2012年03月18日

ダンテ「学園都市か」6(学園都市編)

729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:00:26.34 ID:YCiJNiAKo
―――

上条『が―――ぁッ!!!!』

それは突然の事だった。
サルガタナスとイフリート・ベオウルフの戦いを遠目に見ていたとき。

突如上条が苦痛の声をあげては、その場に崩れ落ちるようにして蹲った。

ステイル『か、上条!!』

目の喪失でやはり何らかの障害が、
と一瞬ステイルの頭を過ぎったのも束の間。
彼のその考えは即座に否定された。

上条が押さえていたのは―――『右腕』だったのだから。


ステイル『―――おい?!どうしたんだ?!』

そこでステイルに返されたのは、
呻きの中に何とか混ぜられた消えそうな一言。


上条『ぐぅ…………ぁ…………イン……デックス……』


ステイル『―――インデックスか?!インデックスがどうした!!何があった!!』


しかし上条はそれ以上答えられず。
彼は顔をゆがめて呻きながら、そのまま一瞬で昏倒してしまったのだ。

ただ。

この疑問の答えについてステイルが困ることはなかった。
別の声が答えてくれたのだから。


『―――禁書目録と痛みを共有しているのだよ』


730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:03:35.23 ID:YCiJNiAKo

ステイル『―――』

それは突然、何の前触れの気配もなく真後ろから聞えてきた。

しかも知っている声が。

聞き慣れてはいないが、一度聞いたら絶対に忘れない。
絶対に間違いもしない相手の声が。

ステイル『――――――なぜだ―――』

ステイルは振り返りながら驚愕に満ちた言葉を放ち。
そしてその人物の姿を捉えた。

緩やかな挑発に緑色の手術衣を纏い、老若がまるでわからない顔にはあらゆる表情と感情が同席。
『中性的』ではなく、はっきりと男性的でも女性的でもある掴みどころの無い容姿。


右手に奇妙な銀の杖を握っている―――。


ステイル『なぜお前がここにいる?――――――アレイスター』


―――学園都市の最高権力者を。


アレイスター『時が来たからだ』


表情一つ変えず、声も機械のように冷ややかなアレイスター。
これらの姿聞こえではまるで意志を読み取れない。

しかしステイルの悪魔の勘は、
この声に不穏な気配をはっきりと感じ取っていた。


己達の側にとって、明らかな―――『脅威』だと。

731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:04:57.75 ID:YCiJNiAKo

今は、ベオウルフとイフリートの直接的な助けは厳しいであろう。
彼らはサルガタナスとの壮烈な戦いに身を投じている真っ最中だ。

いや。

そもそも、かの諸王諸神達はアレイスターの出現にすら気付いていないであろう。
彼らには見えていないのだ。

何せこのこの者には気配が『無かった』のだから。

ステイル『(―――どうなっている?この男は本当に―――)』

こうして目の前にしているにもかかわらず、力が一切感知できない。


ステイル『(―――「ここ」に「いる」のか?)』


まるで―――ここに『存在していない』かのよう。


アレイスター『「いない」とも「いる」とも、どちらとも言える』


そんなステイルの頭の中を見ているかのように、
静かな調子で開かれるアレイスターの口。

アレイスター『そう驚くなステイル=マグヌス。これも人の手技によるトリックに過ぎない』

アレイスター『しかしその人の手技こそ、人が異界の神々をも越えうる―――最強の切り札でもある」


アレイスター『人では無くなった君には、もうわからないだろうがな』


ステイル『…………』

732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:06:45.09 ID:YCiJNiAKo

しかし今ステイルが聞きたいのはこんなご丁寧な『御託』なんかではない。
アレイスターの話には一切乗らず、彼は今一度静かに問うた。

ステイル『―――……なぜここにいる?』

と、その時だった。
そう再び問いかけると―――アレイスターの表情が変わった。

いや、それは気のせいだったのかもしれない。
亡霊のような姿が揺らいだだけなのかもしれない。

しかし。

ステイルは確かに見てこう感じた。


ステイル『―――』


一瞬―――アレイスターが『笑った』、と。


更に返されてきた饒舌な声にも、先とは違い明らかに感情が―――と。


アレイスター『なぜか?―――これ以上「熟れ」すぎては使い物にならんからだ』


アレイスター『それにアスタロトの「毒」が「伝染」してもらっても困る』


そして今度は気のせいなんかでは無かった。
ステイルの後ろ、蹲る上条へ視線を動かしたアレイスター、

その口角が少し、ほんの少しだけ、しかし確かに―――。


アレイスター『そこで少々早いが――――――「竜王の顎」をだな』



733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:07:47.40 ID:YCiJNiAKo

と、その瞬間だった。


そこでステイルの意識が完全に断絶。
まるでフィルムが切れてしまったかのように。

ステイル『―――…………っ』

ただその意識の喪失はどうやら一瞬のことであったようだ。

起こりと同じように突然暗転から回復したとき、ステイルの体は同じ姿勢で立ったまま。
更にイフリート・ベオウルフとサルガタナスの戦いも、
変わらぬ調子でまだ継続中だったのだから。

しかし何もかもが同じと言うわけでもなかった。
ステイルが失ったその僅かな時間の間に、状況は変わってしまっていた。


ステイル『―――か、上条ッ……―――!!』


その変化にはすぐに気付いた。


背後の気配―――上条当麻の消失と。


そして前方で小さく笑っていた―――アレイスターの姿も。


―――

734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:09:33.84 ID:YCiJNiAKo
―――

神裂『はっ……はっ……』

顔をぐしゃぐしゃに濡らしながらも神裂は走っていた。
左腕にローラ、右腕にインデックスを抱きながら。

後方からは、光の明滅と共に凄まじい圧が放たれてくる。
『正統派最強』の魔女と『現魔界最強』十強の一柱、その戦いは何もかもが圧倒的だ。
下手をすると大気に充満する力の余波だけで、この両脇の魔女二人は命を落としかねない。

故に、第一にまず離れなければならなかった。

インデックスとローラは重体、
当然ジャンヌの手も塞がっていて『飛ぶ』ことはできないため、こうして走ってだ。
頬を伝う涙もこの込み上げてくる衝動も今はとにかく無視して。


神裂『っ……はっ……』

どれだけ走っただろうか。
かなりの速度でこの異質な平野を駆けては来たが、まるで離れた気がしない。

後方からはまだ苛烈な圧が届いてきている。
彼らの力の衝突があまりにも強烈すぎて、余波もほとんど減衰しないのだ。

もちろん遠ざかって随分と楽になってはいるが、まだまだ負担は強い。

ローラ『充分……ここで充分よ』

しかしここでローラが脇からそう口を開いた。


ローラ『この子の……治療を続けなければ』


今にも途切れそうな声で。

735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:10:58.27 ID:YCiJNiAKo

神裂『……は、はい……!』

いまや神裂にはそのローラの言葉を拒否する権限も無い。
なにせインデックスを手当てできるのは、ここにはローラだけなのだから。

その場に急停止してはゆっくりと二人を降ろすと。
すぐにローラは『妹』へ向き合い治療に取り掛かった。


神裂『………………インデックス……』

涙止まらぬ視線の先にて、地面に横たわっている少女。

そのインデックスの容態はどう見ても悪化していた。
不規則な呼吸は荒さを増し、紅潮していた顔も今度は青ざめてきて。

先までは一応受け答えしていたのだが、今は呼びかけてももう反応しない。

彼女の右腕の『存在』は『永遠』に奪われて。
そして今は現在進行形で、その魂をも毒されて奪われかけているのだ。

戦闘修練を受けていない幼き魔女にとって、アスタロトの牙はあまりにも鋭すぎた。


ローラ『……………………ッ……』


処置を施していたその手が止まる。
まるで凍りついたように。


そして血塗れた指がむなしく泳ぐ―――ここからどうすればいいのかわからずに。


インデックスの魂を繋ぐ処置が―――見出せずに。

736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:13:07.51 ID:YCiJNiAKo

神裂『……お願いします……お願いします……最大主教……お願いします……』

その横で神裂はただ、懇願することしかできなかった。
ローラが今やその座についていないことすら忘れて、その身に染み付いた癖でそう呼んで。

神裂『……お願いします……お願いします……お願い……します……どうか……』

ローラ『………………』

しかしローラは沈黙のまま。
ついにはその泳いでいた指さえ止まった。

手の施しようが無いという現実を示すように。

だが。


それは全てを諦めたからではない。


ローラの全ての意識が『最後の手段』へと切り替わったからだ。
いいや、もう満身創痍の彼女の意識はまともに機能していなかった。


今のローラを突き動かしているのは『執念』―――家族との『絆』だけ。


ローラ『……「二度」と……』


彼女はぼそりと呟いた。


ローラ『…………「二度」と―――死なせない』


ローラ『この子は「もう二度と」死なせない……二度と……二度とだ』


焦点が全く定まっていない、
さながら夢遊病の中で唱える呪文のような声で。

737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:14:00.61 ID:YCiJNiAKo


―――そして『姉』は強引に。

これ以上は命に直結するのに―――いや文字通り、自らの魂を削って『飛ぶ』。

傷口が開いたのか腹部から一気に血が滲み出で、口からは筋となって滴っていく。
同時に三人を囲んで浮かび上がる、ローラの移動用の陣。


追われている身、更に同じ階層にアスタロトがいる状態で『直接』飛んでしまうのは安直であったが、
それでもこれしかなかった。

これしか―――すぐに『あそこ』に行くしか。

神裂『―――』

その直後。

お馴染みの一瞬の光の明滅を経て、風景も大気も一変した。

そこは巨大な白亜のホールの中。
かつて人界を守るために集った名だたる天魔の神々、その像が並ぶ荘厳な空間。

そう、そこは神裂も打ち合わせで訪れて何度も目にしている―――『神儀の間』であった。


そして当然そこには―――神裂の『上司』達がいた。


バージル『…………』

まるで反応しない、スパーダ像の前で瞑想しているバージル。


ベヨネッタ『―――おてんばローラ……―――』


目を丸くしてそう呟くベヨネッタ。

そして。


アイゼン『―――…………ほぉ』


表情が読み取れない仮面下で、瞳を赤く光らせるアイゼン。

738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:15:45.62 ID:YCiJNiAKo

神裂『―――…………』

一同が見つめる中、ローラはゆらりと立ち上がり。
血の跡を純白の床に残しながら歩み始めた。

アイゼン『……』

ふらつきながらも―――アイゼン真っ直ぐに。
そして魔女王の足元に跪き。

ローラ『―――…………魔女王、アイゼンさま』

ローラ『多くの禁を破った罰は…………しかとお受けいたします』


ローラ『ですがどうか…………お慈悲を…………どうかお助けください……』


みるみる大きくなっていく己の血だまりに伏せながら。


ローラ『……どうか術を…………完成させるお許しと……お助けを……私の首と引き換えに』



ローラ『私のいもうとを……おすくい……ください』



懇願し、恩赦と救いを求めた。


『この者』は3万4千年に渡って律された掟を破り、禁忌の術を使用し無断で神儀の間を現出させ。
自身の力量不足を補うために祖先達の魂を引きずり出し、そして喰らった『極悪人』。


アンブラ魔女の『鉄の掟』を私情で破り、偉大なる母達を利用した『大罪人』。


アンブラの掟にのっとれば課せられる刑は問答無用―――拷問ののち極刑。


―――自身も掟の制定にも関わった魔女王アイゼンは、そんなローラを赤き瞳で見下ろしていた。



アイゼン『―――…………ふむ…………なあるほど』



纏う雰囲気も声色も全く変えず。
ただただ冷徹に静かに。

―――


744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:14:52.57 ID:hOCWlbl5o
―――

ジャンヌ『―――Si-ha!!』

古き魔界の王から生まれ出でし魔刀。
一族の怒りを載せたその刃が振り下ろされ、荘厳な金槍と衝突した。

長に相応しき戦士が放つ、アンブラの憤怒の一振り。
衝撃が刃となって地を切り裂き、光の飛沫が周囲を穿っていく。

そして槍を弾き落とされて上半身が無防備になるアスタロト。

ジャンヌ『―――Stand!!』

ジャンヌはすかさずそこへ蹴りの連撃を叩き込む。

しかしそれほどの弾幕に晒されても尚、
美男子―――アスタロトの顔は笑っていた。

にぃっと、果てしなく醜悪に。

そんな忌々しい顔が、さらにジャンヌの闘争心と憤怒を湧きたててゆく。


ジャンヌ『――Hu-Ya!!』


次の瞬間、その薄気味悪い顔面に、
連撃の締めとなる一際強い一撃がめり込んだ。


745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:16:18.11 ID:hOCWlbl5o

正統派最強の魔女、ジャンヌの攻撃はまさに一撃一撃が必殺のもの。
連撃に晒されたアスタロトの胴は肉剥げて血まみれとなり、
最後の一蹴りにより頭部が完全に弾け飛んでしまった。

この情景、傍から見ればジャンヌの一方的な戦いに映ったかもしれない。

しかし当人達にとってはまるで逆だった。


ジャンヌ『(―――……浅いか……タフだな)』

攻撃は魂に届いており、確実にダメージは与えているも。
手応えが明らかに乏しい。

アスタロトの底が全く―――量れない。


ただ、こう恐ろしく強いのも当然のことか。

自身の主契約魔マダム=ステュクスよりも高位、
なにせ事実上かの覇王に次ぐ領域にいる魔界きっての実力者だ。


―――化物染みてて当たり前だ。


頭部を失ったアスタロトの体は吹っ飛んでいったが、
20mほどのところですぐ踏ん張り留まって。

大きく仰け反りながら、一瞬であの端正な顔を再生させて―――。


アスタロト『―――いい!!いいぞ!!!!この「痛み」だ―――!!』


再び笑った。
更に醜く穢らわしく。


アスタロト『―――「旨い」!!最高だ!!!!』

746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:18:32.02 ID:hOCWlbl5o

アスタロトは歪んだ歓喜の声を放ちながら、ジャンヌ向けて一気に飛び進み―――槍撃。

ジャンヌ『―――ッ』

顔面へ正確に放たれてくる凄まじい突き。
その速度も力の密度も尋常ではない。

『髪』で形成されているこの白銀の戦闘装束、
それすらも簡単に貫かれてしまうほどのもの。

しかし、それは当たってしまったらの話だ。

アンブラの戦闘術、その防御法の本分は―――回避。

ジャンヌは一切の無駄がない動作で、金槍を魔刀でいなしその軌道をかえていく。
そしてそのまま前へと踏み込み。
顔の横で擦れる刃、激しく散る光の奔流の中、アスタロトの顔面へと膝蹴りを叩き込んだ。


一際激しく光が爆発する中、
肉片を撒き散らせながら大きく仰け反る恐怖公の体。

そうして露になった喉元へ向けて、ジャンヌはすかさず足を伸ばしてもう一蹴り。


更に続けてとどめとばかりに―――その伸ばした足を地面に叩き付けて―――

ジャンヌ『―――YeeeYa!!』

連動して出現した―――ウィケッドウィーブによる『踏みつけ』。

だがその圧倒的な三撃目がアスタロトの体を叩き潰すことは無かった。
恐怖公はその巨大な『白銀の足』を、掲げた肘で受け止めていたのだ。


アスタロト『―――ほぉおうおぅ。これはこれは噂のマダム=ステュクス―――』


そしてその『足』へ向けて、にたりと笑う。


アスタロト『―――お初にお目にかかる』


首折れて垂れ下がり、半分潰れたままの顔で。

747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:20:21.73 ID:hOCWlbl5o

そのおぞましい声と笑みが、この『女王』にも耐え難い嫌悪を抱かせたのか。
普段ならば白銀の足はこのまま消えるところ、この時は更にもう一撃踏みつけていった。

この続けての攻撃に耐えかねたのか、
アスタロトの受け止めていた左腕が粉砕され千切れ飛んでいく。

だがそれでも、アスタロトが苦痛を示すことは今だ無かった。

力量底知れぬ恐怖公は、ははっ、とはじける様な笑い声を発して。
右腕にある金槍を豪快にジャンヌ向けて振り下ろす。

恐ろしく強烈な一振り。
だがこれまたジャンヌも同じように、即座に斜めに打ち流す。

金槍はそのままガラスに似た質感の地面に衝突し、激しく割り砕いては破片を巻き上げていった。
しかしアスタロトの攻撃はこれだけでは留まらなかった。

地に叩き込まれた槍が大きくしなり、そして『反り返って』再び―――。

ジャンヌ『―――ッ』

―――即座に刃が戻ってきのだ。

ジャンヌはそれを認識するや即座に魔刀を振り下ろす。

一層激しく噴き荒れる衝撃を伴って双方の刃は激突。

圧倒的な力を込められた刃はお互いを弾くまでには至らず、
そのまま密着して鍔迫り合いへとなった。

凄まじい圧力で擦れ合い、激しく飛び散る火花。

そしてその彩を挟んで、両者は互いの顔を見据えた。
ジャンヌは一層、その顔に敵意と嫌悪を滲ませて。


アスタロト『―――はははは!!』


アスタロトはそんな彼女の反応を見て、心底楽しそうに半壊した顔で笑いながら。

748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:22:41.50 ID:hOCWlbl5o

とその時。

アスタロト『…………む?』

アスタロトがふと視線をあてもなく巡らせて、大げさに眉をしかめた。
素人の大根役者の方がまだマシなくらいにわざとらしく。

そして。

アスタロト『…………煉獄……か?』

刃が発する火花越しに、ジャンヌへ向けてそう呟きかけた。
あざとく薄く笑いながら。

ジャンヌ『…………』

それはまぎれもなく、ついさっきここから離脱して行ったインデックス達を指した言葉。

ローラがここから直接、
それも一切偽装もせずに飛んだためすぐに行き先を見破られたのだ。

ジャンヌ『……………………』

彼女たちを追ってアスタロトが煉獄へ向かったとしても、
バージルとセレッサ、アイゼンもいるのだから彼らが負けることはまずない。

しかし今は、予定ではバージルが慎重極まりない調整に入っている段階であり、
非常にデリケートな時。
もし突貫されて『神儀の間』に傷でもつけられてしまったら全てが水の泡なのだ。

あそこが戦場になる事態は絶対に避けなければならない。

そのためには―――ここで何としてでもアスタロトを止める必要がある。



アスタロト『―――あんな僻地に何かあるのか?んん?』



―――どんな手を使ってでも、だ。

749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:24:31.21 ID:hOCWlbl5o


ジャンヌ『―――Fuck off!!Busterd!!』


ジャンヌが刃越しにそう吐き捨てた瞬間。

二人の間の地面、ちょうど中央から―――巨大な白銀の足が出現。
その突き上げられたウィケッドウィーブによって双方の刃が弾かれて、拮抗状態が崩された。

アスタロト『―――』

不意を突かれて大きく体制を崩すアスタロト。
一方、ウィケッドウィーブの主であるジャンヌにとってはもちろん『不意』ではない。

ジャンヌ恐怖公が見せてしまった『完璧な隙』を見逃さず。
即座に足をしっかりと踏みしめては―――魔刀を顔の横に構えて。


ジャンヌ『―――Disappear!!』


すかさず―――横一線に薙ぎ斬った。

莫大な力を極限まで練り込められた刃、
そして解き放たれたウィケッドウィーブの巨大な刃が続き。


一瞬にして分断されるアスタロトの上半身と下半身。


そしてその『残骸』も木っ端微塵に吹き飛んでいった。

750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:27:58.27 ID:hOCWlbl5o

―――しかし、それでジャンヌの戦闘態勢は解けることはなかった。


ジャンヌ『―――…………「カーリー」。来い』


それどころか両足に魔具を召喚し、
更なる戦闘力の増強を図るジャンヌ。

軽く地面をかかとで叩き、炎と稲妻を噴出する魔具の調子を確かめて。

その鋭い視線を、彫像のように固まっている龍の元へと向けた。
更に厳密に言えばその龍の背に出現し―――『再生』をはじめている肉塊へ。


徐々にあの美男子の姿を構築していく肉塊。

アスタロト『―――まあ、煉獄に関しては後の楽しみだ』

笑う頭部が形成されて、そう薄く笑い。

表情一つ変えないジャンヌを見据えたまま、恐怖公は『優雅』にべろりと金槍の柄を舐めた。
もう「どこが」と具体的に示せない程に、全てがぞっとするほどに薄気味悪い。

まるでこの世全ての『嫌悪』の根源だ。


アスタロト『まずは―――お前との甘美な一時を満喫しよう!!』


そうして『化物』が高らかに叫んだ瞬間―――美男子の体が龍と融合しては、
神々しい甲冑を着込んだような姿となり。


アスタロト『ふっはははは!!覇王以来か、全力を振るう機会はここしばらくなくてな!!』


金槍も急激に巨大化、穂先には斧状の刃が出現して『ハルベルト』に形状を変えてゆく。
激しい力の奔流を伴って。

751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:29:44.22 ID:hOCWlbl5o

アスタロト『次は他の十強と雌雄を決する時だと思っていたが―――』


そして目も口も無いクチバシに似た形状の頭部からのくぐもった声。
その音には先までの嫌悪感が消えていた。


アスタロト『まさかしばらくぶりの「相手」が―――人間であるとはな、意外だったぞ!!』


代わりにただただ暴虐で残忍な悪意に満ち溢れていた。

巨躯の龍騎士は翼を数回羽ばたかせる。
その圧倒的な姿と、解き放った全力を見せ付けるかのように。


響く龍の咆哮。

階層全域が激しく振動し、
耐えかねた空間と大地には亀裂が走っていく。

ジャンヌ『…………』

予想はしていたも、やはりその存在は圧倒的。
ジャンヌは自身の見識が正しかったとここで再確認する。


勝てる―――相打ち覚悟なら―――というあの見立てを。

752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:33:22.22 ID:hOCWlbl5o

幸いなことに、恐怖公の配下の意識はこの階層にはもう届いてきていない。
ここまで着いてこれたのは、神裂に切り捨てられたモラクスとこのアスタロトだけ。

つまりアスタロトを処理すれば、
ローラ達は完全に追ってから逃れたことになるのだ。

逆に言えば、アスタロトをここで押さえ込めるのは自身だけ。
まさに、今こそこのアンブラの宿敵たる外道とケリをつける時。

こちらの憤怒が伝染しているせいか、契約している魔獣たち、
そして一心同体である主契約魔のマダム=ステュクスもどこまでも『やる気』だ。

魔導器・魔具たちも同じく。

磨き上げてきた技と力と築き上げてきたこの『軍団』、そしてこの身を焦がす―――アンブラの怒り。

今こそそれらを解き放つ時だ。


アスタロト『憎しみ、苦悩、良い表情だ―――』

そう、一際表情を鋭くするジャンヌを見て。

アスタロト『その身は一族のため、か、泣かせるな!!素晴らしい!!』


アスタロト『「歯ごたえ」があって―――本当に旨そうだ』


恐怖公は嘲笑交じりに声を放った。
そんな化物へジャンヌはさらりと、冷たい声でこう返す。

ジャンヌ『―――…………少し、少し違う』


ジャンヌ『私は―――……「私のため」にのみ戦う』


そして続くのは―――聞えによっては実に傲慢極まりない言葉。


アスタロト『……ん?』


ジャンヌ『―――「私」こそがアンブラであり―――アンブラが「私」そのものだからな』


753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:35:20.88 ID:hOCWlbl5o

―――だが。

不思議な事に、彼女がその言葉を口にしても、声には驕りなど一切の欠片も見えなかった。
それも当然か。

その言葉は決して思いあがりなんかではない、正真正銘の『事実』なのだから。

500年間、一族の何もかも全てを背負ってきた彼女だからこその言葉。
亡き家族を想い、そして数少ない生きとし家族を守り続ける―――最後の英雄。


まさにアンブラそのものの『化身』―――アンブラの魂の『守護者』。


彼女のこの言葉を否定できるものは、いまや誰一人存在などしていない。


もちろんジャンヌ自身も含めて。


そしてこの彼女の反応は、
アスタロトにとっては少し不満なものだったのかもしれない。

アスタロト『…………ほぉ』


今度はあっさりと、冷ややかな反応を示す恐怖公。
対してジャンヌもこれまた同じように覚めた声色でこう続けた。


ジャンヌ『今、その「私」がこう叫んでる』



ジャンヌ『―――「目の前のゲス野郎をぶっ殺せ」、と』



どこまでも冷徹に、かつ鋭く。

その一方で―――焼き付けるような敵意を秘めて。

―――


759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:20:12.74 ID:dZSZ/9Mjo
―――


アイゼン『―――うん。掟、か』


静まり返る中、アイゼンがぼそりと口を開いた。
その言葉の響きを確認するかのように、小さく頷きながら。

そして赤く光る瞳を真っ直ぐにローラへ、
声にびくっと身を震わせる彼女に向けて『分析』を始める。

この者が如何なる禁術を使用したのか。

ジャンヌから聞いていたとある姉妹の件と
神儀の間が現出していたという事実、
そして彼女達の瓜二つの顔と、その力と魂の構成。

ローラの口から話を聞く必要など無い。
史上最高の長と謳われた彼女にとってはそれだけの情報で充分だった。

アイゼン『……なるほど』

事情を意図も簡単に把握したアイゼンは一言呟いて。
軽く指を弾くような動作で小さな光の矢をインデックスへと飛ばした。

すると矢が当たった瞬間―――インデックスが赤い光の衣に包まれ、
時間が止まったかのように完全に硬直した。

神裂『―――!!インデックス!!』


アイゼン『心配するな。ひとまず状態を「固定」しただけだ』


アイゼン『こうでもしなければ、落ち着いて話もできぬであろう?』

760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:23:36.96 ID:dZSZ/9Mjo

驚く神裂を尻目に、
アイゼンは変わらぬ調子で言葉を続けていく。

アイゼン『さてとまず彼女についてだが』

アイゼン『我が技と力をもってすれば、まあまず間違いなく救うことが可能である』


アイゼン『ただ掟は―――それを許さぬであろう。その採決は長の手に委ねられ、導かれる結論は明白』


神裂『そんな―――!!』


アイゼン『―――黙れ。口を出すな』

そんな横からの声も強い口調で一蹴。
うずくまるローラへ向けて連ねていく。

更なる残酷な言葉を。

アイゼン『そなたの境遇に同情はする。しかし―――犯した罪が重すぎる』


アイゼン『掟に則れば酌量の余地は無い。弁明の機会も与えられぬ。そなたの言葉は一切意味を持たぬ』


ローラ『…………』


それがアンブラ、鉄の掟の答えであった。

ローラの方が決別して自由を得ても、
今度は掟がその鎖を伸ばし、あの手この手で縛り続ける。
因果は彼女を繋ぎとめて、ふたたびアンブラへと引きずり戻す。

いくら彼女の精神が解き放たれようと、その肉と血と魂はアンブラのものだと。

返せ、と。


アンブラの掟の下に―――その身を返還しろと。


アイゼン『それはわかっていただろう?』


だがそれをローラも充分承知していた。
その上で彼女はここに来て懇願したのだ。

母なるアンブラの答えがわかっていながら、それでも一縷の望みを―――母なるアンブラに縋るしか。

761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:26:02.28 ID:dZSZ/9Mjo

『―――ならぬ!!』

『決して許すまじ!!』

『掟は絶対である!!』


『―――罪人に速やかなる罰を与えよ!!』


そんな彼女へ容赦なく浴びせられる古の母達の言霊。
神儀の間の隣にある霊廟から、怒りに満ちた声が放たれてくる。


アイゼン『そうだ。その通り』


そしてアイゼンがその声に準じるかのように―――頷いたのも束の間だった。


アイゼン『―――だぁぁぁが。ここで一つ問題があってな』


突然、魔女王は声の調子を変えてわざとらしい口調で声を放ち始めた。


アイゼン『そなたを縛る掟は、アンブラの「魔女」のもの』


更に意地悪そうな笑いがうっすらと混じる。


アイゼン『しかしな、我は今や「長」でもなければ―――「魔女」の身ですらない』


そしてローラを覗き込むように大きく身を乗り出して、
鳥の頭蓋を模した仮面、その眼孔からのぞく己が『赤き瞳』を見せ付けて。


アイゼン『即ち困ったことに―――決定権と執行権を持っておらぬのだ』

762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:28:00.70 ID:dZSZ/9Mjo

ローラ『―――……』

顔を上げアイゼンの瞳を見つめるローラはきょとんと、
いまいちアイゼンの言葉を理解していない表情。

アイゼン『故に、我がこの件に何かしらの決を下すことはできぬ』


アイゼン『必要なのは―――「本物の魔女」の長の採択である』


そんな彼女をお構い無しに。
まるで劇でも演じているかのように、
優雅に歩き手を広げながら更に声を放っていくアイゼン。


アイゼン『さてそこでまた問題がある。現長の座が空白なのだ』


アイゼン『今、魔女は僅か四名しか生存しておらぬ。だが幸いなことになんとそのうち二名が―――「コレ」を持つに相応しき強者である』

そして袖口から、一つあるもの取り出した。
それはアイゼンが被っている「鳥の頭蓋」と同じ形で、赤い羽根飾りがついている腕輪―――。

長に相応しき者しか嵌めることができない―――『長の証』。


アイゼン『まずその一人をあたってみよう―――セレッサ!!!!』


ベヨネッタ『んーっ面っ倒臭そうだからイヤ。そんなガラじゃないし』


そのアイゼンの呼びかけにベヨネッタは即答。
棒付きキャンディを口で転がしながら、彼女はあっさり辞退してしまった。

763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:29:51.02 ID:dZSZ/9Mjo


アイゼン『うん。そなたは破天荒すぎる。己を律さぬこんな馬鹿が長など笑止千万だからな』

ベヨネッタ『むっ』

アイゼン『となるとだ、相応しき者は「もう一人」の方となる』

アイゼン『あの者が断る理由は無い。長になるために生まれてきたような者。確定だ』


アイゼン『そうなるとこれまた幸いなことに―――もうあの者に採決を聞く必要は無い』


ローラ『―――……っ』

そこまで聞いてようやく。
アイゼンがどこへ話を持っていこうとしているのか、ローラは感づき始めて。


そして今度は―――『板ばさみ』となる。

インデックスが助かるという希望と。

アンブラの誇り、それへの鉄の忠誠との間で。


アイゼン『答えは既にここに示されているのだからな―――』


なにせ、掟を『こんな風』に解釈するなど。



アイゼン『―――そなたを救い、生きてここまで寄越した、これが明白なあの者の意思表示となりうる』



無理がありすぎる。
まさしく冒涜行為なのだから。

764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:33:17.24 ID:dZSZ/9Mjo


『―――アイゼン!!気が狂ったか!?』


強く響き渡る、
そんな『解釈』を受けいられぬ母達の声。

アイゼン『だから我はもう関係ない。聞いておっただろうに』


『否!!詭弁だ!!』


―――詭弁。

母達の発したそんな表現をアイゼンは否定するどころか。


アイゼン『ふっふっふ。そうよ―――これは詭弁よ』

あっけらかんと笑ってはあっさり肯定。

『アイゼン!!貴様ともあろう者が何を抜かしておる!!』

『そなた自身も制定に名を連ねた掟だぞ!!その血盟を反故にする気か!!??』

アイゼン『はっきり言うとな、もうついていけぬわこの腐り切った亡霊共めが』

アイゼン『掟がどうのこうの。飽きもせずいつまでもよくやりおるわ。おお、腐臭が匂う匂うくっさいのう』


『ふざけたことを!!ええい!!―――セレッサ!!この愚か者に鉄槌を下せ!!』


ベヨネッタ『あー、私は掟とかそういう堅苦しいの?あんまり』

『貴様も背く気か!?』

ベヨネッタ『なぁにを今更。背くのは今に始まったことじゃないし』



ベヨネッタ『なにせ私は―――生まれついたその瞬間から―――禁を破りし「呪われし子」なんだから』


765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:34:23.99 ID:dZSZ/9Mjo

うふん、と舐めきった調子でそうベヨネッタにも拒否された声達。
そこで次に頼るは。


『―――ええい貴様ら!!』


『スパーダの子よ!!かつて共に魔帝と対した一族の仲だ!!この者らを斬り捨てい!!』


スパーダ像の前で瞑想しているバージル。
だがこれの判断は、どう考えても『無謀』極まりないもの。
この男を頼ることは大きな過ちだ。


バージル『―――黙れ』


対してバージルの示した反応、それはアンブラの母達の求めを拒否したのか、
それともただ煩かっただけなのか。

少ない言葉と変わらぬ表情からでは、そのどちらなのか判別できなかったが。

―――問答無用だった。


ぱちりと目を開いたバージルが神速で刃を抜き、空間に光の筋を走らせた瞬間。


―――『声』がぶつりと途絶えた。

766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:38:00.39 ID:dZSZ/9Mjo

そして『最強』は静かに納刀して、再び目を瞑り。

バージル『茶番は終わりだ。早くしろ』

そう吐き捨てて再び瞑想に入った。

ベヨネッタ『そうそう意ぃ地わっる。どうせ決まってんだからチャッチャとやってあげれば良いのに』

続けて近くのある天使の像に寄りかかって、呆れがちにそう零すベヨネッタ。
その通り、掟の解釈以前に、元々計画にはインデックスが必要だ。
彼女を治療しないという選択肢など存在しないのだから。

アイゼン『「茶番」と言うかそなたら。全くわかっておらぬな』

だがそれとはまた別、とばかりにアイゼンが言葉を返す。


アイゼン『如何なる存在にも頭を垂れず、また頼りもしないそなたらには理解し難いだろうが―――』


アイゼン『―――本来、何事にも「順序」というものがある』


そして目を丸くし、小刻みに震えているローラの前に静かに屈んでは、
その彼女の頬に手を当てて。

アイゼン『聞いたな。あれは死者。古の残像、ただの亡霊の声である』

今度は優しく語りかけた。


アイゼン『今やあの「声」は如何なる力も有してはおらぬ―――全て「虚構」に過ぎぬ』


アイゼン『怨嗟の果てに堕ちた、恨みと憎しみだけの腐敗せし残りカス。それが現の姿だ』


その放たれた言霊は、母なるアンブラ、
そこに儚い幻想を抱いていた娘の心へと突き刺さる。


決して覆りようの無い、残酷な現実を突きつける。

戻れば自身は決して救われない、母なるアンブラの掟には希望など存在しない。
それでも。

掟に背いておきながら、矛盾していると自覚しながら、それでも最後に母なるアンブラを頼った子に。
絶対的な母なるアンブラならば何とかしてくれると、信じ誇っていた娘に。


アイゼン『そなたが見ている「母なるアンブラ」は―――――――――500年前に死んだのだ』


静かに、穏やかに、それでいて鋭くはっきりと。
現実を突きつける。

767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:41:20.99 ID:dZSZ/9Mjo

気高き意志、「誇り」こそがアンブラの魔女の強さを支える一面。
掟に背いた逆賊でも、その血の誇りを決して捨てない。

アンブラの魔女が魔女たる存在証明なのだから。


しかし存在が強すぎる『誇り』は、一度何かが捩れてしまったら―――『呪縛』に成り果ててしまう。


このローラもまた、自由になったのも束の間、
そこに『ありもしない幻想』を見てしまい戻ってきてしまったのだ。

自ら火に飛び込む虫のように。

そんな再び囚われかけてしまった彼女を―――アイゼンがゆっくりと、『順序立って』解き放ってゆく。

アイゼン『恐れなくても良い。そなたの真の名は?』

ローラ『……あ…………それ……は……』

アイゼン『過去のものではない。「今」のそなたのありのままの名だ。さあ、真名を口にしろ』


ローラ『……………………ローラ……ローラ=スチュアート』


アイゼン『ローラ。聞えるか?己が名を口にした声が』

幼い少女のように頷いたローラを見て。
穏やかに微笑んでは、今度はその手を彼女の胸に添えて。


アイゼン『己が声が聞こえるようになったのならば、次はその声に従え』


そうささやきながら血まみれの胴へかけてなぞってゆく。
すると淡い光を発しながら、傷口が見る見る塞がっていき。


アイゼン『アンブラの「誇り」は過去の虚構にではなく、今この瞬間からの「己」に見よ』


アイゼン『母なる存在はそなた自身の中に存在しているのだ』


アンブラの呪縛からも解き放ち。


アイゼン『我が証人となり、ここに宣言する。ローラ=スチュアート、この者の血と肉―――そして魂は―――』


『正式』に。


アイゼン『―――気高き「アンブラ」そのものであると』


ローラ=スチュアートの存在をここに証明した。

768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:44:07.05 ID:dZSZ/9Mjo

ローラは呆然としていた。
硬直し目を見開いたまま、アイゼンをただただ見上げて。

その瞳からは不安、苦悩、後ろめたさといった陰りは全て消えていた。
そんな彼女の頭を軽くぽんと叩いては、アイゼンは立ち上がって。

アイゼン『本来ならばここまでがジャンヌの仕事なんだがな』

アイゼン『まあなんだ、「向こう」は色々込み入っておったようだし方あるまい。代理の我で我慢しろ』

マントと羽飾りを颯爽と翻しながら、『固定』状態のインデックスの下へ歩んで行き。


アイゼン『さてともう一人の子、そなたの妹も解き放たねば』

横渡る少女の傍に屈み、その手を額に添えた。
その声を聞いてハッとしたかのように立ち上がり駆け寄るローラ。

そんな風にして治療が始まる中。


ベヨネッタ『……なぁんとなく。わかったような気がする。この「茶番」の必要性』


天使像に寄りかかりながら、ベヨネッタがそう口を開いた。

アイゼン『なんとなくでは足りぬ。魔女の上に立つ者は、ただ強者であれば良いというわけではない』

手を動かしながら答えるアイゼン。

ベヨネッタ『魔女は「悪魔」ではなく「人間」なのだから、でしょ。思い出した。昔習ったっけ』

アイゼン『そうだ。そなたたちのような一部の者を省き、人の心を宿す者はみな何かに縋って生きておる』

アイゼン『信頼、希望などと呼ぶそれらは最高の力となりうるが、一方で人の心に絡まった時は実に厄介な代物となる』

アイゼン『こればかりは力ずくでどうにかできるものでもない』


アイゼン『絡まった茨を強引に取り除こうとすれば、周りの「肉」をも引き千切ってしまうのと同じだ』


アイゼン『「弱者」の「肉」はな、そなたらのように頑丈ではないのだからな』


アイゼン『それ故に「弱者」であり。故に、誰かが手を差し伸べて救わねばならない』

ベヨネッタ『…………ふぅん。ところでグランマ。グランマも何かに縋ってんの?』


アイゼン『もちろん―――』



アイゼン『この老体はな―――そなたら、「子ら」に縋っている』


769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:47:36.33 ID:dZSZ/9Mjo

そこでアイゼンは顔をあげて。

ベヨネッタと―――瞑想しているバージルの背へと視線を巡らせた。


ベヨネッタ『私たち?自分で言うのもアレだけどさ、バージルも私も自分の望みどおりにヤルことしか頭に無い「バカ」よ』

ベヨネッタ『バージルの「弟」も「息子」も似たようなもんだし。まともなのジャンヌくらい』


アイゼン『それで良いのだ。そなたらが好き勝手踊り、この世界を掻き回し』

アイゼン『あらゆる「絶対的存在」を叩き潰し、忌々しい「絶対的概念」を踏みにじる』


アイゼン『それが見てて最高に楽しくてたまらんのだからな』


アイゼン『ほれ、またひとつ見せてくれ』

そしてアイゼンは袖口からあるものを取り出して、ベヨネッタへ放り投げた。
それは―――あの『長の証』。


アイゼン『新たな歴史を紡ぎはじめる時だ。「新生したアンブラ」を見せよ』


放られたその腕輪を、
ベヨネッタは指に引っ掛けてはくるりと回して。


アイゼン『絶頂の腕輪―――調整は済んでおるな?』


ベヨネッタ『ちょうど』

そして握り、キャンディの柄をくいっとあげては笑みを浮べて頷いた。


アイゼン『―――ならば行けい。そして長の証を「相応しき者」に届けよ』


ベヨネッタ『りょーかい。グランマ』


―――

774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/17(土) 09:57:26.67 ID:+V9Q15kDO
やべえ

778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/09/19(月) 00:59:32.39 ID:HLdsrB5T0
アスタロトに同情・・・できんわな。

779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 01:54:20.08 ID:wmMZBHsqo

―――

それを例えるに、まさに総力戦という表現が相応しい。
不浄の王を打ち倒すべく、多数の魔具、多様な魔獣の力が入り乱れてゆく。

龍騎士が豪快に振るう巨大なハルバードをかいくぐり。

ジャンヌ『―――YeeeYA!!』

目にも止まらぬ連撃を叩き込んでゆくジャンヌ。
アスタロトの攻撃が一つに付き、彼女は10倍近くの手数で返していく。

そのたびに龍騎士の体は大きくよろめいては、
身を震わせてダメージ・苦痛の反応を示したが。

アスタロト『―――ははははは!!!!』

しかしそれでも依然、アスタロトには余裕が溢れていた。

ジャンヌ『―――チッ』


このアスタロトは悪趣味な、人界の俗っぽい言い方をすれば極度の『マゾ』なのは、
言動の節々からでも容易にわかる。

だが、死に至るまで快楽とし続けるほどイカレてもいないはず。

そこまで自滅的ならば魔界の十強に上り詰めることなどまず無理だからだ。
ある程度保身的でなければ決して不可能。

つまりまだまだ追い込めてはいない。

アスタロトにとってはジャンヌのこの攻勢でもまだ生ぬるいのだ。


780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 01:55:13.91 ID:wmMZBHsqo

これは少し奇妙なことであった。

アスタロトとジャンヌ、両者の間に圧倒的な差があるわけでもない。
その上でここまでジャンヌの手数が圧倒的に多ければ、アスタロトの底、
もしくはその力量の大体の全容が見えてきても良い頃だ。

だが実際はまるで見えない。

10から確かに3を引いたのに答えがなぜか10、
まさにそんな奇妙な状態なのだ。

そしてその原因を悠長に探る余裕も、今やなくなってきていた。


ジャンヌ『―――ぐッ!!』

猛烈な勢いで右から薙ぎ振るわれるハルバードを、魔刀で打ち流しすジャンヌだが。

その凄まじい刃は、
今やそうそう打ち流せる水準ではなくなっていた。

あまりのパワーと鋭さに魔刀が悲鳴をあげ、
柄を握る手も痺れ感覚が一瞬飛ぶ。

しかも凄まじい衝撃と共に浸透してくるアスタロトの力が、
毒となって体を蝕んでいき、
魔女の要とも言える体内の『式』や力の統制に障害が生じてしまう。

この強烈な毒性、
複雑な魂と力の構造をしている魔女にとっては、非常に相性が悪いものであったのだ。

781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 01:57:14.78 ID:wmMZBHsqo

アスタロトの攻撃は一撃に留まらなかった。
ジャンヌの一瞬の怯みを見逃さずに、ここぞとばかりに攻撃が続く。

続く二撃目はハルバードの直後、流した刃の火花がまだ散りかけのところに。
龍騎士の翼が鎌のように、同じく右からジャンヌの魔刀に衝突した。

ジャンヌ『―――ッく!!』

流しきれずに後方へ大きく弾きこまれてしまうジャンヌの体。
踏ん張る両足がガラスのような地面に突き刺さり、線路のように二本一対の溝を大地に刻んでいく。


そこで更に三撃目。


踏み込んできたアスタロトがハルバードを返し、今度は左から薙ぎ振るう。
凄まじい立て続けの攻撃に、ジャンヌでももはや打ち流すなどできなかった。

魔刀を左に持って行き、体を叩ききられるのを防ぐだけで精一杯。

一段と壮絶な衝撃。


そして斜め後方へ、先よりも更に距離長く弾きだされるジャンヌの体。


両足が地面を抉り砕いては大量の破片を巻きあげて。
200mほどまた『線路』を刻んで、彼女の体はようやく制止した。

しかしここで一息つくにはまだ早い。

瞬間、ジャンヌは気配を覚えて上を見上げた。
その視線の先ちょうど真上に見えたのは―――翼を広げ、ハルバードを掲げた龍騎士。


そして振り下ろされる―――四撃目。


782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 01:58:02.83 ID:wmMZBHsqo

ただこの時、ジャンヌもやられてばかりではなかった。

一撃目から三撃目までのと比べて、
この四撃目までの間はそれなりに長かったのだ。

彼女は即座に魔刀を頭上にかざし、打ち流す構えを取り同時に―――ウィケッドウィーブを発動させた。

そして振り下ろされたハルバードが魔刀と衝突した瞬間。


すれ違いに、巨大な足に突き上げられる龍騎士の腹。


まさに圧倒的な一撃の『交換』。
空間が目に見えて大きく歪んでは波紋を生み出していく。

そんな激突の中、龍騎士の巨躯は大きく吹き飛ばされて、
そしてジャンヌの体は大きく陥没した地面に叩き込まれた。



クレーターの底、つみあがる破片の耳障りな音がしつこく響く中。
ジャンヌはゆらりと立ち上がった。

ジャンヌ『―――クソッ……』

小さく悪態を付きながら。

四発も連続で受けた魔刀は今や刃こぼれが酷く、
肘辺りまでもひどく痺れている。

腕だけではなく全身の節々が痛み、そして体内にもあちこちに障害が生じている。

一方でアスタロトは。


ジャンヌ『…………』


遥か上空にて羽ばたく龍騎士。

先のカウンターもかなり手応えはあったものの、
やはりアスタロトに消耗の色はまだ見られなかった。

783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 01:58:33.92 ID:wmMZBHsqo

これではきりが無い。
ここまでの攻撃を与えてもこれでは、このまま続けていても仕方無い。

一体どんなカラクリがあるのかはわからないが、
力をぶつけて削りとる正面勝負ではどうしようもないのは確か。

ジャンヌ『……』

そしてそのカラクリを暴くこともかなり難しいか。
ここまで戦っていても、そのヒントは一つも見当たらないのだ。


だが八方塞というわけでもなかった。

アンブラの魔女は、ただ叩き潰すだけが能じゃない。

少なくともジャンヌの頭の中には、効果的と思われる別のアプローチがあった。
ただもちろん簡単なことでもないが。


具体的に言うと『それ』は結構な大技であり、また非常に繊細かつ正確な作業が求められ、
更に成功には少しの間、アスタロトの動きを完全に封じる必要がある。



しかし成功さえすれば―――その一度で確実にアスタロトを廃することができる。




784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 01:59:05.64 ID:wmMZBHsqo

彼女はこの一手に全てを注ぐことを決定した。
その時、そんなジャンヌの表情を見て何かに気付いたのか。

アスタロト『何か見せてくれるのか?』

忌々しく笑いながら挑発する恐怖公。

ジャンヌは一言も返さず―――かわりに鋭い視線を向けて、
足で地面を打ち鳴らしては、妖艶に大きく体を躍らせて。


ジャンヌ『―――AGRAM ORS!!』


そしてエノク語で詠唱。

その瞬間、彼女の周囲から逆向きの滝のように大量の髪が立ち昇った。
凄まじい勢いで伸びた髪は、空高くで渦を巻き。

―――巨大な魔方陣が出現し―――その中からこれまた巨大な怪鳥が飛び出し現れた。


漆黒のその魔獣の名は―――『マルファス』。


召喚された名だたる大悪魔―――マルファスは、
魔方陣から飛び出すや凄まじい速度でアスタロトへと飛翔し。


アスタロト『―――ぬっ―――』


まさに体当たりとも言える勢いで激突した。

785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:00:51.86 ID:wmMZBHsqo

その光景は壮絶なものであった。

轟音を響かせては、
巨鳥と龍騎士がもつれあって一気に落下。

怪鳥は鋭い爪を持つ足を龍騎士に食い込ませて、
更に龍の首にクチバシを突き刺し肉を引き千切っていく。

肉片と羽が飛び散り、龍か怪鳥か、轟くどちらのものか判別がつかない咆哮―――。


―――だが地に着くまでに残った咆哮は『一つ』。


凄まじい衝撃をともなって大地に激突、
巻き上がる粉塵の中からまず現れたのは―――痙攣して萎縮する漆黒の翼。


そして靄が晴れていくと―――悠然と立っている龍騎士。


痙攣している翼はその屈強な四肢の下―――無残な形となっている肉塊から伸びていた。

だがそれを目にしてもジャンヌは怯まない。


ジャンヌ『―――TELOC VOVIM!!』


更に踊り、立て続けに詠唱する。
先と同じように巨大な魔方陣が出現し―――次に現れるは巨大なムカデ―――『スコロペンドラ』。

786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:02:11.04 ID:wmMZBHsqo

アスタロト『―――お次はフレジェトンタの血竜と来るか!!』


銀髪を纏ったスコロペンドラがすかさずアスタロトの騎士部分の胴、
腕に一気に絡み付いていき。

そして凄まじい力で締め上げていく―――が。


アスタロト『―――はッ!!!!』


それでもアスタロトを封じるには足りなかった。
龍騎士は真っ向勝負とばかりに肉を張り、弓の弦をゆっくり引くかのようにスコロペンドラの体を軋ませていく。

そして―――その力勝負は僅か5秒で決する。


耐え切れずに弾け飛ぶ―――スコロペンドラの胴。


悲鳴にも聞える咆哮が響き渡り、千切れた長い胴が力なく落ちていくが。


ジャンヌ率いる『総力』はこれだけでは終らない。

大悪魔の連続召喚は通常、どれだけ優れた魔女でも行わない。
理由は簡単、累積する負荷があまりにも危険すぎるからだ。

しかし彼女は立て続けに大規模召喚を続けていく。


ジャンヌ『―――IZAZAS PIADPH!!』


その口から―――血を吐きながら。

次に魔方陣が浮かび上がったのは大地―――アスタロトを中心として、直径200m以上にもなるほど巨大に。

そして円の中の大地が消失しては虚無の大穴が出現し―――


―――その中には、大穴を塞ぐほどに大きな『蜘蛛』―――『ファンタズマラネア』。

787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:03:27.47 ID:wmMZBHsqo

アスタロト『―――ははんっ!!これはこれは!!』


その大蜘蛛の体は、実にアスタロトの10倍以上。

アスタロトの全身ほどもある頭部から発せられる咆哮は、
それだけでこの階層が砕けてしまうかというほど。


だがそれでも―――このアスタロトは全く怖気つかない。

龍騎士は落ちるどころか、自らその頭部に急降下してゆき。


『英雄』は凄まじい勢いで降下しては一突き―――『怪物』の口に中へと、ハルバードを突き刺す―――。


それはまさに、巨大な怪物に立ち向かう騎士―――英雄にも見える光景。
この一瞬だけを切り取れば至高の芸術品にもなるであろうか。

だがそれだけ。

次の瞬間、これまた猛烈な咆哮と共に噴き上がってくる血。
それを全身に浴びながら笑う龍騎士の姿は、果てし無き狂気に満ち溢れていた。


アスタロト『―――……はは、ふうむ』

だが。

アスタロト『ははん、さすがは炎獄の熔蜘蛛王、一撃では斃れないか』

ファンタズマラネアの八本の足からは、まだまだ力は抜けない。
大蜘蛛は、巨大な足の先端で八方から挟み込むようにして
アスタロトの龍部位を強く押さえつけた。

788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:04:36.94 ID:wmMZBHsqo

更に血吹き出る口から、朱に染まった―――鋼のような糸が勢い良くのび、
騎士部位にも纏わりついていく。


アスタロト『ふん、だが芸が無い。こんなもの―――』

しかしファンタズマラネアができたのはそこまでであった。
アスタロトはこれでも全く余裕を崩さず、不気味にほくそ笑み。

そしてハルバードを勢い良く引き抜いて。

確実にこの蜘蛛王を倒す第二撃を食らわすべく、大きく掲げた―――その瞬間。

            境界の主よ 汝の名の下に征せ
ジャンヌ『―――PANPIR TELOCH OIAD ZIRE ZILODARP!!』


それは最後でありジャンヌ最大の召喚。

直径100m程の魔方陣がアスタロトの正面に浮かび上がり。


そして姿の現したのは、まさしく―――『白銀の女王』。

翼かそれとも長い髪か、光り輝く銀の尾を全身から引く―――妖艶な魔人。



全身召喚された―――マダム=ステュクスそのもの。

789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:05:16.36 ID:wmMZBHsqo

現れた白銀の女王は、素早くハルバード持つアスタロトの手首を掴み。
もう片方の腕でその首を握り、凄まじい力で押さえつけた。


アスタロト『―――っ』


意識の隙、とでも呼べるか、ここでようやく生じた二回目の『間』

この王の中の王たる存在の連続の出現に、
さすがのアスタロトも驚きの色を浮かばせて反応が一瞬止まった。

そしてもちろんジャンヌはその隙を見逃さない。
待っていたとばかりに素早く動き出す。

一気に駆け跳ねてゆき、
マダム=ステュクスの全身から伸びる、白銀の虹のような『尾』を走り抜けて。


飛び出して―――女王が押さえつけるその首の上、アスタロトの鼻先に着地した。


アスタロトは明らかに驚き、そしてジャンヌの行動の意図を量りかねていたようだった。

表情どころか目も口もないクチバシ型のその頭でも、
ありありと感じ取れるほどにそんな意思がにじみ出てきている。


ジャンヌ『―――覚えてるか?私がさっき言った言葉を』


そんな龍騎士へ向けて、ジャンヌはそう声を放って。

掲げていた魔刀をアスタロトの鼻先へと―――突き刺した。

そして『流し込み』、『施す』。


一度で確実にアスタロトを廃することができるあの『術式』を。


それは500年前、ベヨネッタに施したあの『術』の応用。

その効果は実に単純明快―――『封印』だ。

790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:06:44.04 ID:wmMZBHsqo

次に放たれた龍騎士の声には。


アスタロト『貴様――――――何をした?』


体内に流れ込んでくる『もの』の異常さに気付いたのか、
明らかに余裕が消えていた。

一方でジャンヌは薄く笑みを浮べて。


ジャンヌ『私はこう言っておいたはずだが。このプルガトリオの最果てが―――』


ジャンヌ『―――「終点」だと』


言葉を確かめるように、自身と確信に満ちる声ではっきりと告げた。

そう、もう確実だ。


アスタロト『―――きっ貴様ッ―――!!この―――!!』


明らかに焦り混じるアスタロトの声。
だがもう遅い。

既に術式は起動されている。

この術の前にカラクリなど問答無用。
魂、力そのものを、目障りな『小細工』まるごと閉じ込めてしまう―――――はずだったのだが―――。



アスタロト『――――――――――――なーぁんてな』


791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:08:50.03 ID:wmMZBHsqo

勝利を隠した瞬間―――絶望への転落。

ジャンヌ『―――…………な……に?―――』

あまりの展開に信じられず、思わずジャンヌはぼそりと呟いてしまった。
何も起こらないのだ。
何も。

術式は完璧であったはず。力の量も適切であり、どこにもミスは無い。

それなのに―――術の効果が一切現れない。

アスタロト『ははは、惜しかったな。あと少し、少しだった』

そして対照的なアスタロトの声色。またあの余裕たっぷりの調子に戻っていた。

アスタロト『300年ほど前の俺だったらお前は間違いなく勝っていたのだが』


アスタロト『生憎、俺もずっと「昔のまま」というわけじゃあないんだ』


ジャンヌ『―――な、これは……!!』

一体どういうことなのだ。
こんなことは有り得ない―――有り得ないのだ。

ジャンヌ『―――』


そう―――『有り得ない』。


その脳裏に木霊した言葉で、ジャンヌはようやく気付いた。


彼女はそんな『有り得ない』を知っていたのだ。
このような有り得ない事象を起こす領域の力を知っている。

すぐ傍にいたではないか。

                    スパーダ
バージルの―――父から受け継いだ『破壊』の力。

      セ レ ッ サ
そしてベヨネッタの―――『闇の左目』。


『力』とはまた別の―――規格外の『特性』を有した者達を。


そんなジャンヌの思考をまるで覗いていたかのように、
アスタロトが相変わらずの調子で口を開いた。

アスタロト『「これ」を見たのはお前が一人目だしな、せっかくだから教えてやろう』


アスタロト『俺は「これ」を――――――――――――「維持」と呼んでいる』

792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:11:37.93 ID:wmMZBHsqo

ジャンヌ『―――がっ―――あ!!!!』

その時。
ジャンヌは腹部に、魂が震え気が遠くなるほどの激痛を覚えた。

しかし攻撃は受けていない。
己の腹部を見ても無傷だ。

そう、彼女は攻撃を受けていなかった。

受けたのは―――マダム=ステュクスだった。
龍の頭部が、その頭が埋まってしまうほどに女王の腹部に深く噛み付いていた。

主契約による一心同体化で、そのダメージがそのまま伝染してきているのだ。

しかも―――あの毒性が今までとは比べ物にならないくらいに強い。
立て続けの召喚に術式でほとんど力を使ってしまったせいで、抵抗もまるでできない。

白銀の女王と同時に、ジャンヌの体は硬直麻痺しては痙攣し始めてしまった。

そんなふうに体の自由を一瞬で奪われた彼女を尻目に。


アスタロト『これは「創造」や「具現」そして「破壊」と同じ、元々はジュベレウスが有していた、万物を司る因子が形を変えたもの

だ』


アスタロトは変わらぬ調子で言葉を連ねていく。


アスタロト『如何なる外的要因の影響も受けず、俺の意志のままあらゆる事象を―――「継続」することができる』

アスタロト『つまりこの「維持」が機能しているかぎり、俺は消耗もしないし死にもしない』

アスタロト『その間に受けた「痛み」も継続してしまうが…………まあそれも別段悪くは無い』

そして騎士部位の鼻先、ちょうどジャンヌの前にあの『美男子』の上半身を出現させて。


アスタロト『―――俺は大好きなのでな。血肉を滾らせて、熱く火照らせる「苦痛」が』


大きく身を乗り出しては、その醜悪な笑顔を彼女の耳元に近づけて。


アスタロト『―――この傷から痛みが悲鳴となって、お前の後悔、憤怒、恐怖が聞えてくる』


おぞましく囁いた。
身の毛がよだつ吐息を吹きかけて。

793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:15:06.74 ID:wmMZBHsqo

アスタロト『しかし驚いた。これを一番に見せた相手もまさか人間になるとはな』


アスタロト『喜べ。この頂点たる俺を知ったのは、お前が初めてだぞ』


ジャンヌ『―――…………ぐっ』

そうもはやアスタロトは、十強『なんてもの』ではない。
この恐怖公は間違いなく覇王と同等、もしくはそれ以上の領域に達していた。

アスタロトに関するアンブラの情報や様々な伝聞も、今やもう過去のものか。

魔界―――そこは常に進化し成長し続ける世界。
古から続く力こそ全ての苛烈な競争は、ジュべレウスをも廃した『三神』を生み出すに至る。

そしてその神を生み出した頃と同じく、今でも魔界は競争が続いている。

そう、過去に三柱も現れた以上、いつ新たな『神』がひょっこり出てきてもおかしくないのだ。
むしろ必然ではないか。

今魔界で最も強い者の一人がその領域に達するのも、時間の問題だったわけだ。


ジャンヌ『…………ぐ……は、そうか、わかったぞ……』

そしてそう考えると、今更であるがアスタロトの行動も繋がっていく。

この恐怖公は魔帝の騒乱の際には一切動かなかった一方、
今回の覇王の件では一番に動いた、その理由がここにあった。


ジャンヌ『お前……魔帝には勝てないが…………覇王には「勝てる」と目論んだのだろう?』


アスタロト『ふむ、俺よりも強ければ忠誠を再び誓い、良き臣下となろう』


アスタロト『俺よりも弱ければ―――打ち倒し―――魔界の統一玉座と「具現」を頂く』


そしてアスタロトは当然のようにそう答えた。
いや、『よう』ではない、これが当然だ。

アスタロトが覇王の復活に協力したのは、この二重の目的があったからなのだ。


この恐怖公はまぎれもない―――いずれ帝王になる一柱。


アスタロト、その存在は魔界の欲望を濃縮し体現したような、非の打ち所が無いまさに『圧倒的な王』であった。

794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:16:01.42 ID:wmMZBHsqo

アスタロト『―――さて。そろそろ幕引きにしようか』

そうして、アスタロトは一際強く女王の腹部を噛み千切った。

ジャンヌ『―――ぐッ!!!!』

それを見たファンタズマラネアの足、そして糸の締め付けが一層強くなるも、
アスタロトは苦痛を見せるどころか完全に無視して。

アスタロト『ほう、興味深いな。マダム=ステュクスとお前、どちらを先に殺せば面白くなる?』

アスタロト『ははは、もしかすると片方を殺せば、もう片方も共に死ぬのか?』

鼻先から生やした上半身の首を大げさにかしげて醜く笑った。
と、その時。

アスタロト『おおっとその前にだ、これがあった』

ぱん、と、下のクチバシ型の大きな頭部を一度叩いては、
何かを思い出したのかそう口にして。

アスタロト『お前ほど強き魔女ならばかなり高位のはず、知っているだろう』



アスタロト『―――「闇の左目」はどこにある?あれも欲しい』


だが。

その答えを、この魔女から聞きだせるわけがなかった。
返ってきたのは凄まじい形相と、血走った突き刺さるような視線。

アスタロト『……まあいい』

その返答もアスタロトの予想範囲内だったか。
龍騎士は驚きも怒りもせず、逆に満足そうに大きく笑い。

アスタロト『俺が憎いか?憎いであろう、はっははは』

龍のその鋭い牙を、マダム=ステュクスの首下に持っていき。

アスタロト『―――楽しい一時だったよ』


噛み付き、噛み砕こうとした―――その時であった。



『―――おいコラ、アンタ「ウチ」の「新しいボス」に何してくれてんの?』



突然、真横すぐ間近からそんな女の声が響いた。
そして直後、アスタロトがそっちに意識を向ける前に―――その頭部が砕け散った。

796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/20(火) 02:24:30.91 ID:zDhLXX4DO
フルボッコ祭りキターーーー!!

799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/20(火) 07:23:02.96 ID:c385AzsU0
(*´Д`)スーパーおヨネさんタイム キタ━━(゚∀゚)━━!!!

802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:19:24.64 ID:E2jOzdGco

頭を失った龍騎士の巨躯が横へと大きく吹っ飛んでいく。
それと同時に白銀の髪束へと姿を変えて、そして消失するマダム=ステュクスとファンタズマラネア。

大穴も消え元のガラス状のものに戻った大地、
そこにジャンヌが乱暴に着地した。

強く膝をついて、衝撃で口から紅の液体を滴らせながら。

ジャンヌ『…………ぐッ…………』

『随分と苦戦のご様子』

そんな彼女に向けて、すぐ横から放たれてきた声。

ジャンヌがジロリと睨みつけるように見上げると、そこにはベヨネッタが横に立っていた。
髪留めを外して、その艶やかな黒髪を大きくなびかせながら。

ジャンヌは言葉を返さなかった。
声の代わりとばかりに血混じりの唾を吐き捨て、相変わらずの目でただただ睨みつける。

ベヨネッタ『……ははあ……』

その相棒の様子を一目見て、ベヨネッタは彼女の精神状態を把握した。

ジャンヌはブチギレている、と。
よっぽど癪に障ることがあったのか、戦っていた相手がよっぽど―――ムカつく奴であったのか。


いや―――まさにその通りなのだろう。


相手はあの―――アスタロトなのだから。


あの存在を前にして、怒りに満ちないアンブラの者などいない。
とくにアンブラの全てを背負ったジャンヌの怒りは計り知れないだろう。

ベヨネッタ『……そう……』

803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:20:37.90 ID:E2jOzdGco

とにかくジャンヌは、
どこからどう見てもいつもの調子で言葉を交わす気分ではない様だ。

ベヨネッタは一度小さく肩をすくめたのち、
指に引っ掛ける形で長の証を取り出して。

単刀直入、本題に入ろうとしたところ。


ベヨネッタ『コレさ、グランマから預かったんだけど―――』


ジャンヌ『―――そいつを寄越せ』


その本題を告げきる前にジャンヌがそう言い放った。
血走った目で長の証を見つめ、低く張り詰めた声で。

そしてその時だった。
ジャンヌがを求めた瞬間―――まるでその言葉に呼応したかのように―――

―――仄かに赤黒い光を放ち、熱を帯び始めていく長の証。


ベヨネッタ『―――…………』


そんな未知の熱を感じながら、
ベヨネッタはその腕飾りを覗き込むようにして眉を顰めた。

そう、『未知』。

自分が使っていた時、この腕飾りはこんな反応など示さなかった。


ベヨネッタ『わぉ………………何コレ』

804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:22:40.71 ID:E2jOzdGco

反応を示したと思った僅か1秒後には、長の腕輪は光で叫び始めていた。
強く濃く瞬き、順じて『力の熱』も一気に増していく。

ジャンヌ『―――寄越せ』

そしてその怪しき輝きに惹き付けられているかのような、
ジャンヌ亡霊染みた声色。

ベヨネッタは目を細めて、そんなジャンヌと腕飾りを交互に見やった。
訝しげな表情を浮べて。

ベヨネッタ『……』

この時、彼女の中で一つの疑心が湧き上がっていたのだ。

元々、生まれも育ちも究極の『アウトロー』であるベヨネッタは、
アンブラの血は誇りに思っているものの、その『体制』は信用していない。

あの干からびた亡霊共然り、カビの生えた掟然り、そして―――この長の腕飾りもだ。

この時ベヨネッタには、ジャンヌがとり憑かれてしまっているように見えたのだ。
アンブラの果てしない怒りに。

この不気味に呼応する腕飾りをつけてしまったら、
自我を奪われかねないのではないのか。

今の酷く消耗している状態ならば尚更―――。



ジャンヌ『―――私に寄越せ。「セレッサ」』



ベヨネッタ『……』

だがその直後だった。


―――真名が放たれたと同時に。

ジャンヌの瞳の奥底にて光が煌いた。
確かな意志の光が。

805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:24:33.20 ID:E2jOzdGco

この疑心はどうやら杞憂だったか。

ベヨネッタ『…………』

この相棒はそんなにヤワじゃない。
この程度で潰れてしまう女なんかではない。

それを一番良く知っているのがベヨネッタ、己自身ではないか。

500年間、自分を守り続けてきてくれたのは誰か?

ジュベレウスに取り込まれた己を救いに、死の淵から帰って来たのは誰だ?

わかりきっていることではないか。
アイゼンの言葉と直前のローラの事で、少し神経質になり過ぎていただけか。

ベヨネッタ『…………』


―――事実は明白だ。


ジャンヌが怒りに押し負けることは無い、
彼女の意識は完全に支配する側にある。


ジャンヌが長の証に相応しいのではない、ジャンヌに「長の座」とこの腕飾りが相応しいのだ。


今一度ベヨネッタは、ジャンヌの瞳の煌きを確認して。

ベヨネッタ『タダじゃだめ。これは元々私が苦労して手に入れたもんだし』

今度はあっけらかんと、意地悪そうにそんなことを告げた。
指先でくるくると腕飾りを回して、顔にはいつもの不敵な笑み。

ジャンヌがじろりと一際鋭い視線を向けたが、
普段の調子でニタつくベヨネッタに結局負けてしまう。

ジャンヌ『……………………今度……ゲイツオブヘルで奢ってやる』

彼女はため息混じりにそう調子を合わせた。
呆れたように首を小さく振りながら。

ベヨネッタ『まるごと一晩分』

ジャンヌ『……わかった。だからさっさと寄越せバカ野郎』

806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:25:27.23 ID:E2jOzdGco

そうして投げ渡された長の証を、
手首へと素早く嵌めるジャンヌは。

ジャンヌ『ぐ―――!!!!』

すると赤黒い光がジャンヌの全身へ纏わりつき、
彼女の色である銀と混ざり合っていく。

やはり負荷がかなり強いのか、その過程でジャンヌは苦悶の声を漏らしてた。

ベヨネッタ『気をつけて。それ私の時よりもずっとギンギンだから』

ベヨネッタ『私よりもジャンヌの方が好みみたいね。あ、もしかしてボインは好きじゃないのかしら』

ジャンヌ『―――うるさい黙ってろ……』


と、いつもの「やり取り」をしていたところ。
遠くにて、吹っ飛ばされたアスタロトの体がむくりと起き上った。

ベヨネッタ『……』

身震いして地面の破片をふるい落とす龍騎士。
その様子を見てベヨネッタは目を細めた。

みるみる再生していく頭部は別に珍しくも無い。

だが―――ダメージの痕跡が無いのはなぜか?

先の横からの一撃は確かに命中し巨大なダメージを与えたのだが、
その様子が全く見られないのだ。


ジャンヌ『…………「維持」、だそうだ……』

807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:26:25.88 ID:E2jOzdGco

そんな疑問に、
横からジャンヌが苦悶混じりにそう告げた。

ベヨネッタ『「イジ」?』

ジャンヌ『……お前の「闇の左目」と……ぐッ!……同類らしい……』

ベヨネッタ『はぁーん……どういう性質?』


ジャンヌ『事象の……継続……状態を維持できるから……消耗知らずだとさ』


ベヨネッタ『なあるほど。それでそのカラクリを潰す「穴」は……』

と、言葉を続けながらそこでジャンヌを一度見て。
その彼女の、「穴」を見つけていたらまず有り得ない消耗っぷりを確認して。

ベヨネッタ『―――まだ無し、か。まあ、とりあえずボコリ放題ってことでOK?』

ジャンヌ『…………ふん』

そうしていると、遠くでアスタロトがハルバードの先を地面に突き刺して、
仁王立ちしてじっと佇み始めた。

『ご親切』に、こちらの準備を待っていてくれるのか。

それを見たベヨネッタ、
色っぽく喉を鳴らしてはキャンデイを口で転がして。

ベヨネッタ『さーて「長殿」。向こうは第二ラウンドの準備が整ったようでございますが』

ベヨネッタ『長殿の準備完了まで、わたくしめが「お客様」のお相手いたしましょうか?』



ジャンヌ『…………悪いな、任せる―――だが―――可能だとしても殺すなよ――――――――――――奴は私が殺す』



ベヨネッタ『―――Yes,Ma'am』

808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:29:25.49 ID:E2jOzdGco

次の瞬間、ベヨネッタは黒豹に姿を変え、
猛烈な速度で駆け進んでいった。

先ほどジャンヌの強さに疑問を抱いてしまったことを、ふと思い出しながら―――。


なんて愚かなことか。
皆が皆迫害する中ただ一人慕ってくれて、
背を預けて戦ってきた唯一の家族の強さを、今更、今更になって疑ってしまうなんて。

まさしく「この部分」だ。

『魔女の上に立つ者は、ただ強者であれば良いというわけではない』

ベヨネッタ『……』

そのアイゼンの言葉が示すのはこの部分。
この部分が長になるためには足りないのだ。

他者の視点を理解できても、他者と同じ視点から見ることはできない。
等身大のアンブラ魔女として何かを見て語ることはできない。


―――『それ』はどう足掻いても手に入らないもの。


絶対的な力の一つ―――因果を無視しながら事象を『現実』と証明できる特性―――『闇の左目』を有しているのだから。


ジャンヌは彼女のことを全て理解してくれているのに、
彼女はジャンヌの全てを理解しきることはできない。

ジャンヌが彼女と同じ視点に立って、彼女の意志を代弁することが可能でも。
彼女はジャンヌと同じ視点には立てず、ジャンヌの意志を代弁することもできない。


つまり『一方的な孤独』―――それが『観測者』であるが故の代償。

809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:34:42.78 ID:E2jOzdGco

ベヨネッタ『…………』

だが。

別に彼女はその『孤独』を嫌ってはいなかった。

ジャンヌはそんな『孤独なセレッサ』を、
ありのまま丸ごと慕って信頼してくれているのだから。

『呪われた子』、彼女が賢者と魔女の合いの子である件に関しても、ジャンヌは『気にするな』とすら言ったことがない。

それをマイナスに捉えることすらしないのだから。
迫害し笑う者に対して「セレッサのどこが悪い」、「どこがおかしい」と本気で問い詰めるのがジャンヌなのだ。

どこまでも生真面目でバカ正直で、阿呆みたいに義理堅い、アンブラの理想の化身とも言える『正統派』のお嬢様。


『お前がどこまでも走れるよう、私が道を作ってやる―――決して立ち止まるな―――』


『―――何も恐れるな、誰よりも速く、強く、高く―――――――――走り続けろ―――』


ずっと昔のある日、まだ成人する前にジャンヌから告げられたものだ。
将来の長と持て囃されるのを嫌がっていながらも、
こんなことを素面で言ってしまうあたり、まさに長になるべくして生まれた子か。

あれ以来、この言葉がこの身の奥底に染み付いている。

封印され、500年ぶりに目覚めて記憶を全て失っていた際も、この刻み込まれた『本能』だけは残っていた。


ベヨネッタ『―――はんッ!!』

だからだ。
                                        ア ウ ト ロ ー
『私』はただただこうして―――気の向くまま『究極の自由』の中この『道』を突っ走るのだ。


何人も追いつけぬ速さで、何人も侵害できぬ『強き孤独』を構築して。


そうして突き進む―――『最強の魔女道』。

810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:36:08.04 ID:E2jOzdGco

豹は咆哮をあげて、大きく空へ跳ねた。

そして―――再び人の姿に戻っては、身を翻して―――アスタロトの前へ着地。

最強の魔女はそのようにして、
恐怖公から30mほどの大地に豪快かつ優雅に降り立った。



ベヨネッタ『アンブラに「泥を塗り続けて」530年、最後にして「最悪」の「鉄砲玉」――――――ベヨネッタ。よろしく』



飛び散る破片の中、華麗にポーズを決めては改めて自己紹介。

アスタロト『恐怖公アスタロトだ!!先の一撃はお前か!!これはまた素晴らしい!!今日は正に祝うべき日のようだ!!』

ベヨネッタ『そうそう、盛大に祝って。新しい長が誕生したから』

アスタロト『……んん?長だと?…………お前が長では無さそうだな』

ベヨネッタ『……』

どうやら傍から見ても、
どうも自身は長という柄では見えないようだ。

ベヨネッタは無言のまま、後方向こうのジャンヌを親指で指した。
そしてその上で。


ベヨネッタ『ただ、退屈はさせないわよ。単に強さだけなら――――――私が上だから』

811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:38:25.04 ID:E2jOzdGco

アスタロト『ふぅむ…………』

そんなベヨネッタの返答に引っかかったのか、
恐怖公はこれまた意味深に喉を鳴らして。


アスタロト『もしかして………………お前が「闇の左目」か?』


単調直入にそう問いかけた。
これに対しベヨネッタは拒否はせずあっさりと。

ベヨネッタ『あー、これが欲しいの?』

肯定の上の言葉を返した。


ベヨネッタ『そこまで良い物でも無いと思うけど。創造とか……その維持だっけ、そんな感じのを想像してると痛い目みるわよ』


ベヨネッタ『体力バカ喰いするし、汎用性ゼロで使いどころも全然無いし』


―――孤独だし。


アスタロト『一つの事しかできなくとも、その一つが絶対的ではないか』

だがアスタロトは小さく笑っては、愉快そうに言葉を続けた。

ベヨネッタ『これの性質知ってるの?』

アスタロト『もちろんだとも。創世記にジュベレウスのその力を散々見たからな』

アスタロト『お前たち人界に生命が形成される以前から、俺は既に王だったのだぞ』


ベヨネッタ『へえ、年下の魔帝とかスパーダが頂点に上り詰めたのに、まだ「こんなところ」ウロウロしてるの、お疲れ「グランパ」』


アスタロト『…………』


812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:42:04.39 ID:E2jOzdGco

そこで暫し。

アスタロトの声が切れた。
ベヨネッタの言葉に腹が立ったのだろうか、そして再び放たれた声は。


アスタロト『心配しなくても良い。俺も実質、今や連中と同じ領域だからな』


やや語気が強くなっていた。
そこにここぞとばかりに、ベヨネッタは龍騎士の全身に、
わざとらしくジロジロと視線を巡らせて。

ベヨネッタ『ふぅん、私はスパーダの息子たちを「直」で知ってるけど―――』

ベヨネッタ『ついでに言うと、私もその領域なんだけど――――――』


ベヨネッタ『―――ぶっちゃけアンタ、そこまでには見えない』


そして最後に軽く『吹き出し』ながら、そう告げた。
そんな挑発は効果覿面だった。


直後―――凄まじい勢いで振り下ろされるハルバード。


そして強烈な衝撃と激突音。


その瞬間―――火花と共に飛び散っていく『炎と雷』。


ベヨネッタ『―――はッ!!このパワーはかなり良い線行ってると思うけどさッ!!!!』


ベヨネッタはその一振りを、ドゥルガーによって形成されている片手三本爪、
計六本の両手の爪を交差させて受け止めていた。

アスタロト『―――「けど」、何かな?』

そして高まる圧で響く、叫び声のような金属音の中、
彼女は妖艶な吐息混じりに答えて―――。


                            シビレルもの
ベヨネッタ『―――「けど」、やっぱり――――――「 色 気 」が無いッ!!!!』



刃を一気に弾きあげて。

解放状態のウィケッドウィーブ、まずは凄まじい正面蹴りを放った。

813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:44:11.73 ID:E2jOzdGco

絶頂の腕飾り、その効果は単純明快。
魔女の技の限界を容易に超えさせてくれること。

ウィケッドウィーブにしかり魔獣召喚にしかり、発動には常に準備動作が必要になる。
魔獣召喚には舞と詠唱が必要であり、
修練によって簡略化できるウィケッドウィーブもラグは必ず生じてしまう。


つまりマシンガンの如くの本物の連射は性質上、根本的に不可能なのだ。


だがこの絶頂の腕飾りは―――その不可能を突破してしまう。


ベヨネッタ『―――YA-HA!!!!YeeeeeeeeeeeeeeYA!!!!』


直後、アスタロトはその身に―――ウィケッドウィーブの連蹴りを受けた。
巨大な黒き足が宙空から出現しては、まさにマシンガンのごとくその鋭いかかとを叩きこんでいく。

瞬く間にひしゃげ凹んでいくアスタロトの胸、
だが負けじとアスタロトもハルバードを薙ぎ振るうが。

まるでかすりもしない。
最強の魔女はスレスレながら鮮やかにかわし、それどころかかわすたびに更に『加速して』いく。

アスタロトの巨躯が一際強烈な一撃を受けて、大きく吹っ飛ばされ―――かけたところ。


ベヨネッタ『―――YA!!』


ベヨネッタの腕から突如伸びた『ムチ』―――クルセドラがその龍の首に巻きついた。
そして彼女はその身を一気に龍騎士のもとへと引き寄せては。

ベヨネッタ『―――Ho!!Hu!!HA!!!!』

連撃を叩き込み。
最後に上方から、これまた巨大なウィケッドウィーブの腕で叩き落とした。

814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:47:46.66 ID:E2jOzdGco

地面に叩きつけられたアスタロト、いや、
叩きつけられる前から既にその体は弾けていた。

地面に降り注ぐのは肉片の雨。

まるでショットガンのように、凄まじい勢いで落ちてきた破片が大地を穿っていく。
そして回転する巨大なハルバードが激音を奏でては突き刺さり。

その柄の先に、ベヨネッタは優雅に降り立った。

ベヨネッタ『Huuum……』

口の横についた返り血を、妖艶に舌で舐め取りながら。

絶頂の腕飾り、試運転は好調だ。
その効果はこれほどまでの火力を実現しているのだ。

ただそこはもちろん、ベヨネッタの圧倒的な実力あってのもの。

この腕飾りも、他の曰くつきの魔導器と同じく化物染みた『受け皿』が必要になる。
実際に過去、幾人もの高名な魔女がこの腕飾りの起動を試みて命を落とした。

全盛期のアイゼンですら起動には失敗し、手ひどく傷を負ってしまった代物だ。


だがそんな負荷も―――ベヨネッタにとっては良い『酸味』。

若い柑橘系を口にしたかのような、爽やかな『刺激剤』となる。


しかし―――。


ベヨネッタ『…………』

視線の先には今、その心地よさを妨害する『苦味』の種があった。

どこからともなく破片が集まってはみるみる巨大化し――形を整えていく肉塊だ。

815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:49:00.62 ID:E2jOzdGco

ベヨネッタ『…………はぁん……なるほどねぇ』

確実にダメージは通っているのに、アスタロトの魂にはまるで変化が無い。

なるほど、これが『維持』か。
あのジャンヌがあそこまで追い込まれてしまうだけあるか、確かにとんでもなく厄介な、規格外の特性だ。

これは単なる力のゴリ押しではどうにもならない類。
創造や具現といった、『ある程度戦うことは案外容易でも、打ち負かすのは果てしなく困難』なもの。

火力はこちらが勝っているし、アスタロトの攻撃も確かに強いが充分凌げる範囲。
つまりその場その場の戦いではこちらに負ける要素は無い。

しかし。

いくら最強の魔女といえでも、スタミナは無限ではない。
時間勝負に持ち込まれれば、いずれこちらが先に尽きてしまうのだ。


ベヨネッタ『ったく……厄介な…………』

こういったことは、『直線番長』を地で行く彼女はあまり好きではなかった。

決して苦手ではない、むしろ最強の魔女と謳われるにふさわしく、
その知略の面でもこと戦闘に関しては非常に優れている。

そう、優れているのだが。
いかんせんこの性格だ、気が進まないことにはどうしようもない。

それに知略ならもっと上がいるのだから、別に無理してやる必要は無い。

アイゼンの方がずっと頭がキレるし、その魔女王が一目おいて認める―――我らが新『長』がいるのだから。



ジャンヌ『―――待たせたな』



そしてちょうどそんな『長』が、轟音を打ち鳴らして降り立った。
ベヨネッタが立っているハルバード、その地面に突き刺さっている横に。

816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:51:39.19 ID:E2jOzdGco

そのジャンヌの様子は、どう見ても大丈夫と言えるものではなかった。
息は荒く熱を帯びていて、
表情や全身の佇まいにも消耗の色がありありと滲んでいる。

ベヨネッタ『無理してない?ベッドでも召喚して寝ててもいいのよ?それとも長らしく玉座がいいかしら?』

ジャンヌ『そうだ無理してハイになってんだよわかるだろうがいちいち気を散らすなバカ野郎』

だが精神状態は良好のようだ。
発せられた声の調子は、いつもの気が強そうな相変わらずのもの。

その言葉をより乱暴にさせている原因、強烈な憤怒に満ち満ちているのも、先から相変わらずであったが。

ベヨネッタは満足そうに小さく微笑んでは、
再生を続けている肉塊へと目を戻して。

ベヨネッタ『それで、「維持」の「穴」は見つかった?』


ジャンヌ『……「維持」は、機能している間に受けた「痛み」も継続する、と』


ジャンヌ『そうしないと記憶すらできないからなのか、どうやら精神面領域に対しては「維持」の仕方が違うらしい』

ベヨネッタ『ふぅん、それで?』

ジャンヌ『そもそも奴は、苦痛自体そのものが好きだとか』

ベヨネッタ『……で?』

ジャンヌ『最悪のドマゾ変態ゲス野郎だ。お前がまだ清楚な乙女に思えるくらい気色悪いぞ』

ベヨネッタ『あらやだ、私は永遠に乙女でしょ。それで?』

ジャンヌ『つまりだな、先ほど正攻法で挑んだのは間違いだった。今度は逆に、奴の望みをかなえてやろうかと思う』

ベヨネッタ『……?』


新長の意図をいまいち掴めないベヨネッタが、
怪訝な表情で彼女の方へとまた顔を向けた。

ジャンヌはそれに応じるかのように、同じくベヨネッタの顔を見上げては。


ジャンヌ『―――「苦痛に関する悪趣味」さで言えば、アンブラは負けてはいないだろう?』


817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:53:48.51 ID:E2jOzdGco

そのジャンヌの言葉で、ベヨネッタは全て把握した。
そして邪悪にかつどこまでも美しく妖艶に微笑んで。


ベヨネッタ『「あっち路線」で「セめる」わけね、はぁん、良いんじゃない?』


ジャンヌ『お前を見て思いついたんだ』


ベヨネッタ『あらまあ、バカ正直な正当派お嬢様にインスピレーションを差し上げられて光栄ですわ』

ジャンヌ『いいから始めるぞ』


そうしている内に再生は終ったのか、
アスタロトはふたたび一切のダメージの痕跡無く悠然と佇んでいた。


ジャンヌ『よう。先は悪かったな。「無礼」だった』

アスタロト『こちらこそ。まさか「長」だとはね』

ジャンヌ『そう、長だ。その長として、アンブラと古くからの馴染みがあるお前を―――』


ジャンヌ『―――あつく「アンブラ式」でもてなそうと思う』


アスタロト『ほおう。何を見せてくれるのかな?』


相変わらず余裕たっぷりな、そして興味津々なアスタロト。
そんな忌々しき恐怖公に向け、ジャンヌは小さく笑い―――。


ジャンヌ『気に入ると思う―――』


ジャンヌ『――――――きっとな!!!!』


そして一撃、ウィケッドウィーブによる正面蹴りを繰り出した。

818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:56:30.13 ID:E2jOzdGco

その渾身の一蹴りは凄まじいものであった。

いくら長の証によってブースト状態でも、
とても消耗しきっている者の攻撃とは思えないもの。

圧倒的な衝撃ともに、アスタロトの巨躯を大きく後方へと吹っ飛ばしてゆく。


だが。

アスタロト『何だ、同じでは―――』

恐怖公は期待はずれとばかりに、宙を舞う中でそう零した。

同じ打撃だ。
確かに、このジャンヌの火力もさきよりも増してはいるが、同じ。
別に目新しくも何ともない。

良くしみる苦痛ではあるが、これにはもう飽きていたのだ。


―――しかしそう断じてしまうのは少々気が早すぎだった。


なにせ次の瞬間―――アスタロトは未知の苦痛に出会えたのだから。

いままで味わったことの無い、ただ純粋に『苦痛を与えるためだけに生み出された苦痛』に。


直後、恐怖公の体は。


アスタロト『―――』


その巨躯がすっぽりちょうど収まるほどの―――大きな『箱』に叩き込まれてた。

内側に『大量の針』が突き出ている箱に。


そして箱に叩き込まれた瞬間、一気に襲い掛かってくる――――――『許容』を遥かに越える―――。



アスタロト『―――ッお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!』



―――『苦痛』。

819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:58:06.15 ID:E2jOzdGco

―――何なんだこの苦痛は。

ダメージは然したるものではない。
むしろ全く無いに等しい。

だが―――だが痛みだけが、想像を絶するほどに強い。

背中全体に突き刺さる無数の針から、
まるで肉を溶かす液が流れ込んでくるよう。

その地獄の中、彼がふと前の地面を見やると。
斜め前、開かれている『蓋』のところにベヨネッタが立っていた。


アスタロト『―――な―――なんだコレは―――!!!!』


彼が声を荒げてそう問いかけると。



ベヨネッタ『―――人間界式アンブラ風――――――――――――――――――拷問♪』



彼女は素晴らしいくらいに『にこやか』にそう答えて―――蓋を乱暴に蹴り閉めた。


この瞬間、アスタロトはその長き人生の中で初めて―――『愛せない苦痛』があることを知った。



アスタロト『―――がッ!!ぐうううがああああああ!!』

820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 02:00:35.59 ID:E2jOzdGco

『拷問』

その最たる目的は処刑ではない。
ダメージを与えるためのものでもない。

ただ純粋に苦痛を与えるためのものだ。

より長く生かしながら苦しめるため、むしろダメージはできるだけ軽減させる。

それが肉体の損壊で容易に死んでしまう世界で生まれた、『人間界式拷問』。


ジャンヌ『力が制限されてる分――――――こと「悪趣味な発明」に関しては、人間の右に出る種は無いだろうさ』


そんな拷問概念が魔女の技で徹底的に昇華されたとき――――――それは類を見ない程の、魔界にすら存在しないほどの『苦痛』を生み出す。


そして。

ジャンヌの思惑通り、アスタロトはその身を捧げるほど苦痛に『狂って』はいなかった。
悪趣味な性癖持ちではあるが、根は王者に相応しく『まとも』なのである。

まともであるが故に、欲望にブレーキも利くし―――許容限界もちゃんと決めてあるのだ。

これがもし生粋の『苦痛狂』ならば、これでも喜びの声を挙げていただろうし、
アスタロトの『維持』を破る穴にもならなかったはずだ。


そう―――ジャンヌの狙いはそこにあった。


即ち、アスタロトが苦痛の継続に耐えかねて―――『維持』の『機能』を切ってしまうこと。

             アイアンメイデン
ジャンヌ『そいつは「鉄の処女」、使い方と効果はの説明は……いらないな』


優雅に歩きながら近づく彼女の声は、どうやらアスタロトに届いてはいなかった。
今たっぷりと体感中で悲痛な咆哮を放っていたのだから。

だがまだ完全ではない。

アスタロトが腕で堪えているのか、蓋は完全に閉まりきってはいなかった。

821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 02:04:18.57 ID:E2jOzdGco

ベヨネッタ『ほんっと!!パワーだけはあるわね!!』

ベヨネッタが足で強引に押し付けても、なかなか閉まる気配も無い。
それを見たジャンヌがベヨネッタの横に並び、おなじく足をあてがって―――。


ジャンヌ『そう遠慮するな!!「好き」なんだろ!?――――――「苦痛」が!!』


押し込んだ。

長と最強、この二人の魔女の馬力の前には、アスタロト自慢のパワーもまるで通用せず――――――――――――。


アスタロト『―――止せ!!止せェェェ!!』


ベヨネッタ『喚くなエロトカゲ!!さっきの余裕どこいったのさこのタマ無し!!』


さあ―――清算の時間だ。

奢り高ぶった不浄の王よ。

悪魔以上に魔に染まった女達、その怒りを買ってしまった不幸を呪え。
彼女達の魂を奪い貪ったその代価を支払え。


―――その悲鳴で己の鎮魂歌を奏でろ。


覚悟せよ―――これは序章、始まりに過ぎない。


ジャンヌ『―――すぐにイくなよ、お楽しみはこれからだ』



アンブラの復讐はすぐには終らない―――ここからだ。



アスタロト『――――――――――――やめろォォォォォォォォオ!!!!』



アスタロトの叫びなどむなしく。
巨大な『鉄の処女』、その蓋が轟音を伴って完全に閉じた。

―――

823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/09/23(金) 02:09:24.90 ID:W+i0x/rKo
アスタロトざまぁwwww

824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/23(金) 02:14:07.16 ID:qrXizVYDO
今から[ピーー]とか[禁則事項]とかされちゃうのか
うらやまゲフンゲフン、可哀想に…

825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/09/23(金) 02:30:44.88 ID:cKtyNvH9o
あぁ、ゲームでもやたら種類があったっけ、拷問…

835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/25(日) 15:48:09.45 ID:lzIrdJSJ0
すまんがダンテが本気だすと人間界が崩壊するとか悪魔の設定はどこにのってるんだ?

836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/25(日) 16:00:10.98 ID:4iWHDgTPo
>>835
公式設定ではありません。

魔帝が作ったナイトメアが魔界すら破壊するほどの力を持っていた

これはマズイと思った魔帝がナイトメアを隔離

そのナイトメアを破壊して魔帝をも倒したダンテ

といった具合に、各キャラやエピソードを比較して思いっきり都合よく拡大解釈したもので、
あくまでこのSS内でのみの設定となっております。

843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:31:13.87 ID:D1NmHT08o
―――

塔のごとく聳える巨大な箱。

それは人間の知恵と創造性、悪意による発明の一つ―――『鉄の処女』。
死による『破壊』ではない、苦痛の『継続』与えるために生み出された狂気の棺おけ。

そこに魔女の技が組み合わされると、そんな拷問概念が更に昇華する。


注がれた力は攻撃力にではなく―――全て『痛み』に変換されるのだ。

それは魔界や天界などには存在しない『独自の系統』の、かつとことん悪質な『痛み』だ。

特に最強と長、その二人の魔女の莫大な力から生み出された『痛み』に至っては―――


―――魔界の大悪龍からをも『悲鳴』を引き出してしまうほど。


ジャンヌ『―――……』

聳える『鉄の処女』からは、
今にもその蓋が弾けとんでしまうかという程の咆哮が発せられていた。

いや、現実に鉄の処女は大きく歪み始めていた。
暴れる龍騎士のパワーはやはり凄まじく、
強烈な激音を伴ってはまるで泡が沸いてくるかのようにみるみる表面が膨らんでいく。

ベヨネッタ『わぉ、すぐヘタれたかと思ったけど案外耐えるじゃないの』

蓋を足で押さえている二人の魔女、その馬力に関しては問題ないが、
棺おけの側がどう見てももちそうもなかった。

844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:33:01.23 ID:D1NmHT08o

そうしてついに箱の上辺が内側から破れ、
突き出される金色のハルバードの穂先。

アスタロト『―――お前らァアア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』

そしてその穴から放たれる、これまた凄まじい怒号。
その声には、今までの『戯れ』の調子は欠片も無かった。


苦痛とともに満ちているのは―――強烈な憤怒と殺意。


ジャンヌ『―――はッ!』

かなりの苦痛を受けてはいるものの、アスタロトの意志はまだ折れてはいないか。
この鉄の処女ももう限界、そろそろ『次』のために『処分』する時間か。

蝶番が弾け飛んだところで、彼女達は顔を見合わせては小さく頷いたのち。
一気に鉄の処女を駆け上がって、この棺おけを挟むように反対側へと降りるベヨネッタ。

そして。


アスタロト『――――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!』

叫ぶ棺おけに向けて。


ジャンヌ『Shut up―――!!』


両側から―――特大のウィケッドウィーブの蹴りを叩き込む。


ベヨネッタ『―――Bad boy!!』


瞬間、虚空から出現した銀と黒の巨大な足。
それが鐘を叩く撞木の如く、棺おけへと叩き込まれた。

この凄まじい挟撃に耐えられるものなど存在しない。
ましてや、主に『廃棄処分』とされ見放された鉄の処女など尚更だ。


これまた鐘のように響く激音を轟かせて、さながらアルミ缶の如く大きくひしゃげてしまう鉄の処女。


―――そして隙間から噴出するアスタロトの咆哮と体液。

845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:34:18.82 ID:D1NmHT08o

だが棺おけの中から出てきたものはそれだけではなかった。

二人の魔女の蹴りを受けた直後、今度は鉄の処女が爆裂して弾け飛んだ。
内側のアスタロトによる、光の衝撃波によって。

鉄の処女が破壊されその機能が完全に停止した瞬間、
拘束性もなくなってしまったのだ。

そうして自由となったアスタロトは、その傷ついた身が再生するのをも待たずに―――。


アスタロト『―――人間ごときがァァァァァァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッ!!!!』

怒号を発しながら一回転。
猛烈な勢いでハルバードを薙ぎ振るう。


その強烈なパワー、それは今この時最大出力となっていた。

衝撃波が大地を広範囲にわたって剥ぎ取り抉っていき、
剣筋が通った空間は分断され、あらゆる像が歪んでいく。

魔界十強、その名に相応しき絶大な力が、憤怒に後押しされて圧倒的な破壊を撒き散らす。


だが―――。


―――もう遅い。


相手が一人だったうちに、戯れなど捨ててこの剛たる本領を発揮していれば結果は大きく変わっていただろう。

しかし。

史上最強と長、この二人の魔女を同時に相手にしてしまった瞬間―――アスタロトの勝利は消えた。


彼の渾身の一薙ぎは、派手に一帯を破壊しただけ。
標的には両方とも掠りもしていなかった。

彼女達は即座に跳んではあっさりと回避し―――今度はアスタロトの頭部目掛けて―――蹴りの挟撃。

846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:35:50.89 ID:D1NmHT08o

これまた特大のウィケッドウィーブが、槌となりアスタロトの頭部を叩き潰す。
まるで熟れた卵の如く弾け、跡形も無くなる龍騎士の頭。


そして巨体がゆらりとふらめいた一瞬の隙に―――『次』が用意される。


ベヨネッタ『Ha-HA!!』


次の瞬間、アスタロトの身長を越えるかというほどの金色の巨大な壁、
それが二枚、龍騎士を挟み込む形で両側に出現した。

そして下には歯車のついた土台―――。


―――それは巨大な『万力』であった。


そして一瞬のうちに。

けたたましい音を立てては歯車が回り、
アスタロトの巨体を挟み込んでしまった。


アスタロト『―――ぐッッッ!!』

潰されまいと必死に両腕を広げて懸命に堪えようとするも。

ベヨネッタ『―――ふんッ!!』

取っ手を掴み、歯車を豪快に回して行く彼女ベヨネッタによって、
無常にもぎちり、ぎちりと徐々に締まっていく万力。

そうしてこれまた莫大な力が全て痛みに変換され、アスタロトの精神を圧迫していく。

アスタロト『オォォォォ!!―――アスタロト!!俺は―――アスタロトだッ!!!!』

そんな更なる苦痛の中、アスタロトは怒りに満ちた声でそう己が名を叫んだ。
その言葉は、聞いた者には耐え難い畏怖を刻み込むものであろう。

だがそれは下位の者に対してだけ。
対等以上の者には通用するはずも無く。


ジャンヌ『――――――知っているさ』

847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:37:04.05 ID:D1NmHT08o

ジャンヌは冷ややかな調子であっさりとそう答えた。

アスタロト『―――お前らをこの手で叩き潰してやるッ!!!!』


ジャンヌ『潰れるのはお前だ』


煩わしそうな、やや薄めの目つきで見上げながら。

直後、巨大な生木が裂け折れるに似た音を響かせて、
アスタロトの左腕がひしゃげ潰れた。


アスタロト『―――犯し潰し捻り噛み砕いてやる!!!!!!』


龍部位の足も翼もすでに万力に負けてひしゃげてしまっており、
『つっかえ棒』は残るは―――右腕のみ。

それを見たジャンヌがふと思い出したように。


ジャンヌ『ああ、右腕。右腕だ。お前、さっき奪ったよな右腕―――――――――「あの子」から』


その刹那。


アスタロト『―――ッ』


アスタロトの右腕が、肩口から分離して上へと吹っ飛びあがった。

神速で切り上げられたジャンヌの魔刀、
そこから伸びたウィケッドウィーブの刃によって。

そして。


ベヨネッタ『―――HuuumHa!!』


『つっかえ』が無くなった万力は、完全に締め切られた。
今まで押し留められていた緊張が一気に弾け、
万力そのものが砕けてしまうかというほどに凄まじい勢いで。

848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:38:28.53 ID:D1NmHT08o

最早それは『叫び』ですらなく。

アスタロト『ご―――ぐぁ―――』

万力の隙間、そこに詰まっている歪な肉塊から漏れてくるのは、
そんな露混じりの奇怪な『音』。

ベヨネッタ『……』

ジャンヌ『……』

そんな風にして痛みに蝕まれていくのを、
二人は無言のまま暫し、興味深そうに『見守っていた』。

ある小さな変化に気付いたのだ。

アスタロトの空気から、先ほどまでの『緊張』がなくなっている、と。
そこで蓋路は何かに気付いたように再び顔を見合わせて。

ベヨネッタが指を軽く鳴らすとその瞬間、万力がぼろぼろと崩れ去っていった。

そして地に落ち転がる巨大な肉塊。


アスタロト『…………』


その塊は、今までと同じく猛烈な速さで再生を始めていった。
龍、その上にある騎士の上半身、そして左腕とハルバード。

しかし―――。


ジャンヌ『……』

右腕だけは再生する気配が無い。
ジャンヌに切り落とされた右腕だけが。

849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:40:34.56 ID:D1NmHT08o

魔女の拷問器具はその力をほぼ全て痛みに変換するため、ダメージ自体はほとんど大したことが無い。
つまり、何かの特別な力を使わずとも悪魔の基本で瞬時に治癒する。

だが―――許容範囲を超えた力による傷は、簡単には治癒しない。

アスタロトにとっては、ジャンヌが振るった絶大な刃などによるものこそがまさにそれだ。

だが彼には特別な力がある。
『維持』だ。

これさえあれば、自身の許容を遥かに超える力でも―――たとえそれがスパーダの刃であっても、
彼の傷は『無かったこと』になる。

ジャンヌ『……』

しかし―――この時は、その右腕が再生しなかった。


ベヨネッタ『あーら、イっちゃったの』


そう、これが物語るはつまり―――今、『維持』は機能していないということ。


アスタロトから緊張が無くなったのは―――蓄積して維持していた痛みが消えたからだ。

―――刹那。

維持の再起動、その邪魔を防ぐためか。

言葉を発する間すら与えずに即座に左腕を掲げて、怒りを載せたハルバードを振り降ろすアスタロト。

だがその刃には先までの圧倒的なものに比べれば、
パワーも速度も明らかに見劣りしていた。

ジャンヌに落とされた右腕、
そしてそこから魂に受けたダメージはもちろん回復していないのだから。

850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:42:17.21 ID:D1NmHT08o

その振り下ろされた刃をジャンヌは魔刀を掲げて。

ジャンヌ『―――はッ!!随分軽くなったじゃないか!!』

―――意図も簡単に弾きいなす。

そして維持を再起動する隙など与えずに―――横にいる最強の魔女を―――解き放つ。

ジャンヌ『―――セレッサ!!』


ベヨネッタ『―――はぁいドゥルガー!!』

両足にドゥルガーの稲妻を噴出させながら
長の命を受けた最強は弾ける様にして飛び出し。


ベヨネッタ『Hu-Ho-Hu-HA!!―――』


目にも留まらぬ打撃をアスタロトの巨躯に叩き込んでいき―――。



ベヨネッタ『―――――――――キルゴアッ!!!!』



その瞬間、アスタロトは衝撃の中で見た。

               ロケットランチャー
この魔女の足に巨大な『 火 筒 』が出現するのを。
そして彼女はその足を瞬時に引き、『溜め』―――。


―――神速の連続蹴りを放つ。


アスタロト『―――』


その巨大な砲口から放たれる―――無数の『弾頭』を伴って。

851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:46:55.99 ID:D1NmHT08o

ウィケッドウィーブ混じりに乱舞する大量の弾頭。
それも髪を解放し、絶頂の腕飾りを装着した最強の魔女からのもの。

その火力は最早常軌を逸していた。


アスタロト『―――おぉぉぉおおおおおお―――!!』


一瞬にして―――強烈な爆発の嵐に飲み込まれていく悪龍。

維持の加護をなくし、ジャンヌの一斬りを直に受けて手負いの身。
そんな彼には、今やこの壮烈な弾幕に耐える力は残っていなかった。



ベヨネッタ『――――――…………あ…………』

締めとなる一際巨大なウィケッドウィーブを打ち下ろし、
もうもうと立ちこめる炎混じりの粉塵の中に降り立ったとき。

ベヨネッタはそんな、やや間抜けな声を漏らしてしまった。

大地に穿たれた巨大なクレーターの中には、アスタロトの姿が無かったのだ。
いや、『全て』無かったわけではない。

ところどころに龍騎士のものと思われる肉片が散らばっていたのだから。


そしてそんな惨状こそ、彼女のこの間抜けな声の原因。
ベヨネッタは気まずそうな笑みを浮べてジャンヌの方へと振り向いた。

するとジャンヌは呆れたような表情で。

ベヨネッタ『……もしかして私、ヤッちゃった?』

ジャンヌ『……セレッサ……やり過ぎだ』


ベヨネッタ『……ごめん、ノリでつい……』

852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:48:22.71 ID:D1NmHT08o

そう、この魔女はついついアスタロトを殺しにいってしまったのだ。
つい先ほど、長から直々に「殺すな」と命じられていたにも関わらずに。

だが『幸い』にも。

ジャンヌ『いや……まあ……奴はギリギリのところで逃げやがったみたいだがな』

アスタロトは生きていたか。
爆炎の中、ジャンヌの目はこの階層から離脱する龍騎士をはっきりと捉えていたのだ。
それを聞いてけろりとベヨネッタの表情は一変、一切悪びれることも無く。

ベヨネッタ『あら良かった。追う?』

相変わらずの笑みでそう返した。

ジャンヌ『……もちろん。まだ時間もあるしな』

ベヨネッタ『でもアンタはそろそろ休んだほう良いんじゃない?』

ベヨネッタ『この通りアスタロトを追い返したし、そもそもアスタロトの排除は計画に無いし』

ベヨネッタ『「弟」か「ボーヤ」がちゃんと狩るでしょうし』

ベヨネッタ『もし魔界に帰れたとしてもあそこまでボロボロじゃ、どうせ他の十強にすぐ殺されるわよ』

ジャンヌ『…………』

そんな彼女の言葉にジャンヌは無言ではあったが、その疲労が滲む顔は「それも一理あるか」といった表情。

ベヨネッタ『なんなら私がカタをつけてこよっか?』

ジャンヌ『…………いや……時間の許す限り追おう』

だがそれでもジャンヌは首を振りそう告げた。


ジャンヌ『奴の首は、魔女の刃で刎ねねばならない』


ベヨネッタ『じゃあ私でも良いじゃん』

ジャンヌ『セレッサ、お前は雑なんだよ。あれじゃ一瞬だろうが。あれじゃダメだ』


ジャンヌ『奴の喉下に刃を付けて焦らし、魔女に喧嘩売った事をとことん後悔させ自覚させた上で―――刎ねて――』


ジャンヌ『魔女の意志に焼かれる中、ゆっくりと己の魂の崩壊を味わってもらう』


ベヨネッタ『………………おー怖い怖い』


―――


853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:51:41.21 ID:D1NmHT08o
―――

魔界の覇権を握るには、ただ強く剛毅なだけではダメだ。
確かに大胆さが必要ではあるが、一方で徹底した慎重さも必要となる。

ジュベレウスも魔帝もスパーダも覇王も、
その力に過信せずに徹底した慎重さを持ち合わせていた。

それらの存在のような、覇道を駆け上がる前から既に完全な存在だったわけではない『彼』にとって、
そんな慎重さは尚更重要となる。

維持を開花させたのだってつい先日、人間界時間にして300年ほど前。
今の座に到達してかなりの年月が経ってからだ。

そう、確かに圧倒的では合ったが、決して無敵なんかではない。
故にある程度保身的でなければ覇王の側近、そして十強の座までは昇ることなど不可能なのだ。

つまりそれを成し遂げた彼、アスタロトも狂ってなんかいない。
狂気に満ちているも、それが行動の指針ではない。


大胆ではあるが―――無謀ではない。


アスタロト『―――ッはッぐ……!!』


彼もまた慎重に慎重を重ねて、
生き長らえるための保険は常に『複数』用意していた。

あらゆる状況に備えて、逃走手段の確保はいつどこにいても欠かせないものだ。
魔帝ですら完膚なきまで叩きのめされる、スパーダの力を受け継ぐ者が三人もいる時代なのだから。

854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:56:58.44 ID:D1NmHT08o


そうした予め用意していた逃走ルートを抜けて、
アスタロトはプルガトリオの別階層に落ち延びていた。

アスタロト『…………かッ…………』

酷く傷付いたその巨体を引き摺りながら、
アスタロトは自身の状態を素早く分析していく。

『維持』の再起動は、力の消耗激しく現時点では不可能。
再起動には力をある程度の水準まで回復させるしかない。

アスタロト『…………』

その回復については、魔界の根城に戻ればかなり早く済む。

しかし現状、単独で魔界に戻るのは非常に危険であった。
こんな満身創痍の状態で戻ってしまったら、まず他の十強が動き出すからだ。

自分自身、他の十強の立場だったら必ずそうするのだから、まず間違いない。

だからと言って、いつまでもプルガトリオに潜伏などしていられない。
それも選択肢の一つではあるのだが、あの魔女達による追跡のリスクを考えると戻った方が好ましい。

だが、単身で戻るのも無謀。
そこで彼は護衛の将を伴うことにし。

アスタロト『―――おい!!サルガタナス!!』

ダンテ討伐には加わっていないその側近の名を呼ぶも。

反応は無し。

アスタロト『おい!!誰も聞えないのか?!』

サルガタナスだけではなく、
他の将にも届くように意識を広げるが―――それでも声は返ってこなかった。


855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:58:40.20 ID:D1NmHT08o

だが―――。

暫しそう呼びかけ続けていたところであった。


『―――大公』


アスタロト『―――聞えたか!!』


一つ、確かな声が返って来た。
それは間違いなく臣下の将の一柱、あの『魔狼』のものであった。

『そんなところにおりましたか』

アスタロト『―――至急俺のところに来いッ!』


『我も今ちょうど、大公の下に行こうと思っていましてな。今そちらに』


アスタロト『―――急げ!!「カール」!!』


だが焦燥していた彼は気付いていなかった。

その愛称で呼んだ相手―――グラシャラボラスの主は、今や己ではなかったことに。


アスタロトのすぐ前に浮かび上がる魔方陣。
そこから飛び出してきたのはグラシャラボラス―――


いや、正確にはグラシャラボラスを従えた――――――『破壊』。



『――――――――――――――――――――――――見つけたぜ』



スパーダを構えた―――スパーダの孫だった。

アスタロト『―――』

856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 01:01:17.07 ID:D1NmHT08o

咄嗟に左腕のハルバードを構えるも―――消耗しきったその身では、
魔剣スパーダの刃を防ぐことなど到底できず。


その破壊の刃は金色のハルバードを、一切の抵抗無く分断し―――そのまま龍騎士の左腕を斬り飛ばしていった。


アスタロト『―――おおおおおお!!』

勢いで吹っ飛び、
そのアスタロトの巨体が倒れては強く地面に打ち付けられた。

ネロ「……あぁ?お前ボッロボロじゃねえか」

そんな彼の無残な姿に斬ってから気付いたらしく。
魔人化を解いて不機嫌そうにそんな声を漏らすネロ。

ネロ「どうなってやがる?お前の軍団にも大悪魔が一体もいねえ」


アスタロト『―――グラシャラボラス―――お前!!』


だがアスタロトはネロの言葉ではなく、
まずは彼の左腕に嵌められている魔具―――グラシャラボラスへ向けて声を放った。


アスタロト『―――反逆か!!しかもスパーダの血へ従うとは!!』


グラ『ふっふふは、すまぬ大公。だがこれも魔道よ、スパーダの血筋、その力はなんとも素晴らしいものだ』


そのようにして無視されていることに業を煮やしたのか。
ネロがアスタロトに近づいては、足で踏みつけるようにして乱暴に小突き。


ネロ「―――おい俺の質問に答えろ。なぜ死にかけてやがる?ダンテにやられたのか?」

857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 01:02:34.29 ID:D1NmHT08o


アスタロト『―――は―――はは、死にかけている、確かに俺は死にかけているな』


だがネロの質問には答えず。
アスタロトは彼の言葉を確認するように繰り返しては。

その巨体の形を瞬時に変えて―――人の身、美しい人間の姿へとなって不気味に笑った。


アスタロト『は―――ははは―――』

鱗剥げ肉落ち骨砕けているその傷塗れの姿を隠そうとしたのか。
右腕は肩から、左腕は肘先から無くなっていたのは相変わらずであったが。

それとも人の姿になることで、ネロの心に何かを訴えて隙でも作ろうとしたのか。

どちらにせよ、彼が姿を変じたところで。

ネロ「さっさと答えろ」

このネロに隙など生まれなかった。
彼の示した反応は僅かに目を細めたに過ぎなかった。

アスタロト『…………』

逃走手段は常に『複数』用意している。
今この瞬間も、ここから離脱する手はいくつも控えている。


だが―――隙が生じなければどうしようもないのだ。


こうして静かに、こちらの一挙一動をスパーダの孫が見据えている以上、
飛ぶための僅かな作業ですら行えない。

その気配を少しでも見せてしまったら―――次の瞬間、あの破滅的な刃がこの身を斬り飛ばしてしまうのだろうから。

858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 01:05:44.97 ID:D1NmHT08o

だが。

ネロ「答える気は無いか。じゃあ―――」

その時だった。
ここでアスタロトに運命が微笑んだ。

ネロが魔剣スパーダを握る手に力を篭め、そして掲げようとした―――直後。

ネロ「―――」


背後から響いた金属の激音。
それは『四つの銃口』が大地に衝突したためのものであった。

その覚えのある異質な気配に、ネロが即座に振り向くと。


そこには二人の魔女が立っていた。


ジャンヌ『―――』


ベヨネッタ『―――』


ネロ『―――あんたらは……』


さすがに彼らと言えども、
この予想外の大物登場に互いに驚いてしまうもの。

いや、彼ら同士だからこそ、今この時間この場における遭遇がその意味をより強めるのだ。


そしてその一瞬こそ―――アスタロトにとって運命が微笑んだ瞬間。


―――ただ、正確には。

その運命の采配は実質―――悪魔の微笑みだった。


何せ次に飛んだ先こそ―――彼の終焉の地となったのだから。


859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 01:09:12.41 ID:D1NmHT08o

いや、そもそも彼は、
『その地』に足を踏み入れるかどうかは中を確認してからのつもりであった。


ネビロス率いる臣下団とダンテ、その戦いの結果を、だ。


ネビロスどころか誰一人声に応じないところをみると、
結果は最悪なものになったのかもしれない。

しかし絶対にそうとも言い切れない。
兎にも角にも大悪魔の護衛を必要としている今、
彼はあの階層を覗いてはっきり確認したかったのだ。

それに覗くだけならば、中の者達からはそうそう感付かれもしない。
臣下団が敗北していたのならばさっさと離れて、仕方が無いが逃走に徹するだけだ。

―――と、そう考えていたのだが。


アスタロト『―――』

彼はこれまた知らなかった。

あの階層の境界には彼が蔑む人間、
その人の手業で創られた『周到な罠』が張り巡らされていたのだから。


アスタロト『―――ッ』

飛んだ直後、突然その身を走る『奇妙』な痛み。
そして一瞬にして。

抵抗することすらできず、彼の体はその階層へと一気に引き釣り落とされていった。

落下し、人間界を映し出した街の地面に打ちつけられる体。
その身はまるで縛されているかのように全く自由がきかず。

アスタロト『―――ぐっ―――』

自身の状態を確かめようと、
なんとか意識を自身に向けてみると、その体には無数の黒い杭が突き刺さっていた。
表面に、人間界式の文字や文様が所狭しと刻まれている大きな杭が―――。

860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 01:12:50.97 ID:D1NmHT08o

アスタロト『なっ―――』


ただこれだけでは、己の身に何が起こったのかまるで理解できない。
次いで彼は、すぐ近くの複数の気配に気付きそちらへと順に意識を向けていった。

一人目は近くの建物の上から不思議そうにこちらを見下ろしている、赤き衣を纏ったスパーダの息子。

二人目は前方にあぐらをかいて座しながら、目を丸くしている人間のメス。


そして三人目は、その座っている人間の横に立っていた、これまた人間の―――。


―――――――――その三人目の人間の瞳を見てしまった瞬間、アスタロトは凍りついた。


アスタロト『―――』

己の行く末、己の結末に気付いてしまって。

今回の『魔女狩り』に際し、『戯れ』ではなく最初から一撃必殺の心で向かっていれば、
結果はまた変わっていたのかもしれない。

それ以前に『魔女狩り』に動かなければ―――いや。

そもそもあの『人間のメス』に会っていなければ、『魔女狩り』なんて選択肢すら無かった。

そう、あの『人間のメス』。


成人しているどころか魔女ですら無いにもかかわらず―――成人用の魔女の槍を持ち―――。


『今』、『ここで』―――計り知れない『怒り』に満ちた眼差しで、こちらを見ている―――


―――『あの小娘』にさえ遭遇しなければ―――。


アスタロト『お前……―――』


こうして彼は『舞い戻ってしまった』。
何もかもをひっぺ剥がされては縛されて、さながら執行準備整った―――死刑囚の如く。

矮小だと、彼がとことん蔑んだ人間の少女。


そんな彼女こそ、アスタロトのこの『最期の災難』の『始まり』であり。


――――――真の『終点』だった。


―――

862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/09/27(火) 01:17:18.31 ID:A6GlWORco
逃げ場無いやん…

863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/27(火) 01:32:38.63 ID:9kLTmjYDO
ルーラ→モンスターハウスだ!状態だな


ダンテ「学園都市か」7(学園都市編)




posted by JOY at 02:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 禁書クロスSS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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