってアリウスは『不可侵の領域』の存在ではない。

刃は確実に届く。

アリウスとキリエの接続回線は一時停止。

そしてルシア自信の呪縛も『消えている』のだから。

596 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:55:38.30 ID:5Z/u3mEo

ルシアの中、魂に刻み込まれていた『呪縛』。

平常時は魂の奥底へと埋もれ、
彼女をくまなく調べ上げたレディもトリッシュもマティエも皆その姿を捉えることは不可能だった。

だがアリウスの前で完全稼動状態ならば。

呪縛はもちろん派手に目立ち『剥き出し』だ。


そして、キリエの魂へと刻み込まれた術式と、
ルシアの魂へと刻み込まれている術式の大きな類似点。

二つは用途もまた刻み込まれた経緯も違うが、だが作り手は同じアリウス。
術式のベース言語も同じ古代ギリシャのグノーシス式。

程度に差はあれど、レディの作った『杭』は必ず何らかの効果はあるはず。

ルシアはその賭けに出たのだ。

そして出たサイコロの目は。

彼女の『勝ち』だった。


魂の中に刻み込まれていた術式は『崩壊』した。


ただ。

キリエだけの為に作られていたせいか、やはり噛み合わず。
そして処置があまりにも雑すぎた為。


『副作用』も出てきたが。

597 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 00:58:39.50 ID:5Z/u3mEo

「…………あの小娘…………一本取られたな……久しぶりに『困惑』という感情を味わった」


廃墟と化した倉庫の奥から響いてくる声。


アリウス「………そのおかげでこの俺が………こんな無様な失態を犯すとは。俺もまだまだだな」

そしてゆらりと姿を現す、『無傷の埃一つついていない』アリウス。
葉巻を燻らせながらの相変わらずの傲慢な表情。

アリウス「それと……………………やはり無理があったみたいだな?」

ルシア『…………』

そのアリウスが、何に対して『無理があった』と指しているのかはルシアも当然わかる。
それはもちろん、ルシアが自身に行った処置の事だ。

引き抜く際には本来、先ほどキリエに告げた手順で行わないと大変なことになる。
あの手順が無い、という事は『手術器具無しで素手だけで手術を行う』ようなものだ。

いわばルシアの行った方法は、
腕を強引に突き刺し患部を退き釣りだし握り潰す、というやり方だ。

そんな『無理やり過ぎる手術』をしてしまったら?


アリウス「あと1時間か?それとも30分を切ってるか―――?」


当然、命が削れていく。


アリウス「―――お前の魂が完全に砕け散るのは?」

598 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 01:00:13.34 ID:5Z/u3mEo

ルシア『……………………それがどうした?』


アリウス「『友の為とあらば死をも恐れない』、か」


アリウス「はッ……『気高き信念』の『コピー』もそこまでくれば、な」

アリウス「お前にとっては嘘は真実、偽は真に成り代わるか」

アリウス「俺にとっては偽は偽だがな。所詮『模造品』だ」


ルシア『…………うるさい。お前の言葉は耳障りだ。お前は私が断つ』


アリウス「…………お前『程度』でこの俺をどうにかできるとでも?」


ルシア『できる』


アリウス「ほぉ…………大した自信だな。それはどこから来る?」


ルシア『……お前は以前、私に向けてこう言った』


ルシア『「お前の刃は決して届かない」って』


アリウス「…………」


ルシア『でも―――』


ルシア『―――さっき届いたけど?』

599 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 01:04:39.73 ID:5Z/u3mEo

アリウス「―――ははははははははッッッ!!!!!!確かに!!!!その通りだな!!!」

その『指摘』を受け、豪快に高々と笑い声を上げるアリウス。

アリウス「では次は!!!??」


ルシア『次は血―――』

ルシア『その次は骨―――』


ルシア『―――そして最期に魂だ』


アリウス「ははははははッ――――――面白い。面白いぞ。大口を叩くその首―――」


それらの続けられた言葉に、豪快に笑っていたアリウスの顔から笑みが一気に引いていき。
入れ替りに、凄まじい殺気と憤怒が彼の顔を覆い尽くし。



アリウス『―――この手で直にへし折ってやる』



強烈な威圧感と共に、エコーのかかり始める声。

600 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 01:06:18.82 ID:5Z/u3mEo

アリウス『―――覇王が復活し、その力が俺に宿るのは約5分後だ』

スッと両手を左右に広げるアリウス。

その腕の周囲、更に足元にて赤い光で形成された大量の術式や魔方陣が浮き上がった。

アリウス『―――だが今や、それはお前には関係ないことだ』

広げられた両手先には、
赤黒い炎のような光の揺らぎが出現。

そして周囲の床からは、
先ほどの『鎌状の腕』同じような『材質』で形成されているであろう、
大量の刃や触手がズルリと伸び上がって来。


アリウス『―――心配も何もいらない。後の事を気にする必要は無い』


彼の背後には、恐らく魔道兵器の一種であろう大きな大きな不気味な金属塊が出現した。



アリウス『―――五分後には、お前は生きていないのだからな』



601 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 01:09:29.85 ID:5Z/u3mEo

これらはアリウスの歴史の集大成。

一世紀生きてきた彼の、今まで築いてきた魔界魔術大系。

彼は自身の歴史その『全て』を全身に『武装』した。


アリウス。


本名、ジョン=バトラー=イェイツ。

種族、『第二世代』の人間。



アリウス『―――甘く見るな。強いぞ―――』



彼は『弱き人間』の一人でもあるが。



アリウス『―――この俺は』



間違いなく『最強の人間』の一人でもある。

602 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 01:10:55.67 ID:5Z/u3mEo

ルシア『―――』


ルシアにとって、アリウスはもう『不可侵』の存在ではない。
だがそれでも。

それでも、現にこうして全面から相対するとこの男の強大さが肌に染みてわかる。
そこらの下手な大悪魔よりも遥かに強い。

『力』だけではない。


その『芯』が強固過ぎる。


かなり歪んではいても、『人間としての信念』が凄まじすぎる。

ルシアは認めざるを得なかった。

自身よりも『様々な面』で遥かに『強い』、と。


ルシア『―――…………』


そして。


この男を倒すのが、どれ程困難な事なのかを。

まあ。

今更、ルシアには退く気も後悔も無いが。
困難なだけで、可能性はあるのだ。

1%でも可能性があれば充分―――。


―――その1%を分捕れば問題ない。

603 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 01:12:30.63 ID:5Z/u3mEo


アリウス『我が「傀儡子」の儚き幻夢、終焉を向えし時―――』



何らかの術式詠唱なのか、それとも何かの感傷にでも浸り謡っているのか。

アリウスは静かに口を開き言葉を連ねていった。



アリウス『―――我が「創父造手」による「壞」をもって目覚めとす―――』


淡々と。


『どことなく』悲しげな言霊が響いていく。



アリウス『―――よって今生よりの「解放」とす』



異質極まりない関係である、呪われた『父子』の間に。

―――
607 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 02:51:24.68 ID:UnBVCRQo
乙乙
佐天さんさすがすぎるぜ……!

608 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 08:36:26.52 ID:g3pVtcAO
良い展開だ




posted by JOY at 00:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 禁書クロスSS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。