2010年12月14日

ダンテ「学園都市か」3(デュマーリ島編 )

762 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:30:33.92 ID:T/QcCx2o
―――

半ば崩れかかっている、地上へと続いている長い長い非常階段。
壁にはヒビが走り、ところどころ崩れてもいる。

その階段の中途にて。
佐天はキリエを庇い、床に座り込んでいる彼女を抱きかかえるようにして屈んでいた。

佐天「…………はぁッッッ……!!!な、……んなのよもうッッッ!!!!」

ルシアの言葉に従い、急いで大きな地下倉庫の中を進み、
そして非常階段を見つけ駆け上がり。

その時だった。

大地震の如くの凄まじい揺れが襲ってきたのは。

佐天「(やっぱり……普通の地震…………とかじゃないよね…………ここも崩れそう……)」

佐天「早く行きましょう!!!ここはちょっと、というかかなりマズイよ!!!」

立ち上がり、キリエの腕に手を伸ばし先を急ぐよう促す佐天。

日本語、それも早口のそれは当然キリエは訳せなかったが、
それでも佐天の表情や体の大きな動作でどのような事を言っているのかは一目瞭然。

キリエ「…………ええ!!!」

佐天はキリエに肩を貸し、二人は階段を足早に昇っていった。

763 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:32:11.49 ID:T/QcCx2o

延々と続く階段。

キリエは身長が高く、健康的かつグラマーな体系。
決して『太っている』という訳ではないが、
小柄な佐天からすれば『それなり』に、というのも当然。

佐天「はッ……ふッ…………はッ……」

キリエの体を支えながら階段を昇る彼女の体力は、どんどん減っていく。

そしてキリエもまた息を切らし、足元が覚束なくなっていた。
胸に深々と杭が突き刺さっているのだから当たり前か。
普通ならば既に意識を失っていてもおかしくはない。

だが二人は黙々と昇って行く。

一歩ずつ一歩ずつ。

壁にある地下階層を現す数字が一つ、
また一つと小さくなり地上に近付いていく。

そして。


佐天「……!や、やった!!!!地上ですよッッ!!!!!」

キリエ「……はあッッ………………」

階段が終わり、やや広めのフロアに到達。
二人は外へと繋がる、大きな金属製のドアへと向かい。

ようやく、二人は地の底から脱する。


が。

764 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:34:14.22 ID:T/QcCx2o
勢い良く開け放たれた、そのドアの向こう。

佐天「―――…………そ、そんな―――…………」

キリエ「!!!!!」

廃墟に囲まれた、駐車場か何かの広場。

そこに、まるで彼女達を待っていたかのように数十体もの悪魔がいた。

佐天「(……どどどどどどどうしよう!!!!!どどおどd)」

おぞましい赤い瞳が二人に向き。
餌を見つけ、喜んでいるかのごとく耳障りな不気味な唸り声を上げ。
悪魔達はゆっくりと彼女達二人を囲む輪を狭めてくる。

佐天「!!!!!」

どう考えても来た道を戻った方がマシ、と、
佐天は背後のドアを開け再び戻ろうとしたが。

フロアの向こう、地下へと続く非常階段の方からも悪魔が這い上がってきていた。
あざ笑うかのような不気味な声を発しながら。

キリエ「……!!ダメ!!!!」

佐天「ああああ!!!!!!!」

半ば焼けになりながら佐天はドアを強く閉じ、
そして振り向き獰猛な捕食者達と再度向き合った。

おぞましい存在達は、既に3mの所にまで迫ってきていた。

佐天「(―――………………走って…………足下を何とか潜り抜けて…………)」

歯を噛み締め悪魔達の瞳を真っ直ぐ睨み、
どう考えても無駄、と自覚しつつもそれでも生き延びる道を探る佐天。


佐天「(…………やるしか…………せめてキリエさんだけでもここから……)」

明らかに困難、それでも佐天は迷わず決断を下し勇気を胸に。
肩を貸しているキリエをギュッと抱きしめるように支え。

一気に悪魔達の方へ、その隙間へと駆け出―――


―――そうとしたその瞬間。

765 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:35:32.79 ID:T/QcCx2o
佐天「わッ―――わわわ!!!!!!!!!」

キリエ「―――!!!!!」


突如、凄まじい爆音が響き渡った。
いや、『音』と言うよりは大気の振動、『衝撃波』と言った方が良いか。

もちろん飛び出すことなく、二人はその場に屈み頭を下げて伏せった。

何が起こったのか。

普通の人間である佐天にとっては、
『いきなり爆風が吹いた』としか表現できなかった。

これがもし聖人や悪魔などの視点からならば、
猛烈な速度で暴れ周り次々と『素手』で悪魔をぶちのめしてく『女』が見えただろう。
悪魔達が吹っ飛び、砕け、引き裂かれてなぎ倒されていくのが。

時間にして0.1秒も無い。

そんな僅かな一瞬の間に、数十体いた悪魔は見るも無残な有様になっていた。

そしてその惨状のど真ん中、佐天達の前6m程のところに。


長身の金髪の女が悠然と立っていた。


パッツン前髪の上、額に押し上げたゴーグル。
作業着のような服の上には大きめの白いエプロン。


見た目の歳は20代前半くらいか、
気が強そうな青い瞳の整った顔立ちの白人女だ。

766 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:37:23.95 ID:T/QcCx2o
いきなり現れた、見ず知らずの女。
そして目を離した一瞬で肉塊となってしまった大量の悪魔。

佐天「…………???!!!!!」

キリエ「…………??!!」

状況を掴めず、当然二人は驚き動揺するが。


「『保護』はいつもあいつの役割なんだけど」


そんな彼女達の表情など気にせずに、女はやや機嫌悪そうに口を開いた。


「あいつ今、手空いて無いから」


佐天「―――だ、だだだだだだだだだだだ誰ッッッ???!!!!」


「良いから来な。説明は後だ」

女は佐天のどもりまくってい声をサラリと受け流し、
面倒臭そうにくいっと首を掲げて同行するよう催促。


キリエ「(―――この人…………聖人……?)」

そんな女をキリエはジッと見つめながら、昔の記憶を思い出していた。

数年前にフォルトゥナに来ていた神裂と雰囲気が似ているのだ。
風貌や人格ではなく、その『存在感』がどことなく。


キリエ「…………行きましょう。あの人、信用できると思います」


佐天「……………………へ?へ?」


「早くするんだ。ほらチャッチャと!!!」


佐天「ははっははい!!!!!!」


―――

767 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 00:38:48.82 ID:XuDWdVwo
シルビアか

768 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:39:10.32 ID:T/QcCx2o
―――

深部から真上までぶち抜かれた、
冥府まで続いているかとも思えてしまう直径300mにも達する巨大な穴。

縁が崩れ、複数のビルを巻き込み穴の中に沈め。
まるで周囲に侵食していく生物のように徐々に大きくなりつつあった。

その大穴の縁に悠然と立っている一人の男。


アリウス。


アリウス『……………………』

葉巻を燻らせ、ゆっくりと空を見上げるその彼の姿は、
両手の先がほのかに赤く光っている以外は特に普段と変わりは無い。

彼自体は、だ。

その周囲の状況は、とても『普通』とは言えなかったが。

彼を取り囲むように浮かび上がっている凄まじい数の、光で形成された術式。
それらが生き物のようにうねり、そして常にその構文の内容も変化していっている。


それらの構文の一つ一つは、魔界製の『本物の魔導書』に記されてもおかしくは無いものばかり。

一構文だけでも、その解読にはローマ正教や
イギリス清教が総力をあげても一ヶ月はかかってしまう代物だ。

更に意味を検証・完全解析し、起動可能な複製構文を作るとなると数十年もかかるかもしれない。
そもそも、魔界言語の部分は解読そのものが困難であろう。

769 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:43:24.78 ID:T/QcCx2o

そんな代物が秒間万単位で浮かび上がっては、リアルタイムで変動し、
新たな構文をその場で構築していく。


同じ構文は一つも無い。
全てがその一瞬一瞬の目的の為だけに作られ、使い捨てられ消えていく。


もし魔術世界に広く発表されれば、
様々な分野で革新的技術発展がおきてしまうような知識の結晶が。


そして、そこから発動する術式ももちろん凄まじい代物だ。


最早『教皇級』、『神の右席級』などという括りでは表現できないものだ。

既存の『魔術』として括る事もできないかもしれない。


一般的に、『人間が扱う魔術』というのは『模倣』で成り立っており、
外部の何らかの『筋書き』を必要とする。


それは神話や伝承・過去の『神性を帯びた歴史』であったり、
力を引き出す『源』の存在の性質を借りたりなど。

それが一般的な『魔術』の大前提だ。

770 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:45:12.47 ID:T/QcCx2o

だが『一般的な』と括る以上、例外も当然ある。


外部の筋書きを必要とせず、自らの手で筋書きを創り出す『特別な者達』だ。

この『特別な者達』は、その力の根源や入手方法も普通の魔術師とは全く原理が異なるが、
使用する魔術の根本体系も全く異なる。


彼らは、自らの手で異界の力の根源と直接繋がり、その純正の力と融合し。

『自身の筋書き』で『思うがまま』に力を行使するのだ。

魔術記述として使用に耐えれる水準の『筋書き』を自身の手で創り出してしまうのだ。


つまり。


一般の魔術師の行使する力は、外部の神話や神性に依存するが。


この『特別な者達』は、自身が『神性』を帯び、『自身の為の神話』を創り出すのだ。


そこには、外部の筋書きや模倣に常に纏わり付いていた『縛り』も『型』も無い。
唯一の制限は、行使者自身の限界だけだ。

771 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:47:53.97 ID:T/QcCx2o
この特別な者達に該当するのは、古代由来ならばアンブラの魔女やルーメンの賢者。

かの大戦の際、スパーダと共に戦った戦巫女達とその子孫の一部などの、『古の人類』の末裔達。

近世の『第二世代の人間』ならば、
アレイスター=クロウリーや、かつてスパーダの力を求めて散ったアーカム。


そしてこのアリウスなどの極一部の超越した魔術師達。


これらの者が神話をその場で創ってしまう―――。


―――その挙動が、その思考が、その意識が―――。


―――その死に様と生き様が、そのまま『神話』と化す領域に属する『人間』。


『外部の筋書き』を模倣して周囲の世界に『映し出す』のではなく。

『自身の筋書き』により周囲の世界そのものを『変える』事。


それが可能、つまり『存在するという事それ自体が神話になってしまう』レベルであることが、
人間からは『神』、或いは『大悪魔』と呼ばれる超越した存在らの『基本水準』であり。

そして。

この領域に踏み込んだ『人間』は、魔術師界ではこう表現される。


『神話を読む者ではなく、神話となる者』、


『人としての魔術の高みを超え、神の領域に踏み込んだ者』―――



―――すなわち 『魔神』 と畏れ謳われる者である。

772 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:49:02.16 ID:T/QcCx2o
そんな、魔術師としての限界を超えているアリウス。

アリウス『…………』

大穴の縁に悠然と立ちつつ、
上空にて浮遊している能力者の方を見上げ小さくほくそ笑んだ。

アリウス『(…………アラストル、完全に癒着しているな。主従契約が確立しているか)』

アラストルとあの能力者の結合は完璧。

前の学園都市第23学区での戦いの際、『借り物』という点を突いて行った、
命令系統へ浸入し魔具の類を無効化する方法は少し厳しい。

が、それなら別のやり方でいくだけだ。


アリウス『(…………主を潰せば後は簡単だな)』


あの能力者を潰してしまえばそれで解決だ。
そして残る『主が不在』となったアラストルは、以前と同じ方法で封印してしまえばいい。

あの能力者がアラストルの力を使い切れているようには到底見えない。

それどころか、かなり『お粗末』だ。

『タダ単』に力を得た『だけ』で、まったく纏まっていない。
無駄な『垂れ流し』状態だ。

あれならば、倒す事はいとも簡単。
苦労は無い。


アラストルが魔界の諸神としての全ての力を解放してくれば、
現状のアリウスでは対応しきれない。

が、自立しての力の解放許可を出す『主』はいない、
力を全て引き出しうる『主』もいない、となれば全く脅威ではない。

絶対的な契約を結んだ使い魔は、どう足掻いてもその掟に背くことは不可能。
あのダンテと血の契約を結んだ以上、アラストルはそれを無視して単独で力の解放は絶対にできない。


アリウス『(問題は無い)』

アスタロトや、例の『影の王』の手を借りる必要も無い。
現状のまま全て対応できる。

今の所有者であるあの能力者を殺せばそれで終わりだ。

773 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:53:57.19 ID:T/QcCx2o

そもそも、アリウスは魔界の強大な『パトロン』達の直接の手をあまり借りられない事情がある。

主要なパトロンを前に出してしまい、彼らがネロに狩られてしまったら大問題なのだ。


アリウスならばともかく、他の大悪魔ならネロは即座に殺しにかかるだろう。


パトロンの支援を失ったら計画そのものが傾いてしまう。
この大詰めの時に無用な危険を冒すわけにはいかないのだ。


ちなみにそのネロの件。


アリウスとネロの恋人の『同期機能』は、今は停止しているが術式自体は解除されていない。

現状でアリウスを殺しても、ネロの恋人が同時に死ぬ事は無い。


だがその一方で、この術式が原因で『後で』免れない死を被る可能性がある。


アリウスはあの術式に、膨大な数の罠を組み込んである。
彼の命以外で解除された段階で発動する罠だ。

つまりあの杭を作った者がその一つでも見落としていれば、ネロの恋人は非常に危うくなる。
そしてその即解決法を知るのはアリウスのみ。


彼女の術を解く過程で何らかの支障があった場合、必ずアリウスの知識が必要になる。


つまり、術式の完全解除までネロはアリウスに手を出せない。

774 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 00:55:59.14 ID:T/QcCx2o
ネロが恋人の命よりもアリウス殺害を優先すれば話は別だが、
どう考えてもそれはまず有り得ないのは確実だ。

更に術式解除に有する時間。

あの杭の中に、大体どういった術式が刻まれているかは一目でアリウスは判別した。

あの水準の術式ならば、効果が浸透し完全解除となるのは最低でも15分はかかる。

杭の製作者、父からの比類なき才を引き継いだ『アーカムの娘』がいれば、
効果促進させて時間短縮できるかもしれないが、今この島にはいない。

アリウスが認めるほどの天才的な術式技量の持ち主でも無い限り、
要する時間を短縮するのはまず困難だ。


今の状況。

覇王復活完了までの時間は5分を切っている。
術式解除までは最短15分。

つまり覇王復活よりも先に、ネロがアリウスを殺しに来る事はまずない。

そして覇王復活すれば即座に魔界の門を開き、
スパーダの力の片割れを引き出すことも可能。

そうなれば、最早ネロは怖くない。

ネロの有する力と魔剣スパーダを手に入れ。
フィアンマから創造を奪えば、ダンテやバージル、魔女らさえももう敵ではない。

もちろんそこまで行けば、
天の門の開放に関してなどどうとでもなる。

この計画の『コア』の安全性も、表に直に出なければ問題ない。


『影』から出なければ、ネロでさえ手が出せないのだから。

775 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:00:02.38 ID:T/QcCx2o
アリウス『…………』


計画に何も問題は無い。今のところ全てが順調。

『χ』の反抗とその処分も、学園都市からの能力者の相手も『余興』。


時間までの暇潰しだ。

障害には成り得ない。


アリウス『(「この程度」で本当にこの俺を止められると思ったのか?)』


何度もシミュレーションをし、自身の計画の成功を確信したアリウス。

アリウス『(この俺の計画の、どこに穴がある?どこが失敗の要因となり得る?)』

小さく笑いながら、心の中でたった一人の旧友へと呼びかた。

アリウス『(……思考が鈍ったな。エドワードよ。正しいのはこの俺だ)』


その彼の周囲に浮かび上がっている光のうねりがより一層激しくなり。
表面で術式が激しく変動して行き。


アリウス『(―――それを証明してやる。もうじきにな)』


魔神としてのアリウスの力と技術が躍動し、
彼を覆う術式体系が更なる臨戦状態と変形していく。


そしてちょうどその瞬間。


その赤い光のうねりに、上方から照射された青白い光の柱が衝突した―――。



―――別名 『粒機波形高速砲』が。

776 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:04:54.56 ID:T/QcCx2o
降り注いだ大量の光は、大穴の縁の一角を一瞬で吹き飛ばし、そして溶かし尽くす。
着弾地点は蒸発、その周囲も広い範囲が輝く液体と化し。

そしてその液体は大穴の中へと流れ落ちていき、オレンジの大瀑布を形成する。

舞うのは水しぶきではなく火の粉。
吹き荒れるのは涼やかな霧ではなく、凄まじい熱風。


そんな灼熱の中、着弾地点の中心にいたアリウスは何事も無かったかのように立っていた。


彼の周囲に浮かび上がっている光のうねりも先ほどと特に変わり無い。

彼が立っているアスファルトの地面、半径5mの部分だけが綺麗に切り取られたのかのように残っていた。
オレンジの光り輝く海に浮かぶ小さな孤島だ。

アリウス『―――』

紫の翼を生やした、青白い光に包まれた若い女。

それは真上から凄まじい速度で急降下した麦野だ。

彼女は身を引き絞り、アラストルを頭上に掲げ。
降下した慣性を乗せ、迷い無くアリウスの頭頂部目掛け。


麦野『―――ッッつあぁぁッッ!!!!!!』


その振り上げた魔剣を一気に叩き降ろした。
正にハンマーのように力み思いっきり。

その速度とパワーは尋常じゃないレベルだったが、動きは粗暴・力の制御は乱雑。


アラストルの刃は剣筋に対し傾いており、その剣筋自体も激しくブレている。
その麦野の動きは、とても『剣技』とは呼べないものであった。

ただ力任せに棍棒をぶん回す『素人』だ。

単に物理的に見れば凄まじい衝突エネルギーだったろうが、
『ここから先』は、単に物理的に強いだけじゃ全く意味が無い領域だ。


無様にぶん回されたアラストルは、その絶大な力が全く引き出されずに。

強烈な爆風を周囲に撒き散らすも、標的のアリウスには全く届く事は無く。

彼を覆う光のうねりにぶち当たってあっけなく弾き返されてしまった。

777 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:10:11.82 ID:T/QcCx2o

麦野『―――ッッ!!?』

凄まじい衝撃によって痺れる右手。
耳鳴りのような振動音を発するアラストル。

そして体制を崩し、後方に傾く麦野の体。


アリウス『―――ふん』

麦野の驚いた顔を横目で見、冷笑するアリウス。

次の瞬間彼女の顔面に向けて、
一瞬の間にアリウスの近くの虚空から出現した銀色の触手、杭のような物が一気に伸びていく。

一本だけではない。
地面から、宙の光のうねりの中から、膨大な数の杭が。
麦野の全身を貫き粉微塵に引き裂くべく。


麦野『―――』


この『100倍返し』レベルの反撃。


『バージルと戦った時』の彼女ならば、容易に反応でき余裕を持ってかわせただろうが。


『今の麦野』は全く反応できなかった

778 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:13:14.90 ID:T/QcCx2o

麦野『―――あッ―――ぐぅッッッッッ!!!!!!!!』


その瞬間。


意識が飛びそうになるほどの凄まじい激痛が麦野の体を襲った。

それは杭が身を貫いた痛みではない。


凄まじい力で、彼女が『後方に引っ張られる』痛み。

翼の付け根にて暴れる、背中の肉、
いや背骨ごと引き抜かれるようなとんでもない激痛だ。


放たれた杭が伸びる速度以上の速さで麦野の体は後方へと吹っ飛んだ。

彼女が一瞬前までいた空間を、大量の杭が貫いていく。


麦野『………………か……あぁ゛ッッ…………う゛ッッッ…………ん゛…………!!!』


数百メートル、大通りに沿って後方に『飛ばされた』彼女は、
アスファルトを捲り上げながら乱暴に着地し、ひざをついて苦悶の声を漏らした。

『アラストルの翼』によって真後ろに強引に引っ張られたのだ。

アラストルの回避行動によって麦野は間一髪のところを免れたものの、
その意図しない強烈な力が使われた負荷が、彼女に跳ね返ってきたのだ。

779 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:14:24.33 ID:T/QcCx2o

アラストル『―――わかるだろうが、今のはもう出来ないからな。お前がもたない』

苦痛に堪える彼女とは対照的に淡々とした、いや、
どことなく楽しそうにも聞こえるアラストルの声。

ほくそ笑むそうな、せせら笑うような。

麦野『…………わかってるわよッッ……!』


アラストル『それとこれもわかってるな?今の状況は、兄上殿と戦った時とは全く違うからな』


アラストル『勘違いするなよ?今のお前は「素人同然」だ』


麦野『…………ッ…………』


そう、あの時とは違う。

あの時、彼女は洗練された剣技によって、バージルの刃をも数回退けた。

だがそれはトリッシュとの感覚共有があったおかげであり、彼女自身の技ではない。

『鍛え上げられた武人』が麦野の体に同化していただけに過ぎないのだ。

そのトリッシュの加護を失えば?


当然、残るは『ド素人』の麦野だ。

780 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:16:04.89 ID:T/QcCx2o

いくらこのアラストルのような名だたる大悪魔とでも、ただ同化して力を手に入れた『だけ』では、
悪魔の技術は手に入らない。

そもそも、そのくらいで『達人』と成れれば誰も苦労しない。

ダンテやバージルでも、生まれた時から剣を始めとする戦闘術の達人であったわけではない。
幼少期に父スパーダにより、あらゆる基本を身をもって叩き込まれたからだ。

彼らが新しく手に入れた魔具をその場で即座に使いこなしてしまうのも、
その技術の基本が完璧であるからだ。



どれほど大きな牙や爪を持っていようとも、なまくらだったら意味が無い。

どれほど強大な力を持っていても、その本質を知らなければ使いこなせない。

どれほど強力な武器を持っていたとしても、使い方を知らなければガラクタと同じ。


鍛え上げられた武人は皆、剣技であったり格闘技であったり、特殊な技能であったり、
洗練された自身のスタイルを持ち、自身の力を最大限効率よく扱える『法』を有しているのだ。


麦野は能力については『ある程度の技術』をもっているが、
悪魔の力に関してはまるっきり『ド素人』。


そして実はその能力技術自体も。


『ある線』を越えた今の一方通行からすると、『本質を何も知らない素人』のそれだろう。

781 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:18:33.73 ID:T/QcCx2o

麦野『―――』

とその時。

前方のアリウスの方から『圧』と『衝撃』を感じ、
麦野は痛みに堪えながら顔を上げた。


その彼女の視線の先では。


背丈の小さな、光を纏った鳥人のような悪魔とアリウス。
二者は至近距離で凄まじい攻防戦を繰り広げていた。

鳥人のような悪魔は、小柄で華奢な体躯に反し放つ力は強力かつ洗練された力。
円を基調とした流れるような無駄の無い動きで、無駄なく力を制御し次々と放つ剣撃や斬撃。

そして対するアリウスも、得体の知れない『何か』でそれらの攻撃を退き、そして彼の方からも攻撃を繰り出す。
麦野に使った杭のようなものや、色とりどりの光線のようなもので。


麦野『…………なッ……!?』

が、それらの速度は凄まじく、今の麦野ではまともに見えない領域だった。
同化しているアラストルからの情報で間接的にわかるだけであり、

彼女自身にとっては連続して煌く光の嵐としか認識できなかったのだ。


それは、『素人』である今の彼女程度では、とても割り込む事のできない戦いだった。


今の彼女は決して弱いわけじゃない。
現在の状態でも普通の人としての域を超えている。


が、それでも『神の領域』にはまだまだ届いていない。


その身に宿している『力』は充分『神の領域』相当だろうが、
その彼女の感覚や技術、認識はまだまだ陳腐なものにしか過ぎなかったのだ。

782 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:20:19.17 ID:T/QcCx2o

アラストル『力を解放しているルシアだな。あの小娘だよ。赤毛の。なぜここにいるかは知らんが』

その小柄でありながら洗練された強力な力を振るう悪魔を、
ルシアだと指摘する嫌に落ち着いているアラストルの声。


麦野『…………ッ』

そして。

アラストル『さて、俗に言う「大悪魔の域の戦い」がどういったものか、「己の等身大」でやっと知ったろう?』

彼女が味わっている「衝撃」を、
まるで代弁・再確認させるかのごとく言葉を続けて言った。

アラストル『あの「領域」の戦いには、さすがに今のままじゃ着いていくのは厳しい』

アラストル『これでハッキリしたな。所詮、今のお前は雑魚相手しか出来ない「派手なだけの素人」だというわけだ』


麦野『……うっせえ!!!黙ってろガラクタが!!!!!』

淡々とストレートに指摘され。
自身への不甲斐なさにイラつき、声を荒げながら体に鞭打ちゆっくりと立ち上がろうとする麦野。
その声の荒ぎは、軋む体の激痛を堪える面もあった。


アラストル『俺の力を全く引き出せていない。俺の力を全く使えていない』


アラストル『情け無いな。それでも我がマスターが認めた者か?』

783 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:25:09.00 ID:T/QcCx2o

麦野『…………チッ!!だからうっせぇんだよッ!!今更ご高承に指摘されても遅えッ!!ボケが!!!!!!』

更に声を荒げ。
今度はアラストルを地面に突き立て杖代わりにし、ようやく麦野はしっかりと立ち上がった。


アラストル『遅いも早いも無い。こればかりは、他の者が指摘しても意味は無い』

アラストル『力が何たるか、というのは身を持って知らなければな。誰かから教わる類のものではない』


アラストル『そしてなぜ今頃か?それは、実戦は最高の修練だからだ』


麦野『―――…………』

そこまでを聞いて、アラストルの言わんとした事を悟った麦野。
不機嫌なのが一転、脂汗が滲んだ顔で今度は薄く笑った。


アラストル『「殺し合い」は最高の「殺し合い」の演習』


麦野『ハッ……そういうことね……そうきたか……』


アラストル『殺す為の技術は、殺す時にしか「正確」に実践できない』


アラストル『真の武を求めるのならば、真の武に飛び込め。これぞ我々の「魔烈の学道」よ』


麦野『ふん…………その理論には同意するわ。でもちょっと極端すぎじゃない?』

アラストル『諦めろ。お前が今踏み入れようとしている世界はこのような方法じゃないと到達できない。そして生き残れない』


アラストル『ここで学べ。ここで手に入れろ。それが出来ねば行き先は死だ』


麦野『…………で、具体的にはまず何をすればいいの?すぐできるの?』


アラストル『お前の中では基本は出来上がっている。すぐかどうかはお前の心持次第だ』

784 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:26:40.47 ID:T/QcCx2o
アラストル『まず集中し。黙って俺の言葉を聞け』

アラストル『兄上殿と刃を交えたあの瞬間の感覚を思い出せ』

麦野『……今はあの時とは違うだろ?トリッシュとはt』


アラストル『黙って聞けと言っている。「思い出せ」。「無い」のだから、頭の中で「形作れ」』


アラストル『「感覚」と「技術」は無くとも、「記憶」と「経験」はある』


麦野『………………いいわ、思い出した』


アラストル『よし。もう一度あの男に突っ込め』


麦野『―――はァァァァッ??!!!』



アラストル『急げ。ルシアが押されてる。それにあの男はまだまだ全力を出していない』

アラストル『あの男が飽きてしまったら、恐らくルシアも潰される。そして今のお前じゃ一瞬で殺される』


麦野『―――くッ!!!』


アラストル『―――良いから信頼しろ。俺は裏切らない』



麦野『………………チッ……こんなガラクタの胡散臭い言葉を素直に聞いて―――』


半分やけになりつつも、麦野はアラストルを地面から引き抜き。
背中の翼を一度大きく広げ。



麦野『―――突っ込む私もどうかしてるわ畜生ッッ!!!!!!』



一気に前へと飛び出した。
最大速度で。

785 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:30:35.61 ID:T/QcCx2o

アリウスまでは数百メートル。
今の麦野の速度ならば、一瞬で到達する距離だ。

彼女自身にとっても一瞬だ。

だがその彼女の体感速度がなぜか。


アラストル『―――お前らの「能力」も我々の「魔の力」も扱いの基本原理は同一』


アラストルの言葉が始まった瞬間に急に緩やかになった。


麦野沈利。能力者でありレベル5。
その段階で彼女の集中力は折り紙つき。
そして力の認識能力も、素養は確たるものを持っている。

あとは学ぶだけ。

あとは『気付く』だけだ。


アラストル『―――感じろ。征服しろ。そして己の周りの世界を掌握しろ』


麦野は全ての雑念を捨て、あらゆる感覚に集中する。

今の彼女では見えない感じられない、
『何なのか』すらわからない『何か』を認識する為に。

786 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:34:47.63 ID:T/QcCx2o

脳内に存在し、響くのはアラストルからの言葉だけ。

それをまるで、プログラムが与えられたPCのようにただ正確に。
ただ素直に完璧に麦野は沿っていく。

今麦野が探している『何か』は、他者から知識として授かることは出来ない。
が、見つける為の『ヒント』ならば、他者から貰うことも可能。


アラストル『―――そうすれば「見えてくる」。「触れられる」―――』


アラストルの言葉が、まるで魔法のように、
麦野の精神を更なる境地へと引き込んでいく。

いや、現にアラストルの言霊にはある種の力がある。
何せこのような姿でも彼はれっきとした強大な『神』の一柱。

『催眠』などという陳腐なものではない。

『神』の言葉は『お告げ』だ。

『神の領域』からの言霊は、『人の世界』を容易に変える力を持つ。


アラストル『―――――――――「      」がな―――』


そしてその瞬間。
アラストルが何と言ったのか、全てを感覚に集中していた麦野は、
記憶する処理も行うことができなかったが。

それは何の問題も無かった。


彼女は、アラストルが発したその『言葉』を今見つけ。


その領域に『突入』したのだから。

787 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:37:36.53 ID:T/QcCx2o

麦野『――――――』

そこは別世界だった。

突き進む自身も、周囲の街並みも。
何も変わってはいない。

変わってはいないのだが『別世界』。


そして同じ。


そう、同じ、だ。

『覚え』がある世界だ。
さすがに前回よりはそれなりに『劣る』も。


その前回、トリッシュと感覚共有した時と『同一の世界』に今、麦野は入り込んでいた。


早いのか遅いのか、それどころか一定なのかすらわからない時間感覚。
いや、わからなくて良いのだ。

この領域では、それぞれにとって時空は『可変』なのだから。


あらゆる法則が、それぞれの有する力の濃淡強弱や性質によって『可変』なのだから。

788 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:39:36.58 ID:T/QcCx2o
前方のアリウスとルシアの攻防も今なら見える。
依然として彼女にとってはかなり速い攻防戦だが、一応『戦い』として認識できる。

良く見ると、ルシアの攻撃はアリウスを守っている光のうねりを思いっきり削り取っていた。
麦野の第一撃があっさり弾かれたあの光のうねりをだ。

だが貫通はしていない。

アリウスはその場から動くことなく、腕をも動かしていない。
周囲の光が別の意思を持って、自立して防御も攻撃も行っているように見える。


そしてそのアリウスまで、麦野があと20mにまで迫った時。

この瞬間、彼女には「見えた」。

そして「感じた」。

まだ『予備動作にも入っていない』、麦野へのアリウスの攻撃を。

それが悪魔の感覚。

予兆・予感とは似て非なるもの。

それは『かもしれない』という予測ではない。
『100%の現実』を事前に知る事だ。

麦野は瞬時に頭を下げ、腰を落とした。
その後に。

アリウスの光のうねりの表面が力の集中によって僅かに淀み。
術式が変動し。
それらのプロセスを経てようやく術式が動き。

光の刃が出現し振るわれ。

余裕でかわした麦野の頭上を過ぎ去っていった。


アラストル『―――それだ。その感覚を維持しろ』


『音』ではなく、直接魂に飛び込んでくるアラストルの思念。

これも同じだ。

あの時の、胸にしまっていたバラからも同じように思念が伝わってきた。


麦野『―――』

789 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:42:05.05 ID:T/QcCx2o
アラストル『―――身を委ねろ。だが「支配」はお前の手に』


麦野は腰を低く落とし、光の攻撃を上方にかわし。
そのまま地を這うような前傾姿勢のままアリウスに突進し。

左肩付近から伸びている青白いアームをアリウスの下腹部向けて叩き込んだ。

が、その一撃はアリウスの周囲をうねる光に防がれ、
アームの先端が潰れ砕け光の粒子となって霧散した。


アラストル『―――「薄い」。それでは垂れ流してるのと同義。力を圧縮しろ。力を収束しろ』


直後にアラストルからのダメ出し。


アラストル『―――かといって力むな。意識もし過ぎるな。あくまで自然に、あるがままと成れ―――』


その突っ込んだ麦野の顔面目掛け、
先ほどと同じく先の尖った銀の触手の束が、真正面の虚空から出現し伸びていく。

麦野『―――』

だが麦野は、今度は完璧にそのカウンターを捉えた。

翼を動かし、横に僅かに体重移動し。
位置的にはスレスレでありながらも余裕を持って、その『槍衾』とすれ違うようにかわした。


そしてすれ違いザマに。

右手に持っていたアラストルを斜めに、滑らかに振り下ろし。


麦野『―――ふッッ!!!!!!!』


触手の束を一気に破断。

790 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:45:18.48 ID:T/QcCx2o
アラストル『―――そうだ。周りの既成概念に縛られるな』

飛び散る触手の破片。

その中を、麦野は更に前に踏み込み、よりアリウスに近付く。


アラストル『―――ここから先の「律」は力のみ。「掟」は力のみ。「法」は力のみ―――』


そこで、ようやくアリウスは麦野の方へと顔を向けた。
それは麦野の接近にここで気付いたからではない。

ようやくアリウスにとって、彼女が『眼中に入った』のだ。

ルシアと同じく、『視線を向けるに値する敵』、と。


                スタイル
アラストル『お前自身の「 法 」を形成しろ―――』


アリウスが見たのは。
腰を深く落としアラストルを下に構え、今にも切り上げようとしている麦野の姿だった。

そしてその巨大な刃に沿い輝き出す、紫と青白い光。


                      力
アラストル『―――それがお前だけの「現実」となる』


そして次の瞬間。

麦野は、その白銀の大剣を真下から切り上げた。


麦野『―――ッッァァアアッ!!!!!!!!!!!!!』


今度は完璧に。

その剣筋は滑らかで。

刃面の角度も狂い無く。

刃には集中し圧縮された力―――。

791 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:49:48.87 ID:T/QcCx2o
その光り輝く刃。

反応したアリウスの光のうねりが、今までどおり防御の動きを見せるも。

アラストルの刃は、耳障りな破砕音を響かせながらその光に深く食い込み。

ごっそりと、光を砕き剥ぎ取った。

それがルシアの刃と同じように。
麦野の刃がアリウスの力に効果を示した瞬間だった。

貫き完全に切り裂くことは叶わず、半ばいなされたが。


麦野『(―――いけるッッッ!!!!!!!!!!)』


彼女も同じ舞台にようやく上がったのは確かだ。

そしてその光のうねりの亀裂が修復されるよりも早く。

麦野は、『紫』の『粒機波形高速砲』をその亀裂に放った。

彼女の周囲の宙空から放たれた、アラストルの力が使われそして圧縮された光線。

見た目は太さは50cm程度であったが、威力は今までのどの特大のものとも比べ物にはならなかった。

が。

その光線は亀裂に当たるかどうかのところで、突如直角に真上に曲がってしまった。
特に何かの抵抗も無く、すんなりと、だ。


麦野『―――チッ!!!!』

天を貫き大空に穴を穿つ、麦野の究極の砲撃。

なぜ今の砲撃が曲がったのかはわからない。
だが、誰が曲げたのかはわかる。

もちろんアリウスだ。

光の柱が当たる直前に麦野は、光のうねりの表面を埋め尽くしている奇妙な文字列が、
今までとは違う動きをし、そして違う力の流れをしたのを見たのだ。

何らかの力が働き、彼女の砲撃は大きくひん曲げられたのだ。

792 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:52:38.49 ID:T/QcCx2o

麦野が初弾で溶解させた灼熱のオレンジの湖さえも消え去り。

ビルを何棟も含んだ、アリウスから扇状に広がる、奥行き500mもの領域が跡形も無く消えていた。
地面は、あまるでやすりをかけたかのようにまっ平ら。

吹き飛ばされたのではなく、
鋭利な刃物で切り取っていってしまったと表現した方がしっくりくるか。


その射程から僅かに外れた、アリウスから550m程のところにある超高層ビルの屋上にて、
ギリギリのところで逃れた二人の女がいた。


屋上の縁に屈み、遠くのアリウスを見下ろしている麦野。

その隣にて立っている、魔人化状態のルシア。


アラストル『やっとあの男やルシアと同じ舞台に上がれたな』


アラストル『だが過信するな。お前はたった今、「本当に始まった」ばかりだ』


麦野『…………わかってるわよ』

793 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:54:06.20 ID:T/QcCx2o
ミスりました。1レス抜け
>>792の前にこれです↓
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

麦野『―――』

そしてその直後。

アリウスの背後にて、巨大な何かが光の中から出現した。

『それ』の形は『目の無い、高さ3m程のカエル』、とも表現できるか。

光沢を帯びた銀色の金属らしきもので構成されており、
表面には奇妙な、紋様がびっしりと刻まれていた。

それを見た瞬間。

麦野は悪魔の感覚で再度『知る』。

あの『目の無いカエル』から凄まじい攻撃が放たれて来ることを。
今度は、先ほどの触手らのような余裕をもった回避はできなかった。

それは単純な理由だ。

トリッシュの感覚をもっていても、より優れていたバージルの続けざまの剣撃に対応できなくなるのと同じく。

今のある線を越えたこの麦野よりも、未だアリウスの方が洗練されて優れていたからだ。


麦野『―――チッ!!!!!』


とにかく距離を置く、それだけを念頭に真後ろへと思いっきり跳ねる麦野。
同じくルシアも、思いっきりアリウスから距離を置こうと跳ねていた。

その一瞬後。


目の無い巨大なカエルの口がカッパリと開き。
そこから溢れ放たれた白い光が、麦野とルシアがいた方向を含めて広域を『消失』させた。


794 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:56:14.34 ID:T/QcCx2o
>>792の続き
〜〜〜〜〜〜〜〜〜

アラストル『大悪魔と呼ばれる存在の、魔界での一番の死因、何か知ってるか?』

麦野『……何?』

アラストル『この領域に到達したての大悪魔が調子に乗って目立ってしまい、年長の大悪魔に即狩られ喰われる事だ』

アラストル『俺達からすると「カモ」なのさ。お前のような「赤子」は』

麦野『ハッ…………ご親切な忠告、ありがとうね』


アラストル『それともう一つ忠告だ。あの男、底が見えない』


アラストル『―――不気味だ』


麦野『……悪魔が「不気味」って言うの、けっこう洒落にならないわね』


麦野『……ルシア、って言ったっけ。どう思う?客観的に見てちょっと厳しいと思わない?』

アリウスに目を向けたまま、
麦野は隣のルシアに言葉を飛ばした。

ルシア『…………はい。確かに。ですが何としてでも倒さなければなりません。あと4分20秒以内に』

麦野『それ何の時間?』

ルシア『…………覇王復活までです。あの男の言葉ですが、嘘では無いでしょう』

麦野『チッ…………』

その程度の時間的余裕しかないのならば、
一旦退いて作戦を練るヒマも無い。


麦野『(やっと私もある程度戦えそうだけど…………レールガンが来てもまだ厳しいか)』


麦野『(…………さすがにそう簡単には潰せないか)』


と、その時。

795 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 01:58:54.22 ID:T/QcCx2o

麦野『―――』

麦野とルシア、二人とも突如ピタリと硬直した。

更なる別の力の存在を感じたからだ。

それもかなり巨大な、そして二人にとって妙な『違和感』がある力を。

麦野『…………何か、妙なのが近付いてきてない?』

ルシア『……わ、私の記録には該当する存在がありません……と、というかこれは……悪魔では……』


アラストル『そうだ。悪魔ではない。「天の者」だ』


麦野『―――は?』


『天の者』。

その言葉を聞き、『学園都市から来た能力者』である麦野の顔が一気に引きつった。

そんな彼女の表情の変化など気もせず、アラストルは言葉を続けた。


アラストル『お前らは初めてか?本物の天界の力を感じるのは?』


アラストル『あれは……俺の記憶が正しければ、人間界でも特に有名な十字教の天使の類だと思うが』


と、そう魔剣がマイペースに注釈をつけていた所。

遠くの空が瞬き、僅かに『青み』がかった白い光の『何か』が出現した。


それは。


広げられた巨大な『翼』、に見えるか。


二対、いや三対、とにかく複数枚の巨大な『翼』に―――。


―――
796 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 02:07:33.37 ID:T/QcCx2o
―――

アリウスは相変わらず葉巻を咥え、悠然と立っていた。
その立ち位置からは、地上に出てから一歩も動いていない。


アリウス『(………………全く張り合いが無いな)』


元々は対スパーダ一族を念頭に磨き上げたこの力。


アリウス『(…………強すぎるか。今の俺でも)』


当然、彼らにはこれでは全く到底及ばないのがわかってしまった為、
こうして覇王や残されたスパーダの片割れの力を求めているのだが、

ただそれでも、ルシアや麦野程度ではこの魔神としての力は最大稼動する必要は無い。
ほんの一部の力だけで充分。


『魔神』、という括りの中でさえ、今の彼は常軌を逸している存在であろう。


そしてこの練り上げた力が、もう直に用済みとなるのはさすがに少し寂しいものがある。
覇王が復活すれば、もう必要ないガラクタに成り下がってしまう。


生涯を捧げ練り上げ、作り上げた一世一代のこの力。

覇王復活等の今計画の諸々で使用したが、
やはり戦闘で思いっきり最大限発揮したいのは男、いや、武人としての性か。


アリウス『……』

と、そうやって退屈を呪っていたその時。

アリウスも、600m先の麦野らと同じく、新たな第三者の接近を感じ、その方向を見上げた。

797 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 02:17:34.61 ID:T/QcCx2o

アリウス『(ほぉ…………)』

アリウスは当然、その接近体の正体を即割り出した。

イギリス清教に所属していた天使と『同じ』だ。


『聖人』、その天界との繋がりを利用し強引に半転生―――か。


そしてここに向かっている個体は、

どうやら『聖母』の性質もあった『あの二重聖人』であり、
バックについている守護天使も名だたる者。


イギリスの半天使よりも『手ごたえ』があるのは確かだ。


アリウス『(―――…………十字教の一柱を砕き折るのも一興、か)』

その方角に目視でも光を捉え、アリウスは心の中でほくそ笑んだ。


アリウス『(まあ、「時間潰し」には良いな。少なくとも「今の退屈」よりはマシだn―――)』


と。

その瞬間だった。

小さく笑っている彼を巻き込むように。

彼の周囲の地面が丸ごと砕け、『真上』へと吹き飛んだ
『真下』から、強烈な何かによって突き上げられたかのように。


粉にまで砕かれた粉塵が、真っ直ぐ、
それも高さ500m以上にまで一瞬で立ち上がった。

799 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 02:50:19.04 ID:T/QcCx2o

その巻き上がる粉塵の柱に徒歩で近付いていく、一つの人影。

それは金髪の白人の男だった。
薄い水色の長袖シャツに、ベージュのベストを羽織った中々ラフな格好の。

「全く気が滅入るな。この絶望具合には……」

やれやれと息を吐き、やる気なさそうに歩き進む男。



「―――『魔神のなりそこない』が、『魔神の中でも規格外の怪物』に挑む、か……」



「我ながら無謀だな」



そんな彼に向け、立ち上がる粉塵の中から声が返ってきた。



アリウス『―――「魔神」、か。無知な連中が作った意味の無い冠だ。そうこだわるな』



アリウス『その若さで「席」を手に入れかけたのだ。お前の才そのものは素晴らしいぞ?』


アリウスの平然とした声が。


800 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 02:55:52.91 ID:T/QcCx2o

「……はぁ…………そう言える時点でもうかけ離れてるんだよなあ」


そんなアリウスの余裕の言葉を聞き、
ぽりぽりと頭を掻き半笑いしながら深い溜め息をつく金髪の男。

が、その瞳は全く笑っていなかった。
眼光は鋭く。


「そしてやっぱり、そうはっきり言えるような男だから―――」


宿っている光は強烈な殺意。


「―――あんたは何としてでも絶対に潰さなきゃな。危険過ぎる」


「生きていてもらっちゃ、失われる命が多すぎるんでね」


その瞬間、粉塵が晴れ渡り。
中から、埃ひとつついていないアリウスが姿を現した。

葉巻を燻らせ小さな、そいれでいて傲慢さが良くにじみ出ている笑みを浮かべている『魔神』が。


「俺の事はさすがに知っているみたいだが、一応名乗らせてもらうよ



オッレルス「―――オッレルスだ。お前の死に様を見るためにここに来た」



オッレルス「今ここに来る、あの『ガブリエル』と共にな」


アリウス『歓迎しよう。俺も今ちょうど退屈していたのでな』



アリウス『―――では早速教えてくれ。俺の死に様とやらを』


―――

803 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 03:46:23.19 ID:qIahu/Yo
しびれるぜ…

805 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 01:52:12.43 ID:Fh2jpX.o
・・・・・・モンハンやってる場合じゃなかった

806 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 04:15:00.54 ID:pTB7bu60
オッレルスって聖人だったのか……てっきりウィリアムかと…

807 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 05:27:42.77 ID:/RIIbuEo
聖人ってのはウィリアムのことを言ってるんじゃないの?

808 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 09:29:52.59 ID:Mgsc1pg0
聖人はシルビアでガブリエルはウィリアムだと思うが

809 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 12:25:39.31 ID:xURNQgDO
オッレさんは魔人のなりそこないでシルビアは聖人でヴェントがウリエル

813 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/10(金) 22:27:31.72 ID:/HvOWGY0
ウィリアム=二重聖人(聖人+聖母)=神の右席後方(ガブリエル)
オッレルス=魔神なりそこない
シルビア=聖人

862 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 15:41:40.44 ID:tQm6Ee.o
―――

土御門はとあるビルの屋上に立っていた。

土御門「………………」

目を細め口を固く結び、遠くの一画を睨みながら。

その視線は、連なる高層ビル群の向こう3km程の地点。
巨大な粉塵が上がり、ビルが倒壊している区域に向けられていた。

そして更にその向こう、空の彼方に現れたに。

土御門「………………」

麦野との通話が終わったすぐ後に白井黒子の能力により、
土御門を含むその場にいたチーム全員がこのビルの屋上へここに飛ばされ。

直後、青・紫・赤・白・金の閃光が立て続けに輝き一帯が『吹き飛んだ』。

更に続けて今度は空の彼方に出現した『複数枚の白い翼』。

何がどうなったのか。

爆心地に向かい今の破壊の一因となったであろう麦野ならともかく、
具体的なことは土御門は答えられない。


だが一つだけ、この土御門にも確たる自信をもって断言できることがある。


それはあの『複数枚の白い翼』が何なのか、だ。

863 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 15:43:26.32 ID:tQm6Ee.o
土御門「………………」

半年以上前の夏のある日、
とある事件にて『アレ』を目撃したことがある。

夏のあの日、『アレ』は夜空を掌握し、
星の位置を変えて地球規模の術式を形成。
そして人界を焼き尽くそうとした。

そのあまりにも強大すぎる力の前に、土御門達は懸命に足掻き喘ぐ事となった。


土御門「(…………『ガブリエル』か)」


人間世界では特に著名な天使の一柱、『神の力』。


ガブリエルだ。


以前と同じく『人間』の体を媒体として現出しているのだろうが。
(『本体』が直接降臨するには、天の門を開き人間界と天界を接続しなければならない為、
 現状では有り得ない)


力に関して全うな知覚をもたない、
普通の人間である土御門でも本能的にわかってしまう。


より天界の『本体の性質』に近付いているのだろうか、
前回とは威圧感が比べ物にならない程に強大だ、と。

865 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 15:46:02.57 ID:tQm6Ee.o
だが。

土御門「…………」

そんな存在を目にしても、土御門の反応は小さく鼻を鳴らすだけだった。

確かにガブリエルが突如現れた事は想定外だが、『それだけ』。
力の大きさそのものに関しては特に驚かない。


土御門「(…………なるほど……)」


普通に慣れているからだ。


今の彼ならば、例え十字教の神が目の前に現れたとしても、
その力の大きさに関しては全く驚かないだろう。

何せ魔帝の騒乱、そして先日の禁書目録を巡る学園都市での争いにて、
頂点という頂点の力を知ったのだ。

『神々』をも片手で捻ってしまう『馬鹿げた』領域の存在を。

最早、『この程度』で一々腰は抜かさない。
『こんなレベル』では、この土御門の意識は鈍らない。

スパーダ一族レベルの存在が現われでもしない限り、
ショックで彼の思考を鈍らせるのは不可能だろう。

866 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 15:49:58.98 ID:tQm6Ee.o
土御門「…………状況は?アリウスは生きてるか?」

土御門は数秒間思索し、即座に脳内を整理した後、
通信機向こうの滝壺へと淡々と言葉を飛ばした。

滝壺『うん。たぶん傷一つ負ってない』

土御門「麦野は?」

滝壺『生きてるよ。生体反応は問題なし。でも……なぜか「ノイズ」が急に強くなって……』

土御門「気にするな。どうせアラストルの影響だろう。他には?」

滝壺『むぎのと同じくらい信号の強い悪魔がいるけど、敵じゃないと思う。今むぎのの隣にね、一緒にいるの』

土御門「…………OK、他には?」

その悪魔の事はそれだけにし、土御門は次を促した。
身元は二の次、敵じゃないとだけわかっていれば今は良いからだ。
(そもそも敵だろうが敵じゃなかろうが、今や土御門側からどうこうできる事は無い)


滝壺『約4km北の空にある白い―――』

土御門「それは良い。把握している。他は?」


滝壺『あ、うんとね、他にもう一体、良く分からないけどアリウスに信号の形式が「似てる」のが現れたよ』


土御門「(似てる?…………人間の魔術師か?)」


滝壺『今、アリウスのすぐ近くにいるよ。位置的に見て……何か話してるのかな』

867 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 15:53:25.44 ID:tQm6Ee.o

滝壺『あ、後、さっきそこから北北西800mの場所で、悪魔26体が一瞬で駆逐されたの』

土御門「…………」

土御門の位置から北北西800mというと、先ほどの『爆心地』にそれなりに近い所だ。

滝壺『多分、駆逐したのは一個体。信号は一瞬だけしか見えなかったけど、ものすごく強かったよ』

滝壺『信号の形式は……あの空の白い光のに良く似てる』

土御門「…………」

滝壺『あのね、これは私の考えだけど、私たちとは別の勢力が介入してきてると思う』

滝壺『私たちの味方かどうかはわからないけど、アリウス側と敵対してるのは確かみたい』

土御門「恐らくな。俺も同感だ」

視線変わらず、遠方の破壊された一画を見つめながら、
土御門は軽く目を細めた。

土御門「(…………ひゃー。参ったぜぃ。状況の全貌が全く把握できないぜよ)」

刻一刻と移り変わっていく状況。
それらに追いつかない情報の収集。

情報のピースの大半が欠落している状況では、
いくら頭を捻っても意味が無い。

こういう時はどうすればいいか。
それはもちろん、とにかく動き情報を集めることだ。


戦争は一に情報、二に情報、三に情報と言っても過言ではない。
少なくとも、本職が『魔術諜報員』の土御門にとっては情報が『全て』だ。


土御門「(とりあえず……こっちはこっちで仕事の続きをするか……)」


対アリウス戦の方は、現場にいる麦野自身が判断を下せば良い。
こちらはこちらで出来ることを、だ。

868 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 15:57:47.80 ID:tQm6Ee.o

土御門「……よし。俺は仕事の続きをする」

滝壺『了解』

土御門「結標。聞いてるな?」

結標『ええ』

土御門「わかっていると思うが、お前は絶対にこの交戦域には近付くな。何があってもだ。いいな?」

結標『わかってる』

もしも麦野と結標両方が死亡てしまったら、それは最悪の事態となる。

最高指揮権と最大戦闘能力の両方を有したトップが消失、
それは即ち、この部隊の心臓が止まるのと同義だ。

土御門「それと未知の勢力の存在が確認された。万が一に備えて警戒しておけ」

土御門「本格的に状況が荒れだしてきたしな。悪魔共の活動も活発化する恐れがある」

土御門「あと全チームには、ランドマークの掘り抜きを継続させろ」

結標『OK』

869 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:00:07.57 ID:tQm6Ee.o
通信を手早く済ませた土御門。
手馴れた動作で自身の装備を再点検しつつ、

土御門「白井以外は即刻退避しろ。後の支持は結標に仰げ」

背後にて待機していたチームに向け命令を飛ばした。

それを聞き、メンバー達は素早くビルの屋上から降りていった。
ただ一人、怪訝な表情を浮かべていた黒子だけを残して。

黒子「………………あの?」

土御門「さ〜て白井。今からお前はチームを外れ俺の直属だ」

黒子「?」

土御門「俺の運び屋兼ボディガードだぜい」

黒子「……何をするんですの?」


土御門「あのアメリカ人共を追跡する」


黒子「は?」


土御門「連中がな、ちょっと『重要なモン』を持ってるらしいんだ」


―――
870 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:02:22.05 ID:tQm6Ee.o
―――

とあるビルの屋上。

そこで麦野とルシアは無言・無表情のままジッと550m先を見据えていた。

麦野『…………』

突如現れた『天の者』、そしてほぼ同時にアリウスの傍に出現した金髪の男。

『あれら』が一体何者なのか、何が目的でここに現れたのかは当然わからない。
そしてそれらの疑問の答えを、正確にこの場で把握する術なども当然無い。

だが、ある程度のことなら節々から読み取れる。

まず、金髪の男はほぼ確実にアリウスと敵対関係のようだ。
何らかの力を使って出現と同時にアリウスに攻撃を加えたからだ。
ぶちあがった粉塵がそれだ。


そしてあの天の者も。


アラストル『あの天の者は我々を見てはいない。見ているのはアリウスだ。それもかなりの戦意を篭めてな』


このアラストルの分析が正しければ、
あの天の者の狙いは麦野達能力者ではなくアリウスだ。

872 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:05:11.41 ID:tQm6Ee.o

麦野『……………………』

天界は天の門を開いて欲しい。

そしてアリウスは天の門を開ける。

それなのに、天の者がアリウスに敵意を向けているとは明らかに矛盾している。
だが、今の状況がそれを現に物語っている以上、その事を否定しようも無い。

つまりこの矛盾が意味するところは、
一連の背景には今だ麦野が知りえない重大な事情がある、という事だ。


ただ。


麦野『(―――まあ、それは今考えることじゃないわね)』

そこを考えるのは今でなくても良い。
今は今しか出来ないことがある。

こうしている間も、
覇王が復活するまでのタイムリミットは刻一刻と迫ってきている。


状況も目に見えて逐一移り変わっていく。


このビルの屋上で、こうして僅かに麦野達が留まっている間にも、
あの天の者はアリウスの真上にまで移動してきていた。

873 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:07:06.15 ID:tQm6Ee.o

麦野『…………とにかくぶっ潰す』

アラストルを肩に乗せながら、
小さく独り言のように、それでいて良く響く確かな声で呟く麦野。

ルシア『はい。潰しましょう』

それに隣にいたルシアも静かに淡々と言葉を返した。

と、ちょうどその時。

御坂「―――お待たせ!!」

電磁力を使ってビル壁面を駆け上がってきたであろう御坂が、
大量の電撃を纏わりつかせながら麦野達の背後に降り立った。

御坂「…………ッ……」

彼女は着地した瞬間、魔人化しているルシアの姿を見、
わずかに驚いた色を見せたが即座に顔を切り替え。

御坂「……それでどうなってんの?」

遠くのアリウスの光を目を細めつつ見下ろしながら、
麦野へと説明を求めた。

麦野『ルシアと一緒に少し手合わせしたけど、アリウスはクソ強い』

麦野『あっちの白い光は「天の者」。アリウスの近くにも強そうな奴。二つとも少なくともアリウスと敵対してる』

麦野『タイムリミットは4分。それ超えるとアリウスに手が出せなくなる、こんなところ』

874 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:08:31.98 ID:tQm6Ee.o

御坂「……ふーん。で、プランは?」

       デカブツ
麦野『その「大砲」で援護しろ。こっちが合わせるから、私らに気にせずとにかくぶっ放せ―――』

先を促された麦野、
屋上の縁にふと歩み立ち、御坂の方へと振り返りつつ。


麦野『―――ド派手に、な』


屋上の外側へ向けて、倒れ込みながらそう口にし。
そして重力に従い、緩やかな髪を靡かせながらビルの下方へと姿を消した。

それに続けて軽く跳ね、眼下の薄闇の中へと舞い降りていくルシア。


御坂「おっけー任せて―――」


二人を見送った御坂はそう小さく呟き返しつつ、
大砲のコッキングレバーを勢い良く引き。


御坂「―――ド派手にいくのは得意だから」


腰の脇に据え構え、
その大きな砲口を眼下の赤い光へと向けた。

―――
875 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:11:51.65 ID:tQm6Ee.o
―――


オッレルス「―――オッレルスだ。お前の死に様を見るためにここに来た」


オッレルス「今ここに来る、あの『ガブリエル』と共にな」


アリウス『歓迎しよう。俺も今ちょうど退屈していたのでな』

葉巻を燻らし、余裕に満ち溢れた傲慢な微笑を浮かべたアリウス。

アリウス『―――では早速教えてくれ。俺の死に様とやらを』

そして両手を軽く広げオッレルスの方へと一歩進んだ。
待ち切れず、開戦を急かすかのように。

オッレルス「いやいやいや、俺は『死に様』は知らないよ。そしてお前の『死』も俺ではない」

だがそれに対しオッレルスは一歩下がり、
苦笑を浮かべながら肩を竦めた。

オッレルス「だから言ったろう?『見に来た』、と」


アリウス『……見物か?それならばお断り願いたいが』


オッレルス「そう言わないでくれ―――」



オッレルス「―――ちょっと『知りたい事』があってね」



アリウス『…………ほお』

876 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:15:53.67 ID:tQm6Ee.o
アリウス『まあ、何を欲してるにせよ、この期に及んでタダでやるつもりは無いがな』

オッレルス「わかってるよ。そう簡単にいかないのは。だから、せめて複数人でこういうタイミングで攻めようって腹さ」


アリウス『ふむ……』


小さく声を漏らしたアリウスはふと、自身の真上を見上げた。
その視線の先、彼の頭上300mの中には、遠くの空に出現していた『天使』が音も無く移動してきていた。


アリウス『(やはり……器はあの二重聖人か)』


『核』は長身で筋肉質・体躯の良い、壮年のやや厳しい顔つきの茶髪の白人。
右手には、その高い身長を遥かに上回る奇妙な造詣の大剣。


ローマ正教、神の右席、後方のアックア。


本名ウィリアム=オルウェル。


そして背中から伸びる、氷のような質感の『何か』で形成されている巨大な複数枚の翼、
金色に輝いている瞳、頭上に浮かび上がっている光の輪が示しているその力は。



十字教の四大天使が一柱、『神の力』、ガブリエル―――。

877 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:19:48.33 ID:tQm6Ee.o
アリウス『……転生か。使用したのはローマ正教「聖霊十式」の一つ、「御使昇天生」だな』


オッレルス「…………」

アリウス『あれは誤植が多すぎるぞ?0から構築した方が良い程の欠陥術式だ』

アリウス『現に出来上がりが酷い。「天草式の聖人」とは完成度が程遠いではないかアレは』


オッレルス「『独立存在』もできず、既存の天使の力を借りておんぶに抱っこ、だろ。わかってる」

オッレルス「遺物を使った『再現』じゃ、かの『エノク』やあの『天草式の聖人』のように『完全な本物』に成れないのは承知してるよ」


アリウス『ふん…………だが…………』


アリウスは視線を降ろし、再びオッレルスの方へ向けては彼をジッと眺め始め。

アリウス『お前の方は中々完成度が高いな』

何かを悟ったかの如く目を細め、
口の端を少し挙げ冷笑し、静かに口を開いた。



                 フリズスキャルヴ
アリウス『……ベースには「北欧玉座」か……中々良い選択だ』



878 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:22:54.58 ID:tQm6Ee.o

オッレルス「……………………ッ」

それはオッレルスが起動している術式の、『根幹』の名。

アリウスはこの僅かな時間で、
オッレルスの力が『何なのか』を見破ったのだ。


アリウス『設計も確かだ。オリジナルの構文も中々上手く出来ている』


アリウス『少し無駄が見えるが、実用に充分耐えうる水準だ』



アリウス『―――それと「目」も良く出来ているな。「視界」も「認識」も良好だろう?』



アリウスはより踏み込み更に直球、
正にピンポイントでオッレルスの術式の『とある要』を指摘した。

その下にある見透かした嘲笑を隠す気も無い、
いかにもなあざとい作り笑いを浮かべて。

879 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:25:35.49 ID:tQm6Ee.o

そんなアリウスの言葉を聞き流すかのように、オッレルスはふと瞼を閉じ。

オッレルス「……………………無駄話はそろそろやめよう―――」

揚場の無い平坦な、そして冷たく鋭い声でそう呟いた後、再度ゆっくりと瞼を開けた。


その露になった彼の『瞳』。


雰囲気は明らかに一変していた。

瞳孔は底無しの井戸のようにも見え。

感情の色が見えない無機質な、そう、監視カメラのレンズと例えられるだろうか。

もし上条やステイルがこの瞳を目にしていたとしたら、こう表現しただろう。



あれはインデックスの―――。



―――自動書記が起動している状態の瞳だ、と。



そして彼の体に現れた異常はそれだけではなかった。

白目の部分は一瞬で充血し、
顔色は紅潮し額や首の血管も浮き上がり。
呼吸は早まり、加速した鼓動は早鐘の如く打つ。


見る者が見れば、それが何の症状かはすぐに判別できるだろう。

魔術による凄まじい負荷で間違いない、と。

880 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/31(金) 16:27:27.83 ID:tQm6Ee.o

アリウス『……慣れてないな。完全起動するのは初めてか?』

そんなオッレルスに向け、
相変わらず余裕溢れる見透かした表情で声を飛ばすアリウス。


オッレルス「…………ああ。そもそもつい先日にやっと『完成』したばかりだからね。まあそれはさておき―――」

と、その瞬間。


アリウスから見て左斜め上の彼方から。


オッレルス「―――『あの子達』もその気だし、ここからは俺達も乗じて始めさせてもらうよ」


彼を覆っていた赤い光のうねりに向け、『青白い光の矢』が超音速で激突した。


堤防に激突する波の如く、飛び散る光の雫。

普通の肉眼ならば目が潰されてしまいそうな輝きが溢れ、
衝撃波が一気に周囲の地形を剥ぎ取っていく。


飛翔してきたのはプラズマ化した『砲弾』。


レールガンによって放たれた『魔弾』。



その『意味』は、少女達による第二ラウンド開始のゴング―――。


―――
892 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/07(金) 23:49:05.52 ID:pebD7d6o
―――

連なる高層ビルの間。

散乱してる超低温の悪魔、フロストの死体。

それらの『冷気』のせいであちこちに霜が降りた、
正に冬のような様相の一画。

その路上のど真ん中にて、悠然と立っている一人の女。

『素手』で15体ほどのフロストを一瞬で叩きのめした張本人。


端正な顔立ちに、金髪に押し上げたゴーグル。
質素な作業服にエプロン。

英王室付き近衛侍女に所属している聖人。


シルビア。


シルビア「……さてと、久しぶりだね―――」

一仕事終えた区切りを付くように、彼女はエプロンを軽くはたきながら、
斜め後ろに振り返りつつ。


シルビア「―――土御門」


視線の先、路上にあぐらを書いている少年の名を呼んだ。

893 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/07(金) 23:51:15.70 ID:pebD7d6o
土御門「―――やあ、シルビア」


不敵な笑みを浮かべながら、彼女に声を返す土御門。

その彼の隣には、
シルビアを鋭く睨みながら立っている白井黒子。

超低温のフロストと近距離戦を行った為、全身の戦闘服表面には白く霜が付着し。
まつげの先は凍り、鼻先や耳、頬が赤くなっていた。

土御門「いんやぁ、礼を言うぜい。それにしてもひっさしぶりだにゃ〜」

土御門「確か3年振りか?しばらく見ない内にますます美人になってるにゃ〜」


シルビア「あのマセたくそ坊主も随分と男らしくなったもんだね。中身は相変わらず腐ってそうだが」


土御門「はは、言うねえ。お前も、中身は相変わらず変わって無いな」

表面的な軽口を数回交わした後。
空気の切り替えを示すかのように、土御門が自身を手ではたき。
そしてゆっくりと立ち上った。


土御門「……OK、ちょっと聞きたいことがある」


シルビア「何?」


土御門「人を探してる」


シルビア「誰を?」

894 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/07(金) 23:55:47.82 ID:pebD7d6o

土御門「アメリカ軍の特殊部隊。見なかったか?」

シルビア「ああ、見たよ」

土御門「どこで見た?」

シルビア「さっき。私が用意した『避難所』で」

土御門「会わせてくれないか?」

シルビア「目的は何だい?」

土御門「ちょっと話がしたいだけだ。戦闘行為をするつもりはない」

シルビア「……OK、すぐだ。ついてこい」


土御門「(……トントン拍子だな。うまく行き過ぎだ……)」


嫌な予感を覚えながらも、
土御門は黒子を連れ、シルビアの後に続いていった。

895 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/07(金) 23:58:27.76 ID:pebD7d6o

背後、連なるビル向こうで勃発している怪物達の激突。

その爆音と閃光、そして大地の震えを感じつつ、一行は進む。

シルビア「世間話だ」

首を少し傾け、
背後の土御門に思い出したようにシルビアは話を切り出した。

シルビア「魔術、使えないんだって?今のあんたは。それなのによくこんな所に来たな」

土御門「あ〜いいや。使おうと思えば使える」

土御門「初歩的基本的なものしか使えないし、死ぬかもしれないけどな」

シルビア「それじゃあ使えないのとほぼ同じだろ。引き換えに得た能力は?」

土御門「裂けた血管に膜を張れる」

シルビア「……全然釣り合わないねそりゃあ」


土御門「いんやあ、そうでもないぜい。学園都市に入ったおかげで『色々』得る物もあった」


土御門「それに比べりゃ、『安いもん』だにゃ」

シルビア「…………ま、あんたの事なんざ別にどうだって良いけど」


シルビア「ああ、そうだ。神裂の件、聞いたぞ。結構親しかったんだろ?」


土御門「…………親しい、か。まあ、そうと言えばそうかもだな」


シルビア「残念だったね」


土御門「……」

896 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:00:30.86 ID:B0fd2KQo

土御門「それにしても、お前とこんなところで再会するなんてホント想定外だぜい」

土御門「まさかお前が動き出すとはな」

土御門「今までも、ただ単に『惚けて』帰還命令無視してたわけじゃあなさそうだな?」


シルビア「…………………………理由はある。ここにいる理由もその延長線だ」



土御門「はは、だよな。『イチャコラしたいがために、クーデター時も学園都市のあの戦いの時も、ウィンザー事件の時も帰還命令無視』」


土御門「―――ってことだったら磔程度じゃ済まされないからなあ」


シルビア「今度こそ訂正させてもらうからな!!私は別に惚けもイチャコラしてた訳でもない!!!」


シルビア「そもそも!……そもそもだ、私達からしても、まさか学園都市勢が動くとは思ってなかった」


土御門「お互い様か。じゃあそういう事で、お互いがここにいる理由、把握している状況、とにかく情報交換しようぜい?」


シルビア「……そうだな」

897 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:01:35.62 ID:B0fd2KQo

と、そうして話しながら歩き続け。

目的地であろう、とある超高層ビルの前でシルビアは立ち止まった。

シルビア「っと、ああ、そうだ。先にこれを言っておく。実は今、厄介な『お客様』がいてね」

いきなり見せて驚かれるのもウザイからな、とシルビアは続け。

シルビア「できることなら、『癪だけど』あんたの手も借りたい」


土御門「へえ。こんなところでお客さんとは珍しいにゃ」


シルビア「珍しいどころの話じゃないよ。おかげで私はてんやわんやだ」



シルビア「フォルトゥナのお姫様だよ。お姫様」



土御門「―――…………は?」


―――
898 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:03:16.35 ID:B0fd2KQo
―――

とある超高層ビルの一階にある、シックなレストラン。

いや、今の光景ではシックな、とは言えないだろう。

レストランの入り口、そしてビルそのものの入り口には、
重装備の兵士が警戒位置についており。

強引に脇に退かれバリケード状に積み上げられいる、
大量のテーブルと椅子。

天井や床、壁もところどころ割れ、破片が大量に散らばっている。

そして床に無造作に置かれた軍用ライトの光が、
室内に佇む複数の兵士達、そして負傷者達を照らし上げていた。


そんな『元レストラン』の壁際にて、キリエと佐天は床に座り込んでいた。


佐天「……」

キリエ「……」

金髪に押し上げたゴーグル、
質素な作業服にエプロンという出で立ちの、シルビアと名乗った女に案内され、
二人はここに連れてこられたのだ。

899 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:06:00.98 ID:B0fd2KQo
そのシルビアは、彼女達を壁際に座らせた後。

近辺の生存者を回収してたところだ、ツレ達が近くで派手に暴れるからね、とをし。

兵士達のリーダー格と思わしき屈強な男と

シルビア「―――いいや、民間人じゃない。白人の方はVIPだよ」
                                                       
シルビア「今の状況的には、あんたの国の大統領なんかとは比べ物にならない、超重要人物だな」

「胸にかなり酷い傷を負ってるようだが?」
 
シルビア「私がやる。『普通の傷』じゃないからあれ。それに傷自体は見た目ほど酷いもんでもないから大丈夫」

「そうか。日系人の方は?」

シルビア「学園都市の子。民間人」

といった風に話し込み。

そして更にしばらくの後。
ちょっと待ってな、仕事が出来た、と言い、足早に屋外に出て行った。

900 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:07:31.50 ID:B0fd2KQo

そういうことでキリエは今、シルビアの帰りを待っているところだ。


『大事な話』がまだ途中なのである。


先ほど、ここに来る道中にてキリエが身分を明かしたところ。

シルビアと名乗った聖人は、
不機嫌な思案顔を浮かべてうんうん唸り始めた。

なぜシルビアがそう頭を抱え始めたのか。

キリエにとっては差ほど疑問ではなかった。

『フォルトゥナのキリエ』がこの島にいる、
という事が完全に想定外だったのだろう。


自意識過剰ではなくとも、
魔術的界隈では自分がどういう風に捉えられているのかは、キリエは重々承知している。


歴史的にも魔術的にも、そしてもちろん、人間社会での政治的にも。
知る者にとっては、キリエという人物の存在はあまりにも『重すぎる』。

十字教風に例えれば、
それこそ『生きている本物の聖母』だ。

901 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:11:51.74 ID:B0fd2KQo

彼女の扱い方によっては、天界魔術サイドと魔界魔術サイドの全面戦争を引き起こしたり、
いや、そんな事など生ぬるい、
黙示録でさえままごとに思えてしまうような災厄にも利用できてしまうだろう。


そんな彼女を、シルビアはこんな場所で『拾ってしまった』のだ。


重要な使命を背負って、
そして命を賭して向かった地にて、唐突に現れた『フォルトゥナのキリエ』。
胸には高度な術式が刻まれている杭が刺さっており、どう見ても普通ではない。

誰が見ても『訳アリ』と捉えるのは確実だ。

だが、だからといって投げ出せるものでもない。

これ程のVIPがここにいるのは、
普通に考えてそれ相応の意味があるはずなのだから。


そんな、様々な面でとてつもない『影響力』を有しているのがこのキリエだ。


もちろん、キリエ自身が決定権を持つのではなく。



『道具』的な意味で、だ。



そう、『自由意思』の無い『人形』、という事だ。

902 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:17:10.42 ID:B0fd2KQo
キリエ「…………」

キリエ個人の意思は。

こういう局面には、完全に無視される。

いつもいつも。

攫われ、助け出され。

攻撃され、守られ。

狙われ、そして救われ、だ。


何も、周りの人々に対し憤りを感じているわけではない。

ネロは彼女の本当の面も全て見てくれて、そして受け止めてくれる。
フォルトゥナの隣人も、学園都市の友人も。
皆素晴らしい人々ばかり。


だが。

有事の時は皆、『キリエ』という人間性を完全に無視し。

キリエという人物にぶら下がっている、巨大な『付加価値』だけしか見ない。


唯一、ネロだけは彼女自身の意思を正面から受け止めてくれるが、
彼が常に四六時中一緒にいるわけでもない。

むしろ、彼が留守の時を狙って『有事』は引き起こされる。


『今』のように。


そして彼女は孤立し。


『置物』となる。

903 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:19:10.41 ID:B0fd2KQo
前に出ても役に立たない時くらいはわかる。
決して自意識過剰なわけではなく、彼女はしっかり身をわきまえている。
謙遜しすぎなほどだ。

だが。

それは『彼女が全く役に立たない』、というわけではない。


彼女だって、大いに役に立つ時がある。


それが。


『今』ではないのか?


キリエの胸の奥には、フォルトゥナでも解読が困難なアリウスの術式がある。



それを『解除』する為に作られたレディの杭、つまり、『術式解読の親切な鍵』と一緒に。


きっと役に立つはず。

この『重要な情報』を求めて命を賭けてる人が、必ずいるはず。


その利用価値は絶大なはず。


キリエ「……」

904 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:20:54.72 ID:B0fd2KQo

そこでここに来る道中、キリエは包み隠さずシルビアに話した。

まず、自身の魂に刻み込まれているアリウスの術式の内容と、この胸の杭との関係、
学園都市からここに飛ばされ、そして今に至るまでの経緯を。

それを聞くシルビアの顔色がどんどん複雑な、
例えようの無い微妙なものへと変わっていった。

キリエに出会ったという事実を上回る、
更なる想定外な言葉の連続なのだから、それも当然だろうが。

そんな珍しく反応に困っている聖人と、
早口英語の連射にポカーンとしている佐天などお構い無しに、
キリエは休む暇なく言葉を続けていった。



「アリウスに直結する術式である以上、
 ダンテ・フォルトゥナ組以外に完全に信用できる者はいない」

それがネロやトリッシュ、レディらの統一された意見だ。

いまや230万の学園都市人のみならず、全人類に対しての脅威の象徴であるアリウス。

キリエがスパーダの孫のフィアンセと知った『上』で、
彼女を利用し、そして使い潰し犠牲にするのを厭わない者がいて当然。

905 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:22:16.82 ID:B0fd2KQo
そしてその行為は、ネロ達でも中々責めきれない『現実的な正義』の一面であるからこそ、
余計難しい問題だ。

だからこそ、そんな人間側の正義と正義が摩擦を起こしてしまうような事態を避ける為に、
皆はとにかくキリエの術式の解除、その破壊を推し進めた。

絶大な武器になるであろう、『重要な情報』も一緒に破壊、だ。

しかしそこが、キリエが納得のいかないところであった。


世界中の皆が、等しく脅威に晒されているのに。


なんで自分だけが先に救われるのか―――と。


『これ』は解除してはいけない。


『これ』は利用するべきだ。


例え、私の命が危険に晒されてでも―――と。


そしてもう一つ。


もう一つ、このキリエの選択には大事な訳がある。

いや、最も大事な事だ。


それは。


ネロのため―――。



―――ネロを『救う』ために、やらなければいけないことがあるのだ。



ネロは『今』、迷走しているのだから―――。

906 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:23:41.49 ID:B0fd2KQo

キリエの状況説明を一通り聞いたシルビアは。


あああ!!!どうなってんだい全く!!!少し整理するから待て!!!!、と頭を抱え込み、口を噤んでしまった。
キリエとしては、この状況説明の後に本当に言いたいことが続くのだが。

そのまま、一行は黙々と大通りの歩道を進み、ここに到着。
そして上の通り、半ばシルビアは逃げるように外出していった。


そういう事でキリエは今、シルビアの帰りを待っているのだ。

話はこれからだ、と。


まだ、私自身の意思を伝えていない、と。


そんなキリエの隣にて、室内をジッと眺めていた佐天。

佐天「んぐ……ぅ……う……」

しばらくの後、彼女は口を押さえ苦悶のうめき声を漏らした。

周囲には死んでるのか生きてるのかわからない、横たわったままピクリとも動くことの無い、
血の滲んだ包帯を巻いた者達。

床には大量の血の染み。

初めて味わう、血と汗のすえた匂いが充満した劣悪な空気。

佐天にとっては強烈であった。
おぞましいほどに。

907 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:27:12.38 ID:B0fd2KQo

前に鏡の世界に入った際、
佐天は一瞬だけ悪魔に引き摺られている『下半身』を目にした事があるが、
その当時の彼女は既に精神が朦朧としていた。

外界の細かい事に一々意識を向けてれなかったのだ。

だが今は違う。

ありえない事になったのは二度目であり、そして彼女はつい先ほど、
勇気をもって『前』に歩み出した。

最早、彼女は周囲の現実から目を背けたり逃避はしない。

意識はぶれず、はっきりとしている。

だからこそ。

だからこそ彼女は今ここで、
本当の意味で『初めて』、凄惨な現実を目の当たりにしていた。

その時。

近くにいた一人の兵士が佐天の前に屈み、なにやら彼女へ向けて言葉をかけ、
男は銀色の、金属製の小さめな『水筒』を佐天に差し出した。

突然の英語で全く聞き取れなかったものの、
声色から、気遣ってくれているを把握した佐天。

遠慮することなくその水筒を即座に手に取り、
そして勢いよく中身の液体を口に流し込んだ。


実はその『水筒』、
厳密に言えばスキットルという『蒸留酒』用の容器である。

更に言えば、ちなみに兵士はこう言っていた。

「水は貴重品だから出せないが、『コレ』ならあるぜ。『飲める』か?嬢ちゃん」


908 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:31:14.35 ID:B0fd2KQo
佐天「―――んげほぁッッ!!!んががッ……?!……ァッつッッッ?!」


焼けただれてしまうような強烈な喉越し。
一気に熱を帯びる体の芯。
口内から鼻腔へと充満する、独特な浮遊感を感じさせる香り。

佐天「ぬ゛ぁ゛にごれェ゛ェ゛ェ゛???!!!んげッッふ!!!!」

良くも悪くも彼女の倦怠感を蹴散らし、
意識を叩き起こす凄まじい刺激であった。

法を外れたスキルアウトや、裏の特別な権限がある暗部関係でも無い限り、
未成年が酒を手に入れるのは非常な困難な学園都市。

そんな地に住まう、普通の普通の中学生である佐天。


その彼女の、人生初めての飲酒は。


悪魔が蔓延る地獄の底にて、
アメリカの特殊部隊員から貰ったブランデーだ。


言って聞かせても、普通ならば誰も信じないであろう、
なんとぶっ飛んだ初体験だろうか。


ちなみに、兵士達は飲酒の為に持ち歩いているわけではない。

医療キットが底を付いた為、
方々で調達した酒を消毒液代わりにしているのだ。

909 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:32:37.75 ID:B0fd2KQo

と、佐天が顔を火照らせ咽ていたところ。

キリエ「私にも」

隣のキリエが、彼女の手からスキットルをやや乱暴に取り。
即座に大きく一口、豪快に飲み込んだ。

キリエの喉をブランデーが伝う音が佐天の耳にも聞こえてくるほど。

キリエ「……ッか……けほッ……」

そして軽く咽せたが。
その目は苦悶に喘ぐ色は無く、むしろ力強い光が宿った。



今現在、彼女の胸を杭が深く貫いている。


ルシアの施した術式が効いているとはいえ、
やはり徐々に彼女の体力を削り取っていく。

今も少しずつ、意識がおぼろげになり始めていたところだった。

そこに度数の高いブランデーの一撃。

後に色々響くであろうが、
その一撃のおかげでこの瞬間の意識は完全に覚醒した。

910 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/08(土) 00:36:49.84 ID:B0fd2KQo
その時、ちょうどタイミング良くシルビアがレストランに戻ってきた。

キリエ「―――シルビアさん。話の続きを」

その姿を見て、キリエはさっそく声を飛ばした。
兵士に押し付けるようにスキットルを返し、右手で口を拭いながら。
(ちなみにその兵士は、ぎゃあぎゃあ喚く佐天を見て笑っていた)

シルビア「その前に紹介したい者がいる」

と、そんな急かすキリエを制止し。

シルビアは一人の少年を招き入れた。

それは黒い戦闘服に金髪、サングラスという装いの日系人だった。

その少年は、影際にいたリーダー格の兵士に一瞥した後。
キリエの前へまっすぐ進んで来。

土御門「はじめまして。土御門だ」

軽く礼をし、流暢なイギリス英語でそう名乗った。

土御門「シルビアの『同僚』であり、今はこの島に展開している能力者部隊の指揮を執ってる」

キリエ「……はじめまして。キリエです。あなたのお名前は、以前から良く聞いております」

土御門「よろしく」

とその時。

土御門、と名乗った少年の後ろにいた少女、
その姿を見た佐天が声を挙げた。


佐天「―――げほッ…………へ?し、白井さんッッ!!!???」


そして呼ばれた少女も、驚きの色に満ちた声を。


黒子「―――…………佐……天……さん…………????」

914 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 16:15:51.10 ID:Z68L5Ys0
エンジンかかって来た乙!

915 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 16:16:25.27 ID:RIQCgwAO
佐天と病み黒子の邂逅か……緊張してきたな
>>1乙

916 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:31:20.49 ID:n0ggPk2Ko


―――友人。


名門常盤台に通い、ジャッジメントに勤める才色兼備な優等生。

絵に描いたような、いや、それ以上に濃い「お嬢様」風な口調だが、実際は非常に面倒見の良い、
優しく正義感溢れる少女。


それが、佐天の知る白井黒子の姿。


だが今、佐天の前にいるのは―――。


いや、『物理的な姿』は確かに白井黒子だ。

体格、顔の形、髪型も全て『同じ』だ。

しかし。

全然『違う』。

空気が違った。

瞳が違った。

表情が違った。


佐天「―――」


全くの別人と思えてしまうほど。

917 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:31:55.50 ID:n0ggPk2Ko

佐天「…………白井さん…………?」

佐天はゆっくりと立ち上がり、
黒子の方へと徐々に歩み寄りながらもう一度。

その友人の名を確かめるように呼んだ。

「何でここにいるのか?」ではなく。


「本当に白井黒子なのか?」、というニュアンスで。


それに対する黒子の反応は。

彼女は無表情、まるで西洋人形のような生気の無い顔で、
瞬きもせずに数秒間佐天を見つめた後。

今度は、佐天など視界に入っていないかのように視線を逸らし。



佐天「―――なっ―――」



数歩後退り、であった。

918 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:34:36.76 ID:n0ggPk2Ko

土御門「…………」

そんな二人を、横目で見ていた土御門は、
彼女達の『妙な空気』を敏感に読み取り。

土御門「―――白井。フロアに出てろ」

冷ややかに黒子に向け命令を飛ばした。

レストランから出て行け、と。


土御門「おい。お前も出ていけ。『邪魔』だ」


佐天「は、はいっ……すみませんっ……」


そして強い口調で佐天にも。

土御門の言葉は乱暴に聞こえるだろうが。
たかが一兵卒のメンタル問題になど、一々気を使っていられないのも当たり前。
はっきり言って知ったことではない。

だが、これは今の土御門にできる最大限の『優しさ』でもあった。

こんなに聴衆がいる所で二人の関係を。

その『すれ違い』の有様を披露させることはない、と。


彼女達側にしてみれば、俺達の方が『邪魔』だろうからな、と。

919 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:37:32.07 ID:n0ggPk2Ko
黒子はさながらロボットの如く、踵を返し足早に。
そしてその後を、佐天が駆け足で追いかけていき、二人はレストランから出て行った。

土御門は彼女達の後姿を横目で見送った後、
壁際に積み上げられているテーブルに向かい、軽く腰掛けた。

シルビア「じゃあ……」

土御門「どうぞ」

シルビア「……話はまず私からか」

シルビア「この島の外は今、悪魔と人類の全面戦争だ」

イギリス、南ヨーロッパとロシアは戦火に包まれ、
北ヨーロッパと東アジアも時間の問題、

南北両アメリカ大陸も、この島がある以上同じく終わりの時に向かっている、と、
シルビアは簡単にこの島に来る直前の世界情勢を簡潔に口にし。

いや、全面戦争と捉えてるのは人間だけで、悪魔側からすれば始まってすらいない段階だろうけど、と、
締めに独り言のようにシルビアは呟き、そのまま更に続けていく。

シルビア「……そもそも今世界中で暴れてる悪魔も、この島のクソ主の手が入ってる『まがい物』だしな」

シルビア「ただそんなものでも、人類にとっては滅亡するかの問題」


キリエ「…………」


シルビア「だから私達は止めに来た」


シルビア「私達の第一の目的は、人造悪魔兵器の制御中枢に浸入し、術式を破壊する事」

920 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:40:17.76 ID:n0ggPk2Ko
キリエ「……」

シルビア「術式の回線に浸入しようとしたんだがな、どうやっても無理だったのさ。ヒント無しじゃ、術式構文の解読は不可能」

シルビア「かと言って、『核』を壊そうにも場所がわからない。場所がわかっても、直接破壊は困難だ」

シルビア「あのアリウスですどうしようもないのに、奴のバックには神クラスの悪魔共。私達じゃ手も足も出ない」

シルビア「学園都市の子達はアリウスを殺そうとしているみたいだが、それもかなり厳しいだろう」

シルビア「確率が0って事じゃあ無いが、限りなく0に近い」


シルビア「だから残された成功率の高い方法は、『ヒント』を入手し、それで術式を解読し、そして侵入する事だ」


キリエ「―――」

シルビア「この『ヒント』入手を、私のツレが今やろうとしてる」


シルビア「直接『アリウス本人』から『盗み見』させてもらおうってね」


シルビア「これもかなりのギャンブルだけど、アリウスを殺すよりはかなり簡単だろうし」


キリエ「……………………………………それは―――!」


それは私の胸にも―――、とキリエが続けようとしたが。

921 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:42:51.94 ID:n0ggPk2Ko


シルビア「―――『それ』はダメだ」


シルビアが重ねてきた、強い声色の言葉で先を潰された。

シルビア「あんたのその胸にあるのは、私達は『使わない』」


キリエ「ですが!!」


シルビア「さっき言っただろ?アリウスから直接貰うから。だからあんたからは必要ない」


キリエ「……!!」

必要ない、ということは絶対にありえない。
この状況下では、例え1000分の1%であろうと成功確率をとにかく上げたいはず。

シルビアもさっき自分で言ったではないか。

アリウスから盗み取るのでもかなりのギャンブルだ、と。

だがキリエの胸からは、
戦闘せずに即座に手に入れることができるではないか。

922 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:49:44.13 ID:n0ggPk2Ko
と、シルビアに向かってキリエが喰いかかろうとしが。

シルビア「最も重要なのはそこじゃない。今のあんたの話を纏めると―――」

聖人はまたもや先手を打ち、彼女の言葉の頭を押さえ込み。
更に強い声色で。

そして続けた。


シルビア「―――その胸の術式を解除しないと、あんたのフィアンセはアリウスに刃を向けられないんだろ?」


シルビア「これは、私達にとっては大問題だ」

シルビア「アリウスを確実に潰せる者が手を出せないなんて、大いに困るっての」


シルビア「あんたの考えも確かに理にかなってる」


シルビア「でもな、さっきの事がある限り、選択肢はその術式の『解除』以外無いんだよ」


シルビア「言っちまえば、人造悪魔兵器の中枢破壊よりもアリウスの方が最優先だ」

シルビア「覇王が復活しちまって好き放題やられたら、イギリスだのヨーロッパだのそんなレベルの話じゃなくなるだろ」


キリエ「―――」

そう。

シルビアの言葉は正しい。
シルビアの判断も正しい。
シルビアの優先度判断も現実的だ。

だがそれは。


「キリエの胸の術式が解除されなければ、ネロはアリウスに手を出さない」、という大前提が『正しければ』の場合だ。


そしてキリエはその『大前提』を―――。


―――否定する。

923 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:52:40.40 ID:n0ggPk2Ko
シルビア「あんたの気持ちは嬉しいが。あんたにできる事は無い」

シルビアはそう、淡々と告げつつその場に屈み、
床に指で陣を刻み始めた。

シルビア「だから、手早くその胸の術式を解除させてもらう。そしてさっさと島外に退避してもらうよ」

シルビア「結構手間がかかりそうだけど、難易度自体はそう高くない。解除まで15、6分ちょっとってところだ」

シルビア「土御門。式の構築を手伝え。テレズマは私のを使う」

土御門「……………………………………………………」


キリエ「―――……るんですか?」

とその時。

キリエが小さく何かを呟いた。

シルビア「あん?」


そして次は。


キリエ「―――あなたは、ネロの何を知っているんですか?」


力強く。
レストラン内全体に響くほどの声を。


シルビア「…………」

その言葉でシルビアの手が止まった。

924 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:55:50.39 ID:n0ggPk2Ko
キリエは誰よりもネロの事を知り尽くしている。
常にネロを見てきた。
ネロという等身大の男の姿を。

最も近い場所から。
最も信頼されている位置から。

そして彼女こそが、ネロが唯一全てを曝け出す相手。

ネロ自身ですら自覚していない部分を、キリエは見続けてきた。

その事実があるからこそ、キリエは断言できる。

あのネロが、
「キリエの術式が解除されるまでは、アリウスに手を出せない」

という『不条理な状況』にいつまでも縛られてしまう『小物』でも?


違う。


彼は『大物』だ。


あの人は今や。


世界の全てを『背負える』―――。


そう、偉大なる祖父、父、叔父達と並び立つ―――。



       ヒーロー
―――本物の『英雄』の力を有している。



今の彼は『不条理な選択』そのものを―――。



―――『不条理な状況』そのものを叩き壊せる、と。

925 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:58:07.40 ID:n0ggPk2Ko
ただ。

ただ一つ、そこには問題がある。

実は、ネロ自身がその事に『気付いていない』のだ。

「キリエの術式が解除されるまでは、アリウスに手を出さない」

ネロ自身も今、こう考えてしまっている。
半ば自身に言い聞かせるようにして。

『なぜそうなるか』の重要な部分から目を離して。

なぜなら、自身の『今の思考』が纏まっていないから。

フォルトゥナの核として、そしてスパーダの孫として、
デュマーリ島の件を冷静に解決しようとしている。

クールに、淡々と、常に余裕を持って。

―――と、傍から見ればそう捉えられるだろうが。


キリエの目だけはごまかせない。
彼女だけは、ネロの本当の内面をはっきりと捉えた。

アリウスを核とした問題。

キリエが人質になるという、ネロにとってトラウマとも言える最悪の事態。

そこから派生して考えられる、下手をすると血が流れてしまう他の人間勢力との摩擦。

全世界の人造悪魔兵器と魔界・天界の同行。


そして父、バージルの事と―――。


アリウスと合間見えた際における、魔剣スパーダの反応の意味、
同時に急激に変化した自身の精神感覚。

そんな今現在の、『未知なる自分』がわからないのだ。

『今の自分』が一体何なのか、思考が纏まっていないのだ。

926 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 01:58:50.33 ID:n0ggPk2Ko

だからこそ、ここで今キリエが後押しする。


だからこそキリエは、ヒントとなるちょっとした刺激を与える。


将来の妻になる者として、ネロの背を支えるものとして。
彼を支援する。

彼が道に迷っているときは。

そっと、手を差し伸べて導く。


自らの行動で示す。


『あなたはもう、大丈夫だから―――』、と。



それが、キリエが今やらなければいけない事であり。



キリエに『しか』出来ない事―――。

927 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:00:47.78 ID:n0ggPk2Ko


キリエ「―――私は、あの人の事を知っています」


キリエは一度深呼吸した後、ゆっくりと、
確かめるような口調で口を開いた。


シルビア「…………それで?」


キリエ「悪魔の力に関してはわからないところが多くありますが、」

力強く、それでいてどことなく温もりのある美しい声で。


キリエ「あの人の性格、思考の仕方。今何をどう感じ、何を考えているのか。その全てを知っています」


キリエ「そこを踏まえて断言します」


キリエ「私の術式のせいであの人が刃を振らない、という事態は絶対に有り得ません」


キリエ「万が一私が死したとしても、その悲しみであの人が暴走することも有り得ません」



キリエ「『今』のあの人は、決してそういう事はしません」



シルビア「……なぜあんたは、そう自信を持って言い切れる?」



キリエ「あの人の妻になる者ですから。私は」


928 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:02:00.74 ID:n0ggPk2Ko

キリエはあっさりと答えた。

当たり前のようにはっきりと。

スパーダの一族と一緒になるという、その『重さ』を誰よりも理解し、
身を持って知っている言葉を。



キリエ「ですから私の解放は後にしてください。その前に―――」



そしてこれが。



キリエ「―――私を思う存分利用してください」



キリエが、『自らの意思』で作った『この状況』。


これが、今の状況を固く縛っている鎖を打ち砕く、凄まじい一撃となり。


ネロへの強烈なメッセージとなる。


ゴールの目の前で迷っているネロを救い出す―――。


―――『ちょっと強引』な最後のひと押しとなる。


これで踏み出せる最後の一歩で。


ネロは正真正銘の『完全』となる。

929 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:04:12.97 ID:n0ggPk2Ko

そのキリエの言葉を聞いたシルビアと土御門は数秒間、沈黙を返す事しかできなかった。

土御門「(…………はは、なんつー女だ)」


ぞわりと感じる寒気。

彼女のそのあまりのスケールのせいだ。

いや、普通に考えれば、
キリエという女がどういう存在なのかは予想がついたはずだ。

そもそも、『こういう女』でなければ、成り立たなかったはずではないか。

あのネロを支える女だ。

あのネロの拠り所だ。

あのネロの全てを受け止め、受け入れる女だ。

将来、あのネロの妻となる女だ。

将来、あの新たなスパーダの血族を生む女だ。

『スパーダの一族をも同じ目線で見、導こうとする凄まじい器量を有する女』。

そうでなければ、とても勤まらないではないか。

キリエは、ネロに選んでもらった幸運な女などではない。

なるべくしてなったのだ。


ネロがいたからキリエが救われた、ではない。


キリエがいたからこそ今のネロがいる、だ。

930 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:05:34.76 ID:n0ggPk2Ko
そしてそんな女だからこそ。

「キリエの術式が解除されるまでは、ネロはアリウスに手を出さない」、
「ネロはキリエの身を案じて、術式が解除されるまで大きな動きは出来ない」、

この大前提そのものを破壊できる。


他に誰がそんな視点から見ていた?

誰がそんな発想を?

キリエの話を聞く限り、まずアリウス自身ですら、
その大前提の上でそのような術式をかけたのだ。


つまりキリエのこの行動は、アリウスの範疇をも超えている事になる。


あのアリウスですら『想定外』、だ。


今の今まで、状況は土御門達にとって絶対的な劣勢であった。
『勝利』というカードは、既にアリウスの懐にある状態。
土御門達は、それを何とか盗み出そうと足掻いているのだ。


だが、このキリエの行動が、その状況を覆す究極の一手とも成りうる。


土御門達が足掻きもがき、何とかして食いつこうとしている、アリウスの強大な牙城。


その牙城の『基盤』を、キリエのこの行動一つが『全て』破壊しうるのだ。

931 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:07:48.62 ID:n0ggPk2Ko
そして『基盤』が破壊されたことにより、まさにリセットとなる。

思考し綿密に分析する必要ももはや無い。
リスクを踏まえて成否確率など計算しても意味が無い。

状況的有利不利の消失、だ。


アリウスの懐にあった『勝利』のカードは自由となり、『浮遊』状態となり。


入手が『不可能』だったのが、誰でも『可能』となる。


ただ、それまでの状況的有利不利が消失しただけであり、
それぞれ自身が有する力は変わりがない。

土御門達と比べると、やはりアリウスは圧倒的な力を誇っているのも事実。

しかし状況がマイナスからがゼロになってくれるだけで、何千何万倍も希望が芽生えるのだ。


攻撃が、『通じない』から『通じる』になる。


それだけで充分ではないか。


土御門「…………」


キリエの申し出を受けるか否か。

議論の余地は無い。

答えの選択肢はただ一つ。

932 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:08:54.01 ID:n0ggPk2Ko

小さく、呆れたように笑いながら。

土御門「……OK」

そう呟き、土御門はテーブルから降りた。
そしてシルビアに向け。


土御門「―――決まり。だな?」


その土御門の言葉に対し、シルビアはハッと短く、笑った後。


シルビア「全くね。こう見せ付けられちゃ、仕方ない」


肩を竦めつつため息混じりにそう口にした。



キリエ「……ありがとうございます」



933 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:10:07.01 ID:n0ggPk2Ko
決まったのなら、そう多くの言葉はいらない。

土御門「礼はこっちの台詞だ。それと一つ。キリエ嬢」


キリエ「はい」


淡々と、そして静かに。


土御門「俺の『全て』に賭けて誓う」


土御門「その命を捧げるようなことはしない」


土御門「諸々が済んだ後、必ず術式を解除し、傷一つ無い体で解放する」


別段、なんでもなさそうな口調で交わされた。


キリエ「……その誓い、お受けしましょう」


土御門「ありがとう」


キリエ「こちらこそ」


これは反撃の始まりか、それとも自滅への引導となるのか。
この段階では、そんな事を考えるのはもう意味が無い。

結果はなるようになる。
進路が決まったのなら、ただ進むだけ。

それだけだ。

934 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:13:20.28 ID:n0ggPk2Ko
さっさと始めようか。

そうシルビアはそっけなく呟き。
キリエを抱き上げ所定の位置に移動させては、床に術式を刻み始めた。

土御門「滝壺。結標、今の聞いてたな。悪いが、ここは俺の独断で行わせてもらう」

滝壺『うん。いいよ』

結標『何を今更。任せるわよ。術式云々じゃ私の出る幕ないし』

土御門「結標は今の任を継続してくれ。滝壺は待機してろ。少しやってもらうことがある」

滝壺『?うん、わかった』


シルビア「解析となるとこっちにも『目』が必要だ」

シルビア「そこでオッレルスとリンクを結ぶ。大変だろうが、あいつにこっちの分も―――」


土御門「待て。お前のそのツレ、『目』は何を使ってる?」

        フリズスキャルヴ
シルビア「『北欧玉座』がベースだ。術式構文の8割がオリジナルだから原型止めてないが」


土御門「そうか…………リンクは必要だが、『目』の共有は必要ない」

シルビア「いや、『目』無しでどうしろって?」


土御門「1分くれ。『準備』する」


シルビア「はあ?何の?」

935 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:15:24.29 ID:n0ggPk2Ko
土御門「向こうとここ、両方で平行して解析、そして照合解読した方が早いし正確だ」

シルビアの反応などお構い無しに、土御門は上半身の装備を手際よく外し始め。

土御門「ここで得られる構文には限りがあるだろうし、向こうもまた然りだ。ストックは多い方がいい」

積み上げられているテーブルに放り投げて載せ。

土御門「それ以前に、こっちの作業も押し付けたらお前のツレは死ぬぞ」

更にベスト、戦闘服の上着、その下の軍用Tシャツも素早く脱ぎ捨てた。

土御門「アリウスと戦いながら二方向作業なんざ到底無理だ。どうせ今でさえジリ貧だろう」


そして露となった、土御門の上半身。

シルビアはその体を見て目を疑った。


シルビア「―――お前……それ…………」


首の根元からへその辺りまで。

腕は肘のところまで。


その極限まで鍛え上げられた体の表面は、黒い墨で書かれた『陰陽式』で埋め尽くされていた。



土御門「―――だからここは、『俺の目』を使う」



936 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:17:54.26 ID:n0ggPk2Ko

シルビア「……待て!なんて……!もしかしてその術式は『 召 k―――」


土御門「大げさだな。お前のツレと『似たようなもん』だろうが」


土御門「『上』の許可も取ってある。問題は無い」

シルビア「ッ……!いや……!!そもそも能力者は―――!!」

土御門「その点も大丈夫だ。しっかりと手がある。ああ、そういえばシルビア、お前知らないだろ?」

シルビア「何をだ?!」


土御門「あのアリウスは今な、『天界の門』も開こうとしてるんだぜい?」


シルビア「―――…………な、……なんだって?今何て言った?」


土御門「やっぱりな。知らなかったか」

シルビアの話を聞いていて、薄々わかった。
土御門だって、アレイスターから言われるまでは予想だにしていなかったのだ。
まあ、シルビア程の人物が知らなくてもなんの不思議も無い。

アレイスターかアリウス、
スパーダの一族やトリッシュ等じゃなければ把握できないようなレベルの話なのだから。

937 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:19:25.47 ID:n0ggPk2Ko
その一方で、キリエの顔色は全く変わっていなかった。
つまり明らかに知っており、そしてあえて言わなかった、という事だ。

土御門「(…………まだ、何かあるかもな)」

その点を考えると、他にも何か言ってないことがある可能性も考えられる。

ただ、無理に聞き出すことも無い。

おとなしそうな見かけに反して、
さっきのとおりこのキリエは相当頭がキレる女だ。

視点の位置は、土御門達よりも遥かな高みにある。


そんな彼女の事だから、言わないことにも必ず意味がある。


その理由は恐らく、今は伝える必要が無いから、だ。
そして必要な時がきたら、必要な事だけを伝えるだろう。


土御門「(……今は目の前の事に専念するだけか)」


キリエ「…………」

その土御門の推察は的中していた。

キリエはもう一つ。

彼女とルシアしか知らない、とても重要な情報を握っていた。
が、彼女は 『まだ』言うべき時ではない、と判断したのだ。

なぜなら。

その情報を口にすることは、あまりに危険すぎたから。


『影』がこんなに濃い場所では。


『影』が支配しているここでは―――。


938 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 02:20:48.89 ID:n0ggPk2Ko
土御門の言葉で未だに己の耳を疑い、
素っ頓狂な声を挙げているシルビア。

そんな彼女に土御門は、
後で話すから今は作業してくれ、と促した後。


土御門「―――滝壺。待たせたな」


滝壺『うんと、私は何をすればいいのかな?』


土御門「お前の力で能力者からAIM、完全剥奪は可能だろ?」


滝壺『え?…………そんな事したら、そのひとに何が起こるか……「大変な事」になっちゃうんじゃないかな?』


土御門「そこは『どうでもいい』。可能か不可能かだけを聞いている」


滝壺『……やったことないからはっきりとは言えないけど…………うん。できると思うよ』



土御門「OK。では頼む。今すぐAIMを剥奪し―――」




土御門「―――俺を『完全なる無能力者』に戻してくれ」



―――
944 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 09:48:38.79 ID:pWVocFCDO
つっちーカッケー

948 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 02:07:26.98 ID:a+tSuFFAO
これは面白い
まさか滝壺の能力をそう使うとは……
みんなに見せ場があっていいな


957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 22:53:17.75 ID:aCNhImd5o
―――

御坂が放出する凄まじいエネルギー。

その『全て』を無駄なく『変換』する、
よく考えれば『聖遺物』並の希少物であるダンテお手製の大砲。


そして放たれる、人間界最高峰のデビルハンター、レディが作った特性魔弾。


超高層ビルの屋上、そこから伸びた光の矢は、
800m程離れていたアリウスの下に一瞬で到達し。

彼を覆う、光のうねりに激突した。

飛び散る光の飛沫。
周囲をなぎ払う衝撃波。


アリウス『(―――これがアーカムの娘の弾か―――)』


アリウスはその瞬間、
飛来してきた魔弾に刻まれた、対魔の高度な術式の検分を行った。


辺りを破壊する物理的な威力はまず論外。
副産的な余波に過ぎない。

『力の激突』も、そこまでのものではなかった。


つまり、弾頭衝突による『直接的な威力』はたいした事は無い、ということだ。


直接的な威力は、だ。

958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 22:54:22.10 ID:aCNhImd5o
実を言うとこの手の攻撃は、
『力の激突』によって対象にダメージを負わせる類のものではない。


本命は『浸透汚染』だ。


力や魂、器を直接的に破壊するのでは無く、
それらを統率する方程式や制御系統を侵食し、動作不良を起こさせる。

例えるならば、
PCを叩き割るハンマーではなく、内部プログラムを破壊するウイルスだろうか。

この魔弾に限らず、デビルハンターが使う魔界魔術は、
基本的にこのような性質のものだ。

攻撃が命中した瞬間に術式が起動、そして浸透し相手の力を汚染。

劇毒性を帯び、
麻痺を起し、
暴走を誘発させ、
自己崩壊へと導く。

もちろん、術式の組み方によって効果を変えることも可能だ。
体の自由のみを奪う拘束系から、上のような正真正銘の殺害専用な効果まで。

このように、デビルハンターの放つ攻撃自体はあくまで『起爆剤』であり、
対象の悪魔の力『そのもの』が爆薬となる。

言い換えれば、相手の力が強ければ強いほど、
術式による破壊力も比例して増大するのだ。

これが、どうしようもないほどに力が劣等な人間達が、
悪魔に対抗する為に編み出した戦闘方法である。


悪魔に勝てる『力』が無いのなら。


悪魔を優る『叡智』によって打ち勝つ―――と。

959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 22:55:40.65 ID:aCNhImd5o

アリウスに向け飛翔してきた魔弾の製作者、
アーカムの娘『レディ』は、その分野における最高峰の一人である。

相手の力を利用して相手を倒す、そのデビルハンターの戦法にとことん特化し、
一介の人の身でありながら、場合によっては大悪魔をも相手にできる『狂気の戦巫女』。


そんな彼女の実力に反せず、魔弾はアリウスの光のうねりに直撃した瞬間。

あっという間に浸透し、術式を汚染し破壊していく。


何枚も階層を貫通し、アリウスの顔から1mのところまで穴を穿つ。


アリウス『(―――さすがだ―――素晴らしい)』

その凄まじい威力と強烈な効果は、アリウスをも素直に唸らせる仕上がり。

術式の洗練具合は正に究極。
掠っただけで、フィアンマの『聖なる右』に障害が起こるのも納得せざるを得ない水準。

ただ。

これがアリウスにとって、脅威と成り得るかの話はまた別だ。

960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:00:14.61 ID:aCNhImd5o

当たり前の事だが、このアリウス自身もレディと『同じ分野』に身を置く者。

そして君臨するその位置は。


レディが魔界魔術使用者の『最高峰の一人』なら。


アリウスは『たった一人の頂点』。


『唯一』の存在だ。


この壁が破られたところでどうって事はない。


この程度では、アリウスの『肉体までは』攻撃は達しない。



アリウス『(―――……)』


ガブリエルの力を帯びたアックアとオッレルス。


そして今この瞬間、着弾の閃光の中から現れた―――。



―――ルシアと麦野の攻撃を考えても、だ。

961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:01:31.79 ID:aCNhImd5o

日本の曲刀を、左右それぞれの肩に乗せる構えを取りながら、
低姿勢で一気に突っ込んでくるルシア。

そしてアリウスを覆う光のうねりの面、御坂の魔弾によって汚染された『傷』を目掛け、
×字を刻むかの如く曲刀を振り下ろした。

上半身を完全に伏せってしまう程に、渾身の力を篭めて。


飛び散る光の残骸、更に深くなる『傷』。


そして刃を振り下ろしたルシアの後方には、アラストルを構えた麦野。


麦野『―――シッ―――』


軽く開かれている彼女の唇、そして並びの良い歯、
それらの隙間から息が小さく漏れ。

彼女の全身がしなやかに使われて、真っ直ぐに放たれるアラストルの鋭い刃。

その白銀の切っ先は、ルシアの小さな背中の真上を通過し。


御坂とルシアの攻撃が重ねられた『傷』へと―――。



麦野『―――ッァアアアアアッッ!!!!!!!』


この島に来て、そして先ほどのアリウスとの手合わせで、
一つとある『段階』を超え、
アラストルの力を本当の意味で掌握し使いこなし始めた麦野。

『新生』した彼女が放った突きは、正に強烈だった。

アラストルの切っ先は、耳障りな凄まじい破砕音を響かせながら
アリウスの光のうねりに深く突き刺さり。

この魔神の顔面から僅か40cmのところにまで到達するほどであった。


更に、麦野の攻撃はこれだけでは留まらなかった。


彼女はアラストルを引き抜こうとはせず、
立て続けに『粒機波形高速砲』を放つ。


よりアラストルの力が濃く混ざり、かつ力が限界まで圧縮されている『紫色』の光の砲撃。


その凄まじいビームの発射点はアラストルの『切っ先』。


つまり、アリウスの顔面から40cmの点から―――。

962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:04:13.39 ID:aCNhImd5o

だが。

結果は先ほどと『同じ』であった。

放たれた光線は、アリウスの顔のすぐ前で屈折、
再び真上の天空を貫いただけ。

麦野『(チッ―――!!)』

そして光のうねりに開いた穴も急速に埋っていき、
めり込んでいたアラストルは一気に押し出され。

ほぼ同時に、アリウス側からの攻撃が繰り出される。


虚空から出現し二人へと一斉に伸びる、『銀色の触手』。

だが、麦野とルシアも一歩も引かなかった。

彼女達はあらかじめ口合わせでもしてたかのような動きで、即座に対応。


ルシアは低姿勢で下方、後方の麦野は上方を。

『赤毛の少女』は華麗に、
かつ無駄の無い動きで二本の曲刀を振るい、次々と触手を切り落とし。

『栗毛の女神』はアームとアラストルをぶん回し、なぎ払い引きちぎっていく。

964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:08:23.04 ID:aCNhImd5o

凄まじい速度、おびただしい数の攻撃が飛び交う攻防撃。

麦野とルシアは、決して手数では負けていなかった。
いや、勝っていたと言っていい。

触手の攻撃を全て退けつつ、合間合間に飛来してくる御坂の魔弾に合わせ、
アリウスの光のうねりに攻撃を叩き込んでいく。

しかし。

それでも突破できなかった。

攻撃が届かない。

当のアリウスは、
光のうねりの中で葉巻を優雅に咥えているだけ。

アリウスのやっている防御は、麦野でもわかるほど最低限のものであった。
いや、アリウスにとっては防御ですらないだろう。

麦野達の繰り出す『刺激』に対し、
『反応』を示しているだけ、だ。


麦野『(眼中に無しかよ―――クソッッ!!!!!)』

進展の無さと、未だ底の見えないアリウス。
それが、彼女を焦燥させ苛立たせる。

その滾りは無意味だと理解しつつも、頭は冷静さを失いかけそうになる。


麦野『(―――あいつらは「野次馬」かよ)』

ちなみにアリウスと敵対しているとみた、あの天の者と金髪の男。

その金髪の男はいつのまにか姿を消しており。

天の者は相変わらず上空に浮遊―――。


―――していたのだが。

965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:10:59.14 ID:aCNhImd5o

麦野『―――』


浮遊していた、と言う点では、先ほどから変わりなかったが。
その他の部分が大きく変化していた。

星一つなかった漆黒の空。

そのキャンバスは今や、光で形成されている無数の術式で埋め尽くされ。


空全体が、『魔方陣』と化していた。


そしてそんな空の中央に浮遊する『天の者』、ガブリエルの力を帯びたアックア。

彼は身の丈を超える大剣アスカロンを頭上に掲げ、
アリウスを金色に輝く瞳で見下ろしていた。

麦野『(―――)』

天を覆う奇妙な文字列や、巨大な翼などが一体何なのかは、
知識が無い麦野は全くわからない。

それでも、これだけは彼女でもわかる。

あの男の放つ雰囲気とその視線、構えで一目瞭然。


次の瞬間にでも、強烈な一撃をアリウスに放つ気だ、と。

966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:12:22.83 ID:aCNhImd5o

―――攻撃は真上からだ。

そう読んだ麦野は、触手らの攻撃を退けつつ、思いっきり地面を蹴り舞い上がった。

アリウスの頭上を掠めるようなコースで。
そして宙で身を翻し、光のうねりの上部にアラストルとアームの二撃を叩き込んだ。

麦野の動きを見、即座にその行動の意図を読んだルシアも続けて一気に跳ね、
同じく上部に刃を叩き込む。

弾丸のように飛び上がっては、二人はそうして光のうねりの上部を削り取っていく。

アックアの攻撃が『同じ点』に重なるように、だ。


その時、アリウスは真上を見上げていた。

ただ、麦野・ルシアとは焦点も目も合っていなかったが。

その視線は、
飛び越えつつ剣撃を叩き込んでいった彼女達へではなく。


アリウス『(―――ほお)』


アックアが空に形成した、大規模な術式へであったからだ。


アリウス『(「聖母の慈悲」、それによって「制限」を外した―――)』



アリウス『(―――「神戮」か)』

967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:14:34.58 ID:aCNhImd5o


『神戮』、別名「一掃」。


かつて、大天使ガブリエルがゴモラを滅ぼした際に行使した『天の怒り』。

無数の『火矢』を大地に降らせ、全てを焼き払う『天の力』。
物理的威力だけでも大陸一つ丸々打ち砕く威力。

ゴモラを滅ぼした伝説から、人間の間では一般的に
このような『面制圧を行う広域破壊術』、として認識されている。


だが、実際は少し違う。


『面制圧』はあくまで一つの使い方に過ぎない。

むしろ、面制圧のタイプは
『雑魚をあしらうだけ』にしか使えない低難度の『オプション』だ。


力を有する『強者』に対しては、
そんな『拡散』した攻撃など無きに等しい。

968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:16:08.57 ID:aCNhImd5o

そして今。


アックアは、『面制圧ではないタイプ』を使おうとしていた。

これが元々この『神戮』、別名「一掃」と呼ばれる力の本来の使い方だ。


その本質は、『一帯を一掃』するためではない。

リク
『戮』、それは『刃』をもって『斬り倒す』事。


すなわち『神戮』とは。



―――『神の刃』を持って敵を『一刀に伏す』事―――。



『面制圧』ではなく『一極集中』。



『一掃』から『一点』へ―――。

969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:18:03.99 ID:aCNhImd5o

億を超える『火矢』が一つになり。

力が極限まで圧縮され。

         T H M I M S S P
アックア『―――聖母の慈悲は厳罰を和らげる』


アックアが掲げる大剣アスカロンに『載り』、
刃の一線上に集約。


      T C T C D B P T T R O G   B W I M A A T H
アックア『時に、神の理へ直訴するこの力。慈悲に包まれ天へと昇れ!!』


次いで『聖母の慈悲』によって制限が消失し。


その大剣は、『ガブリエルの剣』へと成る。


アックアの詠唱が終わると同時に、
人界の氷に『似た何か』で形成されている、長さ100mにも達しうる巨大な翼が大きくうねり。

彼の体を爆発的に加速させる。


真下のアリウスへ向けて―――。


アックア『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!』


そして白金の光を帯び、天の火を引くその刃がアリウスの頭部へ―――。

光のうねりの上部―――。


―――直前に麦野とルシアが刻んだ『傷』へ。


打ち下ろされた。

970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:20:58.70 ID:aCNhImd5o

―――結果はどうなったか。


アックアの振り下ろした『神の刃』は、
アリウスを覆っていた光のうねりを『完全』に貫通した。


そして『アリウスを両断した』―――。


―――と表現できるかもしれない。


『手応え無く空を切った』、と同じニュアンスで。


簡単に言えば、
大剣アスカロンは光のうねりを叩き割った後、アリウスを『すり抜けた』。


まるで立体映像を切っただけのように。


更にその瞬間、アスカロンを包んでいた輝きも、
噴出してた火も一瞬にして『消失』。

アリウスの股下へと通り抜けた大剣は、
そのままアスファルトに鈍い音を立ててめり込む。


それが結果。


それだけであった。

971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:22:56.08 ID:aCNhImd5o
そしてただすり抜けた『だけ』なら、
この『神の刃』は大地を難なく割るはず。

さすがにスパーダの一族ほどとはいかないものの、
この刃の威力は人間界に負荷をかけ、その器にちょっとした傷を付けてしまうほどだ。


そんな次元を超えた破壊が例え無くとも、
アックアの腕力による単純な運動エネルギーだけで大きく地面を抉り飛ばす。


だが、そんな現象など起きなかった。


アスカロンは、アスファルトに鈍い音を立ててめり込んだだけ。
どう見ても自重で沈んだだけ。


アックア『……………………』

なぜそうなったのか。

それはわからずとも、
状況証拠だけで『何がどうなったのか』は容易に想像が付くだろう。


刃に載せられていた莫大な力が、
アリウスの像に接触した途端『消失』・『霧散』したのだ。

天界の力も、そして単純な運動エネルギーの大半も。


972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/15(土) 23:26:17.89 ID:aCNhImd5o

アリウス『―――さて……自己紹介はまだだったな。アリウスだ』


その時アリウスは、
目の前のアックアに向けて、何事も無かったかのようにそう口にした。

相変わらず葉巻を燻らせ。

余裕たっぷりの雰囲気で。


アックア『…………』

ただ、アックアの顔にも全く変化は無かった。
動揺の色など微塵も無い。

天使化のせいで感情が平坦になっていた、という訳ではない。
いくら天使でも、本気で迫った攻撃が全く効果が無いとなれば動揺する。

それにアックアの顔に動揺の色は無くとも、
誰が見てもわかるアリウスへの憤怒と敵意は滲みあがっていた。


ではなぜ、彼には全く動揺の色が無いのか。


それは、『効果が無い』事をあらかじめ『知っていた』からだ。
そこをわきまえた上で、今の攻撃を繰り出したのだ。



アリウスが今の攻撃にどう反応するか。

その魔神の力の『動き』を、オッレルスが『見る』ために―――。

984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/21(金) 22:45:09.13 ID:h6UtbVFpo
―――


オッレルス『(……)』


そのアリウスの『反応』を、
オッレルスは600m程離れているとあるビルの屋上から見ていた。


北欧玉座の論文を元にして構築された、底無し井戸のような『目』を通して。


 フリズスキャルヴ
『北欧玉座』。

天界にてこの語が指すのは、オーディンが有する全てを見渡すことが出来る高座。
そして魔術においてこの名が指すのは、とある超難度の論文。

『北欧玉座』、それは『神の領域から全てを見渡す』、すなわち次元を超えた視点からの知覚。


『神と同じ席に座し、神と同じ視点から世界を見る』。


技術的面から言えば、つまり『力の認識』。

ちなみに仏教における『千里眼』等、このような特性は、異界の高位存在間では特に珍しいものでもない。
それに順じて、人間界にもこれを偶像理論でコピーした術式技術が複数存在している。


日本の『陰陽道』にも、禁術とされているその『一つ』がある。


この『北欧 玉座』の名を冠する『論文』の内容も、
そんな『神の目』の模倣方法とその応用法が記されているものだ。

985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/21(金) 22:45:54.25 ID:h6UtbVFpo

これらの理論を元に作られた術式の最たる効果は、


簡単に言えば『禁書目録の目』と同じ働きをする、ということだ。


『オッレルス自身』が認識しなくとも、この術式が間に入ることで『間接的』に認識が可能。
『北欧玉座』を通せばあらゆる魔導書の読破も可能であり、その知識と力を『ある程度』使用することも可能。

また、普通ならばその身を滅ぼしてしまうような莫大な力も、ここを通せばある程度の制御が可能となる。
『しっかりと理解できていない、よくわからない力』も何とか使うことが出来る。

この完成形の『北欧玉座』はいわば、『擬似的』に魔神の力を手に入れることができるツール。

つまり、それ故に彼は所詮『魔神もどき』である、というわけだ。


そしてそんなツールを通し、彼は今、『本物の魔神』を見ていた。


オッレルス『(―――……すごいな)』


アリウスの力・その構造や使い方は、想像を遥かに超えていた。
いや、超えているのは当たり前だろう。

『神の領域に悠然と立っている男』と、『神の領域をなんとか覗き込んでいる男』の差だ。
根本的なところから、その存在の位置がかけ離れている。

想像などできるわけがない。

986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/21(金) 22:47:07.40 ID:h6UtbVFpo

そんな、想像を絶する『異質な情報』が脳内に流れ込んでくる。

間に『北欧玉座』があり、このツールが変換し『毒気』を排除してくれてはいるものの、
その量と『濃さ』でかなりの負荷だ。

そして取り込むだけでそれなのだ。


ここから更に解析処理を行い、その意味を『理解』するとなると。


オッレルス『(…………やっぱりそう長くはもたないな)』


この状態ではもって1分半。

アリウスから盗み見した構文を使って、自身を更に強化しても3分。

それ以上、この目で見続けていると確実に精神が破壊される。


引き際が肝心だ。
欲張ってここで倒れてしまうと元も子もない。

987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/21(金) 22:48:45.22 ID:h6UtbVFpo

オッレルス『…………』

ただこの今の状況は、
実はオッレルスにとって想定以上の好都合な場でもあった。

まずアリウスの『機嫌が良い』。
だからこうして、じっくりと見る事ができる。

アリウスはこの状況をとにかく楽しんでいるのだ。
生涯をかけた仕事の『完成』、それを目前にした遊び心。

一切とまらずに突っ走り続けてきた男の、最初で最後の息抜き。

そんな状況ではなかったらオッレルスもアックアも、
麦野もルシアも瞬殺されているはずだ。


そして二つ目、その麦野とルシア、そして特に御坂がいることだ。

彼女達のおかげでオッレルスは、
アリウスの悪魔の力に対する反応、デビルハンターの技術に対する反応も見ることができる。

入手できる情報のバリエーションが更に増えるわけだ。

988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/21(金) 22:53:43.58 ID:h6UtbVFpo

オッレルス『(……すまない……)』

しかしそんな彼女達の存在が、逆にある面ではオッレルスを苦しめていた。

アレイスターとアリウスを追うのと平行して、原石などの子供を保護する、
という活動に心血を注いできたそんなオッレルスにとって。


少女達に頼り、化物達と戦わせては利用する、というのがどれだけの苦悩であるか―――。


そして彼女達は何が何でもアリウスをここで倒そうとしているが、
自分達にはその気は無く、ある程度情報を得たら即する退散つもり。

そんな、ある種の『裏切り』。

利用して。

裏切り。

オッレルス『(―――……結局……俺も「魔術師」か)』


強烈な負荷に懸命に堪える中、オッレルスは自嘲気味に思った。


己自身もまた、アレイスターやアリウスと同じく。



『大罪を背負う魔術師』であり―――。



―――『非道な大人』である、と。



―――

ダンテ「学園都市か」40(デュマーリ島編)




posted by JOY at 22:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 禁書クロスSS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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