2011年06月02日

ダンテ「学園都市か」9(デュマーリ島編 )

808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:23:22.29 ID:UDkqlcg4o

伸びてくる影の杭、巨大な鍵爪を有す手。

その無数の集まりが壁を形成し、
行く手も逃げ道も全方位を阻むように押し寄せてくる。

それらは慈母の力をも問答無用で拒絶する、決して突破できない『鉄壁』。

だが。

一人の少女が放つ弾が、そんな『鉄壁』を打ち砕く。

土御門での慈母の支援による莫大な力が、
御坂の能力規模を遥かに跳ね上げ。

ダンテお手製の『大砲』が、
その凄まじい力をレディ製の弾頭に集束させていき。

『究極の破魔の弾』となって放たれる。


御坂「―――しゃあああああ!!!!!!!」


撃ち出された弾頭が幾本もの杭や手を貫き、
壁に大きな亀裂を生じさせる。

そしてそこに叩き込まれる筆しらべによる『一閃』。


809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:24:31.61 ID:UDkqlcg4o

防御を失った周囲の影など、慈母の力の前には障害とはならない。

力の質、密度、破壊力、
それらが同じ『条件』で正面からぶつかり合えば、当然『強い方』に軍配が上がる。

モーセが紅海を割ったかの如く、白狼の進行方向が一気に切り拓かれていく。
その影の『谷間』を、少女を背に白狼は突き抜けていった。

いくつもの薬莢を撒きながら。
周囲の影になど見向きもせずに、ただひたすら真っ直ぐに。

目指すは赤い二つの光点。
縦スリット状の瞳孔を有す瞳。

黒豹の『本体』。

狙うは。

御坂「―――」

光点の間、脳天。

結ばれている土御門からの照準補佐を受けては砲口を定め―――とその瞬間。

黒豹本体も動く。
迫ってくる白狼に向け、挑戦に応じるように牙をむき出しにしては。
30mもの全身を刃にしてその場から跳ね出した。

白狼に向けて。

810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:26:33.61 ID:UDkqlcg4o

御坂「―――」

回避、という選択は無かった。
する必要も、する余裕も。

白狼も牙をむき出しにし、前足の爪を突き出しては更に加速。
そしてお互いの5mの距離に迫った瞬間。

その至近距離で放たれた弾が、黒豹の眉間に直撃。

この場合「弾が黒豹に」というよりは、
黒豹が弾に突っ込んだという表現の方が正しいのかもしれない。

何せ黒豹の突撃速度は、
慈母の支援を受けたこの弾速をも遥かに上回っていたのだから。

ただ、どちらが突っ込んでいった方かという事で、その結果が変動することは無い。

とにかく御坂の弾は黒豹本体、
その頭部に食い込んでは炸裂しその効果を発揮することとなる。

着弾から一瞬後、白狼と黒豹が正面から激突した。

御坂「―――ッ!!!」

股下から一気に押し寄せてくる凄まじい衝撃
振り落とされまいと、御坂は白狼の背に伏せるようにして張り付いた。


その激突の結果は、白狼が押し負けることとなった。
そう、単純な『勢い』は押し負けていた。

押し負けてはいたが。
白狼の牙と爪は、黒豹の防御を超えて届いていた。


白狼は、黒豹の顔面に食いついていた。

811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:27:36.86 ID:UDkqlcg4o

御坂の弾頭の直撃によって僅かに軌道が逸れたのか、
大きく開かれた黒豹の口の牙は、白狼を紙一重のところで取り逃がしてしまった。

そして白狼は黒豹の顔面、左目付近に衝突しては食い付き。
己の頭部ほどもあるその赤い瞳に前足の爪を突き立てた。

まるで苦痛に悶えているかのように像が乱れ、身振るわせる黒豹。
溶け出しているように放出されていく『影』。


御坂「(―――効いてる―――)」


黒豹の顔面に張り付く白狼、その白狼の背に張り付きながら、
御坂はそう確かに感じた。

御坂「(―――けど―――足りない!)」

決定的なダメージを与えるには及んでいない、とも。

そして気付いた。


御坂「―――」

横から頬に数滴はねてきた、暖かい液体の触感に。

その雫がやってきた方向に咄嗟に視線を向けると。

御坂「―――ッ土御門!!」

白狼の左前足の肩口を、
黒豹の肌から生えている刃が貫いていた。

812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:29:30.01 ID:UDkqlcg4o

首辺りまで純白だった毛皮が赤く染まっており、
牙を立て唸り声を漏らしている口も、うっすらと紅に滲んでいる。

土御門『大丈夫だ』

だが御坂の意識を呼んだのか、彼女が次に言葉を向ける前に、
土御門はそう脳内で答え。


土御門『―――このまま行くぞ。一気に畳み掛ける』


そう告げた。
それはやや強引なやり方にも聞えてしまうが。

だがこの状況下では、
それが唯一の最適な選択だった。

防御無効化した状態での黒豹との激突。
それでも、単純にパワーでは土御門は押し負けた。

本体の力の出力は、慈母の力を授かった土御門を軽く超えているのだ。
となれば時間がかかればかかるほど、土御門側は確実にジリ貧になっていく。

攻防回数を重ねれば重ねるほどパターンを読まれて、
今のようなテクニックや小技で虚を付く事も困難になっていく。


更に懸念はもう1つ。


防御が更新され、御坂の大砲も『拒絶対象』になる可能性があるのだ。

いや、このままでは『いずれ』はなるはずだろう。

813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:33:44.60 ID:UDkqlcg4o

となれば当然、御坂の大砲が『拒絶対象外』である内に、
勝負を決める必要がある。

更新にどれくらいの時間や作業を要するのかはわからない。
そして、土御門側にはそれを確認する術も時間も無いのだから。

いや。

それよりも先に、御坂の『残弾数』が問題になる可能性の方が高いだろう。

各チームへの砲撃支援、アリウスへの砲撃、そして今接近する際にもかなり弾を消費。
この島にて合わせて200発近くは既に使っている。

そこに、学園都市におけるフィアンマ戦での消費も足せば。

残りは60発を切る計算に。


それらの状況を踏まえれば、『次』はもう無いのが確実となる。


勝機は、『ここ』で畳み掛けた先にしか存在しない。


御坂「ッ―――了解!」

脳内に送られてくる土御門の考えとすぐに同期した御坂。
黒豹に張り付く白狼の背から、更なる至近距離で続けざまに大砲を放つ。

一発、二発、三発。

食い込んだ弾頭が炸裂し、
幾層にも重なっている影を剥ぎ取っては霧散させていく。

四発、五発、六発。

重ねられる『一閃』がほぼ同時に炸裂し、
まるで大砲から『斬撃』を打ち出しているような光景。

七発、八発、九発。

幾本もの筋が重ねて刻み込まれ、
黒豹の頭部左半分がその形を歪めて行く。

814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:35:57.27 ID:UDkqlcg4o

そこで響く、大砲の遊低が停止する音。

御坂「―――装填!!」

次いで御坂がそう声を張り上げると、白狼は牙と爪を即座に引き抜き、
黒豹を蹴るようにしてようやく離れ。

その離れ際に、置き土産の如く筆しらべ。

『爆神―――輝玉』

黒豹の頭部に刻み込まれた溝の『内部』に。

そして炸裂。

凄まじい鮮やかな閃光が溢れ、
防御を失っている影をもろとも吹き飛ばす。

黒豹の頭部、左半分がその爆発で消失した。

その間にも白狼が負った傷は一瞬で再生、
御坂はその白狼の背の上で弾の充填を完了させ。

コッキングレバーを引いては薬室に装填し。


御坂「―――あと46発!」


銃側に充填している分と弾薬袋の中、
合わせての残弾数を土御門に告げた。

土御門『把握した!』

土御門は短くそう返答しては。
爆炎に塗れる黒豹の近くに着地、そのまますぐに切り返し。

再び黒豹へ向けて突進した。

815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:37:23.60 ID:UDkqlcg4o

それに対し黒豹も『応じる』。

纏わり付く爆炎の中から、
半分欠損した頭部を勢い良く突き出し。

おぞましい様相となっている口を大きく開き、再度白狼へと跳びかかった。

凄まじい速度で再び向かう黒豹と白狼。

放たれる御坂の弾幕に突っ込んでくる黒豹。

そこまでは先と同じであったが、その後は別展開となる。

御坂「―――ッ!」

激突するかという寸前。

白狼は一気に体を落とし、
喉から腹、尻尾まで地面に接触させるほどに低くなった。

意識共有により、その意図を瞬時に把握した御坂も、
白狼に張り付くよう伏せ。

そして彼女達は跳びかかってきた黒豹の巨体、
その下の僅かな隙間に滑り込んでいった。

白狼の背に伏せっている御坂、その彼女と上を掠める黒豹の体との距離は僅か10cm程度。

闇に覆われた地面と、上を覆う闇の権化。

その隙間からの視点は、
まるでプレス機の中に入り込んでしまったかのよう。

816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:39:07.91 ID:UDkqlcg4o

もちろん、そのまますり抜けるつもりではない。
御坂は白狼の背で寝返りを打つようにして、半身仰向けになり。

そして斜め後、上方へ向けて大砲を放った。

黒豹の『腹』へ。

続けざまに放たれた三発の連射。
それに重ねられていく筆しらべ。

一発目と二発目には『一閃』。

そして三発目には『輝玉』。

再度、鮮やかな閃光を伴って大爆発。

その勢いに、
腹の影を大量に失うのと同時に黒豹の体も大きく上方へと吹き上げられた。

だが御坂は手を休めず、
白狼の背から立て続けに、ありったけの弾を撃ち込んで行く。

下腹部、股、そして尾の付け根、と。

その御坂を乗せて白狼は。

押し寄せてくる爆発を背にしながら閉所を脱する、
そんな映画のようなワンシーンを再現して、爆煙を引きながら黒豹の下を潜り抜けては。

地を滑りながら、体を一気に180方向転換。

すれ違ったばかりの、そして爆発で浮き上がってる黒豹を前に捉え。
御坂の弾幕で防御が剥がされている、腹から尾の部分に向けて。


瞬時に『一閃』で刻み込み。

『輝玉』で剥ぎ取り。



『大神―――光明』。


817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:40:34.55 ID:UDkqlcg4o

それは、
シルビア達が入るビルの真上に光を出現させたあの筆しらべ。

慈母を象徴する『天の光』。

それが一閃と輝玉で穿たれた黒豹の傷の奥深く、その『内部』に出現した。

御坂「―――!」

瞬間、黒豹の傷口という傷口から、
金色の光が溢れ出し。

内側から『影』を照らし上げていく。

いや、『焼き払って』いく。

黒豹はそのまま地に落ちては、
前足で頭をかきむしり、全身をのた打ち回らせた。

咆哮の類は挙げてはいないものの、
その仕草から見ても明らかに苦痛に喘いでいるとわかる。

全身の像が今まで以上にブレていく。

しかし。


御坂「(―――まだ足りない!)」


徐々に弱くなっていく―――黒豹の中からの光。

818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:41:20.99 ID:UDkqlcg4o

『光明』が押し潰され始めている。
それほどまでに黒豹の力は強大で、闇は濃かったのだ。

このままでは、当然『光明』は消失してしまう。
御坂が感じた通り、影を払うにはこれでもまだ『足らなかった』。

そう、足らない。

では足らないのならば、どうすればいいのか。

解決策は単純。

足らないのならば足せば良い。


更なる一手を。

白狼はそこで、最高出力でもう一つの筆しらべを放った。



『風神―――疾風』



その瞬間、悶える黒豹を強烈な天の突風が襲った。

『風』は意思を持っているかのように黒豹の全身に纏わりつき。
そして鑢をかけていくかの如く、見る見る影を削り上げていく。


内の光明に集中していたところに、外部から『風』。

黒豹にとっては完全な不意であったのだろう、
いや、不意でなくとも内側の事で手を回せなかったのだ。

風に対しては特に抵抗もできず、
黒豹は巻き込む疾風に襲われ。

819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:44:59.36 ID:UDkqlcg4o

刹那、御坂は初めてこの黒豹の声を聞いた。
普通それを聴いただけでは、到底声とは呼べないようなものであったが。

響いたのは、金属を擦り付けるような不快極まりない音。

不快感、不安感、狂気、
といったありとあらゆる負の因子を色濃く含む、耳を劈く強烈な『悲鳴』。

御坂『―――ッッ!!!!』

思わず反射的に、御坂は目を細めては身を竦ませしまった。

土御門『―――伏せろ!』


と、その時。

土御門のその言葉が脳内に響いてきた瞬間。

黒豹の全身の影が脈打つ心臓のように一度収縮し。


咄嗟に白狼の背に体を倒す御坂。
同時に、白狼の鏡が盾になるような位置に移動した直後。


―――弾け飛んだ。


御坂「―――」


黒豹の全身が爆散した。

820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:45:42.65 ID:UDkqlcg4o

ただ、それは爆弾が炸裂して破片と衝撃波が飛び散る、
といった攻撃的なものではなかった。

体の内側から破裂して肉が飛び散る、といったところか。

黒豹を構成していた影はだらしなく飛び散っていき、
周囲を覆っていた影もヘドロのようにその形を崩していき。

鏡に液体のような質感をもって、鏡にも『影』がかかった、と思ったら、
今度は焼かれるような音を立てて蒸発していく。

そして、その『爆心地』では。


御坂「―――!」


液状化した『影』の中からズルリと。


『黒い球体』が出現した。


直径は3m程。

表面の三分の一ほどが削り取られたかのように透けており、
内側からのオレンジとも赤とも言える光が、そこから淡く漏れている。


御坂「あれッ―――!」

思わず御坂は声を挙げてしまった。
土御門との意識共有によって『移って』きた高揚感に素直に反応したのだ。

そう、土御門も高揚していた。

あの球体を目にして。


土御門『―――』


遂に見つけた。

遂に影の奥底から、白日の下にさらす事が出来たのだ。


―――『核』を。

821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:47:09.24 ID:UDkqlcg4o

白狼は一気に飛び跳ね、
そして核のすぐ前に着地。

そのまま身を更に進ませ、
鼻先を触れるかどうかというところまで球体の表面に近づけた。

それは御坂の目にはまるで、いや、
『まるで』どころかどう見ても匂いを嗅ぐ仕草だった。

更に、そんな類の仕草はそれだけではなかった。

今度はペロリと。
その球体の表面を一舐め。

ただここまでくれば、
さすがにそのような仕草でも御坂の意識が逸れることはなかった。

そもそも意識を共有しているのだから、
それら行動の意味が、『人間界でにおける見た目』通りの意図ではないのをわかっていたのだから。

白狼が舐めた瞬間、
土御門の意識が御坂とは違う何か『別のもの』とも結びついたのも。

強烈な威圧感を醸し出す、『別の何か』と。

それが何なのか、御坂はすぐにわかった。
いや、今の仕草を見ていれば答えは一目瞭然。

土御門は、黒豹の核と己を結びつけたのだ。


そして彼は脳内を介して。


土御門『―――シルビア!「核」に接続した!』


822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:48:01.69 ID:UDkqlcg4o

シルビア『―――本当か?!』

その頃ビルの上ではちょうど、
黒子への簡潔な状況説明が済んだところであった。

黒子「……」

シルビアは黒子に向けて人差し指を立てて話を中断すると意図を示し、
そしてビルの淵へと駆け寄りっては白狼、土御門の方へと視線を向けた。

シルビア『……っ!それが……!』

そして球体を捉えた。

土御門『オッレルスの方はどうだ?!』

シルビア『まだ……』

シルビアが答えかけたところ。


オッレルス『今できる!』

『こちらの球体』の中で作業していたオッレルスが、
そのまま仕事を続けながら声だけを回して来た。

オッレルス『それと俺にも繋げてくれ!回線が作業に耐えられるか先に確認したい!』

そして早口で土御門にそう告げた。

と、その言葉が終わってから僅か3秒ほどで。
すぐに土御門経由で核との接続が終わり、確認も済ませたのだろう。


オッレルス『―――くそっ!ダメだ!その「深度」では維持できない!』


そんな好ましくない結果を、更に早口で告げた。


823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:50:50.53 ID:UDkqlcg4o

オッレルスが告げたその結果。
それは、今の接続状態では作業が出来ないことを示していた。

『接続深度』が浅すぎる、回線が細すぎて作業の負荷に耐えられないのだ。

土御門『―――チッ!』

その答えを脳内で聞き、
土御門は牙を噛み締めた。


ここまでやっと来たのに、状況は更に厳しくなったのだから。


黒豹は、殺したわけではない。

瞬間的に大ダメージを与えて、一時的に麻痺状態に陥らせただけだ。
当然、時間が経てば復活する。

こうしている今も、周囲の影は徐々にだが統制を取り戻しつつある。

もちろん、このまま核を破壊すれば殺せるが、
土御門側からしたら核を破壊するなど持っての外。

そんなことをすれば、人造悪魔達を停止させる手段が消えてなくなる。

それに土御門個人は、ネロのとの約束もある。
アリウスの術式そのものは破壊してはいけないとの。


ただ黒豹を殺す手段は別にもある。

このまま影に更に攻撃を畳み掛けていき、一掃してしまえば良いのだ。

もちろん、核を破壊するのとは比べ物にならない量の労力と力が必要だが、
御坂がいる今の土御門には可能な範囲だ。

824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:52:23.14 ID:UDkqlcg4o

オッレルスの確認の結果を聞くまでは、
土御門はその方法で黒豹を倒そうとしていた。

核とオッレルスの『中継点』となりながら、
同時に影を根こそぎ消滅させていく、と。

だが。

オッレルスが告げた結果は、それが困難であることを示していた。

現状の接続では『深度』が『浅い』。
これでは確実に作業は失敗する。

となれば、更に『深く』繋がる必要があるのだが。

接続と戦闘、それら力の割り振りは今が最大限のものだったのだ。
接続を維持しつつ戦闘行動、両方を両立できる限界水準だ。

つまりこれ以上接続に意識と力を割り振れば、当然戦闘行動が不可能になる。

このまま畳み掛けて黒豹を殺しきるなんて無理、
土御門はここに張り付き続けざるを得なくなり、無防備の背を晒す事となる。

死に物狂いで、なりふり構わず向かってくるであろう影に対して。

土御門『……』

しかし、他に方法は無かった。


どちらを優先するべきなのかは明らかである。

825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:53:49.72 ID:UDkqlcg4o

土御門『……作業が済むまで、俺の背中を頼みたい』


そう、背中の御坂に告げると同時に、
共有を介して意図を送り込む土御門。

御坂「……」

特に反論もせず、
小さく頷いては御坂はその背から跳ね降りた。

次いで切断される、意識の共有。

脳内での会話や感覚の鋭敏化、撃神による雷性の支援は依然続けているが、
意識の共有だけは切断する必要があった。

なぜなら、これから土御門はその意識内を満たすのだから。

受け入れた核の中身で。

それによって、御坂と共有するスペースすら維持できなくなるのだ。
いや、厳密に言えば御坂への『汚染』を防ぐことが出来ない、だ。

なにせ。

最悪、土御門自身の精神が消失するかもしれない程。
いくら慈雨の加護があるとはいえ、非常に困難な事なのだ。

これはいわば、
城の門という門を開き中に敵を招き入れる行為なのだから。

826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:55:12.37 ID:UDkqlcg4o

御坂が降りてすぐ、白狼の姿は人型へと一瞬で形を変えた。

金髪とサングラスに上半身裸、という本来の姿に戻り、
核に向き合っては両手の平を当てる土御門。

御坂は彼の背中合わせの位置に付き、大砲を腰溜めに構えた。

土御門『残りは?』

御坂「31発」

そして二人は淡々と、
背中越しに最後の確認の言葉を交わしていく。

土御門『凌げるか?』

御坂「凌いでみせる」

土御門『任せた』

御坂「了解」

土御門『……』

そんな、状況が最悪だと理解していても安定してる御坂の声。

土御門『あいつは―――』

それを聴き、土御門は一泊置いてふと思い出したように。


土御門『―――確実にお前を選んでただろうな。もしインデックスに会っていなかったら』


彼女に向けそう行った。

それに対し御坂は。

御坂「……はっ」

背中越しに軽く、笑い飛ばすような声を漏らし。


御坂「あの子を助けてない当麻なんて―――ねえ?」


そう言葉を返した。
顎を上げるように、背後の土御門に向け首を傾げて。

827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/17(火) 00:58:07.38 ID:UDkqlcg4o

同意を求めるような語尾の発音で。
それはまるで、そんな上条当麻には魅力が無いとでも言いたげな。

そして土御門は。


土御門『はは、確かに』


その『含み』の部分に同意した。

と、その時。
御坂の両隣にもう二人、『仲間』が降り立った。

シルビア『私程度で足しになるかわからないけど』

アックア『轡を並べさせてもらう』

弓矢を携えたシルビアと、大剣アスカロンを手にしているアックアが。

二人の言葉に御坂は無言のまま、
特に両者を見もせずに小さく頷き。

土御門は小さな笑い声を漏らした後。


土御門『(我らが慈母―――天照坐皇大御神よ―――どうか―――)』


手を核に『沈み込ませた』。
ズルリと肘ほどまで。


その瞬間。

流れ込んできた苦痛に耐えかねた、
少年のこの世の者とは思えない絶叫が響き渡る。

どんな苦痛に対しても、一息以上は声を漏らさなかった少年の。


しかし。


少年は決してその両腕を引き抜こうとはしない。
例え首を撥ねられようとも、その体が業火に焼かれたとしても。

そして彼の背後を預かる三者は、
微動だにせず構えていた。


再稼動を始めつつある、蠢く影を見据えて。


―――

834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/18(水) 01:51:54.44 ID:rjpRYUtEo
つっちーイケメンすなあ

835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:01:40.90 ID:rLU+ku2po
―――

デュマーリ島、南島。

延々と続いていた工場地帯は今や破壊しつくされ、
薄闇の中、廃墟がどこまでも連なっていた。

いや、『廃墟』と呼べる形状を保っているだけまだマシな方だ。
ただの瓦礫の山、更に酷いところでは全て蒸発して完全な更地と化しているのだから。

辺りはしんと静まり返っていた。

聞えるのは彼方、北島からの戦囃子。
光が明滅するのに合わせて大地が揺れ動く。

遠くの空で雷が瞬いているような光景か。

大気を伝ってくる音は、
距離があるためかその明滅のリズムとは全く噛み合わない。

そんな、不快な環境音を

浜面仕上はその場に跪いていた。
ただただ呆然としながら。

浜面「……」

何も考えてはいなかった。

考えたくも無かったし、そもそも考えられなかった。

感情と記憶が爆発を起こし、
心の中は滅茶苦茶に散らかってしまっている。

一気に押し寄せた負荷に耐え切れず、
思考がオーバーヒートしてしまったようだ。

何もわからない。

これは本当に現実なのかどうかも虚ろ。

今、己はどんな表情をしているのかも。
笑っているのか。

怒っているのか、それとも。

泣いているのか、も。

浜面「……」

836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:03:58.14 ID:rLU+ku2po

正面には地面に座り込んでいる滝壺。
彼女はずっと空を見上げていた。

後ろに転げ倒れてしまうのではというほど、顎を上に向けて。


麦野沈利が逝った空を。


浜面「……」

その彼女がどんな表情をしているのかは見えなかった。
上を思いっきり見上げているため、浜面から見えるのは絹の様な肌の喉元。

だが直接見えなくても、
彼女がどんな顔をしているのかが、ある程度推測できるものがあった。

それは、彼女の頬、耳元から首筋に伝っていく雫。
量は少ないけども、絶えることなく流れ続けていく露。

彼女は泣いていた。

浜面「……」

と、その時。

浜面は脇にふと現れた影に気付き、
そちらに振り向いた。

その先には。

絹旗「……………………」

滝壺を見つめる絹旗が立っていた。


そんな彼女の表情は―――浜面はわからなかった。


わからなかった。

837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:05:49.10 ID:rLU+ku2po

激怒している顔も、
悔しさで一杯の顔も。

悲しんでいる顔も、
感傷に浸っているような近づきがたい時の顔も。

そして喜んでいる顔も。

心の底からの笑顔も。

浜面は、絹旗の表情変化を一通り全て見てきていたはずだった。
これは滝壺、浜面も含める三者ともお互いがそうだ。

付き合いが長いとは決して言えないものの、
共に過ごした間の密度と距離は凄まじく濃厚なものだったのだから。

だがこの顔は、今まで一度も見たことが無い―――とも言える一方。
『見たことがある顔』全てが同時に滲んでいるとも感じた。


浜面「―――……」


そこで浜面は気付き思った。

そう、絹旗も同じなのだろうか、と。
今の自分の想いが良くわからないのは、絹旗も同じなのだろうか。

とすれば己も、今は彼女のような顔をしているのだろうか、と。


838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:07:19.47 ID:rLU+ku2po

ただ、それがわかったからといって別にどうということではない。
少なくとも今の浜面にとっては。

思考もこれ以上は回らないのだから。


ぽっかりと空いた穴はあまりにも大きすぎて、
何もかもを飲み込んでしまう。


ここまでの穴が空く事への戸惑いも。
そして『この状況と己の関係』、『己達がここにいる意義』をも

それら全てを丸呑みにしてしまうほど。


だが、もちろんそのままでいる事は好ましくない。
彼等自身を含む『皆』にとって。

その瞬間。

浜面「―――」


結標淡希が唐突に『立っていた』。


浜面と滝壺の間、
先ほどまで麦野沈利が横たわっていた地面に。

839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:08:06.94 ID:rLU+ku2po

一瞬にして出現した結標、その体は先にビルで見た時よりも更に薄汚れ、
あちこちが血に滲み、全身から疲労の色を漂わせていた。

そんな彼女は滝壺の方を向いていた。

そのため、
跪いている浜面から見えるのは頭と同じ高さに腰、そして背中。

その背中越しから浜面は聞く。

結標「……何をしてるの?」

結標がぽつりと漏らした言葉を。
それはそれは平坦で、感情が読めない声色。

だが次に発したのは。

結標「何を、してるの?」

言葉は同じでも、その声色は明らかに変化していた。
威圧的な空気と醸し出し、そして苛立ち交じりにも聞えていた。

その二度目でようやく滝壺は反応を示しては、
視線を結標の方へとゆっくり向けた。

と、そこで『三度』。


結標「―――何を、して、いるの?」


再び結標はそう問うた。
更に威圧的で、冷ややかで、突き刺さるような声で。


浜面「―――!」


滝壺の胸倉を掴んで持ち上げて。

840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:10:58.63 ID:rLU+ku2po

能力を使っているのだろう、結標の細い腕が軽々と滝壺を引っ張り挙げた。
滝壺の爪先が、地面と触れるか触れないかという高さまで。

滝壺「ん―――ん゛っ!」

首元を締め付けられ、
そんな声を歪めた口から漏らす滝壺。

浜面「な―――」

その突然の光景を見た瞬間、
考えるよりも先に、浜面の体が反射的に動いた。

瞬時に立ち上がり、太もものホルダーから拳銃を引き抜き。

浜面「―――何しやがる?!」

結標の後頭部へと突きつけた。


例え何も考えられなくても、
心に大きな穴が空いて何もわからなくても、これだけは。

滝壺を守るという信念は、浜面の魂奥深くに刻み込まれていたのだ。

そして同じく絹旗も。
あの複雑な表情の色がまだ残っているも、その体は身構えており、
今すぐにでも結標に跳びかかってしまいそうな勢いだった。

841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:12:43.28 ID:rLU+ku2po

だが、結標は振り向きもしなかった。
まるで浜面と絹旗がいないかのように、一切気にも留めず。

結標「メソメソウジウジ」

そして。
         メルトダウナー
結標「所詮、『あの女』一人でもっていたチーム、」

滝壺を乱暴に揺らしながら。

結標「腑抜けのカスが。『アタマ』切られたらそれでオシマイかよ」

冷ややかな声で続けた。

浜面「なっ―――」



結標「よくこんなゴミばっかりで、アイテムだなんて誇れたものね」



浜面「―――ってッ!」

その光景と言葉に耐えかねて。
浜面は結標の頭に強く、銃口を押し付けては。


浜面「―――てめぇに何がわかる?!俺達の何が?!」

842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:14:23.75 ID:rLU+ku2po

何がわかる。

結標「―――あぁあ?何がわかるか、って?」

と、その浜面の言葉に結標はやっと振り向きそう返した。
銃口を押し返すように力を篭めて。

その口調は問いを投げ返すもの。

まるで。

お前らこそ何をわかってる?とでも言いたげな。

私は答えを知っている、とでも。

結標「そんなことだから、あんた達はいつまでも『一兵卒』止まりなのよ」

そして結標は、そんな風に吐き捨てて一泊置いた後。


結標「『私達』は何のためにここに来た?」


結標「『私達』は何のために―――『ここ』で死んでいった?」



結標「―――本当にわからないの?」


―――
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:15:13.99 ID:rLU+ku2po
―――

黒子「―――…………」

黒子はビル屋上の淵から、
1km程離れた地を見下ろしていた。

土御門、御坂、シルビア、そしてあの大男と『核』を。

とは言っても、
この距離で黒子の目で識別できるのはあの大男の大きな『翼』と、
影の中から出現した核が漏らす光だけであるが。

オッレルス『そちらの回線は?』

背後から聞えたその声に対し、
黒子は体そのまま、顔だけを振り向かせながら答えた。

黒子「いえ。いまだ」

依然回復の兆しが無い、
AIMストーカーの通信網の状態を。

オッレルス『そうか』

そう、これまた片手間といった風に言葉を返してきたオッレルス。

彼を囲む光の球体、その表面を動く文字列の目まぐるしさはいっそう増し、
全体の光も徐々に強くなってきている。

更に、今まではオッレルス自身は特に動いていなかったのだが、

土御門との交信があった直後から、
見えない操作基盤を敲いているかのように手を動かしはじめ。

視点も人間離れした挙動と速度でせわしなく動かしている。

黒子「……」

黒子の素人目から見ても、
極限のプレッシャーと押し寄せる焦りの中にいることが見てとれるほど。

844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:16:52.89 ID:rLU+ku2po

オッレルス『では……まだ回復していないようだが、君にやってもらいたい事について話しておく』

黒子「!」

オッレルスが話を切り出した瞬間、
黒子の前の中空に、ホログラムのように光の像が浮かび上がった。

それは、羅列されている各チームのコード。
全て、北島各地のランドマーク上で待機しているチームのもの。

そしてそのコードの後に続き、なにやら奇妙な『記号』が浮かび上がっていた。

黒子「……これは?」


オッレルス『「示している記号」を回線が回復次第、各地で待機してる君の仲間達に転送し』

オッレルス『ランドマークの範囲内、壁や床でも何にでもいいから刻むよう伝えてくれ』

黒子「……」

オッレルス『模写の精度は「同じ記号」と判別できる程度でかまわない』

黒子「了解。回復次第、そういたしますの」

オッレルス『あくまで俺が「遠隔干渉」するための基点構築だから、彼らに何かしらの障害が生じることは無い』

黒子「はい―――」

と、黒子がそこで頷いたその時。



『―――……………………こちら……AIMストーカー……状況報告を』


845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:18:30.97 ID:rLU+ku2po

正に突然脳内に響いてくる、今最も聞きたかった声。

黒子「(―――回復……!しましたの!)」

前触れもなく、AIMストーカーの通信網が回復したのだ。

その声色がなぜか随分と萎れてはいるが、間違いなくAIMストーカーのものだ。

黒子「こちらCharlie 4。状況報告を転送」

滝壺『……了解。状況確認完了』

思わず黒子はその場で身を乗り出しては、
早速情報を送り出し。

親指を立てた右手を伸ばしながら、
オッレルスに向けて頷いた。


オッレルス『(回復したか。このタイミング、良い流れだ)』

それを確認したオッレルスは、小さく笑った。

オッレルス『(流れは俺達に傾きつつある―――)』

依然、道のりは厳しいものの。
この険しい道の先に、確かな光が見え始めている。

手が届くところに確たる光が。


オッレルス『(―――この勢いのまま突っ込むか)』


そこでオッレルスは、せわしなく動かしていた手を止めた。
その瞬間、球体の表面の文字列もピタリと動きを止めた。

846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:19:38.47 ID:rLU+ku2po

オッレルス『―――キリエさんを―――』


その彼の言葉を聞くと同時に、
黒子がオッレルスの足元の彼女を一瞬で脇に連れ出して。

直後、球体の色が変わった。

表面がざらついて黒くなり、
オッレルスの姿が覆われて見えなくなり。

その雑な表面の隙間からは、
赤とオレンジの光が漏れ出す―――。

黒子「―――!」

それは『核』だった。

厳密には現物ではないが。

ここに出現したのは、いわば『水面に映る月の影』。
現物は今も土御門の前にある。

土御門経由で引き出されたデータがオッレルスの中で変換され、
その像がこの場に映し出されているのだ。

とはいえ、
もちろん素人の黒子の目からは変換後と変換前の違いなどわからない。

そう、そんな専門的な事はわからないが。


これだけはわかる。


遂に最終局面が始まった―――良くも悪くも『終わり』はすぐ、訪れると。


―――
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:20:12.24 ID:rLU+ku2po
―――

じわりじわりと近づいてくる、ヘドロのように蠢く影。

それを、矢の雨による『面制圧』で粉砕し。

『天の氷』と『天の水』で形成されている巨大な翼が薙ぎ掃い、
それらの力を更に集約させた大剣が、一閃の元に寸断する。

聖人シルビア、そして聖人の枠を超えて半天使となったアックアが影を滅していく。

その光景を、御坂は大砲を腰溜めに構えながら見守っていた。

御坂「…………」

背後にて土御門の苦痛に、喘ぐ『強烈な声』を耳にしながら。

彼女がその魔弾を放たないのは、
なにも『出る幕がないから』というわけではない。

むしろとっておきだ。

今はまだ二人の魔術師の攻撃が効いている、
『影の防御』の機能が戻っていない段階であるし、何よりも残弾の問題がある。

とはいえ。

『とっておき』とはいっても、この御坂の『魔弾だけ』では決定打にもならないが。
この魔弾だけでは、文字通り『防御機能を剥がすだけ』。

特殊な効果を省いたこの魔弾の単純な威力では、
黒豹にとっては蚊に刺される程度だろう。

この特殊効果に、土御門の圧倒的な力があってこその先ほどなのだ。

848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:23:01.44 ID:rLU+ku2po

御坂「……」

それに、意識共有を切る前に送られてきていた土御門からの『評価』では。

御坂の魔弾の効果があってもアックアやシルビアの力では、
完全に復活した状態の黒豹にはほとんどダメージは与えられ無いとなっていた。

防御を抜きにして、単純に力の規模に差が有りすぎるのだと。

白狼と死闘を繰り広げた、先の『全力の黒豹』相手では。

『ガブリエル程度』では、本体を顕現させて100%の力を発揮したとしても、到底『戦い』と呼べる段階には届かない。
ましてや『いち聖人程度』じゃあ、何人いても『いない』のと同じ。

そして、単純な力量ではこの二人よりもずっと低い御坂。


唯一拮抗しうる土御門は戦闘に参加できない、というこの状況。

作業が完了して土御門が戦闘に復帰するのが先か、黒豹の完全復活が先か。
なんという綱渡り、とんでもない追い詰められ具合だろうか。


御坂「……」

だがこのような時でも。
諦めずにいれば、流れは着実にこちらに向かって来てくれる。

例えばこの―――



黒子『―――お姉さま!聞こえます?!』



―――耳の受信機から聞えてきた親友の声なんかも、それを示す好例だ。

849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:24:28.38 ID:rLU+ku2po

御坂「黒子、回復したのね。問題は?」

黒子『問題は今のところ特には!AIMストーカーは今、こちらが要請した作業をおこなっておりますの!』

御坂「そう、よかった」

『ムーブポイントへの演算補助信号にメッセージを混ぜる、というミサカの案がうまくいきましたね』

と、そこで入る妹達からの通信。

『AIMストーカーの稼動状態、ネットワーク機能、共に正常、問題無いです』

御坂「(……よしっ、良い感じね)」

御坂は心の中でとりあえず、一つ問題をクリアしたことに胸を撫で下ろして。
横目で、背後の土御門を見やった。

凄まじい苦痛の声を漏らし続けている彼を。

前に事務所デビルメイクライに居候していた時、
トリッシュの拷問で上条もかなりの苦痛の声を挙げていたが。

それこそ、あの上条当麻が精神的にまいってしまい
無様に泣き出すほど。

御坂「……」

だが、今の土御門のそれはあの時以上に聞える。

あの時以上に、だ。
だからこそ、御坂はあの上条の時と同じくこう思う。

こういう時こそ、
己のような立ち位置の者が踏ん張らなければならない、と。

中心で戦っている者を、横や後ろで支える支援者。

ある時は刃となり。

ある時は盾となる『脇役』―――と。

彼女の今の主題は、
復活した黒豹に殺されてしまうのではないか、ではない。


果たして作業が終わるまで―――土御門を守れるかどうか、だ。

850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:25:36.09 ID:rLU+ku2po

そしてその主題を問う『悪魔』が、そのおぞましい頭を掲げる。
御坂の視線の先にて、二つの赤い光点が出現した。

それは『目』。

影の王の鋭い瞳。

その瞬間、辺り一帯の影がその動きを変えた。

ヘドロ状に統制なく蠢いていたのが一気に滑らかになり、
一つの意思の元に集っていく。

まだ、完全ではない。

そう、確かに完全ではないものの。


御坂「(―――そろそろね)」


『完全』へのカウントダウンは始まっていた。


シルビア『チッ!5割程度か!攻撃が拒絶された!!』

その時、土御門が繋いでくれていた魔術通信網による、
脳内へ響く声。

アックア『6割弱、か。通らない』


その彼らの声が示すのは、
『防御』の機能も復活しつつあるという事実。

851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:26:53.49 ID:rLU+ku2po

この展開まで到達してしまったら、
もう残弾を惜しんでなどいられない。

影はいびつながらも、
『黒豹』と見える形まで既に再生している。


御坂「―――私の弾を追って集中させて!」


そう、二人の魔術師に叫んでは、
撃神のサポートされた感覚で狙いを定め。

そして砲撃を開始する。

それと同時に、再生しかけの黒豹もこちらへと突進してきた。
完全復活など待っていられない、とでもいうように。
いや、実際にそうなのだろう。

なにせ己の『核』がむき出しなのだから。

ここからは、双方にとって『死に物狂い』だ。


放たれた魔弾が、黒豹の頭部に命中する。

そこにほぼ同時にすれ違いざまに。


アックア『―――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


巨大な光の刃『神戮』、
ガブリエルの剣へと姿を変えたアスカロンをアックアが振り抜く。

そして。

かの四大天使の刃は、黒豹の鼻先から尾の先までを水平に、
上と下に分断した。

852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:27:44.73 ID:rLU+ku2po

だが。

それで終わるわけが無い。
それどころか、終わりに少しでも近づいたかどうかさえ怪しい。

一閃の元に切り捨てられた黒豹の体は、
大気中に溶け出すようにして一瞬に霧散。

そしてそのすぐ後ろに続く形で。

アックア『―――!』

黒豹の体がもう一つ、そこに『再生』した。

これは、完全復活していないからこその身軽さと言えるだろう。
集束している力はまだ小さいため(あくまで完全な時と比べれば)、再構築もすぐ済むのだ。

『二体目』の黒豹が、
アスカロンを振りぬいた直後のアックアに跳びかかる。

と、そこで二発目が頭部に着弾。

隙をついてアックアが後ろに跳ねて離れると同時に、
そこにシルビアの矢の雨が降り注いだ。

地殻を穿つ散弾。

それらを受けて、
黒豹の体は原型を留めぬ程に損壊するも。


やはり瞬時に再生した。

853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:29:51.70 ID:rLU+ku2po

白狼と戦っていたときのように、
周囲の影全体が猛烈な勢いで襲い掛かってくる、

なんてことはまだ無く、積極的に動いているのは再生しかけの黒豹の体だけ。

しかし、決して楽ではない。

御坂、アックア、シルビアにとってはこの状態の黒豹でも『怪物』。
今でさえ、そこらの大悪魔など遥かに凌駕している。


御坂「―――ッ!!!」

御坂が放って、
アックアとシルビアがその天の力を叩き込む。

時間稼ぎにはなっていた。
だが、決定的な事は何も出来ず。

残り25発。

『戦線』は徐々に押し込められていく。

撃つ場所・タイミングを慎重に選ぶも、
残弾はどんどん減っていく。

残り20発。

アックア『―――ぐっ―――!!!』

黒豹が薙いだ尾をアスカロンでなんとか受け止めるも、
その表面に走る大きな亀裂。

残り15発。

シルビア『―――あ゛ッ!!!!』


盾として出したクレイモアが黒豹の爪により、
一瞬でへし折られて弾き飛ばされるシルビア。


そして残りは―――10発を切る。

854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/19(木) 01:31:17.17 ID:rLU+ku2po

この時点で黒豹は、
土御門の背を守る御坂まで40mのところまで迫っていた。

残弾は残り9発。

御坂「(―――マズイ)」

そして御坂の大砲は、
実はあと2発で装填が必要であった。

なにせ、ここまで装填する余裕が一度も無かったのだから。

そしてここから先も装填する余裕は無さそうに、
いや、それどころかますます―――。

だが当然、装填しなければ大砲は撃てない。

どうにかして装填するしかないのだ。
となると、頼みの綱はもちろんアックアとシルビア。

御坂「―――2発で装填!!」

そう彼等に叫び、御坂は残りを放つ。
急ぎつつも慎重に、無駄撃ちなどせぬように。

一発目。

牙を剥き出しにしている、開かれた『口内』に炸裂。

二発目。


左目眼球に命中―――したが。


御坂「――――――――――――」


―――弾かれた。


御坂の大砲の弾は『拒絶』された。

なんというタイミングか、
ここで影の防御の『更新』が完了したのだ。


遂に御坂の大砲の弾も―――『拒絶対象』に。


御坂「―――……う……そ……?」


862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 00:44:02.08 ID:eZZRMapho

あまりの光景に、御坂は即座に装填作業に動く事が出来なかった。
ただ、そこで怯まずに作業に移れたとしても、
最早無駄な労力に過ぎなかったが。

黒豹はそのまま、御坂に向け真っ直ぐ突っ込んできた。
御坂など軽く一呑みにできるであろう巨大な口を開け放って。

御坂「―――」

とその時。

彼女と黒豹の間に、間一髪のところでアックアが割り込んだ。

莫大な力が収束されて光剣と化しているアスカロン、
『神戮』の切っ先を前に突き出し。

翼を広げてその『場』に踏ん張り。

アックア『―――お゛―――』

黒豹を正面から『受け止めた』。


その瞬間溢れる強烈な閃光と衝撃、
そして、後ろの御坂の足元まで飛び散る鮮血。

その真っ赤な液体が『どちら』のものか、などは特に言及する必要は無いだろう。

御坂「―――ッ」

なにせアックアの上半身がすっぽりと、黒豹の口の中に入っていたのだから。
そこに大量に零れ落ちる鮮血。


その光景はどう見ても―――。

863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 00:44:56.15 ID:eZZRMapho

アックア『ぐ―――ぬ……』

と、その光景は絶望的であったが、
『見た目通りの最悪』ではなかったらしい。

中から、彼の生存を示す唸り声が聞えてきたのだから。

彼の『神戮』の刃は、
今現在唯一防御が効いていない箇所を的確に貫いたのだ。

それは、御坂の大砲が拒絶対象になる直前に炸裂した『口内』。

ただやはり、大きな牙は回避できても、
目の粗い鑢のような表面の影は裂けようも無かったらしい。

アックア『ぐッん―――』

黒豹の頭蓋を内側から割るのと引き換えに、体を引き裂かれる。
まさに肉を斬らせて骨を断つ。

アックアは一泊息を込めては身を捻り、

アックア『―――おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

突き刺しているアスカロンを今度は一気に切り上げた。

『神戮』の刃は脳天、額、鼻先まで。
首先から上顎全体を、内側から両断。

ブチ切れた影の破片とアックア自身の血飛沫が飛び散る中、
黒豹の頭部がパックリと大きく開いた。


すかさずその開口部に向け、
上方に跳ねていたシルビアからの矢の一斉掃射。


黒豹の体は『今までと同じよう』に、潰れては砕け散った。

864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 00:46:18.63 ID:eZZRMapho

そして黒豹の口から脱したアックアの上半身は、まさに修羅の様相であった。
血に染まっていない部分の面積の方が少ないくらいだ。

アックア『はッ……ぐ……』

なんとか搾り出したような苦悶の声を漏らしては、彼はその場にガクリと膝を付いた。
拍子で額などからボタボタと大粒の雫が零れ落ちていく。

御坂「―――」

御坂はその姿に思わず駆け寄ろうとするも、
アックアは鋭い視線を向けて彼女を制止した。

寄るな、と。

その御坂のすぐ脇に降り立ったシルビアは、

シルビア『オッレルス。そっちの作業は?』

オッレルス『もう完了する。すぐだ』

シルビア『そうか……』

そう淡々と魔術通信を交わした後、ロングボウを構えた。


シルビア『私達は「次」で負けるが、それまでに済ませてくれ』


500mほど正面、再び再構築された黒豹に狙いを定めて。

オッレルス『……ああ。間に合わせるよ』

アックア『……』


御坂「…………」


そう、ここにいた誰しもが『己個人の敗北』が、
次の黒豹の攻撃でもたらされると感じていた。

今となっては土御門が戦闘に復帰しても―――どうしようもない。

もう『黒豹に勝つ』という結果は消失していた。
御坂の大砲が効かないのだから。

865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 00:47:23.77 ID:eZZRMapho

御坂はその場に静かに屈んだ。
何もする事が無いのだから、別に問題ないだろう。

ただ、何もする事が無くとも、『何もできない』という訳ではない。

『的』が一つ増える分、
土御門の番までの僅かな時間稼ぎにはなる。

少なくとも御坂は、
己がここに残るそんな小さな必要性を見過ごそうとはしなかった。

そもそもここから退くにしても、
あの影からはどの道逃げ切れそうも無い。

とそこで。

屈んだ際、彼女の爪先に何やら当たって響く金属音。

御坂「……」

ふとその音の源をみやると。

ここで撃ちまくって排された薬莢の一つであった。

レディ製の魔弾の―――。


御坂「―――」

とその時。

レディ、あの尊敬するデビルハンターを思い浮かべた瞬間。


御坂の脳内ではフラッシュバックが起こった。

866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 00:48:32.67 ID:eZZRMapho

頭の中に響くのは。


―――『チャンス』はそこら中に転がってる―――『有効な手段』は時に『近く』を転がってるものよ。


出発前にレディから貰った言葉。


一見通用し無そうに見えても―――実はかなり有効な『切り札』も―――。


歴戦の経験に裏打ちされた、『人の子』としての助言。


御坂「―――……っ」


突如澄み渡っていく頭に御坂は目を見開いた。

思考が一気に回転速度を増す。
撃神によって鋭敏化している感覚が後押ししてくれているのか、
今まで御坂が体感したことが無いほどに。


御坂「―――……」

意識共有していた際に土御門から貰った、『影の防御』の性質。
影は、武器や攻撃の基礎概念を識別して『拒絶』する。


そして足下の散らばっている『薬莢』。
『薬莢』、それは弾頭を撃ち出すための『炸薬』が入っている容器。


御坂の思考は瞬時に、この二項目の間にある微かな線を見出した。


もうちょっと。

もうちょっとで―――繋がる。


この大砲が使うのは、『炸薬』で撃ち出す弾。


そう、能力で強化されるも―――基盤は『炸薬を使う銃』。

あくまで、『火薬の燃焼現象を利用して弾頭を射出する武器』の延長線上のもの。

影の防御は、その『概念』を『拒絶対象』とした。


ならば―――。


御坂「―――」

867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 00:51:40.71 ID:eZZRMapho

瞬間。

彼女は『己の手』に目を移した。


遂に、そこで彼女はその『何か』を『見つけた』のだ。

常にそこに、当たり前のようにあり。
そして当たり前すぎて、このような状況ではついつい意識の外に置いてしまっていた―――。

だが実は―――使える『もの』が。

この『手の平』そのものにある、と。


御坂「―――再開するわよ!支援お願い!」


御坂はそう声を張り上げて肩の弾薬袋から残りの弾、7発を能力で取り出した。

シルビア『再開って―――』

その大砲じゃ防御はもう、
とシルビアが続けようとして彼女の方を振り向くと。

立ち上がった御坂の前で浮遊する7発の弾。
その薬莢と弾頭が、次々と『外されていき』。

先から黒い炸薬を零しながら薬莢は地面に落ち。

親指大の弾頭は、御坂の手の中に―――。

右手に3発、左手に4発。
それぞれを乗せた手を前、黒豹へ向けて突き出して。


まず『一つ』。


その弾頭を指で『弾き飛ばした』。

そう、彼女の思考はこのような答えを導き出したのだ。

『火薬の燃焼現象を利用して弾頭を射出する武器』とは―――『別物』では?



                       レールガン
炸薬を一切使用しない―――『純粋』な超電磁砲は、と。



次の瞬間。

彼女の二つ名を証明する、光の矢が放たれた。

868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 00:53:40.71 ID:eZZRMapho

真っ直ぐに放たれたレールガンは、
再び突進し始めた黒豹の額に直撃した。

やはり大砲から撃ち出すよりも遥かに火力が弱いのか、
黒豹の勢いが緩むどころか一切揺れ動きもしないも。

―――影の表面に走る亀裂。

それを一目見て、驚くよりも先に矢を放つシルビア。

そして満身創痍のアックアも、一度太い声を挙げてはその身を奮い立たせ、
アスカロンを手に飛び出し。

続けて放たれた2発目を追って切り込む。


再び状況がこちらに傾いた。
それは紛れも無く最後の『傾き』。

ここで逃がしたら、もう次は無い。

確かに使命を達するためならば、
その命を捨てることも辞さないものの。


『進んで死にたい』者などここには一人もいない。


可能ならば『最良の結果』を望むのは当然。

三者はここで最後の力を振り絞る。


それぞれがそれぞれの望む場へ―――『生きて』帰るために。

869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 00:54:52.03 ID:eZZRMapho

シルビア『―――オッレルス!!まだか!!』

御坂『―――あと5!』

残り5発を撃ち切る前に。

最後の5発目の効果が消える前に。

オッレルス『―――もう終わる!』

御坂『―――4!』


土御門を―――。


御坂『―――3!』

両手から交互に撃ち出すレールガン。
しかし黒豹の方も完全復活まで少しなのか、その防御を剥いでも。

御坂『―――2!』

もうアックアやシルビア程度の力では、僅かに怯ますことしかできず。

黒豹は接近速度を増して―――。

そして。


御坂『―――1!』


最後の一発が放たれたその時。


オッレルス『―――完了した!!』

作業が終わったことを告げるオッレルスの通信。
それと同時に土御門は―――はずだったのだが。

彼は動かなかった。

腕を肘まで核に沈めたまま。

御坂「―――土御門―――」


いつのまにか、その頭はダラリと力なく垂れ下がっていて。


御坂「―――土御門!!!起きろコラぁあああああああああああああ!!!!」


―――
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 00:57:14.77 ID:eZZRMapho
―――

名を呼ばれたような気がする。

どこか遠くで、はるか遠くで。


だが彼は、その声に応えることは出来なかった。


奔流にもみくちゃにされる中、何とか己の存在を保ち。
意識が霧散しないよう集中して抗うも。

どんどん奔流の底に沈み込んでいき、そして凄まじい圧力に晒される。

じわりじわりと『薄まりつつ』ある意識。

『―――』

あの声がした方に戻らなければならないのに。

決して諦めず、常に最良の結末を求めて。
より多くの命を守り、より大勢の仲間達を『家』に帰還させねば。


そして『ある日』、大切なあの『彼女』と交わした約束を―――。


「―――兄貴さ、ある日、急にいなくなったりとかしないよな―――?」


―――守らねば。守らねばならない。


もう諦めない、逃げないとこの戦いで誓った。



『おねがい―――だ―――』



何が何でも―――。



『―――かみさ―――ま』

871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 00:57:58.56 ID:eZZRMapho

その時。

『―――』


彼の前に、凄まじい奔流を遮ってあるものが出現した。

それは透き通るように白い肌していて。

病的なものではなくて健やかさを感じさせ。

冷たさは微塵も無くて、温もりに満ち溢れていて。

細くてしなやかでありながら、
醸し出すのは儚さではなく確たる力強さ。


そんな『女性の手』、いや―――『母性』満ち溢れている『右手』。


それが彼の前に差し出されていた。

さあ、と手を取るように示しながら。

『―――』

すかさず彼は手を伸ばした。
目一杯、全ての意識と力を振り絞って。


今の今までも守ってきてくれた、その―――『慈母の手』を取るため。

872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 00:58:59.10 ID:eZZRMapho

しかし。

あと1cmというところで届かなかった。

懸命に伸ばしてもギリギリ届ずに、指は残酷に空を切る。

届かなければ1cmも1億光年も同じ。
彼にとって、この隙間は果てしなく遠すぎた。

だがそこで。


もう『一本』。


筋骨隆々としたたくましい『右腕』が、慈母の手のすぐ脇から出現した。

『―――』

猛々しさに溢れたその腕は、慈母の手よりも遥かに太く長くて―――簡単に彼の手首を握った。

それはそれは、万力に固定でもされたかのような力強さ。
その一方で痛みなど特には無く―――。

そしてたくましい腕は、一気に彼を引き上げ。
次いで慈母の右手も彼の手を握り。



土御門元春、彼は『帰還』する。



『二柱』が差し伸べた手により。


―――
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 00:59:38.82 ID:eZZRMapho
―――

最後の弾が黒豹の『喉』に命中した瞬間。

ほぼ同時に、黒豹の力が遂に完全に復活した。
周囲の影が一斉に波打ち、そして全方位で杭や手を形成して。

そして突っ込む黒豹の全身も刃と化して。
今までとは比べ物にならない速度へと一気に加速した。

それは白狼と激闘を繰り広げていた際のもの。

例え防御が無くても、アックアとシルビアの攻撃ではもう傷すら付けられず、いや、
速すぎて触れさえもできない。

この場にてあの『牙』を止められるのはただ一人。


御坂「―――土御門ぉぉぉぉぉ!!」


三度、彼の名を叫ぶ御坂の声が響いたその時―――。



土御門が身を跳ね上げるようにして振り向き―――『白狼』へと姿を変えて。


牙を剥き出しにして。

今まで以上の力を宿して、
長い毛のような『白い光の線』を幾本も体から出現させては靡かせて。


御坂の横を一瞬で駆け抜けて行き―――黒豹と正面から激突した。



874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 01:00:45.76 ID:eZZRMapho

その瞬間、
御坂はまるで北島全体が沈み込んでしまったような感覚に囚われた。

いや、実際に界が沈み込んだのだろう。
影と光の全力の激突、その凄まじい負荷で。

御坂はその衝突した瞬間が見ることができなかった。
速すぎて認識できなかったのではない。

文字通り『見ることが出来なかった』のだ。

まるでチャプターを飛ばしたように、その部分だけがぽっかりと。

瞬間的な圧力で周囲の理が、時間軸もろとも一瞬全機能停止したとでも言うか。

この時の激突は御坂やシルビア、アックアのいる次元を遥かに超えた天辺のものであった。

そして、その両者の力は拮抗していた。


今度こそ、白狼は一寸も押し負けなかった。


体長2mの白狼と30mの黒豹はその場で押し合っていたのだ。

白狼は黒豹の喉下に深く食いつき。
黒豹は、前足で白狼を押さえ込むようにして爪を食い込ませて。


お互いの後ろ足には絶大な圧が加わり、
不気味な地響きを軋ませては一帯が更に『沈みこんでいく』。


875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 01:02:16.40 ID:eZZRMapho

黒豹の爪が食い込んでいる部位からは血が滴り、
純白の毛皮が紅に染まっていき。

白狼の牙が食い込んでいる部位の影が音を立てて砕けていき、
大量に流れ出て霧散していく。

その傷口へ放たれる、何重にも連ねられた白狼の一閃。
それらによって一気に黒豹の喉、首が更に引き裂かれていく。

が。


御坂「(―――……そ……んな―――!)」


それは傍から見ている御坂の目でも一目瞭然だった。

足りない。

決定的に足りない。
今のままでは押し切れない。

必要なのは、更なる大きな攻撃と―――『防御』をもう一度無効化する術。

今まさに、最後の弾の効果が徐々に消え始めているのだ。


このままでは―――。


土御門『―――弾は?!』

白狼、土御門からの『起き抜け』の第一声は御坂へのそんな問い。
土御門はまだ『知らなかった』。

彼女はもう、
全てを撃ち尽くしてしまっていたことに。

876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 01:04:17.75 ID:eZZRMapho

御坂「―――……!」

足元の瓦礫、薬莢を飛ばすか?
いや、そんな事しても意味が無いだろう。

レディが手がけた対魔専用弾じゃないと、あそこまで効果があるとは思えない。

弾薬袋を肩から下ろし中を覗き込むも、
当然あるわけがなく。

無い。

無いのだ。

ソレがここの現実だった。

土御門『―――何してる!!』

御坂「の、残りは―――……!」

あと一発、あと一撃さえあれば―――認めたくなくても、認めるしかない現実。
「あの時、弾を節約しておけば」と思い返して後悔してもどうしようもない。

ぎょろりと、黒豹の大きな赤い瞳がこちらに向いた。
明らかに御坂を見ていた。

御坂「―――」

そして狭まる目尻。

それはまるで―――ほくそ笑んでいるよう。

それはそれはたまらなく悔しくても、
今の御坂では否定できない笑み。


黒豹が笑みを浮かべるその『理由』を口にし―――


御坂「―――残りは……もう…………な―――」


―――ようとしたその時。


黒子『お姉さま―――!!』

877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 01:05:41.00 ID:eZZRMapho

御坂「―――」

唐突に耳の受信機から聞えた黒子の声。

黒子『右手の平を上方にお向けくださいまし―――!』

そしてその言葉に続いて、
御坂の顔の前に小さな風切り音を発しながら。


一本の『杭』が出現した。


御坂「―――」


長さ30cmの、表面に様々な文様が刻まれた大きな杭が。
そう、それは間違いなく。

黒子『―――これを!』

黒子が手にしていた、レディが手がけた武器の一つ。

御坂「―――はッ―――!!!」


御坂はその杭を右手でキャッチしては、即座に腕を伸ばして―――。

御坂「あはは!!!―――黒子ォ―――あんた最っっ高!!!」

杭の先端を黒豹の顔、こちらを見ている目玉へと向けた。
瞬間に赤い瞳が大きく見開かれたのが見えた。

そこへ。



御坂「―――愛してるわよ!!!!」



『杭』が放たれる。

電磁の力で射出された槍は大気を切り裂いて突き進み。

そして突き刺ささった。

猫目、真っ赤な瞳孔の中央に―――。

878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 01:06:30.61 ID:eZZRMapho

その杭の効果は、想像を遥かに超えていたものであった。
今まで使っていた弾薬なんて優しすぎる程。

御坂「―――!!!」

眼球に突き刺さった瞬間、
黒豹は白狼の牙に首下を引き裂かれるのも無視して跳ね上がり。

あの戦慄的な悲鳴を挙げては、狂ったように悶え始めた。

その『声』は先よりもさらに激しく、
より苦痛が滲んでいるようにも聞えた。

土御門『良くやった―――』

と、そこで白狼が一つの筆しらべを放つ。


『桜花三神が一、咲之花神―――花咲』


瞬間、とてつもない勢いで大量の『樹木』が生えてきた。
大地を割り、まるで噴火を起こしたように。

そして『天の木』達は、黒豹の四肢に絡み付いてく。

狂ったように暴れる黒豹によって砕かれ引きちぎられるも、
それを上回るペースで伸びては覆い、縛す。


土御門は、慈母から授かった全ての力を黒豹その場に抑え込んだのだ。

879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 01:07:44.42 ID:eZZRMapho

ただこのまま永遠に抑え込め続けるわけは無い。
維持できるのは極々短時間だ。

基本的に、力の総量は今の土御門よりも黒豹の方が多いのだから。
また、授かった慈母の力の全てを抑え込むのに使っているということは。

当然、『これ以上』の行動は出来ない。

そう、『慈母の力』だけであったら―――。


土御門『―――』


土御門は勝利を確信していた。

なぜならつい先程、慈母とは別に―――もう一柱。

慈母に匹敵する『圧倒的な存在』が、その力をこの手に授けてくれた―――。


―――手を差し伸べてくれたのだから。


白狼が天に向かって一声、遠吠えを放った。

すると最初に白狼が生み出した、
この場を照らしていた陽光が掻き消えていく。


それは慈母の光が滅していったのではない。


慈母によって『宵』が作られたのだ。


『弓神―――月光』


そして澄み渡った夜空に浮かぶ―――『三日月』。

880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 01:08:45.93 ID:eZZRMapho

直後に土御門の姿が白狼から人型に戻った。
ただ、完全に戻ったわけではなく。

御坂「―――!」

一つ、いつもの土御門との大きな違いがあった。

それは髪―――完全な『黒髪』。

そしてそんな土御門が右手を三日月に翳すと。

その手には、大きな大きな金色の大剣が出現した。

『魔と戦う運命とあらば―――』

瞬間、そう口を開き始めた土御門。
その声は確かに土御門のものであるのだが、なぜか別人が喋っているような。

まさしく、土御門の体を借りて誰かが―――。


『―――この身が砕けようともその道を進まん』


そう口にした彼は、
出現したその大剣の柄を両手で握っては顔の横に上げ。

手首を返して、縛されて更なる戦慄染みた咆哮を挙げるに黒豹に、その切っ先を向けて。

腰を落として構えて―――。



『陽派――――――スサノオ流』



『―――衝天七生』



土御門は空高く飛び上がった。

そして天空で大剣を一度翻しては―――急降下して。



『―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!』



一刀両断。


黒豹の脳天から腹まで―――完全に。


881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 01:10:25.62 ID:eZZRMapho

振り下ろした刃は、
地面に触れることなく直前で止まっていた。

直後、黒豹も土御門もピクリとも動かなかった。

黒豹は上を向き、凄まじい形相で咆哮を挙げたままの状態で硬直し。
土御門は振り下ろしたまま、黒豹の前でしゃがみ込んでいる姿勢。

完全な静寂だった。

見ていた御坂でさえ、
呼吸どころか己の鼓動すら止まってしまったように感じたほど。

そして数秒後。

世界は再び動き出した。


そこからの黒豹の最期は、正に『影』にふさわしいものであった。


静かで滑らかに。


正中線に沿ってパクリと、
黒豹の右と左がゆっくりと分離して、両側に倒れていく。

御坂「……」

と、その割れた体は地に着く前に霞んでいき。
風に吹かれたように掻き消えていった。

次いで周囲の影も。
一帯を覆っていた闇が見る見る消える。


日が昇って引いて行くように、
音も無く滑るようにして消失していった。

882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 01:11:17.78 ID:eZZRMapho

御坂「…………」


髪が緩やかに靡いた。

柔らかくも少し染みる風で。

随分と懐かしく思えた―――海風で。

その感覚に浸りながら、御坂は土御門の後姿を眺めていた。

ゆっくと立ち上がった彼の手には、もう金色の大剣は無く。

じっと黙って空を見上げている彼の髪の色が。
どんどん薄まっていき普段の金髪に戻っていく。

御坂「……っ」

気付くと御坂自身、あの感覚の鋭敏化がいつのまにか元に戻っていた。
全ての感覚が普段通りの水準に。

シルビア『ウィリアム。生きてるか』

作業服のあちこちが破れてて傷塗れのシルビアが、
向こう側から歩いてくる。

アックア『うむ』

そして上半身が真っ赤に染まっている、
目を背けたくなるような様相のアックアもアスカロンを杖にするようにして。

シルビア『傷を……ってその体はもう手当ていらないんだっけ?』

アックア『そうである。魂さえ潰えなければ、物理的損壊はいくらでも元に戻る』

シルビア『全く……便利だね』

アックア『痛みは人間の頃よりもかなり強いがな。それにコレはわからん』

そこで彼は親指で左目を指した。
アリウスに潰された左目を。

883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 01:13:10.72 ID:eZZRMapho

とそこで、オッレルスと黒子がその場に合流した。
黒子は足早に御坂の方へと向かい。

黒子「お姉さま、お怪我は?」

御坂「ねえ。あの杭……」

黒子「ああ、お気になさらずに。あのような代物など、わたくしにはもう必要ありませんので」

と、そこで黒子はややツンとして、演技っぽくそんな風に言葉を返して。

御坂「……ふふ、ありがとう。黒子」

それに穏やかに笑った御坂に釣られて。

黒子「……いいえ。どう致しまして」

今度は彼女も穏やかな笑みを浮かべた。
いつも通りの明るい笑みを。


オッレルスは空を見上げて黙っている土御門の横に向かい、
沈黙のまま彼と並んだ。

土御門「……書き換え、完了したんじゃないのか?」

するとぽつりと、独り言のように土御門が口を開いた。
空を見上げたまま。

それに対し同じく、オッレルスも空を見上げながら。

オッレルス『どうにも間に合いそうも無かったから、自律して書き換え作業を続ける術式をぶち込んでやった』

土御門『はっ……随分と無茶な賭けだな。本物の天才が故のやり方か』

その彼の答えに、
土御門は思わずといった風に小さく笑って。

オッレルス『「神」にそこまで愛されてる口から聞くと、嫌味にしか聞えないな』

そこでオッレルスも呆れがちに笑ってそう返した。

そして。

オッレルス『そろそろ書き換えが終わる。起動するぞ』

884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/21(土) 01:15:12.42 ID:eZZRMapho

その瞬間。

北島の各地から、幾本もの白い光の柱が天に伸びていく。

それが一定の高さまで達すると、
今度は北島全体を覆うように球状の天井が出現した。

天井の最も高いところまで3kmはあるか。

光で形成されたのは、
それは大きな大きな幾本もの列柱に支えられた、荘厳なドーム型神殿の『像』であった。


土御門「うまく動いてるか?」

オッレルス『ああ。人造悪魔兵器のみを停止。他は手をつけず維持。注文通りだろ?』

そう、確認を取った後、ようやく土御門は視線を降ろしては、
オッレルスの顔を『初めて』見て。

土御門「土御門だ」

名乗った。

オッレルス『オッレルス。よろしく』


ここでようやく、お互いはしっかりとした自己紹介を踏まえ。


東西の『はみ出し者の魔術師』が握手を交わした。

そっけなく、それでいて力強く確かに。

―――

887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/21(土) 01:19:21.95 ID:sbk7ifI9o
遂に倒したか。
本当に面白いな。

888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/05/21(土) 01:24:53.60 ID:EgWDvyhPo
うおおおおおゾクゾクした!
おつ!

894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/05/21(土) 13:09:29.72 ID:exyIyUqAO
少し泣いてしまった
土御門△


ダンテ「学園都市か」46(デュマーリ島編)




posted by JOY at 08:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 禁書クロスSS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。