2012年03月18日

ダンテ「学園都市か」2(学園都市編)

155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:18:28.49 ID:10ySVIwUo
―――

上条「―――!」

何が起こったかわからない、突然の場面転換。
青い影が突如視界を覆ったと思った次の瞬間、周囲は一変していた。

違う場所どころではない、
世界ごと別物になっていた。

そこは超高空の宙。

淀んで陰湿でむせかえるような『力』が充満している、人間界とは明らかに違う空気感。

薄暗い空の遥か下には、巨大な濃赤色の湖群と幾本もの大河と荒んだ鉛色の大地。
それらが『球状ではない地平線』の彼方まで延々と続いていた。

そう、この世界は。


上条「(―――魔界!?)」


悪魔の世界だった。

同化したベオウルフ、
更にそこから垣間見たダンテやバージルの記憶がはっきりと裏付ける。

そして組成の大半が悪魔となっているこの体が、
『故郷』への帰還に歓喜して高揚しているのか。

ざわついた異質な高揚感とともにその事実を告げてくる。

156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:20:57.89 ID:10ySVIwUo

上条「―――!」

そして当然のように、支えの無い体は下方へ向けて落下を始めた。

ただ重力が不安定なのか、
落下速度が空気抵抗に負けて急に減速したと思いきや、
逆に唐突に加速したりなどしつつ。

しかしそれも、人間界とは全く違う世界なのだから別段不思議でもないだろう。

この魔界は物理法則とは別に当たり前に『力』が作用するため、
人間界からすればあらゆる物理法則が不確かであると言えるのだから。


そして落下し始めてすぐ。


「―――上条さん!!」


上条の耳はその落下の暴風の中からも、
通常の人の聴覚ではかき消される声をはっきりと捉えた。

上条「―――五和!!」


上方からの五和の声を。

157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:22:17.83 ID:10ySVIwUo

上条はすかさず彼女の姿を捉えては、
宙で体と四肢を上手く動かしては制動し、
徐々に五和に接近して。

篭手で守られている右手で彼女の左手を取った。

そのまま上条は風に煽られながらも、
更にもう『一人』の姿を探して周囲を見回したが、見つけられず。

一瞬前まで一緒に居た大切な彼女、
インデックスの姿がどこにも見当たらなかったのだ。

上下左右、全方位どこにも。

上条「―――イン―――!」

そして声を張り上げて、目の前の五和にも問おうとしたが、
その言葉を言い切る前に上条は口を留めてしまった。


上条「―――」


この時、唐突に『わかってしまった』のだから。


彼女はここにはいない、と。


ここにインデックスはいないと確実に『告げてくる』。

つい先ほど、寮で唇を重ねた瞬間からのあの感覚が。
はっきりとこの体の奥底から感じる、彼女の存在とその繋がりが。

158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:24:14.14 ID:10ySVIwUo

上条「―――」

惚けた熱気、高揚感からの気のせいとも思えていたが、
決してそんなものではなかった。

確かに実際の現象としてこの体の奥底にあるのだ。

なぜ上条がすぐにそう確信したのか、
それは以前にも酷似した感覚を覚えていたからである。

ベオウルフをこの体に装着していた時のような『繋がり』、
あの魂のリンクに非常に似ているのだ。

五和「―――インデックスは!!??」

まるで上条の言葉を引き継いだかのように、
直後に五和から放たれたその問い。

それに対し、上条はこの落下の行き先である遥か下界を見据えながら。

上条「ここにはいない!!!!」

そう即答しては今後のやるべき事に素早く思考を巡らせた。

まずやらなければならない事は、
インデックスの居場所を特定してそこに向かうこと。

そして具体的にどう特定するかは、特に問題はなさそうであった。
この『繋がり』に意識をより集中させればわかるだろう。

問題なのはどうやって向かうか、どうやってここから抜け出すか、だ。

上条「(……ッ)」

悪魔の移動術は使えない。
あれは下等悪魔にも扱える非常に簡単な技らしいのだが、
上条はまったくやり方がわからないのだ。

そして恐らく五和も使えない。
悪魔の力も扱える精鋭の魔術師であるとはいえ、人間である彼女は使えないと考えた方が良い。

人間『最凶』たるレディも、
上条の覚えでは一度も使っていなかったのだから。

159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:25:11.25 ID:10ySVIwUo

五和「とりあえず!!人間界に戻りましょう!!」

落下の暴風の中、同じく考えたのだろう、
五和がそう声を張り上げた。

と、同じく考えたといっても一つだけ上条とは異なっている点があるだろうが。
恐らく彼女は、上条もステイルや神裂と同じくあの移動術を使えると思っていたのだろう―――と。

上条「無理だ!!俺はあれ使えないんだ!!」

上条はそうとらえて、そう己が使えないあまを口にしたが。
次に五和から返って来た言葉は予想外のものであった。



五和「―――私がやります!!」



上条「―――でっ―――できるのか??!!」


五和「人間界に戻るだけなら!!」


五和「教わりました!!非常用に!!」

そう五和は叫び、
右手にある銀色の槍を強調するように突き出した。

上条「―――」

その事を聞いて、上条の脳内で瞬時に段取りが組みあがる。

すぐに人間界に戻って、
素早く神裂とステイルを止めて彼等の助力を、と。

160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:26:16.26 ID:10ySVIwUo

上条「すぐにできるか?!!」

五和「地面が無いと!!!」

となると、作業は着地してからとなる。

そうして上条が、
着地点を見定めようと遥か下方を意識して見た時であった。


上条「―――」


かなり落下したのだろう、
地表の様子が良く見える高さにまで到達しており。

巨大な濃赤色の湖群と、幾本もの大河と荒んだ鉛色の大地―――と思っていたものが違っていたことに気付いてしまった。


湖や大河が濃赤色を帯びているのは、無数の『赤い瞳』のせいだ。


そう、あれは巨大な湖ではなかった。
果て無く伸びる大河なんかでもなかった。


大挙してどこかへと向かっている―――夥しい数の悪魔の群れであった。

161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:28:15.30 ID:10ySVIwUo

上条「掴まってろ!!」

上条はそう声を張り上げては、
素早く五和を一気に引き寄せて抱き上げた。

五和「―――ッ!」

突然の彼の行動に、五和は驚きの表情を浮べるも。
左手で銃を引き抜く上条の行動を見て彼女もすぐに状況を察し、
両腕を彼の首にかけて固くしがみついた。

彼女がそうしてる間に、
上条の瞳が魔を帯びて赤く輝き出し。

右肘から先を省く全身から、白銀の光りが漏れ出し、
左手と両足に光で形成された脛当てと篭手が出現。

全身から放出する力で、爆発的に落下速度を増させ。

上条『しっかりな』

この暴風の中でもはっきりと聞える、
エコーのかかった異質な声で一言告げて。


上条『―――結構揺れるぜ』


そして『強行着陸』を行った―――悪魔の群れの只中に。

162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:29:58.19 ID:10ySVIwUo

それは天頂から、小さい彗星が落下してきたような光景であった。
直下にいた悪魔数体は一瞬で消滅。

衝突点から半径30mは、白銀の光の爆発で吹き飛ばされクレーターを形成、
周囲を木っ端微塵になった大量の悪魔の肉片が飛び散っていく。

上条『――――――ハッ』

その中心地にて全身から魔の光を放つ上条は、周囲を見据えた。
溜め込んでいた息を短く鋭く吐き出して。

五和は飛び降りるように上条の手から抜け、瞬時に戦闘用の魔界魔術を起動し、
彼と背中合わせに構えた。

魔の赤い光を帯びるアンブラの槍を握り込んで。


クレーターの淵には当たり前だが大量の悪魔達がいた。
ダンテやバージル、ベオウルフの記憶にも無い種も多く入り混じっており、その形状は様々。

だがその仕草は、一様に似通っていたものであった。

固い甲殻状の体表を鳴らし、牙を向いては身の毛がよだつ唸り声を鳴らし。
瞳を輝かせ、口らしき部分からおぞましい粘液を滴らせて二人をジッと見据える。

いきなり『振って』沸いた『餌』を前にして。

仲間が踏み殺され吹き飛ばされた事などまるで気にも留めず、
ただただ貪欲に残虐性と暴力性を滲ませて。

163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:32:17.66 ID:10ySVIwUo

五和「…………上条さん……ど、どうしますか?」

周囲からのおぞましい視線の中、背中合わせに五和が口を開いた。
静かだが張り詰めた声色で。

上条『……………………すぐできるか?』

五和「……すみません。準備に時間が。一、二分は……それに……実際に使うのは初めてなんです……」

上条『……』

一、二分。
平時ならばごく短時間であろうが、このような状況では『長い時間』。
だが現状、それしか道は無い。
そして初めてであろうが、
とにかく一発で成功してもらわねばならない。


上条『五和は作業を始めてくれ。その間―――』


上条は篭手に包まれた右拳を握り込んでは、背後の彼女に。


上条『―――俺がお前を守ってやる。頼んだぜ』


五和「―――は、はいぃ!!」

背中越しに彼の言葉を受けて、
彼女はすぐにその魔術的な作業を開始した。

槍を鉛色の地面に突き立てては、
脇から出した短刀で術式を手早く大地に刻み込んでいく。

164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:34:32.72 ID:10ySVIwUo

その背後の作業の音の中。
上条は周囲の悪魔達を見据えながら、ふととある以前の事を思い出していた。

上条『……』

ダンテとトリッシュが留守の時に受けたあの依頼、
寂れたバーにたむろしてた悪魔達を狩った時の事。

その際に放った、自身の言葉を思い返す。
人間界に『押し入った』悪魔へ向けての言葉を。

なぜここで思い出すのか、それは今、『押し入っている』のはこちら側だからだからだ。
己達が魔界に侵入してしまっているのだ。

上条『……』

ただ、そこに関しては特に負い目は感じはしなかった。
ここで問答無用の暴力に手を染めることに、特に後ろめたさなど無い。


 これ     こっち
『暴力』が『 魔 界 』の『真っ当』なやり方なのだから。


その時。

前方から二体、五和を挟んで後方から一体。
周囲のこの包囲網から飛び出してくる悪魔がいた。

165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:37:12.45 ID:10ySVIwUo

前から来る二体は、角の生えた体毛の無い猿のような悪魔であった。
ただ3m以上の体に、1m近い巨大な鉤爪を有す『猿』だったが。

一体目は、その大きな両手の爪をかざして一気に踏み切って突進。
対して上条は特にその場から動かずに。


上条『―――シッ』


強烈な正面蹴りで迎え撃つ。

光の装具で覆われた右足が突き出された爪と腕、
そしてそのまま頭部を簡単に粉砕。

次いで上条は、蹴り出した足を引き戻さずに、
更にそのまま押し込んでは『足場』にして。


その右足を軸にし、今度は左足で薙ぐように蹴りを放つ。


続けて突っ込んできた二体目へ向けて。

上条『―――カッ!』

光で形成された装具に覆われたその右足は、まるで巨大な鎌のように。
その悪魔の上半身を丸ごと横から砕き狩った。

強烈な衝撃と共に二体の悪魔の破片が飛び散る中、
更に上条は二蹴り目の慣性のまま体を回転。

そして後方へ向き。


五和へと迫っていた悪魔へと、左手銃の引き金を絞る。


五和「―――!」

黒い銃口から放たれた魔弾は、

五和の横を掠め通っては正確に悪魔の頭部を吹き飛ばしては貫き、
そのまま向こうの包囲網へと飛んで更に数体の悪魔をぶち抜いていった。

166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:39:03.01 ID:10ySVIwUo

瞬く間に三体を屠り、軽い身のこなしで着地する上条。

一瞬の出来事に驚いている五和に、手を休ませるなと目で合図して、
彼は再び周囲の悪魔達へと視線を向けた。

今一連の動きを見てか、周囲の悪魔達の空気が変わっていた。
茶化しからかうような色は影を潜め、場を支配するのは張り詰めた鋭い殺意。

満ちるは本気の戦意。


上条『……』


大雑把に力をばら撒くのは、近くに五和がいる以上不可能。
そして元より、あの空から見た全ての悪魔を狩る力なども無い。

専念するべきなのは悪魔を倒すことではなく、
五和の移動術が完成するまで耐え切ること。


と、理性はそう判断する一方―――体は喜んで魔界のルールに染まろうとしていた。


その身に宿す、人のものではない『もう一つの本能』が。

理性は冷めて涼やかに、一方、心と体は熱く猛々しく―――。

167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:41:07.11 ID:10ySVIwUo

この力の親である武人ベオウルフからの影響か、
もっと根の部分の悪魔の性質か。

それともあの『ぶっ飛んでる師』の影響か、上条ははっきりと自覚していた。

到底手に負えない規模の悪魔達、守らなければならない五和、
そして離れてしまったインデックスの問題。


それらで焦燥する一方、この綱渡りのプレッシャーを―――『楽しんでしまっている己』がいたことを。


上条はそんな自身の一面に激しく嫌悪しつつも、拒否はしなかった。
今必要なのはより強い暴力性、より強い攻撃性、『力』だ。


目的のためなら何だってする。

人々を救うためなら、友を守るためなら―――インデックスのためなら何でも。

極悪な殺人鬼にでも微笑みかけて手を差し伸べてやる。
それが目的のために必要ならば。

綺麗事などもう気にしていない。
とっくにその一線は越えている。


あの日、ベオウルフを受け入れた瞬間から―――悪魔に魂を売った瞬間から。


上条は煮えたぎるこのおぞましい高揚に身を委ねては、
手招きするように銃口を揺らして。

上条『五和に指一本でも触れてみろ、クソッタレ共―――』


挑発的な言葉を悪魔達へ向けて放った。



上条『―――片っ端からぶち殺してやるぜ』



口角を歪ませるようにして、影の強い笑みを浮べながら。

輝きを一気に強める瞳が、仄かにその表情を照らし上げていた。
禍々しく赤々と。

―――

168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:42:45.93 ID:10ySVIwUo
―――

聞きなれたネコの泣き声と、ざらついた舌が頬を撫でる感触で、
目をうっすらと開け。

禁書「…………うっ…………」

そして胸や腹を圧迫する固いアスファルトの感触にたまらず息を吐き出して。
うっすらと目を開けつつ起き上がると。

さっきまで居たと所とは違うものの、
見慣れた第七学区の町並みが続いていた。

一切迷うことなく寮まで帰られる、良く見知った場所―――なのだが。

違う。

禁書「―――ッ」

明らかに『いつもの学園都市』とは同一ではない。
注意して見ると、周囲全てが陽炎のように僅かに像が揺らいでおり。
夜だったはずの空は明るく、オーロラのようにおぼろげな光りが揺れており。
頬を撫でていく空気も、冬の夜風ではなく妙に生ぬるい微風。

まるで夢の中にいるような、実体感の欠如した風景と居心地。

そしてその光景を『一目』見て、彼女の意識は瞬時にこう断じた。

ここはプルガトリオである、と。

イギリス清教の禁書目録として蓄えた情報ではなく、
この魂の奥底に眠っていた―――アンブラ魔女の知識によって。

禁書「―――」

しかしこの時、彼女の関心はそこに向かわなかった。

フィアンマとの一件以降『なぜか知っている』アンブラの知識よりも。
なぜ自身がプルガトリオにいるかなどよりも。

この時はそれらよりも遥かに重要な事があったから。


禁書「―――とうま!!」


上条と五和の姿が見当たらなかった、という事が。

169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:44:13.75 ID:10ySVIwUo

呼びかけても反応は返ってこなかった。

禁書「とうま!!いつわ!!」

立ち上がりスフィンクスを胸に抱いては、更に強く大きく声を張るも。
この異質な街中をむなしく響くのみ。

それでも何度も彼女は呼びかけ続けたが、
実は気付いていた。

ここに上条当麻はいないと。

わかるのだ。

彼の存在を感じる、彼の鼓動が聞える。
だがそれはこの階層からではないと。

禁書「……とうま。どこに行っちゃったのかな……」

ただわかってはいても、どうしても探してしまう。
あのツンツン頭のシルエットを。

スフィンクスを胸に抱いたまま、
当ても無く辺りを歩いては、恐る恐るこの異界の学園都市の町並みを見渡していく。

と、そうしている時であった。

突如、胸のスフィンクスが威嚇するように唸り声を上げた次の瞬間。

「―――無駄よ」

禁書「ッ!」

すぐ背後で聞き覚えのある声が響いた。

その一言だけ聞いてすぐにわかる。


声の主は、今は既にその位を剥奪されている元イギリス清教のトップ―――最大主教。


しかし、こうして脳内にすぐ羅列された情報は、
すぐに彼女の意識外へと吹き飛んでしまった、

振り向いて、背後のその顔を『再び』見てしまったから。


禁書「―――」

170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:46:20.32 ID:10ySVIwUo

ローラ「この階層にはいない。奴らは。テキトーに飛ばしてやったわ」

ローラの顔を直に見るのは、つい先ほども含めてこれで二度目で。


ローラ「魔界の淵にでもおりけるかもな」


禁書「―――」

この二度目は前回のような突然の魔女乱入も無く。
邪魔されること無く、彼女の意識は当然のように己の真の存在を認識してしまった。

なにせフィアンマの一件によって。
彼女のアンブラの記憶を封じる錠は、既に解き放たれていたのだから。


ローラの顔は三つの意味で見覚えがあった。

一つ目、上司としての顔。

禁書「………………ッ…………」

二つ目、見慣れた己の顔。

まさに文字通り、『鏡を見ている』ようであった。
相違点は成長具合と髪色だけでそれ以外は瓜二つ。


そして三つ目。


夢で見たあの顔。

フィアンマとの一件の翌日に見たあの『夢』。
おぼろげにしか覚えていなかった『夢』が脳裏に鮮明に蘇る。


いいや、それは決して『夢』ではなく―――本物の『記憶』。


禁書「…………あっ…………あ…………」

彼女は言葉にならない声を漏らして、思わず後ずさりしてしまった。
様々な感情が入り混じった形容しがたい色を顔に滲ませて。


脳内に目まぐるしくフラッシュバックしていく。

開かれた深層の扉、そこから堰を切って一気に溢れ出した―――この500年間の記憶と。


想いが。

171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:49:59.17 ID:10ySVIwUo

近衛所属の精鋭たる青髪の姉、メアリー。

幼くして主席書記官である金髪の妹、ローラ。

姉が生まれたのは520年前。
その10年後に妹が生まれるも、母は出産の際に死亡。

以後、姉が母代わりとなり妹を育て上げるが、その妹が齢10となった時。
幼くして彼女が主席書記官となった年の夏。


アンブラに終焉の日が訪れた。


妹も、姉の眼前で天使に殺され。


姉は妹の頭の中にある禁術を起動して、
妹の蘇生を試みるも力が全く足らずに、術は不完全に終わり魂は『安定』せず。

そこで姉の意思がとった次の行動は、
崩壊を留める為に力を精神の分離させること。


そうして分離された『力の入った器』は、
次こそは術を完成さえるために封印して長き休息の眠りへ。

『精神の入った器』は、当時のイングランド地下に隠れ場所を見出し。
『力の入った器』が安置された神儀の間にて守り続けた。

そして450年後のある日、ふらりと迷い込んできた王族の少女と出会って。
500近い歳の差の奇妙な友情を結び。

お互い秘密裏に助力しあい、王族の少女は政敵を排除して王位を継承。
『精神の入った器』はローラ=スチュアートと名乗り、表舞台に長き時を超えて再び立った。

女王の推薦でローラが最大主教の座に付いたのは、
アンブラ終焉の日から470年経った年の夏であった。

そしてそれから25年後、今から5年前。

ローラは来る日に備え『力の入った器』を再起動、
齢10で止まっていた彼女の時を、再び刻み始めさせ―――『禁書目録』として己が手の中に置いた。


『精神の入った器』、その管理人格ローラのモデルが、
『妹を蘇らせるという願望を抱く姉』であったことが起因したのか。


この時、『力の入った器』の管理人格である『インデックス』のモデルとなったのは―――在りし日の『妹』であった。

172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:52:15.35 ID:10ySVIwUo

そして更に記憶は蘇る。
魂の奥深くに刻まれていた光景が。

禁書「―――あッ………………な…………」

音が。

香りが。

感情が。

失っていた空白の間の全て、
『禁書目録』として目覚めた時から今までの『全て』を。

魔術知識を記録するために、
各地を飛び回っては様々な人々と出会った日々を。


                               ルーン
『これは―――大切な人を護るために創った―――新しい文字だ』



禁書「―――『ステイル』―――」


                        とも
『お護りです―――私達がこれからも、良き仲間でいられるように』



禁書「―――『かおり』―――」



忘却の彼方へと奪われた宝物、かけがえのない友の記憶を。


そして記憶は繋がった。



禁書「―――……『とうま』……」



今や愛してやまない彼と出会う―――あのベランダへの瞬間へと。


173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:53:42.72 ID:10ySVIwUo

止め処なくまぶたから露が溢れ流れていく。

取り戻した喜びと、失っていた悲しみを混じらせて。

彼女は力なくその場に座り込んでしまった。

取り戻した過去の感情、想いに一気に身を浸らしてしまったせいで、
精神を急激に消耗してしまって。

禁書「………………………わ……私……」

ぼんやりと口を開いたものの、
次に何を並べて良いかがわからず、言葉は続かず。


気付くとローラが眼前に立っていた。


ローラ「…………」

禁書「…………」

無言のまま、冷徹な眼差しで見下ろして。
そしてインデックスの頭の上に手を乗せるように手をかざしたが。

ローラ「…………ッ……」

『何か』に躊躇ったかのように手を一度、戻しかけた。
涙を湛えるインデックスを顔を見て。

堪えるように力んだのか、頬をわずかに震わせて。


だがそれは一瞬だけ。


即座にローラは手を動かしては、当初そうしようとした通りインデックスの頭にかざした。

すると次の瞬間、インデックスを中心として、
巨大な魔方陣が浮かび上がった。
半径15mにも及び何重にも。

174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:57:12.73 ID:10ySVIwUo

これから何が行われるか、その結果をインデックスは知っていた。

詳しい手順はわからずとも。
最後の結果は、離する前に既に決められていたから知っている。

胸の中のスフィンクスが唸り声を上げているが、何も出来ない。
いつの間にかローラの術にかかっていたのか、
この体はピクリとも動かなくなっていた。

いいや。

禁書「…………っ…………」

何かの術をかけられたのではなく、
前からあった『機能』の一つで単に制御を奪われただけだ。


『私』は、この『力の入った器』の管理人格に過ぎないのだから。


そして今、この『力が入った器』を返すため、『私』は消える。


ステイルと神裂と過ごした私は消える。
彼等との大切な記憶を取り戻したばかりに消える。

上条当麻と出会った私は消える。

上条当麻を好きになった私は消える。


その自身の心にやっと気付いたばかりなのに―――私は消えるのだ、と。


涙が更に勢いを増す。
嗚咽を起こさずに穏やかに、それでいながら大量に毀れ出て行く。

そんな穏やかな泣き方と同じくして。

ローラ「…………ご苦労であったのよ―――」


ローラが沈黙を破って。


ローラ「―――眠りなさい。ゆっくり……安心して」


そう穏やかに告げた。


まるで優しき姉が―――愛しい妹に捧げるような声で。

175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:58:56.74 ID:10ySVIwUo

と―――その時だった。

突然。


禁書「―――ッあ゛ッ!!」


強烈な痛みが胸の奥底を襲った。
そしてタイミング同じくして。

ローラ「―――あッ―――ぐッ!!!!」

顔を歪ませてローラも苦悶の声を漏らした。

即座にインデックスの頭から手を離しては、
跳ね飛ぶようにして後ずさりして。

禁書「―――」

その様子を見ると、どうやらこちら以上の痛みに襲われているようであった。
そしてこの痛みの原因はわからなかったが、体に大きな変化があった。

禁書「!」

体が自由になっていたのだ。

激痛に喘ぎながらも彼女は素早く立ち上がり、
ローラと距離を置くべく後方に下がり、
身構えるようにして少し身を屈めた。

176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 02:00:17.62 ID:10ySVIwUo

一方のローラは胸を押さえては、
いまだに呼吸がままならない程に喘いでいたが。

ローラ「―――なッ―――なッ…………な、な??!!」

彼女の瞳に映る意識は、
痛みそのものではなく痛みの『原因』に全て向けられていて。


ローラ「―――馬鹿なッ…………!!!結んだ??!!!結んだのかッッッ??!!!!」


そしてローラは声を荒げた。


ローラ「―――あの小僧かッッッ??!!あのクソガキと結んだのか??!!!」


インデックスへ向けて、眼を大きく見開いて。



ローラ「―――『契約』をッッ!!!!」



禁書「―――けい―――やく―――?」


ローラ「有り得ない!!!そんなこと絶対に有り得ない!!!!認めぬ!!!決して認めたるか!!!」


感情が入り乱れ、
酷く混乱した凄まじい形相で。


ローラ「『お前』は人形なのに!!!―――ただの『模造』なのに!!!―――」




ローラ「―――ただの『幻想』なのに!!!!」



―――

179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/25(土) 22:56:06.29 ID:jPkANj4IO
ローラさん更年期障害ですねー

181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:23:23.03 ID:R6KekFd3o
―――

魔界の淵の一画。

この界の境界がおぼろげな領域は今、無数の悪魔達で埋め尽くされていた。
大地を遥か彼方まで、大海のように覆い尽くす軍団。

しかしそのとある只中、一箇所だけ、極端に『人口密度』の低い場があった。

半径1km程の円形のその場には下等悪魔は決して踏み入らず、
中にいるのは、群れを監視するように仁王立ちしている少数の高等悪魔と。

そして場のちょうど中央、ちょっとした岩場の頂点に座している、とある一体の悪魔。

身長は3m程で、くすんだ緑色のマントのようなもので、
翼で体を包むように己を覆っており。

頭部には烏帽子の如く尖っている、同じく緑色の兜のようなもの。
兜の淵からは、幾本も伸びている羽飾りに似た光の靄。

その『羽飾り』と『マント』をまるで水の中にいるかのように揺らがせながら、
『彼』は下等悪魔を一切寄せ付けない強烈な圧を放っていた。


正真正銘の大悪魔の圧を。


『彼』は配下に更に複数の大悪魔をも従えているという、
その領域の中でも上位の存在。

そしてこの一画を占めている無数の悪魔達の指揮官でもあった。

182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:24:18.32 ID:R6KekFd3o

現在、配下軍団の行軍は順調に進んでいた。

下等悪魔共も命令に良く従い、
このような軍団に付き物の『共食い』による兵員消耗率も低く上々だ。

さすがにこの愚鈍な下等悪魔共も、今回は特別だと認識しているのだろう。

なにせ、これは悲願の人界再侵攻。

2000年前の雪辱を晴らす祭り。
この淵を超え、プルガトリオを越えた先には至上の宴が待っているのだ。

と。

そんな、この一大イベントの行く末を思い描いて内でほくそ笑む一方。
今現在、彼には一つ気になることがあった。

魔界の淵の別階層を進んでいる他軍団、
そのいくつかの反応が、先ほどから妙に乱れ始めたのだ。

確かに、元々この淵の領域は不安定な場。
これだけの軍団と百を超える大悪魔が集結すれば、相当な負荷がかかるのも当然であるが。

そこを鑑みても、それでもこのタイミングにこの乱れ方はおかしく、
更に何よりもこの大悪魔としての直感が叫ぶ。

何かが起こっている、と。

考えられる最も確率の高い可能性は、
敵対する十強勢力がこの期に及んで妨害をしてきたということか。

十強勢力、そして内戦に表立って参戦していない有力な諸侯の中にも、
覇王の復活と魔界統一を望んでいない者達がいるのだから、不思議ではない。

ともかく十強が一柱である『主』に報告すべきかもしれない、と彼は静かに思い始めていた。


とその時であった。


183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:25:17.54 ID:R6KekFd3o

『―――』

それは唐突に、何の前触れも無く起こった。

突然、この階層が大きく揺れた。
大地は波打ち、空間が歪み界が軋む。

次いで遥か遠方にて赤い光が瞬き。

高さ数キロに渡って、大量の悪魔が塵のように巻き上がって、
強烈な衝撃と共に無数の悪魔達の断末魔が重なり轟いた。

その光景を見、そして放たれている力を感じ取って彼は確信した。

やはり襲撃者だ、それもあの力の規模から見て、間違いなく大悪魔であると。

だがこの分析は『足りなかった』。

現れた襲撃者は、『大悪魔』という言葉だけで片付けられるような存在では無かったのだ。

ただその点に早く気付いていたとも、彼に出来ることはなかったであろう。
彼の末路は既に決していた。

あの襲撃者が彼の力の圧を嗅ぎ付け、
彼を狙ってこの階層に現れた時点で。

184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:26:24.52 ID:R6KekFd3o


相手が『大悪魔』とわかっていれば、そこに手加減は何も必要ない。
探りを入れる先手も最高出力で放つべし。


その時、彼が戦闘状態に移行するのを察知してか、
周りの高等悪魔達が瞬時に彼から離れていき。

更に下等悪魔達も悲鳴に似た声を挙げながら、大挙して一気に彼から離れていく。


そして半径2km程が無人となったその場の中央にて、彼はふわりと岩場の上に浮いた。


すると体を包んでいた『マント』が翼のように大きく広がり、
その下から屈強な金色の腕が一対現れて。

片手にエメラルド色の光で形成された巨大な弓が出現。
もう片方の手で弦を引くと、同じ光で形成された矢が現れた。

彼は古来より、魔界にて特に優れたの射手の一柱として知られていた。
更に十強による内戦の中で、最高の射手としてその武名を馳せてきた。

そして名に負けず、彼が放つ矢はまさに圧倒的。

その矢の性質の最たるものは、標的の最も弱い部位を正確無比に打ち抜くと言う点。

それも力の防御、幕を飛び越えて、
魂そのものを射抜相手を一矢にて絶命させる、という超攻撃特化の矢撃。

彼はこの力を築き上げ、無数の悪魔の中から這い上がって大悪魔になり、
大悪魔世界における更に苛烈な競争にも打ち勝って今の領域にまでのし上がった。

そして最近の内戦では、実際にこの矢で大悪魔を何体も一撃の下に屠ってきたのだ。


彼は弦を目一杯引き、そして力を極限まで収束させていき。


自身の生き様に裏付けられた、絶大な自信と確信を持って―――矢を放った。



遥か彼方に現れた襲撃者めがけて。

185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:28:07.36 ID:R6KekFd3o

エメラルド色に輝く矢が、線となって空間を次元を超越した速度で走っていく。
漏れ出した僅かな余波が、矢の軌道の周囲を消し飛ばしていきながら。

放たれた瞬間の彼の周りの大地、逃げ遅れた下等悪魔達の群れを『掻っ捌き』。
間にある大きな丘を根こそぎ蒸発させ。


そして襲撃者の魂に命中した。


寸分の狂いも無く、今までの彼の実績と同じく正確無比に。

だが―――。


『―――』


―――結果は今までと異なっていた。

手応えは感じた。
いいや―――これでは感じすぎだ。

手応えが『強すぎる』―――『固すぎる』。


それは明らかに―――貫けていない。


あまりに魂が固く、矢が負け砕けた感触であった。


そして彼はここで悟った。
襲撃者は、敵対する十強勢力の手勢などではない。

もっと強大な。


己が主のような十強、諸神、諸王級―――いいや―――遥かにもっとだ、と。



正真正銘の―――『怪物』だ、と。

186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:29:22.24 ID:R6KekFd3o

彼の矢は、襲撃者にな何もダメージを与えられていなかった。

矢が行ったことと言えば、お互いの間の障害物を取り除き、綺麗な一本道を形成してしまったことだけ。
更に強いて言えば、そのせいで彼自身の週末を僅かに早めてしまったことと。

良くも悪くもその一本道のおかげで、物理的な姿をお互い目視したという事。


彼はここで襲撃者の姿を見た。
今まで感じていたものとは比べ物にならない、一気に強まった圧と共に。

大剣を両腕に携えて、
全身から赤、青、そして紫が混じった光を放出している―――魔騎士の姿を。

左手にあるのは、人間界風のギミックから業火を噴出す大剣。


そして右手には―――。


『―――』


その右手にあった大剣を、彼は3万年ほど前に見た記憶があった。
圧倒的な力の存在と共に。

『主』付き従って、三神の謁見に同席した際の事だ。

『主の主』である覇王アルゴサクス、
その上座に座していた、魔界の頂点―――魔帝ムンドゥス。


そして魔帝のすぐ横に立っていた、魔界史上最強の剣士―――スパーダ。


その魔剣士が背に携えていたのが―――あの大剣だ。


魔騎士の湾曲した角やその体躯も、
かつて見たスパーダと非常に良く似ており、間違いない。


スパーダの血族の者が、魔剣スパーダを手にここに現れたのだ。


187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:30:48.96 ID:R6KekFd3o

そう気付いた瞬間、彼は生涯初めて、
真の意味で『戦慄』という感覚を覚えた。

今までだって、幾たびも遥かに格上の大悪魔と戦い、
何度も己が終焉を覚悟した経験はあったが。

これはそんな生易しいものではない。


『覚悟』ではなく揺るぎのない事実、『確信』だ。


あの魔剣、そしてその力を振るう存在から逃げ延びた存在は、今まで一つたりとも居ない。
一つたりともだ。

ジュベレウス、魔帝や覇王といった名だたる天辺の存在達でさえ、
最終的に廃され封じられた。

具体的にどう打ち倒されるかは問題ではなく、あの剣に狙われた時点で終わりなのだ。

いわば死の宣告。

逃げ伸びようとするだけ無駄。

そしてそんな絶望と比例して肥大化する感情がもう一つ。


それは魂を焦がす憤怒。


これほどの力をもって、魔界を裏切った存在への激情。
そう、まさしく魔界に生まれついた者の本能的な底なしの怒り。


最悪最凶の仇敵、魔界の敵たるかの者を決して許すまじ。


これらの絶望と憤怒に魂を染めて。
明らかに勝ち目が無いとわかっていながら、彼はこの襲撃者に挑戦していった。

今まであの剣、あの血族に挑んだ多くの同胞達と全く同じように。

188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:31:48.94 ID:R6KekFd3o

即座に彼は再び弦を引いた。
絶望と憤怒に身を任せて、いや、最早抗えず。

その時。
魔騎士が両腕の魔剣を、その切っ先で大地に叩き付けるように乱暴に下ろしては、
ジロリと彼の方を見据えた。

魔騎士の兜隙間から見える真っ赤に光り輝く二つの瞳。

彼はそれを目にした直後、第二矢を放った。

同時に踏み切り、彼の方へと突進を始める魔騎士。
再び、凄まじい速度で突き進んでいくエメラルド色の壮烈な矢。

しかし魔騎士の瞬発速度は、その矢をも上回っていた。

矢と魔騎士が接触したのはずっと彼よりの場所であり、
しかも矢は直撃すらせず、魔騎士の体2m程前の空間で霧散。


そして魔騎士はその直後、『水平』に跳ね飛んでは更に爆発的に加速して来て。


『―――B――――last!!!!』


くぐもった人語の掛け声を放っては、
左手の業火を噴出す大剣で横に薙ぎ斬った。



宙に浮遊していた―――彼の胴を。

189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:33:07.12 ID:R6KekFd3o

その一振りで、彼の挑戦はあっけなくここに決した。

ただ『あっけなく』とは言うが、その一振りは諸神諸王級すら
一撃で廃されてしまう程に強烈すぎるものであったが。


一瞬彼の意識が途切れ、再び再起動した頃。

魔騎士は、切り落とした彼の上半身を
左手の業火を吐く大剣、その切っ先で突き刺して持ち上げていた。

『……』

朦朧とする意識の中、間近で魔騎士の姿を見た彼はそこで気付いた。
魔騎士の腰に、見慣れた部位がいくつもぶら下がっているのを。


それは別の軍団を率いていたはずの大悪魔達のもの。


名だたる将たる彼等の特徴的な部位が、
無造作に引き千切られては、この魔剣士の腰にぶら下げられていたのだ。

魂が崩れていくこの死の感覚を味わう中、彼は静かに悟った。
このスパーダの眷属は、軍団の指揮官達を片っ端から狩って来ているのだと。

別階層の軍団達の反応が乱れていたのは、
頭を失い烏合の衆となり、右往左往していたからなのだ、と。

190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:34:06.24 ID:R6KekFd3o

とそこで。

魔騎士は右手の魔剣スパーダを肩に乗せて、


『ここの群れのアタマだな?名は?』


エコーの効いた人語でそう問うて来た。

『―――Kjshdhagyhgapoekha』

意識がおぼろげな彼は、
それに対して魔界の言語で返したが、

彼の意識をはっきりさせようとしたのか、
魔騎士が彼を持ち上げている大剣を大きく数回揺らして。

『人語で言え』

そう、どことなく作業的な声を飛ばしてきた。
いや、実際に作業化しているのだろうか。
腰にぶら下がっている彼等の今わの際にも同じようにしたのだろうから。


レラージュ『我が名は……レラージュ』


そして彼、レラージュは人語で己の名を答えた。

『OK、レラージュ』

それを聞いて、魔騎士は小さく頷いては。



『テメェの親玉をここに呼べ』


191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:35:12.47 ID:R6KekFd3o


レラージュ『…………』

彼はただ沈黙を返した。
それで充分であろうから。

従う気はないという意思表示は。

『もう一度だけ言う』

魔騎士再度、大剣を揺らして『宣告』した。



『アスタロトをここに呼べ』



レラージュが返したのは、先と同じく再び沈黙。

『だろうな』

魔騎士は予想通りといった風にそう呟いては、
魔剣スパーダを肩から下ろして―――。

そしてその次が、レラージュが最期に見た『光』となった。


それは魔剣スパーダが放つ一瞬の赤い閃光。


己の首が落とされる瞬間の。


―――


192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:36:42.33 ID:R6KekFd3o
―――

上条『―――ツァッ!!!!』

群がってくる悪魔達を蹴り掃い、吹き飛ばす。
クレーターは新しい穴がいくつも穿たれいて、いまや原型を留めておらず、
そして大量の悪魔の死体で埋め尽くされていた。

上条『―――ッシ…………!!』

だが悪魔の数は一向に減ることは無かった。
倒した数は、空から見た全体の100万分の一にも達していないだろうか。

そして悪魔達も、その攻撃に衰えを見せない。
むしろ倒せば倒すほど、火に油を注ぐように悪魔達の憤怒が強まっていくのがわかる。

そろそろだ。

五和を守りながら戦い続けるのはもう限界だ。

上条『―――五和!!まだか?!』

上条は声を張り上げた。
回し蹴りで悪魔の首を叩き千切り、左手の銃で別の個体を撃ち抜きながら。

その時、こんな事が上条の脳裏をふとよぎった。

こういう時に限って作業はギリギリ間に合わず、
そして事態は更に悪化の一途を辿る、と。


ただ幸いなことに、その直感は外れてはいた。


五和『―――行けます!!』


半分だけは。

そして残り半分は不幸なことに―――当たっていた。


上条『―――』

193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:37:57.59 ID:R6KekFd3o

五和がその朗報を口にしたと同時に、この場の空気が豹変した。
周囲の悪魔達の醜悪な奇声も一瞬で止み、一気に静まり返り。

そして圧し掛かる―――この独特なプレッシャー。

上条『―――』

紛れも無い。

強大な存在が現れたのだ。


その視線を感じ、11時方向のクレーターの淵を見やると。


周囲の悪魔達が退いたその空間の真ん中に、
身長2m半程の細身の人型悪魔が立っていた。

その風貌は、目の部分が窪んだ穴になっている銀色の仮面のような顔に、
赤いマントをフード上に頭からすっぽり身に巻きつけている。

そしてマントの隙間からは、奇妙な模様が刻まれた細い手足が見え隠れしていた。

そんな体躯のみ比べてしまえば、
周囲の悪魔達に見劣りしてしまうだろうが。

上条『―――ッ』

放つ力はまさに圧倒的、間違いなく周囲とは次元が違う―――大悪魔であった。


194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:40:48.38 ID:R6KekFd3o

『―――ほぉ。これはこれは』

それは魔界の言語の一つであった。
五和にはエコーの効いたノイズにしか聞えなかったであろう。

しかしベオウルフを祖としてその記憶を受け継ぐ上条には、
その意味がはっきりと認識できた。

こうして限界までその力を覚醒させているせいもあるだろう、より色濃く、
深淵のベオウルフの部分が浮き上がってきているのだ。

『そちらの人間のメスは…………おやおや、これも驚きだ』

赤いマントに身を包んだその大悪魔は、そう呟きながらクレーターの内部に降りて。
暗い眼孔の奥底を赤く光らせながら、固まっている五和に向けて続けた。

『アンブラの技を扱う者は、強大な二者しか生き延びておらんと聞いていたがな』

そして今度は上条の方を見。


『ベオウルフの眷属たる力に人間の器、そして僅かに香る―――憎きスパーダ血族の匂い』


『―――「例の右手」を持つ半魔か』


そう続けながら何気ないように一歩、また一歩と二人の方へと歩み寄ってきた。

上条『―――』

しかし、見た目は何気ない仕草でも。
隙がどこにも見当たらなかった。

この大悪魔は、この場の隅々まで意識を完全に張り巡らせては掌握しており、
こちらが僅かにでも動きを見せたらその瞬間、相手も必ず動く、と。

そしてもし、そのような状況になってしまうと。

まず人の体である五和がタダでは済まないのは確実。
一挙一動が五和の命に直結する以上、上条は無闇に動けなかった。


そして当の五和は、完全に圧倒されてしまっていた。
体を硬直させ、目を見開いて瞬き一つせず。

小刻みに体を震わせては、歩み寄ってくる大悪魔を凝視していた。

195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:42:40.43 ID:R6KekFd3o

『あの血族には、「個人的」に思うところもある』

大悪魔はそんな二人の様子など全く気にもせず、
ゆっくり歩きながら言葉を続けた。

『かつての人界侵攻の折、先遣隊に我が配下の将が一人加わっていたのだがな』

『聞けば今は、スパーダの息子の使い魔に成り下がっているらしいではないか』


『ナベルスという名、いいや、人界ではこちらの響きが馴染みがあるか?―――「ケルベロス」、と』


上条『……!』


その名を聞いた瞬間、受け継いだベオウルフの記憶がこの大悪魔の名を瞬時に導いた。
ケルベロスの以前の主となれば、該当する存在はただ一つ。


『ネビロス』という非常に高位の大悪魔。


そしてこの大悪魔も、更なる高位の悪魔に付き従える存在であり、
かつての魔帝を頂点とする『ピラミッド』の一員だ。

魔帝の側近たる覇王アルゴサクス、
その配下に座す王の一人『アスタロト』。


そのアスタロト配下の大将の一人、それがケルベロスの主たる『ネビロス』だ。

196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:43:54.02 ID:R6KekFd3o

ベオウルフの記憶に残る特徴との類似性から見ても、
この大悪魔はネビロスで間違いなさそうであった。

ただこの確信は、この場の解決には何も繋がらなかった。

逆に、相手が名だたる大悪魔中の大悪魔と確かにしてしまったせいで、
状況の困窮度が更に浮き彫りになってしまった。

上条『(―――……!どうする!!)』

見据え構えたまま、
上条は思考を更に加速させていく。

五和までは4mの距離。
瞬時に横に行き完成した術式で飛ぶ、それは果たして可能か。

いや、それはどう考えても非常に厳しい。

では先手を打ち数撃、このネビロスに叩き込んでは怯ませて、
その隙に飛ぶか。

否。

それも厳しい。
ベオウルフの記憶にもこのネビロスがどんな性質の力を持っているかは無く、

それ以前にどう解釈してもこの力の圧は―――遥かに格上だ。

以前相対したベリアルが優しく思えてしまうほど。
ベオウルフ本体を装備していたあの時と比べてもそう思えてしまうのだから、
その差は正に歴然としている。

これでは危険すぎる。

そしてそう考えている内に、状況は更に悪化していく。


上条『―――ッ』


その瞬間、もう『一つ』。


上条は敏感に察知した。

今度はこのネビロスのように『いつの間にか』ではなく、

遥か遠方から莫大な力を放ちながら接近してくる―――別の大悪魔を。

197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:46:25.13 ID:R6KekFd3o

『噂に聞く、かの創造を破壊せし―――幻想殺しとやらか』


そう上空から良く響く声を放って。

上条『!!』

二体目の大悪魔が、このクレーターの淵に地響きを立てて豪快に降り立った。

風貌は巨大な翼を有する体長4m程の巨狼、といったところか。
ただその体表は毛皮ではなく、鋼のように黒光りしたうろこ状のものであったが。

その特徴的な格好、そしてアスタロト配下のネビロスと同じこの場に現れたという点から、
この二体目の大悪魔の名はすぐに導くことが出来た。


『カークリノラース』―――人界で良く通っている名は―――『グラシャラボラス』。


ネビロス直下の将であり、同じくアスタロトの勢力に属するこれまた強大な大悪魔だ。


『面白い、その力を見せてもらおうか』

そしてグラシャラボラスは牙をむき出しにして、
上条へ向けそう吼え笑った。

と、そんな巨狼を制止するようにネビロスが片腕を挙げて。


『―――待て。まずは「大公」にお見せする』


そう声を放っては、掲げた指を軽く鳴らした。

その響きは上条にとって。

この絶望的状況を決定付ける最後の止めを刺す音でもあった。

198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:47:59.27 ID:R6KekFd3o

ネビロスが指を鳴らした瞬間、
クレーターの真上に巨大な魔方陣が出現し。


『―――ほほほはははっはははは!!』


その陣の中から良く通る高笑いと共に。


上条『―――!!』

この場最大の絶望が降臨した。


―――それは異形の龍に跨る、翼を生やした騎士―――。


いいや、良く見ると一体となっており、
ケンタウロスのような身体構造か。

『跨る龍の部分』は、鼻先から尾まで20m強、騎士の部分は身長4m程。

騎士の頭部には目も口も無く、顔は鷲のクチバシのような形状で前に突き出しており、
湾曲して上方へ伸びる大きな角。
それこそ、まるで鷲のクチバシを模した兜を深く被っているよう。

右腕には長さ10m近くにもなる、蛇を模したような金色の矛。

そして跨っている部位の異形の龍は三対の屈強な足に、
対照的に片面三つの計六つの瞳を赤く輝かせ、騎士とは対照的に『表情豊か』に唸り声を上げていた。


『はははは!!「例の右手」にアンブラの魔女か!!』


そして、恐らく騎士の部分からであろう声が高笑いを交わらせながら、
先のグラシャラボラス以上に豪快にクレーターの淵へと着地した。

物理的だけではなく、前二者をも遥かに上回る力を放ちながら。
その余りの圧に、上条はこの界が歪むのをも覚えていた。

また遂に耐えかねたのか、崩れ落ちるようにその場に膝を付いてしまう五和。
激しく肩を上下させ、汗を滲ませているその表情は虚ろであった。

今にも意識が飛んでしまいそうな程に。

199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:49:39.71 ID:R6KekFd3o


『思わぬ「獲物」がかかったものだな!!ネビロス!!!』


『正に仰るとおりで御座います。大公』

舞い降りた龍騎士に対し、
ネビロスは腰を低くし一礼しては、そう礼儀正しく言葉を返した。

上条『(―――ッ…………ク……ソ……)』

そのネビロスの態度、そして大公という呼び方。
最早確実。


この龍騎士がかの―――『恐怖公アスタロト』であるということは。


とその時、笑い声を挙げているアスタロトの体が突如『分離』した。
今度こそ、騎士と龍に。

騎士の部分が、
ギチギチと組み合っていた組織が外れていくを鳴らしながら龍の背から降りて。

次いで、騎士の体が一気に縮んで―――。


上条『!!!』


そして上条は一瞬、己が目を疑った。
変化後の、アスタロトの騎士部位の姿を見て。



その姿は白銀のゆったりとしたローブに身を包んだ―――神々しい程の美男子であった。


―――『人間型』の。

200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:51:14.89 ID:R6KekFd3o

ダンテやネロとは別方向の境地に位置する、
まさに場違いの『天使』のような『清廉』な容姿。

ローブとともに爽やかに靡く長い金髪、その宝石のような髪のきらめきが、
空間に柔らかい光を満たしていく。

だがしかし。

上条『ッ……』

上条は確かに感じ取っていた。
そんな表面的な美しさの下に潜む、おぞましく醜悪なオーラを。

造形的には文句無しでも、
どれだけ暖かそうな表情を浮べてもとことん不気味極まりない。

吐き気を催す嫌悪が込み上げてくるのだ。

アスタロトは、体に合わせて3m程に縮んだ槍を片手に。
髪とローブをなびかせては軽やかにクレーターの中に降り。

上条から8m程の一定の距離、そこから彼を中心にして円を描くようにゆっくりと歩き始めた。
彼を検分するかのように、あらゆる方向からその隅々を見ては、
一人何かを確認しているかのように頷きながら。


この時、上条の緊張は最高値に達していた。


散歩しているかのように歩むアスタロト、その身から放たれてくるプレッシャーは、
ネビロスのそれを遥かに凌駕していたのだ。

何か行動を起こすどころか、息を吐くことすら間々ならない重圧。

こんなところで立ち止まっている時間は無いのに。
こんなところで立ち止まっていてはならないのに。

4m程横にいる、今にも卒倒してしまいそうな五和を守らなければならないのに。


そして救いに行かなければならないのに―――インデックスを。

201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:53:43.96 ID:R6KekFd3o


その思いが上条を突き動かす。

例え無謀でも、例え勝算が0であっても。
戦士には進もうとしなければならない時がある。


決して諦めてはいけない。


上条は篭手に包まれた右手を静かに開け閉めして。
左手も、銃のグリップをゆっくりと握りなおして、
足も静かに調子を確認するように動かした。

大悪魔達を刺激しないようにゆっくりと、ゆっくりと。

その僅かな動きや力の流れをも感じ取ったのか、
グラシャラボラスがその身を乗り出したが、ネビロスが再び制止した。

上条『…………』

まず最優先の第一は、五和の安全。
そして第二は飛ぶ時間を確保すること。

そう念頭で何度も確認しながら、
上条は五和の方へとゆっくりと視線を向けたが。

五和の状態は悪化の一途を辿っていた。

座り込んではうつむき、今にも倒れそうなのを、
地に付き立てている槍にしがみついては懸命に耐えていたが。


既に限界であった。
意識を失いそのまま絶命、その結末がもう目の前にまで来ていた。


そんな彼女を様子を見て、遂に上条は動く。
無謀だと確信していた上で。

202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:54:49.23 ID:R6KekFd3o


そしてその確信はやはり『正しかった』。


上条が跳び出した瞬間、いや、実際は飛び出しも出来なかった。
ほんの1cmも移動することが叶わず。

上条『―――ぐッ!!!』


『はは!!生きが良いな!!!!』


アスタロトの高らかに笑う声が響く中。

上条『がああああ―――!!!!』

上条の体が静止して、そして次は僅かに浮いて大の字に宙に『固定』された。
いや、空間に磔にされた、とした方が正しいか。

どんなに力をこめても、まるでびくともしない。
1mmも揺れ動かないのだ。

ただ口や目が動くことから顔は固定されていないか、
そして右手首から先もその幻想殺しのおかげで自由に動いてはいた。


が、それだけであった。

大の字になって手首まで固定されていて、
どうやって右手で体に触れろというのだろうか。

それも物理的な力は人並みでしかない右手で。

この状況に置いて右手は、
状況打開のキーとはならなかった。


『おおお、凄いな。これが幻想殺しか』


右手先から先のアスタロトの縛を壊した、
そんな『見世物』となった程度である。

203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:57:28.05 ID:R6KekFd3o

『いかが致します?』

上条が咆哮をあげている中。
ネビロスはアスタロトの斜め後ろに進んではそう声をかけた。

『そうだな。コレはお前に一任する』

そして、少し思索の間を開けて答えるアスタロト。

『―――!』

『好きにするが良い。ただ調査結果は逐一寄こせ。俺も興味があるからな』

そう続けたアスタロトへ向け、
ネビロスが歓喜に体を震わせながら深々と頭を下げているところ。

『では大公。あのメスは我に?ちょうど小腹が好いてきたところでしてな。それに人間を喰らうのも久々なもんで』

クレーターの淵に陣取っていた巨狼、グラシャらボラスがそう口にした。

上条『―――!!!』

当然、それは上条にとって到底聞き流せる話ではなく。

上条『よせ!!!やめ―――!!!』

だが彼の声など完全に無視して、
アスタロトは会話を続けた。


『バカ言え「カール」。アンブラの魔女は今や絶滅種だ。ここで逃したら永劫喰らえん。悪いが俺が頂く』


グラシャラボラスを『カール』と呼んで。


上条『―――近づくな!!!おい!!!てめぇ!!!!』

五和の方へと、ゆっくりと歩を進めながら。

『はは!!そういえば「カール」、お前は魔女を喰らった事が無かったな!!』

心底嬉しそうに声を挙げながら。


『昔、契約をせがんできた魔女共を喰らったが、癖になる旨さでな!!あれは最高だったぞ!!』


上条『―――やめろ!!!近づくんじゃねえ!!!!!』

響く上条の絶叫が、アスタロトの歩みを止めるわけもなく。


『腹の底で響く断末魔、滲む苦痛、魔と人が混ざった魂の歯ごたえ、それはそれは甘美なものだ!!』


にこやかに笑う『恐怖公』は進んでいった。
五和のすぐ前にまで。

205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 04:00:41.15 ID:R6KekFd3o

だがそこで唐突に、アスタロトはふと笑みを潜め。

座り込んでいる五和を見下ろしながら
何かを嗅ぐように鼻を鳴らした後。


『おい、ネビロス。このメスは処女だぞ。成人した戦士ではない』


不満げにそう口にした。

『そうでしたか?武装は成人のものでしたので、私はてっきり……』

次いでアスタロトは、背後から返されたネビロスの言葉を手を挙げてにして遮り。
もう片方の手の指で五和の槍の柄を軽く弾いては。

『いや、待て……アンブラの魔女ですらない』

その鈴のような音を耳にして断じた。

上条『―――……?!』


『槍と技は確かにアンブラの類だが、このメスはただの人間だ』


『では―――』

その言葉を耳して、ここぞとグラシャラボラスがその狼の顔を再び持ち上げたが。


『やらんよ。こいつは俺の物だ。俺が喰らう』


上条『!!!!』


『我慢しろ。じきに向こうでたらふく喰らえる』


再び笑みを浮べては、アスタロトはこの部下にそう返した。

そして五和の前に屈んでは、
うつむいている彼女の顎に手を差し伸べて。


『タダの人間は、これはこれで「旨さ」があるしな』


まるで救い主かのように、彼女の顔を優しく上げて微笑んだ。
おぞましい事を魔界の言語で口にしながら。

206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 04:03:14.05 ID:R6KekFd3o

上条『やめッ―――!!!!』


『中々の良い造詣だ』

彼女の顔を見。

『肉体も良い』

続けて体をまじまじと眺めてはそう呟き。
そしてアスタロトは、ふと顔を五和の顔に近づけて。

上条『―――!!』


頬を一舐めした。


その瞬間、五和の表情が変わった。

人間である五和も直で触れて、
ようやくアスタロトの醜悪極まりない強烈な内側を感じたのだろう。

更にそれは幸運なことに、
虚ろだった彼女の意識を呼び戻す強烈な『刺激剤』にもなったようだ。


次の瞬間、彼女の瞳に理性の光が戻り、
凄まじい嫌悪感を露にして顔が歪み。


ペッと一回、アスタロトの顔に唾を吐き捨てた。


まさに『吐き捨てた』の文字通りの仕草で。

207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 04:05:54.26 ID:R6KekFd3o

ただその行為は火に油を注ぐか、
もしくは然したる変化をもたらさなかったか。

そう判断せざるを得なかった。

吐きかけられた唾を拭わずにそのまま微笑み。


『―――魂も旨そうだ』


そう口にしたアスタロトの様子を見ては。
そして直後、ここでようやくこの恐怖公が上条当麻の方へと振り返り。

『人間と会う際―――』

今度ははっきりとした「人語」で。


『―――俺がなぜ、わざわざ人の「オス」の姿をとるかわかるか?』


そう問い。


上条『―――』


ニコリとこれまた文句の付けようのない、
造形だけは完璧な最高の笑顔を浮べて。



『―――犯しやすいからだよ』



さらりと続けて答えた。
そして次の瞬間、今までとは打って変わって。


上条『―――ッ!!!!!!』


五和の髪を乱暴に掴み、彼女を地面に押さえつけて―――。


上条『―――やめろおおおおおおおおおおおおおああああああああああああ!!!!!!』

208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 04:07:31.58 ID:R6KekFd3o

と、ここで『また』だった。
上条にとって幸か不幸か、そのどちらなのか判別しがたいが。

このアスタロトとは、非常に気まぐれな性分の持ち主でもあったようだ。

いざ五和に乱暴をはじめるかというその時。
アスタロトは突如ピタリとその動きを止め、また何かの匂いを嗅ぎつけたのか、
鼻をすんと鳴らした。


上条『―――てめぇコラ!!!!殺してやる!!!!ぶっ殺してやるクソがああああああああ!!!』


続けて叫んでいる上条の方へも振り返っては、再び鼻を鳴らして。

そしてスッと立ち上がっては五和の元から離れ、
何事もなかったかのように『龍』の方へと歩いていった。

更に続けて、固定が解ける上条の体。

上条『ッ―――?!』

何が起こっているのかわからぬも。
地に落ちた彼はすぐに五和の元へと駆け出して、彼女を抱き上げた。


上条『五和ッ??!!』


五和『だ、大丈夫です!!!』

幸いなことに五和の意識ははっきりしているようではあった。

五和『は、はい、なんとかッ……!!!』

上条にやや異常なほど力んで固くしがみつき。

上条『本当に大丈夫か??!!本当か??!!』

もう片方の腕の袖で、舐められた頬を執拗に何度も拭いながら、
アスタロトの背を凄まじい嫌悪混じりの目で睨んではいたが。

209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 04:08:47.43 ID:R6KekFd3o

このアスタロトの突然の行動は、
ネビロスやグラシャラボラスにも不可解なものであったようだ。

とはいえ普段もよくある事で慣れているのか、
首を傾げる一方で落ちついていたが。

当のアスタロトは龍に跨っては同化、
そして人の姿を解いて元の姿に戻って、上条達に向けてこう告げた。


『さっさと行け』


上条『―――?!』

確かにアスタロトからのプレッシャーが急激に薄れていったところを考えると、
本当に逃がそうとしているようであるが。

全く意図がわからない。
あんな存在に人で言う『善意』も『慈悲』もあるわけが無い。

逃がす事に何らかの利益があるのだろうか、それこそ『罠』か。

と、いくらでも考えられ、そして非常に『臭い』状況ではあるが。
上条達には、このアスタロトの言葉を拒否するという選択肢は元より無かった。

上条が頷いたのを受けて、
五和は抱かれたまますぐに槍の柄を握り、そして足元の陣を起動。


次の瞬間、二人の姿が魔方陣の中に沈み消えていった。

210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 04:11:28.36 ID:R6KekFd3o

『……さて、今度は一体どのような遊興を思いつきになられたので?』

ネビロスが空になったクレーターの中央を見つめながら、背後のアスタロトへと向けて口を開いた。
幻想殺しというサンプルを失ったせいかやや残念そうに。

それを悟ってはアスタロト。

『すぐに幻想殺しもまた手に入る』

そうネビロスの関心の元に前置きして、こう続けた。


『幻想殺しの向かう先には、「本物のアンブラ魔女」がいる。それも複数体だ』


『なるほど……』

そこでネビロスは納得した。
幻想殺しとあの人間の女から、
この大公は本物のアンブラの魔女の匂いを嗅ぎつけたのだろう、と。


『ネビロス、精鋭たる一隊を選び、率いて俺の後を追え』

『お前の軍団は「カール」に、軍の総指揮はサルガタナスに任せる』

それを聞いて、グラシャラボラスはその身を伏せるようにして一礼した後、
翼をはばたかせて飛び立っていった。


『……しかし大公は、あの人間の覇王復活の支援もなさらねb』


『俺はいらんだろ。あの「陰気なネコ野郎」と「魔剣マニア」がいれば』


退屈な連中だが力は確かだからな、とアスタロトは続けた後。
巨大な翼を大きくはばたかせて、金色の巨槍を掲げ飛び立った。



『では俺に続けネビロス!!―――狩りだ!!!「魔女狩り」を始めるぞ!!ほほほはははっは!!!!』



そう高笑い交じりに声を張り上げながら。

211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 04:15:26.20 ID:R6KekFd3o


―――それからしばしの後。

アスタロトに『カール』という愛称で呼ばれているグラシャラボラスは、

その翼を巨狼の身を大地に横たわらせながら、
周囲を流れていく悪魔達の群れを眺めていた。


ネビロスから預かった軍団の行軍は一切滞りはない。


そう、確かに問題が無いのは良き事である、
が一方で非常に退屈でもあった。

先ほどに、主に付き従うと申し出ていた方がずっと楽しめていただろうか。
そうそんな事を考えても、今となってはただただ無駄であるが。


とその時。


『……』

ふと彼は違和感を覚えた。
別階層を行く他の軍団の反応に。

突然、妙に乱れ始めたのだ。

―――何らかの問題か発生したか?。

不謹慎ながらもそう心躍らせながら、
彼がその狼の頭を持ち上げた瞬間であった。


遥か彼方にて赤い閃光が迸り、
そして大量の悪魔達が巻き上がって。


遂にこの階層『にも』現れた―――『怪物』が。


確かに退屈していた彼が欲していた『刺激』ではあったが、
それはあまりにも『強すぎた』。


強すぎたのだ。

とにかく強すぎた。

―――

214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/29(水) 17:10:45.23 ID:ApIjHKfDO
赤マントでネビロスっていうとメガテンが思い浮かぶ

216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 20:52:51.72 ID:73RNg6C9o
―――


―――『主契約』。


魔女一人につき一体がつく、どちらかが死ぬまで永続する終身契約。

魂と魂を繋げ、力と力を捻り合わせ、存在そのものから一体となり、
そして『肉体的接触』で結ばれる強固な『絆』。

それはアンブラにおける『成人』の証、すなわち―――『真の魔女』たる証。

紛れも無い正真正銘のアンブラ魔女たる証。


そう、『本物』の―――。


ローラ「―――有り得ない!!!そんなこと絶対に有り得ない!!―――」


その揺るぎの無い事実が今、
『とある一人の魔女』の存在をはっきりと証明してしまっていた。

『力の器』に宿っていたのは、
管理しやすいようにと組み込まれた『擬似人格』。


妹の偶像であり模造であり、姉の記憶の中にあった『幻想』―――では―――なくなっていた。


ローラ「『お前』は人形なのに!!!―――ただの『模造』なのに!!!―――」


喚いても怒鳴っても、もうその『事実』は覆ることは無い。

彼女自身がアンブラ魔女として『主契約』の性質を良く理解しているのだから、
そこに疑問を抱けるわけも無い。


ローラ「―――ただの『幻想』なのに!!!!」


だが彼女には到底受け入れられなかった。
頭では理解して認識していても、己の『存在理由』が拒絶する。

そう、『インデックス』という人格の元が、
管理のために作られた『擬似』的存在であったのと同じく。


いいや、むしろそれ『以上』に。

『ローラ=スチュアート』という人格は、この時のために形成された『擬似』的存在だったのだから。


成すべき『使命』―――『あの日に死んだ妹』の復活を果すための『プログラム』だったのだから。


217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 20:54:51.52 ID:73RNg6C9o

血走る瞳、紅潮する頬、爆発的に鼓動を速める心臓。
それらをまるで握り潰そうかというほどに力み震える手で、
ローラは顔と胸を押さえこんで激痛に喘いだ。

痛みの原因は、インデックスに接続を試みた際の『拒絶』によるもの。

アンブラの契約術に組み込まれている強力な防御機構が、
『侵入者』の魂に向けて凄まじい攻撃を放ったのだ。

ローラ「……がっ!!あァ゛ッ…………!!」

顔を覆う指の隙間から見える、5m程先のインデックス。
猫を胸に、こちらを睨みながらやや腰を落として身構えている少女。

その目には、表面上に動揺と困惑が見えていたも。
奥底には、作った当初は無かったはずの確かな光が宿っていて。


いつの間にか―――『魔女の瞳』に。



ローラ「―――」


どうしてなの、なぜなの―――。


私は何がいけなかったの?―――私はいつどこで失敗してしまったの?


―――私は、わたしは、ワタシハ―――。


さまざまな感情が入り乱れて、困惑と混乱の極みに陥っている人格をよそに、
行動の主導権を握る『プログラム』は冷酷に機能していく。

『あの日死んだ妹』を復活させる、ただこのためのだけに。


プログラムは状況を分析し判断していく。


力の器に干渉できない理由は、
宿っているインデックスたる存在が『主契約』を他者と結んでしまっているため。


ならば邪魔でしかない、排除すべき障害物である。


主契約を無効化する唯一の方法、『死』をもって。

力の器を武力行使により『初期化』せよ。


ローラ「―――」


インデックスたる存在は―――『破壊』せよ。

218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 20:58:22.40 ID:73RNg6C9o

喘ぐローラ=スチュアートから5m程先にて。

禁書「―――」

インデックスは乱れる己が内面に戸惑っていた。

蘇る記憶と湧き上がる想いが作る渦は、
次から次へと多種多様な感情で彼女を大きく揺らがせる。

頬を滴っていく雫は、恐怖、愛しみ、懐かしみ、悲しみ、喜び、それら全てを含んでいた。

彼女は、安定しないこの己に強烈な不安を覚え、
発作的に手を合わせて祈りたい衝動に駆られた。


耳を塞ぎその場に蹲りたい、と。
雑然としたこの感情の嵐から逃れ、閉じ篭りたい、と。


禁書「―――……ッ」

だが祈りはできなかった。
過去の記憶がその衝動を正面から叩き壊したのだから。


一体何に向けて祈るというのか。


まさか天界にいる十字教の主か?。


魔女であるお前が祈るのか?、と。


禁書目録として生きた半生、
その間に何度記憶を失っても唯一変わらなかった十字教への信仰。

そんな彼女のたった一つのアイデンティティが、
ここにあっさりと否定されたのだ。

今や、彼女に『逃げ場』は無かった。

219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 21:00:22.44 ID:73RNg6C9o

そもそも彼女は今、祈ることなどできやしなかった。
その腕の中にはスフィンクスがいたのだから。

そう、まるで祈りを妨げるかのように、爪を立てているこの三毛猫が。

重み、温もり、呼吸鼓動、生命力に満ち溢れた確かな存在感をそこに放って、
彼女を見上げていた。

槍のように鋭い眼差しで。


禁書「―――……」

そして次の瞬間、スフィンクスは腕をするりと抜け、
インデックスの右肩に飛び乗って。

彼女の涙の一滴を頬から舐め取った。


禁書「……スフィ……ンクス……」


その三毛猫に導かれて、
彼女の意識はこの己が涙へと向かい。

そこにはっきりと明示されていた答えに気付く。


なぜ涙を流しているのか、なぜこの涙はここまで濃いのか。


それは自分自身の想いだからだ。
決して他人事ではない、正真正銘の己の所有物なのだから。

そして彼女の思考を導くかのように、
スフィンクスが肩の上で爪を立てた。


まるで『逃げるな』と。


『耳を塞ぐな』。


『目を逸らしてはいけない』、と。

220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 21:07:31.68 ID:73RNg6C9o

自分から目を逸らすために祈ってはいけない。
己を偽るために願ってはいけない。


禁書「……」


ここで逃げたら、全てを失ってしまう。
ここで目を逸らして他者に願ってしまったら、もう二度と己は己を認識できなくなる。


『これは私自身のこと』


目を逸らしてはならない、
この身に宿すものを全て受け入れるのだ。


愛しき姉と妹、気高きアンブラの家族。


それら『過去の己』を真とすれば。

ステイル、神裂、そして今までであって来た人々との思い出。
そして上条当麻という存在に与えられた日々と想い。

これら『今の己』も確実な真となり得り。

魔女の過去を受け入れたことにより、魔女の技も真となり。


その『魔女の技』、愛する人と『主契約』を交わしたという事実により、
『己が本物』だとここに証明される。


逃げる必要も目を逸らす必要も無い、あるがままの自分自身がここにある。


重なり同化する過去と今、恐れずその先を見つめれば。
そこにしっかりと存在しているでは無いか。

他者に願って与えられずとも、最初からここにあるではないか。


禁書「―――」


もう二度と覆ることの無い、完璧なアイデンティティが。


疑う余地の無い、確かな存在である―――唯一無二の『私』が。

221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 21:09:52.17 ID:73RNg6C9o

全てを受け入れたインデックスは、過去の自分自身の衝動に従う。
今の己のベースとなっている、『妹』の想いに。

彼女は喘ぎ身を震わせるローラを見つめて。



禁書「―――あ…………姉う―――」



『姉』へと呼びかけ―――たが。
最後まで声を続けはしなかった。

ローラの瞳の色が、混乱から明確な戦意に移り変わっていくのを見て。

そして認識した。

ローラの意識が、己とは違う結果に帰結したことを。


己とは違って―――自分自身の存在を見定める前に、『プログラム』が決定を下してしまったのを。


ローラの結界により、
彼女を打ち倒さぬ限りこの階層から脱出はできない。

戦いは避けられない。

インデックスは『力の器』であるため、宿す力の総量はずっと多い。
それに主席書記官としての記憶、アンブラの叡智が大量に詰まっている。

だがしかし、その存在のベースは妹。
基礎戦闘訓練を受けていない、まともなパンチ一発すら放てない幼き文官だ。

一方でローラのベースは姉。
成人した正式な戦士どころか、栄えある近衛所属という精鋭中の精鋭。


百戦錬磨の正真正銘の武人である。

222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 21:13:11.79 ID:73RNg6C9o

それに戦闘用の魔女の技のほとんどが、
基礎戦闘技術を前提としている以上、インデックスに扱える技は限られてくる。

ウィケッドウィーブや『主契約』による魔の力は、
バレットアーツと組み合わせることでその真価を発揮するもの。

禁書「……」

これは力の総量の差を埋めるどころではないほどの違いだ。

総量が上回っていても決して有利ではない。
むしろどう考えても『不利』そのものであった。


だが、それがインデックスの心を挫く要因にはなり得なかった。
彼女は知っている。
はっきりと理解している。

ここで屈して諦めてしまった、その先に待つ結末がどういったものかは。

それは、決して受け入れられることの無い結末。

だから彼女は、勝算を考えるよりも先に選んだ。


戦うことを。


容認し難き現実が避けられぬのならば―――戦え。


己の存在を失わぬために、己が望む未来を護るために―――抗え。


そして。


たった一人の『家族』に―――『姉』に救いと安らぎを与えるために。

223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 21:18:08.13 ID:73RNg6C9o

その時、スフィンクスが再び彼女の頬を舐めた。

そしてこれも魔女の技か。
絆を介してこの三毛猫、スフィンクスと意志疎通した彼女は。

禁書「ありがとう―――スフィンクス」

この友にささやかな礼を告げた。

その声を聞いてスフィンクスは肩から飛び降りた。
彼女の前で四肢を力強く踏みしめ、ローラを見据えて。

そんな『彼の申し出』を受け入れてインデックスは、
屈んでその小さな背に手を乗せ。


     屹立せよ 汝の牙は我が刃なり
禁書『BIAH, NONCI BUTMON NOAN NAZPS』


エノク語の詠唱を口にした。


       屹立せよ 汝の眼は我が光なり
禁書『BIAH, NONCI OOANOAN NOAN PIAMOL』


それは記憶の中の、
使える魔女の技を組み合わせた即席の術式。


この『友』を一体の強き戦士とするべくの。


そして透き通る声で唱え終わった瞬間。

小さな小さなこの三毛猫は姿を変え。


アンブラ文化の特有飾りとエノク語の文様が全身に刻まれた―――体長3mの白亜の猛虎となった。


224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 21:19:40.06 ID:73RNg6C9o

その『赤い瞳』の猛虎が、
全身からの白銀の光と共に凄まじい咆哮を放つ。

そう、『白銀』。

上条当麻がその身に宿す魔と同じ、『白銀色』の。


その咆哮にまるで応えるかのようにローラがその時、
足で大地を踏み鳴らした。

何度も何度も戦太鼓の如く轟く地響き。

そしてローラが面を上げて手を広げると、
金髪が大きく広がってはうねりその体を包み始めた。

『金の繊維』が、ゆったりとした修道服に瞬く間に編みこまれていき。
修道服は肌にフィットする、体のシルエットが際立つ形状に変わり。


ローラが纏うは―――金刺繍が施された、アンブラの戦闘装束。


広がった裾と袖口から覗くは、
青に飾られたフリントロック式の拳銃。


その『かかとの銃口』でローラは再度二回、大地を踏み鳴らして。


ローラはインデックスを真っ直ぐと睨んだ。

225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 21:22:50.40 ID:73RNg6C9o

すぐさまインデックスは、
スフィンクスから振られたその長い尾に捕まっては彼の背に飛び乗り。

    奏でるは汝の滾り  謳うは聞き手無き詩
禁書『NONCI HE VNPH, AFFA HE FAAIP BIALO』


即席で作り上げた複合術式の詠唱を続けていく。


禁書『(とうま―――お願い―――)』


心の内で、愛する彼へ向けて呼びかけながら。


        与えしは名誉と栄光
禁書『NONCI DLUGAR BUSDIR OD IAIADIX』



禁書『(―――私に分けて―――)』


耳を塞がずに全てを聞き入れた上で、彼女は願った。


        捧げるは血と霊
禁書『ZORGE DLUGAM CNILA OD GAH』


己の全てを受け入れた上で、彼女は祈った。


    屹立せよ アンブラの鉄の処女
禁書『BIAH, IAIDA PARADIZ OL UMBRA』




禁書『(あなたの―――勇気を!!)』



この声は―――『真の祈り』はきっと届くと信じて。



スフィンクスの背にて、真っ直ぐにローラを見据えるインデックス。
頭上にエノク語の術式を浮かべ、髪を光輝かせて。


そして彼女は遂に、ここに真っ向から立ち向かうため前へと踏み出した。


己が力で、己が意思で。



己の『真の物語』を決着させるべく。



―――

227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/02(土) 21:26:49.39 ID:J1wOLbBN0
未だかつてスフィンクスがここまで凄いことに
なったSSがあっただろうか

229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/02(土) 22:45:20.61 ID:6bRtRzGDO
スフィンクスさんも参戦ッスか……
良いね

231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/03(日) 02:50:21.08 ID:Iys2YlRqo
登場人物総インフレが始まる…!
だがそこがいい乙!!

234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:33:49.90 ID:98Sc9bWAo
―――


この感覚を味わったのは二度目であった。


ただ、全てが前回と同じという訳もなく。
成り行きは最初から最後まで同じでも、『逝き先』はどうやら全く別であったようだ。

この意識が最後に『逝き』付いたのは、
業火の只中に落ちていくイメージ―――『今の己』の魂が帰属する『炎獄』の風景。

訪れるのが初めてでありながら、生まれ故郷でもある領域。

人であった心がその業火に喘ぎ苦しむ一方、
この魂と力は落ち着き安らかに。

本来はそのまま、ここで全てが朽ちていくまで漂っているのだろう。

だが『今回』も、『成り行き』に関しては最初から最後まで同じ。


細かい点は異なっているも、前回と同じように彼は再び再生する。
彼の死は絶対に受け入れんとした友の、いいや、『新しい主』の手によって。


その炎獄の黄泉の領域から、彼は引き上げられていった。

235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:35:32.49 ID:98Sc9bWAo


「…………」

まるで霞のようであった精神が再び固定化、
己の存在意識を取り戻して、彼は静かに目を開けた。

視界は酷くぼやけていた。

全体的に黒い中、中央の一画が温かみを帯びて明るく、微妙に動いているか。
わかるのはそれだけ。

視覚だけではなく聴覚、嗅覚、触覚、
力の感覚などなど全ての知覚がかなり鈍っている。

だが徐々に回復してきており、ぼんやりとそのまま目を開けていると、
視界の中にある像の輪郭が徐々にはっきりとしていく。

そして意識も明瞭となると同時に響く、全身からの、特に胸から腹にかけての痛み。

「…………」

回復してきた触覚で己が仰向けになっていることを認識しながら、
彼は記憶を遡っては事の成り行きを確認し、状況を分析していった。

まずこうして肉体と確かな意識が存在していることから、
どうやら己は『また』蘇生したようだ。

236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:36:17.69 ID:98Sc9bWAo

外面の分析はこれぐらいで良いだろう。
次に分析するのは己が内面。

この肉体と力の感覚、確かに魔のもの。
変わらず存在は悪魔だ。

そしてこの胸から腹にかけての痛み。

記憶によると、これが黄泉の世界を垣間見る原因となった傷。
とある強烈な一太刀によるものだ。

「…………」

そう。

自分は魔女に『そそのかされて』とにかく戦って、
そして切り捨てられたのだ。


この、こちらの顔を至近距離から覗き込んでいる―――


「…………」


―――神裂火織によって。


やっと回復した視覚は、目新しい涙の跡が残る彼女の顔をはっきりと捉えていた。
同時に嗅覚が彼女の香りを、触覚が空気を伝わった体温を。

237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:37:27.87 ID:98Sc9bWAo
彼はそこで、全ての知覚で彼女を捉えた。

今度こそ魔女の意志の邪魔を受けず、
自分自身の意識で認識した。


黄泉を越えた『再会』を。


彼女はこちらの安定した視線を見て、
緊張が解けたように穏やかに微笑んで。


神裂「ステイル」


呼びかけてきた。
心なしか、泣き跡の目立つ目をまた潤ませて。

そして彼女はゆっくりと両手を彼の顔に伸ばして、
頬を挟み込むように優しく触れて。

鼻先が触れるかというくらいまで顔を近づけた。


ステイル「―――」


その瞬間。

一気に、ステイルの中に彼女の思念が流れ込んできた。
さまざまな情報、記憶、感情、想い、神裂がその心の中に持つありとあらゆるものが。

ステイル「…………」

バチカンの後の神裂の動向。
バージル・魔女との関わりと神裂がここに来た理由。

そして今、己の置かれているこの状況。

ステイルはそこでようやく把握した。

ああ、そういう事か、と。


『今度』は神裂が僕の主になったのか、と。


238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:39:28.20 ID:98Sc9bWAo

無言のまま、呆れたように息を吐いては静かに頷くステイル。
そんな彼に向けて神裂は顔を近づけたまま。

神裂「先に……こうして話ができたら良かったのですが」

ステイル「…………ああ……それは悪かったな」

神裂「まあ仕方の無いことですし。結果良ければ良しとしましょう」

ステイル「ふん……結果良ければ、か」

神裂「何か不満でも?あるなら今の内ですよ」


ステイル「果たしていつまで僕は、君の奴隷を勤めればいいのかな?」


神裂「さあ……」

そのステイルの問いに、
神裂はわざとらしく首を傾げて。


神裂「私の気分次第、ですね」


意地が悪そうに笑てそう告げ、
そしてこれまたわざとらしく。


神裂「まさか嫌ですか?」


そんな事を聞き返してきた。

239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:42:20.81 ID:98Sc9bWAo

嫌か。

神裂の使い魔となるのは嫌か。

ステイルは数回、神裂の問いを意識の中で繰り返し確認し、
ぽつりと答えを返した。


ステイル「腹が立つね」


―――それも悪くもないなと思ってしまう自分に、と。


そしてその意識内の声は、
音に出さなくとも今や筒抜けであった。


ステイルがそう答えた瞬間。
神裂は嬉しそうに、満足そうに笑みを浮べた。

ステイル「―――」


透き通る子供っぽさと、大人びたの美しさが混じった最高の笑みを。


神裂のこんな表情は今まで見たことも無かった。

インデックスと彼女と同じに感じるローラ以外では絶対に心が動くことが無いステイルですら、
この瞬間は意識が惹き付けられてしまっていた。


そして彼は思った。

君はそんな顔もするのだな、と。

認めよう。
君は最高の友であるが、一方で素晴らしく魅力的な女性でもある、と。


さすがにインデックスには到底及ばないがね、と続けて。

240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:44:14.21 ID:98Sc9bWAo

もちろんそんな心の声も筒抜けであったようで。

彼女はすばやく跳ねるように、
ステイルから離れ立ち上がっては一度咳払いして。

神裂「ッ。くだらない事を考えてないでさっさと立ちなさい。今はそれどころではありません」

取り繕っているのが明らかにわかる調子で、
そう冷ややかに声を放って。

彼の前に左手を差し出した。

ステイルは上半身を起こしてその左手を取る―――というところで、
何かを思い出しかかのようにふと動きを止めて。

神裂「……?」

ステイル「ああ一つ、言いたかったことがある」

確かに今は、心の中で呟くだけで通じる。
声にしてはっきり言っておきたかった言葉があったのだ。

ステイルは神裂の左手をとっては握り締めて。



ステイル「―――おかえり。神裂」



改めての『再会の言葉』を向けた。

神裂「―――」

その言葉を受け止めて神裂は、
一瞬の驚いたような表情ののち、再びあの最高の笑みを浮べて。



神裂「―――ただいま帰りました。ステイル」



そう、良く響く声を返して。
彼の手を強く握り返してその体を引き上げた。


ステイル「―――では急ごうか。我が『主』殿」


神裂「ええ。インデックスの下に―――」


―――

241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:45:24.65 ID:98Sc9bWAo
―――

プルガトリオ、魔界に近いとある階層にて。

ダンテ「……」

ダンテは相変わらず朽ちて倒れている柱の上に寝そべりながら、
ロダンが宙に映し出した『球状の映像』を眺めていた。

ダンテが指を動かすたびに、
まるで見えないリモコンに操作されているかのように
球体は次から次へと新たな映像を映し出していく。

ただその範囲は、
この映像の抽出元であるセフィロトの樹の影響域に限られているが。

魔界などの異界はもちろん、人間界でも元から魔寄りのフォルトゥナ、
今や魔境と化しているデュマーリ島などの領域を見ることはできない。

そしてもう一箇所。


ダンテ「おいロダン。学園都市がうつらねえ」

ダンテは寝そべったまま、球の向こう少し離れたところにいるロダンへ向けて、
そう声だけを飛ばした。

その風体や仕草はまるで、
テレビを見ていたところチャンネル変更が効かなくなって、文句を垂れているよう。

242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:47:52.58 ID:98Sc9bWAo

ロダンは球を挟んでの反対側、
少し離れたところにて葉巻片手に佇んでいた。

一見すると、ただなんとなしに立っているようではあったが、
実は意識内で様々な作業の最中であったらしく。

ロダン「―――んん?あん?何?今何つった?」

ダンテ「学園都市が見れねえ」

ロダン「知るか。セフィロトの樹の機能に何かの障害が及んでいるんだろう」

そしてダンテが声をかけたそのタイミングもちょうど良かったらしく、
彼はダンテの声に簡単に答えて。

ロダン「それと準備が出来た。行くぞ」

ダンテ「ん?何の?」


ロダン「天界の奴と会うって話だろ。アポとったぞ」


ダンテ「あ〜……そうだったな。エライ奴に会えるか?メタトロンとか」

ロダン「馬鹿言うな。セフィロトの樹の管理を任されてる連中はジュベレウス派のお膝元だ」

ロダン「その辺の奴等と接触を図ったら速攻でバレちまう」

243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:50:49.28 ID:98Sc9bWAo

では誰に会える、
と言いたげにダンテは肩を竦めた。

相変わらず寝そべり、しかもその視線は映像に向けたまま。


ロダン「……天津神とアース神族のアタマ連中が馴染みでな。昔、一緒に無茶を色々とやった連中だ」


ロダン「ウンザリするくれえに『愉快』な連中だぜ。きっとお前さんともウマが合う」

ダンテ「へえ……そいつぁイイ」

ロダンへの答えも半ば話を聞いていないようなもの。

ロダン「おい聞いてるのか?行くぞ」


ダンテ「ああ、行ってきてくれ」


ロダン「……あ?何?」


そして続けられたダンテの言葉。
それはまさに段取りなんかあったもんじゃないものであった。


ダンテ「お前が話をつけてきてくれ。任せる」


ロダン「…………」

全くわかりきってはいたことだが、
ロダンはつくづくこのダンテという男の『やり方』を思い知らされた。

ロダン「……………………ああわかったわかったよ。お前さんに従うぜ」

拒否する術もない事も。

そしてここではっきりと自覚してしまった。

ちょっと協力するだけの予定であったのが、
気付くと思いっきり片棒を担がされ『首謀者の一人』となってしまってた点に。


もう後戻りはできなくなってしまってたことに。


ロダン「(全く…………俺も遂に悪乗りが過ぎてきたか)」


244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:52:14.86 ID:98Sc9bWAo

ロダン「お前さんは何を?」

ダンテ「これから決める」

ロダン「……ネロから何か連絡あった場合はどうする?俺がいないと繋げることができないが」

ダンテ「あいつなら大丈夫だろ」

ロダン「……」

そしてそんな風に簡単に確認したのち。

ロダン「……お前さんが任せるっつったんだ。向こうでの俺の判断に文句は言うなよ」

ダンテ「おう」

ロダンはそう告げ、
姿を消して『会談』に臨んでいった。

ダンテ「………………」

一人残ったダンテは柱の上にて。
寝そべりつつ片方の手を上にかざしては、その手の平を見つめた。

指無しグローブに刻まれている一筋の裂け目を。

そして意識する。
その裂け目の下に重なっている『二重』の古傷を。

二度とも同じ状況で二度とも同じ刃で刻まれた、
それも『彼』らしく寸分たがわず見事に重なった傷を。

245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:00:25.71 ID:98Sc9bWAo

ダンテは感じていた。

今もどこかでこの傷をつけた彼が―――バージルが、
こちらに意識を向けて集中していると。

自分と同じく、互いの動きを悟ろうと感覚を研ぎ澄ませていることを。

ダンテ「…………」

かざしているその手は少しばかり汗ばんでいた。

気付かぬうちに緊張しているのか、
いや、当然しているのだろう。

思い出せば、
バージルとこうして真っ向から意を反したときははいつもこうであった。

幼い頃の兄弟喧嘩の時も。

時を経てテメンニグルの塔で再会したときも。
マレット塔で二度目の再会の時も。

あのネロアンジェロがバージルだったと気付く前から手には力が入っていた。

魔帝を滅亡に追い込むことになったあの騒動、バージルと三度目の再会を果すことになったあの時も。

そして先日、学園都市で刃をぶつけあった際も。


いつもであった。


ダンテ「…………………………………………」


体の芯から滾る、あまりにも破壊的なこの血。
『血族の共食い』こそ至高とばかりに、忌々しくも強烈な快感を与えてくれるこの感覚。

そう、この感覚は凄まじい快感を与えてはくれるが、
ダンテの理性には度が過ぎていた。


ダンテという人格にとってこの快感は、過去も今も変わらず―――果てしなく不快なものであった。


246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:02:14.47 ID:98Sc9bWAo

そんな風に過去の記憶に浸り。

遠い領域にいる兄の意識を肌で感じる中で、
ダンテは静かに上半身を起こして。


ダンテ「ケルベロス。アグニ。ルドラ。ネヴァン。イフリート」


良く使うお気に入りの使い魔達の名を口にした。

その瞬間、呼び出された魔具達が虚空から降って現れ、
周囲の地面に勢い良く突き刺さって林立した。

ダンテは彼等を一瞥しながら
傍に立て掛けてあったリベリオンの柄をとっては背中にかけて。


ダンテ「さてとだ。お前らにも存分に働いてもらうぜ」


ダンテ「ただ、今回は人手が要りそうでな。魔具としてではなく、それぞれの体で動いてもらう」


柱の上であぐらをかいては、
不敵な笑みを浮べてそう告げた。

247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:05:51.08 ID:98Sc9bWAo

その彼の言葉を聞いた直後、魔具達は一斉に真の姿へと形を変えた。
ケルベロスは三頭の氷の巨狼、
アグニ&ルドラは首のない青と赤の二体の巨人へと、
ネヴァンは妖艶な淫魔へと、

イフリートは巨躯の筋骨隆々とした炎の魔神へと。

それぞれの炎、冷気、雷、嵐が入り混じり、
周囲は一気に混沌とした様相へとなっていく。

アグニ『遂に戦か?!』

ルドラ『戦なのか?!』

そしてまず声を挙げたのは二体の巨人達であったが。

ダンテ「でけえ祭りになるからいいから黙って聞け」

ダンテは騒がしい彼等を手早く受け流して。


ダンテ「事を始める前に言っておくことがある」


そして本題へと入った。



ダンテ「―――今ここで、お前らとの主従関係は無効とする」



あっさりと、まるで何でもないことかのように、
不敵な笑みと変わらぬ軽い声色で。



ダンテ「―――つまりお前らは自由の身ってこった」


248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:08:27.51 ID:98Sc9bWAo

長い付き合いの使い魔の彼らでさえ、
さすがにこの言葉は予想外であったらしく。

皆が皆動きを止めてはしばらく押し黙ってしまった。

だがダンテはそんな彼等の様子もまるで気にする風もなく。

ダンテ「お前らとは長い付き合いだからな。『皆勤賞』だ。そろそろ解放してやる」

軽い調子のまま、彼等にとっては重い言葉を続けて言った。


ダンテ「そんでもってだ。俺に協力するかどうかは各々の判断に任せる」


そこで再びの沈黙。
だが、この二度目の沈黙はそう長くは続かなかった。


ぼそりと。


イフリート『愚問』


イフリートがそう口にしたのを皮切りに。


ケルベロス『魔狼の忠誠心を舐めるな、我が主よ』

ネヴァン『要するに「僕」から「友」に格上げということよね?良いわぁ良いわねぇ。これで正式にあなたへ求(ry』

そしてネヴァンが言い切る前に騒がしい双子が続いて。

アグニ『対等な友ならばダンテの言伝に』

ルドラ『無理に従わなくとも良いということか』


ダンテ「ああ強制しねえが『黙っててくれ』と心を篭めて頼む」


249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:10:30.75 ID:98Sc9bWAo

そうやって『元』使い魔達はここで、
僕ではなく『友』としてダンテについていくと意志を明らかにしていった。

ダンテ「…………」

とそこで彼はふと肘を付き、急に思案気に黙った。

実はもう一体いたのだ。
ここで解放しようと思っていた使い魔が。

ただ、その使い魔との関係は少々厄介であり。

だがもたもた考えるのはいらないとばかりに、
彼は笑い混じりに膝を叩いて。


ダンテ「―――ベオウルフ。来い」


最後の使い魔を呼んだ。


すると正面に現れて地面に突き刺さる―――銀の具足。


ダンテ「元の姿に」


そしてダンテがそう言霊を放つと。


獣の顔をした、一角の巨人が姿を現した。

獣脚と鉤爪のある手足は筋骨隆々として、
背中にはその巨体と釣り合っていない小さな翼。


そして刃の傷で潰れた両目と―――同じく刃による、頭部を十字に走る大きな傷。

強烈な圧が混じった咆哮を挙げて、
ベオウルフはその真の姿へと成った。

250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:14:22.61 ID:98Sc9bWAo

ダンテ「ハッハ〜、お前と『対話』するのは随分と久しぶりだな」

そんなどう見ても穏やかではない彼へ向けて、
ダンテは相変わらずの軽い調子で言葉を飛ばした。

ダンテ「お前とも長い付き合いだ。解放してやるぜ。世話になったな」


ベオウルフ『―――解放―――だと?』


そしてこの大悪魔は示した反応は当然のもの。

怒りがありありと滲む声をダンテに向かって放つ。

ベオウルフ『見えるか、我が面が―――』

脚を踏みしめては大地を砕き。

ベオウルフ『―――左目は貴様の父に!!右目は貴様に!!』

全身から力を放ち。


ベオウルフ『そして貴様の兄に割られたこの傷を!!』


牙をむき出しにして。


ベオウルフ『―――この呪われた血族め!!忌まわしき反逆者共が!!穢らわしき混血めが!!!!』


251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:15:28.13 ID:98Sc9bWAo

その時、
ダンテへ向けられた挑発と侮辱の言葉に耐えかねたのか。



イフリート『―――黙れ下賤の者めが』



イフリートがダンテとベオウルフの間に割って入るように踏み込んだ。
全身から、ベオウルフを遥かに上回る諸王としての力を放ちながら。


そう、彼はかつて炎獄の頂点に君臨していた紛れも無い『王』。
大悪魔の中でも随一の領域に属し、
この場にいる元使い魔達の中でも一人だけ飛び抜けている存在だ。

ベオウルフ『黙れ!!貴様も同罪だ!!それでも誇り高き魔神たる一柱か!!否!!!貴様は恥の塊だ!!!!』

だがベオウルフも退くことなく、
更にイフリートにも向けて言葉を叩き込んだ。

イフリート『これは滑稽。完全なる敗者の分際で、いつまでも吼える弱者が誇りを語るとは。愚かな負け犬には我慢ならん―――』


その言葉を受けて、イフリートも更に圧を強めて前へと踏み出して―――。


ダンテ「おいおいタンマタンマ落ち着けってお前ら」

252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:17:24.03 ID:98Sc9bWAo

と、その一触即発の中、
ダンテが言葉を飛ばしては宥めて。

まるで他人事のように相変わらずニヤつきながら。

ダンテ「イフリート、お前も言いすぎだ」


ダンテ「ベオウルフは強い。こいつには俺も世話になったし―――」

何気なしにこう続けていく。


ダンテ「―――こいつの力を貰った『あのボーヤ』も今やめっぽう強いぜ」


ベオウルフ『………………』

そしてこの時、ベオウルフがピタリとその動きを止めた。
ダンテが口にした『あのボーヤ』の事を耳にして。

ダンテ「あー、よしわかった。だったらはっきりさせようぜ。お前が望むなら勝負を受けてやる」


ダンテ「次は魔具にはしねえ、お前の望みどおり…………どうした?」



ベオウルフ『………………………………………………』


何かを考え込んでいるようにも見えるベオウルフは。
潰れた目の眉をピクリと動かして。

こう続けた。
今度はうって変わって、冷静に淡々と。


ベオウルフ『気が変わった。良いだろう。貴様に付き合ってやる』

253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:20:31.17 ID:98Sc9bWAo

ダンテ「ハッ!中々付き合いいいじゃねえか!いいねえ!!そうだそのノリだぜ!!!」

その答えを聞いて、
ダンテは嬉しげに手を叩いて笑った。

特に理由を聞くことも疑うこともなく、
ベオウルフの言葉をすんなり受け入れたのだ。


他の元使い魔達は―――特にイフリートは嫌悪と疑念を強烈に露にしていたが。


イフリート『妙な真似はするな。貴様を見ている』


元の位置へと去る際、炎の魔人はそう言葉を残し。

ベオウルフ『カッ。腰巾着は失せるがいい』

ベオウルフも下がり際、敵意をむき出しでそう吐き返していった。

とその時。


ロダン『ダンテ、聞えるか?』


突然に、中空に浮かんでいる球状の映像からロダンの声が響いてきた。

ダンテ「お、どうした?もう話し終わったのか?」

ロダン『いや……待て……とにかく急展開だ』

早口で、彼にしては珍しく慌てている声。
ロダンがここまで動揺しているとなると相当の何かが起こったのか。

そしてそのダンテの推測は正しかった。

254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:22:02.25 ID:98Sc9bWAo


続く早口のロダンの声。


ロダン『まだ概要は詳しく聞いていないが……タイミング的に喜ばしいのは間違いない』

ロダン『以前から計画していたようで、連中はジュベレウスの完全滅亡を機に始動していたらしい』


ダンテ「落ち着け。要点を言え」



ロダン『蜂起だ―――天界で反乱が始まる。打倒ジュベレウス派のな』



ダンテ「―――…………」


それは間違いなく『相当の事』であり、
ロダンの言葉通り状況的に『喜ばしい事』でもあった。

だがしかし。

ダンテは非常に気に入らなかった。

再度あからさまに見えてしまったからだ。
この状況が『作られたもの』だと。


まただ、と。


またタイミングが良すぎる、と。



―――『お膳立て』が過ぎるぞ、と。



ダンテ「……………………ハッハ〜、匂うぜ。プンプン匂ってるぜ」


そして感じる。


姿無き形無き、それでいて『どこにでも』存在している『この敵』の存在を。


―――

258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/06(水) 01:39:50.22 ID:IoA36g7DO
ベオウルフは上条さんと同化してたから何か知ってるみたいだな

259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/06(水) 01:51:16.13 ID:dKZ1Cor3o
メタトロンって形でまさかのイーノックがちょっとだけ登場w

261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/07/06(水) 07:25:15.22 ID:98Sc9bWAo
当SSにおけるメタトロンですが、某イーノックさんとは特に関係はありません。
また、今後にストーリーに関わる形で別作品が新たにクロスすることもありません。
ちょっとした小ネタ程度です。



267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:43:49.90 ID:mbYW1UyQo
―――

学園都市第七学区。
とある無人の大通りにて。

神裂「………………」

ステイル「………………」

二人は無言のまま、思案気に顔を曇らせてその場に立っていた。
彼等の周囲の地面には、アスファルトが捲れ上がっている大きな穴が二つ。

一つは中央分離帯に沿うようにして続く、地面とほぼ水平に激しく削り掃ったと見える縦長のもの。
もう一つはまるでスプーンで一掬いしたかのような、断面の滑らかな円形の穴。

神裂「…………」

一つ目の縦長の穴は、
残留している力からもはっきりとわかる通り上条当麻のものだ。
その位置や地面の削れ方から見て、高速で動いていたところを急停止したものであろう。

そして二つ目。

ステイル「…………」

これも同じく、力の残り香からはっきりと識別できた。
特にステイルにとっては間違えようも無い。


この穴を形成したのは紛れも無くインデックスの力。


ステイル「……………………」

一体何がここであったのか。
それを知るには情報が少なすぎるが、
ただ一つ、ステイルには断言できることがあった。

それはインデックスが今、非常に危険な立場に立たされているという点だ。

268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:44:54.31 ID:mbYW1UyQo

ステイルは他にローラ=スチュアートの、
神裂はジャンヌと五和の残り香をそれぞれ認識していた。

その混ざり具合、特にジャンヌの残り香の質が、
ここで何らかの力の衝突があったことを物語っており、
『あの』インデックスの力も解放されたという状況証拠。

何か重大な事があった、いや、今もなお彼女の身に何かが起こり続けているのは確実だ。

そして今、そこに付随する大きな問題がもう一つ。

ステイル「……………………それでどうするんだ?」


インデックスを追跡する技術が無いことである。


神裂「…………今考えています」


ステイルが飛べるのはイギリスの中だけ、
神裂は魔女に人間界内での基礎的な飛び方を教わっただけ。

二人とも界を超える技術は持ち合わせてはいない。
当然、残滓を解析して追跡などできるわけがない。

269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:46:40.18 ID:mbYW1UyQo

神裂「……ローラ=スチュアートはインデックスが目的でここに現れた、で確かなんですね?」

ステイル「そうだ。僕の記憶を確認したろう?あれの通りだ」

神裂「………………そうですが、やはり言葉でも確認したいので」

ステイル「…………。ジャンヌと言ったか、あの魔女はまだローラを捕らえていないのか?」

神裂「まだでしょう。捕らえたのならば、ジャンヌさんか五和がすぐにインデックスをこちらに連れて来ますので」

ステイル「五和は飛べるのか?」

神裂「非常用にと、私も五和も人間界への戻り方だけは教わっていますので」

ステイル「………………他の魔女の協力は得られないのか?」

神裂「今何とか助言を仰いでいますので黙っててください」

自身のこめかみを指差しては、そう突き刺すような声色で言い放つ神裂、
彼女は明らかに苛立っていた。

ステイルと同じくインデックスの身が心配な上、バージル達から託された仕事が滞っているからであろう。
もちろん思考は冷静な一方、感情はこの状況と自身の不手際に激しく憤っているのだ。

そして当然、その苛立ちはステイルにも伝播していた。
使い魔は主に強く影響されるのだから。

神裂「…………はぁ……厳しいようです。魔女の追跡術は、素人が指示を受けながら扱えるような代物では無いと」

ステイル「…………では、他の魔女にここに来てもらうのは?」

神裂「それも難しいですね。今は皆、各々の仕事に取り掛かっていますので。人手が不足しているんですよ」

バージルさんがあなたの蘇生を許可してくださった理由の一つですかもね、
と投槍に神裂がボヤいたその時。

ステイル「―――……?」

二人はふと、一つの気配がこちらに向かってくるのを察知した。
この大通りに沿って、先ほど自身達が戦っていた地の方角から。

270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:49:10.65 ID:mbYW1UyQo

そして高排気量のけたたましい音と共に、
バイクに跨った非常に物騒な格好をした白人女が現れた。

ステイルが知っている一人の女が。

ステイル「―――」

ダンテやトリッシュの同業者、デビルハンターのレディだ。
初対面は病院にて先日、会話は数語交わらせる程度しかしていないが、
上条からは『魔界魔術に関してはとにかく超一流で、トリッシュを上回る技術と知識を有している』聞いていた。

そして今、そんな彼女がここに現れるということはなんと幸運であろうか。

そんなステイルの思考はすかさず神裂にも伝播していく。

神裂「―――……」

気持ち良いくらいにかっ飛ばして来、
焦げ臭い白煙を噴き上がらせながら二人の横に乱暴にバイクを止めたレディ。

そしてバイクに跨ったまま、
サングラス越しにぶっきらぼうに口を開いた。


レディ「―――ステイル=マグヌスだっけ。そっちは確かイギリスの。向こうで暴れたのアンタ達?」


神裂「はい。突然ですがレディさん、実はあなたのお手を借りたいと思っていまして」

レディ「ん?……あれ、前に会ったことあるかしら?」

神裂「いえ、ですがステイルからあなたの事は『聞いて』おります」

―――


271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:50:37.35 ID:mbYW1UyQo
―――

一方「…………」

一方通行は今、第七学区の真ん中に突如現れていた更地に立っていた。

広がるのは不気味な光沢を帯びた、くすんだ固い地面。
凄まじい熱に晒され一気に溶け、
そしてこれまた既存の物理法則ではありえない速度で一気に冷え固まった大地。

その熱源が何だったのかは把握している。

あのいけ好かない赤毛の悪魔、ステイルだ。

彼はつい先ほどまで、
ここで何者かと衝突していたようだ。

ただそこまではわかるが、果たしてその戦いの結果がどうなったのか、
その後に何があったのかは一方通行は判断しかねていた。

一方「……」

悪魔が力を解放すれば、
場の歪みや放たれてくる強烈な悪寒によって、感覚的にその位置がわかる。
ただそれは力を解放している状態、殺意や戦意に満ちている時のみの話だ。

一方「……………………チッ」

逆に気配を消されてしまっては、
悪魔はそう簡単には見つけられない。

今や能力の壁を越えてAIM拡散力場そのもの、
『力』の存在を肌で認識できるようになってきてはいるが、それでも何も拾えなかった。

272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:52:08.14 ID:mbYW1UyQo

またこの時、研ぎ済まされた彼の感覚を邪魔する別の要因もあった。

先ほど目覚めてから彼は、くぐもった耳鳴りに似た、
淀んだ液体の中にいるような感覚を覚えていたのだ。

一方「……」

カエル顔の医師からも聞いた通り、
こうしている今も自身の体は変質を続けているということだが、それが関係しているのだろうか。

それとも。


―――垣根帝督に会った事が原因か。


一方「クソ……ほンッッと余計なことばっかしやがってあンの野郎……」

と、そう苛立ち一人悪態をついていた時であった。


一方「―――」


彼は微弱な力の存在を確認した。

厳密には、莫大な力を持つ存在から漏れ出した『力の雫』か。
ここから伸びる大通りに沿ってやや離れた所だ。

彼はすぐに立ち上がっては、
その方向へと駆け飛んでいった。
察知されぬよう能力の使用を限界まで抑えつつ、それでいて最高の速度で。

―――

273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:55:09.17 ID:mbYW1UyQo
―――

がり、がりっと。

ナイフでアスファルトを削り取って、
レディが地面に術式を刻み込んで行く。

直径2m程の魔界魔術の魔方陣だ。

レディ「OK、ちょっと力流してみて」

ある程度刻んでは神裂が陣の中に立って魔の力を流し。
その動作を確認しては再び式を刻んでいくの繰り返しだ。

そしてその作業で手を動かしながら。

レディ「階層は特定したけど、その先でかなり高度な結界布いてるみたいね」

ふとレディがそう口にした。

神裂「結界も解けますか?」

レディ「不可能じゃないけど私アンブラの技知らないから、構造解析も0からやらなくちゃで5時間くらいかかるわよ」

神裂「…………では……同じ階層には一応行けるんですよね?」

レディ「どの道飛んだ先で結界に阻まれるけど」

ステイル「ここでモタモタしているよりはマシだ。それで頼む」

レディ「OK」

274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:56:45.53 ID:mbYW1UyQo
ステイル「結界か……上条がいてくれたら一瞬なんだがな……」

神裂「ええ…………」

レディ「ん、これでどうかしら。お願い」

そして再び、レディは神裂へ力を流してみるよう促した。

とその時。

ステイル「…………」

ステイルはふと疑問に思った。
なぜレディは自らが起動しないのか、と。

それだけならば特に引っかからなかっただろうが、
しかし神裂から先ほど、『五和も一応使える』と聞いたことによって強く違和感を覚えてしまったのだ。

五和が使えるのに、なぜこの最高峰の魔界魔術師は自らの手で起動させるのを避けているのか、と。

その思考が伝播して、ステイルも神裂と同じような表情を浮べて。

神裂「あの、聞いて良いですか?」

レディ「何」

神裂「なぜ、あなたが起動しないのです?」

レディ「ん?教わらなかった?これ常識なんだけど」

何のためにイギリスに雇われたのよ、とネロへ向けて呟いた後、
レディはまるで何でもないように答えた。


レディ「『普通の人間』が使うと、かっっっっなり危ないのよ―――天界の干渉が酷くって」


ステイル「―――て、天界の干渉?」


レディ「詳しくは知らないけど、『魔女狩り』の時の『検問』がまだ機能してるとかで、『連れて行かれる』場合もあるみたい」


神裂「―――」

魔女狩り、その言葉を聞いて神裂の表情が変わった。

275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:01:00.89 ID:mbYW1UyQo

レディ「普通に考えて、天界には魔女の力使う奴等を通してあげる道理も無いしね。
     連中は『魔女の全て』の根絶掲げてるし」

神裂「―――……」

『天界』に『魔女狩り』。

そして魔女の槍を持ち、魔女の技で飛ぶ五和。
この組み合わせで嫌な予感を覚えない訳がない。

その神裂とステイルの空気に気付いて、
レディが口を開きかけたが。


レディ「あー、…………もしかして誰k」


その時だった。


突如、三人から10mほど離れたところにて、
『別』の移動用魔方陣が出現した。
三者は即座に慣れた動作で身構え、その謎の来訪者を―――。


ステイル「―――!」


迎えた。



神裂「――――――五和!!!!」

276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:02:49.67 ID:mbYW1UyQo

現れたのは五和だった。
彼女は魔方陣の上に座り込み、
みるからに憔悴しきっって顔色も酷かった。

いや、酷いなんてものではない。
体力的・精神的、その上なにやら感情的にも荒んでいるようで、
それはそれはとにかく形容しがたい酷い表情をしていた。


神裂「五和!!一体何が―――!!」

そんな彼女を一目見てすぐに神裂が駆け寄ったが、
五和は別のことに強く意識を向けているようで、
しきりに周囲を何度も何度も見回して。

そしてまるで懇願するかのように、神裂にしがみついては。


五和「……上条さん?上条さん?!上条さんは??!!」


神裂「ッ?!ど、どうしたんですか五和?!」

五和「上条さんは?!来ていないのですか?!!」

ステイル「どういうことだ?上条は来ていないが」


五和「一緒に……はず……今まで一緒に……!!一緒に飛んだんです!!一緒に……!!!!」


レディ「………………………………」

277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:04:44.74 ID:mbYW1UyQo



神裂「―――つまり、上条当麻は天界の手に」


レディ「そう考えられるわね。あとこればかりは追跡もできないから。飛んでる最中に横から掻っ攫うなんて解析は無理」

ステイル「つまり、僕達はどうやっても彼に手が出せないということか」

ある程度五和を落ち着かせた暫しの後、
三人はそう確認し合っていた。

ステイル「しかしこれほどの危険を隠しておくとはな。魔女とはやはり随分と不親切なんだな」

レディ「アンブラの魔女って人間は人間でも普通の人間じゃないし、問題があるとは知らなかったんでしょ」

神裂「とにかく、上条当麻に関しては彼自身に任せるしか有りませんね」

ステイル「幻想殺しと悪魔の体、それにあのゴキブリ並みのしぶとさがあればまず死にはしないだろう」

神裂「ええ。私達も私達で行きましょうか」

表面上だけならばこの会話は冷たくも聞えるが、
だが根の部分は決してそうではない。


心配する必要が無い、つまり上条当麻を信頼しているのだ。


こんな時こそあの男の真価が―――。


―――無様で泥臭くとも、最終的に確かに成し遂げる『安定感』が発揮されるのだから、と。

278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:06:14.42 ID:mbYW1UyQo

そして二人はレディが完成させた陣の上に立ち。

神裂「五和、あなたは残りますか?」

五和「…………いえ……あの……」

しばし黙って落ち着いたのか、
五和は疲れを滲ませながらも、槍を手に力強く立ち上がって。


五和「……私もお供します」


そう神裂に言葉を返しては、
彼女の方へと駆け寄った。

彼女もまた、上条という男の『安定感』を自身の中で再確認して、
そして己の義務へと再び向き合ったのだ。


レディ「クソガキがここに来たらそっちに向かわせるから」

神裂「お願いします」

ステイル「すぐに頼む」

そんな言葉を交わした後、神裂の力によって魔方陣は起動、
三人は光の中に沈みプルガトリオの一画へと飛んでいった。

279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:08:02.11 ID:mbYW1UyQo

レディ「…………」

三人が消えた後。

レディはその場に佇みながらふと考えていた。
一つ、さっきから気になる事があった。


なぜ天界は上条当麻を、と。


俗に言われる魔女狩りのための検問に引っかかったのならば、
魔女の杖を持ち魔女の技を使った五和がまず連れて行かれるはず。


上条当麻には、魔女の全ての根絶よりも優先する何かがあるのか。

目的は幻想殺しか。


ただこの『魔女狩りのための検問』もデビルハンター間での所謂『噂』であるため、
これを元にしたら不確かな思考遊びの域を出ないが。

そもそもデビルハンターは、天界関係には特に興味が無いのだ。
いや、こういった方が良いか。

天界は面倒くさい、天界はネチネチしててウザイ、
だから皆関わるのを避けている、と。


レディ「…………あ」


とその時であった。

ふと気付くと、
いや実は、『彼』がこちらに近づいていたある時から気付いてはいたが。


レディが振り返った先に、白髪に赤目の少年が立っていた。


280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:11:20.32 ID:mbYW1UyQo

レディ「Hello」

レディはニコリと。
あまりに整いすぎて、
逆に警戒を扇いでしまうくらいの笑みと共に、彼にそう一言放った。

だが10m先の彼はピクリともしない。
ジッとレディを見据え、ありありとわかる警戒の色を全身から滲ませていた。

そう彼、

一方「…………」

一方通行は、レディの纏う只者ではない雰囲気を敏感に感じ取っていたのだ。
普通の人間であるのは確かなようだが。

その一方で覚える、この研ぎ澄まされた刃を突きつけられているような緊張感。

いや、むしろ相手が普通の人間であるせいで、
その力量を測りかねていた。

悪魔等ならば、相対した存在感でその力の格が大体予想が付く。
能力者だってそのAIMの濃度である程度の力の規模がわかる。


だが『ただの人間』となると。


ただの人間ならば、普通は脅威ではないと考えて良いのだが、
この女の場合はそうはさせてくれない。

その身から醸す強烈な緊張感が。


と意識するものの、別に彼が怖気づいていたわけではない。
必要があれば容赦なく全力で、一切の油断もせずに戦う準備はできていた。

ただその一方。

レディ「あ、もしかして」

一方通行の特徴的な容姿を一通り確認して、放たれたレディの言葉、


レディ「第一位のボーヤでしょ。ダンテから聞いたわよ」


それで少し安堵したのも嘘ではなかったが。

281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:13:23.02 ID:mbYW1UyQo

その言葉を受けて、
彼は体の緊張を解くように息を吐いて。


一方「………………まァまァ『その方面』のお方ですか」


ダンテ繋がりとなれば、この女の異質な『危うさ』もそれなりに納得がいく。
あの男の周りではただの人間でさえまともではないのだな、と。
まあそれも特に不思議では無いだろう。

レディ「レディ。ダンテの同業者兼パトロン」

一方「アクセラレータだ」

そして二人はその距離を開けたまま、
そう粗末な自己紹介を交わして―――だが。


お互いのことについての会話はそこで終わらざるを得なかった。

レディ「―――あ、」

一方「―――」

その瞬間、先ほど『五和が出現した点を中心』として周囲一帯に。


大量の悪魔が出現したからだ。


一方「チッ―――話すら聞かせてくれねェのか」

282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:14:17.65 ID:mbYW1UyQo

レディはその悪魔達の魔方陣を一目見て、
その性質を判別。

レディ「(追跡用、―――あの子の後を追って、か)」

どうやらこの大量の悪魔達は五和を追跡してここまで来たらしい。
ただそのような事情は後回しだ。

彼女は太ももからサブマシンガンを引き抜いては、
見るからに嬉しそうな笑みを浮かべ。


レディ「―――ねえボーヤ、こいつら全部お姉さんに『くれない』?」


それに対し一方通行は笑った。
歯をむき出しにして、これまたおかしくてかつ楽しくてたまらないように。

そしてこう返して。


一方「いいねェ、ンなノリは嫌いじゃねェ。だけどよ―――」



一方「―――悪ィが早ェもン勝ちだ」



一足先に悪魔達の中へと飛び込んでいった。


―――


283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:15:25.35 ID:mbYW1UyQo
―――
数日前から退避命令が出、現在立ち入り禁止となっている第七学区。

だがその一画にある『風紀委員活動第一七七支部』に今、
一人の少女が命令を無視して残っていた。



初春「………………」


頭には大きな花飾りに動きやすい私服とジャッジメントの腕章、
という格好の彼女は今、とある事情で机の下に隠れていた。

第七学区内に爆撃でも行われたのか、
先ほど凄まじい爆音が轟いては全てが激しく揺れ動いたからだ。

夕焼けを100倍にしたかのような熱気で、
しかも言い知れぬ強烈な不安感がを覚える光がブラインド越しから差し込み、
強化ガラスが数枚割れてしまうほどの荒れ様に。

彼女は椅子から転げ落ちるようにして机の下に潜り込んだのだ。


初春「………………」


ただこの凄まじい現象はそう長くは続かず、数十秒で収まった。
恐ろしく長く感じた数十秒であったが。

彼女は恐る恐る鼻から上を机の淵から出し、周囲の状況を確認した。

聞えるのはガラスの破片が散る音と、
割れた窓からの風で揺れる歪んだブラインドの音だけ。

それ以外は全く気配が無い、
先ほどの爆轟が嘘のようにシンと静まり返っていた。

ただ吹き込んでくる生温く焦げ臭い風が、
先ほどの爆轟が現実であったことを示していたが。

284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:17:49.88 ID:mbYW1UyQo

周囲のある程度の落ち着きを確認した彼女は、
もう少し身を上げて膝立ちし、
次に机の上のパソコンでシステムの確認。

初春「……よ、よし……大丈夫」

今の爆轟での障害は幸いなことに無かったようだ。

そして彼女はすぐに画面を切り替えて、
先ほどまで行っていた作業に戻った。

当然だが、爆轟に恐怖して机の下に隠れる『ため』にここにいた訳ではない。


大切な友人―――佐天涙子を見つけるためだ。


都市全体の保安システムのメインサーバーにアクセスし、
路上監視カメラの映像記録に顔識別で検索をかけ、彼女の携帯電話の電波から行動を辿る。

初春「…………」

本来彼女にはここまでの権限は無く、
平時であったら即アンチスキルが飛んできて捕らえられているだろう。
だが今は、この物騒な情勢が彼女に味方してくれていた。

そして数十秒後。

検索を急かすように机を指で叩いた彼女は、
その時形相を変えては画面に飛びつくように立ち上がり。


初春「―――いたッッ!!」


求めていた情報―――最も最近の佐天の足取りを手に入れた。

285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:20:17.89 ID:mbYW1UyQo

佐天涙子は第七学区のとある大きな病院に行っていた。
一般人は立ち入り禁止となっている『例の病棟』へと。

初春「…………」

この病棟についてはジャッジメントにも通達が来ており、
同僚達の間でもいくらか話題になったほど。

理事長権限による個別許可を必要とする最高度のセキュリティ、となれば当然異常なものだ。

更に去年からの一連の大規模な事件とも何らかの関係があるのではないか、とも、
アンチスキルやジャッジメント内では噂されていた。

なにせ同じセキュリティレベルの情報規制が布かれているのだから。


そしてそんな、いわくつきのセキュリティレベルの病棟に佐天が。


初春「―――ッ」


画面には今、この病棟入り口の監視カメラ映像が映し出されていた。

屈強な黒服の男が何人もいる厳重な正面ゲート。
そこに佐天がやって来、慣れた動作で身分証、指紋、網膜のチェックの受け。

彼女はそれらを全てクリアして。

これまた何度も訪れているのがわかる、
慣れた歩みで病棟に入っていった。

286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:22:33.24 ID:mbYW1UyQo

初春「―――さ、佐天さん―――…………?」

その一瞬、彼女は頭が真っ白になってしまった。

はっきり映っている、最高度のセキュリティのエリアに普通に入っていく佐天涙子。
データに手を加えた後も無い、疑う余地の無い映像。

信じざるを得ない証拠がそろっているのだが、それでも―――。

―――とその時。

『良くも悪く』も、その彼女の放心を解いてくれる出来事が起こった。


初春「―――?」

突然覚える妙な胸騒ぎ、悪寒と圧迫感。
まるで空気が鉛にでもなったかのよう。

そして急に騒がしくなり始めた外。
獣の鳴き声とも金属の摩擦音とも似た、恐ろしく不快な音が響き始めたのだ。

言い知れぬ恐怖を覚えながらも彼女は立ち上がり、
引き寄せられるように窓の方へと進んでいった。
さながら火に近づく夏の虫の如く。

そしてブラインドの隙間から外を覗いて。


初春「――――――――――え?」


彼女は見てしまう。


初春「――――――――――なに―――アレ―――」


道路を駆けビルの壁面を伝う、この世の者ではない大量の異形達を。
そしてその人間の視線を感じ取ったのか、異形達は動きを止めて皆一斉に。


振り向いた。


―――

ダンテ「学園都市か」3(学園都市編)




posted by JOY at 01:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 禁書クロスSS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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