2012年02月26日

御坂「とらっ!」一方通行「ドラァあああっッ!!??」食蜂「そのにっ☆」2

125 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:02:04.93 ID:2BNTa/IJ0
レス感謝です!!!投下します!!!
本日の投下は、「えっ。こいつこのキャラかよ……」とか思うかもしれませんが、バランスとりの為だと思って許してね?

126 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:03:01.18 ID:2BNTa/IJ0

 
                                 ◇




昼休み。ご飯の時間。みんな楽しみご飯の時間。


一方通行は、家から持ってきたドリップコーヒーのパックを取り出し、悠々と教室の最後方に向かった。


「くけけ……コーヒーだぜェ……って痛っ」


ぽこん、と教科書で頭がどつかれる。


「な、何やってんのよアンタ!?」


「あァ?コーヒー入れてンんだよ。見てわかンねえのか」


バカなの?死ぬの?とでも言いたげにしれっと答える。


「いやいやいや!その電気ポットは何よ!?おかしいでしょどう考えても!」


「家から持ってきたァ」


「だ・か・ら!なんで家から持ってきてんのよ?」


「暑いコーヒー飲みたいしィ。あ、ちなみに炊飯器もある。ご飯ホッカホカだぜ」


「……もう……いいわよ」


きひひはは、と嬉しそう(暗黒微笑)に笑う一方通行に対し、美琴は呆れている様子だ。


(自重が全くなくなったわね……)


釘バットの一件以降、「もう不良で良いンじゃね?」と、開き直った一方通行は、昼ご飯を美味しく頂くため、教室で米を炊き始めたのだ。


よって、教室の後ろのコンセントには、彼の私物の炊飯器と電気ポットが繋がれている。

127 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:03:56.25 ID:2BNTa/IJ0


もちろん校則違反、というか校則にそんなことの載ってはいないのだが、彼に注意できる人間などほとんど存在しない。


それに加え、彼の身勝手は一部の生徒から評判がいい。


「お湯借りるにゃー」


「あとでちゃンと汲ンどけよ」


「自分もコーヒー頂きますね?」


「俺も!いやぁー、上条さん助かりましたよー。今日お弁当作れなくてカップ麺でさぁー。」


「それでイイのか副会長」


「一方通行さん!あたしもコーヒー欲しいです!」


「……熱いぞ、気ィ付けろ」


と、こんな感じである。


「………ホットココアが欲しい」


「ほらよ」


真面目にツっこんでる自分が馬鹿らしくなったのか、美琴もお湯を有効活用し始める。


律儀にココアを持ってきている一方通行も一方通行である。

128 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:05:15.35 ID:2BNTa/IJ0


「つゥかオマエ、佐天に俺と食蜂があァだのこォだのちくりやがったな?どォいうつもりだよクソ野郎」


「どーもーこーもないわ。アンタがあの女とイチャイチャしてたのが悪いんじゃないの?」


「イチャイチャ?オマエ実際見たのかよノータリン。俺はあの女とはなンもねェよ。ったく、馬鹿馬鹿しい」


「『実際見たのか』って?へぇー、つまりその言い方だと何かしてたってこと?」


「はァ?オマエも随分哀れな思考回路してンな?あ?」


だいたいどうしてこうも美琴は自分に突っかかるのだろう?


いくら食蜂と折り合いが悪いとはいえ、大げさな態度だ。


(これはコイツ……アレか……もしかして……生理かァ?)


などと、クズっぽいことを考えていると、


「あ、アナタ正気ぃ?教室でご飯炊く不良なんて聞いたことないわぁ……」


「欲しいなら一生懸命頼みやがれ。『神様仏様一方通行さま。この卑しくて賤しくて賎しい哀れな豚に、そのお米を恵んでくださいまし』って言いながら傅けば、一口くらい恵ンでやるかもな」


「だっ、誰がそんなことするもんですかぁっ!」


「あァ?アホかテメェ?オマエに決まってンだろ」

129 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:06:30.58 ID:2BNTa/IJ0

「そーゆー意味じゃないわぁ!!」


肩で息をしながら盛大に突っ込みを入れる食蜂操祈。


自分のペースに持ち込めない状況にはやはり弱い。一方通行も段々と面白くなってきた。


「あ、アンタ!イチャついてると佐天さんにいいつけるわよ!?」


「佐天さん?」


と食蜂。


「おいコラ。どこからどォ見たらイチャついてるように見えんだよ……って……」


じとーっ、と、妬みやら恨みやらが入り混じった視線が教室中から一方通行へと突き刺さる。


(……見えンのかよ)


「いっやぁ!流石一方通行!もう仲良くなったのか!俺は余計な事しただけだったなー」


「おい上条ォ!この三下がァ!余計な事言うンじゃねェ!」


「ぐ、ぬぬぬ……」


美琴よ、そんなに食蜂が憎いか。


「あーっ!一方通行さん!御坂さんを悲しませたら愉快なオブジェですよ!」


「許せませんね……一方通行さん。最近の貴方は美味しい思いをし過ぎです。そうは思いませんか?土御門さん?」


「その通りだぜい!お前もカミやん病にかかったのか!そうなのかぁ!」


「カミやん病ってなんだ?なあ、土御門」


「「お前(貴方)は黙って(て下さい)るにゃーっ!」」


130 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:08:07.37 ID:2BNTa/IJ0

「えぇー……ホント、思ってたのと違うんだけどぉ……」


(騒がしい……つゥかよ……)


「おい美琴。オマエはどォやったら満足すンだコラ。勝手にヘソ曲げてンじゃねェ」


「へそなんかまげてない!!」


曲げてンじゃン。


夕食までには美琴の機嫌が直っていて欲しいものだ。そんなことを考える一方通行。


2−Cの喧騒は、今日もなかなか途切れない。


131 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:08:33.62 ID:2BNTa/IJ0



                           ◇






やたら疲れるゴールデンウィーク明けの後、あっという間に数日が経った。


一方通行と美琴は、夜の街並みを歩く。


夜の冷え込みは、ゴールデンウィーク最後の日の熱さが嘘のようだった。


二人は夕飯の買い込みを済ました帰路の途中、夕飯のメニューはトンカツだ。


「美琴、ソース買ったか?」


「え?買ってないわよ。切らしてたっけ?」


幸い、美琴の機嫌は直っていた。


いつまでも引きずるタイプでなかったのは、非常にありがたかった。


「クソッタレが……コンビニで買ってくか」


家の最寄のコンビニで調達してゆくことに決定。


それでも足を速めることはしない。のろのろと何も考えず、ぽつぽつと下らないことを話しながら歩く。


一方通行は、定番になっているこの時間が案外嫌いではなかった。

132 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:09:55.48 ID:2BNTa/IJ0

「えあろっすみっすー」


気怠げな店員の声をよそに、目当てのものと缶コーヒーを手に取り、会計を済ます。


「あじゃじゃしたー」


「オイ、美琴。帰ンぞ」


「……」


彼女は雑誌のコーナーで何かに熱中している。漫画雑誌か何かだろうか。


「ねえ見てよこれ」


「あ?……ああ食蜂かよ」


彼女がモデルとして載っている雑誌には、彼女が学業に専念するため、モデル業を一時休業する、という旨の報告が書かれていた。


よくある理由だ。珍しくもない。


「ふーン。まァ、好きにすればイイだろ。……行くぞ」


「でも、うちの学校そこまでの価値ないわよ?……これは事件の香りがするわね」


「……佐天みたいなこと言ってンなよ。理由なんて作るもンだろ?」


「あの女に一泡吹かせるチャンスだわ!」


何やら不敵に笑う美琴と共にコンビニを後にする。ていうか話聞けよ。


早く帰らないと帰らないと木原くンが五月蠅いな、などと考えながらぼんやり歩いていると、一つ先の曲がり角に不審な人影が映った。


「ん?ねえ一方通行……あれ」


「あァ」


野暮ったいジャージの上下に、お世辞にもマッチしているとは言い難いキャスケットを頭に乗せた人影。


まだこちらの様子には気付いていない。近づくにつれ、徐々に姿が鮮明に見えてくる。どうやら女性の様だ。


「……あれって……食蜂よね?」


「……そォだな」

133 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:10:21.14 ID:2BNTa/IJ0



彼女は、パンパンに膨らんだビニール袋を手に下げていた。落ち着きがなく、周囲の様子をやたらと気にしている。


人目を気にしているのか、小走り気味であった。


「あの女、やけ喰いでもすンのかよ。」


「……ふ〜ん」


にやり、と美琴が笑う。何かに感づいたようだ。


「……どォでもイイ。帰るぞ」


「分かってるわよ。走るわよ一方通行!」


「あァっ!?ンだよいきなり!オイ!速いンんだよクソガキがァ!」


「ガキじゃないわよ!ほら!半分持ったげるから!」


「……」


やけに上機嫌な美琴の背に遅れまいと駆ける。


上機嫌の理由は、次の日にすぐに明らかとなった。


134 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:11:22.60 ID:2BNTa/IJ0



                                ◇



クラスの中で、ひときわ目立つ女子を挙げろ、と言えば、間違いなく五和とレッサーの名が挙がるだろう。


「食蜂さん!昨日雑誌で見ましたけど、モデル休業するって本当ですか?」


一見気弱な表情を彩る、肩にかかるくらいの黒髪のセミロング。隠れ(当時)巨乳と男子から大絶賛五和ちゃん。


「勿体ないですねー。操祈がブッチで輝いてたし、あの雑誌これからどうするんでしょう?」


腰にかかるくらいのロングヘアを靡かせる小柄な少女、英国出身で、眼つきがなんかエロいと評判の、碧眼美少女レッサーちゃん。


そして、彼女たちの新たな中核をなすのが彼女、


「見てくれたんだ、ありがとーっ☆でもね、学校が楽しくなっちゃって、みんなとも知り合えたしね?」


「食蜂さん……」


「嬉しいこと言ってくれますねー!でも、勿体なくないですか?上条少年もそう思いません?」


レッサーは、少し離れたところで弁当を取り出そうとしていたツンツン頭の男に声をかけた。


「少年って……同い年だろ俺たち。別にいいんじゃないか?こいつが決めたことだしな」


上条は無気力そうに、心底どうでもよさそうに答えた。元来、食蜂のモデルの仕事には興味がないのかもしれない。


「冷たいですねー……そう思いませんか五和?」


「へっ!?え、あ、はい!今日は冷え込みますね!あ、はは……」


「……何言ってんですか?」


135 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:11:59.71 ID:2BNTa/IJ0



顔を真っ赤にして錯乱する五和を呆れ顔で見つめた後、レッサーがこう切り出した。


「まぁ、学校通いながらだとダイエットとか食事制限が大変ですよねー。その分、操祈的にモデル流ダイエットとかないんですか?」


心底気になる、といった様子で、羨ましそうに食蜂の体を眺める五和とレッサー。


次の瞬間、食蜂が放った言葉は彼女にしてみれば浅はかだったと言えるものであった。


「ごめんなさぁい。私、ダイエットとかしたことなくってぇ」


びしっ、と二人の顔つきが凍りつく。


食蜂は気づいていたのだろうか?


その場の空気の質が、一気にという硬質化したという事を。


「そ、そうなんですか……」


「あ、はは……さすが操祈ですねー……はは……」


大好きな甘いものを好きなだけ食べることなどできず、昼休みはお茶とサラダだけで日々を過ごす五和の口元が引きつったことを。


母国に比べ、美味しいものが満ち溢れるこの国で、必死に誘惑と戦い続けるレッサーの目元が笑っていないことを。


冷たくなった空気に、周囲が感づき始めようというときだった。


これは食蜂にとって僥倖だったのか、空気をぶち壊しにする事態が起こった。

136 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:12:29.31 ID:2BNTa/IJ0

「いいねいいねェ!!!最ッ高だねェ!!」


正午をとっくに回った教室で、白い悪魔の凶笑が響き渡る。


それは、新たなる生贄を得たことに対する喜びなどでは断じてない。そう錯覚してもおかしくはないが。


「最ッ高に飛ンじまったァ!!!ぎゃははっ!ぎゃはははははははは!!!!!」


上手い事炊きあがった、炊き込みご飯に対しての感動であった。


凶悪な笑みを浮かべ、ほっかほかのご飯をよそう。しいたけと生姜の香りが食欲を刺激する。


「見ろ美琴ォ!!今日は炊き込みご飯だァ!!ぎゃっはははははははは!!イイ感じに炊けてるじゃァねェかァ!!ほらァ、おちゃわンよこせ!!!!」


「……もう何も言うまい。」


(この男の飛びっぷりを見ると、どいつもこいつもまともな人間に見えてくるのはなぜだろう……)


何を言っても無駄だと悟った美琴は、素直にお茶碗をさしだす。


「……あ、良い香り〜♪ありがと!」


あきらめていただくことにする。


「っ!!な、なにこれ!め、めちゃくちゃ美味しい!!」


「俺を誰だと思ってやがるンですかァ?当然の事だ」


自信作を褒められて悪い気はしないらしい。気障ったらしく頭をかいてみせるが、照れているのがバレバレである。


「おー!一方通行!お、俺にも一口にゃー!」


「じ、自分にも!」


「一杯百円なァ」


良い香りにつられていつものメンツが集まってくる。その中には勿論、佐天涙子も含まれていた。

137 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:13:03.72 ID:2BNTa/IJ0


「佐天さん、あ〜ん」


「あーん……むむっ!お、美味しーーーーーーい!!すごいですよ一方通行さん!!こんな美味しい炊き込みご飯食べたことないです!」


「……そォかい。そりゃァ良かったな」


大げさにも見える身振りで感動する佐天は、少し恥ずかしげな笑顔を向けてきた。


あまりに大げさに喜んだのが恥ずかしかったのだろうか。


そっけない態度を取りつつも、一方通行の心臓はバクバクだった。


(はァぁああ!?何だよアレ!やっべェぇぇえええええ!!!!つゥか美琴、そこ替れよ……!!)


騒ぎがひと段落すると、いつものように一方通行の机に集まる。


食事は、稀に美琴と一緒に食べることがあるが、基本は海原、土御門、上条と食べていた。


「それにしても貴方、開き直りましたね……小萌先生から必死で隠蔽してるからいいものの、バレたら説教ですよ?」


「だにゃー。まあお零れにあずかってるから文句は言わないぜい」


「ハムッハムッ!!!!!!ハフッハフッ!!!!!!!」


「もォなンかどォでも良くなってきたンだよ。……おい上条、落ち着いて食えねェのか」


上条は、さきほどから目障りなほど一気に弁当をかっ込んでいる。


本当に目障りだ。殺意を覚えるレヴェルである。


138 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:13:32.82 ID:2BNTa/IJ0

「んっく!はぁ、いやな、生徒会の集まりがあってよー。悪いな」


「何か行事でも?」


「ああ。学校周辺の地域大清掃を行うんだよ。去年もやったろ?」


「……あー。アレかにゃー。去年は確か……」


「ええ。他校の不良に上条さんが絡まれましたよね?案の定」


「そォだったな。良く覚えてる」


その後、助けに入った一方通行と海原、そして土御門がそろって説教を食らったのだ。


確か停学一歩手前くらい怒鳴られた覚えがある。災難であった。


「あのときはすまなかったなー……いやホント」


「気にしてないですよ?急いでるんでしょう?ほら、時間は平気なのですか?」


「あっ!やべ!じゃあ行ってくるわ!」


慌ただしく席を立ち、生徒会室にかけていく上条。こいつはこんなのばっかだな、などと一方通行は思う。


「……」


もぐもぐ、と残り少なくなった炊き込みご飯を咀嚼する。弁当箱に入れてきたおかずと一緒に良く味わって食べる。


(……つゥかご飯やべェ、俺、天才なンじゃね?)


「あいつも大変だにゃー。ま。楽しそうだが」


「ある意味羨ましいですね。一生懸命になれることがあるのは」


二人の会話も耳に入らない。そして一方通行は、最後のひとくちを――


139 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:14:22.03 ID:2BNTa/IJ0

「はむっ」


―ー食べれなかった。


「んっ……美味しいっ☆………もぉ!あんないい香り漂わせちゃって!我慢できなかったんだゾ☆」


一方通行から最後の一口を掠め取った食蜂操祈は、人懐っこい笑みを一方通行に向けた。


まさしく天使の微笑みである。男子高校生なら、一撃でコロリと沈んでしまう事間違いない、一撃必殺のクリティカル・スマイル。


しかし、それが彼に通用するかは別問題であった。


「か…」


「か?」


「きこかかきこくこかかいここきくくここかかこきこかかかきこくけけきか!!!!!!」


「ひぃっ!?」


その時一方通行を見ていた生徒は、彼の背中に黒い羽根を見たはずだ。あたかもコール・エマーソンの如く。


もちろんそんなもの生えるはずがない。しかし、そう錯覚するほどのどす黒いオーラが、彼の背中から噴出していた。


「お、落ち着いてください一方通行!食蜂さんにこうしてもらえるなんて、むしろご褒美ですよ!ほら!ね?」


「ど。どーどー!落ち着け一方通行!ほら!今度なんか奢るぜい!」


立ち上がった一方通行の肩を叩いてなだめ、席に無理やり座らせる。


絶句していた食蜂も何とか落ち着きを取り戻したようだった。


海原たちの必死の説得によって、何とか平静を取り戻したようだ。


「……楽しみにしてたのによォ。」


140 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:15:02.23 ID:2BNTa/IJ0

彼らしくもない舌っ足らずの話し様だ。ひどく落胆が見て取れる。目に見えてしょげている。


食蜂は、一瞬だけ可愛いとか思ってしまった自分を張り倒したくなったが、それもまた仕方のないことかもしれない。


落胆する一方通行などそう易々と見れるものではないからである。


先ほどの悪魔っぷりが嘘のように見える彼の姿に、食蜂は自らの母性の様なものを刺激された気がした。


「ご、ごめんなさぁい。こ、今度、埋め合わせはするからぁ……ゆ、許して!」


「……約束だぞ。」


「え、ええ!ホントのホントよぉ!」


「……………便所ォ」


とぼとぼと、教室を後にする。


そんなにご飯が楽しみだったのか、と残された面子はその背中を何とも言えない表情で見つめるしかない。




「あ、一方通行くんパネェ……」


「うん。一口食べられただけなのに、食蜂さんを脅したわよ?」


「お、おい!!御坂さんだけじゃなく食蜂さんも危ないんじゃ!?」


「つーかアレご褒美だろ!どういうシチュなら満足すんだよ![ピーーー]!氏ねじゃなく[ピーーー]!」


「お、おい!消されるぞ!!」


「え、まじ……ちょっとヤバくね?」


「いつからここは悪魔の教室になったんだ!?」

141 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:15:36.23 ID:2BNTa/IJ0


言いたい放題の生徒たちの囁きをBGMに、食蜂は虚空を見つめる。


「もぉ、一体なんなのよ!こんなんじゃっ―――」


しかし、食蜂の不幸は、それだけでは終わらなかった。


「さぁて、何なんでしょうね?食蜂さん?」


「うむうむ、いったいこれから何が起こるのでしょうねー?」


「あ、あなた達っ!?」


そこに佇んでいたのは、御坂美琴と佐天涙子。


二人とも奇妙なポーズをとり、不敵な表情を浮かべる。


鬼気迫った表情と共に、風神と雷神のような迫力を漂わせていた。


「えぇ?なに?何するのよ!」


「アンタ、さっきのアレ聞いたわよ!なんだったっけ佐天さん?」


「えーと、確か、『ダイエットするとか馬鹿なの?死ぬの?愚民どもよ肥えろ。そして跪け』って言ってましたねー」


「ちょっ!?そこまで言ってないわよぉ!」


またもや不審な雰囲気に教室中の視線が集まる。気づけば彼女たちは衆人監視。誰もが彼女たちを見つめている。


食蜂はいつの間にか囲まれていた。前に美琴、後ろに佐天。

142 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:16:47.96 ID:2BNTa/IJ0


ふたりは、がに股になり、指さきをわきわきと奇妙に動かしながら徐々に距離を詰めてくる。そして――


「マグネットパワーぷらす!」


「マグネットパワーまいなぁす!」


かっ、と二人の眼が見開かれる。ターゲット、ロック・オン。慌てふためく食蜂へ狙いを定める。


「「クロスボンバぁーっ!!」」


「やだっ!いやぁぁぁあ!!」


美琴と佐天は、繰り出したその手を食蜂のブレザーの下に滑り込ませると、隠された下腹部をがっちりホールドした。


「ふむ……なるほど……」


ぐにぐにぐに。容赦なく揉みしだく。いったい何を!?勿論腹を。


「へぇー……やっぱり……」


ぐにぐにぐにぐにぐに。


ニタ、と美琴の頬が歪む。それと同時に食蜂の表情が強張った。


「ぎゃぁぁぁぁああああ!!!やめてぇえーーーっ!!」


顔を真っ赤にし、目に涙さえ溜めながら食蜂は悲鳴を上げる。


ごくり、と男子生徒たちの唾をのむ音がする。気持ちは痛いほどわかる。


「御坂さぁん!!食蜂さんがお肉を隠し持ってまぁーす!これはどーしてなんですかねー?」


一見にこにこしているように見えて、佐天の眼は笑っていなかった。


さきほどの一声は彼女にもバッチリ聞かれていたのだ。揉みしだく手は止まらない。

143 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:17:50.04 ID:2BNTa/IJ0

「さてねー?美琴センセーわっかんなーい。」


「っ!こっのぉーっ!」



手を振り払い、彼女たちを振りほどく食蜂。さすがにいつまでも黙ってやられているわけにはいられない。


しかし、もう遅すぎた。


「食蜂操祈……アンタ……」


「い、いや……言わないで……」


「ちょっとお腹に溜め込みすぎじゃないんですか?まぁ、簡単に言うと……」


「いやぁぁあああああっ!!」


「「隠れ肥満!!」


ピシッ、と彼女の表情が固まる。


(知られてしまった!知られてしまった!知られてしまった!でもどうしてぇ!?だ、誰も知らないはずなのにっ――)


「アンタ、マラソンでもすれば?黒いジャージが良く似合いそうね?」


「っ!」


(あの時かぁぁぁぁぁああああああああああ!!!ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!)


144 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:18:50.26 ID:2BNTa/IJ0

「御坂さんいえーい」


「いえーい!」


ハイタッチなどする美琴と佐天。


まさしく悪魔。美琴など、さほどダイエットに気遣いなど見せないのにこの調子である。



「いっそ殺してぇ……」


「げ、元気出してくださいよ食蜂さん!」


「そ、そうですよ!痛いの痛いのとんでけー!」


項垂れ、屈辱に打ちひしがれる食蜂を気遣う五和とレッサー。


気遣うそぶりを見せてはいても、ニコニコとどこか嬉しそうだ。


「あ、ありがとね……?う、うぅ……」


人の顔色をうかがう余裕すらない彼女はそのことには気付けなかったのであるが。

145 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:20:27.86 ID:2BNTa/IJ0
本編はここまでです!奈々子様は迷った挙句レッサーちゃん!バランスとろっかな、と。主に胸囲てきな意味で。
以下閑話です。

146 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:20:56.86 ID:2BNTa/IJ0

木原数多だ。


いやよ、研究者は辛いぜ、ったくよぉ。


日によって余裕は生まれるし、だいたいは定時に帰れる。


だが、納期がせまると今日みたいに徹夜になっちまう。ゴールデンウィークまでそうだったんだ。信じられるか?


クソガキは今くらいに家でたあたりだな……


明日からしばらくオフだし、コンビニでバドワイザーでも買って、ピザ喰いながらバンドオブブラザーズでも見るか。


お、喫煙所。ここは屋内式か。駅前ももうここしか吸えねえとは、ったく、喫煙者は肩身が狭いぜ……


ユリコが来てからウチでの喫煙は不可能になった。もともとホタル族だがなぁ。

147 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:21:53.76 ID:2BNTa/IJ0

「……ふぅ」


パーラメントに火をつけ、ゆっくりと煙を肺に入れていく。頭がクリアになっていく。


………


……


つーかよ、さっきから気になってたんだが……


「……おい嬢ちゃん」


「ふぇ?私ですか?そ、そんなっ!お嬢さんなんて照れるのですよー!」


「……その年でタバコは早すぎるぞ。いやな、せめて高校生くらいまで我慢しろや」


「むむっ!私は大人です!」


「あのなぁ、タバコすえれば大人ってわけじゃねえのよ、な?体に悪いぞ?」


「だから!私は大人だと言ってるじゃないですか―!」


説明してやる。このピンク髪の幼女、身長、140もねえぞ。俺の胸より低い。


しかもこのガキ、赤ガラムとか吸ってやがる。おうおうおう旨そうだなコラ。マーヴェラスだよ畜生。

148 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:22:17.75 ID:2BNTa/IJ0


「俺もあんまし褒められた人間じゃねえから説教とか嫌いだ。するのもされるのもな。だがよ、こればっかりはどう考えても見過ごしちゃならねえだろ」


「う、うぅ……ほ、ほらっ!身分証ですよ!」


「はいはい、ポケ○ンカードか?……………は?」


おいおいおい?こいつはどんな冗談だ?これが正しいと、このガキ、俺より年上だぞ?


「……ひゃはっ、ひゃははははははっ!!!」


「ど、どうしたのですかー?と、とっても怖いんですけど……」


あ!?怖いだとぉ!!??


……まぁ言われ慣れてるけどよ。


「おい、人を見た目で判断するといけねえって、ママに習わなかったのかよ?あ?」


「ちょっと!また子ども扱いです!というか貴方がいうのですかーーー!!!!」


……この女、まだ吸うのかよ……つうか、また新しいのに火ィつけやがったよ……


「ちっ、身分証ぶら下げとけやガキ女」


「……月詠小萌、です!」


149 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:23:38.75 ID:2BNTa/IJ0

「月詠な、じゃあな」


世界は恐ろしい。


「…あなたは」


「ああ?」


「あなたの名前を、教えてほしいです……」


「……木原数多」


あーあー疲れた、かえってプライベートライアンの最初の二十分だけ見るとすっかなぁ。


「これでも研究者だ。人を見た目で判断するなよ?ガキ女ぁ」


「どの口が言うんですーーーーーー!!!???っごほ!ごっほ!!!」


むせかえるガキ女の声を背中に、自動ドアをくぐると、生暖かいかぜが顔に当たった。


「………クソガキに話したら信じるかねぇ」


夕飯時の話題ができた。まぁ、良い暇つぶしだったな。





150 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/02(木) 18:25:03.32 ID:2BNTa/IJ0
みじかっ!?今日は以上です。次回は一週間以内、もしかしたらもうちょいかかるかも。
ありがとうございました!!!!

151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/02/02(木) 18:41:37.78 ID:fd9PbDaAO
乙!

小萌先生ガラムかよwwwwwwwwww
友達になれそうな気がするわ

152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/02(木) 18:57:28.90 ID:pjHxgctc0
おつ〜

炊き込みご飯でテンションMAXな一方さんwwwww
クッソ吹いたわ

214 :◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 15:43:30.62 ID:OPLn9L8Y0



                          ◇




「みーさかさんっ☆ゴミ袋もつの代わってくれると嬉しいなぁっ?」


「私に媚びても無駄よ?いつも取り巻きにやらせてるから体力無いんじゃないの?だから太るのよ……」


「っ!!………あらぁ?こんなところにゴミがぁ!」


と言いつつ、ゴミばさみで美琴の軍手をつかむ食蜂。


「きゃっ」


「あ、ごめん。あまりに汚いからゴミかと思っちゃったっ☆」


「……これは備品だから汚くて当然よ。………あ、手が滑った」


美琴はゴミばさみで掴んだ空き缶をひょいと放り投げる。


「ぶべっ」


もちろん食蜂にクリティカルヒット。しかも顔面である。


中身が少し残っていたらしい。そこはかとなく不健全な図だ。


「あ、ごめんね?軍手がゴミだから、手が滑った」


「ぺっ、ぺっ、か、顔に残り汁がぁーっ!!!あ、アナタ……!」


「「………」」


美琴と食蜂の二人の後を、一方通行と佐天は歩いていた。


さきほどから小競り合いを続ける二人に置いて行かれているという言い方が正しいのかもしれない。

215 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 15:47:05.99 ID:OPLn9L8Y0

(それにしてもよ……)


「この貧乳女ぁ!女子力が小学生レベルなのよぉ!ナイチチ女!!ばーか!あほー!」


「ぶっ!……女子力(笑)!?そんなの現実で言ってる人初めて見たわ。アンタってそうとう痛い人ねー」


「そ、そんな目で見ないでぇええ!!!!口癖だからつい出っちゃったのよぉおおおおおお!!!!」


「………」


食蜂は、美琴からの煽りに対する耐性が全くない。


美琴の挑発ならば、どんなくだらない売り言葉にも買って出ている。


(まァ、どォでもイイか……それより今は……!)


「あちゃぁー……話には聞いてたけど、あの二人仲良くないんですかねー?」


日ごろ見ない食蜂の様子が珍しいのか、佐天は、しげしげと興味深そうに二人を見つめる。


一方通行は、自身の心臓が脈打つ音が聞こえるような気分になった。彼女の髪の香りを感じる。


「……さァな。つゥか、食蜂の野郎が勝手に食いついてる感じだな。」


「あはは!そうっぽいですね!中学時代からそうだったらしいですよ?!」


笑った。


自身の言葉で彼女が微笑んだという事実が一方通行の胸を一層高鳴らせる。


普段と寸分変わらぬ鉄面皮の裏、彼の心の中は暴れだしそうなほどに歓喜していた。


祭りでたとえるなら、蘇民祭レヴェルの盛り上がりようであった。そいやそいや、わっしょしょい。

216 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 15:51:05.29 ID:OPLn9L8Y0

「う〜む、これは止めるべきですかねー……一方通行さんはどう思います?」


「………」


佐天の笑顔から無理やり顔を背けるように、再び二人を見やる。


飽きずに言い争いを続ける二人の姿が視線に入ってくる。


「……良いンじゃねェの?このままで」


「へ?」


罵りあい、ぶつかりあう二人。


食って掛かる食蜂に、嘆息と共にダメ出しをする美琴。


二人のぶつかり合いは健全なものに見えた。


少なくとも、彼が中学時代に繰り返してきたものなどとは比べ物にならないだろう。


周りに迷惑をかけない程度ならいくらでもやればいい。一方通行はそう判断した。


「食蜂のやつ、そこそこ楽しそうじゃねェか。血ィ見ない程度なら、好きにさせてやってもイイと思うがなァ」


曇天の下、一方通行が言う。


その時ばかりは、どことなく自然な笑顔を作ることができたような気がした。


217 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 15:53:08.89 ID:OPLn9L8Y0

「……」


きょとん、と珍しいものを眺めるがごとき顔立ちで佐天がこちらを見つめる。


しかしそれも一瞬で、すぐにいつもの笑顔を取り戻す。からかい二割、おかしさ八割の笑顔だ。


「はっはぁ〜ん♪一方通行さん、良く見てるんですね?なかなかそんなの気付けませんよ?」


「からかうンじゃねェよ」


「からかってなんかないです。御坂さんだけじゃなくて食蜂さんのことも良く見て―――」


「一方通行くぅぅぅぅん!!!!!」


佐天の声を遮るように飛来する猫なで声、そしてその根源。


「……食蜂ちゃァン?俺の二の腕がそンなにお好みですかァ?」


いつもより三割増しくらいの険しい声で応じる一方通行。佐天とのプライヴェート・タイムを邪魔されたのだ、当然である。


こめかみに青筋をこしらえ、阿修羅すら震え上がらせるような凶相を作り上げる。


「えっ、ちょっ、マジ?その睥睨力はシャレにならないんですけどぉ……?」


一方通行のあまりの迫力に、食蜂の口元がひきつる。完全に予想外の反応だったのだ。まさかここまで激怒するとは思ってもみなかったのだ。


「ちょっと食蜂!アンタ……っ!!…………一方通行?アンタ、何やってんのよ……?」


(うっわァ……面倒な女パート2が来たよ……)


218 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 15:54:39.43 ID:OPLn9L8Y0



食蜂を追いかけてきた美琴が一方通行(食蜂によりがっちりホールド)を目に留める。


傍から見ればイチャついてるようにしか映らない光景に、当然のごとく美琴は勘違いを始める。


(う゛……こ、ここはこうするしかっ!!)


「っ!助けてぇ!!あーくぅん!!!」


「……ハイ?」


食蜂は一種の賭けに出た。一方通行の機嫌が壊滅的に悪いという事を察していながらのこの行動。


美琴の怒りをすべて一方通行に差し向けようと思っての作戦であった。


(これは丁と出るか半と出るか……!)


この男には色仕掛けなど通用しないのは百も承知だ。


この作戦は、美琴がどこまでこれに反応を示すか、そして、その反応に一方通行がどう対応するかが勝負の分かれ目だった。



「……食蜂ちゃァン?イイ加減にしましょうかァ……?」


「し、失敗ぃぃいい!!??」


畜生薄々そんな気はしてたよコンチクショウ、と内心地団太を踏む食蜂。


219 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 15:56:34.12 ID:OPLn9L8Y0


「……アンタねぇ……誰かにすがれば上手くいくと思ってんでしょ……?」


「ひ、ひぃぃ!?」


食蜂は危機に面していた。口喧嘩で勝てても、美琴に肉弾戦で勝つのなど不可能だ。一体どうする。


(こうなったらぁぁっ!!!!)


「あ、アデューーーーっ☆」


三十六計逃げるに如かず。食蜂はプライドを捨てることなく、逃亡を選んだ。


「痛ェっ!おいこのっ!離しやがれェえええええええええええっ!!!!!!!」


白い男を一匹引きつれて。


「おいこらぁあああああっ!!!待ちなさぁぁあああああい!!!!」


美琴の叫びは、鈍色の空に溶けてゆくばかりであった。





220 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 15:58:33.45 ID:OPLn9L8Y0


                              ◇




「…はぁ。はぁ、はぁ……つ、疲れたぁ……」


「オマエほんと訳分かンねェ……!マジで分かンねェ!」


「そ、そんなに怒らないでよぉ!!」


どれくらい走ったのか、少なくとも二人の姿は完全に見えない。


空模様が優れない。これは本格的に一雨来そうだ、などと、空を仰ぎながら一方通行は考える。


「ちょっとぉ!そんな風に無視されるとぉ、不機嫌力MAXなんですけどぉ〜」


「知らねェよ。つゥかどォすっかな、今更掃除なんてする気しねェな……」


「へぇー?不真面目なのね?」


「はっ、真面目な野郎に見えたのか?」


「ううんっ♪ぜんっぜん☆」


「うっわァ……そこまで眩しい笑顔で言うかよ」


それにこの女だって人のこと言えたものではないのだ。事実、彼女の手にしていたポリ袋には、ほとんど何も入ってはいなかった。


「……ンで?」


「え?」


弁当の中身が500円玉だった、みたいな変な顔。この女の驚く顔も意外に安いものだ。

221 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 16:00:10.43 ID:OPLn9L8Y0

「オマエ、俺に用でもあったンじゃねェの?いちいち連れ出しやがってよ」


「……そんな訳ないわぁ。思い上がらないでくれるかしらぁ……」


「あ、そォ言うの良いンで。間に合ってますンで、ハイ」


「っ!ど―ゆー意味なのよぉ!!」


本当に面倒くさい性格していやがる、と一方通行は思う。自分も人のことを言えないだろうが、美琴と接している内に、こんな状況にも慣れたものだ。


「話せよ。今更俺の前でキャラ作っても意味ねェの、理解してンだろ?」


「うっ……!!あ、改めてキャラとか言われるとなんかなぁ……」


否定できているつもりなのか。いや、しているつもりなどないのかもしれない。なぜなら、すぐに彼女は語りだしたからだ。


雄弁さが図星を突かれたのを物語る。彼女は、聞いてほしい話があったのだ。


美琴よりは自分の感情と折り合いをつけるのが上手いのかもしれない。


「………はぁ……いい?別に悩みとかそんな大層なものじゃないわよ?ちょっとした愚痴みたいなものだからねぇ?」


「どォでもイイ」


「どーでもって……それはそれでムカツくんですけど……まぁ、いいや」


そう前置きしつつ、食蜂は語り始める。それが大層な問題かそうでないかは、本人しか決められないものだというのに。

222 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 16:01:48.77 ID:OPLn9L8Y0

「……ぶっちゃけさ、うっとおしい、とか思ったりしたでしょ?私があの女……御坂さんに絡むの」


「まァな。アイツの機嫌が悪くなるのはイイ迷惑だ」


この男は本当に正直にものを言うな、と食蜂は息をつく。


しかし、彼女はそれが嫌ではなかった。むしろこの場ではありがたかった。


「……この前もさ、変な男のこと平気でぶっ飛ばしたりするし、中学時代からそうだったのよぉ?男らしいっていうかなんて言うかね……お姉さま、とか呼ばれて慕われてたのもまあわかるわぁ。だってあの子、格好いいもの」


「……ふゥン」


正直意外だった。彼女がこうもストレートに人を褒めるなど思ってもみなかった。


「…………で?何がどォして、オマエはその格好いい美琴ちゃンのことを敵視するンですか?」


あくまで軽い風を装いで一方通行が言う。しかし、人から相談されたりすることに慣れていないこの男。


無理やり興味がなさそうな態度を取っているのがバレバレである。


そんな一方通行の様子を察しないはずもない食蜂はくすりと笑う。まったく、仕方のない男である。


「……羨ましかったのよ。たぶん」


「………」


「あの子は、突き抜けてて、それでいて完璧な子だった。自分はこうありたい、って思った通りの手段を、何の迷いも無く取れてしまえる子だった」


ちら、と一方通行に視線を送る。


「……続けろ」


聞いてるよ、と促す。


「……うん。憧れ、なんて抱くほど私は潔い人間じゃない。アナタならわかるでしょぉ?理屈では分かっていても、他者を心の底から認めるのは難しいのよ。私たちみたいな人種は」


「………」

223 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 16:03:07.00 ID:OPLn9L8Y0

「結局……自分のことが一番わかんないのよ……それからはあの子のこと、考えるのはやめたの……だって、もやもやしちゃうしねっ☆」


最後だけはいつものふざけたノリで決めた食蜂だが、表情が無理をしている。


彼女の言いたいことは何となく理解できる。


高いプライドを持つ者同士。、その点で、確かに一方通行と食蜂は似通っているのかもしれない。


「……わかンない、ね」


しかし、幸か不幸か、一方通行にそのような経験で深刻に悩むことはなかった。


恵まれた頭脳は、彼に挫折と言えるべきものを経験させたりもした。持つものならではの苦悩だ。


しかし、誰かと共に生きてゆく上で、身を焦がし、本人の生き方に影響を与えるほどの強い感情は、彼が未だに経験したことのないものであった。


確かにその様な経験もあった。


しかし、彼はそこで悩んで、解決しようのない問題に真正面から挑んでゆくほど潔癖な人間ではなかった。


羨ましい、そう思うことはあってもそこでお終い。彼は、それを逃げだと思ったことは無かったし、それで満足していたのだ。


「………」


さらに深く考える。

224 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 16:04:25.69 ID:OPLn9L8Y0

嫉妬、とは違う気もする。結局、彼女はどうしたいのか?


美琴に勝ちたいのか?それならどうやってその勝利を証明する?


美琴を蹴散らしたいのか?嫌がらせがしたいのか?それなら食蜂は美琴が嫌いなのか?


「………と」


おっと、と思い返す。結局は、自分の経験談を聞かれているのだ、と、割り切ることにする。


(ここは真剣に答えるのが人情ってもンだ。……知らンけど)


正直に言うと、彼は嬉しかったのだ。


付き合いも浅く、褒められたような人格者でもない自分にここまで自らを曝け出してくれる人間がいるという事が。


それなら、いくら嫌われることになっても、横っ面を引っ叩かれようと、全力でぶつかる。彼にはそれしか手札がない。


全く持って人付き合いとは簡単にはいかないものである。勉強のように簡単だったらどれだけ良いのだろう、と一方通行は考える。


「……オマエの言うように認めたくないヤツを認めるのは俺の流儀でもねェな。他はまだ何とも言えねェが」


「……ふふっ。だと思ったわぁ」


「でもよ、オマエは違うンじゃねェの?」

225 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 16:05:29.59 ID:OPLn9L8Y0


「……え?」


「……分かンねェか?つゥか答えなンて出てただろォが」


「………」


真剣に、それでいて彼らしく皮肉めいた笑みを浮かべながら一方通行は食蜂を見つめる。


雨が降ってきた。コンクリートが独特の匂いを放つ。悲鳴を上げているようだった。


「とっくにオマエは美琴を認めてンだろ。『格好良い』ってよ。ならオマエが気に入らないことは一体何だ?」


水滴が白い髪を打つ。ジャージに染みを作る。


「簡単だ。アイツがオマエにできないことをやってのけたからだ。」


食蜂の表情が険しさを増す。もはや隠し立てをする気もないようだ。


「……笑えない冗談ねぇ?その物言いだと、私が御坂さんに劣ってるって言いたいように聞こえるんだけどぉ?」


「はっ、そんなことで人の優劣をつけようとするほど俺は勘違いしてねェよ」


一方通行が吐き捨てた。

226 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 16:09:13.97 ID:OPLn9L8Y0


「……ふゥん。その様子じゃァ、操折ちゃンは美琴ちゃンに負けたくないみたいですねェ……?つゥか何?負けてる心当たりでもあるンですかァ?」


「っ!こ、この白モヤシ!!!」


表情をこれでもかというほど歪めて醜い笑みを精一杯作り上げる一方通行に、食蜂の堪忍袋の緒が切れた。


ぷっつんといった。もう教室での彼女の名残など存在しない。


「……噂をすれば、ってな。」


一方通行は、瞬く間に落ち着いた様子を取り戻し、明後日の方向を見やる。そこには、佐天と共に清掃作業中の美琴がいた。どうやらこっちの方面にまで清掃をしに来たらしい。


「どこ見てんのよぉ!話はまだ終わって――」


彼の視線を追いかける食蜂の視線が一点で止まった。次の瞬間、突然縋り付く食蜂。


一方通行はもはや嘆息である。


「……おいおいどォした?また美琴にイヤがらせでもする気かよ」


「……違う、違うの」


掴まれた二の腕からかたかたという震えが伝わる。


彼女は震える右手で、ゆっくりとある一点を指示した。


異変に気付いた一方通行は、素早く指先の延長線上を見やる。


「……なるほど」


そこには、先日美琴が追い払った不審者の姿があった。美琴たちのいる土手の目と鼻の先、本降りになった雨をしのぐための傘で顔がはっきりと見えないが間違いない。例の男だ。


「……カー……なの」


227 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 16:11:40.92 ID:OPLn9L8Y0

「あァ?」


「す、トーカーなのぉっ!もぉ!どうしてぇ!」


眼に涙をため、涙声で手に込める力を増す。


プライドの塊であり、常盤台の女王として君臨していた彼女の面影は微塵もない。


そこにいるのは、自分に纏わりつく得体のしれない影に怯える、どこにでもいるただの少女でしかなかった。


「引っ越しも、したのに……ず、ずっとされてて。モデルの仕事も休んで、平気だと思ってたのに……」


「……」


傍らの少女の豹変に驚きはしたが、すぐに一方通行の中で別の感情が生まれる。


視線の先には先日の男。あの男は、長い間付きまとっていたのだ。


(……楽観視し過ぎだったな。俺にも引け目がある……いや、そンなのはどォだってイイ)


「……そォか、分かった」


ふつふつと湧き上がったそれは、彼が久しく抱くことのなかったもの。何かにぶちまける必要のなかったものだ。


「少しだけここで待ってろ。ケリをつけてくる」


そう言って、食蜂の頭を優しく撫でる。


「……え?で、でもぉ……」


彼女は、安心して良いのか迷っているようだ。


「少しだけだ、すぐに戻ってくる。……っ!あのクソ野郎!!美琴たちの方へっ!!」


注意を少しそらした隙に、ストーカー野郎は美琴と佐天の目の前にいた。美琴がいるとはいえ安心はできない。


一方通行は一歩を踏み出そうとして――


228 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 16:15:12.12 ID:OPLn9L8Y0

「ま、待ってぇ!」


「お、おいコラ!ちょっと待ってろ!美琴たちが危ないかも分からねェだろ!」


しかし、食蜂が手を離さない。これでは身動きの取りようがない。


「取りあえず今は離っ――」


『ちぇぇええい、さぁぁあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!』


「あァー……遅かったわ……」


時すでに遅し。トゥーレイト。


一方通行が二人を見やると、今まさに、ストーカークソ野郎のカメラが中空に高く打ち上げられた瞬間であった。


「……ちっ。顔のカタチ変わるまでブン殴ってやるつもりだったが……」


「……どうして?」


「あァ?」


「どうしてあんなことできるのぉ?あの子?」


「……おい食蜂」


様子がおかしい。双眼に剣呑な光を灯らせ、その瞳はストーカーを向いてはいなかった。


瞳の先にいるのは、美琴。


「私ね、アイツの為にモデル休んだの。学業に専念する、とか言ってさぁ。笑っちゃうわぁ?専念する必要なんてそもそもないし、とってつけたような言い訳よねぇ」


「……何が言いたい?」


「何って、私は逃げたの。そうよ、逃げたのよ!」


良く手入れの行き届いた金髪に滴が容赦なく滴る。


229 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 16:18:49.49 ID:OPLn9L8Y0

もう雨など眼中にないようだ。運動靴が汚れるのも厭わず泥を飛ばして足を踏みならした。


「……あの子が」


「……つゥかオマエ、大丈夫か?まァ落ち着けとは言わねえけど―――」


一方通行が言葉を言い終える時には、食蜂はもう駆け出していた。


「うぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


「よ……ってオイぃいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!」


ヤバい。あの女マジでヤバい。などとドン引きしながら急いで食蜂の背中を追う。


女性に変な幻想など抱いていない方だと一方通行は自認していたのだが、認識の甘さをしみじみと受け入れる。


(……アレはヤバい。マジでストーカー殺される。うン。……まァ構わねェけど)


それほど食蜂の姿は鬼気迫るものがあったのだ。


「あ、ぁぁっ!ぼ、僕のカメラたんがぁっ!!こ、この女どうしてくれるんだよぉっ!!……って、み、操祈ちゃん?」


「………」


あっと言う間にストーカー野郎のもとにたどり着いた食蜂は、無言でそいつを睨み付ける。


流れるような美しい金髪は雨に濡れて乱れ、表情を隠していた。


きらり、と光る一筋の毛髪が口に入っている。肩で息をつく彼女は、後ろ姿だけでも異様な迫力を持っていた。


「ちょ、ちょっとアンタ?」


「――ふぅん!!!!!」

230 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 16:21:57.90 ID:OPLn9L8Y0

美琴が何か言い終わる前に、彼女がけり落としたカメラを力いっぱい踏みつける。


「あ、ぁぁっ!!!や、やめ――」


「っ!!!っ!!!!」


もう一度。もう一度。もう一度。べき、と言う破砕音。もう一度。原型が分からなくなる。もう一度。


最初の方は何かを叫んでいたストーカーであったが、いまや言葉すらない。


刻一刻と壊れていくカメラをただただ眺める。ましてや、それを行っている鬼女のような女は、自らが追い回していた憧れの人なのだ。


「ハシャぎすぎだ……」


「………」


「………」


美琴と佐天に至っては言葉もない。


やがて、鬼気迫る勢いであった食蜂も徐々に落ち着きと余裕を取り戻したのか、「えいっ♪」だの「とぉっ☆」だの、それはもう楽しそうにカメラを踏みつけている。


取りあえずは一安心、といっても良いのだろうか?


「っふー。あはぁっ☆すっきりしたぁ〜。もぉ最高っ♪」


「……ぁ」


ストーカーは尻もちをついていた。無理もあるまい。


「……次はアナタよぉ……?」


「ひっ。ひぃぃぃっ!!??も、もう嫌だぁぁ!!!!」


ストーカーはそのままうずくまり、両手で頭をかばう。


「ぼぼぼっ、僕の操祈ちゃんは、こんなに乱暴なコじゃないしっ、あ、あんなヤンキーみたいなヤツとはつるまないっ!!!」


「[ピーーー]」


「ま、待ちなさい……」


追い付いた一方通行を美琴が制止する。どいて美琴、アイツ殺せない。


「お、おまえは一体何なんだよぉ!!!性格悪すぎだろ、じょ、常識的に考えてっ!」


「……ふふっ」

231 : ◆Mx7XGp.7IA :2012/02/12(日) 16:26:05.86 ID:OPLn9L8Y0


顔にかかる金髪を後ろに流しながら食蜂が笑う。そして――


「とりゃぁっ☆」


「ぎぁぁぅ」


うずくまるストーカーの顔面に向かって、一切の慈悲の感じられないサッカーボールキックを見舞った。


「おぉう!……強烈です!」


さっきから押し黙っていた佐天が合いの手を挟む。ストーカーは、それからピクリとも動かなくなった。生きてるよね?


「性格悪い?乱暴?そんなのどーでもイイでしょぉ?だぁって――」


倒れ伏すストーカーに向け言葉を放つ。もう聞こえてはいないだろう。


彼女の口元には、酷薄な笑みが浮かぶ。


「こぉんな完璧な私に必要なものなんて、これ以上ないもんっっ☆」


最後の一言は一方通行に、振り向きざまに向けられた。


心理掌握、完全復活。


その微笑みは男心を惑わし、その言葉で同性をも味方につける。


「………あ」


雨はいつの間にか止んでいた。

250 : ◆Mx7XGp.7IA [age]:2012/02/24(金) 18:05:43.65 ID:6jfecE3j0


                        ◇



「適当に座れ。……つゥかいい加減離せよ鬱陶しい……」


「ちょっとぉ?冷たいわよぉー?こーんな美少女にしがみ付かれて、ご褒美でしょぉ?」


「……さーン、にーい、いィーち」


「わわっ!?ちょ、ちょっとだけ!い、今手を放すからぁ!!」


そんなことは言いつつ、無理やり振りほどかないのが彼なりの優しさだろう。


時は移り、一方通行の家。


玄関には、美琴のものとはサイズの違うローファーが揃えられ、水滴のしたたるジャージが干されている。


「少し待て。……ココアでいいな」


「……うん」


あの後、美琴や佐天と一緒に無言で学校に戻った食蜂だったが、着替えを終え、さあ帰ろうと校門を出たところで腰を抜かした。


美琴にどうにかしろと頼んだ一方通行だったが、


「駄目ダメだめ!!絶対いやぁっ」


と、食蜂が駄々をこねたため、仕方なく一方通行が肩を貸し、自宅まで運んできたのである。美琴は、


「私も願い下げよ!行きましょ佐天さん!」


などと言い残し帰ってしまった。

251 : ◆Mx7XGp.7IA [age]:2012/02/24(金) 18:06:16.10 ID:6jfecE3j0

佐天は置いてけ、という言葉が喉まで出かかった。


「ほらよ。ゆっくり飲め。熱いぞ」


「ありがとっ♪……あっつぅ!」


「アホかオマエ」


まだ本調子じゃないのかテンションがおかしい。無理をしているのが見え見えだ。


「……」


「……どォした?ひり出たクソみてェなツラ晒しやがって」


「ひっ、ど、どんな顔よぉっ!?」


押し黙る食蜂をからかう。そろそろ本調子に戻ってきただろうか?


「……おいしい。アナタ、甘いの嫌いなんじゃないの?」


「美琴用だ。………っち」


うあー、と右手で頭を掻きながら一方通行は語り始める。


「家が隣だから家事とかメシとか共同なンだよ……あの野郎は一人暮らしだからな。成り行きでこうなった」


「……ふぅん」


「………」


それだけか、と一方通行は幾分か拍子抜けする。もっと喰いついたり、からかったりされるかと思ったのだ。


彼女はココアに目を落としたままだ。いつも通り何を考えているのか分からない。陰謀フェイス。

252 : ◆Mx7XGp.7IA [age]:2012/02/24(金) 18:07:08.10 ID:6jfecE3j0

「んっ」


食蜂はココアの最後の一口を一気にあおる。またまた胸を強調するような姿勢になる。狙ってンのか?などと一方通行は考える。この男、案外エロいことを考えているものである。


「あ〜〜〜あっ☆すぅーっきりしたぁっ♪あのストーカ―の顔、死ぬまで忘れないわぁ」


「そいつは重畳ォ。ツラの形変わるまで殴ってやりたかったがなァ、あのクソ野郎も運がイイ」


「物騒ねぇ」


ふふっ、と食蜂が笑う。


「……簡単な事だったみたいだわぁ。バッカみたい」


食蜂は、女王様スマーイル!を保ったまま神妙に語るという高等技術を披露する。


「あの子ができる事、やろうとしている事をやらなかった。それができなかったのが悔しいだけだったの。ほんと、笑っちゃうわぁ」


ひたひたと台所まで歩き、カップを流しに置く。


「あの子の、利害とかを度外視して行動を起こせるところが嫌いで嫌いで、それでいて羨ましかったの」


「………」


食蜂はいつも通りだった。


隙のない表情。隙のない猫なで声。そして隙のない美貌。


しかし、一方通行にはその声がどことなく乾いているように聞こえた。


認めてほしい。どうすればいいのか知りたい。


彼女がそう叫んでいるように見えた。

253 : ◆Mx7XGp.7IA [age]:2012/02/24(金) 18:08:29.01 ID:6jfecE3j0

「……羨ましい、ね。そンなの、誰だって抱く感情だろ」


「それは――」


「黙って聞け。たとえば俺は……あァーそうだ。まず上条のヤツが羨ましいな。あーゆー突き抜けたお人よしにはなれないが、羨ましいとは思うぜ。……どォだ?笑っちまうか?」


「………」


食蜂は黙して語らない。


「あとは……佐天の突き抜けた笑顔が羨ましい。海原の思慮深さも羨ましいし、土御門のアホさ加減も時たま羨ましく感じるなァ」


「ぷっ、なによそれぇっ?」


「……でもよ」


壁に背を預け、天井を見やる。


暖色のライトが眩しい。落ち着く色だが、今はどうしてか落ち着かない。


「俺はそれを真似したいとは思ったが、それまでだった。できねェもンはできねェンだよ、やっぱり」


自分に言い聞かせているのかもしれない、負け犬が言い訳しているだけなのかもしれない。


「進歩がねェ、とか言われちまうのかもなァ。だけど、俺はそれを恥じたことはねェよ。それほど真面目な人間でもねェしな」


自重の笑みがこぼれる。一緒に駄目人間になろう、と言っているみたいだった。


「オマエは真面目すぎンだよ。もうちょっと適当に生きろ。何もかも完璧にこなせる人間なンていねェンだよ。」


254 : ◆Mx7XGp.7IA [age]:2012/02/24(金) 18:09:44.64 ID:6jfecE3j0

「………」


不意打ちに成す術のない、きょとん、とした顔を浮かべる食蜂の顔を見つめる。


恥ずかしさは不思議となかった。説教にも耐性がついたのか、いたって冷静な一方通行だった。


彼の見つめる少女の顔が、笑顔の形を作り出すのにそう時間はかからなかった。


「………ふふっ、なによそれ、バッカみたいじゃない」


「バカで悪かったな。話半分に聞いてくれりゃァ――」


「違うよ」


あはは、と堪えていた笑いを溢れ出しながら、目に涙をためながら食蜂は微笑む。


「馬鹿なのは、あ・た・しっ」


その微笑みは、今まで見たどんな笑顔よりもへたくそで――


「……はっ、そォかい」


今まで目にしたどんな微笑みよりも、きれいだった。




255 : ◆Mx7XGp.7IA [age]:2012/02/24(金) 18:10:15.19 ID:6jfecE3j0



                         ◇



「………」


「………」


ラジオの音、コーヒーの匂い。


先ほどから二人の間に音はない。


赤裸々に内心を吐露して恥ずかしかったのか、食蜂はすっかり黙り込んでしまった。


不機嫌なわけでもないのに黙り込む食蜂は、彼女じゃないようだ。なんてことを一方通行は考えた。



「……オイ」


「………ん?」


「いつ帰るンんだよ?いつまでもグダグダやってる訳には行かねェだろ?もう良い時間だ」


「えぇ〜?」


「えーじゃねェ……おら」


「きゃっ。い、いたぁっ!」


立ち上がり、食蜂の尻を蹴りつける。


こうでもしないと起き上がる気配がなかったからだ。


クッションを抱きながらごろごろと寝転がる彼女。くつろぐのレヴェルを超越していた。



「ほら早くしろ。美琴とか木原くン来ちまうぞ」


「あはは!ねーぇ、木原くんって誰なのぉっ?」


尻を蹴られたのにどこか上気した表情で食蜂が尋ねる。


コイツ、マゾなの?と眉をひそめつつ一方通行は口を開いた。

256 : ◆Mx7XGp.7IA [age]:2012/02/24(金) 18:12:15.11 ID:6jfecE3j0


「……親、みてェなもンだよ」


「ふぅーん……」


「……何だよそのツラ?馬鹿にしてンんのか?」


にやにや笑いながら、意味ありげな表情を浮かべる食蜂。


なるほど、確かに一方通行の耳は真っ赤だった。


「べっつにぃ〜☆なんでもなーいよ」


立ち上がる素振りさえない。クッションに顔をうずめてくつろぎレヴェルを一段階引き上げる。


「………」


(……まァ、イイか……そのうち帰ンだろ。別にコイツがいても美琴が五月蠅いだけだしな……イヤ……駄目じゃね?……ま、いっか)


彼にしては珍しく、簡単に諦める。


誘ってるのかと邪推されてしまいそうなほど無防備に目転がる食蜂に一瞥をくれ、背を向けようとしたその時――


「えぇいっ」


「はァっ?」


腰に手を回される感覚。そして、柔らかい二つの弾力が太ももの裏に感じ取れた。


その二つが何なのかを考える暇もなく、一方通行は倒れ伏せる。


左手にコーヒーカップを持っていた彼は、モロに顔面から床とキッスした。


「いっ、てェェェェえええええええっ!!!!!!!て、テメェ何―――」


こつん、と額に熱い何か。そして、息遣い。


257 : ◆Mx7XGp.7IA [age]:2012/02/24(金) 18:13:23.80 ID:6jfecE3j0

「……オマエ……」


「ばぁっ!………な、なんちゃって♪………」


眼前に、食蜂の顔があった。


長い睫毛。薄い唇。


ホットココアの匂い。汗と、甘い何かが入り混じった匂い。


「……イイ加減にしろ。オマエも女なンだか――」


「もしさぁ……」


床に手をつき、四つん這いになった姿勢。


囁くように告げる。


「もし、私が、御坂さんと同じ立場で一方通行くんと、こうした関係になったとしたらさぁ……」


細められた目。何かを悔やんでいる。一方通行にはそんな風に映る。こうした関係?


「御坂さんのコトより、私のことをスキになったのかな?」


「…………ァ?」


心臓が五月蠅い。顔が熱い。耳が熱い。


冷静な判断ができない。


(……お、落ち着け。落ち着け俺。コイツは一体全体何を言ってやがる?俺がスキ?誰を?美琴を?コイツを?佐天?……今日の佐天の髪留めはいつもと違ったなァ……って違う!……イイ匂い……ってコラ!!!)



頭が回らない。今日の食蜂はおかしい。おかしすぎる。いつもと違いすぎる。


今日だけで何通りの食蜂がいた?


こいつは本気なのか?


自分は何をすればいい?


どんな言葉を選べばいい?

258 : ◆Mx7XGp.7IA [age]:2012/02/24(金) 18:14:26.29 ID:6jfecE3j0


これほど動揺することも滅多にないだろう。数年に一度かそこらだ。


沸騰しそうになるほど考えを巡らせ、その鉄面皮の中で思考が渦を巻く。そして、かろうじて声を絞り出す。



「お、俺は――」



「……ふふっ。なぁんてねっ」


ぐに。


「……ふあ?」


一方通行の左の頬になめらかな感覚。


頬が抓られたのだ。



「ぷ、あはははははぁ!!やっりぃ!!一本とったぁ!!!」


「……………マジかよ」


ぐたり、と力が抜け、その場で寝転がる。


死ぬかと思った。本当に。


「えいっ」


一本取られた。


どさくさに紛れて一方通行に跨る食蜂に構う余裕さえない。


「マジでどォかしてる……本気にしそうになったぞ?……まァ、よく分かンねェ部分も多かったが」


「………本気にしちゃいそうだったんだ」


「オマエは………はァ……」


259 : ◆Mx7XGp.7IA [age]:2012/02/24(金) 18:15:53.30 ID:6jfecE3j0


大の字に寝転がる。もう動けない。


「とりゃー」だの「えいやー」だの言いながら顔がいじくり回されるのに構うこともできない。


「………ねぇ?何でこんなに肌がスベスベなのぉ……?スキンケアしてる?」


「俺がしてたらそれこそホラーだろォが」


「……うっそぉ……」



馬乗りになりながら、顔をいじくり回し、愕然とする女。



馬となる男は大の字。何ともシュールな光景である。



そんな色気のあるんだかないんだか分からない空間に、また恐ろしいものが飛び込む。



がちゃ、と音を立てて開かれるドア。



すらりと長い二本の足が、一方通行の視界に入った。



「…………何よこれ」


260 : ◆Mx7XGp.7IA [age]:2012/02/24(金) 18:17:28.02 ID:6jfecE3j0

密着する二人の視線が声のもとを追う。



声の主は、シャンパンゴールドの髪の少女。



その目元には、困惑の二文字。



「…………」



外の様子は分からないが、日も落ちるか、落ち切っている時間なのだろう。



だって美琴が来るのだから。



……なんて現実逃避をする暇も、言葉を選んでいる余裕も、一方通行にはなかった。






261 : ◆Mx7XGp.7IA [age]:2012/02/24(金) 18:18:30.61 ID:6jfecE3j0

現在の配役は以下のようになっております。


高須竜児……一方通行

逢坂大河……御坂美琴 

櫛枝実乃梨……佐天涙子

川島亜美……食蜂操祈

北村祐作……上条当麻

能登久光……海原光貴(エツァリ)

春田浩次……土御門元春

木原麻耶……五和

三十路……月詠子萌

やっちゃん……木原数多

会長……インデックス

香椎奈々子……レッサー


以下配役なし


生徒会役員……神裂火織、ステイル・マグナス

友人……結標淡希

化学教師……天井亜雄

262 : ◆Mx7XGp.7IA [age]:2012/02/24(金) 18:19:27.45 ID:6jfecE3j0
以上で原作二巻はお終いです!如何だったでしょうか?

読んで頂いた方々、また、レスをくださった方々には感謝の述べようもございません。

食蜂さんメインの話でしたねー?でも?次回は佐天さんが中心の話になります!!イヤッホー!!!!


……しかし!!非常に申し訳ないのですが、>>1が就活でゲットビジーなため、

次回の話は早くて六月、別スレでやらせていただくことになります!

楽しみにしていただいている方々、本当に申し訳ないです!内定出たら書き始めます!はい。

スレタイは‘御坂「とらっ!」一方通行「ドラァあああっッ!!??」‘の部分は変わりませんので、

見かけたら覗いてやってください!本当にありがとうございました!

一週間くらいしたらhtml化出しますので、要望や感想を書き込んで頂けると歓喜の極みでございます。ではっ!!!

263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/24(金) 18:48:56.57 ID:59PE8Vw4o
おつー
食蜂さんかわいいね…この話を最高に楽しんでる。次スレも楽しみにしてる
頑張ってなー

265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/02/24(金) 21:50:44.82 ID:8CoIfM1Eo
これはすごい乙ですね

266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/24(金) 23:05:28.92 ID:z+2JPW7j0
乙!
遠いけど次回も楽しみにしてる

274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽) [sage]:2012/02/25(土) 13:25:02.74 ID:ClNwTmSAO
乙!
食蜂さんがかわいいな
次スレも楽しみに待ってる



posted by JOY at 01:04| Comment(10) | TrackBack(0) | 禁書クロスSS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
これ禁書でやる意味あるんだろうか。超能力無し独自設定有り話はとらドラでキャラ置き換えてるだけとかなぁ…電磁通行書きたいだけなら自分で話の流れ考えて書けばいいのに
Posted by at 2012年02月26日 02:49
まあ展開分かってるからなぁ…
でも面白いよこれ
Posted by at 2012年02月27日 02:03
嫌ならそっとブラウザ閉じる
よい子のお約束
Posted by at 2012年02月27日 02:12
つ、次まで長いなぁ、、、
Posted by ななしん at 2012年02月27日 04:06
この作者、とらドラしっかり読んでるなぁ。
スピンオフの話を盛り込んだりしてるし。
しかもピースメーカーやたけしとか俺の趣味とピッタリだ。
就活頑張って欲しいものです。
そして早く続きを!
Posted by at 2012年02月28日 16:02
あんま好きじゃない
Posted by at 2012年04月07日 20:42
批評は本スレで頼むよ
面白くてもつまらなくても、
マイナスなコメントがあると気分が悪くなるんでな?

コメント欄消しちまってくれても構わないぜ主様よ
Posted by at 2012年04月23日 17:32
確かにこんなとこで批評する意味わからんなwww
Posted by at 2012年04月27日 10:10
続きを待ってる
この気持ち1まで届けッ……!
Posted by at 2012年10月22日 00:57
続き待ってるぜ!
Posted by at 2013年09月14日 20:59
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