2012年03月18日

ダンテ「学園都市か」3(学園都市編)

295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:16:10.52 ID:nlgopuJ+o

―――

まただった。
視界に映る光景が、想定していたものとは全く違っていたのは。

上条「―――…………!」

次に立っていたその場は、
先ほどまでいた魔界とは正反対と言えるような空間であった。

大気は柔らかい光に満ち溢れて空は澄み渡り、
豊かな草木と花に覆われた原。

光の粒がふわりふわりと宙を漂っており、
まさに『天国』、『楽園』という表現がしっくりくる幻想的な場所であった


上条「(…………今度はなんだってんだよ……五和は……?)」


しかしその居心地の良さに易々と身を委ねはせず、
警戒を強めたまま周囲を見回したが。

五和の姿を見つけることはできなかった。

上条「(……ッ……五和……)」

気配の欠片も感じず、
この身の全ての知覚がこう告げていた。

五和はここにはいないと。

296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:18:24.22 ID:nlgopuJ+o

一体何が起こったのかまるでわからない。

目的地であった人間界とは別の場所に来てしまっていた、
という点だけは確からしいが。

上条「…………」

魔を一切感じないことから少なくとも魔界ではないことは明らかか、
そして居心地具合からここは天界か、もしくはそれに類する場所であろうか。

いや。

ここに天界の力が及んでいるのは間違いないなかった。
上条は力の僅かな香りを敏感に捉え、記憶と照らし合わせてそう断じた。

天使となっていた神裂と同じ系統の香りがするのだ。

上条「…………」

ただその点については、とりあえず思考の隅に除けておくべきであろう。
今の第一は五和を見つけることなのだから。

まず五和がいないと人間界に戻れないであろうし、
そしてなによりも彼女自身のことが心配で仕方無い。

そんな焦燥に駆られながらも上条は冷静を保ち、
感覚を研ぎ澄ませて静かに歩を進めていく。

だがやはり、五和の姿は見えず感じず。

全ての感覚がむなしく彼女の不在を告げ続けていく。

297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:19:50.99 ID:nlgopuJ+o

そして更に強まる焦燥、その一方で。

上条「(…………なんだ……これ……?)」

上条はふと自身のおかしな感情に気付いた。
まるで当たり前のように心の一角にあるが、よくよく考えればここで抱くはずが無い感情を。


それは―――『懐かしさ』。


遠い昔にこの光景を見たような、
ここに立っていたことがある気がするのだ。

それもベオウルフの記憶繋がりではなく『上条当麻』自身としての、だ。

そもそも去年の夏以前の記憶は失っているのだから、
『遠い昔』と感じてしまうこと自体がおかしいのだが。

上条「―――」


―――と、その時。


彼の前方10m程のところ、
野の上の宙に金色の魔方陣が浮かび上がった。

そして左手を腰の拳銃に添え瞬時に身構える上条、
そんな彼が見据える先。


魔方陣の中から一体の―――天使が出現した。


初めて『本物』を『直』に目にする彼でさえ、
一瞬でそう断じてしまうほどのオーラを携えて。

―――いいや、本当に『初めて』なのだろうか。

その瞬間、上条は天使を目にした驚きの一方、
あの『懐かしさ』が更に強まるのを覚えていた。


まるで、古い『―――』に再会したかのよう―――に。

298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:21:33.10 ID:nlgopuJ+o

その天使は身長2m程で、鼻、目、口、耳のみならず全身の形状が人間と非常に良く似ていた。
ただ、『良く似ていた』のであって『同一』ではないが。

まずその体色が大きく異なっていた。
石灰岩の彫刻のように全身が白亜だったのだ。

まさしく彫像に魂が吹き込まれたかのよう。

そして金色の葉脈に似たベルト状の飾りが体を走っており。

また一見すると、袖が広がったフード付きローブを羽織っているようにも見えたが、
良く観察するとそれぞれが、体表面からそのまま布状に伸びた体の『一部位』であった。

上条「―――ッ」

現れた天使はふわりと野に降り立って、
その淡く金に光る『白亜の目』で彼を見つめた。

一言も発さぬまま、瞬きもせず。


上条「…………」


この時、上条はただ警戒するしかなかった。


天界側が自分をここに飛ばしたのか、
それともこちらが乗り込んでしまったのか。

この天使は出迎えか、それとも侵入者を見つけた番人か。

それらの思考が頭の中を目まぐるしく飛び交うが、
上条はあまり深く考えはしなかった。

必要ないのだから。
なぜならそれらの答えは、上条ではなくこの天使が示すのであろうから。


天使の次の動きが自身の置かれているこの状況を、
全貌とは言わずとも少なからずはっきり明示してくれるのだろうから。

そしてその上条の読み通り。

天使が次にとった行動が、この不可解な状況に一石投じるものであった。
その行動自体は上条の予想外のものであったが。

299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:23:10.68 ID:nlgopuJ+o

上条「―――?!」

次の瞬間、天使の体が急に縮み始めた。
そして形状も大きく変わってき。

透けたワンピースに厳しいベルト状の拘束具。
大きな外套にリード付きの首輪。

それらを身に着けた、小柄な少女の姿へとなった。
体色は変わらず白亜のままであったが。

上条「!」

その『シルエット』に上条は見覚えがあった。
『アレ』を忘れるわけが無い。


去年の夏、『御使堕し』事件によって人間の体に堕ろされた―――。


上条「―――ミ、ミーシャ??!!」


―――大天使『ガブリエル』。


あの夏の日に、地球表面の半分を焼き掃おうとした大天使だ。

すかさず警戒の色を強める上条、
一歩後ずさりしては、腰の拳銃のグリップを握り瞬時に引き抜こう―――としたところ。

『ミーシャ』は片手を挙げて首を小さく横に振った。
敵意は無い、意思表示しているかのように。

300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:25:09.39 ID:nlgopuJ+o

上条「…………」

それを見て、上条はとりあえず拳銃を引き抜くのを止めた。
相変わらずグリップは握ったまま、いつでも引き抜ける状態ではあったが。


そして次の動きを待つも、再びミーシャはこちらを見つめて沈黙。


上条「…………」

敵意は無いとすると、
律儀に次はこちらの動きを待っているのだろうか。

そう上条は推測しては、言葉を慎重に選び。

上条「…………俺の他にもう一人、女の子がいたはずだが?」

まずそう問いかけた。
『御使堕し』の際も会話はできていたのだから一応人語は通じるのだろう、
ミーシャは小さく一度頷いて。


上条「……どこだ?」



ミーシャ『人間界。無事』

301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:26:27.92 ID:nlgopuJ+o

上条「―――」

その瞬間、少し意表を突かれてしまった。
このミーシャが何事も無くさらりと、あの夏の時と同じ声で返答してくるとは。


それもはっきりとした『言葉』で、いいや―――。


上条が『それ』に気付いたのは一瞬後であった。
今ミーシャが発した言語は、人界のものではなく―――天界のものであった点に。

上条「(…………え?)」

なぜ、自分は天界の言語を―――理解できるのか。

魂を構成するベオウルフの部分によって、
魔界の言語が理解できたように―――なぜ?

上条「(どうなって…………これは……)」

懐かしいどころか、
まるで『故郷の言葉』のように天界の言語を理解してしまう自分。
そんな自身に対して上条は酷く混乱してしまった。

上条「そ、そうか……五和は大丈夫なんだな……」

動揺を悟られないよう、場を繋ぐように口を開くも。


上条「……あッ……そ、それにしても……ひ、久しぶりだな」


その言葉は全く隠しきれていない唐突なものであった。
そしてそれに対するミーシャの返答もまた。


ミーシャ『否―――』


上条の予想外のものだった。


ミーシャ『―――「今のあなた」と対面。初めて』

302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:31:23.26 ID:nlgopuJ+o

上条「?」

『初めて』。
会ったのは初めて、そうミーシャは告げた。

「今のあなた」としたところから、
人間の頃と悪魔となってからの自分を区別しているのだろうか。

だがこの解釈も異なっていた。

ミーシャ『「御使堕し」は不完全。意識は天界に残留』

ミーシャ『あなたと対面。私の力のみ』

上条「……」

言葉通りだとミーシャ、つまりガブリエルは、
「御使堕し」の術式が不完全だったために分離してしまい、
その力だけが人界に堕ちてしまった、ということか。

ミーシャ『「私」は天界にいた』

そしてガブリエルの人格に相当する意識本体は天界に取り残されていた、と。


上条「…………」

確かにそうとなれば、あの時のミーシャの行動もある程度説明つく。

最近になって聞いた天界の実像からすると、
ガブリエルがただ天界に戻るためだけにあんな暴挙に出るとは思えない。

だが力に宿る最低限の思念のみで動いていた、となれば、あの行動も充分説明がつくだろう。
いわばパイロットが突如消えてしまい、自動操縦に切り替わったロボットだ。

303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:33:54.63 ID:nlgopuJ+o

と、そんな過去まで遡って納得できたものの、
ミーシャが口にした「今のあなた」という表現だけは、
しっくりくる意図が見出せなかった。

上条「…………」

ただこれは今あまり関係ない話だ。
とりあえずこの疑問は思考の隅に置いて、上条は次の今重要な問いを放った。

上条「なぜ…………俺をここに?」


そしてその答えは三度。


ミーシャ『否―――私、否』


またもっとも予想外のものであった



ミーシャ『―――あなたが自分でここに』



上条「…………………何?」



ミーシャ『あなたが私を。―――呼んだ』

304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:35:08.80 ID:nlgopuJ+o


上条「―――は、はぁ?!」


ミーシャ『界境の「網」。それを利用した。あなたが』


上条「??!」


自分が『界境の網』を利用して―――ここに来た?
何かをした覚えなど無いし、そもそも『界境の網』自体が何なのか知らない。


上条「ま、待てっ……!そんなはずが……!!そもそもここはどこなんだ?!」


ミーシャ『プルガトリオ。天界の境の近層。「出陣の野」』


上条「プルガトリオ……」

瞬時にベオウルフの記憶から『プルガトリオ』の意味が浮かび上がってくるが。
しかし「出陣の野」なんて階層は覚えが無―――。


―――いや―――。


上条「…………出陣の……野……」


『知っている』。

はっきりと認識は出来ない。
濁った水槽越に見ているように、存在はわかるもイメージは全くまとまらない。

だが確かに記憶の中に『存在』している。


―――覚えているのだ。


そう意識した瞬間、
今まで覚えていた不思議な『懐かしさ』が一気に連結していき。



上条「『俺』は………………昔…………ここに立っていた……?」

305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:38:09.78 ID:nlgopuJ+o

ぼそりと。
そんな上条の独り言に、ミーシャはこくりと小さく頷いて。

ミーシャ『「昔のあなた」が』


ミーシャ『私達はここで。あなたを「見送った」』


ミーシャ『それが。あなたを見た最後』


上条「―――な、……何がっ……!待て!!これは……!!」


この時のミーシャの言葉はまさに、
先ほどの「今のあなた」という表現と対を成すものであろう。

だがそこが明らかになったといって、状況理解の役に立つわけではない。
むしろより一層、謎が深まり複雑に―――。


一体どういうことなのか。


上条当麻、ベオウルフから派生した悪魔、それらとは別にもう一つ、
己の内に今だ気付かぬ魂が存在しているのか。

そしてその『別の存在』に、ちょうど思い当たるものがあった。


そう、自身の右手の―――。


上条「―――……」


―――『幻想殺し』。

306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:39:49.49 ID:nlgopuJ+o

上条は自身の右手に目を落とした。
魔界金属生命体で形成された篭手、その下にある幻想殺しを。

そしてその右手をミーシャの方へと突き出して。

上条「ここにいたのは……お前が会っていたのは………『これ』……か?」

何が『これ』なのか、その理解が固まってはいなかったが、そう問うた。
だがこれにまた、ミーシャは横に首を振るう。


ミーシャ『否。ここにいたのは「あなた」』


上条「ちょっと待て……この『右手』ではなく、『俺』か?」


ミーシャ『そう。あなた』

上条「…………」

まるで意味がわからない。
もしや会話がかみ合っていないのかと思い、上条は自分の胸に左手を当てて。

上条「…………い、いいか、こっちにいるのが『上条当麻』」

次に右手を指差して。

上条「この右手にあるのが『幻想殺し』、またはその『源の何か』だ、いいな?」

そう丁寧に示して、ミーシャが頷くのを確認した後。
悪魔のベオウルフに会った事は無いな、と念には念を入れて。

そして満を持して問うと。


上条「どっちの『俺』がここにいたんだ?」



ミーシャ『―――上条当麻。「あなた」がここにいた』


上条「―――……」

307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:47:34.32 ID:nlgopuJ+o

はっきりと言われてしまったその言葉。
状況的にも、また悪魔の勘からしても、嘘を言っているようではなさそうだ。

ミーシャ『今は。この話はするべきじゃない』

とその時、ミーシャが『なぜか』この話を終わらせるべきだと告げた。
だがここまできてしまっては当然、上条は留まれない。



ミーシャ『―――あなたは今。やるべき事があるはず』



上条「―――いや……いや…………ちょっと待て!!」


極度の混乱に陥った上条に、ミーシャの制止も届かず。


上条「(『俺』が―――『上条当麻』が―――ここに?)」

正真正銘のこの『上条当麻』がここに来たことがあるのか、
だがいくら記憶を遡っても、具体的な情景が蘇って来ない。


異界の存在から関わるようなってから来た事は無い。
インデックスと『ベランダで出会って』、今に続くさまざまな経験の間も。

学園都市に『来る前』、地元にいた頃なんて当然―――と、そこまで記憶を遡って彼はようやく。



上条「―――――――――――――――――――――……ッ……え?」



そのとんでもない点に気付いた。



なぜ―――――――――覚えているのか、と。



特に何かの変化があったわけでも、前兆も無かった。

あまりにも唐突に、いつの間にかに。

昨日を思い出すのと同じように一年前、三年前、五年前を。


そこに当たり前のようにあった―――失ったはずの記憶が。


ミーシャ『だめ。だめ―――だめ』

308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:49:21.73 ID:nlgopuJ+o

衝撃があまりにも強すぎて、
それが『驚き』なのかどうなのかさえ判別できず。

上条の全感が一時的に機能を止めてしまう。

上条「あ゛ッ―――」

呼吸ができず。
鼓動も脈の流れも全てがとまるような感覚。

更に音も何もかもの知覚がぶつりと途切れて。


その無の中で、どくりと大きな鼓動が一回―――右手で響く。


上条はほぼ無意識のまま、反射的に右手を左手で押さえ込んだ。
その場に膝を付き、屈みこむようにして懸命に。
まるで何かの『出現』を遮ろうかと。

まさか―――ここでまた『暴走』か、そう、
僅かに保たれている意識の中で彼は思ったが。

そうでは無かった。

一気に悪魔の力が全身から引いていったのだ。

自身の身体能力が人間レベルにまで低下していくのを覚えて、
彼は確信した。


あれだ、あれがまた―――出る。




あれが―――――――――――――――『竜の頭』が、と。



その瞬間、上条ははっきりと存在を認識した。
発現は三度目だが、初めて『意識が正常』だった時だからであろう。


上条ここにはっきりと認識した。


自身の中に宿る『幻想殺し』―――その『源の何か』を。


その存在が、『上条当麻』の意志に反すように体内で蠢き―――表に噴出すのを。

309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:52:23.37 ID:nlgopuJ+o

だが。

『暴虐な竜』は出現しなかった。

上条「―――」

気付くと、暖かい小さな手が右手に添えられていた。

上条「…………」

顔を上げると、すぐ目の前にはミーシャが。

その顔は―――とにかく心が落ち着くものであった。

先ほどまで彫像のように無機質に見えていた顔が、
なぜだか非常に感情豊かに感じるのだ。

更に気付くと、まるで嘘のように『竜』は鎮まっていた。
魔の力も戻り体の調子も回復していく。

上条「…………」

そして大天使は、見上げている上条の頬にもう一方の手を添えて。



ガブリエル『―――焦ってはだめ、今は過去を振り返る時ではありません』



心が満ちた声色でそう告げた。
『なぜか』―――こうして触れているからなのか―――先ほどまでの無機質な声・ぎこちない喋り方とはまるで違って。



ガブリエル『―――見るべきは「今」―――重要なのは「未来」なのですから』

310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:56:54.18 ID:nlgopuJ+o

上条「………………あ……」

その言霊が体の芯に染みわたり、
竜によって汚された心を浄化していく。

上条の心はほぼ無、頭も何も考えず。
彼は跪き、ただただこの安寧に浸る。


ガブリエル『あなたの魂が必要とすれば、自然に記憶は戻るでしょう』


ガブリエル『そして必要の無き記憶はそのまま忘却の彼方へ。無用の苦悩しか産み落としませんから』


そしてガブリエルはまるで子守唄を口にするかのように。
安らかで美しい声で。


ガブリエル『それにしてもあなたが……「本当」にここに戻ってくるなんて』

ガブリエル『父も兄弟も皆、あなたの「お戻り」をお喜びになるでしょう』


と、そこで上条の右手から手を放しては、
今度は挟み込むように彼の頬に両手を添えて。


ガブリエル『―――しかし。ここはもうあなたの「家」ではありません』

ガブリエル『そして今―――あなたは立ち止まっていてはいけない』


戒めるように声を強くしてこう問う。



ガブリエル『忘れないで―――今のあなたの使命は何?』



無心となっていた上条は答えた。
無心だからこその嘘偽りの無い、魂が発する答えを。



上条「―――……あいつを…………インデックスを守るんだ……」

311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:58:30.78 ID:nlgopuJ+o

その答えを聞いて、心底嬉しそうにガブリエルは微笑んだ。

『インデックス』という少女がいかなる存在なのかは今や天界中に知れ渡っており、
当然ガブリエル自身も知っているにも関わらず、だ。


そしてこの美しい天使は上条の頬を愛おしそうに―――。


―――まるで、長い時を経て再会した『恋人』に触れるかのような手付きで撫でて。


ガブリエル『―――あなたはまるで変わらないのですね』


ガブリエル『噛み砕かれ飲み込まれ、溶かされ混ざり合って。
      1000代の人の生を越えてきたにも関わらず……あの頃そのまま』


ガブリエル『…………天界は……すっかりと変わってしまいました……』


と、その彼女の声がやや悲しみを帯びたその時。


けたたましい『鐘の音』が鳴り響いた。


それは天界の警鐘。
天の支配領域に、敵が侵入したことを告げる音―――。

312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:59:45.47 ID:nlgopuJ+o

上条「―――」

この耳障りな音は、安らかになり過ぎつつあった上条の意識を覚醒させ。
彼は跳ねるように立ち上がっては身構えて、周囲からの襲撃に備えた。

ガブリエル『―――』

ガブリエルはその音が響いた瞬間すばやく天を仰ぎ、
そして周囲に感覚を巡らせているのか、一回り見渡した。

上条「ッ!もしかして今の俺の言葉が……!!」

今や魔女を指すであろう『インデックス』という言霊が、
何らかの網に引っかかってしまったのか。


ガブリエル『いいえ、これは私達を指したものでは……』


ガブリエルはそう言うものの、
やはりここに長居するのは危険だと判断したのか。

ガブリエル『ここから離れた方が。私が門を開けますので』

その瞬間上条を中心として、
その足元にガブリエルが構築した金の魔方陣が浮かび上がった。

ガブリエル『行き先は、自然とあなたが望む場所へと繋がります』

上条「悪いな、助かるよ」

ガブリエル『一つ……伺っても?』

と、魔方陣の光が増して今にも飛ぼうという時、
ガブリエルがやや躊躇いがちに。


上条「……?」


ガブリエル『……本当に「私」を……―――「ここで会った私」を覚えておりませんか?』

313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 22:00:31.85 ID:nlgopuJ+o

上条「―――……………………ああ、悪い。何も」

その答えを聞いたガブリエルは。
あの日宿った人の姿をかたどった天使は、明らかに悲しげに俯いた。

だがそこで上条はぽん、と、そのガブリエルの頭に右手を乗せて。


上条「でもよ、『俺が必要とすれば』自然に思い出せるんだよな?」



上条「だったら―――『時間の問題』さ」


そう、少しからかうように笑いかけた。

その言葉を受けて一転、再び明るくなるガブリエルの顔。
大天使は顔を挙げて、その非常に嬉しげな笑みを上条に向けて。


ガブリエル『さあ、あの頃と同じく、「あの日」と同じく、求めの声に―――祈りの声に応じて』


そして陣を起動して。



ガブリエル『行きなさい――――――愛する存在を救うために』



上条「―――ああ、救ってみせる」



彼を『再び』見送った。


―――

316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/14(木) 22:33:36.41 ID:PINJrBUDO
上条さんミカエルだったかー。そういえばフィアンマさんも……
……いや、過度な予想、想像はだめだな

318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/14(木) 22:45:32.33 ID:niB0uQcU0
上条さん本当に俺の右手はゴッドハンド状態だぜ

322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/15(金) 12:31:16.67 ID:yO0G5ilAO
ガブリエル可愛ええー

325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/17(日) 23:57:14.28 ID:kM5YHuUEo
―――

魔界の淵、延々と続く鉛色の荒野にて。

ネロ「…………」

とある岩場の上にネロが座していた。

辺りには『熱気』とでも言えるか、身を焦がすような戦いの残り香が立ち込め、
地面には巨大な溝が幾本も穿たれている。

ネロの見下ろす前方には、『巨狼の首』が無造作に転がっていた。
かろうじてまだ生きてはいるも死は時間の問題。

アスタロト配下のネビロス、その僕である大悪魔グラシャ=ラボラスは今、
その生涯を『緩やか』に閉じようとしていた。


グラ『―――さすがはスパーダの孫。強いな。最強たる刃が我が最期とは、豪勢なものだ』


ネロ「アスタロトを呼べ」

そんなグラシャラボラスの呟きなど無視して、
ネロはブルーローズの銃口を向けて今までと同じように要求した。

そしてこれまた同じように拒否するだろうと見越して、引き金を軽く絞りかけたところ。


グラ『―――良いだろう』

326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/17(日) 23:58:23.22 ID:kM5YHuUEo

グラ『しばし待て』

巨狼の生首はネロの要求を二つ返事で受け入れて、
通信を試みるためかその目を閉じた。

ネロ「………………へえ」

これは予想していなかった答えであった。
この殴り込みで狩った大悪魔は、グラシャラボラスで11体目。
前の10体と同じようにこの大悪魔もまた、
要求拒否すると思っていたのだが。


ただ、当然要求を受け入れただけで全て良しとするわけでは無い。

グラ『…………むん、声が届かんな。無理だな』

ネロ「そうか」

そして再び引き金を絞り始めるネロ。
と、そこでグラシャラボラスがやや早口でこう続けた。


グラ『行き先はわかる。魔女を喰らうために人間のメスを追いかけている』


ネロ「…………ああ?魔女?」

327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:00:04.38 ID:4j8u6dRPo

そこでネロは簡単な説明をこの生首から聞いた。

魔女の匂いを纏った幻想殺しと人間のメスが現れ、
アスタロトは一部の部下を率いてその後を追っていったと。

ネロ「(…………上条か……)」

興味のない『タダの人間』の容姿など全て同じに見えるのだろうか、
グラシャラボラスの『人間のメス』についての説明は要領を得なかったものの、

ベオウルフの力を持つ幻想殺し、
つまり上条当麻が現れたことは把握するできた。

そしてネロは続けて問う。

ネロ「それでどこに行った?」

グラ『わからない』

ネロ「わかるって言わなかったか?」

グラ『強いて言うならば、行き先はあのメスと幻想殺しのいる場所だ』


ネロ「……ああ、そういう事か」


つまりここから先はこちらの作業、
アスタロトを追跡するのはご自分でというわけだ。

ただ、ここまでのように当てずっぽうに暴れまわっているよりは、
随分とマシだろうが。

そうして、
用済みとなったグラシャラボラスの息の根を止めようと三度引き金を絞りかけた時。

ネロ「…………」

ネロはふと、とあることを思いついてまたその手を止めた。

その思いつきは、グラシャラボラスの『姿』からの安易なイメージではあったが、
悪魔の形状はその本質に強く影響されるもの。

あながち間違ってもいないであろう。


ネロ「―――お前、鼻が利くか?」

328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:02:37.95 ID:4j8u6dRPo

そのネロの意図を悟ったのだろう。

グラ『…………望むのならば喜んで』

『数手』先の答えを返すグラシャラボラス。

ネロ「…………いや待て、自分で言ってアレなんだが、悪いが信用できねえ」


グラ『我はお前の力に屈した。それで充分では?』


ネロ「ハッ……」

悪魔にとって力が全て。
力こそ最も確かで信頼に足る指標。

そう、確かにそれで。


ネロ「―――充分だな。ああ」


そしてネロがそう意識で認め、求めた瞬間。
グラシャラボラスの消失していた首から下が、『赤黒い光』と共にみるみる再生していく。

ネロ「…………」

ネロはブルーローズを腰に戻しては、
その己の力を受けて再生する『使い魔』を眺めた。
思えば悪魔を使いにするのはこれが初めてだ。

前から、ダンテから便利だとは聞いてはいたが、
今まで何だかんだで悪魔を従属させることは無かった。

ただ、別に拒否していた訳ではなく、特に機会が無かっただけ。

そしてまさにこれはいい機会であろう。
グラシャラボラスもその力は申し分の無い存在だ。

329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:03:53.49 ID:4j8u6dRPo

ネロの力で再び体を手に入れた巨狼は一度、
まるで犬が水を掃くように体を大きく揺さぶった後。

グラ『魔具か?それともこの姿のままか?』

ネロ「あー、魔具だ」

すると瞬間、巨狼の姿が光となりネロの体へと向かい、
そしてネロの意向に従った魔具となった。

その形状はネロの両足、黒く光沢のある厳めしい『脛当て』。
ネロはふんと鼻を鳴らし岩場から飛び降りた。

そしてレッドクイーンを肩に乗せて。

ネロ「ところでだ、なぜ俺にここまで協力的に?」



グラ『お前はスパーダに似て「良い香り」がする―――「女狼」とはいえ惚れても仕方無いだろう?』



ネロ「(……ああ、こいつ……『メス』かよ……)」


グラ『さあて、外道の我が「元」主を追跡しよう』


―――


330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:08:34.77 ID:4j8u6dRPo
―――

どうやら下等な連中ばかりらしく、ベクトル操作のみで充分だった。

一方通行は通りの真ん中に悠然と立ちながら、
その能力で悪魔の10体20体を纏めて吹き飛ばしては、肉塊に変えていた。

一方「…………」

先ほど、ノリの良いダンテの同業者との掛け合いののちに
意気揚々と飛び出したは良いものの、実際はあまりにも拍子抜けであった。
まさに雑魚が集まった烏合の衆だ。

こちらから手を出すまでも無く、
反射された自分の攻撃で勝手に死んで行くほど。

一方「…………」


それにまた、どういうことか随分と悪魔達が消極的だった。

大半が威嚇してくるのみで、実際に攻撃してくるのはごく一部。

去年、初めて悪魔と接触したあの騒乱の時とはまるで違う。
あの時の悪魔達は、こちらの姿を見ては見境無く群がってきていたというのに、
今対峙している悪魔達は逆にこちらを避けているよう。

331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:09:42.61 ID:4j8u6dRPo

一方「…………」

この様子の違いの理由などわからない。
推測はいくらでもできるが、確実性を付加できる程の知識は持ち合わせていない。


ただ、それ以前に悪魔達の事情など知ったことではないのだが。


消極的であろうがこちらに攻撃の意志を示して、
そしてこの街に侵入している時点で明らかな『敵』だ。

目に付くのを片っ端から全て排除していく理由はそれで充分だ。

一方通行は容赦なく悪魔を殺しつつ、
『ちょうど良い機会だ』とばかりに意識を更に自身の感覚へと集中させていく。


一方「―――………………」


実はもう一つ、先日から試したかったことがあるのだ。

去年からの一連の中で手に入れた、
既存の能力を越えた『知覚』―――その『力そのもの』を認識する感覚を使って、

『対象の存在』そのものを直に知ることができるのではないかと。

簡単に言えば、力の圧を感じることが出来るこの両手の機能を、
更に拡大させようということだ。


そしてその新たな『知覚』に集中していくと、
狙い通りに一帯の状況が『見えてくる』。

近くで暴れているダンテの同業者と悪魔達の数・その分布、
さらにその外側、封鎖されている第七学区外の大量の人間までも。


それらの―――『魂』と言えるか、そうした存在がはっきりと。


能力者達と悪魔達が形成するそれぞれの力の『フィールド』も。

332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:11:20.59 ID:4j8u6dRPo

一方「…………あァ?」

と、その時だった。

彼は『それ』を見つけた。


この第七学区にぽつりと、『単独』でいる人間の存在を。


『例の病院』の関係者を省けばこの学区に人は入れないはず。
それにこの人間は病院とは正反対の地域におり、単独という事もあって関係者には思えない。
AIMの濃さからすると、能力者ではあるがレベルは1程度の無いようなもの。


となると、普通に考えて『一般人』だろう。


一方「…………」

そしてその人間の置かれている状況は、悪魔達のど真ん中というまさに絶体絶命。
いくらこの悪魔達は消極的とはいえ、攻撃を一切仕掛けてこないという訳ではない。
襲ってくる個体が10割であろうが1割であろうが、一般人からすればとてつもなく脅威なのは変わらない。

では、どうする。

一方「…………」

一方通行はそう長々と考えなかった。
そう、このような状況で「どうするか」など愚問だ。


ダンテや上条ならどうするか。


―――決まってる。


一方通行は能力を使い一気に跳躍し、その人間の下へと向かっていった。

置き土産でもしていくかのように、
行きがけにとりあえず目に入る悪魔達を潰しながら。

―――

333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:13:09.00 ID:4j8u6dRPo
―――

その時、街が大きく振動した。
まるで水面に映る像が波紋で乱されるように、景色が『波打って』いく。

レディ「(……へえ)」

レディはそんな人間界の歪みをはっきりと感じ取っていた。
バイクをかっ飛ばしては、サブマシンガンで魔弾をばら撒きながら。

レディ「(裏側でもデカいドンパチしてるのね)」

ついさっき送り出したステイル達なのかはわからないが。
プルガトリオの人間界に近い階層にて強力な力が激突し合い、
そして今、一際大きな力が放たれたようであった。

まるで『巨大な槌』で叩きつけられたかのような重い衝撃が、
この人間界にまでこうして伝わってきている。

ただレディとしては、
そちらよりも気を向けなければならない目下の問題があった。


突如出現した下等悪魔達だ。


レディ「(……)」

前方に飛び出してきた勇敢な悪魔を轢き殺して、
彼女は頭を切り替えて再びこの問題に意識を向けた。

334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:14:57.68 ID:4j8u6dRPo

この悪魔達の行動を見る限りまず確かなのは、
『今』は人間界を襲うためにやってきたわけではなさそうだ。

レディの姿を見た瞬間は一時の衝動に駆られるように襲い掛かってくるも、
過ぎ去った後は追っては来ない。

いや、それどころか実際に攻撃してくるのは一部で、大半が威嚇行動のみ。

レディ「(…………これは『軍』ね)」

その秩序だった群れを見てレディは確信した。
この群れは上位の意志の完全統制下にある、そう、まさしく『軍』だ。

レディ「(……)」

では、この軍の目的は。

バックにいるであろう絶大な力を有す大悪魔は何を狙っている?

レディはさらに集中して悪魔達を観察し、
群れを統率する意識、その『糸』をたぐり目的を見定めていく。


レディ「(…………何か……)」

すると悪魔達の中にちらほら見える、
威嚇どころかこちらを完全無視してなにやら不振な行動をとる個体。

力の残滓をだろうか、あちこち嗅ぎ回っており何かを探しているようだ。

335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:16:50.62 ID:4j8u6dRPo

『攻撃してくる一部』に該当する、
跳びかかって来た悪魔の頭部を切り詰めたショットガンで吹き飛ばしながら。

そこでレディはあることを思い出した。

この悪魔達が現れた時、
その魔方陣はそろって追跡型のものであったことを。

そしてもう一つ、五和というあの魔術師が現れた点を正確に中心として、悪魔達が到来したのを。

レディ「(あの子か)」

バイクで跳ねて悪魔を飛び越え、
後輪で叩き潰しながらレディは思考を繋げていく。

五和を追って悪魔達はここに来た、
だが悪魔達はすぐに五和を追おうとせず、ここで何かを探している。

つまり五和を追ってはいるが目的は五和ではない。

となると『五和が行く先』にあるであろう何か、もしくは何者かに用があるということだ。
そしてここに目的のものが無いとすれば当然―――。

レディ「(…………)」

そこまでレディの思考が帰結したとほぼ同時に、
ちらほらと悪魔達が『次の場所』へと飛び始めて行く。

同じく追跡用の魔方陣で。


レディ「……ま、がんばって」


通りすがりに悪魔を跳ね飛ばしながらレディはそう小さく呟いた。
プルガトリオの一画に先ほど飛ばしてやった、あの三人の若き戦士達へ向けて。

―――

336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:19:25.14 ID:4j8u6dRPo
―――

『槌打たれた』ような人間界への衝撃をレディが覚える前、
遡ること『数十秒』、プルガトリオの人界近層にて。





禁書『…………』

相手は強大、総合的に見れば明らかに上。
それは分身である彼女自身がはっきりと自覚している。

しかし。

それでも退いてはならぬ時がある。

いいや、退くことができない時がある。

納得できぬのならば、目を背けて耐え忍ぶこともできぬのならば、選択は一つ。
この少女も遂に、武力を手に抗うことを決意した。

己の姉妹、己の分身―――そして『過去』を含む『己の全て』をここで清算し、己の望む未来を手にするために。


この戦いは果て無く厳しいもの。
しかし幸いにも、今の彼女は一人ではなかった。


禁書『…………』


またがる体の下にいる友―――この白虎。
そしてその力の根源、『主契約悪魔』―――上条当麻がついていてくれる。

彼女は白虎の背に身を預け、その柔らかい体毛越しの温もり、
そして己が身の内にある上条当麻との繋がりを再確認して。


禁書『行くよ―――スフィンクス』



       前に!
禁書『―――ZACARE!』

337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:21:05.05 ID:4j8u6dRPo

その詠唱の一声で、周囲の宙空から出現する大量の『青』のウィケッドウィーブ。
大通りもろともを覆い尽くす勢いで一気にローラへと伸びていく。

インデックスの狙いは至極単純、足りぬ技術の差は力の量で埋め、
そのパワーで一気に圧倒してローラを取り押さえることだ。

ローラを殺すことはまず避けなければならない。
殺してしまうと『分身』であるために様々な弊害が生じることが予想されるのだ。

二人はもともと絶妙なバランスの上に存在しており、
その均衡が崩れてしまうと死ぬ事は無くとも『精神体』が破壊されてしまう可能性が高い。

己が精神ではなく『プログラム』に従っているローラからすれば、
それは大した問題ではないかもしれないが。

インデックスとしては大問題だ。


なにせ彼女にとってこれは、『インデックス』という人格のまま『生きるため』の戦いなのだから。


と。
殺してはならない、というわけだが、状況的にはそんな事を気にする余裕など無かった。

殺してはならないが、殺す気で向かわないと―――いいや、
『こうして』殺す気で本気で向かっていても実際は足りなかった。

338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:22:31.62 ID:4j8u6dRPo

逃れる術など無いようにも思えたその青髪の包囲は、
ローラに一蹴されてしまっていたのだから。


先日、三人の少年を瞬時に押さえ込んだインデックスのウィケッドウィーブ。

最小限の力と最速の動きによって手足を繰り出しては、
ローラはそれを次々と束ごと弾き飛ばしていく。

それも余裕に満ち溢れて、舞っているかのように美しく妖艶に。

そして更に。

これもまた、アンブラの戦闘術の大きな特徴の一つ―――防御と同時に攻撃も繰り出す。

禁書『(―――)』

放たれてくる魔弾。
林立する青髪の中を抜けて、インデックスめがけて真っ直ぐに。

瞬時にスフィンクスが姿勢を低くして横に飛んだため、
魔弾は彼女の頬わずか数センチのところを掠め飛んでいった。


禁書『(―――)』


それは紛れも無く、彼女の頭を吹き飛ばそうとした一発。

わかってはいたものの、
彼女はローラの意志を再確認させられてしまった。

                     コワス
ローラは本当に―――こちらを一度『殺す』つもりなのだと。

339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:24:07.55 ID:4j8u6dRPo

インデックスを乗せ、猛烈な勢いで横へと回避行動をとるスフィンクス。
大通りやビルの壁面と屋上を跳び駆け抜けていく。

その後を追って、紙一重のところを突き抜けていく大量の魔弾。

これではどちらが攻勢なのかまるでわからない。

絶え間なく大量のウィケッドウィーブが伸びてローラの姿すら見えなくなっているのに、
同じように絶え間なく、青髪の間をすり抜けて魔弾が放たれてくるのだ。

いや、もはや『すり抜け』すらしていない。

林立するウィケッドウィーブをまるごと貫通してくるのだ。

禁書『―――』

力の量は多くとも、一点の一点の力の密度は到底及ばない。
アンブラの精鋭が放つ超密度の魔弾の前に、素人の『スカスカ』のウィケッドウィーブが盾になるわけもなく。

青い髪の束は次々と、まるで鉄筋ワイヤーのような音と動きで弾け切れていく。

しかもその狙いも徐々に正確に、スフィンクスの動きを完全に予測しつつあった。

禁書『―――ッあ!!!!』

そして遂に、修道服に接触してその二の腕あたりを引き裂いていく魔弾。
体には直接触れなかったも、
力の圧によって体ごと引っ張られ―――スフィンクスの背から落とされそうになってしまった。

そこで、思わずスフィンクスが足を緩めかけたが、
彼女は懸命にしがみ付いて。

禁書『―――とまっちゃダメ!!!!』

その声に鞭打たれてスフィンクスが逆に加速した直後。


三発の魔弾がここぞとばかりに同時に放たれてきた。


スフィンクスの頭部とその腹、そしインデックスの胸。
あのまま『速度を緩めてしまっていた先』にある、それらの『未来位置』へと正確に。

今しがたスフィンクスが加速したために、その三発の命中は避けられたものの。
一発がこの白虎の右脇、そこの肉の一塊を抉っていった。

340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:28:51.31 ID:4j8u6dRPo

禁書『―――!!!!』

一瞬で白虎の胸から腹が真っ赤に染まり、
溢れた大量の鮮血が航跡のように地面に尾を描いていく。

唸り身を激しく震わせるスフィンクス。

禁書『スフィ―――!!』

しかし傷を看るどころか心配する暇すら許されず。

瞬間、彼女は『検知』した。
ウィケッドウィーブを集中させているところからローラが『消えていた』のを。

そして次の瞬間、真後ろに突如覚える強烈な圧。

思わず振り返るとそこには。


禁書『―――』


僅か3mの至近距離に、ローラ=スチュアートがいた。


アンブラの戦闘装束に包まれた体をしならせて―――その美しい足を天高く掲げて―――。


―――かかと落しで今にもインデックスの頭をかち割らんと。


だがその一振りは紙一重のところで避けることが出来た。
刹那に、スフィンクスが瞬時に後ろ足を踏み切り回避したからだ。


ローラ『―――YeeeYA!!!!』

アンブラ式の掛け声と共に放たれるかかと落し。

ウィケッドウィーブと魔弾がセットの一振りにして三撃の凶悪な足、
それが一瞬前までスフィンクスが立っていた場を切り裂き破壊。

一瞬にして大地が陥没し、更に周囲のビルをも巻き込んで沈めていく。

341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:30:28.14 ID:4j8u6dRPo

だが当然、ローラの攻撃はここで留まらない。

魔女の技は常に連動する。

一つの攻撃を放つとき、それは次の攻撃の『溜め』の動作であり、
そして更に次の攻撃の準備動作、それがアンブラの戦闘術。


すかさずローラは前へと踏み込み―――放つは逆の足による正面蹴り。


そしてそれと同時にスフィンクスも動いた。
咆哮を上げてローラの方へと振り向きながら、白虎は薙ぐように前足を振りぬく。

瞬間、その前足に出現する銀の光で形成された『篭手』、そう、上条当麻―――ベオウルフの力と瓜二つの。
そんな光り輝く白銀の前足は、ローラが放った蹴りを横から叩き弾いた。


力と力の摩擦により、凄まじい衝撃と共に火花状に飛び散る光の粒。


禁書『―――』

衝撃は凄まじく、スフィンクスの背にいるインデックスの体、
筋肉、骨、力、魂までもが大きく振るえ軋む。

禁書『―――ッ!!!!』

そして痛烈に響く痛み。

思わず顔を歪めたインデックス以上に、
直に受けたスフィンクスは悲痛な咆哮を挙げるも、この体は一切怯む事無く。

続けて繰り出されたこれまた凄まじい回し蹴りを、
白虎は再び前足で弾く―――。

342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:32:24.64 ID:4j8u6dRPo

それはそれは凄まじい激突であった。

白虎たる姿のスフィンクス、その鋭い爪はインデックスの有り余る魔の力と上条―――ベオウルフの力を性質をベースとした、
とてつもなくパワフルなもの。

だが正式な戦士、それもアンブラ最精鋭たる近衛魔女の攻撃はとてつもなく重い。
瞬間的なパワーはこのスフィンクスをも優に上回り、一撃一撃がまるでさながら破城槌のよう。

一撃ずつ弾いたスフィンクスの両前足は、はやくも共に真っ赤に染まり上がっていた。

禁書『―――!!』

続くローラの打撃をスフィンクスは下がりつつは回避して弾くも、
既に限界が見えている。


そう、インデックス達は今や追い込まれていたのだ。


何度も重なっていく激突と衝撃。
それにつれて、徐々に勢いが弱まっていくスフィンクス。

このままではいずれスフィンクスの前足はもぎ取られてしまう。
そして最終的に二人ともローラに狩られてしまう結果に。

まさにこの時、状況を打開する一手が必要であったのだが。
今以上の使える『魔女の技』のなど無かった。

使用できる『魔女の技の中』でもっとも強力なのが―――ウィケッドウィーブだったから。
そう、もはや既に破られている技であったのだから。


―――だが、『魔女の技の中』では、だ。


実は彼女には別の裏技があった。

アンブラの叡智を秘めた主席書記官である上に、
イギリス清教が保有する魔術図書館であったが故に可能な裏技が。

343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:36:42.86 ID:4j8u6dRPo

魔の力は有り余っているのに、
アンブラの戦闘術式は非戦士が使えないものばかり。


また天界魔術も当然使えない。
今やもう『魔女』であるために力の供給は受けられないのだから。

だが、これを言い換えれば次のようになる。


アンブラの戦闘術式は使えられぬも―――『使える』魔の力は有り余っている。
天界魔術は力の供給は受けられぬも―――術式自体は『使える』。


そう、彼女の考えるところとはつまり、
魔と天、双方の『使える点』を組み合わせてしまえというものだ。

魔の力で天界魔術を起動させる、
それはもちろんかなり強引で難しいことではあるが、何もしないよりは万倍もマシだ。

それに今となっては理論上、
本来は使用が許されていない規格外の術式だって使える。

普通の人間では耐えられなくとも、この―――魔女の強固な魂なら容易に耐えられる。

インデックスはすぐさま、頭の中の書庫を検索し―――『とっておき』の術式を選ぶ。

一撃で最大級の威力を誇り、確実にローラ=スチュアートを行動不能にできる一手、
本来、人間程度では到底扱えない技を。


そしてアンブラの技術で魔の力で機能するよう、やや強引に修正して―――使える限り全ての、ありったけの力を注いで起動した。


すると次の瞬間、インデックスが掲げた右手に、迸る『稲妻』と共に出現する―――。



―――『片手用のハンマー』。

344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:39:33.72 ID:4j8u6dRPo

そのハンマーの柄の長さは20pほど、頭部は非常に肉厚の長方形型で幅30p程度。
特に装飾が施されていない、鉛色の無骨なものであったが。

放たれる圧はとてつもなく。

否応無くローラの視線もそのハンマーに向かう。

ローラの『目』もインデックスと同じだったのであれば、一目見てこのハンマーの正体を判別できたであろう。
そしてすぐに『対処するため』の手をとっていた筈だ。

だが、そうでなくともローラは非常に知識が豊富。
ローラの目に触れる時間が長ければ長いほど、見破られる可能性も増す―――いや、最終的には必ず見破られる。

つまりこれより、ローラの目に一瞬たりとも多く触れさせてはならない。
ハンマーの正体に気付かれないこと、それが成功の条件なのだ。


そこですぐにインデックスは白虎の背中から。


禁書『―――やァッ!!!!』


ハンマーを至近距離のローラ目掛けて『放り投げた』。

ただ放たれたその勢いは、お世辞にも『凄まじい』とは言えなかった。
確かに普通の人間からすれば目視できない速度ではあったが、ローラからすれば明らかに『遅い』。

戦士としての教育を受けていないインデックスの投擲は、
到底アンブラ戦士に『正面から』通用するものではなかった。

ローラは小首を掲げるようにひょいと。

その力は強烈でも『鈍速』なハンマーを余裕たっぷりにやり過ごし。


続けてスフィンクスへ継続して打撃を叩き込もうとしたその時―――。


ローラ『―――……ッ』


―――ローラの顔色が変わった。

彼女は感じたのだ。

背後から『戻ってくる』強烈な圧を。
それもみるみる、恐ろしい勢いで爆発的に『加速』して―――。

345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:42:07.02 ID:4j8u6dRPo

スフィンクスの前足をひときわ強い打撃で弾いて、後方へ半身振り返るローラ。
その目に映るは、『巨大な稲妻』を伴って戻ってくる凄まじい力を有するハンマー。


禁書『(――――気付かれ―――?!)』


一方のインデックスははっきり見てしまった。

ハンマーの『特徴的』な姿を見て、驚きから―――『確信』へと変わるローラの横顔を。

間違いなくローラはハンマーの正体に気づいたのだ。


とその時。


失敗の二文字がインデックスの頭を過ぎったその直後だった。

インデックスの腹部に突然スフィンクスの尾が巻きつき。
そのまま持ち上げて―――彼女を脇へと放り投げた。

禁書『?!』

突然のスフィンクスの行動に、当然彼女は驚いたも、
その理由もすぐに悟ってしまった。


禁書『――――――だm!!!!』


そして今だ宙を舞う中、彼女が制止を命じかけるも遅かった。



スフィンクスは既に―――ローラに飛び掛っていた。

346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:44:22.95 ID:4j8u6dRPo


ローラ『―――!!!!』

当然ローラは容赦なく攻撃を放った。
この獣の相手をしている場合ではないのだ。


こんな獣に組み付かれたままでは―――。


だが白虎は決して離れなかった。

魔弾で腹部や足を飛ばされても。

そしてその一瞬の時間稼ぎの間に、ハンマーは『戻ってきた』。



その槌の名は―――『ミョルニル』。



『オリジナル』は、北欧神話最強の一柱―――アース神族の『トール』が使ったもの。

ローラ『このッ―――!!!!』

ヨルムンガンド以外の敵全てを『一撃』の下に屠ってきた圧倒的な威力を持ち。



一度放られれば『必ず』標的へと―――命中する。



そして魔の力によって形成されたこの偶像もまた、
そのオリジナルの謂れ通りの性能を発揮した。


禁書『―――あァああ゛ァッ―――!!』


無骨なハンマーはローラのわき腹にめり込み、
その骨と臓物を粉砕して。


そのまま吹っ飛ばしていった。


スフィンクスもろとも。

―――

348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/18(月) 00:50:31.19 ID:vdIfm7QAO
スフィンクスさぁあぁん!

350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/18(月) 09:51:51.30 ID:Vgly8T7DO
スフィンクス……

365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:01:23.58 ID:nkf7uOmVo
―――

三人が見ていたのは、先いた場と同じ学園都市第七学区の街並み。
だが全て同じというわけでもなく、いや、同じどころか実はかなり違う。

街並みの像はぼんやりとし、
まるで水の中にいるように実体感無く揺らめいている。
場の空気もまた同じく虚ろ気なもの。

ステイル「…………」

五和「……」

実際に訪れたのは初めてであったものの三人は確信した。
ここがプルガトリオだと。

神裂「……」

そしてレディは正確に、
インデックスがいるであろう階層に送り届けてくれたようだ。

彼女の存在をはっきり感じるのだ。
同じく相手のローラ=スチュアートのそれも。

両者とも莫大な力を放っていることから、
激しい戦闘状態にあるということも知れた。

ただ。

そんな状況を把握しても三人はその場から動かず、
それぞれ難しい顔をして押し黙っていた。

レディが言っていた『結界』、それのおかげで、
インデックス達を『直接認識』することができなかったのだから。

366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:04:04.73 ID:nkf7uOmVo

インデックスとローラの力をはっきりと感じる。
しかしその存在を明確に認識できない。

いるのはわかっているのに『どこにいるのかわからない』
あるのはわかっているのに『見えない』し『触れない』。

ステイル「…………」

閉鎖的な空間でも設けているのか、
それとも『人払い魔術』に似たものでこちらの認識に干渉でもしているのか。

どちらにせよ、結界を結界だと認識できない三人には、
この障害を越える手立てを簡単には見つけられない。

神裂「……………………」

そしてこの難題に思考を費やす時間も無かった。
状況は刻々と変化していく。


その瞬間、インデックス周辺に超高圧の莫大な力の塊が出現。


ステイル「―――なっ」

続けて三者がそれを覚えてすぐ、間髪入れずにその力の塊は炸裂。
圧でこの階層の風景が目に見えて歪み、
物理的な衝撃が建物を『真上』へと粉みじんに吹き飛ばしていく。


さながら地面の『裏側』から巨大な『ハンマー』で打ちつけられたかのよう。

すさかず神裂が五和に寄り添って、その体からの光で包んで守っため彼女に怪我は無かったが、
この階層の街並みは一瞬で破壊一色となってしまった。

368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:06:51.38 ID:nkf7uOmVo

やはり人間界に似ていても根は別世界、
壊されたこの階層は奇妙な様相を見せていた。

落ちることなくその場に浮遊し続ける瓦礫や、
ゆっくりと割れてはふわふわと上昇する地殻の欠片などなど。

しかし当然、三者にとってはその光景に気を留めている場合ではない。

ステイル「ッ!!―――今のは!?」

場が大きくかき乱されていて、
インデックスの力もローラのそれも認識できなくなっていた。


神裂「―――……うっ……!!」


そしてここで更に。


状況はこれでもかとばかりに次々と畳み掛けてくる。

その時三人の周囲を取り囲み大量に、
この奇天烈な荒野中に魔方陣が浮かび上がり。

神裂『―――ああぁあ次から次へと本当に!!本当にッ!!本ッ当にィィッッ―――!!』


うんざりの極みに達した神裂の声と同時に、大量の悪魔達が出現した。



神裂『―――こんのタイミングで来てんじゃねぇぇーッッよドブネズミ共がッッ!!!!』



ステイル『まったく困るね!!僕の主をキレさせてくれるとは!!!!』


すかさず全身に紅蓮の業火と光を纏うステイル。
同じく七天七刀の柄に手をかけて戦闘態勢となる、ついに積もり積もった鬱憤が爆発してしまった神裂。


神裂『五和ァッ!!私の後ろにいろァッ!!ぜっってー離れるなよ巻き込むぞオラァッ!!』


五和「―――はッ!!はいッ!!はいぃッ!!」


そして彼女の背後に槍を握り締める五和が続いた。
その恐ろしい声に半ば鞭打たれるようにして。


―――


369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:09:33.40 ID:nkf7uOmVo
―――

学園都市、窓の無いビル。

アレイスター「……」

水槽の中にて、
アレイスター=クロウリーはこの状況を見極めようとしていた。

予想はしていたが、やはり始まった流れの速度は凄まじいものであった。
各勢力各陣営それぞれがこの状況の主導権を握るべく動き出し、今や混沌としつつある。

アレイスター「……」

だがこの大荒れの渦に惑わされて、目的を見失ってはならない。
自身にとって最も重要な部分、『プラン』にかかわる部分を的確に見出し取捨選択しなくてはならない。


まず一方通行に関しては、今のところ問題は無いとできる。
悪魔達と接触しているが学園都市におり、状態も安定している。


問題は幻想殺しだ。


禁書目録、神裂火織、ローラ=スチュアート、そして更に別の魔女の登場、
それらの立て続けの出来事の中であっという間に幻想殺しを見失ってしまった。

人間界から抜け出てしまったのだ。
更に悪いことにその行き先がまるでわからないときたものだ。

アレイスター「………………」

プランの最終段階が始まっているのにその核が手元に無い、
まさにアレイスターにとって最悪の事態だ。


今はとにもかくにも、何とかして幻想殺しを取り戻さなければならない。


時間的余裕はほぼ無いためもちろん手段を選ばずに。
もちうる全ての力を使って、だ。

370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:12:33.70 ID:nkf7uOmVo



水槽の中、アレイスター手元に一本の杖が出現した。

銀色でねじくれた杖―――『衝撃の杖』。

アレイスターはその柄をゆるやかに握り、力を『完全稼動』させるための術式調整を始めた。
ただ、『術式』といっても使う力は天でも魔のものでも無い。


その根源は人界のもの、つまり―――『能力』だ。


アレイスターは今、60年ぶりに『この体』の『能力』を完全稼動させようとしていた。

「あと一回、能力を起動してしまえばもう『その体』はもたない。
 次に力が切れたとき、そこで君は終わりとなるよ」

それは『この体』を生かしてくれて、この『水槽』で状態の維持を確立してくれた友の言葉。
アレイスターももちろん重々承知している。
しっかりとしたデータに裏打ちされた確かなことだ。

だからこそ、あれから今日ここまで一度も使わなかった。
プランのためにその『最期の一回』をこうして温存してきたのだ。

アレイスターは徐々に全身に湧き上がってくる力、それと共に、
60年間閉じ込め続けてきた『感情』も仄かにこみ上げてくるのを覚えた、


アレイスター「―――…………」


そしてふと導かれて。


この体の『前の持ち主』に想いを馳せた。


かつて――――――したあの女性を―――。


彼はふと目を閉じると、
その脳裏に過ぎるかつての姿に向けて小さく声を投げかけた。


アレイスター「―――もうすぐで終る…………もうすぐだ」


一人静かに、そっと。


―――


372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:15:51.87 ID:nkf7uOmVo
―――

一斉にこちらを向いた、夜の街に蠢く異形の群れ。

初春「ひっ―――」

そのおぞましい視線に耐えかねて、
初春は窓の傍で尻餅をついてしまった。

初春「―――な―――ひっ」

真っ白に、いいや、『真っ黒』になってしまう頭の中。

何も考えられない。

体がすくみ小刻みに震え、額からは冷たい汗がにじみこぼれる。
割れたガラス片の上に手を着いてしまったことすら気付かず、
初春はただただこの異様な『恐怖』に縛られていた。

そして動けない一方でやけに感覚が冴え渡っていく。

まるでこの恐怖を『もっと味わえ』とでも言うかのように。

聞えるのは鼻腔と口腔・気道を空気が通っていく音と、
早馬の如く打ち鳴らされる鼓動。

そして外からの―――。


初春「―――ッ」


重い何かが地面を打っているような音。
それも複数、徐々に近づいてきて。

373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:16:59.38 ID:nkf7uOmVo

その正体が何なのか、
もし彼女が確かめたいと思ったとしてもそれは出来なかった。

座り込んでいる小柄な彼女からでは窓の外は見えず、
そして立ち上がることもできないのだから。

ただ。

それは彼女が自分から確かめるまでも無かった。

ずしん、と重い何かがぶつかってきたかのか、この支部が揺れ。
複数の重い響きが続き。

そして。


初春「―――ッひぁ…………!!」


窓のすぐ外まで、『それ』が壁を登ってきた。
歪んだブラインド越しに見える、大きな怪物。

夜のせいなのかそれとも元からそうなのか、影のように黒く。
そのシルエットはゴリラを3倍にしたように巨大で威圧的。


そして焼き殺すかというほどに強烈な視線を放つ―――赤い瞳。

374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:18:45.15 ID:nkf7uOmVo

それも一体だけではなかった。
横から別の赤い瞳の怪物も這い上がって、同じように初春を見つめてくる。

もとより動けなかった彼女にはもう成す術がなかった。
ただただその視線に怯えその場で固まっているしか。

怪物達はまるで品定めをしているかのように、しばらくジッと初春を眺めていた。

実際は10秒になるかならない程度であったが、彼女にとっては一生のごとく感じる間。
生きた心地がしないとはまさにこの事だ。


―――とその時だった。

唐突に何の前触れも無く、その現象が起こった。


その瞬間、何もかもが『吹き飛んだ』。


壁も天井も、この支部の上階ごと粉微塵。
周囲の何もかもがぶっ飛んでは砕け滅茶苦茶に四散。


―――怪物もろとも。

375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:20:12.69 ID:nkf7uOmVo

それは不思議な『爆発』だった。

初春「―――…………え―――?」

辺りは何もかもが砕け散り、激しくその欠片が舞っていたにもかかわらず、
自身は破片を浴びるどころか、『衝撃波』すら当たっていない。
頬を撫でる微風すらない。

この破壊の一切が伝わってきてはいなかった。

そのため、これほどの破壊にもかかわらず『音』は聞えなかった。

そしてそれがまた、
これが悪い夢にも思えてしまう、そんな非現実的な居心地を強めていく。

それこそこれが夢であったらどれだけ良かったであろうか。
悪夢は悪夢でも、目覚めてしまえばそこで終らせることができたであろうに。


初春「…………」

だが目覚めは来ない。
自身と外界を分け隔てていた『何か』が無くなったのか、
途絶していた空気感や音が徐々に戻り、これが現実であると突きつけてくる。

粉っぽい空気、焦げたような香り、崩れる瓦礫や欠片の音。

だが悪いことばかりでもなかった。


「―――立てるかァ?」


その時、この状況では懐かしくも思えてしまう日本語が前方から放たれてきた。
『前』に聞いた覚えのある声で。


彼女が今だ震える身のまま見上げると。


初春「―――」


すると、ひしゃげた窓枠の上に一人の少年が立っていた。


背後の闇とのコントラストで際立つ白い髪に白い肌。
この状況でのその姿はまさに、初春にとって救世主にも思えてしまうほど。


ただ、その両腕は底なしに濃い『黒』であったが。


―――


376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:21:44.74 ID:nkf7uOmVo
―――


ロダン『連中も乗り気だ。何あるのなら可能な範囲内で手を貸そう、だとよ』

天界の天津族・アース神族のトップとの『会合』内容の報告。

ダンテ「へぇ……」

宙の球からのそのロダンの声をダンテは聞いていた。
いや、聞き流していたと表現するべきか、
転寝しているかのように目を閉じては、関心が無さそうな相槌を打っていた。

相変わらず朽ちて倒れている柱に寝そべりながら。

ロダン『ただ状況的に、むしろ連中の方がお前さんの手を借りたいだろうがな』


ロダン『それでどうするんだ?』


ダンテ「…………ん?何が?」

ロダン『何がってよ、まず話してからその後を決めるって事だったろ?お前さんから連中に対して何か無いのか?』

ダンテ「挨拶の言葉でも述べればいいのか?」

ロダン『違う。協力とか今後の段取りとかの「何か」だよ』

ダンテ「あー、そこはロダン、お前に任せるって言ったろ」

ロダン『……ああ、そうか。なるほど……』

ダンテ「はっきり言って俺は、天界の内輪揉め自体には興味無えし、予定組んでよそ様と歩調合わせんのも苦手だからな」

ロダン『ふっ、確かにな。わかった。ならばこちらは俺の好きにやらせて貰うぞ』

ダンテ「ああ勝手にやってもらってて構わない。『興味』があったらこっちから動くからよ」

377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:24:04.83 ID:nkf7uOmVo

ロダン『おお、そうだ。一つ気になる事をこっちで聞いた』

そのように一連の話を終えた後、
ロダンが思い出したように別の話を切り出した。


ロダン『プルガトリオの人界近層で、アンブラ魔女を二体検知したとよ』

ロダン『どうやら魔女同士でやりあってるらしい』

ダンテ「Hum...」

それを聞いてダンテはぱちりと目を開いては、
興味深そうに声を漏らして。

ダンテ「『あいつ』か?」


ロダン「いいや、俺の『知り合い』共では無え。聞く限りじゃ、『あいつ』らにしては力の大きさも密度も低すぎる」

ロダン「それにしてもアンブラ魔女が他に二人も生き残っていたとはな」

ダンテ「へえ……」

生き残っていた別の魔女、
といえば、ダンテには思い当たる人物が一人いる。


―――インデックスだ。


となれば、これは聞き流しておける事ではない。

依頼主であり友人であり、
そして今は『バージルの目的の一つ』、ともダンテは考えているのだから。


378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:27:13.48 ID:nkf7uOmVo


ダンテは不敵な笑みを浮べてはむくりと起き上がり。

ダンテ「ロダン、その場所はわかるか?」

ロダン『いいや、又聞きしたもんだからな、そこまでの詳細は伝わっては来ない』


ダンテ「へえ…………そうか」

柱から飛び降りて、
立て掛けていたリベリオンを背にかけた。

元使い魔達は今、魔具の形となって周囲の地面に刺さっていた。
本体のままだと『色々』と目障りなため、ダンテの『頼み』でそのようにしたのだ。

柱から降りたダンテは、その足元の彼等をしばらく思案気に眺めた後。
パチンと指を鳴らしては、まずは『氷のヌンチャク』を指差して。


ダンテ「ケルベロス、禁書目録の嬢チャンの匂い覚えてるか?」


ケルベロス『あの小娘を追うのか、ならば一度人間界のあの街に降りねば』

ダンテ「OK、見つけたら……そうだな、アグルドに連絡してくれ」

ダンテ「そういうことだアグルド、後で送ってくれ」

アグニ『む、む……?』

ルドラ『ぬ、ぬ……?』

とそのように。
ダンテが当たり前に言った、『送る』という事に一瞬アグルドが戸惑いの声を挙げた。

なぜなら使い魔が主の存在に干渉することは不可能、
つまり『運ぶこと』ができなかったのだから。

ただその主従関係が消えてしまっている今、『友』を運ぶことに何の障害があろうか。

アグニ『……うぬ、おかしくはない』

ルドラ『……うむ、おかしくない』

染み付いた『癖』に惑わされながらも、
アグルドはついさっき解放されたことを再確認してそう口を揃えた。

そして同じくケロベロスも。

ケルベロス『了解した。我があr…………友よ』

379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:29:40.17 ID:nkf7uOmVo

ダンテ「それとネヴァン、ケロベロスと一緒に人間界に行って、そのまま学園都市に残って状況を見張ってろ」

ネヴァン『あらぁ、私はあなたと一緒が良いのだけれど』

それはまた今度だ、
とネヴァンの不満を受け流したところで、ダンテは一度言葉を区切って。

ダンテ「基本的に状況ごとの判断はお前らに任せるぜ。好きなやり方でやってくれ」

そのダンテの言葉を受けて、
ケルベロスとネヴァンその場から姿を消した。

と、その直後。

銀の具足、ベオウルフの周囲に移動のための魔方陣が現れた。


イフリート『―――貴様。勝手に―――』

それを察知しすかさず声を挙げる篭手。
だがベオウルフもすぐに言葉を返し。

ベオウルフ『我が身は既に解放されている。一々「元主」の言葉を仰がねば動けぬのか貴様は』


ベオウルフ『聞けスパーダの息子、我は我の意志のまま赴く。貴様の言は受けぬ』


立て続けにダンテへと声を放った。
それを受けてダンテは相変わらずの調子で肩を竦めて。

ダンテ「構わないぜ。好きしてくれ」

あっさりと了承。
直後、すぐにベオウルフは姿を消した。

380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:32:34.70 ID:nkf7uOmVo

それを見送った後、
ダンテは朽ちた柱に寄りかかって。

ダンテ「というわけでだ、お前らはとりあえず俺とここにいてくれ」

残ったイフリートとアグニ&ルドラに告げた。

ダンテ「気にすんな。なるようになるさ」

そして不機嫌そうに沈黙する『炎』の篭手、
そこからの視線にそんな風に返したのち。

腰からエボニー&アイボリーを引き抜いては足元に『落として』、
同時にとある一つの魔具を呼び寄せた。


ダンテ「―――ギルガメス」


するとその瞬間、ダンテの両手両足に銀の装具が出現。
両足に出現したそれは、ちょうど落ちてきた銃をキャッチして、

歯車と軋む金属音を響かせながら二丁を『飲み込んで』包んでいく。

続けてダンテが腰からもう二丁。
トリッシュから預かっているルーチェ&オンブラを手にすると、
両足と同じように装具が銃を包み込んだ。


一見すると、前腕部に備え付けた仕込み銃のようにも見える配置だ。
ルーチェ&オンブラ自体は隠せる大きさでは無いが。

ダンテ「Humm...」

そのギルガメスの動きと銃の馴染む様子を見て、
ダンテは満足そうに鼻を鳴らして頷いた。

381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/21(木) 23:34:24.04 ID:uUULYIqw0
言ってみりゃ全員解雇か。とりあえずおつかれさま

382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:35:38.53 ID:nkf7uOmVo

と、そんな風にダンテが子供のようにニヤニヤしていると。

ロダン『そろそろお前さんも動くのか?』

ここでの会話を聞いていたであろう彼の声がそこに響いた。

ダンテ「あー、まだわからねえな、とりあえずは禁書目録周辺の状況を確認してからだ」

ロダン『そうか。ところで今、新しい情報が入ったぞ』

ダンテ「ん?」

ロダン『アスタロトの軍勢が突然妙な動きをし始めたらしい』

ロダン『ネロがかき回してるってのあるだろうが、それだけじゃ説明つかねえ動きだ』

ロダン『他にも何かあると思うぜ。一部は唐突に学園都市にも降りたようだ』

ダンテ「…………へえ」

そこでダンテは感じた。
自身の直感が反応したのを。

この悪魔達の動きも『繋がっている』と。

常に、騒乱は別の騒乱を引き寄せて巨大化していくものだ。
今もまた、インデックス周辺を中心にあらゆる『モノ』が集約しつつあるのだ。

ロダン『あともう一つ、』

そしてそこに続いたロダンの言葉が、
このダンテの直感を更に確たるものへとした。


ロダン『ジュベレウス派の一軍が、例の魔女の件で出動したらしい』



ロダン『率いているのは四元徳の一柱―――「テンパランチア」だ』


383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:39:21.97 ID:nkf7uOmVo


ダンテ「Hum...」

四元徳。

現在の天界における最上位の存在。
それが動いたとなればやはり―――。


『このような』物事には、その流れの中に必ずとある『山場』がいくつか形成される。
それは様々な意志と因果が集中したタイミング。

ダンテは昔からよく、そのポイントを狙って利用する。

何をどうすればいいのか、具体的な目処が立たない場合は、
とりあえずそこに飛び込めばいいのだ。

物事の本質が浮き彫りになるその『心臓部』たる瞬間に割り込んでしまえば、
部外者が『主役』になってしまうことも可能となり、流れに干渉できる権利が手に入る。


そして今もまた、ダンテははっきりと見定めた。


『今回』の『一つ目の山場』を。

アスタロト、四元徳、魔女、そしてバージルの意志。
更に今だ把握していない主な陣営・役者も顔を並べるであろう、
全てがが集束しぶつかる瞬間を。


ダンテ「―――ハッハ〜!ロダン!今ので決まったぜ!」


ロダン『あん?何がだ?』


ダンテ「イフリート!アグニ!ルドラ!準備しておけ―――場所を特定できたらすぐ飛ぶ」


              パーティ
ダンテ「そろそろ―――『出番』だ」


―――

397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:23:15.72 ID:gzXVTJRMo

―――

そこは柔らかい光に満たされた空間。

上条「(…………)」

上条は三度そのような意図しない場にいた。
ただ今回は、なぜここにいるかは把握していたが。

入り口は開いたが『出口』がまだ開いていないのだ。

ガブリエルは『望む場に繋がる』と言っていたが。
何らかの理由でその上条が行きたい場所、
つまり『インデックスの傍』に繋がらなくなってしまっている。

上条「(…………)」

更に細かく言うと、インデックスの位置を特定する『最後のピース』が手に入らないのだ。
あと一歩というところまで判明しているのだが、
最後の最後で『何か』によって妨害されてしまっている。

ガブリエルの用意してくれたこの『門』は今、
機能が完全に滞ってしまっていた。

上条「(…………くそッ!!)」

一体どうすればいいのだろうか。
このまま留まっているわけには行かない。

こうしている今もこの身の奥底からはインデックスの存在を、
そして彼女の身に危険が迫っているのを強く感じているのに。

こちらのベオウルフの力を強く引っ張って、
明らかに今までないくらいの闘争状態に陥っているのに。


―――と、そこで。


上条「―――…………ッ!これで!!」


上条は気付いた。
彼女の位置を特定する、『最後のピース』の代わりとなるかもしれないものを見つけたのだ。

そう、まさしく『コレ』が代わりになるのではないか、と。


この『インデックスとの繋がり』が。

398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:24:55.63 ID:gzXVTJRMo

ただ問題は他にもあった。

上条「(でもどうやって……!!どうする?!)」

どのようにして、このガブリエルの門にそれを『入力』するかだ。

この門がどのような原理で動いているかもわからない彼にとって、
余りにも難き問題。

魔術知識なんてからっきしなのだから、書き換えるなんて事はもちろん不可能。
そもそもどうやって書き換えるのかもすらわからない。

ではベオウルフの力を無理やり流し込んでみるか、いいや、
そんな事をしてこの門を壊してしまったら取り返しが付かない。

例え壊れなかったとしても、まともに動くわけが無いのが目に見えている。

上条「(考えろ、何かあるはずだ、何か―――)」

だが諦めるのは許されない。
とにかく何でもいいから可能性のあるものを捻り出そうと上条は頭を絞り続け、
今持ちうるありとあらゆる知識・記憶を洗っていく。

そしてその中で、彼はある記憶に気を留めた。


それはついさっき、ガブリエルと話したこと。


あの『出陣の野』に行ってしまった原因は、ガブリエルではなく―――己自身だった、と。

399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:25:40.38 ID:gzXVTJRMo

上条「(―――)」

それはつまり、己も門を開けることが出来るのではないのか。

だが―――どうやって?

ただその方法に関しては、わざわざまた頭を絞る必要は無かった。
目覚めつつあった自身の本質が自然と導いてくれたのだから。


視線は自ずと自身の右手へと向かい。

そして上条はその次の瞬間、
結論を『知る』のではなく『すでに知っていた』。

上条「(―――)」


―――求めるのならば記憶は蘇る―――。


そのガブリエルの言葉通り、上条が求めた『幻想殺し』の本質が既に意識内にあった。


幻想殺し―――その作用は。


ただ単に対象を『消す』のではなく『相殺』する。
つまり、対象と非常に似た力を正確に『放出』している。

またただ単にぶっ壊すのではなく、
『構造』の基部をピンポイントで破壊して崩壊を引き起こすこともできる。

つまり、対象の構造を正確に分析している。

そしてこの作用を応用すれば次のように―――いいや、むしろここからが幻想殺しと呼ばれるこの力の『本命』。



一度触れて構造を理解した対象を―――新たに『再構築』することが可能である。


400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:27:24.68 ID:gzXVTJRMo

では、幻想殺しとは一体何なのか―――と、平時ならそのまま意識は続いていっただろう。

しかし状況的に上条はそこより先の記憶を求めはしなかった。
今はこれで充分だ。


そして幻想殺しの作用の本質、
それを『知っている状態』へとなった瞬間、


その右手が仄かに―――『オレンジ色』の光を放ち始めた。


上条当麻は特に驚きもせず、その輝きを帯びた右手を伸ばして。


この場を満たす光に触れた。


光は消えなかった。
ガブリエルの門が崩壊することも無い。

書き換えと再構築ののち、最後のピースを上条から与えられて。

門は再起動。


上条「OK」


問題なく動作していった。

これぞ、今まで無制御状態であった幻想殺しが、
上条当麻の確たる意識の制御下に入った瞬間であった。

これは彼にとって大いに、大切な人を守るための力となりうる。
だが一方でとてつもない危険も孕んでいた。

上条が自身の『魂のルーツ』を知って本質に目覚めること、それはすなわち。
『同化』している太古の暴虐な『竜』の覚醒も避けられないのだから。


また、この門の先、インデックスがいる場所には。


彼にとって、今までで最大の―――『試練』が待ち受けていた。


―――

401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:27:57.54 ID:gzXVTJRMo
―――

どう考えても、人間界への影響も免れない強烈な衝撃であった。
階層全体が大きくきしみ、風景が『波うち』何もかもが崩壊していく。

そんな破壊の中にて、
インデックスは地面に叩きつけられるように落ちた。

禁書『ぐっ…………』

割れたアスファルトに強く後頭部を打ちつけて、
いや、それ以上に今の『ミョルニル』に力を使いすぎたのだろう、
恐ろしく重い倦怠感を帯びて朦朧とする意識。

だがその状態でも彼女は懸命に頭を働かせて、
状況を把握しようと全ての知覚に集中する。

禁書『…………うぅっ……』

這いずりながら顔をあげ、
ローラとスフィンクスが吹っ飛んでいった方向を見やった。

しかし両者の姿を捉えることは出来ず。

かなり吹っ飛ばされたのか、崩壊した街の向こうにそれらしきものは見えず、
また階層が大きく歪みかき乱されているせいで力も認識できない。

402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:28:40.56 ID:gzXVTJRMo

と、その時。

禁書『―――…………』

彼女は一つ、こちらに急速に向かってくる確かな存在が感じ取った。
それはすぐに判別できた。

先ほど放り投げたハンマー、『ミョルニル』だ。

一度放られれば必ず標的へと命中し、そして『使い手の元へと戻ってくる』。
そのいわれの通り舞い戻ってきたのだ。

轟音を立てて目の前の地面に突き刺さる無骨なハンマー。
その頭の部分はベットリと真っ赤に染まっていて、そして―――。


―――巻きついている、いまだ生きている『金髪の束』。


その束の続く先は、わざわざ顔を上げて確認するまでも無かった。
このハンマーに引かれて直後、彼女の前に着地したのだから。

禁書『―――』

滝のように腹から血を滴らせ、
その戦闘装束を紅に染め上げて膝を突きながらも。


こちらを真っ直ぐと見る―――ローラ=スチュアートがそこにいた。

403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:30:20.47 ID:gzXVTJRMo

目が合った瞬間、インデックスは硬直してしまった。

首、顎、そして額の辺りまで飛び散っている赤い液体。
脂汗が滲んでいる凄まじい形相の顔と。

血走った瞳―――。


―――『様々な感情』が入り乱れている目。


目が合ってしまった一瞬、
インデックスはその瞳からローラの内面を垣間見てしまって、意識を奪われてしまった。

そしてこの一瞬の意識の隙が命取りにもなってしまった。
もっとも、この状況ではどのみちろくに抵抗はできなかったであろうが。

刹那―――ローラは素早く踏み込んできて。

インデックスの修道服、その首元を掴み上げては、
彼女の胸に左手の拳銃を押し付けて―――。


―――即座にその引き金を絞った。


禁書『―――えっ…………ッッ…………』

その一連の出来事はあまりにも早く。
何が起きたのか、それに彼女が気付いたのは―――胸を貫く強烈な痛みを覚えてからであった。


禁書『―――あ゛ッッ!!あ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!』

鳴り響いた銃声の一拍後。

気道と通り噴き上げて、口から吐き出される鮮血。

まるで胸の中に火の塊を投げ込まれたような感覚。
熱と焼き焦がされるような刺激が一気に体を蝕んでいく。

そしてそれと同時に―――最後に残った力が消失していく。

魔弾にそのような作用が篭められていたのだろう。
インデックスの知識の中にも該当する術式が多くある。


ただその詳細を判別できたところで、彼女は何もできやしなかったが。

404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:33:14.89 ID:gzXVTJRMo

胸から止め処なく流れ出て行く血。
その返り血で真っ赤に染まった銃、それが、今度は顎の下へとむけられ押し付けられた。

放たれたばかりの銃口の熱を覚える中。

インデックスは血に咽ながらローラの顔を再度見つめた。
その『様々な感情』が入り乱れている―――瞳を。

怒りと混乱。

悲壮と困惑。

絶望と希望。

それらが複雑に絡み合ってしまっていて―――。

禁書『―――…………』

ローラ『…………』

そんな混沌としている内面が否応無くわかってしまう。
いや、わかってしまうのではなく、まるで自分の事のように体感してしまう。

それも当然。

何せ二人は『同じ』。

二人は『一つ』なのだから。

インデックスはローラの内面を、
同じようにローラもまたインデックスの内面を体感し、
そしてお互いの立場を再確認させられ。


これでもかと突きつけられる、同じ二人なのにある『大きな違い』。


自分の『存在意味』を『己』とするか、それとも―――『人格』を『己』とするか。


―――インデックス、それは『人格』を『己』と『認めた自分』。


―――ローラ、それは『人格』を『己』と『認められなかった自分』。

405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:35:36.79 ID:gzXVTJRMo

お互い、目的を果すために構築された『人形』なのに。

元は同じなはずなのになぜ。
元は同じだったはずなのに、どうしてこんな違いが生まれてしまったのだろうか。

ローラ『―――』

いや、厳密には完全に同一ではなかった。
作られた経緯に起因する差異があった。



ローラはこの500年間、出会うことは無かった。
彼女を理解し、彼女を慕い、彼女と同じ痛みを知り、そして彼女を『救おう』とした者には。

いや、『救おう』とさせなかったのは彼女の方だ。

彼女は強すぎたのだ。

『姉』をベースとした、目的の中核としての『人形』であるが故に、
とてつもなく強くそして完璧に構築されていたのだ。

そのため、何人も『彼女を救おう』などという上位には立てず、
彼女の強さは唯一の心を許せる友、エリザードをもすら寄せ付けなかった。


一方で『妹』をベースとした『インデックス』は、ただ管理制御を行うための存在。
そのため、余計な機能や力は排除され最低限の部分のみで作られていた。

つまり強くも無く完璧でも無かった。


だからこそ『インデックス』は―――孤独ではなくなった。


だからこそ彼女は『救われた』。


不完全で弱かったが故に。

406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:38:38.22 ID:gzXVTJRMo

これは皮肉なのだろうか。

弱者は弱者であるが故に救われる。
強者は強者であるが故に救われない。


インデックスにとって『他者がこの人格を守ってくれた』、
ということが大きな『自信』となり『根拠』となり。


―――『私は存在して良いのだ』、『私は存在しなければならない』、『私は―――存在し続けたい』


存在意味と根底にあるプログラムを拒絶し、『人格』を『己』とすることができた。
そしてそれは、アンブラの契約術の起動によって『本物』だとここに証明もされた。

そう、インデックスは『本物』と証明された。
妹をベースとした存在が『本物』になったのだ。

そしてそれはこうも言えるのではないか。


―――『本物の妹』がここにいる、と。


だが。

ローラはそれを許容することなどできなかった。
彼女は強くそして『完璧』すぎた。

『あの日死んだ妹を計画通りに蘇らせる』、その鉄の意志―――プログラムはねじ曲がりなどしなかった。

ただただ正確に計画通りに成し遂げる事、それが全て。
だからイレギュラーなこの『結果』を認めはしなかった。


どうしても認められなかった。


ただ、ローラがこの今前にしている『妹』に対して何も思わぬわけでは無かった。
むしろこの妹の排除にとてつもない拒否感を抱く。

妹は妹、変わらぬ最愛の存在なのだから。

しかしローラにはどうしても、
そんな感情と人格をプログラムよりも優先するなどできなかった。
単独で拒絶するには『構造上』不可能であり。

インデックスのように、他者から『自信』と『根拠』を与えてもらうこともなく。

他者によってその人格を認めてもらうことも、慕われ愛されることも無く。

背負い続けてきたものを他者に理解されることもなく。


彼女を『救える』ほど上位の他者などいないのだから。


強すぎて完璧だったが故に『ローラ』は―――孤独だった。

407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:40:33.32 ID:gzXVTJRMo

インデックスは震える右手をそっと上げて。
添えるようにしてローラの頬に触れた。

懇願したわけでも、哀れみを抱いていたわけでもない。
ただ触れたかった。
触れなければならないと思ったのだ。

この『己と同じ存在』でありながら―――『己と違う存在』を。

更にお互いの意識、内面を知り体感し同化して行く。

だが、どこまで行っても結局は―――『完全に同じ』にはなれない。

今ここの現実として、二人は『別人』なのだから。

『インデックス』と『ローラ』なのだから。


両者の間にはいまや、どうやっても埋めやしない『違い』が深く刻まれていた。


インデックスが頬に触れた瞬間、ローラはピクリと目を細めた。
そして僅かに震える拳銃を持つ手。
それは彼女の感情の激しい乱れによるもの。

だがそんな乱れでも、
その体を支配しているプログラムを遮れるほどではない。

インデックスの喉元へと押し付ける銃口がぶれることは無く。

そして引き金が絞られていき―――。


―――とその時。


408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:41:20.60 ID:gzXVTJRMo

禁書『―――』

インデックスは朦朧とする中で感じた。
この魂から伸びる『繋がり』が一気に強力になったのを。

繋がりの先の者が―――『ここ』にやって来たのを。

もちろん、ほぼ同時にローラも。
インデックスと意識が同化状態にあったために、インデックスの思念ごとその存在を知り体感した。



そしてそれは逆も然りであった。

ここに今やってきた『彼』もまた―――インデックスとの繋がりを介して瞬間的に、
この二人の魔女の思念を知り体感することとなる。

ただ、それらを知り得たとしても、
彼がローラに向けられる言葉は増えやしなかった。

『彼』は、ローラに『自信』や『根拠』を与えられるほどの強者ではなかった。
彼女をプログラムから引き離せる力を持ってはいなかった。

インデックスですら戦うしか出来なかったのだから、
同族ですらない彼はただただその銃口を向けることしか出来ない。


『―――インデックスを放せ』


そしてただこれだけの鋭い言葉を突きつけるしか。

ローラから見て左方10m程のところから、
上条当麻は矢のような声を放ち、そして繰り返した。


上条『―――放せ!!放せっつってんだよ!!』


その左手の黒い拳銃を、真っ直ぐとローラの即頭部へ向けて。
銃身部に力を集約させて銀に輝かせながら。

409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:42:45.80 ID:gzXVTJRMo

胸を撃ち抜かれているインデックス、そんな状況が上条当麻を圧迫していく。
だが、心は滾っても思考は常にクールに、彼は懸命にそう己を押しとどめていた。

それにインデックスと繋がっているというのも、
彼がここで留まることへの助けとなっていた。

ここに来たことによって『繋がり』に障害が無くなり、
はっきりと思念を疎通しているから把握できる。

彼女は酷い傷を負ってはいるが、すぐに死に直結するものでもないということが。



ただその『繋がり』は、他の思念もこちらに運んできた。
インデックス、そして彼女を介して―――ローラのを。

上条『…………』

インデックスを傷つけたローラ、
そんなあの女へのこれ以上無いくらいの憤りも確かに覚えている。

だがその一方で―――。

上条『(―――くそッ…………!!)』


―――これはどうしたものか。


インデックス経由で、
まるで自分自身のように『ローラ』を体感してしまうのだ。

ついさっき。

五和を殺そうとしたローラに銃口を突きつけた時は、
インデックスと同一に感じてしまって危害を与えることに拒絶感を覚えてしまっていたが、『これ』はそんなものではない。

危害を与えるか否かどころか、こうして銃口を向けておくことも。
引き金にかけている指をそこに留めて置くこともすら厳しい。


410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:45:34.81 ID:gzXVTJRMo


そして更に。

どうしようもなく心が震え乱れてしまう。
ローラからの、更にそこにインデックスものが混じったありとあらゆる感情、
それが無秩序に絡み合って増幅して、別の方向から上条を圧迫していく。

急速に蝕んでいく。
上条は揺さぶられ、精神が急速に不安定になっていく。

上条『(ッ……くッ―――!!)』

戦うしか術が無いのに、こうして銃口を向けるしかできないのに、
それすらをも心のどこかでは止めようとし始めている。

だがそれでも、上条は拒否できない。

この繋がりを介されて送られてくる『贈り物』を拒否できない。

何があってもインデックスを拒否できないのと同じく―――ローラの思念を拒否できない。


そんな彼へ向けて。

ローラがインデックスの方を向いたままぼそりと呟いた。


ローラ『―――撃てるのか?』


ついさっきと並べた語は同じでも、その顔は笑みなく無表情で―――声は凍て付くくらいに冷ややかに。

言葉に含まれる意味は何重にもなっていた。
上条と同じように、
インデックス経由で彼の内面を見ているが故に。

そして同じくローラを知る上条が返したのは。


上条『―――……………………撃ちたくはねえ……撃ちたくねえんだよッッ!!』


そんな吐き出すような精一杯の言葉であった。
そしてその声と同時に、ローラへと繋がりを介して彼の意志が伝わっていく。


どうしても撃ちたくは無い、だがそれでも―――それでも必要ならば―――。


―――インデックスのために必要ならば―――。

411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:47:07.60 ID:gzXVTJRMo

それは『強さ』だった。
こんな思念を取り込んでもなお垣間見せる、そんな強さ。

ローラ『―――』

そう、これこそ。


インデックスを『守った強さ』。


インデックスを『本物とさせた強さ』。


それを身をもって体感した瞬間、
ローラの奥底からどうしようもない怒りが噴き上げて。

彼女の顔はみるみる、凄まじい形相へとなっていく。


そして一方でプログラムはこう結論する。

幻想殺しをここに残していた場合、
のちの作業に支障が生じる可能性が高いため―――排除せよ、と。


禁書『―――ッあ゛!』

直後、インデックスを持っていた手が無造作に開かれた。
倒れ込むように地に落ちる少女。


それを見た上条、その瞬間にここぞとばかりに叫んだ。


上条『―――行けスフィンクス!!』


すると彼の斜め背後の空間が突如白い光に満たされ。
そしてその中から猛烈な勢いで大きな白虎が飛び出してきた。

上条から分けられた力で、傷を応急的に癒したスフィンクスだ。

そして白虎は一気にインデックスに駆けていき、
ぐったりとしている彼女を尻尾で拾い上げては背に乗せて。

とてつもない速さでこの場から離れていった。

413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:52:06.27 ID:gzXVTJRMo

だがローラは見向きもしなかった。
横を白虎が過ぎ、インデックスを連れ去ってもまるで見えて無いかのように反応せず。

ずっと上条を睨み続けていた。

上条『…………』

そのローラの意図はもちろん、上条は繋がりから把握していた。

結界が破れない限り、この階層からは何人も脱出できない。
そのため、インデックスをどこまで遠ざけようと常にローラの意の中にある。

ローラ自信が結界の恒常的な核であるため幻想殺しは効かず、
彼女が自ら解除するか殺すしか術は無い。

また、インデックスによるスフィンクス強化は、
主契約悪魔である上条があってこそのもの。

つまりローラからすれば今、対応すべき存在は上条のみ。
上条を排除すれば状況は丸く収まるのだ。


そしてそれは上条当麻にとっても好ましいことであった。


上条『…………』


ローラとのこの一戦に全てを集中できるのだから。

414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:57:57.25 ID:gzXVTJRMo

しかし、そう好ましいと言える立場でありながら、
上条はかなりの焦燥に駆られていた。

なぜなら。

どうやって戦えばいいのか。
どのようにして、どんな結果を求めて戦えばいいのか。


それがわからないのだ。


これまでで初めて―――戦いの結果を見定められなかった。


今までの戦いでは、
どれだけ困難なものでも常に求める『結果』の形が、上条の中に具体的にあった。

バージルに立ち向かった時でも、
『生きて抜けられたら勝ち』という結果が具体的にイメージできていた。


でも今はそれができない。


上条『―――』


上条にとってこの戦いは、
単にインデックスをローラの殺意から守るだけではなくなっていた。

こうして繋がりから全てを理解してしまっている今、
この戦いはそれ以上の意味を持っている。


これはインデックスを『解き放つ』戦いだ、と。


これは彼女を―――『全て』から『救い上げる』戦いなのだと。

415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/26(火) 00:00:44.33 ID:V3vwALNVo

先日、ステイルと交わした誓いがこんなに早くに試されるとは思ってもいなかった。
だが心の準備が出来ていなかったわけではない。
むしろ常に覚悟は決まっていた。

しかしそれでも。


その課題に対する答えなんかは用意できてはいなかった。


ローラを倒せばインデックスを救えるのか?
倒すといってもどんな形で?

状況はもう、戦う・殺し合うしか選択肢が無いのだが。


ローラを殺すのか?


―――『姉』を殺してしまうのか?


唯一の―――血の繋がった家族を―――インデックスから奪うのか?


『インデックス』と―――『同一』である存在を殺してしまうのか?


インデックスがあんな顔して―――あんな瞳をして―――頬に触れる相手を殺してしまうのか?


そんな結果で果たして―――『インデックス』を『救える』のか?


上条『―――』

答えはいまだ出ず。
求めるべき具体的な結果は依然、まるでイメージできず。

416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/26(火) 00:03:04.94 ID:V3vwALNVo


ローラ『お前を殺してやる』


それを『知りながらお構い無し』のローラよって、
そんな『最悪』の状態のまま、上条はついに戦いの中へと身を投じざるを得なくなる。


ローラ『―――お前が―――お前のせいで全部―――』


上条にとって前代未聞、今まで身を投じたことの無い、
目指すべき方向が定められない『未知の戦い』へと。


上条『(―――インデックス、教えてくれ―――俺はどうすれば良いんだ)』


どんな状況でも常に真っ直ぐに、ブレずに進み続けた少年は今。

初めて『迷っていた』。


上条『(―――土御門、お前ならこういう時、どうするんだ?)』


初めて―――芯が揺れてしまっていた。


胸の内で声を放っても、返って来る言葉は無し。

わかっているとも。
こんな厳重の結界の中から誰かに声が届くわけが無いのも。


ただそれでも、上条は声を発し続けた。


上条『(なあ、頼む―――あんたならどうするんだ?)』


一体どうすれば、どうすれば救い出せるのか。



上条『(教えてくれ―――ダンテ)』



―――どうすれば『彼女達』を―――。


ローラ『―――殺す―――殺してやる―――殺してやるクソガキ』


上条『(誰か教えてくれ―――お願いだ)』


426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:28:29.10 ID:3j+zrRtio

初撃は強烈なウィケッドウィーブ。

ローラの前方、そこの宙空から出現した金の巨大な足は、
凄まじい勢いで上条へと放たれた。

上条『―――』

切迫していた彼にとってはまさに不意の攻撃であった。

ただ意識が追いつかぬとも。
身に染み付いた闘争本能は正確に反応する。

反射的に上条が横にはねた瞬間、
金色のウィケッドウィーブが、一瞬前まで彼が立っていた空間を突き抜けていく。

だがさすがの彼の闘争本能も、次の攻撃までは予測できていなかった。

彼が横にはねた直後、
その両足が地面に付く前―――初撃のウィケッドウィーブが到達するかというところで、二撃目は既に放たれていた。

刹那、上条が前方に見たのは、
高く掲げていた足をその場に振り下ろしているローラ。


上条『―――』

瞬間、真上に『圧』を覚え、
確認するよりも先に左手をかざす上条。


直後、彼の両足が地に着くのと同時に―――彼は真上からウィケッドウィーブに『踏みつけられた』。




427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:29:51.98 ID:3j+zrRtio

巨大なヒール型の足先、
その尖った踵が左手に激突する。


上条『―――ッ゛!!』


その重さはまさに『強烈』の一言。

衝撃でその場が一瞬ですり鉢状に窪み、
両足も脛までが地面に沈み込み。

そして光の衣どころか、
その力で形成されている篭手が砕きはがされていく。


上条『―――ッッがぁ゛ぁ゛ッ―――!!!!』


想像を絶する苦痛。
これが魔女の攻撃。

単なる力も強力ながら、更に無数の超攻撃的な術で強化された一撃。

一気に衝撃が魂まで達し、
あまりの振動に意識が切れかけた電球のように明滅。

だがそんな中で上条は何とか、否、上条の意識ではなく、
これまた彼の鍛えられた身が反射的にこの窮地を脱する。

彼はその左手を逆に押し上げるようにして、
自らの身をこの死地から横へと弾き飛ばした。

428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:31:56.80 ID:3j+zrRtio

上条と言う『支え』を無くした金の巨大な足が、
すり鉢上の地面に突き刺さり更に破壊する。

それとほぼ同時にその右方、
道路脇の崩れたビルの中に上条は吹っ飛び、更にそのまま数棟を貫通。

テーブルであったであろう残骸を転がり潰しながら、とある廃墟の中でようやく彼の体は制止した。

上条『―――……ごぁぁぁあッッ……!!』

瓦礫の中で膝を付く彼の下には、
身から銀の光の欠片がぼろぼろと割れ落ちいていく。

そして左手から滴る大量の紅の体液。

その彼の左手は、肘から手首にかけて外側の肉がごっそりと削ぎ取られていて。
再生する気配がまるで無かった。

それどころか、ゆっくり肉が溶かされていくかのように徐々に悪化しつつある。

感覚は早くも無く、指先は硬直しきっていて、
握っている拳銃の引き金を絞るどころか手放すこともできない。


上条『ぐッ…………おぉぉおおあああ…………!!』


そんな苦痛に苛まれる中、彼は否応無く確信させられた。

攻撃の瞬間、繋がりを介して伝わってきたローラの意図、
更に実際のその攻撃を受けては確信せざるを得ない。


ローラ=スチュアートは、こちらを本気で―――確実に殺しに来ている、と。


いいや、殺すどころではない。

インデックスを相手にしていた時とは比べ物にならない。
まさに、こちらを『跡形も無く』、『肉片一つ残さず消滅』させる勢いだ、と。


そしてそんなローラの攻撃はまさしく―――。



これでは―――死んでしまう―――。



たったの一撃でも、まともに受けてしまったら―――死ぬ。

429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:35:01.17 ID:3j+zrRtio

だが。

彼は怖気づきはしなかった。
むしろ今突きつけられた『死』の確信でやっと、この迷いの中に一つの確かな芯を見出せた。

まずは、とにかく戦うべきだと。

結果が見えなくても、前に出て戦うべきだと。


今、ここで死んでしまうわけにはいかないのだから。


絶対に死んではならない。


―――死にたく無い。


―――ここで殺されてたまるか、ここまで来て終ってたまるか。


上条『―――がぁッ!!クソ!!クソッ!!』


『今の彼』にとっては、今日この瞬間のためにこれまでがあったも同然なのに。


インデックスを全てから『救う』。

そのために生きているようなものなのに。
そのために存在しているようなものなのに。


更に『今』はそれだけじゃない。
今この時、死を突きつけられた瞬間、彼の中でとある願望が噴出した。

ただ単純に『生きたい』、と。

『皆』と、『全て』と、共にこれからをただ『生きたい』、と。


なぜなら―――やっと。


やっと、全てを『取り戻すこと』ができそうだったのだから。

430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:37:44.82 ID:3j+zrRtio

土御門、青ピ、吹寄、友達、友達。

父、母、従姉妹、家族。

皆、皆、皆と積み上げた大切な日々を『取り戻せた』のだから。

それらの価値を本当の意味で―――知ることが出来たのだから。

取り戻した自分とこの一年の自分が同じ―――記憶無くとも、魂は同一だったとわかったのだから。


―――己は確かに本物の『上条当麻』だと。


これで、過去の自分を今の自分が剥離しているのでは、
という大きな不安からやっと解放されたのに。


やっと。
やっと。

自分の心に気付いて―――インデックスに伝えられたのに。


そしてその心が―――偽りではない、本物の『上条当麻』のものだと確信できたのに。


この状況でこんな想いを抱くのは、
主観的、個人的、独善的で身勝手な願望なのかもしれない。

それは彼も自覚している。
充分自覚している。

その上で否定もしなかった。

今はもう否定しない、自分自身を偽りはしない。
今まではこんな感情をそのまま受け入れなどしなかったが、これからは違う。

もう記憶喪失の『誰かわからない少年』ではない、本物の『上条当麻』だ。


この自分の持ち物を失いたくない気持ちも。
生きたい、という個人的な願望も全て喜んで受け入れる。


『上条当麻』の欲求を受け入れて何が悪い―――俺は『上条当麻』だ、と。


431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:39:10.91 ID:3j+zrRtio

だからこそ。

上条『―――クソッ!!』

こんなローラの一撃、その破壊力を身をもって突きつけられても、彼は怖気づくことは無かった。
困惑し困窮していても、退くことだけは頭に無かった。

迷ったからといって、そこに留まってはいけない。
『ここ』では誰かが助けに来てくれる事は無い。

迷いから脱するには、前に進まなければならないのだ。
泥まみれ血まみれでも、地べたを這いずってでも。


上条『―――チッックショォォォォがァァァァァアアアアア!!!!』


故に彼は戦う。

戦いたくなくても戦う。
戦い方がわからなくとも、前に歩み出て戦う道を選ぶ。


表面的には今までと同じでも、『本質』は全く別の衝動で。


上条『―――ここで死んでたまるかってんだよォォォォォアアアアアア!!!!』


大切な人を救い、取り戻した人生を守り―――そして自身が生きるために―――『上条当麻』いち個人として。



―――だが。


この戦いの果てが、上条にとって好ましいものになるかどうかはまた別の話だ。

少なくとも彼は結果をイメージできず。

そしてローラは途方も無く強かった。


とにかく強すぎた。

432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:41:25.37 ID:3j+zrRtio

彼が怒号を放ち立ち上がった瞬間、
何発もの魔弾がビルを貫通して放たれてきた。

上条『―――ッ゛ア゛!!』

その弾幕を紙一重のところで横にはねてかわし。
壊れかけた左手でも何とか拳銃を操り、魔弾を魔弾で撃ち落す。

だがそれでも到底全てを回避できるわけも無く。

頬を掠めていく魔弾。
魔女の技による、小さな擦り傷でも強烈な刺激。

そして直撃すれば。


上条『―――ッッぐッ!!!!』


その苦痛はまさに気が遠のくほど。

わき腹にめり込んだ魔弾はその体内で砕け散り、
魔女の技である『毒』が一気に全身へと拡散していく。

そんな彼の動きが滞った瞬間に、
ここぞとばかりに放たれるウィケッドウィーブ。

上条『ッ!!』

一撃目は全てを横薙ぎにする巨大な蹴り。

足を地面に押し付けて滑らせながら即座に屈む上条、
その僅か数センチ上を抜けて、廃墟ビル数棟をまるごと斬り砕く金色の足。


続けて、またもや間髪入れずの二撃目。

これまた先と同じような『踏みつけ』が、宙に『舞い始めていた』ビル上方をぶち抜き放たれてきた。
ただこれは上条も予測していた。

このために、彼は地面に足を押し付けていたのだ。
そしてそのまま屈めば、自然と『踏ん張る』姿勢へ。

一撃目を避けると同時に、先を見越して次の行動の溜めを行っていたのだ。

彼は上方を確認するまでも無く、一気に前へと蹴り出した。
ほぼ同時に、その体と入れ替わるように地面に叩き込まれる『踏み付け』。

彼はその破壊を背に、猛烈な速度で前へ前へと向かっていった。


上条『―――おおおおおおおおおおおおおおお!!!!』


目指すは当然―――ローラ。

433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:42:43.12 ID:3j+zrRtio

と、そのように前へと突き進んでいた時。

ちょうど通りに再び出て、
ローラの姿を目で確認したところであった。

瞬間、彼は針が突き刺さるような痛みを体の方々で覚えた。

その痛みの一つへと目を向けると。
まさに文字通り、針状の細い金髪が突き刺さっていた。

それも何本も、あちこちの地面から出現して、上条をその場に縫い付ける勢いで。


上条『(―――や―――ば―――)』


止まってしまったら最期。
ウィケッドウィーブの直撃を貰って終わりだ。

それは唐突な『死』の確信。


―――否、唐突なんかではない、今ここでは常に隣り合わせになっていたものだ。


前方5mのところに出現するウィケッドウィーブの魔方陣―――。


そして、金色の巨大な足が放たれて。


上条『―――』


―――刹那。


確定的な死に直面して、彼は直感的に。


―――『本能的』に『それ』を解き放った。



―――『竜の頭』を。

434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:45:22.24 ID:3j+zrRtio

右腕に重なるようにして出現する、
『オレンジ色』の光を帯びた、半透明の大きな『竜の頭』。

一瞬で魔が退き、全てが普通の人間水準になる上条の体。

そして、彼の身とその周りの空間の全ての術式が破壊されていく。


『ただの毛』となる金髪たち。

上条の体を縫いこんでた金髪は一瞬でその固さを失い、
放たれかけていたウィケッドウィーブは瞬時にバラけて一気に失速。

大量の髪はそのまま、上条に柔らかくぶつかるだけであった。


ただ、これはあまりにも危険な回避方法であった。

上条「―――ぁ―――」

人の身へとなってしまっために、
あまりの肉体の損壊度で彼はショック死に陥りかけたのだ。

だが寸でのところで、竜の頭を引っ込めては魔を再起動。
そして再び面をあげてローラを見据えようとしたところ。

目当ての人物は、予想よりも遥かに近いところにいた。


上条『―――』


彼はローラを目の前に見た。
そしてこちらの即頭部を蹴り飛ばす直前の、長くしなやかな足も。


次の瞬間。


上条の意識は、凄まじい衝撃を受けて一瞬途切れた。

435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:47:08.83 ID:3j+zrRtio

今の『竜の頭』で、ローラが使っていた魔女の技の一部に障害が生じてしまっているらしい。
今の彼女はウィケッドウィーブも、魔女の技で強化されている魔弾も使えない。

と、筒抜けの繋がりを介してそれらを把握するも、
今の上条にとっては特に役に立つ情報でもなかった。


とりあえずわかったのは、ただ、一撃では死なない、というだけ。


上条『―――……あ……ぐッ……―――』


魔女の技の障害はすぐに修復できるも、
ローラはそんな時間すら待てないらしかった。

その上、もっと痛めつけて殺したいという衝動もあるのか。


虚ろな目でよろめく上条、
そこにまた、彼の頭部へすかさず放たれるローラの回し蹴り。

重くも耳を劈くような響きと同時に。
放られた人形のように、地面をはねては吹っ飛ばされていく上条の体。

大きな穴を穿っては、
粉塵がぶちあがる中ようやく止まったその刹那。

うつ伏せに倒れ込んでいる彼は、自ら起き上がる必要は無かった。

今の二蹴りの痛みを『痛み』と認識する暇さえなく。
顔面をサッカーボールのように蹴り上げられたのだから。

一瞬で後を追ってきたローラによって。


上条『―――』


海老反り状になって、強引に身を起こされた上条。
ここですかさず、その張り出された腹部に向けて放たれるローラの蹴り。

それも連撃。

当然、彼の体は一瞬で逆の『く』の字状へとひん曲がる。
だがその衝撃で吹っ飛ばされることは無かった。

額を鷲掴みにされていたのだから、吹っ飛ぼうにも吹っ飛べなかったのだ。


ただ、ずっとそのままというわけでもなく。
彼はすぐに解放されることとなった。


その掴まれている顔面へ向けての―――強烈な膝蹴りで。

436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:49:07.17 ID:3j+zrRtio

鼻から下が完全に破壊。


上条『ごぁ―――』

漏れる声はごぼごぼと露っぽい音が混じり、
そして彼が見たのは、飛沫と共に飛び散っていく『白い小石』のようなもの。

それが自身の歯だと彼が気付くのは、もうしばらく後になってからだった。


ローラの攻撃はまさに電光石火。


インデックスとの戦いで酷く消耗しているにもかかわらず―――それでも強すぎる。


これがアンブラ魔女のエリート中のエリート、最精鋭の戦士。

元来から有する驚異的な身体能力と、壮絶な修練によって鍛え抜かれた身。
その体から繰り出される肉弾戦は、ウィケッドウィーブや魔弾が無くても圧倒的。


あまりにも壮烈で速すぎて、上条の意識はリアルタイムでついけなかった。


顔の下半分が潰されたこの瞬間でようやく、
自身が殴打されているのだと途切れ途切れの意識の中で『気付いた』ところであった。

またそこに気付いても、彼には特に何かができるわけもなかった。

仰け反り吹っ飛ばされかけたところで、
首に引っ掛けられたローラの爪先で引き戻されて。

再び蹴りと掌底の連撃を叩き込まれる。

体はいまやぼろ雑巾の如き様相。
外界から聞える音はもうたった二種類しかなかった。

動きの節目節目に聞える、ローラの『ふっ』という短い息使い。
続けて、その直後に衝撃をともなって響く、鈍くも爆発染みた激しい打撃音。

そして見えるのは。


血塗れながらも美しく、狂おしいくらいに愛おしく―――身を焦がすほどの激情に染まっている魔女だけ。

437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:50:34.81 ID:3j+zrRtio

上条『(―――戦うんだ)』


このままではダメだ―――このままだと―――死ぬ。

上条『(―――抵抗しろ―――防ぐ……んだ)』

受け続けてはダメだ。
こちらも動き、攻撃を防がなければ―――と。

薄れ明滅する意識の中でも懸命に戦意だけを保ち、
闇雲でもとにかく、そのぼろぼろの左手を前に出すも。

その左手首を強くつかまれては引っ張られて、
同時に肩口を踏みつけられては引き千切られて。


一瞬でどこかへと放られて、吹っ飛んでいく左腕。


そして続けざまにかかと落しを受けて、
彼の体は地面に仰向けに叩き込まれてしまう。

上条『(―――……戦う……んだ―――…………戦え)』

それでも彼は前へと進もうと。
人並みの性能しかなくとも、その右手を伸ばした。

だがそれは、ローラからすれば『ささやかな抵抗』にすらならなかった。
右手は完全に無視されていた。

その右手は、
放たれた蹴りの起動にちょうど割り込んでしまって、篭手ごと『切断』。



上条『(―――…………たた…………か……え……)』



左腕と同じように、右手首から先が彼方へと千切れ飛んでいった。

438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:53:21.98 ID:3j+zrRtio

と、その時―――ローラががくりとその場に膝を付いた。

やはりインデックスに受けた傷がかなり酷いのだろう、
彼女は何度も咳き込んでは、地面に血を吐き散らして喘いでいた。


上条『(―――…………)』


そう、これぞまさに、千載一遇のチャンスではないのか。

―――今なら。

今こちらから打って出れば、なんとかなるのかもしれない。
この迷いから抜け出す、道の先を見出せるのかもしれない。


とにかくここで動けば、程度はわからずともこちらに状況が傾くのは確実。


ただそれは。


上条『(―――……………………今…………な…………ら……)』


彼に動く力が残っていたら、の話であったが。


咽ながらもローラは再び上条を睨みなおし。
両手に持っていたフリントロック式の銃をその場で手放して。

のそりと立ち上がって、ふらつく足取りで地面に転がっている上条のもとへと歩んで。


その体の上に半ば倒れ込むように馬乗りになって、ゆっくりと握りこんだ右手を振り上げる。


今の上条には、そんな一部始終を見ているしかできなかった。
意識がとうとう本格的に消えていく中で、顔面に振り下ろされるその右拳を。


上条『(―――…………………………………………や……………………)』


続けて左、右、交互に、大降りに、振り下ろされてくる血まみれの拳を。


そして。

返り血でみるみる赤く染まっていきながらも、
瞬き一つせず黙々と拳を落としてくるローラを。


―――そのインデックスと同じ顔を。

441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/30(土) 04:57:21.88 ID:ZWDgefeDO
上条さんガチでズタボロにされてんな


ダンテ「学園都市か」4(学園都市編)




posted by JOY at 01:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 禁書クロスSS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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