2011年05月14日

垣根「初春飾利…かぁ…」1

24 :ではもし>>1が戻ってきたら中止して別スレでやりますよい [sage]:2010/11/01(月) 11:55:12.68 ID:p31x5YYo

                                 ※

遠くで声がした。

―――遠く? そうではない。……では、近く? ―――いいや、それも違う。

それは確かに手が届くような距離でありながら、同時に彼方から聞こえてくるサイレンのようでもある。
警報、警告、……だが注意報では、断じて無い。
背反した表現ではあるが、おそらく最も的確に例えるならばこうだ。

もっと言うのであれば、それは声だったのか。誰かの? ―――自分の? ……、……オマエの。

25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 12:14:34.30 ID:p31x5YYo

                                ※
「―――ッ?!」


次に目覚めるとそこは見知らぬ駅。
学園都市の第2位が駅のホームで目を覚ますという行為はどこか景色に馴染まず、油絵を水彩画に塗ったようなミスマッチを演出する。
彼自分にとっても、おそらく彼を知る知人にとっても。

胸の鼓動は一際激しい。脈拍に異常はないことを確かめてから、ふと彼は思った。


(……、……? クソが。戻ったと思ったらまたか?)


そうして垣根帝督はそれが現実世界でないことを瞬時に悟った。
沈黙が支配する夜の駅。彼でなくても感じるはずだ。
そこは明らかに不自然だ。異質だ。

なぜならそこには本来あるべきはずのものが一切合切何もない。
それは人が生活するうえで常に肌身離さず身につけているものだ。


(音がしねえ)


いくら人気がない夜の駅といっても、虫の音や風の音、その他大気や湿気、様々な要因でそれは生じる。
暗部組織で名を馳せていた彼にとって、こういった情報の欠如は警戒心を余計に高まらせてしまう。
彼はゆっくりと立ち上がると首をこき、こきと二回鳴らした。


(―――演算、はできるな。さてどうする)


垣根が脳内で式を展開した後、彼の背中からはシルクの洗濯物を叩いたような歯切れのいい音が響く。
『未元物質』。その能力はもちろんのこと、機動力としても有用な彼の力。そして、


(序列はレベル5第2位。……ふん。今更“飾りもん”だな)


皮肉を自分で言った気がして、彼は視線を右下に落とす。

26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 12:36:37.73 ID:p31x5YYo

(どこからがシャバの景色だったか記憶が曖昧すぎる。腹も当てにならねぇな)

(かといってここに留まる理由もねぇけど)

(……やっぱり死んだ?)

(……、天国ってやつには、行けそうにねぇ。するとここがアレか、地獄ってやつかよ? やけに近代的だな。笑わせやがる)
 
(なんつーか、随分リアルなヴァーチャルを用意してくれたぜ、神様よ……)


そこで、止まった。


(待てよ、ヴァーチャル?)

(……電脳空間……、いや、ありえるな)


垣根が以前いた場所―――学園都市の技術を持ってすれば、ありとあらゆる方法で“個”を保存する術が存在する。

たとえば、クローン。
対峙してみたことなどあるはずもないが、彼と同じくレベル5の超電磁砲はその能力を買われ、自身のクローンを大量に製造されていた。
が、実際に製造された『妹達』の力はオリジナルの足元にも及ばなかったとか。

もしも―――。もしも自分があの時。あの戦いで脳に重大な損傷を負っているなら、その詳細がデータ化されていても不思議ではない。
失敗した生体クローンに成り代わり、今度は電子的なデータとして。イカれた科学者たちが考えそうなことではある。


(ち。死ななきゃいいってもんじゃねぇよなぁ。男は中身、なんてよ、都合のいい嘘だっつの)


そうは言ってもその考えにいたってからも特にあせった様子はない。
なぜならそれは自分にまだ利用価値があるということの裏づけになるからだ。
学園都市第2位の威厳は保てる。

そう、第2位の威厳は。


(―――クソったれの第1位が生きてやがるなら、尚更な……ッ!!!)


握り締めた拳から、ぎりぎりと、鈍くて深い音が響いた。

27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 12:55:33.90 ID:p31x5YYo

二人の決着は一瞬でついてしまった。
それは『ピンセット』という物品をめぐる暗部組織の対決の終結を意味し、彼―――垣根帝督の終末をも意味する。


(殺す……ッ!! あぁ、そうさ。俺は負けた。認めてやる)

(それでもな、あのときの音、熱、臭い、感情、光景―――ッ! 五感に触るすべてがムカついて離れねぇ)

(だ・か・ら・な一方通行。……たとえ俺という存在がどれだけ小さいものになろうが……ッ!! どれだけ惨めな存在になろうが……ッ!! 



             テメェは……テメェだけは………この手で必ず殺すッ!!!!)



垣根帝督という男は本来、あくまでクールな二枚目を演じている少年だ。
それは時に器量の大きさを敵に見せるほどのものなのだが、ゆえにそれは脆い仮面でもある。

感情を顕にすることを特に気にする他人が存在しないこの状況で、彼の表情は誰が見ても醜くゆがんでいた。



(だがまずはここから出ねぇとな。あるはずだ。理論的には内部からアクセスできないなら俺のデータを扱うことも抽出することも不可能)

(問題はイカれたボケナスどもがどこまで俺の動きを読み、どこまで壁を張ってるかだが、―――ナメんなよ)



(俺の未元物質に常識は通用しねぇ…ッ!)



垣根は口元を吊り上げると、自慢の羽で空を舞った。
金髪に長身、すらっとした長い足。そして誰が見ても整った顔立ち。
そして、背中から生える羽。


天使に見えるだろう。いや、彼は天使だったのかもしれない。

         ルシフェル
仮に堕ちた際に彼が堕天使になるかどうかは、今この瞬間にはまだ誰にも予想できないはずである。

28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 13:13:59.27 ID:p31x5YYo
                             
                            ※

場所はかわって、ここはとある現実世界。


「初春、お茶ですの」

「…………ふ、甘いですよ。私を誰だと思って……、そんなに壁は薄くないんですからね?」カチカチカチカチ

「……ういはる?」

「…………あはは、飛ぶんですか? へええー、すごい、それはすごい。でもですねぇ、こっちはとっておきの……」カチカチカチカチ

「スゥーーー………

      う!!! い!!!! は!!! るぅーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!」

「はふぁっ!?」


ジャッジメント、初春飾利はそんな素っ頓狂な声をあげてデスクから転げ落ちた。どたんばたん。
綺麗な放物線を描いて床に倒れこんだ後は、頭上に乗せている(?)丁寧に活けられた(?)花が甘い香りを放って揺れているだけである。
同じくジャッジメントの同僚、白井黒子はそれを見て一言。


「まったく。話も聞けないようでは交渉の余地はありませんのよ?」
「し、しらいさぁぁぁん! ひどいです! い、今いいところだったんですからぁっ!」


ぽかぽかと黒子の足元を叩きながら初春はそう言った。
彼女の声は飴玉の声を転がすような甘ったるい音を響かせる。白井黒子はそれを聴くとよりいっそう眉間にしわをよせて、


「……またやってたんですの?」

「あ」

「……やったんですのね?」

「は……はぅ……」

「おっしゃいなさいな。『私初春飾利は神聖なるジャッジメントの職場において、ネットゲームをしていました』と!!! さあ早く!!」

「………し、ししし、してないです…よ〜?」

「ほおう。まだとぼけるつもりですの?」

「とっ……とぼけてなんか……だ、だってほら、画面に何もうつってないじゃないですかぁ? ね? ね?」

29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 13:29:24.63 ID:p31x5YYo

「そんなチャチな誤魔化しかしても駄目ですの!! どうせ一瞬のスキをついて画面から消したんですのよね?」

「えへ。ばれちゃってましたか」

「初春」

「はい?」

「歯ァ食いしばれィッッ!!!」


ごんっ! と石を樹木に落とすような音を立てて、白井黒子の鉄拳が初春飾利の頭上にめりこんだ。

初春は一瞬何をされたのかわからないと言ったような表情を浮かべていたが、すぐに涙目になる。
両手は整えられた(?)お花の上。すりすりと脳天をなでながら、彼女は白井に言葉を返した。


「い、いだいでずよ……何もなぐらなくたっていいじゃないれすかぁ……」

「いくらなんでもここでネトゲはおやめなさいな! 恥ずかしくないんですの!? 職場でゲーム廃人ってどういうことですのよ!?」

「別にいいじゃないですかぁ。減るもんじゃないし。ぶー。仕事はちゃんとしてますしー!」


彼女がやっていたゲームは最新型のネットゲームで、オンラインのそれだ。
学園都市のゲームは大抵が“外”の技術より数段進んだものであるが、ことネットゲームに関しては特に顕著である。
そして今回初春がやっていたゲームはずばり、『撲殺天使☆ミクロちゃん』。
最新鋭のオンラインゲームであるこのミクロちゃんは、学園都市で最も巨大なオンラインサーバーを借りて運営されていて、今その手の人々に大人気なのだ。

ちなみにゲーム内容は街から脱出しようとする天使をひたすら撲殺するという、なんとも教育によろしくないものになっている。


「初春。別にわたくしはあなたがゲームをやっていたから怒っているわけではありませんの。ええ、確かに減りはしませんわ」

「え? じゃあ、なんで怒ってるんですか?」

「……怪我、ほんとにもう大丈夫なんですの?」

「………」

34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 15:31:35.88 ID:p31x5YYo

怪我、というのは以前にとある事件に巻き込まれたときの傷である。
正確には脱臼。彼女の右肩はこの街で二番目に優秀な演算能力を誇る男に、その能力を使わせることなくはずされたのだ。
デスクの前に座りなおした初春は、一瞬だけ唇をかみしめ、


(………っ)


もちろん実際に痛みが走ったわけではない。ないが、思わず右肩をおさえてしまう。
初春飾利は基本的に非戦闘員だ。後衛、遠距離から情報を収集、発信するナビゲーターに近い才能を宿してはいるが、
実際の戦場に赴くことはほとんどない。

痛烈、かつ新鮮なあの痛みは、おそらく生涯忘れることはできないだろう。
確かな死のイメージ。あの日、初春はこの街の闇に触れていた。


「大丈夫です。だって脱臼ですよ? 白井さんだってよくしてますよね? これくらい」

「初春。痛みに慣れたら兵士は終わりですの。わたくしだっていつも痛いし怖いですのよ」


白井はそう言って、初春の右肩にそっと手をのせる。
それを見た初春が軽く、なでながら手の甲をにぎると、対する白井は何やら複雑な表情を示した。


「……そうですよね。でも、平気です。本当に。あとは時間が解決して―――」

「―――でも、初春?」

「?」

「人の痛みに慣れるようになったら、それは人間として終わりですの」

「…………」

「わたくしは兵士である前に、人間でありたいものですのよ」

「……はい。わたしも、です」

35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 15:47:26.13 ID:p31x5YYo

ふと思う。

たとえばあの時、自分が相手に抱いた感情は何色だっただろうと。
暖かい色ではないことはわかる。見ていて気持ちのいいものではないだろう。
パステルカラーとしては採用不可。多分芸術的には価値のないものかもしれない。

それでも、思う。


(……黒くなるのは、やだな)


自分はジャッジメントであり、この街の治安を守る立場。
大げさかもしれないが、天秤を持ち得るもの。

自分が今までかかわった事件の中には、間接的であれ、許せないものもある。
いや、許し“きれない”もの。

でもそれは多分、傷ついたのが他人だからだ。白井が言ったように、兵士である前に自分は人間。
大切な人を傷つけた相手に対しては、上記のとおり濁った感情をぶつけたくなってしまう。それは仕方ないと思う。

しかしそこまで考えると、逆説的に初春が達する結論はひとつだった。


―――私は律する人でありたい。
たとえば人を傷つけることがあるかもしれない。傷つけられることもあるかもしれない。
裏切られたり、嘘をつかれたり、騙され、憎まれ、壊され。忘れられないくらい嫌な思いもするかもしれない。

それでも、自分は律する人でありたい。
誰かを許せる人でありたい。痛みを受け止められる人でありたい。裁いたその後を、見据えられる人でありたい。
理由は? 決まっている。私は痛みに対して耐性がないから。先頭に立つ人ではないから。

だからこそ、だ。


(人間があって、兵士がある。でも―――兵士である前に、私は……)


“ジャッジメント”でありたい。ここ最近はそんなことを感じていた。

36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 15:58:25.79 ID:p31x5YYo

「初春は自分が思ってるよりもずっと大人ですのよ。このわたくしが保障しますの」

「ふぇ?」


まるで読心術でも心得ているかのように考えを見抜かれた気がして、思わずはっとする。
呆けた顔で白井を見ると、うっすらと笑っていた。
それを見て、初春もまた笑う。


「―――付き合い、長いですもんね」

「ええ。戦場の付き合いは10倍の早さで距離を近づけますの。わたくしはテレポーターですので、もっと早いかもしれませんの」

「ほんとはやいんですから。御坂さんに対してはもっと速そうですけどね」

「……、初春? 貴女いま、わたくしに啖呵をきれるご身分ですの?」

「うっ。……あ、私なんだか……急に右肩が…ッ…、あ、あたたた」


嘘つきは泥棒の始まりですの! と大声で怒鳴られた後、初春はしばらくの間、職場でのゲームを禁止されたのだった。


(………あの人)

(…………どうなったんだろ)

(………、だめだな私)

(でも……、だからってうらんだりは………してない、よね?)


そんな火種になる想いを、心に宿したまま。時間は無感動に、それでいてやさしく流れていた。

37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 16:15:11.61 ID:p31x5YYo

――――――

そしてその日の深夜。
初春は自分の信念を疑うことになる。


(だぁーー、かっこいいこと言って結局ゲームしてる私ーーーっ)


天使をひたすら撲殺するチープなゲーム。が、転じてその中毒性は高い。これがこのゲームのキャッチコピーだった。
一応オンラインでチャット機能やメッセンジャーなどのオプションは完備してあるのだが、
初春はもっぱら内容重視のプレイである。


(ううっ……。なんだかすごく切ないことしてる気がする……。でも面白いしなぁ……)

(……チャットとかするのも面白そうだけど、きっかけないし)

(だ、だいたい、知らない人にいきなり声かけたりできないよっ! こわいよっ!)

(はぁ……、こんなのやってるから白井さんとか固法さんに白い目で見られるのかなぁ)


オンラインゲームの中毒性は内容もさることながら、行動を共にする同志に左右されることが多い。
そういう見方をするなら、初春の熱中の仕方はある意味異端な楽しみ方だといえる。

そもそも中学生が深夜にネトゲに熱中している姿はいくら初春のような童顔でも、異様に見えてしまうのだが。


(コミュニケーションツールになってるんだよね。ブログも、えと、なんとかいったー? とかもそうだけど)

(結局は誰かに発信したいとか、受信したいとか、そういう欲求に左右されるんだな、人間て)

(……う、ってことは私、もしかして……人間失格?)

(…………寝ようかな)


ふああ、とあくびをして、花柄のパジャマのすそのたるみを感じた、そのときだった。

38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 16:26:07.90 ID:p31x5YYo


==========================

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??>>jfns,..,m.,mm,..,..,.,m,,mmmmmmmmmmmmmmmmmmmmm

==========================


(えっ……)


ぽちゃっ、と水が落ちるような音がして、画面に見たこともないページが現れる。
おまけにそのページにはやっぱり見たこともない言語が羅列されている。

暗号?―――というかいたずらのように見えた。


(チャット……? って、また出会い系……!?)


初春は以前、別のオンラインゲームで出会い系の業者に目をつけられ、
訳のわからない段取りでデートをこぎつけられたことがある。

結局その場所には行かず、後で調べたところ悪質なサクラだったと報告があったのだが、
気が動転していた彼女は同僚の白井や、親友の佐天涙子にあわや騒動をかぎつけられそうになる騒ぎだった。

初春の本来のスキルを利用していればすぐに摘発できそうなものなのに、
突然のことに頭が茹で上がってしまった彼女は当時まともにPCの画面を見られなくなっていたのだ。

もちろんそれからこの手のメッセージに警戒するようになり、あれ以来いざこざは起きていない。


(………、も、もお騙されないもん。純粋な乙女の心を弄ぶなっ)

(でもおかしいな。他人からのメッセージはブロックしてるはずなのに)

39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 16:38:30.76 ID:p31x5YYo

あれこれ考え、一指し指を口元にあてて、うーん? と唸っているうち、画面があわただしく動き始めた。


==========================

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==========================


(わっわっわっ、な、なんだろ? もしかしてバグ? の、覗いてみちゃおっかな……)

     ゴールキーパー
学園都市の守護神として一部に有名な彼女の好奇心をくすぐる出来事だった。
こう見えても彼女のそっちの実力は都市伝説になるほど。
ウェブの世界でなら常盤台の能力者ハッカー(レベル5ツンデレ)とも痛み分けに持ち込める実績も持っている。


(うーん、でも攻めと守りじゃ勝手が違うし。……ここのサーバのランクはなんだったっけな?)


==========================

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==========================


(え)

40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 16:48:30.12 ID:p31x5YYo


(NAME………、……名前?)


===============================

??>>NAME?
.NamE nAMeNAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENA
MENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMEN
AMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAME
NAMENAMENamE NamE NnAMenAMenAMeamE NamE NamE NamE Nam
MENAMENAMENAMENAMENAMENAE NamE NamE NamE NamE NamEN
amE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamENa
mE NamE NamE NamENamnAMenAMenAMeE NamE NamE NanAMenAMe
mE NamE NamE NanAMenAMenAMenAMemE NamE NamE NnAMenAMen
AMeamE NamE NamE NamE NamE NamMENAMENAMENAMENAMENAME
AE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamE Nam

………

……



================================


(うわぁっ?!、ま、まずいかもこれ)


とっさにハッカーとしての第六感が働く。バグにしても性質が悪い。

アルファベット26文字の中から無作為に四文字を選んだ場合、英和辞典に載る単語になる確率はいくつだろう?
作為的なものかどうかを判断する材料にならないだろうか。
でも、NAME。NAMEは名前だ。


(明確な意志表示とも取れる……、って、そんなの机上の空論か)


不思議な感覚をその身に覚えつつも、初春飾利は一旦頭を冷やすことに勤めた。
そして、

41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 17:01:42.83 ID:p31x5YYo

==========================

HANA>>KAZARI.

??>>NA>NNA>My name is Kazari.

==========================


かちり。

一言そう打つと、すぐにパソコンをシャットダウンした。


名前を教えた理由付けはいくらか付随させることもできる。

ひとつは、情報を落としておくことで接点を設置しておく。
これによって相手が今後もコミュニケーションをとってきたら、これは作為である。

ひとつは、疑問符に返信したことで相手からの出方を見る。
これによって相手が今後もコミュニケーションをとってきたら、これもやはり作為である。

ひとつは、Nameという単語が無作為に抽出されたアルファベットから形成され、自分の目の前に現れる確立は“高くは”無い。
これによって相手が今後もコミュニケーションをとってきたらそれも……。


(……あれ!? 結局全部一緒だよ?! っていうか無作為の場合でもうんたらかんたら)

(私のばか。お前は寂しいだけかっ。あほちんっ)


急に恥ずかしくなった初春は、転げ落ちるようにデスクから離れて、ベッドに潜り込んだ。
大したことはない。ウイルスなら駆除できるし、バグだったらホストに報告すればいい。

ウェブなら多少は修正がきく。言い訳なのかなんなのかよくわからないが、言い聞かせるようにしてその日はねた。


(はー。まあでも、ネットの友達ほしかったし。どっちでもいっか……)


しばらくしてから、飴玉の転がるような寝息が彼女の部屋で小さく流れ始めた。つぶやくように。それでいて深く。

42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 17:27:09.32 ID:p31x5YYo

                              ※

目が覚めると病室だった。
状況を理解しよう、と思うまでに20秒を費やし、そこからさらに状況を完全に把握するまでに57秒を費やした。


(……、なんとかなった、であってるか? 神様よ)


今度は音も聴こえる。
熱も感じる。五感が研ぎ澄まされているのがわかる。

―――生きているのが、わかる。実感としてこの胸にある。


電脳空間から抜け出すのは至難の業だった。
何せ明らかにこちらの能力が弱体化されている。
パーソナルリアリティは現実の中に妄想を現出させる異能だ。
ヴァーチャルに関してはどうやらその限りではなかったらしい。
もっぱら理解不能な出来事しか起こらなかった。


(とことんイカれてやがる、まったく。で、次のメニューはなんだ? フルコースにしちゃ前菜が重いぜ)


まぶたが重いのは麻酔のせいだろうか。
予測するにここは統括理事会直属の研究機関。
脳みそをいじくりまわすのが趣味というどっかの喰人鬼も真っ青になるこの街の底だろう。


(演算は組めねぇ。さすがに拘束されまくってんな。くそ、わけわかんねぇ管とおしやがって。俺は宇宙服かよ)


玄人はあせらない。
あせることが生む利益が皆無だと本能で理解しているからだ。

超能力者である垣根帝督も同様で、まずはその脳細胞をここから抜け出す方法の議論に注ぎ込んだ。

44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 17:44:30.10 ID:p31x5YYo


(腹の虫はあてにならねぇな。時間が経ちすぎてる)

(ラボはあんまり顔出さねぇからちっとばかし手持ち無沙汰なのはいいとして……)

(―――、さて、どこから手札を切ろうかね)


キーワードはいくつかあった。

ドラゴン。レベル6。電脳空間。そして――――――、KAZARI。


(レスポンスがあったのはこのアホだけ。糸口になったのは助かるが、バカでかいサーバーの割りに目印がひとつしかつけられなかった)

(しかしアホみてえに広かったな。まるで迷路。ありゃなんだ? ツリーダイアグラムの雛形か?)

(―――仮に長期戦になるとしたらあの空間が拠点だな。体のほうは無理だ。まだ取り戻せそうにない)

(ま、死なせることはねぇはず。おたおたしてると脳みそ持ってかれちまうかもしれねーが)


ふう、と深呼吸をする。

そして、気づく。


(おいおい………スゲェな。ははっ、スゲェじゃねぇか)


乱れた呼吸をすると、同時に前方のセンサーが始動する。
どうやら垣根の体内の心拍数と連動していて、異常があった際には意識あるなしにかかわらず警報がなると予測できた。


(こんだけふんじばっても警戒されちまうってか。意識がなくても? 演算が組めなくてもか!?)


玄人は、―――あせらない。


(―――ははははははッ!)


(スゲェ。たまんねーなこりゃ。俺は恐竜かよ、統括理事会!! どうあってもこの俺を逃がさないって?)

(そうだよなぁ、俺はこの街の第2位だもんなぁ!? あは、はははははっ、ははハはハハハハッ!)

45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 17:59:22.50 ID:p31x5YYo

(だけど、わりぃな)

(テメェらから逃げて電脳空間で生きてくA.I.になるってのも乙だけどよ。それじゃあ足りねぇんだよ)

(あのクソヤローに借りを返せてねぇ)

(神様だっけ? テメェはまだそこで俺を見てるんだろ。それとも天使か?)

(いいぜ、テメェはそこで指くわえて待ってろ。思い通りにはさせねぇ)

(俺は垣根帝督だ。第2位だ。伊達じゃねぇ、ガッチガチの本気だ)


(抗ってやる。ギャンブルタイム、コインを投げてやるよクソヤロー)




             ―――あぁわりぃ、裏表一体だけどな。



はき捨てるように唱えてから、垣根は静かに目を閉じた。
眠るのではない。

電子の海へともぐるため。
                        バーチャル
演算がリアルで組めないのなら、土俵が違うだけであちら側の組み立て方を会得すればいいだけのこと。
物理法則をゆがめる演算能力を持つ垣根にとって、新しい演繹体系を形成するのは十八番だ。

47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 18:11:21.06 ID:p31x5YYo

(一方通行のクソは確かつれのチビの頭ん中に入ったんだったな)

(はは、言い方わりぃがそりゃ人権侵害だぜ? ロボトミー手術みてぇなもんだ)

(だが同時にその結果はある仮説を証明することになる)

(やべぇなくそったれ。AIMストーカーの豚女と出会っててよかったぜ)



そう。すなわちその方法とは。



(―――俺は俺をハッキングする……!!)



つまるところリモート操縦である。

たとえば―――、一方通行が手動演算によって打ち止めのウイルスを解除したように。

たとえば―――、滝壺理后が垣根の力をのっとろうとしたように。

ひとつだけ違うのは、残念ながら投げたコインは裏表一体ではなかった点だろうか。

だが―――


(関係ねぇな! できるに決まってやがる! 逆探知なんてチャチなもんじゃねぇ。いわば科学的自己催眠だ)

(あっちの世界で理論体系さえ組めれば、俺は俺をのっとれる。『未元物質』の力さえ手にすれば―――ッ!)

(フィフティなんてせこいことは言わせねぇ。100%だ。絶対的な未来をここに作り上げてやる)


ぴくりとも動かないからだとは裏腹に、垣根の心拍数は上がっていた。

警報が鳴り、廊下から足音が聞こえてくる。


(ち。今はひとまず逃げ腰で勘弁しろよ、アレイスター。―――たらふく肉くってから、また来るからよ)


ドアを開けたときには、垣根は深海の中だった。警報音は響く。やはり深く―――そして紅く。


物語はそして、ゆっくりと。ゆっくりと。その足を未来へと運び始めた。


50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 19:16:08.04 ID:p31x5YYo

                            ※

佐天涙子という女性がいる。
初春飾利とは浅からぬ仲。というより親友である。

一般的に女性が親友を求める理由は二つあるといわれている。


第一に、彼もしくは彼女がレズピアンである場合。
―――そして第二に、彼もしくは彼女が、心の脆さを知り得た場合。


では彼女たちは?
答えは無論後者だった。


「うーいーはー………るるるるるるるっ!!!!」

「あひゃあ!? も、もおおお佐天さん!? またですか!? 学ばない人ですねほんとにもう!」

「あっはっはーごめんねー。もうなんかあれだわあたし、えっと……パフの犬!」

「勝手に卑猥にしないでください!? パブロフの犬です! 条件反射の!」

「いいよー、初春ー、今日も冴えてんじゃーん」

「まったく………」

「………、………、………ピンク。 かわいいぞぉ初春♪」

「!!!」


初春飾利の日課には、佐天からのスカートめくりが組み込まれていた。
こういった行為はなんというか、慣れてしまったときが問題なのだ。
慣れは恐ろしい、とあらためて初春は思った。

人間である前に、露出狂は嫌だ。


(へ、変態さんの仲間入りだけは無理ですよっほんとに……っ)


貞操観念だけはデリートしないように、と初春は毎回思っているのだが。

51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 19:38:03.42 ID:p31x5YYo

二人が足を運ぶのは、馴染みのファミレス。
コーヒーを一杯といかないのが彼女たちの日常で、基本的にはやりたいようにやる。

その日佐天涙子はローライズのジーンズにヴィヴィットカラーのシャツを合わせ、初春飾利は白いワンピースを着ていた。
いずれもまだ夏服に属する。要するに軽装ということ。

残暑はどこまで居座るのか。たまに顔を出してひっこんだりする。
太陽さん、とうとうあなたもツンデレですか、と初春は時折憂鬱そうに空を見上げた。

今日の花は黄色。


「ねーねー、今度白井さんたち誘ってどっか行こうよ? 温泉とか」

「お金が問題ですよね。私さいきんちょっと出費が多くて」

「……ほう」

「違いますよ?」

「えーーー、つまんなぁい。初春ほんと春こないよねぇ」


ガールズトークにかまけていそうな初春であったが、頭の中は別のことで一杯だった。


例のバグについてだ。

一度会ったきり、で会わない人。この手のタイプは意外と忘れられる。
もう一度会いたいなぁ、などと考えるには世の中には人が多すぎるからだ。

はてさて初春はというと。



(あの返信から一向に言語は話さない。何回もうちのPCに張り付いてきてるけど、かといってハッキングをしているわけでもない)

(まるで一定の距離を保っているような。迂闊に近づかず、それでいて離れすぎず。時折見せる不審な動きは? 回線が重くなるのは?)

(……逆に考えてみよう。ホストサーバから来てるならあの中は広大な電脳空間になっているはず)

(―――、見ている? 私を。監視、している? 何のために。―――ううん)


「……手詰まりですぅ。もち札がたりないですよ〜……」

「はぁ?」

52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 19:50:01.94 ID:p31x5YYo

「だいたいなんでただのバグがこんなに気になるのやら……」

「何? ペット飼ったの初春?」

「もうつっこみませんから」


へいへーいと返事をしてから机に突っ伏す佐天。
初春はそんな彼女の横顔をまじまじと見つめた。……が、机の下から伸びてきた手を叩き、見るのをやめた。


(―――やっぱり順当に考えるなら、向こうがこっちを監視してると考えるのが一番納得できる)

(けど……、なんで? 悪いことしてないよね、私……)

(それにその線でいくなら例のメッセージ。NAMEが説明つかない)

(職務質問じゃあるまいし、嘘だらけのネットで名前を聞いた意味は何?)

(ん〜〜、でもそれを無視するなら、向こうからアプローチかけて、こっちを見張ってるって考えるのが妥当だし……)

(私ならどうする? ―――うん、やっぱり名前は聴かない。ブロックをかいくぐるスキルがあるくらいならその気になれば個人情報も回覧できるはず)

(それが無理にしても―――、なんだろう、あの聞き方は、)

(助けてには見えなかった。そう、知らないことを聞きたいとかそういうものはなんとなくしっくりこない)

(なんだろう。まるで―――、―――、……人に甘えるような)


(うあーむりだ! ひらめけ初春飾利っ)


「どっかーーーーんっ!!!」

「!?」

53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 19:58:43.25 ID:p31x5YYo

声と共に佐天は立ち上がって初春の顔に自分の顔を近づけてきた。
次々と浮かぶ疑問符の前に、な、なにやっとるんですか佐天さん、と一声かけるのが精一杯だった。


「難しいよ、初春。何考えてるかわかんないけどさ。自問自答は夜やりなさいって。今は昼。人と会話する時間だろー?」

「そ、そうですよね………。ごめんなさい……」

「………心配だよ」

「え?」

「白井さんから言われてないの? あたし、初春の怪我めっちゃ心配してたんだからね」

「………」

「あーもう! こういう言い方しちゃうとさぁ、恩着せがましいっていうかなんかアレだけどさぁ」


初春が返した反応は、そんなことないです、と言ってうつむきがちにコーラをすする動作。
普段ならかわいいなぁこのヤローぱんつ見せろぉ? 
とでも言ってきそうな佐天も、今はじっとその様子を見つめている。


「あんま考えるなって。言葉に出しなよ。まったくウェブ関係の人間はためこみすぎなんだよー、色々」

「どこの営業マンですか佐天さん」

「あはは」


そうだ。

だってこれは、たまたまゲームをしていて、たまたまちょっと不思議なことが起きて、たまたまそれが気になっただけ。


時間は無感動に、それでいてやさしく流れる。
多分半年もたたないうちに今日の出来事や最近の一連の不可思議な事項の多くは忘れてしまうだろう。

初春はそれっきりにしようとした。もうおしまい。げーむおーばー。

54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 20:07:51.05 ID:p31x5YYo


「ゲームオーバー。コンティニューしないなら、コインはこちらから入れていいかい」


不意うちだった。
窓際の席に座っていた二人。奥につめているつもりはなかったのだが、今日は来るなりドリンクバーでひたすら時間をつぶしていた。
すると必然的に店員に注文を頼む機会は減る。

と? 初春から見て右側、佐天から見て左側の人の流れが、心理的死角を形成する。
あまりに突然だったので、初春からは何の反応も返せなかった。


「はじめまして、ではない、な」

「先生」


先に口を開いたのは佐天涙子。以前この人物―――木山春生とは少々もめた。
知り合い、という響きには聊か親近感がありすぎるように思えるが、和解は成立しているので問題はない。


「どうしたんですか」

「野暮用でね」


目の下の隅はもうない。この人は救われたんだろうか。
野暮な用事。もしかして、例の事件の続きですか、と初春が聞こうとした瞬間、木山と目が合う。


「君に用がある。とある事件の重要参考人らしい」

「――――――え?」

「お友達も一緒にどうぞ。何、私はただの使いだ。知り合いだからつれてくるといっただけでね」


かちり。

クリック音が頭で響いたような気がした。

55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 20:21:03.25 ID:p31x5YYo

――――――

こつん。
こつん。
こつん。

病院に響く足音は好きになれそうにないと思った。
先頭を歩いているのが木山春生。そして、隣にいるのはカエル顔の―――通称冥土帰し。
佐天涙子は最後まで一緒に来ると言い張ったが、必死の説得でなんとか押し戻した。

正解だったか不正解だったかはまだわからない。


「急だったね? 悪いことをしたね」

「あ、はい、まあ……」


腑に落ちない。重要参考人として呼ばれることにではなく、なぜ木山春生が同席する?

それにさっきから歩いている場所がどうもおかしい。
一般病棟からはどんどん遠ざかっていく。

まるで………、知られたくないものを遠ざけるような場所に、導かれているような。
振り向かない医者ほど怖いものはないと悟った。


「……重要参考人なんていうと仰々しく聞こえただろう? 要するに確認だよ」

「かく……にん?」

「一連の事件に君は巻き込まれた。そこで触れたもののうち、いくつかをこちらに教えてほしい」

「………」


やはり様子が変だ。そして胸騒ぎがする。
この先にいるのは誰だ? 仮に誰かがいるとして、なぜわたしがそこに行くのだろう。

初春の心拍数はみるみるうちに高まっていく。

どくん。どくん。どくん。

56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 20:31:30.32 ID:p31x5YYo

「ここに、いる」


そこは病室ではなかった。見た目がどうこうの問題ではなく。

こんなところにいるのが病人のわけがない。間違っても自分はここに入りたくはない。
植物の幹が絡み合う姿にどこかグロテスクを感じるのと同じく。


絡み合ったチューブやコードはどこか有機的なものを感じさせた。

そこに、いる? いると表現されるのは、生き物だけだ。



「さ、君から入ってくれ。私と先生は後で入る」

                                             
なんだ。なんだこの状況は。     
自分はさっきまでどこにいた?    

                   
何を    何を
何を    を
たいてっ想
  い 何の話をしていた                  
 と  にからはじまっていた
ど   悩んで
まっ    め いた
 た   ばよ
        か
          った 


ガソリンのぬけた車のような、骨と骨とがずれるような。
それでいて痛みのない不協和音が頭首胴体足の先を貫いている。
重い。とにかく重い。



そして初春は見た。ベッドに横たわっていたのはもちろん、

57 :大丈夫、ちゃんと後半いちゃいちゃします。 [saga]:2010/11/01(月) 20:36:00.09 ID:p31x5YYo
      
                                ※

(おい、まだいるんだろ)


(わかってんだようぜぇヤローだ)



(……なぁ。またヒントくれよ? 結構つかえるんだぜ、俺)



(………なぁ?)



(ち)



―――kfjhj君lfanはfjadklgn少しばかり勝気が過ぎるからな。



(! は……これまでこれ一本でやってきたんだ。今更かえられるかコラ)



―――強要はしないよ。君が為せばそれgfhfmklでagahもいい。為さなくても構わん。


(いい加減名乗ったらどうだよ。


              『ドラゴン』?)

58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 20:45:47.49 ID:p31x5YYo


『君たちは名前をつけるのが好きだな。最も、この程度の表現体系ではたかが知れているが』

「その言い方がムカついた。なんなんだテメェ? 天使とやらか? あのクソの隣にいたよな?」

『パラダイムという言葉の意味は?』

「……人の話を聞きやがれ」

『知ってるならば理解は易いだろう』

「はぁ?」

『君なりの形成方法でいいということだ。演繹体系をつくりたかったのだろ?』

「………」


「あぁ。でももういいや。あきらめた。出られねぇみたいだし」

「意味わかんねぇよ。公理決めて矛盾が最小限になるように編みこんだぜ? ところがどっこい、びくともしやがらねぇ」

『出るとは?』

「うぜぇ、きめぇ。テメェはなんだあれか? 哲学ヲタの集まりか? 見下してる臭いがプンプンしやがる。テメェみてぇなの一人知ってるぜ」

『ある意味では私は語りえないのだよ。そこにsdfasd優glala劣はない。気を悪くしないでくれ』



「あーはいはいわかりました。……要するに死ぬまでここにいるんだろ俺は」

『本当に理由がわからないのか?』

「あぁ?」

59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 20:54:24.94 ID:p31x5YYo


『例え話は得意じゃないが、やってみせようか、何、君の知り合いもそれである程度理解していたとは思う』

「………」

『あくまでたとえ話だ。厳密には嘘になるがいいかね』

「構わねぇよ、それで俺が戻れるならな」



『君が生み出した新しい演繹体系をかりに電流Aとする』

「あぁ」

『そしてあちら側に流れる演繹体系、つまり演算処理に使うロジックを電流Bとする』

「……あぁ」

『電流Aはαの部屋で使われている。電流Bはβの部屋で使われている。君がいるのはβの部屋だ』

「なんだか眠たくなってきたぞコラ。クソ天使、俺に小学校からやり直せっていいてぇのかよ?」



『さて、ここでαの部屋にある水溶液を電気分解したい。水溶液には電極が設置されていて電気を流せばいつでも分解が始まる。
 ただし君が移動できるのはβの部屋のドアの前まで。目的をかなえるには何が必要だ』

「ドアを未元物質でぶちやぶる」

『残念。βの部屋のドアは同じく未元物質Xで構成されていて中からは壊せない』

「あぁ!? 禅問答か!? なんだそりゃ!」

60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 21:05:30.30 ID:p31x5YYo


(ん? ―――電流? 電圧……?)



「……いや、待てよ」

『気づいただろう? 君の計画は最初から失敗している』

「―――俺一人では、な」


     トランスフォーマー
「必要なのは仲介人、だろ。要するにコンセント兼変圧器だ」



『たとえが合っているかどうかはさておいて―――だが』

「ははハ、なるほどな……。そりゃバカみてぇな話だ。つまり俺が探すべきは―――」



(―――俺がこの空間で生み出した演繹体系Bをあっちの演繹体系Aに変換できるヤツ!)



(考えてみりゃ当たり前の話だ。一方通行のクソの十八番はベクトル操作。使うのは同一ルールのロジックだったはず)

(この電脳空間のみ適用するスーパーボルトを、あっちの部屋にいる俺にぶち込むために―――)

(―――必要か。一人か二人。時間を考えるとできて一人だな。今から戻れるかどうか)



『さがしものは見つかりそうかね』


「さぁな。―――なぁ天使」

61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 21:13:23.94 ID:p31x5YYo


「今俺とあのクソモヤシが闘りあったらどうなる」

『気になるか』

「当たり前だ。そのために戻るんだからな」

『知っても意味はないし、知らなくても意味はない』

「いい加減飽きてきたぞこのカマヤロー。あれだな、テメェら宗教家のやり口が読めてきた」


『―――話をしようか。君はヒーローたりえるかね?』

「藪から棒になんだ? テメェやっぱり馬鹿にしてんだろ?」

『―――彼らはなぜヒーローたりえる? 考えたことはないか。物語やフィクションの話ではない』

『彼らは現実にそこにいて、それを為した。君は為せるか?』



「興味ねぇな。クソ食らえだ」



『―――それもよかろう。ならば汝の欲する所を為せ。それが汝の法となakgらa;knhん』


「……説法かよ。つまなかったぜ、クソ天使。二度とツラ見せんじゃねぇよ」


『いずれ会う。また何処lkかのfag;haa;fhm;この場klfa;afh所でmkag:hf;』


(…………)

62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 21:29:44.74 ID:p31x5YYo

――――――

垣根はαの部屋を覗くことにした。
覗くことしかできないというのは癪だ。


(まるで盗撮だな。趣味じゃねぇ。さらにいうなら統括理事会ってのが気にいらねぇ)

(だが目的はできた。なんとかして仲介人を探す)

(必要なのは異なる言語体系、ロジックを読み取り、“翻訳する”能力)

(暗部にツテはもうねぇ。もともとアナログな連中だしな)


(っておい………、あ……? なんだこりゃどうなってやがる)


「目覚めたね? 調子は? ……随分長い間お休みだったんだね?」


眼前に控えるのはカエル顔の医者。
そして見覚えのない顔が二つ。一人は遠い目で、一人は震えるようにこちらを見つめている。


(なんの冗談だこりゃ。また別のとこに出ちまった……いや)


前回目を覚ましたときは電気がついていなかったため、印象は変わってみえるが、間違いなく同じ部屋だった。
“天使”的にいうならαの部屋。仮初の自分の体に精神だけが宿っている。

「うん、血圧もだいぶよくなった。僥倖だね?」

ふざけんな―――と声を出そうとしたそのときだった。



「―――ッ! ……fuhmgiはbgなか、fdfln―――ッ!」



垣根はさきほどのたとえ話の本当の意味を理解した。

63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 21:42:32.86 ID:p31x5YYo




               君が移動できるのはβの部屋のドアの前まで




(!? くそ……!! そういうことか……!!! あのヤロー、わざとぼかしやがったな……!!!!!)

同時に自分の服装に気づく。
今までなぜ気づかなかったのか。

垣根帝督はうす緑の、手術服を着ていた。
足には何もはいていない。まるで、ついさっきまでオペが行われていたかと思うくらい自然に、体に馴染んでいた。


「言語処理能力が著しく低下している。半身麻痺に失語症。や、この場合は若干例外だが」

「そっ、それじゃ、こ、この人は……もう」


(何を言ってやがる……、くそ、まるっきり部屋の外……、は、何が部屋βだイカサマヤロー……)


「うん? 具体的にはどのあたりが」

「意識はあるようだ。意志表示はできている。厳密な失語症は読む書く聞くのすべてができない」

「脳の障害とは別だと?」

「いや、もちろんそれもあるかもしれない。だが、それだけであれば私はここに呼ばれてないだろう?」

「そうだね。わかりやすい」


(手術服……、くそ脳をいじられた? だりぃ展開になってきやがった。仲介人を見つけても交渉できないなら意味がねぇ)

(この医者……見たことがある。確か……『冥土帰し』……!)

64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 21:48:55.32 ID:p31x5YYo


玄人はあせらない。玄人はあせらない。玄人はあせらないあせらないあえらrんがあにえがんfbmdさなm、ds。fsbkぁ


気を抜くと頭の中まで言語処理が追いつかなくなりそうだった。
冷静になれと自分に命じるほど、呼吸は荒くなり、じっとりと粘り気のある汗が噴出してくる。


(ああああああ;あ;あああああッ!!! どうなってんだよ!!! 俺の俺のおれおおれおれおれおれおのおれのあたまあtmたrっまg、 )


吐き気を催した。だが、単語が頭をめぐってはすぐに消えていってしまう。

事実を知るのが怖い。
情報がこれ以上頭に入ってくることが怖い。

何ができなくなった。

何を失った。

たとえば1000個ある俺の力、持てるべき財のうち、これからひとつひとつをこの医者から告げられるのか。

俺は何個目まで耐えられるだろう。
どこまで普通の
頭でいられるだろう。

想像しただけでスイッチを切りたくなる。

だが、残酷な現実はそれでも許してくれない。




               君が移動できるのはβの部屋のドアの前まで




悪魔の笑い声が、垣根の脳内をいつまでも走り回っていた。

65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 21:59:26.64 ID:p31x5YYo

                               ※

その光景を見たとき、初春飾利は即座に失神していた。

それから誰かに起こされて、今度は先生たちと一緒にそこに来た。
横になっていたのは、あの時の少年。

ひどくやせている。
何より、金色に輝いていた髪に栄養がまったく届いていない。

正直最初に見たときは死んでいるのではと思った。
が、これでもまだ生きているらしい。


(垣根……帝督………、学園都市の第2位、この人が……)


想像したとおりではあったが、実際に目の当たりした凄みまではイメージしきれていない。
あのとき右肩にのしかかった足は今は細く、初春が乗っただけで折れてしまいそうである。
それでも部屋に入るなり、ぎゅ、とおさえた右肩は、どうしてか震えがとまらなくなった。


「統括理事会からの置き土産、だね?」


後ろからそんなことを言われた。え? と返すと、


「第2位は用済みらしいね? なんでも彼の能力はすでに解析済みのようだ。
 裏で処理しないことはそれでも珍しいんだよ。大抵は秘密裏に消される」


この医者はどうしてそんなことに詳しいのだろうと疑問が浮かんだが、あえて聞かずにおいた。
それよりも今は目の前の光景にあっけにとられてそれどころではない。


「……、治るんですか、彼」

「厳しいね? 彼みたいなのが一度運ばれてきたことがあるんだが、あれはタイミングがよかった。それに」

「まだわかっていないことが多い。おそらく通常なら即死してもおかしくないほどの何かに―――」

66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 22:03:49.89 ID:p31x5YYo


「治らないんですか」

「……冥土帰しの名にかけて、否定形は使わないよ」


それが最大限の譲歩であることに気づいたとき、初春飾利はなぜか泣いていた。
自分でもなぜ泣いているのかわからない。
とにかく涙があふれてきた。

疑問系の単語が湯水のようにあふれてくる。だがどれにも答えはない。

ひとつだけ確かなのは右肩の痛みが止まらないこと。


「泣かないで、ね? 君に来てもらったのは不幸自慢をするためじゃない」

「…………え?………」

「見覚えがないか」


木山晴生が指差した先には、液晶モニターがおいてある。
よく見るとそのしたにタッチパネル式のキーボードが設置してあり、つまりそれはデスクトップのPCだった。

やっぱりここはただの病室じゃないんだ。

初春はもう自分の顔がどうなってるかもわからず、その画面をじっと見つめた。

67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 22:10:45.12 ID:p31x5YYo

===================

HANA>>KAZARI.
HANA>>KAZARI.HANA>>KAZARI.HANA>>KAZARI.
??>>NA>NNA>KAZARI.HANA>>KAZARI.

……………

………



====================


かたかた。
かたかた。


そこにはいまだに文字が淡々と打ち込まれている。
初春は瞬時にすべてを察した。

あのバグはこの病院からはじまっていた。
NAME。やっぱりあれは、助けてだったのか。

  花  飾り
「HANA>>KAZARI。君のことだろう? すぐにピンときたよ」

「できれば間違いであってほしかったが、あの事件当時の資料は開示レベルが緩くてね。なんとか私でもいけた」


ぱらぱらとファイルのようなものを木山が振る。
おそらく当時の事後処理やら何やらのまとめだろう。


「で、わかった。君はあの日この男と接触している。診察記録もばっちり。……あぁ、プライバシーは保護されない。残念だが」

「さて」


木山は立ち上がると、初春の近くでひざを落とす。

68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 22:19:31.63 ID:p31x5YYo


「この意味不明の暗号の羅列はこの少年の脳波とリンクしている。学園都市屈指の大型サーバーを使ってな」

「ゲームは僕もよくやるからね? 超大型サーバー『ANGEL』。でもあれは元々うちの緊急用の装置なんだ。使いまわしってやつだよ」


よく見ると垣根の耳元から小さなコードのようなものが伸びていた。
するとこの文字は、彼から発信させられているのか。


「答えろ。あの日何があった。君はこの男に何をした」


木山春生の目は特に変わっていなかった。
怒った様子も、悲しんだ様子もない。特段攻める様子も無い。

ただ純粋に知りたいことを教えてほしい、それだけが伝わってきた。


「……すこし、一人にしてください」


ようやくなれた部屋の間取りに、初春飾利はその重たい口を開く。

木山は一瞬ためらったが、冥土帰しに目で合図を送ると部屋から出て行った。


沈黙。いや、音はそこにあった。



かたかた。


かたかた。


かたかた………

69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 22:21:34.94 ID:p31x5YYo
ってわけで仕込みは以上です。あとは料理するだけ。
独自解釈や設定がちょこちょこ入ります。なんか重たい感じではじめちゃってすいません。
ただ垣根の末路を考えるとこうせざるをえませんでした。ちょっと寝ます。続きは夜中にでも。

80 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 22:09:58.61 ID:ULA5eM.o

――――――

初春はひとまず落ち着くために、部屋に常設されているコーヒーポッドに手を伸ばした。
この少年―――垣根帝督がコーヒーを飲めるとは思えないので、おそらく診察に来た医者や看護士、来客用だろう。

初春飾利は少年が座るベッドの脇から立ち上がると、まだ使い古されていなさそうなカップを手に取り、
丁寧にコーヒーを注ぎはじめた。


(半身麻痺に失語症―――、意識はあるのかな? ううん、もしあったらとっくに抜け出してるよね……。この人超能力者だし)


かくいう初春も一応能力者である。

能力名は定温保存(サーマルハンド) 。『持っているものの温度を一定に保つ』というレベル1の能力である。
一見するとなんの役にもたたなさそうな能力であるが、驚くことに何の役にもたたない。

……というのは言いすぎで、実際にはコンビニのお弁当を持って帰るときや応急処置(といっても本当に応急、でしかないが)に使い道があったりはする。

あるいは、こうしてコーヒーを暖かいままにしておくとか。
スプーン曲げ以上電子レンジ以下の、まあある意味雑草能力である。


(………どうせ才能ないもんねーだ)


たとえ自分には目の前にいる超能力者(レベル5)みたいな能力はなくたって、こうしてジャッジメントとして誰かの役に立つことはできる。
それはもしかしたらずるいことかもしれないし、微々たる才能かもしれない。
だが初春はそんな自分の技術を過小評価はしていないつもりだ。


(私には私にできることがある。大事なのは適所に適材、だよね)


それは以前白井黒子が言ったとおり、見かけ以上に大人な考え方かもしれなかった。

82 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 22:27:04.59 ID:ULA5eM.o

木山が言った台詞を反芻していた。


―――あの日何があった。君はこの男に何をした。


そんなことを急に言われても、と思いかけたが、初春には鮮明に光景を思い浮かべることができる。
街を歩いていたら小さな小さな少女に出会った。それがあの日の始まり。
迷子を探す、と言い張る少女をつれて右往左往しているうちに、突然目の前にいる少年に絡まれ、そして―――


(………っ!)


ずきり。右肩が透明な痛みを放つ。

それは一瞬の出来事だったが、オープンカフェで少年に少女の行方を尋ねられた。
直感的に嘯いたが最後、こめかきに一撃、その後は述べたとおりだ。

それからの記憶は正直曖昧である。


(……実際、その後のことを私は知らない……)


気づけば自分は救急車で運ばれていて、次に目覚めたときは病室だった。
それ以来事件には巻き込まれていない。

その少女ともその後、結局は会わず終いだ。初春は日常に戻る。まるで何もなかったかのように。


(ジャッジメントとして調べては見たけど、私のIDで見られる場所からは何も出てこなかった)


機密度に応じて開示ランクを設定してくれるのはセキュリティ上助かるが、せめて自分が関わった事件くらいは調べさせてほしいと思う初春だった。

83 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 22:40:15.46 ID:ULA5eM.o


(………)


目の前の少年は、すうすうと寝息を立てている。ぴっ、ぴっ、と心電図の音が室内に響く。
右肩の疼きが消えるのと同時に、初春は自分から恐怖心が消えていることに気づいた。

半身麻痺に失語症。何に巻き込まれてこうなってしまったかはわからないが、自分の脱臼と比べてこの少年が失ったものはあまりにも大きすぎる。
初春でなくとも同情の念は隠しえないはずだ。

あくまで予測だが、大方初春からは想像もできないような事情で垣根はこのような代償を払ったのだろう。


(何があったんだろう。やっぱりあの日あの後、なのかな? 一体この人は何をしてたの……?)


コーヒーの温度を保ちながら、じーっとその表情を見つめてみる。

垣根帝督は確かに凶悪な能力者だろうし、実際自分も傷つけられている。
そして現在その身体はやせ細っていて、髪もボサボサだ。

が―――思うのは、その整った顔。おそらく街を歩いていたらかなりの人数が振り返るくらいの顔立ち。
こういう男性が二枚目というのだろうか。

あの時はぜんぜん意識していなかったが、こうしてまじまじと見つめているとそれがよくわかる。

と。


(―――っ!? な、何かんがえてるんだろ私、こんなときにっ!)


自分の思考回路に罪悪感を感じた初春は、これじゃあいかんっ!と言わんばかりにベッドに背を向けた。
その後、なぜかどこかからバスドラムを打つ音が聴こえるな、と思ったがやがてそれが自分の体内の楽器だと気づいた。


(ええっ、な、なんでぇ? うはー、こんな考え方だからだめなんだよ私っ! 最低だ……)


うだーっと自責の念に苛まれる初春。かたかた、かたかた。パソコンの音はまだ響いている。

84 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 22:52:33.09 ID:ULA5eM.o

―――どくん。

目を閉じて、胸を抑えて、静まれっ、静まれっ。初春は念じるように祈るように思った。
どれだけ飢えてるんだよ自分、などと思ったりもした。こんなとこ佐天に見られたらいい笑いものである。

振り返ってその感情が高まるのを恐れた彼女は、落ち着きを取り戻すためにその身をデスクトップの前に移す。
画面にはやはり文字の羅列。

かたかた。
かたかた。


(………ん?)


何かを思い立った初春は画面を凝視する。
聞きなれたファンの音、沈黙が支配する夜の病室、後ろには超能力者の少年。
その異様な状況が彼女に何をひらめかせたか。


(これって………?)


========================

??>>NA>NNA>KAZARI.HANA>>KAZARI

―――dlkafg,fa―――akmgd,gkabmamdsjaaiji―――

―――ksnajg―――kkasg,aavri......jalkjgasdg?
......kamg!! kasm,vavkbnr,,,,,,,,,,,,,,,,

========================

85 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 23:04:16.88 ID:ULA5eM.o


(―――もしかして………?)


初春の頭に色も形もない、パズルのピースのようなものが浮かび始めた。
それらはまるで自分の居場所を求めるようにくるくると動き始める。


(感嘆符と疑問符)


彼女がひっかかったのはその二つだ。
コンピュータ言語の表記方法はいろいろあるかもしれないが、一般的にプログラムの中で感嘆符や疑問符が使われる場合、そこには必ずといっていいほど存在すべきものがある。
それはすなわち、対になるレスポンサーである。対話者である。


(やっぱりこれは―――じゃあ、……つまり?)


そこからの行動は早かった。
何かが宿ったように彼女はキーボードを叩き始める。


かたかたかたかたかたかたかたかたかた―――


病院の端末とはいえ初春は一流のハッカー、プログラマーである。
ことウェブに関しては超能力者とも張るほどの腕を誇る彼女は、常人とは思えない速度で何かを“書き”はじめた。


かたかたかたかたかたかたかたかたかた―――


(やっぱりただの文字の羅列じゃない。この人は意志を持って、情報を発信してる)


かたかたかたかたかたかたかたかたかた―――

かたかたかたかたかたかたかたかたかた―――

………

……




88 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 23:17:01.35 ID:ULA5eM.o
                                 ※

垣根帝督は電脳空間に居た。

あのまま狭い病室で狂ってしまうくらいなら、せめて気分だけでもましになる場所に身を寄せるというのが人間の心理だ。
耳をふさいでみたり、走ってみたり、仰向けになってみたりしたがどれも効果はなく、結局はある体勢に落ち着く。



(くそっ……!! くそくそくそ糞糞糞糞……ッ!!!)



電脳空間の垣根は自己のイメージを投影するらしく、装いは薄緑の手術服のままである。
真っ暗な闇の中に一筋に当てられるライト。
足には何もはいていない。ついこの間まで来ていたホストのようなえんじ色の学生服はどこかに消えていた。

頭を抱えたままうつぶせになって座る彼の姿は、広大な空間で一際目だって見える。


(どうなってんだ……ッ! 畜生っ…!! 意識はある……視界も開けている……!)
 
ヴァーチャル
(“こっち”側ならどんなことでもできるッ! 羽も生えるし空も飛べる!! 未知の物体なんて目じゃねぇっ!! なのになのになのに……!!)

   リアル
(“あっち”で演算ができねぇっ………!! これっぽっちも何も動かねぇ……ッ! 動いてくれねぇ…ッッ!!!)



ぼりぼりと頭を掻き毟る垣根。すると地震が起きた。

―――よく見てみると、自分の足が震えているだけだった。

89 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 23:39:07.95 ID:ULA5eM.o

                                               トランスフォーマー
(確かにあのクソ天使が言うとおり、こっち側の俺があっち側の俺を動かすには仲介人が必要かもしれねぇ)

(そいつの力を借りて外から“電流”をぶちこんで動かないはずの俺を動かす。そして第一位をぶち殺す――――――はずだった)

(だがそれは“体が捕捉されている”という前提条件の元の計画だ)

(―――実際はどうだ? 俺の体は縛られてなんかいなかった!)

(…………半身麻痺だと? 失語症だと? ふざけんじゃねぇぞクソがぁッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!)


言葉と同時にぐおおっ、という音を立てて世界が歪む。
誰の反応もない、ただの八つ当たりだ。

何よりも彼を落胆させたのは、あの場所がおそらく統括理事会とは関係がなかったこと。

垣根帝督の強靭な精神を支えていたのは、彼が持つ能力の際限のない異質性。
てっきり自分は“回収”され、その圧倒的な力を利用することを望まれているのかと思っていた。
そのための設備。それこそ恐竜を封印するような、『未元物質』の力を押さえ込むための設備、と。


しかし現実は違う。
おそらく自分はすでに有用性をしぼりとられている。いわば果実の残りかすだ。
さらに体の自由は失われ、言葉さえまともに話すことができない。

それらの事実を予測した結果、学園都市で第2位の能力者を誇る彼のプライドはいとも簡単に崩れた。


         トランスフォーマー
(―――くそが―――仮に仲介人を見つけたとしても……一人でクソもできねぇってことかよ?
 …………畜生……畜生が、これが末路かよ………)


がたんっ!

当てられていたスポットライトが突然消える。無論それは彼の意志によるものだった。
永遠の闇。それは光が全くあたらない黒を越えた漆黒。垣根はここにきて、その思考を停止させることを望んだ。


(は、これが本当の“暗黒物質”ってか? ……笑えよ、くそやろう)


90 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 23:59:18.87 ID:ULA5eM.o


(HANA、KAZARI……)


つぶやくように想った。はなかざりとは、つまり要するに花飾りのことだろうか?


(……あの天使、何がヒントだ。 確かに移動の目印にはなってるが、それだけで何もおきねぇ)


電脳空間でさまよっていたときに例の存在から投げられた言葉。
一定の間隔で頭をよぎったりはするが、だからといってどうなるものでもない。

自分に関係がある人物のことかと思ったりもしたが、そんな特徴のあるやつは知らない。
民謡にも出てきそうなキーワードだ、と垣根はその場でニヒルな笑みを浮かべた。


(……花、飾り………)


と。


かたかたかたかたかたかたかたかたかたかた―――ッ!



(あぁ!?)


目の前に巨大な文字が出現する。それらは自分を取り囲むように現れ、瞬時には状況を把握できなかった。


かたかたかたかたかた―――ッ!

91 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 00:12:20.38 ID:keqhNDUo


「―――ッ!? なんだこりゃ!? おいクソ天使、どこにいやがる!? またテメェの仕業かコラ!!!」


反応はない。

代わりに、漆黒の闇に白い文字が次々と打ちつけられていく。
何を意味しているのかわからないアルファベットの羅列。


【lafjga;hna........algfdklbmkjka/.,fkgkf,v.akb:kba:...................ak;lb;l;va;】


(くそッ! まさかあの病室からこっちにハッキングかけてきてんのか!? ……ここまで追い詰めて、まだやるってのかよ!?)


【lakbmgf:lm,!!! mamga? ;kam;kma;,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,msakbmkm,m,m,amb;faogro.....】



(―――クソヤローが。上等だコラ。テメェらがそこまでやりてぇってんなら、誘い出して返り討ちにしてやる)


垣根は反応を待った。

おそらくこれから何かしらの攻撃が始まるはずである。
……問題ない、自分はこの空間でなら向こうと同じか、それ以上の力を発揮できる。
ふう、と一呼吸おいてから、彼はその力を解放した。

―――『未元物質』。
背中から生えた六枚の羽が、優雅に漆黒の闇を切り裂く。
こき、と首を鳴らすと、さっきまでの表情とは一点、垣根は暗部特有の狼のごとき視線を文字に向ける。


(きやがれ)


かたかたかたかた―――かたかた―――かた……… 


それらの文字はゆっくりと、速度を落としていった。くるか? 垣根は息を飲み込む。

94 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 00:37:07.88 ID:keqhNDUo


かた………かたかた………



【knfflagl;b,………mla…………

            ……………END】


(………っ!)


握った拳には汗がにじんでいた。
実際には電脳空間であるはずなのに、明確に分かる。なるほど、自分は緊張している。
それをご丁寧に投影してくれたというわけか。
極限まで追い込まれてるんだ、無理もない。だが、負けてやる理屈もない。

そして覚悟を決めた垣根は演算をはじめた。

END、の文字が見える。

来るなら、次だ。精神を一点に集中する。


(こいよ。バラバラにしてやる)



【………………………………

 …………………        

 …………
 
 ……

 こここおこここんにちわっ!! わ、わたたたたたたししししししははは】



世界が、止まった。

95 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 01:17:23.45 ID:keqhNDUo


(……あ?)

【あっ、……よかった。いきなり組んだからうまくいくか不安でした……】

(……なんの冗談だこりゃ)

【あっ、えっと。これはその、つまり―――貴方が発信する言語?の法則を解析して、元に即興でつくった翻訳プログラムで―――】


「おい、テメェ誰だ?」


………。反応はない。


(チッ。わけわかんねぇ。翻訳ソフト? 警戒して損したぜ。無駄使いさせるんじゃねぇよ)

【ごめんなさい、あっ、ま、まだ難しい単語は訳せないんですけど。急にやったんでアルゴリズムがまだ安定しないんです】

(!? こいつ……、プログラマーか?)

【え? あ、違います、えーと。私は……ただの学生で―――】

(!)


そこで気づいた。
このわけの分からない翻訳者は自分の思考をそのまま読み取って会話している。
そしてどんな手品を使ったかはわからないが、どうやらあちらの部屋にいながら自分と会話ができるようだ。


(俺の意識はまだこっちにある。ということはあの天使の例を使うと、こいつは部屋と部屋をつなぐ通訳の役割か)

(……スゲェな。一体どれだけの時間を割いて構築したってんだ? 並大抵の演算能力じゃできねぇぞ)


言いつつも、まだその対話者を信用できない。ここまでが罠の可能性もあるのだ。
垣根は手探りで情報をかき集めはじめた。

98 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 01:45:12.03 ID:keqhNDUo


【?? ええと、ちょっと何いってるか……】

(気にするな。自覚はある。……それより“翻訳者”さん、名前は?)


思考をコントロールするのは慣れこそ必要かもしれないが、普段から演算を欠かさない彼にとってはお手の物。
それに念じたことにより会話ができるなら、それは念話能力(テレパス)と変わりはしない。


【え? あ、……えっと。…………】

(どうした? 答えられねぇのか? ならテメェは俺の敵だ。話すことはねぇよ)

【………………初春です】

(初春……聞いたことねぇな。テメェは今どこにいる。誰の指示で俺とコンタクトを取った?)

【いや、そういうのじゃなくて……、私は単純に、その……興味からこれを構築して……】

(寝言みてぇな言い訳は信用できねぇ。暗部の差し金か? それとも統括理事会か?)

【……………】


(―――いずれにせよテメェはこの俺にまだ姿も見せていない。信用しろってのが無理な話だな)


【……………ごめんなさい】

(はっ)

99 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 01:58:15.53 ID:keqhNDUo


(馬鹿げてやがる)


垣根はため息をついた。

なんだこのデタラメな阿呆は。興味本位から俺にコンタクトをとってきただぁ?
何のために。利用価値でも見出したってのか。今の俺に?

―――深く考えようとして、やめた。
どうせ統括理事会は俺にもう用は無い。
暗部に戻ろうにも能力が使えない半身麻痺の障害者を受け入れてくれるほど、奴らも甘くは無いだろう。
一方通行に復讐するためにシャバに戻ろうにも、せいぜい車椅子から転げ落ちるのが関の山だ。
それ以前に、クソもメシも一人じゃこなせない。何もできない。本当に何も。

自分は無能力者。最低のゴミクズに成り下がったというわけだ。
一時は学園都市最強に啖呵をきっていた、この俺が。
能力が使えないなら生きている意味などない。このまま電子の世界で妄想に身をゆだねるのもいいかもしれない。
クソったれの無能力者。恥さらしだ。

笑えてくる。
情けなくて、笑えてくる。


【やめてください!!!!!】


(―――っ……あぁ?)


100 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 02:05:51.85 ID:keqhNDUo


【ノイズが混じっていて全部は理解できないですけど……】


かたかた。かたかたかたかた。


【無能力者が恥さらしとか、生きている意味がないとか】


文字はゆっくりと垣根の前に列を生み出す。


【……そんな言い方、やめてください】


(…………)


【私の友達にもそうやって悩んでいた時期がありました。でも今は立派に生きてます。一生懸命生きてるんです。
 力が使えないからなんだっていうんですか? 能力が使えないから生きていちゃだめなんですか? 誰が決めたんですか?
 そんな借り物のものさしで人を測るのは、自分を蔑むのは―――やめてください】


(…………テメェに俺の何がわかる)


【貴方のことはわかりません。これっぽっちも。でも妄想に身をゆだねて、現実から目をそむけることが間違ってるのはわかります】


(…………)

101 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 02:22:30.89 ID:keqhNDUo


(失せろ)

【え?】


垣根の生み出した演繹体系はその周囲に意識を投影する。
世界は音を立て、侵入者を拒絶し始めた。


(ここから消えろって言ったんだよ盗撮ヤロウ!!! 人の思考を読み取って楽しいか、あぁ!?
 お前に説教される筋合いなんざどこにもねぇんだよ!!
 借物のものさし? は、世の中はそうやって人をカテゴライズすることで成り立ってんだ。食うやつと食われる奴を片っ端から判別してな!!
 加えて俺は暗部のトップを張ってた男だ、眠たい偽善なんざ聞き飽きてらァ!!!!
 実力社会で生き抜くにはてめえの力量くらい測れなきゃ食っていけねぇんだよ!!! じゃあテメェは責任とれんのか!?
 ものさし捨てた俺を保護できるってのかよ!? できねぇだろうが!!! 俺にとっては能力がすべてだった!!
 そしてそれはこれからも同じなんだよ!!! ずっと続くんだよ!!!!!!!!
 たいした覚悟もねぇくせに日和ったことぬかしてんじゃねぇぞコラ!!!!)
 

………。

反応はそれっきりなくなった。
再び訪れる沈黙。スポットライトは相変わらずあたっていない。
静寂と漆黒を軸に、境目のない地平線がどこまでも続いている。


(くそが……)


いつの間にか背中から消えていた羽をもう一度生み出し、垣根はまたうつむきに座った。
頭を抱えたあと、六枚の羽は器用にその体を包む。


その様子は遠くから見ると小さな卵のように見えた。

まるで誰かに暖めてもらうのを待っているかのような、寂しげなシルエットだった。

………

……



102 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 02:43:41.18 ID:keqhNDUo

                              ※

「何をしている」

「っふぁっ!?」


あまりにも熱中していたのか、病室に来訪者が来ていたこと、背後に人が立っていたこと、初春はそのどちらにも気づけなかった。
素っ頓狂な声をあげてしまう。あわてて画面を切り替えてから、瞬時にブラウザを閉じる。

最後に何か長文で発信されていたようだが、確認する前にリミットが来てしまったらしい。

背後に立っていた木山春生はその様子を、特に表情を変えずに見ている。
初春は「あはははー、ちょっと興味が……」とごまかしながら、おそるおそる後ろを振り向いた。


「……ん。そうか。君は確か、情報処理が得意だったね」


どうやら気づかれてはいないらしい。
ほっと一息ついてから、初春は手に取っていたコーヒーを木山に見せ、「飲みます?」と聞いてみた。


「うーむ、飲み物はカレーと決めているからな。……だが、うん、一口だけなら」

「保温しておいたので暖かいですよ」

「君の能力かい?……ああ、おいしい。それより、何かわかったことでも?」

「いやぁ……あは、ちょっと色々いじってはみたんですけど、難しくて」


舌を出しておどけてみせた。木山は一瞬首を傾けていたが、すぐに目を閉じると、「そうか」と一言だけ付け足して椅子に座った。
そういえば会ったときは気づかなかったが、この女性が白衣を着ているということは、今はこの病院で研究をしているのだろうか。

103 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 03:08:13.95 ID:keqhNDUo


「で? どうだ、話してくれる気になったかい」


足を組み、椅子を左右に動かしながら木山は言った。
その視線は垣根に送られていて、時折目を細めたりしている。
観察するような瞳。それは研究者としての性だろうか。


「……どうしてこの人にこだわるんですか?」

「愚問だな。彼は多かれ少なかれ脳細胞を破壊されている。おそらくは言語中枢絡みの部位だろうが、それだけでは説明できない点があってね。
 たとえば彼の意識は健常者のそれと変わらず、認識能力はここに来てから一定を保っている。これは従来の患者のケースと一致しない」

「つまり、専門の研究者として―――彼を“診る”ってことですか?」

「好きなのか」

「は?」


突拍子もない質問に戸惑う初春。
気づけば木山の視線は自分に移ってきていた。


「この少年のことだ。君の恋人か何かか?」

「なっ、ななな何いってるんですか?!」

「? 彼、なんていい方するのはそういうことだろう?」

「ちちちちち、違いますよっ!!!!」


まったくもう、と最後に付け足してから、初春は荷物をまとめはじめた。
コーヒーはまだ飲みかけだったが、構うことはない。
木山の言い草を信用するならば、これから“彼”が何かをやらされるということはないだろう。
垣根が放った最後の長文は気になったが、これ以上ここで話すことはない。

それに―――、右肩の話をするのは、正直、つらい。

104 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 03:22:31.27 ID:keqhNDUo


「かえるのか。―――まあいい。また気が向いたら来てくれ。私はしばらくここに滞在している」

「また隅つくらないようにしてくださいね」


どうかな、と木山は薄い笑みを浮かべる。
幻想御手(レベルアッパー) 事件のときは精神的にかなり病んでいる様子だった。
彼女があれほど熱意を注いで生み出したとあるシステムは、諸刃の剣ともいえる危険性を秘めていた上、凄惨な結果を招いた。

もっとも目的が果たされた今、再発の可能性はないだろうが。
初春は荷物をまとめて立ち上がる。


「ああ、すまない。最後に君の名前を確認したいんだが」

「え」

「来訪者の記録をつけないといけなくてね」

「あ、そうですよね。初春飾利です。ものごとの初め、の初。春は季節の春。飾るは装飾品の飾。利は利用の利」

「ありがとう」


まだ何かあるのかな、と思いかけて、初春は異変に気づいた。
椅子から立ち上がるとちょうど垣根のベッドのすぐ隣に位置する場所にポジションをとることになるのだが、
彼女が違和感に気づいて垣根を見たとき。


(えっ)


彼女のワンピースが垣根につかまれていたのだ。

105 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 03:33:50.85 ID:keqhNDUo


「? どうした?」

「あ、いや……な、なんでもないですっっ、さ、さよなら」


木山から見ると死角になっていたようなので、その右手で静かにつかまれた部分にある、垣根の手をどけた後、逃げるようにしてその場から立ち去った。
どくん、とまた何か聴こえた気がしたがおそらく気のせいだろう。
そう言い聞かせて。


(こっこれは私が悪いんじゃないよね? だ、誰だってどきどきするよっ、そんなのっ!)


病院の廊下を走る。
看護士が何かを叫んでいたが、無視して出口までたどり着いた。
はぁ、はぁ、はぁ。

目を白黒させながら、なんとかたどり着いた室外の空気を吸い込む。

次にごくりと唾を飲み込み、周囲を確認した。
休日の人通りは、初春は知るいつもの学園都市だった。


(―――ばれなかったかな)


そして取り出すのは薄型の携帯電話。と、USBメモリ。


(暫定版のプログラムだけど、なんとかこっちに詰め込めた。木山先生に見せてもよかったかな……いや、でも)

(垣根、さん? はすごく警戒してたし。もうちょっと調整しないと実践的じゃないし。―――伝えるのはそれからでいいよね)

(………手、あったかかったな)

(…………って、はい!?)


えっ?! 最後の何っ!? と自分に自分でつっこみを入れながら、初春飾利は街を歩き出す。
時刻はすでに夕暮れ。彼女の頬が赤いのは、果たして夕日に照らされていたからか。
それとも―――

………

……



106 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 03:49:41.94 ID:keqhNDUo

                            ※

かたかたかたかたかた。

木山春生はまだ病室にいた。
初春が残していったコービーをすすりながら一人、デスクトップのパソコンをいじる。


(―――やはりあの子は能力の才能こそないが、有する演算能力、情報処理能力には目を見張るものがあるな)


彼女が見ているのはパソコンの操作ログである。
初春のようにプログラムを生み出す力はなくても、木山もまた、学園都市が抱える優秀な研究者の一人。
打ち込まれたものを解析するくらいならば造作もない。


(あの様子だと私が出て行ってから戻るまでの数十分でこれを? 恐ろしいな。まるで都市伝説だ)

(―――だが、ふふ、今度からは飲み残しはしないようにしないとな。誰かにこうして啜られることもある)


ずず、と音をたててコーヒーを啜る木山。

かたかたかたかたかた。

パソコンは正直で、数十分の解析によって初春と垣根のログはほぼ把握できた。


(未完成の部分が多いが、基本的な言葉なら網羅されているか。一部ノイズが混じっているが)

(あの子はおそらくこれを抜き出して帰ったはずだ。さて、完成品になるまで何日かかるかね)

(―――しかし、……この中に気になる単語もある)

(統括理事会? ―――暗部? 絡んでいるのは大型の組織か?)

(加えてこの警戒心。まるで機密を知ったスパイだな。……少し泳がせて様子を見るか。解決の糸口が見えるかもしれない)


木山を動かしているのは純粋な気持ちだった。
かつて自分の研究が生み出した惨劇。眠り続けた子供たち。同じく眠り続ける垣根にそれを重ねているかはわからないが、ともかく彼女は心に決めていた。

これ以上、この街の犠牲者は出さない。
たとえ自分とは関係がないにしても、こと頭の中の話ならば、救い出してみせる。
それは彼女が一連の事件から学び、心に刻んだ信念だった。

107 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 03:56:12.96 ID:keqhNDUo

一息いれるか、と彼女がその場を離れようとしたとき、閉じたはずのブラウザが再び起動しはじめた。

かたかたかたかたかた。


(…………?)


訴えかけるように流れる文字の波。
木山はそれを見逃さない。
コーヒーをモニターのすぐ横に置き、画面を凝視する。


かたかたかたかたかたかた。

翻訳ソフトは順調に起動していた。


【................初........春.....................................................................KAZA...RI........】

【............................初……………春Hあ季節n……春……】

【飾rU………装飾……kAZari…………】



かたかたかた――――――――――――







【初春飾利.............................かぁ..............................................】


………

……



108 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/03(水) 03:57:23.23 ID:keqhNDUo
スレタイ回収したところで今日はおしまい。
お疲れ様でした。

110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 04:00:57.22 ID:4VGThsAO

続きが気になりすぎてちょっと電脳空間いってくる

111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 09:58:38.18 ID:AVB/gIDO
名スレの予感

113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 17:39:40.25 ID:Put5ciY0
帝春ktkr

もっと帝春SS増えねーかな

119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 23:48:29.67 ID:hXZs1L20

初春とのラブ活になるのかバトル物になるのか気になるわ

125 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 05:57:52.10 ID:HzRU3Kco

                               ※

「どうです? 企画としてはそこそこ面白いと思うんですよね」

「確かにここのところ息抜きはしていませんでしたの。ジャッジメントの仕事にかまけてお姉さまとも私生活では疎遠ですし……」

「でしょ? これから寒くなるし、温泉旅行、やっぱり当たりですよね! ……あー楽しみ♪ 初春はどぉ? お金平気?」

「…………」カタカタカタカタ

「おい? 初春? 初春飾利さーん?」

「………あっ」


慌てて開いていたノートパソコンを閉じる初春。
思考を取り戻してから耳に入ってくる喫茶店のBGMは、聞いたことのある歌だった。
人の個性を花に例えたヒット曲だ。花が好きな初春もお気に入りの一曲である。

頭を整理しながら、目をぱちぱちさせながら、眼球を動かして周囲を見渡すと、白井と佐天が不思議そうにこちらを見つめていた。
ん? なんの話題だったっけ? と手近にある飲み物を手にとってみたが、思い出せない。
また佐天の好きな都市伝説の話だろうか。


「こ、怖いですよねー、脱ぎ女! 私も思い出して眠れません、最近」

「はぁ? それはもう出没しなくなったって言ったじゃん! ていうか話題ちがうよ?」

「え? ……ご、ごめんなさい。ちょっと別のこと考えていて……」


頭を抑えながら舌を出す初春。佐天はため息を一息つくと、頭の後ろに手を組みながらソファに背中を寄せた。


「もー、これだからぁ。温泉旅行だよ、お・ん・せ・ん・りょ・こ・う! 前に話したでしょ?」

「へ? あ……、そ、そうですよね。いいと思います、私も楽しみです」

「え? 初春、お金ないんじゃないの?」

「……あ……そ、そうなんです、ここのところ出費が……」

「……妙ですわね」


言葉と同時に、隣に座っていた白井からは刺すような視線が飛んできた。
何か秘密がばれたような錯覚に陥り、ひっ……? と情けない声を出してしまう。

126 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 06:16:38.54 ID:HzRU3Kco


「な、なにがですかぁ白井さ〜ん……?」


肩を竦めながらジュースをすする初春。
保温が効いているだけあってまだ冷たい。初春の持つ飲み物の氷が溶けることは、彼女の能力をもってすればそうそうない。

……が、その手にある汗をかいたウーロン茶はまるで、彼女の心情を表しているかのように慌てふためいて見えた。
罰が悪いことこのうえない。たはは、と付け足してみたが効果はなさそうだ。

そんなバレバレの態度にいい加減見飽きていた白井は、目を細めてから呆れたように口を開く。


「初春、こんなところに来てまでお仕事ですの? 随分と仕事熱心ですこと」

「そ、そんな言い方はひどいですよ!! いいことじゃないですか、治安維持には大事なことです!」

「へえ? ならわたくしにも見せていただきたいものですわね? 初春の治安維持にたいする心意気とやらを」

「プ、プライバシーは保護されるんですっ! それが情報社会のルールなんですぅっ!」


まったく、と付け足す白井だったが、それ以上はつっこむことなく視線をそらす。
どうやらネットゲームをしていると思われたようだ。
ここは職場でないとはいえ、以前注意したばかりの白井にとってはいい気分がしないだろう。


「じゃあ、あたしが幹事で企画すすめますねー! えっと、今一番熱いところがですね………」


パンフレットをめくりだす佐天を尻目に、初春はこっそりとノートパソコンを開いた。
もちろん白井が横目でギロリとにらんできたが、別に悪いことをしているわけではない。
自分に言い聞かせてから、初春は作業を続ける。

―――翻訳ソフトのプログラム。


(やっぱり機械的に辞書をインストールしただけじゃダメか……。人間の言葉って複雑だなぁ。特に日本語は)


かたかたかたかた。
外に出ての作業はやはりはかどる。初春は生粋のプログラマー体質である。
一度書き始めたものを仕上げるとなると、それこそ寝食を忘れて打ち込む癖があった。

127 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 06:33:51.98 ID:HzRU3Kco


―――そういえば。

ふと初春は疑問に思った。
佐天は呼び出しの件について触れてこないな、と。
垣根帝督に会うことになったあの日、初春はとっさに機転をきかせて、彼女には同行しないように言った。

もっと反抗されるかと思ったが、思いのほかすぐに納得されたのだ。


(―――、でも本当は心配してくれてるんだろうな)


白井と初春も浅からぬ仲だが、佐天と初春ももちろん浅からぬ仲である。
泣き顔を見たこともある。

その事件のとき―――、多分誰にもいえなかったことを打ち明けられたとき―――、初春は必死になった。必死で心配したし、行動した。
だからこそ、彼女は待っていてくれているのかもしれない。

初春が自分の口から話してくれることを。


(……、っていっても別にまだ何か起きたわけじゃないし)


対角線上に座る佐天に目をやると、楽しげに旅行についての計画を白井に説明していた。

かつて彼女にあった、無能力者に対するコンプレックス。そんな彼女も今はこうして、何もなかったかのように快活に振舞っている。

―――不意によぎったその言葉を頭の中心で停止させて、初春は考えた。


垣根帝督。あの人もまた佐天と同じように、無能力者に対してコンプレックスがあるように見えた。

どうしてそこまで。なぜ。もちろん手元にある情報だけでは推察することしかできない。
あのときの会話から判断すると、自分が無能力者であるということよりも、第2位から転落したことについて苦悩しているように見えた。
自分に価値が見出せない。生きている意味がわからない。もしくは、無意識にそれを探してしまう。数字でしか自分の価値を、測れない。

そうはいってももちろん、会話のほとんどはノイズまみれで読み取れなかったのだが。


(―――そんなの、寂しすぎるよ)


初春は気を取り直してから作業を続ける。
のどかな日だった。店内にいても鳥のさえずりが聞こえてきそうなくらいの、快晴。

128 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 06:45:51.58 ID:HzRU3Kco


                   【初春?】

(……え)

不意にディスプレイに浮かんだ二つの文字。と疑問符。

初春はそれを見るなり慌ててしまい、机の下に膝をぶつけてしまった。
がたんっ! 予想外に大きな音を立ててグラスが揺れる。人気のない喫茶店だったので尚更だ。

佐天は大丈夫?とびっくりしてまばたきをする。
白井はいい加減になさいよ初春、と叱ってくる。

「すいません、なんでもないんです、あは、ちょ、ちょっとゲームの天使くんが……その……」

二人はその言葉を聞くなり、はぁ、とため息をついてから話を続けた。
一瞬場に流れた気まずいそれは、好き放題に空間を切り取ってからどこかへと消えていったようだ。
まったく気まぐれな空気である。


(え? こ、これって……垣根、さん?)

【そこにいるのか?―――初春、初春飾利? 返事をしてくれ】


やっぱりそうだ、とおもいなおしてキーボードを叩く。
プログラムは正常に起動している。
でも、こちらからは発信していない。

―――ということはこれは彼からの意思表示?
不思議なこともあるなぁと思いつつ、初春はレスポンスを返した。

【ごめんなさい、急だったのでびっくりしました。こ、ここにいますよ】

【そうか】


向こうから来たメッセージなのでもう少しフレンドリーなものを期待した初春だったが、それは変わらずのぶっきらぼうな返答だった。
少しだけがっかりする。

129 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 06:56:56.10 ID:HzRU3Kco


【な、何か用事ですか? ……というか私名前いいましたっけ?】


初春は白井と佐天にばれないように、少しだけパソコンの向きを変えた。
角度的にはこれで死角になるはずである。

何か他人にばれないように密談をしているようで少しドキドキする。


【木山とかいう女と話してただろ。それを聞いてただけだ。装飾品の飾るに利用の利だろ。あってるよな?】


するとこの人にはあの時意識があったのか、と記憶を掘り返す。

―――そして思い出した。
あの時の手のひらの感触。温度。不意につかまれたワンピースの裾。


(―――っ!)


白井と佐天からはディスプレイ越しなのでわからないが、初春は頬を染めてぷるぷると震えていた。
中学生くらいの年頃ならば、異性の手を取るという行為は要するに、そういうことだ。


【おい、どうした? ノイズが混じってるか?】

【なんでもないです…、見えてますよ。ちゃんと、見えてます】


本当はあの時、どうして裾をつかんできたのかを聞きたかったが、その言葉はぐっと飲み込んだ。
そんなことを聞いたら、返答次第で初春の頭は噴火してしまうかもしれない。
それよりも今は、コンタクトをとってきた真意を聞くべきだと判断する。


【暇なんだ。病室に缶詰だろ。話す相手もいねぇしよ】


ようするに寂しいということだろうか。脳波を直接読み取っているのだから、もう少し可愛げがあってもいいのに。
初春はいつの間にか自分が相手に応答の仕方を求めていることに気づき、また赤面する。

130 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 07:11:47.80 ID:HzRU3Kco


【でも……、そっちから発信されるなんて、びっくりです】

【俺もよくはわからねぇ。テメェは病室にはいねぇんだろ?】

【はい。今は喫茶店でお茶してます】

【優gagjl雅だな。こっちは半身麻anglkaskgkで管通されてんだぜ? 俺にもお茶くれよ、お茶】

【あはは………】


思ったより饒舌だな、と初春は思った。
あのときはかなり警戒していたみたいだったが、こうして話すと一般的な男性と変わらない。
木山との会話を聞いていたということは、その後の対応も見ていたのだろうか?
それとも?

様々な考えが回る。
そして、

―――発信できたのはなぜか。たとえば自分のパソコンは今、あのゲームサーバー―――


(ANGEL、って言ってたっけ)


その『ANGEL』と同期している状態にはあるが、基本的に端末は一方通行である。
こちらから扉を開くことはできるが、垣根の方からコンタクトは取れないはずだ。

アカウントは例の“HANA”というIDで接続しているので、理論的には初春を特定して見つけることはできると思うが、それにしたって手配がよすぎる。
そもそもそれができるならば病室にいる必要はなく、あのパソコンに脳波をリンクさせる必要はないのでは? とも思ったりする。


【悪かったな】


次に表示されたのはさらに予想外のメッセージだった。

131 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 07:24:25.36 ID:HzRU3Kco

何のことだろう、と初春は思った。
いきなりメッセージを送ってきたこと? そういえば最初に来たのはNAME、などというぶっきらぼうなものだった。

そこで気づく。

ああそうか、最初からこの人は私に直接情報を発信してきている。
ネットワークを介してだが、同じ理屈でこっちのプログラムにも入り込めたのかな。
やや不自然なロジックだったが、なんとか自分の疑問を押さえ込んだ。


【この前、ひでぇこと、言ってよ。テメェにあたるようなことじゃなかった】


ひでぇこととは何だろう。
もしかして、あのときのことだろうか。初春が右肩に傷を負った、あの日の。

      ラストオーダー
―――テメェが最終信号と一緒にいた事は分かってんだよ、クソボケ―――


確かにあれは、びっくりした。びっくりしたし、怖かった。
でも今となってそのときのことを掘り返すほど、初春も野暮ではない。
このひとは多分、何か大きな間違いを犯したんだ。やってはいけないことをやっていたんだ。
その代償が、失語症、に半身麻痺。

もう十分すぎるだろう。これ以上責めるつもりはない。


【……平気ですよ。私は気にしてません。それより体調、大丈夫ですか?】

【わかんねぇ。動かないとこは動かfaggぇしな】


そうですか……、と初春は返す言葉に詰まる。

半身麻痺というのはどの程度動かないのだろう。
確か、合併症で失語症を患うのは右片麻痺?足りない脳内の資料をめくってみる。

132 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 07:35:40.56 ID:HzRU3Kco


【どうもそれとは違うらしい。最gkg気づいたんだが、両kldgana手は動く】

【すると、上半身の神経には伝達されてるんでしょうか? 私は専門じゃないんでわからないですけど……】

【さぁな。不自由なクソっdagたrhの体になっちまったことに違いはねぇよ】


ノイズが入り混じっているが、なんとなく言いたいことは理解できた。
紛れもなく本心だろう。思考回路を見せ付けられているのだから。

―――やっぱり、演算能力を失ったことがショックなんだろうか。
思わずそれは違うよ、と言ってあげたかったが、やめた。
多分自分のような低能力者に何を言われても、彼は受け入れられないだろう。
御坂美琴のようなレベル5からの一言ならまだ違うかもしれないが、自分にできるのはこうして不器用な会話をしてあげることくらいだ。

あるいは―――、


【―――何か、したいことってあります?】

【あ?】


初春は数少ない可能性を頼りに、彼の望みを聞いてみることにした。
もしかしたら、何かできることがあるかもしれない。ケアしてあげられる部分があるかもしれない。

能力に関することは、さすがに手助けしてあげられそうにないが。


【今、垣根さんがしたいこと。私にできること。あ、でもなかったら無理にとはいいませんよ? なんていうか、ちょっとした興味で―――】

【―――外に出てみたい】


即答だった。

133 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 07:52:24.99 ID:HzRU3Kco


【寝てもさめてもいるのは暗い病dag室と暗いamg部屋。嫌になる。シャda;gバにいたときは気づかなかったけどよ】

【日の光りがあたらねぇ生活をしてた。それでも平気だった。―――けどそれは求めていないって意味じゃねぇ】

【要するにka選;aga;択sgaできないって状況がつれぇのかもな。ないものねだりだ】


でって感じだけどな、という文字が最後に付け加えられる。

文面には皮肉がこめられているように感じた。
垣根帝督は学園都市の第2位。学生かどうかもわからない人。
以前、御坂美琴や白井黒子から聞いたことがある。能力者特有の悩み。

たぶん、力を持つことはそれ自体幸せにはつながらない。
この人も、もしかしたら、幸せとはいえないような環境に身をおいていたのかもしれない。
凍えるくらい、寂しい環境。誰かに暖めてもらうことを待っている鳥の卵。
とっさのイメージにしては明確に思い浮かべられた。


【―――いいですよ】

【あ?】


次には初春の目が、燃える。
保温能力というのはもしかしたら、彼女の性格を反映してるのかもしれない。


【私が、垣根さんを外に連れてってあげます。絶対。必ず】

【オイオイ……、無茶いうなよ。俺は何もできねぇんだぜ? 外なんか歩けるわけが……】

【だから! 私が連れてきます! なんとしてでも外の空気を吸わせてあげますっ! いいですか、私が行くまでいい子にしててくださいね!】

【あ? い、いい子って……、お、おい初】


ぱちん。
そこで接続を切った。

134 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 08:03:11.31 ID:HzRU3Kco

隣にははちょうど話題の最高潮を迎えていた白井と佐天。初春が立ち上がる様子を見てうなづく。


「あはは! 初春もやっとその気になったかー!」

「ふふ、いいですわね初春、お姉さまとはわたくしが相部屋ですのよ?」


はっはっはー!と二人して大笑いする親友を見て、初春もやはり頷いた。

その眉毛は10時10分を指している。
今にも鼻から出る息が見えそうなくらい、今日の彼女は燃えていた。

時間は―――よし、まだお昼過ぎ。

服装は―――よし、今日はばっちりオシャレ。

花飾りは―――よし、季節の色にそろえてきてる!


バイタリティだ、私は今日燃えている!
初春は自分に言い聞かせてからもう一度頷くと、手に取ったパソコンを持って店から出た。


後ろから何か、「ど、どこにいくんですの!? お、お金は!?」と叫ぶ同僚の風紀委員の声が聞こえたような気がしたが、今はそれどころではない。
これから自分は心のケアをしてあげるのだ。そんな些細なことに気を取られている場合ではない。


(―――あれ、でも今日の下着は……)


なぜかよぎった不純な思考回路におもわず転びそうになる。

な、なんでそおなるのっ!? とまたつっこみを入れる初春。
言いつつも今日の子供っぽい下着が気になる初春。

誰がどうみたって恋する乙女だ。彼女自身はまだ、その気持ちを母性本能ということで片付けている。
―――が、どうにも心の部屋の片付けが苦手な彼女は、どこに何をしまったかなどすぐ忘れてしまうだろう。

走る街角には秋の風がふきつける。

垣根のいる病院は、すぐそこだ。

………

……



139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 12:03:17.19 ID:vIYB0tY0
乙! 御坂の出番がまだみたいだが、ロシア編の時の時系列でやっているのか?
だったら凱旋してきたセロリも驚くなwwww

140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 20:02:04.33 ID:/6QWSVw0
微妙に勘違いしてるのがまた可愛いな
カザリさん、そいつあなたのこと覚えてないっぽいんですよ酷い奴ですね!

本当に関係ないがカザリさんって書くと日曜の朝に釣り釣られ合戦してる愉快な仲間たちの一人みたいだな

141 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 06:59:57.13 ID:0nUOcIco

おはようございます。
時系列については基本的に原作準拠ですが、展開からしてパラレルになることをご承知ください。
では少しずつですが書いていきます。

142 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 07:23:52.67 ID:0nUOcIco

                                  ※

患者としての生活は退屈そのものだ。

垣根帝督の食に関する欲求は別のものへと変化していた。
目覚めてからしばらくは融通がきかなかった体。
その頃は管を通して栄養素を摂取していたのだが、それは単に必要なものを体内に取り入れるという受動的な行為だ。

こと食に関してはしばしば哲学や文化論、はては宗教学その他の学問で議論されることがある。
うまいものはうまい。だが、腹に入れば何でもいいというのはうそだ。
哲学的な問いなど普段したこともないが、このような状況に陥ってからというもの、垣根は身を持って実感していた。


(クソったれな病院食も恋しくなるってもんだ。まぁ、摂取の仕方はぜんぜん能動的じゃねぇが)


垣根は暗部のリーダーを務めていた男だが、チームプレイで任務をこなすというよりは、単独で成果を収めるタイプの人間である。
サポートをしてもらうことはあったにしろ、誰かに何かをしてもらう、という行為にはなれていない。

上半身の自由をそれなりに(といっても両手を動かすくらいだが)とりもどしてからも、院内の看護士たちは自分の喉に食べ物をつめこんでくる。
何だかくすぐったいし、客観的に自分を見つめたら赤面モノの構図であったが、それこそ背に腹はかえられないといったところか。


(はぁーぁ、まるっきし植物人間ってわけじゃねぇけど、なんだかねぇ)


自暴自棄、まではいっていないような気がする。
だが、確実に精神状態はよろしくない。
そして、


(……、やっぱりあの天使)


何十回も繰り返した議論を再開する。

自問自答の毎日にはうんざりしていたとはいえ、それはある種の癖みたいな討論会だった。
司会、垣根帝督。論客、垣根帝督である。


143 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 07:53:03.88 ID:0nUOcIco


(こちらの体の自由は、少しずつ取り戻してる。が、一向に言葉は話せねぇ)

(―――たぶん俺の言語体系がこっちとはズレてんだ。演算体系も。……だがどこでズレた?)

(順当に考えるなら、俺の脳―――つまり“本体”があっち側にあるってことだ。根拠はあちら側での演算能力と自由度)

(目覚めた場所もあっちだった。するってぇと、俺の精神は電脳空間のみ適用する形式に変換されちまったって考えたほうがてっとり早いよな)

(それならあの天使の説明にも合点がいく)

(電子データとして、エンコードされた俺を元に戻す術……)

(は)


馬鹿か、と打ち込んだところで思考を停止させた。
どれだけのスーパーコンピュータが必要なんだ、と。

それに、仮に彼を補助できるだけのスペックをぶちこんだネットワークがそこにあったとしても、演算補助をするだけでは足りない。
それはミサカネットワークを介して能力を発動させる一方通行のものとは異なる理論だからである。

           リアル         バーチャル
あの能力はあくまでもこちら側にいる本体が、あちら側の力を借りる、といった理屈で構成される演算理論。
当然演繹体系はこちら側のルールに乗っ取って発信される。

だが垣根の場合は少し―――致命的でもあるが―――勝手が違う。
演算そのものをあちら側から発信するのだ。
彼や、彼が言うところの天使が想像したように、そもそも適用されない演繹体系をいくら組み込んだところで、何の変化も起こらない。


(……あー、気分悪い。もう少し寝るか)


あの対話者―――初春飾利に言ったとおり、寝てもおきても暗い部屋。
垣根は数十分前の会話についてほとんど忘れかけていた。

気分転換ができれば電子の世界はもう少し開けるのかもしれないが、
そもそも姿形もしらないUNKNOWNの人物を待つほど、期待はしていなかったということだ。

144 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 08:00:33.40 ID:0nUOcIco

が、こういうときばかり予想外の出来事は起こるものである。


「本当にいいんですか、先生。彼はまだ―――リハビリすらできる状態ではない」

「かまわないんだね。試作品はできあがっている、そして患者の意志を尊重するのも、医師の務めなんだね? それに―――」


ドアが開いたのと同時に声がする。あちらの世界へと戻ろうとしていた垣根にとっては、まさに寝耳に水の事態だ。
視界に入ってきたのは冥土帰しと呼ばれるカエル顔の医者、木山春生と名乗る脳科学者。
そして―――、


「―――こんな可愛いお客さんの申し出は、断れないんだね?」

「……えへへ」


(………は?)


あっけにとられる。
部屋に入ってきた三人は自分が目覚めていることに気づいたのか、そろえた表情をこちらにそのまま向けてきた。


「さあ垣根さん! ―――私と一緒に散歩しましょう」


……誰だ、この女。え、まさか。


145 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 08:08:28.69 ID:0nUOcIco


「え? あ。そっか。名前を教えてからは初めてでしたよね? 私、初春飾利です」


垣根はそのとき瞬時に、ネットの出会いとか、メール友達とか、そういった数多の電子上のやり取りが招く錯誤を理解した。

―――なんだよこいつは。まるで中学生じゃねぇか、ありえねぇ。
それにキャミソール? ない胸がもっとなく見える。色気もクソもねぇ。

やり取りから察するに年上か同年代だと思っていた。
蓋をあけてみたらどうだ、―――まぁ顔はそれなりに。


「ふぅん。……垣根さん。あの時もそういうこと考えてたんですね。ふぅん……」


そう言い放つ初春の瞳は細められ、垣根は味わったことのない汗を流していた。
たらり。あれ、なんだこの汗は。おい、なんだよおいおいおい、浮気がばれたみたいな効果音だしやがって。

それにあの時っていつだ? と考えそうになる前に、気づく。


―――そうだ、こいつは俺の思考回路をそのまま読み取れるんじゃねぇかよ……!


考えてみればそれは恐ろしい状況である。嘘はつけないし、やましいことも考えられない。
今は冷静だからコントロールできている思考回路も、これからどう転がるかわかったものではない。


「すごいんだね? それが―――翻訳プログラムかい?」

「ええ、まだぜんぜん改良の余地ありですけど。……、一応、携帯に入れられるくらいには」


なんてこった。
垣根は動かないからだの代わりに、頭の中で二度ずっこけた。

146 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 08:20:45.69 ID:0nUOcIco


「できればこちらも患者とのコミュニケーションのために、インストールさせてほしいんだが―――」

「かまいませんよ。USBにばっちりいれてきました」


次には木山春生とかいうバカ女が、初春の隣でとんでもないことを言い出す。
そんなことをされたらプライバシーもへったくれもあったものではない。
自分だって未成年の青少年(青いかどうかは謎だが)だ。

着ている手術服と肌の間を再び流れる汗の正体。垣根はそれを分析するのも忘れてあせっていた。
今初春が持っている携帯電話とPC―――どちらに何が表示されているのかわからないが、液晶に映る文字を想像するのが不安で仕方がない。

とにかく落ち着け、と自分に言い聞かせる。
俺は学園都市の第2位だ。未元物質だ。ええと、昨日の夕食は何を食べたっけ。
あ? そもそも俺、何がしたかったんだっけ。
ていうか何でこいつらがここにいるんだっけ。素粒子の存在確率の割り出し方は……。


「あれ、誤作動かな。なんか意味不明の単語が……」

「ふむ。改良の余地があるというのは本当らしいな。―――まだやめておくか」


測らずとも成功した目くらましに、心の中でガッツポーズをとる垣根。
でかしたぜクソ天使、やりゃあできるじゃねぇか、と珍しくあの存在を賛美してしまった。


「君ががんばってくれた間、僕たちも怠けていたわけじゃないんだね? ……これを」


話が切り替わったのか、最後に口を開いたのは冥土帰しだった。

147 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 08:43:13.79 ID:0nUOcIco

冥土帰しが差し出したのはちいさな黒い箱―――と、そこから伸びるイヤホンのようなもの。
形だけみれば、ライブやコンサートのときに裏方のスタッフが常備しているそれに似ている。


「……これは?」

「うん。診ていてわかったんだけどね、どうも彼の意識は体と遊離しているみたいだ」

「ゆう……り…?」

「正確に説明すると長くなってしまうんだね? 要は彼の脳からあの文字が発信されていたのではなく、
 脳自体があのサーバに移転していると思ってくれていいね」

「つまり、体は外付けのハードディスクのようなものって意味ですか?」

「……さすがだね? 
 当初の理解ではこちらにある意識があのネットワークを使って情報を発信していると思っていたんだが、それは逆だったんだね。
 ―――実際には彼の意識は電子的な何か、あるいはそれに準ずる別のデータに書き換えられていると思ってくれていい。
 運ばれてきてすぐにあれを使って彼の脳を分析しようとしたから、どちらに“彼”がいるのかには気づかなかった。
 そう考えれば言語障害や体の神経伝達の不具合も説明がつくんだね」

「……、それって」

「さて」


冥土帰しは初春が言いかけた言葉を遮るようにして説明をつないだ。
垣根の意識はそれを特に気にしなかったが、その場にいた彼以外の人物は気づく。

―――似たような症例が、以前あったような。


「幸いにも彼の意識ははっきりしている。そこで、この受信機の出番というわけだ」


いいながら軽くウインクをすると、受信機を垣根に渡してくる。
垣根は一瞬首をかしげたが、やがてイヤホンの部分を耳にとりつけた。

148 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 09:03:47.25 ID:0nUOcIco

何も、起きない。


「つまりは垣根くんの意識と体をつなぐ、ワイヤレスのレシーバだと思ってくれていいね?
 これで外に出ても、体を通してこの世界を見られるはずだよ」

「携帯やパソコンにはアクセスできても―――有機体の体にはアクセスできないからね」


その割にはチープなつくりである。
体に差し込まなくていいのか、と疑問が浮かんでしまう。


「心配はいらない。それに入っているのは音声ファイル。基準として出力されるのは君自身の脳波パターンだ。
 低周波だから音も何もしないはず。もっとも意識をつなぐだけしか、現段階ではできないが」


なぜか木山が口を挟む。物言いはどこか自信に満ちていた。
何かこのレシーバが応用された理論でも構築したことがあるのだろうか。
俺はラジコンかよ、と垣根はすかさずつっこみを入れた。


「そう、言い方は悪いが君の体はラジコンの車だと思ってほしいね。―――だからこそ、注意がいくつかある」

「まず地下には行かないこと。あくまで試作品だから、どこで意識が途切れるかわからない。途切れた後どうなるかもね?」

「次にバッテリーが続くのは最大で4時間。ああ、これは一般的な活動を行ったと仮定して、だね? 運動したり演算したりすると消耗は激しくなる。もっとも」

「今の君には―――、心配ないとおもうけどね」


空気が重くなる。

冥土帰しは基本的に患者の症状に関してはインフォームド・コンセントを怠らない。それは周囲の人間に対してもそうだ。
記憶がなくなろうが、脳細胞を破壊されようが、事実は裁量の範囲でしっかりと告げる。

そんな彼の発言を別の方向に受け取ったのか、初春は空気を裂くような声で、


「……じゃ、じゃあ垣根さん! いきましょうか!」


とはつらつしてみせた。
いくって、どこにだ。

149 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 09:14:51.32 ID:0nUOcIco

「そうですねぇ。あ! 病院食、そろそろ飽きてきたでしょ? おいしいもの食べにいきましょうか。大丈夫ですよね、先生」

「うん。胃に負担をかけるようなものでなければ平気だね?」

「私いいところ知ってるんですよ? ……じゃ、早速いきましょう」


初春はそう告げると、部屋の外から車椅子を運んできた。
垣根はそれを見てぎょっとする。

こんなもんに乗るのか? 俺が?


「文句言わないでください。……ほら、肩かして」


よっ、という掛け声を出してから、初春は垣根の腕を肩にかける。
……、なんだか照れくさい。
瞬間、彼女の花飾りがやわらかい匂いを放った。この花は何という名前だろう。

―――あ? 胸見えそう。まぁどうせ貧乳か。


「……垣根さん?」


はっと気づいて首を傾けると、ごごごご、という音がすぐ隣にある初春の顔から聞こえてきそうな気がした。
すぐに思考を別の方向へ飛ばす。

さて、宇宙に存在する素粒子の定義とは―――


「もお」


なんとか手伝ってもらって、車椅子に乗り込んだ。
これから外に出るのだ。

……外の空気。
久しぶりに吸うそれは、どんな印象を自分に与えるだろうか。

150 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 09:29:33.89 ID:0nUOcIco

――――――

昼過ぎの学園都市は相変わらず快晴だった。


【眩しい】

「お日様がでてるんだから眩しくて当然です」


初春は車椅子を押しながら、携帯電話をいじる。
どうやら初期設定をしながら様子を見ているようだ。
時折「うーん、なんか違うなぁ」などと言葉を挟み、細かい語尾を調整している。


【しかしテメェは色気ねぇな】

「……はい?」


私服を着るのは面倒だったようで、垣根は外に出ても手術服だった。
反抗的になった垣根の言動に、一瞬固まる初春。―――が、すぐにそれは彼が落ち着きを取り戻している証拠なのかもしれない、と脳内変換した。
ここはオーバーリアクションしておこうか。


「がーん!」

【……なんだそりゃ。コントか?】

「違いますよ! もお、せっかく人がノリのよさを見せてあげたというのに。……、あのですね、色気も何も私まだ中学生ですよ?」

【は、それこそ花も恥らう乙女ってか? 勘弁しろコラ】

「……私だって、もうちょっと時間が経てばですね」

【経てば?】

「いや、その……む、胸とか大きくなったり……足長くなったり……」

【残念だがその常識は通用しねぇだろうなぁ。モノポールが観測される方が先だろうなぁ】


ごんっ、と垣根の頭にチョップを入れる初春。普段ならこういったつっこみはされる側だが、なるほどやってみると気持ちがいい。
何しやがる!? と叫ぶ彼の文字は、携帯電話におさまるくらい小さかった。

単語の意味はわからないが、罵倒されたことは理解できる。初春はふくれっつらで信号待ちをしていた。

151 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 09:37:59.96 ID:0nUOcIco


「そういえば垣根さんの能力ってどんな力なんですか?」

【……未元物質】

「え? だーく……ま……?」

【未元物質だよ。この世に存在しない素粒子を生み出す能力だ】

「はわぁ………」


初春も学園都市の学生である以上、一応量子力学のイロハは頭にはいっている。
が、垣根が言うような能力はさすがに聞いたことがない。ゆえに、反応も曖昧になる。

そんな初春の心情をすくったのか、垣根は間髪いれずに説明を続けた。


【分類的には量子論の根幹に位置するタイプだな。観測不可能な事象……俺の場合は既存の物理法則を無視して演算を組む。
 テメェが想像したような“あるはずだけどない物質”を生み出すんじゃなくて、“存在しないはずのもの”を現出させる力だ】

「ふへぇ……」

【テメェ……理解してねぇだろ?】


あ、ばれました? と頭をかく初春。
なんでったって俺の対話者はこんなガキなんだ、と思いかけてやめた。
頭を叩かれるのはいい気分がしないからだ。


しかし。
―――そうか、なるほど。


「え?」

【だからこそあっちで融通がきいたのかもしれねぇな。電子データだろうがなんだろうが、俺の未元物質に常識は通用しねぇ】


肩をゆらしながら、携帯に出るのは【ふ、ふふふふ】という文字。
よくわからないが気分はいいらしい。初春は鼻歌を歌いながら信号を渡る。

152 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 09:52:41.70 ID:0nUOcIco


【じゃあ逆に聞くが、テメェは能力者か?】

「はい。レベルは1ですけど……」

【へえ。どんな能力だ、いってみろよ】

「うーんと」


初春は一瞬立ち止まって指で唇を押さえてから、


「こういう力ですね」


と言って―――垣根の無防備な右手を、両手で握った。
後ろから手をまわしていたので、ちょうど垣根の頭を抱えるような体勢になる。

……以前は赤面してしまった彼女のうぶな心境も、こうして看病してる分にはやましい方向に向かわないようである。


【おい】


触った瞬間、びくりと彼の体が動いた。
初春の能力は急激な変化を与えるものではないので、しばらく握ったままにしておく。


「? あれ、感じません? 今日は快晴だけど、風があるから体温は抜けていくと思うんですが……」

【……っ? ……あ?】

「あったかいでしょ? 保温能力なんです、私の」


にこりと笑いかける。携帯には何も表示されなかった。
あれ、うまく伝わらなかったかな、と首をかしげたすぐ後に、垣根に手を振り払われてしまった。


【いいから早く進めろ。おせぇんだよテメェ】


はいはい、と軽く返す。
もしかして照れてるのかな? などと思ったよりもうぶな垣根の態度に、思わず口元がゆるんでしまった。

153 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 10:03:06.30 ID:0nUOcIco


【……女に耐性がねぇわけじゃねぇだろが。メafngaハーsdgトのやつ見ても別になんもなかったし……】

(何の話してるんだろう)


そんなやり取りを交わしているうちに、たどり着いたのはとある飲食店。
季節の果物をふんだんに使った、絶品スイーツが売りの有名店である。
冥土返しは胃に悪くなければいいといっていたので、軽めのスイーツでも食べれば垣根の気分も晴れるだろうと踏んだのだ。

が、対する彼の反応は、初春の予想とは正反対だった。


【……オイ、まさかここに入るんじゃねぇだろうな】

「え? ここですよ? あ、果物嫌いですか?」

【いやそうじゃねぇだろ。この格好でさすがにここはねぇだろ! 俺を笑いものにする気かテメェ!?】

「? でもここ、おいしいんですよ? ……じゃあテイクアウトします?」

【そういう問題じゃねぇ、……あ、おい初h】


じゃあここでいい子にして待っててください、と言ってから初春は垣根を外においたまま、店内へと入ってしまった。

いい子。
この前もそんな言い方をしてた気がする。いや、その前に―――、


(こんなチャラチャラした場所に俺を置き去りにしてんじゃねぇよクソが……!!)


これはこれでまずい。
なんとかして身を隠そうと車椅子をこいでみるが、そこまで神経が伝達されていないようで、うまくこげない。
そうこうしているうち、店内から女性客が次々と出てくる。次々と。やたらと。

……見られている。すごく見られている。―――気がする。


(……なんの拷問だこりゃ)


垣根はため息をついて落胆した。

154 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 10:16:04.66 ID:0nUOcIco

――――――

しばらくしてから、初春が両手にカップを持って出てきた。
パフェのような形をしているその物体は、
およそ暗部に所属していた頃―――いやもしかしたら未来永劫―――自分が口にすることはないような未元物質Xだ。


「そこ、テラスになってるし座りましょう」

【もういい、好きにしろ】


半ば投げやりになって発信する。
初春はというと、今にも花畑に飛び立ちそうな表情で、ふんふん♪と鼻歌まじりに車椅子をおしていた。

―――頭の中までお花畑かよ。


「え? お花がどうしました?」

【なんでもねぇよバカ。……ってか思ったんだけど、その花飾り、IDとかけてんのか?】


適当に会話をつないだつもりの垣根だったが、直後、何やら不穏な空気を後ろから受信した。


「―――なんのことですか?」

【―――ッ!?】


……なんだこの空気は。

何か知らないがやばい。
聞いちゃいけないことを聞いたような、開けてはならないような箱をあけたような……!!
暗部の闇を彷彿させるような、それこそ身も凍えるような、冷たい空気。それは垣根を包むとすぐに収束した。

この圧倒的なプレッシャー、どこかで経験した覚えがある。
……!! そうか、第一位のヤローとやりあった時の……!


「はい、これ垣根さんのぶん」


気づいたときにはその空気は消えていた。
なんだ、気のせいか……。

155 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 10:26:22.24 ID:0nUOcIco

「じゃ、口開けてください」

【……は?】


座席を確保した直後、唐突に言われて固まる。


「あーん、してください。食べさせられないじゃないですか」

【なんだそりゃ? ガキあるまいし、そんなオプションいらねぇよバカ。自分で食える】

「だめです。外出してる時くらい甘えておかないと、後で寂しくなりますよ? はい、あーん」

【い、いらねぇって】


ばたばたと手をふる垣根を無視して、初春はカップに盛られていたクリームを口元に差し出した。
必死で首を振る垣根だったが、よくよく考えるとここで駄々をこねていたら逆に目立ちそうだ。

仕方なく、口を開ける。
もちろん、ピーナッツがかろうじて入るくらい、ほんの少しだけ。
するりと綺麗なカーブを描き、クリームは彼の口内へと滑り込んだ。


「おいしいですか?」

【しらん。わからん】

「あれ、そうですか? おかしいな、ここのクリームも絶品なはず」


味わってる暇なんかねぇよ、
と発信したつもりだったが、初春は携帯を確認せずに自分のぶんの未元物質Xを堪能していた。


「うん、やっぱりおいしい。―――あ」


垣根はこの後の初春の行動によって、さらにそのパーソナルリアリティを破壊されることになる。

156 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 10:39:15.58 ID:0nUOcIco


「ご、ごめんなさい、クリームついちゃいましたね」

【あ?】


初春は垣根の口元に手を伸ばすと、人差し指でそれを拭い取った。
―――そして、


「はむ。……!! こっちのクリームもおいしいじゃないですか! ちゃんと味わってください!」

「;あmgrかgmbdぁ」

「え?」


―――何をやってるんだこの女は。わざとやってるのか? 天然なのかなんなんだふざけんな!?
俺は中学生に誘惑されてんのか? この俺が? ありえねぇ。 

……だいたいガキのくせにさっきから、こいつは節操がなさすぎる!
何が花も恥らう乙女だ! とんだ小悪魔じゃねぇかクソったれ!!

そんな試行錯誤もむなしく、垣根の口から発せられるのは意味不明の文字列。
隣に座る初春は携帯をほったらかして、「うーん、それでも口に合いませんでしたか?」などとほざいている。


【―――は、上等だくそったれ、そっちがその気なら俺も本気を出してやる。大人の魅力なめんなよガキ】


学園都市第2位にして元『スクール』のリーダー垣根帝督は、ついにその矛先を中学生に向けた。
―――逆算、終わるぞ。脳内では今まさに勝利の方程式が完成する直前だった。

……が。


「……あ!? わ、私、ごごごごめんなさい! そうだ、垣根さんは男の人でした! ……ち、ちちっちがうんです! そういうつもりじゃ……っ」


―――だからどっちなんだよテメェは。
彼の演算はくしくも花畑の住民に崩されるのだった。

161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/06(土) 11:55:59.60 ID:xCCSSPk0
初春かぁええのうかぁええのう

163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/06(土) 13:02:46.49 ID:6wHjKAAO
追いついた。設定もいいし文章もいいな
感謝するぜ……このスレと>>22を出会わせてくれたすべての>>1に

166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 20:25:15.65 ID:UDqEQz2o
最高だ
理想郷がここにある


垣根「初春飾利…かぁ…」2




posted by JOY at 10:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 禁書SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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