2012年03月24日

ダンテ「学園都市か」8(学園都市編)

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/14(金) 18:04:17.19 ID:Frj+rhn1o
「デビルメイクライ(+ベヨネッタ)」シリーズと「とある魔術の禁書目録」のクロスです。

○大まかな流れ

本編 対魔帝編

外伝 対アリウス&ロリルシア編

上条覚醒編

上条修業編

勃発・瓦解編

準備と休息編

デュマーリ島編

学園都市編(デュマーリ島編の裏パート)←今ここの終盤(スレ建て時)

創世と終焉編(三章構成)

ラストエピローグ


2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/14(金) 18:04:44.98 ID:Frj+rhn1o
―――注意事項及び補足―――

※当SSはかなりかなり長いです。

※基本シリアスです。

※本編後のおまけシリーズはパラレルとなっており、外伝以降の本筋ストーリーとは全く関係ありません。

※DMC(ベヨネッタ)勢は、ゲーム内の強さよりも設定上の強さを参考にしたため絶賛パワーインフレ中。
それに伴い禁書キャラの一部もハイパー状態です。

※妄想オリ設定がかなり入ります。
ダンテ・バージル・ネロを始めとする各キャラ達の生い立ちや力関係、
幻想殺し等『能力』や『魔術』等の仕組み・正体などは、多分にオリジナル設定が含まれます。

また、世界観はほぼ別物となっております。

※禁書側の時間軸でイギリスクーデター直後(原作18巻)、DMC側の時間軸は4の数年後から始まっています。
ネロは20代前半、ダンテとバージルは40代目前、ルシアの身体成長度は10歳前後となっております。

※また、クロス以降の展開は双方の原作に沿わないものとなります。
その関係上、禁書原作21巻以降に明かされた諸設定は基本的に適用されてません。
ただ例外として、天使の姿・攻撃技等は反映させて頂く場合があります。
(ベヨネッタと禁書の天使の、配色・デザインの系統がそれなりに似ている感じなので)

※投下速度は大体週二回〜三回、週50レス以上を目標としています。

※主なカップリングは上条×禁書、ネロ×キリエ(これ当然)となっております。

――――――――――――――

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/14(金) 22:36:29.21 ID:qdb2lUKvo
新スレ乙です。あ、すっげぇ今更ながらネロのDT状態について少し。
成人式した後、姿形の描写はスパーダ持ったネロ・アンジェロってなってましたが、プルガトリオ大暴れなうでもそのままですか?
個人的にはアンジェロ7:スパーダ2程度のハイブリッドを妄想してるんですけども。

6 : ◆tSIkT/4rTL3o [sage]:2011/10/15(土) 00:55:37.94 ID:nGwYW+74o
>>3
必要性は今まで特に感じませんでしたが、
良い機会ですのでとりあえず何かあった時のためにと作っておきます。

>>5
全体はネロアンジェロそっくりですが、
細部はかなり魔剣スパーダの影響も受けているイメージですので、まさにその7:2という具合です。
ちなみにデュマーリ島決戦後の『最強の人間』になった今は、魔人化しても本質たる真の姿ということで人の姿のままです。


7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 00:56:23.96 ID:nGwYW+74o

―――

一方「要はオマエ、ダンテの仲間だったのかよ」

学園都市の一画。
魔の冷気に変わり、冬の冷気に支配されている瓦礫の原の中。

瓦礫の上に腰を下ろしている一方通行が、白い吐息と共にそう言葉を返した。
正面は伏せっている三頭の巨狼、ケルベロスに向けて。

ケルベロス『うむ。人界時間にして20年来の友だ』

対する巨狼、その口から漏れるは青みかかった吐息。
伏せっているにも関わらず、高さ3mの位置にある大きな牙の隙間からは、
魔界の冷気が漏れ出していた。

一方「…………」

あの獅子を葬ってから、『守り番』としてここに留まって数十分。

あれから学園都市内では騒動は起きていないが、
ケルベロスの話によるとデュマーリ島やヨーロッパ・ロシアの他にも、
異界で複数の戦いが同時進行しているとのことだ。

一方「……これからどォなるンだ?天界とやらは?」

ケルベロス『我にもわからぬ』

一方「…………チッ。」

ケルベロスのその言葉からも伺える通り、
今や想像を遥かに超えるスケールの騒乱が起きているのは確実か。

8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 00:58:22.27 ID:nGwYW+74o

となると、こうしてただ黙って受身に甘んじていることなどできない。
一方通行は立ち上がると、
能力を起動した状態の手で己の上着そしてポケットをまさぐった。

しかし落としてしまったのか、それとも持ってきてすらいなかったのか。
目当てのモノは見つからなかった。

ケルベロス『……探し物か?』

一方「あァ。すぐ戻る」

そうして少し思案気に佇んでは巨狼に一瞥し、一跳び。

砲弾のように一気に飛翔し、彼が降り立ったその先。
そこは先ほど、一人の少女を保護したあのジャッジメント支部であった。

上階が吹き飛んでいるその支部の中、彼は視線を静かに巡らせて。
瓦礫の中から倒れ転がっている堅牢なロッカーを見出しては、ねじ切るようにして開けていく。

そうやって三つ目を開けた時、
彼はようやくそこに目当てのモノを見つけた。

このようなところには必ず、予備の携帯やら通信機が複数置かれているものだ。

ロッカーの中には官製とも言えるか、ジャッジメント備品の通信機がいくつも入っていた。

その一つをこれまた握り潰さないよう、
能力で充分に制御している手で掴みあげて。


一方「おィ。聞えてンだろ」

電源を入れてすぐさま、チャンネル設定もせずにまず声を放った。

9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 00:59:22.92 ID:nGwYW+74o

普通ならばもちろん、これに声など返って来るはずが無い。
ただ一方通行は、アレイスターやその下にいる者達が常に己を監視しているのを知っていた。
そして向こうも今となってはそれを特に隠そうともしていない。

『―――用件は?』

案の定、通信機から響いてきた事務的な男の声。
特に一方通行は驚きもせず。

一方「……シスターズに預けたあのガキはどォなった?」

まずは先ほどここで保護した少女の件を問うた。

『10032号と19090号が芳川桔梗のシェルターに届けた』

一方「…………」

芳川、そして打ち止めがいる第一学区地下深部のシェルターか。
一般のシェルターは既に封鎖済みであることも考えると、当然の判断になるか。

それに他のシェルターに比べればずっとマシな所だ。

確かに悪魔相手に『安全』と呼べる地など存在しない。

しかしあそこは、恐らく垣根帝督の脳といった、
アレイスターの『私物』も納められている不可侵の領域であるのだから
少なくとも学園都市内では最も生存率が高い場所なのだ。

それを聞いた一方通行、
安堵の意を篭めて小さく目を細めては、次なる問いを向けた。

一方「……デュマーリ島は?」 

『デュマーリ島における作戦は成功した』

10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:02:09.35 ID:nGwYW+74o

これもまたあっさりと答えは返って来た。

一方「……」

こうもすんなり喜ばしい答えが返って来るとは思っていなかった一方通行、
今度は少々不意を突かれた形で再び目を細め。

一方「成功、か。どの程度に?」

『少し待て』

そうしてまた返って来た言葉も、少し意外なものであった。

『土御門元春と繋げられるが、直接聞くか?』

一方「―――……あァ。頼む」

直接聞けるに越した事は無い。
少なくともアレイスター側のフィルターが通っていないだけマシと言うものだ。

そして少しのノイズ音ののち。


土御門『―――アクセラレータか』


聞きなれた男の声が響いてきた。

11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:03:38.83 ID:nGwYW+74o

向こうでは航空機が複数飛んでいるのか、けたたましい音が響いてくる。

一方「よォ。生きてたか。上手くいったみたいだな」

土御門『まあな。厳しかったことに変わりないが、終ってみれば当初の想定よりもずっと上出来な結果だったぜい』

歯切れがよく快活であるも、どこか冷ややかで心読めぬ声。
相変わらずのそんな土御門の声も、『普段どおり』目的は達されたことを示していた。

一方「アリウスとやらはどォなった?」

土御門『アリウスはネロが潰してくれたよ』

一方「おォ、つゥことは天界が開くこともねェのか?」

土御門『それについてなんだがな……』

と、そこで土御門の声に少し『詰まり』が生じた。
これもまた一方通行にとっては聞きなれた詰まり方。
想定していなかった事案、結果になった時には、土御門はいつもこのような声色になるのだ。


土御門『天の門は開く。あと魔界の門も開く』


一方「―――はァ?」


そして土御門にとって想定外となれば、
そちら側には疎い一方通行にとって―――まさに予想だにしない、
その意味を正確に理解することさえ難しいことであった。

一方「おィ……どォいうことだ?魔界のモンってなンだよ?」

土御門『俺も良くはわからない』

土御門『だがダンテには何か考えがあるらしい。ネロからもそう頼まれたんだ』

一方「……で、オマエはろくに知らねェままホイホイ応じたわけか」


土御門『―――そうだ』

と、ここで即答した土御門の声は再び、確かな自信を帯びたものに変わった。
他にどうしろと、お前もこの立場なら同じ判断をするだろ、と暗に向けてくるように。

12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:04:58.89 ID:nGwYW+74o

一方「……ハッ」

そしてその点については、一方通行も大いに同意する。
ダンテやネロの指示を拒否できるわけも無い。

己程度の考えよりも、彼ら言葉の方が遥かに信頼に足るものだ。

土御門『だから状況は終ってはいない。そっちも充分に警戒しててくれ』

一方『あァ。わかってる』

ケルベロスから聞いた言葉、それから推測できる状況を今一度確認しながら、
一方通行は頷いた。

そして。


一方「そっちの女帝サマにもよろしく伝えておけ」


そう何気なく続けるも、その返された―――


土御門『ああ、そのことなんだがな―――』


―――この土御門にしても異常なまでに冷え切った声は。




土御門『――――――麦野は死んだよ』




一方『―――……………………………………』


それは、まさに矢に頭を射抜かれたかのような鋭い響きを有していた。


13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:06:35.65 ID:nGwYW+74o


―――麦野沈利。


彼女とは親しかったどころか、
その性格を知るほどの時間を過ごしたわけでもない。

ここ一週間、少し関わっただけの女。

あの女が死のうが、それを知って鼓動が早まることも体が火照ることも、
目頭が熱くなるなんてことも実際にこの通り無い。


だが―――ただ一つ。



一方「………………………………」



―――ぽっかりと。


この胸から、この心から大切な『何か』が抜け落ちていくような気がした。
『ソレ』じゃなければ絶対に埋められない穴から。

瞬間、一方通行は外界からの情報を途絶してしまった。

続く土御門の声が聞えるが、その言葉の意味も思考に反映されてこない。
声どころか冬風が抜ける音も、目に見える崩れた学園都市の街並みも。

その理由は、彼の意識が全て内側に向いていたからだ。


―――鮮やかに蘇るあの女の姿、声、表情に。


緩やかな髪を翻してエプロンに向かっていく、最後に目にした彼女の後姿に。

昨晩、酒の席で見せた彼女の表情、そして口にした―――


―――『生きたい』という言葉に。

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:07:56.53 ID:nGwYW+74o

土御門『―――レータ。アクセラレータ。聞いてるか?』

一方「…………」

変わらぬ、感情が完全に廃された土御門の平坦な声。
それがようやく意味を有して浸透してきたのは十数秒後のことであった。

一方通行は、返すための言葉を探すかのように声無く口を動かして。

一方「……………………どォ……やって死んだ?」

何とか繋ぐ『返し』を見つけて、
ぎこちなく絞り出す。


土御門『大悪魔と相打ちだ。最期はアイテムの元部下達が看取った』


一方「……………………そォか。そいつは…………」

そしてそのことについて一言何かを言おうとするも。


一方「……………………」


今度こそ言葉が出なかった。

脳裏にはっきりと浮かぶあの女の姿、
その彼女にどんな言葉を向ければいいのか、それがまるでわからなかったのだ。

まるで舌が抜かれてしまったよう。

一方通行はこんな心模様に相応しき言葉を、
彼女の姿に手向けるべき言霊を―――『知らなかった』。

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:09:27.41 ID:nGwYW+74o

土御門『…………』

一方「……………………」

沈黙は十秒近く続いた。
彼の言葉を邪魔しないよう、素直に待っているのか、
それとも電話越しの空気から彼の心情を察しているのか。

土御門も一言も返しては来なかった。


そうした沈黙の後、ようやく動いた一方通行の口。


一方「…………………………………………オマエ等が戻るのは?」


懸命に言葉を捜したその口から出てきたのは、
話を変えてしまう別の問いだった。

彼は結局、相応しき言霊を見出せず。
彼女には一言も発せられなかった。


土御門『…………超音速機を手配できれば……そうだな、三時間以内には』


一方「…………そォか。気をつけてな」

土御門『ああ。そっちも頼んだぞ』

一方通行の口から響いた素直に気遣う言葉。
普段ならば驚いたであろうその返しだが、この時ばかりは土御門も特に反応を示さず。

土御門『…………じゃあな』

そして静かに通信は終了した。

一方通行「…………」

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:11:05.62 ID:nGwYW+74o

通信機を無造作に上着のポケットに突っ込むと、
一方通行は来た時と同じく跳躍し、ケルベロスの近くへと降り立った。

そして座っていた瓦礫へと歩んでいく。

その間も脳裏に蘇るあの女の姿を見つめながら。

一方「……」

あんな表情で『生きたい』と言ったあの女は、
一体どんな表情で逝ってしまったのだろうか。

あんな表情で『生きたい』と言ったあの女は、
一体最期に何を思ったのか。

あんな表情で『生きたい』と言ったあの女は一体―――どんな気持ちでそう口にしたのだろうか。


あの女の鋭くも透き通る瞳に、この世界は一体―――どのように映っていたのだろうか。


結局何もかも、わからずじまいであった。


一方「…………」


―――知りたかったのに。


―――『麦野沈利』をもっと知りたかったに。

17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:13:05.56 ID:nGwYW+74o

一方「―――――――――……ッ……!!カッ……!!クソッ…………」


―――とその時だった。

そこまで思い至った瞬間、彼は突然その場にどかりと腰を下ろして、
悪態を天に吐き出した。


彼は気付いてしまったのだ。


この己が今抱いている『感情』の正体に―――『痛み』の原因に気付いてしまった。


性格上、それは絶対に認めたくない事実であったが、
一方で聡明な思考がはっきりと確信してしまっていた。

己はあの女に対して、
『興味』と言えるものよりも更に強い感情を抱いてしまっていたのだ、と。


少し―――。


そして生まれて初めて―――『魅せられていた』のかもしれない。


初めて出会った、共感できる『同類』に。

そして同類でありながら、己とは違い『生きたい』と愚かしいくらいに堂々言えるあんな女に。
その言葉の原動力となった、己には無い『モノ』を持っていた彼女に。


底なしに罪深く、愚かしいまでに強く、
忌々しいほどに美しく、そして途方も無く『わがまま』な――――――麦野沈利に。

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:15:21.82 ID:nGwYW+74o

ケルベロス『…………大切な者を失ったか』

天を仰ぎ白い吐息を吐き出していると、
その様子から敏感に悟ったのか、魔狼がぶっきら棒に声を放ってきた。

一方「…………………………そンなご大層なもンじゃねェよ……」

彼は表情も視線も変えぬまま。


一方「……ただ……………………『約束』をすっぽかされただけだ」


静かにそう返す。

不思議な事に、胸痛むのに居心地は特に悪くも無かった。
むしろ妙に暖かい。

一寸先の未来も定かではないこの状況の中で今、
あの女が占有しそして奪っていった領域が、まるで一時のオアシスのように機能している。

一方「…………カカッ」

その己の精神状態を冷静に分析して彼は小さく笑った。
全く大した女だ、と。

このイカレて壊れてしまった『クソ野郎』に、誰かの死をここまで見つめさせるなど。
妹達への行いに対する『己』の行い、それに向ける『憤怒』ではなく――――――


―――『他者』に向ける純粋な『悲嘆』を人並みに抱かせるなんて。


たった一週間の記憶だけで、ここまでこの『腐り果てたクズ』に『静けさ』を与えるなんて。
ただ、そのように居心地が良い一方、それはそれはたまらなく癪で。


一方「…………クソアマが…………」


そして―――なんと言えばいいのか――――――寂しかった。


せめてもの弔いだ。

しばらくあの女の姿に浸ろう。
すぐ先にあるかもしれない次なる困難まで。

鼻腔を抜けて肺を満たす冬の冷気。
夜も更けてより一層冷えてきたのか、文字通り骨身に凍みる鋭さを帯びてきていた。

―――


19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:16:41.44 ID:nGwYW+74o
―――

プルガトリオ。
学園都市を映すとある階層にて。

レディやネロが離れていった後も、ダンテはその階層に一人。
いや、今や友であるアグニ・ルドラと共に残り続けていた。

双子の兄弟はその巨躯を解き放ち、調子を確かめるように大通りでゆっくりと演舞を行っており。

そんな彼らを見下ろす位置、ダンテは適当なビルの屋上に半ば寝そべるように座し、
片目閉じてはリベリオンの刃を検分してた。

ダンテ「―――それで調子はどうだ?」

そしてその傍ら、手首に装着されている拳銃へと声を放つ。

トリッシュ『ええ最悪。特に変わらないわ』

返って来るのは、ネヴァンと共に事務所にいるであろう相棒の声。
ダンテが見聞き感じることをそのまま受け取っている彼女は。

トリッシュ『それにしても。さすがのその剣でも、結構堪えたみたいね』

リベリオンを『見て』そう告げてきた。
100柱斬りを行ったこの魔剣、その白銀の刃はところどころ欠けていたのだ。

それを聞いてこんっ、と軽く魔剣を叩いたダンテ。

ダンテ「なあに。あと5分もすりゃ元通りさ」


ダンテ「それどころか、『こいつ』はまだ足らなねえらしいぜ?困ったもんだ」


はっ、と小さく肩を竦めながらそう返した。
あたかも自分のせいではないとでも言うように。

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:18:58.11 ID:nGwYW+74o

そんな変わらぬ調子の彼に、
トリッシュは呆れがちに息をついて。

トリッシュ『それは主もそうだからでしょ全く……飽きないわねあなたも』


ダンテ「トリッシュさんよ、わかってるんだぜ。お前も楽しんでたろ?お前からの視線、ギンギンだったぞ」


トリッシュ『……ふふ、まあね。スカッとしたわ』

そして笑った。
少し疲労と―――『陰』を滲ませながら。

と、その時だった。


ロダン『―――ダンテ』

虚空から響くのは、先ほどネロと合流したらしいロダンからのもの。
ダンテはリベリオンを脇に突きたてては天を仰ぎ見て。

ダンテ「お、もう終ったか。向こうはどうだった?」

ロダン『こちらの期待通りの結果だ。ネロは良くやってくれたぞ。学園都市の連中もだ』

ダンテ「ハッ!そいつは良かった!」


ロダン『だがちょっとばかし……いやかなり信じられねえことがあった』


と、そう喜ばしい報告も束の間。
突然ロダンが声を曇らせた。

ダンテ「ん?」

そして彼は一言一言確かめるようにゆっくりと。


ロダン『……ネロがな…………―――魔剣スパーダをへし折りやがったんだよ』


まるで親の機嫌を見る子供のように、恐る恐るといった具合でそう告げた。
一方、対するダンテの返答は。


ダンテ「―――へぇ。どうやって?」


これまた、不気味なまでにあっさりとしたもの。

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:20:30.30 ID:nGwYW+74o

ロダン『―――ッ……!!』

そんな変わらぬダンテの調子に、
さすがのロダンも驚いてしまったのか暫し声を詰まらせて。


ロダン『魔剣スパーダを奪ったアリウスごと、レッドクイーンと言ったか、あの自分の剣で叩き斬っちまった』


これまたゆっくりと確かに告げると。
それを聞いたダンテ、今度は―――不敵に笑った。

ニヤリと、目を細めて声を漏らさずに。


彼はこの簡単な説明だけで理解したのだ。


ネロが示した―――『答え』を。


あの青年が突きつけた意志はまさに見事なものだ。
彼は『予定された英雄』になることを真っ向から拒否したのだ。


ダンテ「―――上出来だ。ネロ」


そんなあの青年を称えて。
彼は静かながらも、良く響く声でそう呟いた。


ロダン『―――おいおい、いいのか?どういうことだ?どうなってる?』

ネロが折るという行為、いや、
そもそもスパーダが折れてしまうということすら信じられぬ様子のロダンだが。

ダンテ「なぁに構いやしねえ。あいつの剣だ。あいつがどうしようが別に良いだろ。気にするな」

ロダン『……お前さんがそう言うのなら…………まあ…………良しとするか』

へらへらと笑いつつも『強引』なダンテに彼は屈してしまった。
明らかに納得していない様子であったが。

22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:23:09.53 ID:nGwYW+74o

そうしてとりあえずと、ロダンは話を換えて。

ロダン『……今の各界の状況だ』

ロダン『まあ予想は出来ていたんだが、魔界の口が開いたのを知ってやすぐ―――残りの十強が休戦協定を結びやがった』

ダンテ「へえ」


ロダン『明らかに侵攻のために急ピッチで体制を整え始めてる。特にベルゼブブとコロンゾン』


ロダン『この二柱は前から人間界にかなり興味持ってやがったからな、確実に来るぞ。全軍を率いて』

ロダン『更に内戦に消極的だった他の諸王共も動きを見せてやがる』

ロダン『そして天界では既に。ジュベレウス派の出撃準備は整っている』


そこでロダンは一度区切る形で間に沈黙を挟み。
強調してはっきりと。


ロダン『ダンテ。始まるぞ』


秒読み段階にまで迫った全面戦争を確認した。


ダンテ「―――ああ、いよいよな」


それ以上、今交わす言葉は無かった。
この最後の確認すら本来は無用、互いに理解していることなのだ。
二人とも、己がこれから何をすればいいのか十二分に把握しているのだから。

ダンテ「……」

ロダン『……』

そうしてこれで無言のまま、会話の糸は切断された。

23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:26:36.44 ID:nGwYW+74o

その後。


トリッシュ『―――ねえ』


ネロの件を聞いても沈黙を守っていたトリッシュが声を向けてきた。


トリッシュ『―――「どこ」まで行くつもりなの?あなたは』


ダンテの不敵な笑みの遥か下。
決して表に出さない、何人にも明かさぬ深層で一体何を考えているのか。

それを今唯一見ている『他者』、トリッシュのそんな問い。


ダンテ「『どこ』までもさ」


ダンテはこれまた包み隠さず、思ったとおりに素直に応えた。
声とともにその思考もまた直で送りつけて。


トリッシュ『……そう』


そうした赤裸々な返答に、相棒は示すは。
明らかに『不服』ながらも、一方で申し立てる気も無い反応―――。

それを知りながら、ダンテは平然と言葉を続けていく。
普段の調子でかつ『嬉しそう』に。

ダンテ「まだまだこれからだ。見せてやるぜトリッシュ」

トリッシュ『……ええ』

トリッシュも、成す術無く彼の言葉に続くしかなく。
そして再確認せざるを得なかった。


ダンテ「誰も見たことの無い世界をな」


相棒であり恩人であり最良の友であるこの男を―――ただ見守るしかできない、と


トリッシュ『――――――期待してるわ。ダンテ』


彼の生き様を―――ただその瞳に刻むことしかできないと。


―――


24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:27:14.47 ID:nGwYW+74o
―――

束の間の平穏は終る。
更にここからこの大きな『うねり』は加速し、あらゆる役者を引き摺り込んでゆく。

今、学園都市にて『同胞』の死に浸っている一人の少年もまた、
もちろんそこから逃れることなどできやしない。


ささやかな彼の『弔い』は唐突に、そして残酷に打ち切られた。


ケルベロス『―――ッ』

まず反応したのは魔狼であった。
突然その身に力を纏わせては起き上がり―――。

一方「―――」

次いですぐ、
一方通行もこの場の『異常』に気付き跳ねるようにして立ち上がった。


突然出現した―――強烈な『圧迫感』に。

その源へとまるで吸い寄せられるように振り向くとそこには。



大きな――――――『コウノトリ』が立っていた。


一方「―――」

瞬間、彼の意識を満たすは―――ただ純粋な『絶望』だった。

力をはっきりと認識してしまうからこそ、瞬時にわかってしまう。
勝てる可能性があるかどうかの次元ではない。

先ほどの獅子も大概であったがこの『鳥』は―――桁が違う。


―――格が違うと。

25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:32:11.83 ID:nGwYW+74o


ケルベロス『―――――――――シャックス』


明らかに驚き動揺している魔狼。
その揺らいでいる声でそう呼ばれた『コウノトリ』―――シャックスは。


シャックス『なるほど。イポスも滅びたか―――』

細い鳥足で一歩、また一歩と歩みながら。

シャックス『大公、そして将らが全滅したとなると』


シャックス『まさに我々は敗北した、その通りでしょうな。だが―――』


瞳から赤き光を零しながら、
そう不気味に異界の声を響かせて。


シャックス『ネビロス殿、サルガタナス殿に次ぐ大将である我が、ここで手柄無しに生き永らえるわけにはいかん』


シャックス『気高き者達へのせめてもの弔いですな』


硬直している一頭と一人に向けて、残酷に告げた。


シャックス『スパーダの息子が贔屓にしているこの街を―――破壊してやろう』

26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:34:14.01 ID:nGwYW+74o

そうして示された魔鳥の力は―――圧倒的であった。

刹那。

ケルベロス『―――』

見えぬ衝撃波がまず魔狼を襲った。
諸神たるシャックスが放ったその力はどうしようもなく強烈で。

このケルベロスにもさえ、回避どころか何かしらの防御策をとる暇すら与えなかった。


一方「―――なッ―――」


そして一方通行は感知すらできなかった。
瞬間、溢れる凄まじい衝撃と―――力の衝突。

彼がそれを認識できたのは、
氷の破片を撒き散らせながら、魔狼が遥か後方へと吹っ飛んでいく時にようやくだ。


一方「ウソ―――だろ―――」


目の前の光景が信じられなかった。
この余りにも残酷すぎる現実が。

突きつけられた現実があまりにも強烈過ぎ、戦意すら『忘れてしまう』ほどだ。

聡明な彼の思考は一瞬で悟ってしまったのだ。

己は虫けらのように殺され―――この街はあっけなく破壊されると。



だが―――。



―――真の『現実』はもう少し―――『入り組んで』いた。

27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:37:10.57 ID:nGwYW+74o

『幸い』にも今、彼を絶対に失うわけにはいかない者がいた。
いや、ある意味では『不幸』か。

とにかくその者は絶大な影響力を持っており、当然この瞬間も彼を見ていて。
『ちょうど良い』とばかりに、この脅威に対応する。


一方「―――」


その時、彼は独特の感覚を身に覚えた。
過去に一度だけ経験したことのある、そして絶対に忘れられない感覚を。

それは間違いなくあの日―――悪魔の存在を知り―――バージルに再戦を挑んだ時の―――。



そう――――――垣根帝督に接続されたのだ―――。



今を『見て』、アレイスター=クロウリーが『稼動』させたのだ。
それはまさしく今の一方通行には救いの一手だった。

だが―――『これ』が稼動した瞬間、
彼の意識からは眼前のシャックスの問題など吹き飛んでしまった。

彼は知っていたのだから。
『これ』が妹達に、そして打ち止めにどんな影響を及ぼすかを。

脳裏に過ぎる、夢の中で出会った垣根の言葉。

それに、―――まさか本当に―――、と驚愕し。


―――こんなに早く―――、と絶望し


――――よせ――やめろ―――、抵抗し。


そして、――――――やめてくれ―――、懇願しても。


もう遅かった。


背から、そして全身から噴出した闇は―――彼の背後に―――。



一方『―――ウォォォォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛―――!!!!!!』



黒曜石に似た質感の―――六枚の―――『翼』を形成した。

28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:39:38.16 ID:nGwYW+74o

それは。

シャックス『―――なんだ―――お前は―――』


かのバージルに血を流させた―――『史上最強の能力者』の姿。


その力の前には、一介の諸王『程度』が立ち向かえるわけも無かった。


ケルベロスを一撃で戦闘不能にさせてしまったあの衝撃波も―――少年に届く前にあっけなく霧散。

その髪の毛を一本ですら揺らすことも出来ず。


対して目障りだとばかりに伸びる翼、その伸びた一枚目が―――シャックスの胸を貫き。



シャックス『馬鹿な―――今の世に―――こんな「人間」が存在するはずが―――』



二枚目が―――シャックスの頭部を瞬時にもぎ取って行き―――。


三枚目と四枚目が『取り残された胴体』を包み込み―――魂ごと一瞬ですり潰し。


―――存在を『抹消』した。


哀れなシャックス、彼の死はこの一方通行の記憶にすら残らない。
彼の意識は今、すべてが打ち止めとアレイスターに向けられていたのだから。

29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:41:46.41 ID:nGwYW+74o

魔鳥をあっけなく虐殺した傍ら。

一方『―――』

びきり、みきり、と軋むその頭の中で響くは、
今回の件で打ち止めも使用すると説明した際のアレイスターの言葉。


『何も命を頂こうという訳では無い。自由と安寧への少しばかりの奉仕をラストオーダーにもしてもらう』


一方通行は、この流してしまっていた言葉の真の意味をようやく理解した。

実はその言葉の裏にはこう続いていたのだ。
『命を奪うつもりは無いが、結果として失われる』、と。

なんと愚かなことか、なぜ気付かなかったのか。
アレイスターの行いが結果的に学園都市を救う、という点に目が眩んでしまったのか。


彼はここで今一度―――『呪った』。


一時でも、あの男を信じて打ち止めを預けてしまった愚か過ぎる己を。

それしか選択肢が無かった、
そんな状況にしか導けなかった―――どうしようもなく無力な己を。


そして―――あの『怪物』―――アレイスター=クロウリーを。

30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/15(土) 01:43:28.61 ID:nGwYW+74o

あの魔帝の騒乱の時を更に越えて、その身は『昇華』していく。

噴出した闇が渦となり周囲を穿ち、そして再びその身に纏わり付き―――

―――肉を食い荒し、臓腑、骨、脳、そして髪や皮膚にまで徐々に置き換わり。

噴出す血液すら、地に落ちるよりも前に漆黒の影の飛沫へと変貌する。
そしてその瞳に宿るは―――人界の神々が纏っていた『オレンジの光』。

ただその変容による痛みなど、今の彼にとっては全く意識する水準ではなかった。
それよりも。

それよりも遥かに。




一方『―――――アァァ゛ァ゛ァ゛ァ゛レィ゛ィ゛スタァァァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ―――!!!!』




身の内で爆発した『憤怒』が苛烈だったのだから。
天を仰ぎ見て発せられたその『地獄の底から響いた咆哮』は、まさに学園都市全体を揺るがし。

この街にいる全員の耳へと届き―――その『人の魂』に恐怖と―――ある種の歓喜を抱かせた。


そう、なにせこれは。


長き時を越えてこの世に発せられた――――――人界の神の『産声』なのだから。

―――

37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2011/10/15(土) 10:49:34.43 ID:KIFBF7Cx0
ぱねええええええええ

45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 14:21:53.40 ID:Wk3upE3Y0
以前アラストルが一方通行程度魔界にはゴロゴロいるって言ってたけど
それは垣根と接続されてない状態を指していたと見ていいのかな。
そうでなくともアラストルは一方通行の戦いを実際目の当たりにしてないから
バージルに傷を負わせたレベルってのを知らないだけかもしれないけど。

49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/17(月) 23:04:04.61 ID:1bjtULLAo
垣根接続モードの一方通行は前スレ>>475の特上、
維持無しのアスタロトに匹敵する力の規模で、魔界の最上位層に食い込む水準です。

50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:06:45.51 ID:1bjtULLAo
―――

聞える、壮絶な『産声』が。

怒りに満ちたその魂の咆哮は―――


上条「―――……ア……クセラレータ……なのか……?!」


―――もちろん人でもある彼の耳にも届く。

覚えのある、それでいながら明らかに異質な彼の声に、
上条は驚きを隠せなかった。

一方通行のこの声には、これまた信じ難い要素が含まれていたのだ。
アレイスターの言葉によるショック状態から、否応無くその意識を引き上げてしまうほど。

一方通行のもの、とは別の意味でもう一つ、上条はこの声に『聞き覚え』があったのだ。

アレイスター「覚えは無いか?」

忘れるわけが無い。
この魂の古き記憶の中にはっきりと『彼』の姿は残っている。

この声は、かつて人界に存在していたティタン神族クロノスの―――息子。


上条「…………ハデス……」


上条は放心した面持ちのまま、まるで独り言のようにその名を口にした。

51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:10:29.10 ID:1bjtULLAo

だがその口から続けられたのは、今度は一転して否定の言葉。

上条「でも、違う。あいつじゃない……」

アレイスター「そうだ。きわめて似てはいるも『別人』だ」

対してアレイスター。
その顔に仄かに満足げな色を滲ませては。

アレイスター「私が『再設計』した存在だよ」

ホログラム映像に目を通しながら得意げに、自信溢れる声で言った。

上条「……設……計……?!」

アレイスター「一方通行だけではない。この街の人工能力者は皆、私が作った」

アレイスター「この理論自体は、2700年前の偉大な先人ホメロス、そしてヘシオドスが確立させたものだ」

上条「……」

ホメロス、ヘシオドス。
その名を聞いて引き出された記憶は非常に新しいもの、世界史の授業で習っていたことだ。

前者はイリアスやオデッセイア、
後者は神統記などを記したとされる古代ギリシアの叙事詩人の名だ。


アレイスター「私はそれを形にし、そして科学と結びつけることで『大量生産』を可能とした」


上条「……『大量生産』……」

そうして次々と発される、信じ難くそして不愉快きわまりない言葉。
まるで「人形」に対するものの如く癇に障る物言いに、上条は憤りの滲む声で繰り返した。


上条「大量生産……だと?」

52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:13:18.70 ID:1bjtULLAo

アレイスター「確かに自然発生体、原石は古来から一定数存在していた」

だがそんな彼の反応など気にも留めず、アレイスターは平然と言葉を続けていく。
上条がどう受け取っているかそれを理解している上で。

アレイスター「しかし自然発生する性質上、当然だが都合よく私の求める系統のものとはならない」

アレイスター「研究材料には良いがプランには使えない」

アレイスター「更に神の『種』となる水準、つまりレベル5クラスとなれば百年に一体」


アレイスター「私が求める系統のレベル5が出現する確率は、実に100億年に一度というものだったのだよ」


アレイスター「君もわかるだろう。『作る』方が遥かに良いと」

アレイスター「能力とは、封印されし力場、つまりは『竜の胃』の中から引き出されている力だ」

アレイスター「となればその性質は当然、古の神々の派生となる」

アレイスター「そこに人の魔術体系の基本である偶像の理論を用いることにより、望む性質を有した能力者を作り出すことが可能となる」


上条「…………」

一言どころか相槌、瞬きすらせず、
その光を失った視線を真っ直ぐにアレイスターに向ける上条当麻。

アレイスターの許し難い言葉を一つ残らずその耳に刻み込もうとしていた。
確かにきわめて不愉快であるが、
この男の言葉の中に、今の状況を打開するヒントが含まれているかもしれないのだ。

相手が一筋縄ではいかないということを充分わかってはいるも、
上条はとにかくあらゆる情報を集めようとしていた。

どこからでもいいから、とにかくここから抜け出す隙を見出すべく。

そしてもう一つ、耳を傾ける大きな理由があった。

それはただ純粋に『知りたかった』からだ。

いや、己が『始まり』である以上これは―――『知る義務』があったから。

53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:16:33.93 ID:1bjtULLAo

アレイスター「もちろん、この方法が楽と言うわけでも無い」

ホログラムを確認しているアレイスター、
彼もまた、その志の祖となった上条に聞かせたいのであろう、声を続けていく。

アレイスター「原石を使用する場合よりも早いというだけで、要するむしろ労力はこちらの方が遥かに多い」

アレイスター「230万の中で『種』に成り得る基準を満たしたのは僅か五人。更にその内、昇華の可能性を見せたのは二人」

アレイスター「そして辿り着いたのは一人。それもこうして、手遅れになる直前になんとかといった形だ」

そう言葉を続けながら彼は、
今しがたまで見ていたホログラムを手で撫でるようにして消し、
傍らにあるもう一つの方へと目を向け。

アレイスター「彼らの傾向は当然、ホメロス達の記述を基にしているため、俗に言うギリシア神話の存在が基となる」


アレイスター「例えば、カオスからは未現物質、ゼウスからは超電磁砲と原子崩しが」


そしてぱちり、と指を小さく鳴らすと。

上条「―――ッ!!」

ちょうど上条の顔の前にもう一つ、
大きなホログラム画面が浮かび上がった。

アレイスター「『映像として』は見えなくとも、『認識』はできるだろう?」

そこに映し出されていたのは、廃墟の中で咆哮を挙げる少年。


アレイスター「そしてハデスからは彼だ」


壮絶な変異を遂げている最中の一方通行だった。

54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:20:29.65 ID:1bjtULLAo

上条「―――アクセラレータッ!!」

その姿を『見て』思わず、上条は
届かないとわかっていながらも彼の名を口にしてしまった。

と、身を乗り出した上条からその画面を取り上げるかのように。

アレイスター「ただ彼らの傾向は、今の最終段階においてはもう特に重要でもない」

再び指を鳴らしては、今度はそのホログラムを消去しながら、
アレイスターはそう口にした。


アレイスター「必要なのは虚数学区を維持可能な規模のAIM拡散力場と、セフィロトの樹を一手に掌握できる巨大な力、器」


アレイスター「人格といった『中身』は用済みだ」

上条「……ッ……!」

またしても聞き捨てならない物言い。
ただ、そこで怒鳴りたくなるのを懸命に堪え。

上条「……聞きたい事がある」

冷静を保ちながら、ここで静かに口を開いた。
実は先ほどから一つ、アレイスターの話の中で引っかかる点があったのだ。


それは。


上条「セフィロトの樹に繋がれている人間にどうやって、神々の偶像を刷り込んだ?」


天界に、今に至るまで悟られなかったその理由だ。
セフィロトの樹に繋がれている人間に手を加えるなんて、しかも能力者に仕立て上げるなんて、
まさに天界の目の前で堂々と物を盗んでいくようなもの。

だがその困難をこうして遂げている以上、そこから上条はこう確信していた。
アレイスターは、まだこちらに明かしていない『何か』を持っている、と。

55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:25:07.69 ID:1bjtULLAo

アレイスター「少なくとも彼ら自身に『魔術的』な手は、一切加えていない。もちろんセフィロトの樹にも干渉はしない」

その上条の疑問に、アレイスターはこれまた平然と答えた。


アレイスター「セフィロトの樹が察知できない、科学的刺激は与えたがな」


アレイスター「物質領域に縛られている一般の人間の思念は、神経細胞の状態に大きく左右されるものだ」

アレイスター「その方法で深層心理の概念に少しばかり『欠損』を生じさせると。それが能力発現のトリガーとなる」

上条「……でもそれだけでじゃ―――」

アレイスター「そう、トリガーは自然に絞られるものではない。そこにはまた別の、何らかの原動力が必要となる」

そこで彼は再び、
宙にあるホログラム画面に目を映しながら。


アレイスター「アウレオルス=イザード」


唐突に、とある男の名を口にした。

上条「……っ」

それははっきりと覚えのある名。
忘れるはずが無い、姫神とインデックスを巡り、三沢塾で相対したあの錬金術師。

アレイスター「彼が如何なる魔術を使用したか覚えているかな?」

上条「……」

覚えているとも。
『黄金練成』、錬金術の到達点。
世界そのものをシミュレートし現実に反映させるという、常軌を逸した術式だ。


56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:29:33.29 ID:1bjtULLAo

そう上条が意識した瞬間。

アレイスター「それと基本原理は『同じ』だよ」

まるで頭の中を見透かしているのかのように、
彼が言葉を返す前にアレイスターは『答え合わせ』を行い、そして続けていく。

アレイスター「もっとも私のは、彼のものよりも遥かに洗練されているがな」

アレイスター「環境を改変するのだ」


上条「……!」

アレイスター「周囲に『偶像』、つまり神々が生まれそして成長した環境を再現すれば、」

アレイスター「その中に置かれている彼らは自然と神に似、そしてトリガーが絞られていく」

アレイスター「もちろん、全て同じと言うわけではない。それだと気の遠くなる時間がかかるからな」

アレイスター「現代世界に馴染むよう手を加え、更に短縮化のために『誘導しやすい材料』を付加」

上条「付加、だと?」


アレイスター「そうだ。憤怒、絶望、悲劇、抑圧、といった特に強くそして単純明快なストレスを」


上条「……ぐっ……!」

アレイスターの言葉はまさに、このおぞましい街の実像を示していた。


この学園都市は実験場、ここに集められた者達はモルモットだ、と。


怨嗟渦巻く場にあえて押し込め、潰し合わせ。
そして傷まみれでで這い上がってくる者を冷めた目で観察し―――利用する。

このアレイスターの不快な物言いに、上条の限界はもうすぐそこまで迫っていた。
だがそれでも彼は、懸命に歯を食いしばって何とか己を抑え込む。

もっと情報を引き出さねば、そして知らねばならないのだ。

57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:31:41.99 ID:1bjtULLAo

しかし。

アレイスター「もっとも改変と言っても、大々的に作り変えるわけではない」

アレイスター「既存の物体の配置を僅かに変える、基本的にはそれだけだ」

アレイスター「そして物理法則こそ全てのこの人間界おいては、それだけで充分効果があるのだ」

更に連なっていくアレイスターの言葉の耐え難さは増して行く。
まるで彼を試しているかのように。


アレイスター「事故や災害から、個々人の細かい親交や確執まで。『幸せ』か『不幸せ』かまでも、全て誘導できる」


上条「―――」

『不幸せ』、その単語を耳にした瞬間、この今の話が己自身にも重なっていく。
アレイスターの言葉によって、まるで引き摺り出されるかのように記憶が蘇ってくる。

アレイスター「改変状態を常に維持する必要は無い。一瞬だけ、僅かなところに手を加えれば良い」

学園都市に来る前の『災難』の日々の記憶が。
運が無い事例はきりが無い、中には命にかかわる事さえ。


アレイスター「例えば、改変である走行中の自動車のディスクブレーキを外す」


例えば、自動車に―――。


アレイスター「すると『人を撥ねる』、もしくは『衝突する』という結果が必然的に生じる」


上条「―――……ッ」


―――轢かれ大怪我を負ったことなども、『複数回』。

58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:33:52.45 ID:1bjtULLAo

あまりの『不幸』具合に周囲も恐れ、
疫病神だと迫害され、そして家族の保護も限界でどうしようもなくなっていた時。

ちょうど学園都市への入居試験に『なぜか』合格して、逃げるようにこの街にやって来たのだ。

アレイスター「そう。このやり方は、程度に差があれど人間であれば例外なく効果がある」

と、そんな上条の回顧を、
やはりこれまた『覗いている』かのような口調で。


アレイスター「君のような特殊な個体でもな。『幻想殺し』」


そう残酷に、あっさりと告げた。
その『不幸体質』は私が作ったものだと。

上条「―――なっ……なっ……―――!!」

それは人として至極全うな反応だろう。
今まで苦しめられてきた『不幸』、それが全て誰かの意志によるものだと理解したら―――怒りを覚えぬ者はいない。


アレイスター「最初はテレズマを、連中から力を盗み出すことは特に難しくない。ローラ=スチュアートと同じ方法だ」

アレイスター「能力者の数が揃いこの街がAIMに満たされてからは、その力を使用し更にプランを最適化した」

アレイスター「天界からすれば、この能力者の増加原因は未だ不明のままであろう」

アレイスター「ただ悪魔達が介入するようになってからは、その効果が安定しなくなった」

アレイスター「ダンテ達の影響は、さすがに制御可能なものではないからな」


アレイスター「君が、禁書目録へ対する自身の感情に気付いたのも、その―――」


上条「―――――――――うるせえッッ!!」

59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:36:29.46 ID:1bjtULLAo

それは耐えに耐えかねた怒号。
上条はその腹に溜まっていた熱を吐き出してしまった。


アレイスター「限界か?『上条当麻』」


そしてアレイスターの口ぶりはやはり試していたかのような、
見透かした挑発的なもの。

アレイスター「君はやはり短絡的だな」

上条「……ぐッ……!!」

これは明らかに不覚だった。
そう、『話』はまだ途中だったのだ。
言い返したいけれどもも返す言葉は無く、そして感情に任せて言い返してもならない。

幸いにも、アレイスターはこの『不覚』を見逃してくれるようだ。
無言でホログラム画面に目を通したまま、明らかにこちらの言葉を待っていた。

この明らかな余裕には警戒するべきなのだろうが、
そもそも磔にされてしまっているのだから、いちいち避けていては埒が明かない。

とにかく情報を得る、知ることが先決だ。

上条は何度も深呼吸し、熱暴走しかかった思考を冷やして。

アレイスターの不愉快な言葉を反芻し、その話を再確認していく。
こちらが受け取った意図は正しいか、そこに矛盾は無いか、欠けているところは―――。


上条「……」


と、そこで上条は見つけた。
一つ引っかかる『欠け』を。

60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:38:07.36 ID:1bjtULLAo

アレイスターは先ほど、セフィロトの樹には干渉しないと言った。
それが文面どおりなら、ここに一つの疑問が生じる。


セフィロトの樹を介さないまま―――どうやって人間の魂の状態を『隅々まで完全』に確認しているのだ、と。


魂だけじゃない、精神、思念、感情、記憶、それら全てをどうやって?


それも230万、いや―――それは単に集められた数で、それらを選別したことも考えると、
アレイスターが確認していた人間の数は更に多い数になる。


それだけの大勢を一体どうやって。


更に普通の人間と変わりなかった段階の『上条当麻』を見つけ出している。
それも『生まれる前』からだ。

これはセフィロトの樹、いや、更にそこから天界が有する記録に潜らないと到底不可能なはず。

           ミ カ エ ル
少なくとも彼、『上条当麻』の考えでは、だ。
そしてその認識は正しかったらしく。


アレイスター「―――それだ。それが正しき疑問だ」


アレイスターが上出来だとばかりにそう告げた。
上条がその疑問を口にする『前』に、だ。

61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:40:06.34 ID:1bjtULLAo

アレイスター「君の考える通り、全人類を探り『幻想殺し』を見つけ出すには、」

アレイスター「セフィロトの樹とその先にある『アーカイヴ』を参照することが不可欠。だが一方で天界に発見されるのも不可避」

と、そこで彼はふと。
ホログラムから目を上げては、何もない宙空へとぼんやりと目を向けて。

アレイスター「恐らくホメロス達も同じだったのだろうな」

遠くを眺めているような面持ちで言った。


アレイスター「私は『一度』、その手段を用いたことで失敗し『大きな代償』を払った」


上条「……」

これまでには無かった、
僅かだが確かに『感情の影』が滲み出ている声で。

アレイスター「だが、二度目の今はこの通りセフィロトの樹を使わずに済んでいる」



アレイスター「ある原石が『いる』おかげでね」



上条「……げ、原石?つまり『能力』を使っているのか?」


アレイスター「そう、俗世の言い方ならば―――『占い』が妥当か、」



アレイスター「『彼女』の能力は、人間を―――『完全観測』できるというものだった」

62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:42:54.91 ID:1bjtULLAo

上条「完全……観測?」

これは少し意外な答えであった。
このアレイスターの口から、虎の子は『能力』、と返されるとは思ってもいなかったのだ。
『彼女』と言うには普通に考えて女性か、そしてその『完全観測』とは。

そんな上条の思考を『明らか』になぞり、
アレイスターの言葉が続いていく。

アレイスター「彼女の能力は人間を対象として、その状態の全て把握できる」

アレイスター「その居場所から肉体、魂、深層心理、感情、思考、記憶、生い立ち」


アレイスター「そしてセフィロトの樹によって決定されている未来――――――『寿命』までも」


上条「寿命……」

その単語を彼が口にした時。
上条はその声に、影とは別にもう一つ微かな色を見出した。

それはこちらの感覚が正しければ―――『怒り』、と呼べる感情を。

アレイスター「彼女が自身のAIMを辿ることで、古き神々の封印されし『思念体』とも私は接触でき、」

アレイスター「そして真の歴史を知る手がかりにもなった。君が私の目標ならば、彼女は私の『きっかけ』だよ」

しかし。
上条が悟っているのを知りながらも、変わらぬ調子で言葉を紡いでいくアレイスター。

アレイスター「ただ初期の頃は、とてもプランに使える強度ではなかった」

アレイスター「それに私も愚かにも辛抱足ら無くてな、知的欲求にも急かされる形でセフィロトの樹に手を出してしまったのだ」


アレイスター「その代償として、私は『肉体』を失い―――彼女も『死んだ』」


上条「―――……」


アレイスター「だが幸いにも、彼女の能力は『存続できた』」

アレイスター「その失敗の後の30年間、私は主に彼女の力を拡張することに研究を費やし、そして今にこうして至る」

63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:46:21.52 ID:1bjtULLAo

ぞわり、と。
上条はこの時、アレイスターの言葉から今度は妙な寒気を覚えた。

悪寒ではなく、なぜか胸が締め付けられるような悲壮な色を。

アレイスター「とはいえ彼女は出会った当初から、まさにレベル5クラスの強大な能力者であった」

アレイスター「私と彼女は偶然にして出会ったわけではない。天界による必然のものだ」

その色を滲ませながら続けていくアレイスター。


アレイスター「当時から『魔神』であった私は、天に仕える『狩人』の任を担っており、彼女は『獲物』だったのだからな」


アレイスター「面白い女だったよ。何から何まで興味深く、共にいても飽きず、聡明ながらも愚かで。そして『人間的』で」


口ぶりは、まさしく思い出を語るものに微かに変化していき。


アレイスター「初めて相対した際、私を『見て』彼女が何と言ったかわかるか?」


そして彼は上条の方へと振り向いた。

長い髪をふわりと揺るがせて。


アレイスター「いきなりこう言ったよ―――」


そして女性的な―――いや、纏う雰囲気等を省けば、
物質的な造形は完全に―――『美しい女性』である、その顔で真っ直ぐに見上げて。



アレイスター「―――『あなたが私の夫ですか』、と」


64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:48:17.54 ID:1bjtULLAo

上条「―――」

儚げながら力強さもあり、目元や鼻筋が凛々しくも、
面持ちには少しあどけなさが残る顔つき。

そう告げたアレイスターの顔、それは『美麗』の一言に尽きるものだった。
一瞬、わかっていながらも上条の鼓動が高鳴ってしまうほどだ。

そう、上条は『わかってしまった』。

この男が、いや、『彼ら』がここまで歩んできた過程に、
具体的にまでとはいかないものの、大まかに何があったのかを。


その『物語』は不吉で、凄惨で、陰鬱で、冒涜的で、そして果てしなく―――悲劇的で『救いが無かった』。


困難に面した際に彼らは一度も、他者から助けられることも救われることもなかったのだと。

己のように土御門や御坂、ステイル、神裂などといった、
頼れる友が一人もいなかったのだ。


己にとってのダンテのように――――――その背中で示してくれる『師』がいなかったのだ。


迷った時、彼らの前に導は存在せずどこまでも迷い続けたのだ。

上条はここで思ってしまった。
もしも、己は頼れる友の誰とも出会えず、たった一人で足掻き続けて。

それも無駄で―――結局、インデックスを救えていなかったら―――。


―――『このアレイスター』になってしまっていたのだろうか、と。

65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/17(月) 23:51:44.33 ID:1bjtULLAo

『彼ら』の言葉は平然と続いていく。
アレイスターはその体も上条の前へと向き合わせて。

アレイスター「では、改めて『彼女』を紹介しよう」

右手をその『自身』の胸に当て。


アレイスター「最初のレベル5にして『第六位』―――」


己が『肉体』を指し示しながら。


アレイスター「名は―――ローズ」


淡々と告げる。



アレイスター「――――――私の『妻』だ」



もはや上条には返せる言葉は無かった。
呼吸さえ止まってしまう勢いで、彼はただただ硬直していることしかできなかった。

この事実、歴史、彼らの生き様の前には―――。


その時、
突然地鳴りに似た轟音が響き、建物全体が激しく振動する。

それを聞いてはアレイスター、小さく微笑んで。


アレイスター「さて、時間通りだ。『彼』が来たぞ」


そして彼の声の直後響く、
直前の轟音を遥かに上回る―――



『―――――――――アレイィ゛ィ゛スタァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛―――!!!!』



―――恐らくすぐ屋外からの、力の圧を伴う凄まじい咆哮。

憤怒に満ちた、彼の名を叫ぶ声。


―――

67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 23:53:31.29 ID:9d70v+vIo
ゾクゾクしたわ、この展開

69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/18(火) 00:00:35.61 ID:TiOzd+rDO
展開やっばい
☆さんのカリスマ度がヤバい

71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2011/10/18(火) 00:57:45.13 ID:UEwe67ng0
うおおおおおおおおおおおおおおおおテンションあがってきたあああああああああ

77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/10/19(水) 09:55:40.75 ID:3eGD0/j70
>>53
>>230万の中で『種』に成り得る基準を満たしたのは僅か五人。更にその内、昇華の可能性を見せたのは二人」
脳筋抜いても6人だろと引っかかってたら
何のことはない6位も原石だったでござる…

78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/10/19(水) 13:36:48.33 ID:83CdR3jw0
原作がまだ空埋めしてるところを容赦無くぶっこんでってるのが凄いな乙!

82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:34:15.06 ID:EdL2s1VTo
―――

第23学区。

空港施設の地下、とあるシェルター内の病室にて。

エツァリ「急いで準備してください」

車椅子に座している褐色の肌の少年、エツァリは、
ベッドに横たわっている同じく褐色の肌の少女―――

エツァリ「あと20分でこの街からの最後の便が出ます」

―――同郷の魔術師ショチトルへ向けてそう告げた。

ショチトル「この私にどこに行けと?居場所なんてもう無いのに」

その言葉に少女は冷ややかに返す。
すっぽりと布団を被り背を向けたまま。

エツァリ「陰陽寮へ。かなりの『コネ』がある友人がいましてね。陰陽寮があなたの身を保障してくれています」

ショチトル「…………」

エツァリ「…………あと19分。さあ、早く」

と、そこでショチトルはごろりと寝返ってエツァリの顔を見据えた。
目を細め、明らかに納得していない表情で。

そして問う。

ショチトル「…………貴様は?」

エツァリ「残ります。まだ仕事が残っていますので」

83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:36:47.67 ID:EdL2s1VTo

ショチトル「…………」

それを聞いた少女。
これまた不愉快そうに顔を顰めては、ごろりと。
寝返って再びそっぽを向いてしまった。

エツァリ「……お願いしますから……」

手首の時計へと目を移しながら、その背に放つエツァリ。
声には苛立ちと焦りが僅かに滲みつつあった。

文字通り、次が学園都市の外へ向かう最後の輸送便なのだ。

どれだけ強固なシェルターでも、人が物質領域の技のみで作った防壁なんかあてにはならない。
この街には、天界という脅威から逃れられる場所などひとつも無いのだ。

だから、と。

エツァリは望む。
せめてこの大切な女性―――ショチトルだけは遠ざけておきたい。と。

学園都市だけではなく日本、そして世界中が破壊されるという、最悪の末路を迎えて、
結果的に僅かな延命にしかならなくても。

一秒でも長く、長く生かしたかった。

それが例え彼女に恨まれようが。

ショチトル「……貴様の仕事とは?」


エツァリ「なに、ちょっとした事ですよ。すぐに終ります。『簡単』ですし」


嘘を放ち、騙すことになってしまってもだ。

84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:38:55.84 ID:EdL2s1VTo

ショチトル「…………」

だがその巧みな話術も、彼女には通じなかった。
エツァリを特に良く知っているショチトルだからこそ、彼の言葉はすぐさま見破られてしまう。

ショチトル「貴様が首を突っ込んでいる案件、この街が直面している脅威は神の領域のものだろ」

ショチトル「原点を扱える程度で歯向かえる訳が無い。どうせその傷を受けた時だって、虫けらみたいに殺されかけてたんだろ」

エツァリ「―――……っ!どこからそんな……!」

ショチトルの口から飛び出てきたは、隠しに隠してきた事情。


ショチトル「それくらい、貴様の顔を見ればわかる」


驚くエツァリに向け、
彼が何かを言うよりも早く、追い討ちとばかりに彼女ははっきりと背中越しに声を飛ばした。

これには彼も観念してしまった。
隠しようも騙しようも無いと。


エツァリ「…………あなたを失いたくないのです。……お願いです。ショチトル」


そして彼は、今度は懇願するようにそう告げた。
仮面を被った声ではなく、自身の想いをのせたありのままの言霊で。

だが。

ばさりと布団を翻して再び振り向いたショチトル、
エツァリの顔をジッと見つめたのちに返す答えは。


ショチトル「……………………イヤだ。断る。私は動かない」

85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:40:51.32 ID:EdL2s1VTo

エツァリ「…………何が気に入らないのですか?」

そんな彼女に対して、エツァリの声には焦りが色濃く浮き上がっていた。
こうしている間にも最終便の時刻は迫ってきているのだ。

ショチトル「貴様が一緒に来るのならば話は別だが」

一方で徐々に苛立ちつつあるのも、彼女の方もまた同じ。

エツァリ「それは先ほど言ったとおり……」

そして話はいつまでも平行線で。

ショチトル「だったら話す事は無い。さっさとその仕事に行け」

エツァリ「聞き分けが悪すぎますよ。ショチトル」


ショチトル「―――うるさい!!私は行かない!!」


ついに声が張り上げられてしまう。


エツァリ「いい加減にして下さい!!これ以上駄々を捏ねるなら力ずくで!!」


ショチトル「駄々だと!?そうだ貴様にとっては駄々だしな!!」


ショチトル「私が何をどう思っていようが貴様にとってはたかが―――戯言なんだ!!」

86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:43:11.62 ID:EdL2s1VTo

エツァリ「なっ!ショチトル?!」

そうしてショチトルの言動は、
エツァリが予想していなかった方向へと向かい。


ショチトル「私は貴様のペットでも人形でもない!!私の命を助けたからって、私が自分のものだと思うな!!」

エツァリ「―――!」

ショチトル「イヤだと言ったらイヤだ!!私はどこにも行かない!!」


エツァリ「―――ダ、ダメだ!!行くんだ!!行け!!」


その行動もまた―――予想だにしていなかったものに。
エツァリはここでようやく知ることとなった。

ショチトルが一体どれだけ考え込み。
どれだけその心を痛めていたか。

彼女がどんな気持ちを抱いていたのかを。

ショチトル「―――断る!!行くぐらいならここで―――!!」

そう声を発し、突然彼女が掲げたその手にはキラリと。
小さなナイフが煌いていて。

エツァリ「―――」



ショチトル「いっそここで―――!!!!


そして振り下ろされた。
少女、自らの胸に向けて。


87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:44:52.72 ID:EdL2s1VTo

次の瞬間響いたのは―――ぱん、という弾けたような音と。
次いで床を跳ねる金属音だった。
ナイフを握っていたその手は、勢い良く叩かれていた。

『立ち上がった』―――原典を起動しているエツァリによって。


ショチトル「―――…………」


彼女はそんな彼を暫し呆然と仰ぎ見て。
そして最初は少しずつ、そしてだんたんと大きく顔を歪めては今にも泣き出しそうな表情を浮べて。

彼のスーツの腹、胸をすがるようにして掴み、震える声で。

ショチトル「何で……何で貴様はそこまでして……この街に………………なぜ?」

エツァリ「……………………」

なぜ。

それは土御門、一方通行、結標、麦野、

そして上条当麻と――――――御坂美琴が、この街を守ろうとしているから。


エツァリ「……友人達が―――戦っているから……」


その問いに彼は、素直にありのままの理由をシンプルに答えた。
周りに葉脈に似た筋が浮き上がっている目で彼女を見つめ、その頬に手をそっと添えながら。

88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:46:39.41 ID:EdL2s1VTo

だがその手を振り払うようにして、彼女は更に詰め寄った。
エツァリから手を離せば、ベッドから転げ落ちてしまいそうなまでに身を乗り出して。

ショチトル「だったら私は……!!私は……!……残ってはダメなのか……貴様がいるのに……?」

ショチトル「私だって魔術師なのに……大切な奴のために覚悟を決めちゃ……いけないのか?」

そして声を一際強く震わせて。

エツァリ「―――…………」


ショチトル「私には……決めさせて……くれないのか?……私だってこんなに……こんなにも…………」


その時とった行動は、エツァリ自身意外なものであった。
彼は思わず―――半ば衝動的に―――ショチトルを抱きしめたのだ。

エツァリ「―――…………すまない……ショチトル」

そうしてこの行動に対してか、彼女の本音に気付かなかった事へか、
それとも、これでも彼女を学園都市の外に置くべきだと考えてしまうことへか。

自分自身はっきりと自覚できてはいなかったが、彼はそう謝罪の言葉を口にした。

ショチトルは驚いたのか一瞬びくりとしたものの、目だった反応はそれだけだった。
あとは静かに体を預け。

更に受け入れるかのように、静かにエツァリの胴に腕を回して。

ショチトル「馬鹿にしないでよ……わかるから……」


ショチトル「…………エツァリお兄ちゃんが……死んでもいいって顔してるの……わかるんだから……」


エツァリ「……すまない」


そうして口から出た二度目のその謝罪。
今度ばかりは、彼もその意味をはっきりと自覚していた。

89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:48:29.81 ID:EdL2s1VTo

ショチトル「……………………仕方無い…………」

そうして十数秒間ののち、
彼女はずず、っと半泣きの鼻を鳴らしては。

ショチトル「…………もう一度だけ。貴様の言うことを聞いてやる。行くよ。行ってやる」

顔を埋めたまま。

エツァリ「……良いのか?」

ショチトル「だが条件がある」


ショチトル「……誓え。迎えに来るって。そして二度と私を置き去りにしないって」


エツァリ「……誓う」

彼は迷い無く答える。
彼女の頭に頬を当てたまま、彼女の体を強く抱きしめたまま。


ショチトル「―――生きて迎えに来なかったら、死んでやる」


エツァリ「わかった。ショチトル」


エツァリ「……運命を共に」


ショチトル「…………うん」

90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:50:00.32 ID:EdL2s1VTo


―――それから約30分。


彼女を載せた機は最終便、超音速機は無事離陸、そして目的地に到着し。
先ほど学園都市の情報筋を通じて、陰陽寮から保護完了との連絡があった。

エツァリ「…………」

とあるビルの屋上の淵。

携帯電話をスーツのポケットに押し込めながら、エツァリは眼下に広がる学園都市、
普段とは違い、必要最低限の灯りしか点けられていない暗い街並みを眺めていた。


少し前に凄まじい圧力を覚えたので飛び出してきたのだが、その騒ぎもすぐに終ってしまい、
今や街は不気味なほど静かだ。

ただ、状況が落ち着いたわけではないのはわかっているが。
今は台風の目に入った、いや、嵐の前の静けさか。

エツァリ「…………」

容赦なくその身を削っていく冬の夜風か。
ネクタイやジャケット、解けかかっている包帯を執拗に揺さぶっていく。

だがこの程度の冷気が、彼のその身を削っていくことは無かった。

バージルと遭遇した際に思い切って使ったことからわかったのだが、
案外己は「冷気」に関係する事象と相性が良いらしいのだ。


91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:50:54.95 ID:EdL2s1VTo

エツァリ「…………」

肌に良く馴染む冷気、決してわるくはないその居心地の中で、
彼は今の状況確認に再度思考を巡らせて行く。

学園都市、暗部、『能力とは』、というものを良く知っている側の者の中では、
デュマーリ島への遠征にほとんど裂かれてしまっているせいでこうして動ける人員は少ない。

特に『反乱側』の者としては、
この戦いの中に曲がりなりにも飛び込めるのは恐らく一方通行と―――己くらいしかいない。

そしてその一方通行も、彼自身が言う通りアレイスターの手中。
そうなれば結果として。

エツァリ「…………」

フリーの『遊撃』要員は己だけ。

一方通行に何かがあった時には、
今まで手に入れたあらゆる学園都市の知識、そして数日間で得た数々の極秘資料、
そしてこの実行力を使って状況解決に全力を注ぐ。

それが仕事だ。

エツァリ「…………」

それこそが、この街で果すべき使命だ。

92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:52:00.69 ID:EdL2s1VTo

更に今、己に課せられている使命はそれだけじゃない。
学園都市を守り、そして生きてショチトルを迎えに行かなければならないのだ。

エツァリ「…………はは……」

彼は一人、呆れがちに笑ってしまった。

なんて困難な事か、と。
例え死んででも、という捨て身のやり方すら許してはくれない。
体は傷も癒えぬまま、このように原典を起動してる時点ですでに死にそうなのに。

だが。

『何か』をできる可能性がある、というだけでも充分であろう。

少なくとも―――バージルと相対したときのような、一切手が及ばない絶対的な状況よりは遥かにマシだ。

それにあの絶望的な状況からでさえ、こうして何だかんだでこうして生き延びているのだから。

エツァリ「…………」

何とかなるものだ。
白い吐息を吐きながら、エツァリは仲間、友達の姿を思い浮かべては、
今一度自身の覚悟を確かめていく。

土御門、結標、一方通行、麦野。
そして上条当麻と。


エツァリ「―――御坂さん。必ずこの街はお守りします」


次いで、彼女の柔らかな感触が残る手へと目を落として。


エツァリ「―――待っていてくれ。ショチトル」


そしてその時だった。
彼方、暗い街並みの向こうで強烈な圧が出現したと思った―――次の瞬間。


それを遥かに超える、そして今までに無い異質な存在の―――『咆哮』が響き始めたのは。


その『産声』は、彼の戦いの幕上げを告げているものだった。

―――


93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:53:05.49 ID:EdL2s1VTo
―――

ステイル『―――ッッは!!』

意識は突然回復した。
その瞬間、半ば反射的に跳ね起きるステイル=マグヌス。

ステイル『ぐ―――ぁッ!!!!』

そして胸に覚える―――強烈な痛み。
身を起こしたのも束の間、彼は胸を押さえて今度は背を丸めて呻いてしまった。

これではマズイ、と深呼吸してなんとか落ち着かせ、
一瞬また飛びかけてしまった意識を何とか留め。

己が胸の状態をチェックしてみると。

ステイル『…………ッ…………!』

不思議な事に穿たれたはずの穴は跡形もなくなっていた。

そこでまず最初に思うは、
あれは夢か幻の類だったのではないか、ということだが。

ステイル『……』

間違いなく現実だ。
傷跡は無いものの、強烈な力の残滓が色濃く残っている。

そこで次に思うはこうだ。


ステイル『―――くそッ!!』


―――あれほどの傷が、表向きにでも治癒してしまうくらい―――時間が経ってしまったのか。


と、その時であった。


「―――んっ……あ、あの……大丈夫ですか?」

94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:55:04.50 ID:EdL2s1VTo

斜め後方、すぐ傍から聞えてきた突然の声。
まるでその気配に気付けなかったことからすると、先ほどのエイワス―――か。

ステイル『!!』

声質を認識するよりも早く、瞬時にそう研ぎ澄まされた本能が判断を下し、
すかさず跳ね起きては低く身構え。

振り向いたその先には。

温和で気の小さそうな、一方で胸は非常に豊かな、
メガネをかけた長い髪の少女が立っていた。


「あっ……わッ!わ、私はそういうのじゃ……!ご、ごめんなさい!」


ステイル『…………』

そしてその一見した姿通りと言うべきか。
少女の反応はまた臆病な女の子そのもの。
敵意の欠片など一切見られない、なんと『ゆるい』オーラか。

そう、先ほどのエイワスとは違い、そんな普通の人間的な感情がこれでもかと全身から溢れ出ていたのだ。

ステイル『……………………』

どうも調子が合わない。

この僅かなやり取りでも強烈に覚えるのは、
さながら怯える小動物に吠え掛かってしまっているような気分。

彼は一瞬で確信せざるを得なかった。
この少女はとりあえず、こちらに危害を加えるつもりなどないか、と。

95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:57:06.39 ID:EdL2s1VTo

彼は一応、感覚だけは研ぎ澄ましたままだが、
構えを解いてその場に億劫そうに腰を下ろして。

ステイル『……僕が倒れてから……どれだけの時間が経ったかわかるかい?』

「……2分25秒です。でもまだしばらくここからは出れないから、もう少し休んだほうが……手当てもまだ全部は……」

ステイル『……今すぐ出たいのだが、方法は無いのか?』

「はい。ありません。今ここは、アレイスターが完全に閉鎖していますので内側からは何も……」

ステイル『…………』

どうらや嘘も無さそうだ。
この少女には純粋無垢、という表現が良く合うか。
感情がそのまま顔や仕草に出てしまうタイプらしい。

悪魔の感覚を持ってしまえば、まるで読心しているような気分だ。

とにかく彼女の言葉が本当となると、急いでも仕方がないようだ。
ステイルは込み上げてくる焦りを抑えてなんとか冷静を保ち、一つ一つ、まずは『外堀』の疑問を潰していく。

ステイル『そうか……そういえば手当てと言ったが……僕の胸は君が?』

「はい。でも私の力が悪魔の体に馴染むかどうか……拒絶反応とか……本当に大丈夫ですか?」

ステイル『そうだったのか。いや、問題は無いよ。ありがとう……ところで君は何者かな?』


風斬「風斬……風斬氷華です」


ステイル『カザキリ…………?』

その響きにステイルには覚えがあった。
去年の9月30日に学園都市で起こった騒乱、通称『0930事件』の報告書にあった『名』。


あの日学園都市に出現したという―――『人工天使』の名称だ。

そのステイルの表情を見て悟ったのか。


風斬「あ、す、すみません。稼動状態に移行すれば『ヒューズ=カザキリ』、とも。こっちの方の名なら、あなたでも聞いたことが……」


ステイル『なるほど……』

前もってエイワスを知ってしまっていたのだから、
この少女が例の『人工天使』だとしても特に驚きはしない。
むしろ、エイワスと同じく気配が完全に周囲とどうかしてしまっていることからも納得だ。

96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 02:58:12.18 ID:EdL2s1VTo

ステイル『その口ぶり、君は僕の事を知っているみたいだね?』

風斬「はい。この街での一連の騒動は全て『見て』いましたので」

ステイル『……そうか……』

この辺りで外堀はもういいだろう。
ステイルはそう判断して。


ステイル『―――上条当麻。彼について何か知っているか?』


ついに本題に切り込んだ。
そして返って来た答えは、予想外―――いや、『ある意味』では納得か。


風斬「は……はい」

そう返事をする彼女の仕草はまさに。
本人は隠しているつもりなのだろうが、これは悪魔の感覚が無くても誰でも一目でわかる、
確実に何か『想う』ところがあるものだった。

ステイル『(なるほど上条……………………この子もその「類」か。全く)』

知っているどころか、彼女もまた上条の手に『かかった』一人らしい。
そしてこの反応はまた別のの事実を示していた。

彼女は彼の現状を知らないか、もしくは彼はまだ生きているか、だ。

98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:00:06.92 ID:EdL2s1VTo

ステイル『今、彼がどうなっているかわかるか?』

そこを踏まえてステイルは、もう一度聞き直した。

風斬「はい……そのことで、あなたとお話がしたくて……」

ステイル『今上条はどうなってる?』

風斬「囚われてはいますが……特に傷などを負ったりは……ですが……」

ステイル『……だが何だ?これからアレイスターは何を彼に?』



風斬「いえ…………あ、あの、アレイスターもだけど……」



ステイル『―――な、何?』

そこで本当に予想外の反応が返って来た。
アレイスター『も』、確かに今彼女はそう口にしたのだ。

それは文面通り受け取るとこうだ。


上条に『何か』をしようとしている者は―――アレイスターの『他』にまだいる、と。


風斬「その…………もしかすると………………………………」


だが風斬の言葉は続かなかった。
いや、『続けられなかった』ようだ。
声を放とうと口が動いているのだが、言葉が全く聞えないのだ。

しかもその口の動きも―――滅茶苦茶。
まるで読唇できるものではない。

99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:02:30.02 ID:EdL2s1VTo

しばし彼女は懸命に口を動かし、更に地面にも何かを描こうとしたが。
悉くその情報を伝える試みは失敗してしまっていた。

まるで何かが間に割り込み、塞いでしまっているかのように。


風斬「だ、だめ…………ごめんさない…………私……」


そうして彼女は、今にも泣きそうな顔をして座り込んでしまった。

ステイル『お、おい……?!一体……』

思わずそんな彼女を見て、傍に行こうと―――彼が立ち上がったその時だった。


「そのメガネちゃんはプロテクトがかかって伝えられねえんだ」


脇から、今度は男の声が響いてきた。


「アレイスターが仕込んだプログラムを『奴』に利用されててな」


またしても気配を悟れなかった存在の。

ステイル『―――』

半ば風斬の盾となるような位置で、ステイルは再度身構えて振り向くと。

己ほどではないものの長身で、
容姿は整っていながらもいかにも軽そうな茶髪の男が立っていた。

100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:05:04.70 ID:EdL2s1VTo

今度の場合は、ステイルの警戒がすぐに解けることは無かった。
そして彼が放つはまず。

ステイル『……誰かな、君は』


垣根「垣根帝督だ」


垣根、そう名乗った男はニヤニヤと不敵な笑みを浮べたまま、
風斬の盾となっているステイルを眺めて。

垣根「ちなみに一応言っておくがそのメガネちゃん」


垣根「ここの中にいる限りは、俺やおたくよりもずっと――――――『強い』ぞ」


ステイル『……』

風斬「大丈夫です……彼は……」

ステイル『そ、そうなのか……?』

それでも未だに警戒を解かない彼を見て、
垣根帝督は呆れたような表情を浮べて。

垣根『いいから、今から俺が言うことを黙って聞いた方がいい。時間が無い』


垣根『あの幻想殺しと、その周りでこれから起こることをちゃっちゃとこの俺が講釈してやる。良く聞きな―――』


ステイル『……っ……』

そしてステイルの反応を待たずに、一気に言葉を連ね始めた。
その勝手に思わず彼は、一度言い返して仕切りなおそうとしたが。


ステイル『―――』


垣根の口から発された内容は、それどころではなかった。

101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:06:56.02 ID:EdL2s1VTo



――――――――――――――――――――――――――――――。



ステイル『――――――――――――――――なッッ―――――』

信じられない。
垣根提督の口から告げられたその内容が、とても信じられない。


―――なんてとんでもない事なのか。


垣根「ただ言っておく。俺が知ってるのは恐らくほんの一部分だ。全貌はもっとデカイだろうさ」

ステイルは思わず背後の風斬の方を振り返って、彼女の答えを求めてしまった。
この男の言葉は本当なのかと。

嘘だと言ってくれと。


しかし風斬は無言のまま小さく―――頷いた。


ステイル『………………な……くそッ……くそ……』

頭を抱えてしまう、とはまさにこの事だった。
理解しようにも、理解しきれない。
受け入れなければ成らないのに、受け入れ切れない。

一体どうすれば。

どうすれば、この男の言った事態を回避できるのだろうか。


これはもう、一人で考えてどうにかなるレベルではない。
神裂や、その向こうのバージルや魔女達にも知らせなければ―――。

102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:07:58.19 ID:EdL2s1VTo

ステイル『―――頼む!!僕をいますぐここから出してくれ!!』

垣根「もう聞いただろ。無理だ」


ステイル『……じゃ、じゃあ、ア、アレイスターは……?!そ、それを知っているのか?!』

垣根「いいや」

ステイル『じゃあ教えるんだ!!あの男は常にここの状態をチェックしているのだろ!?だったら―――』


垣根「無駄だ」


垣根「『奴』は俺であり、このメガネちゃんであり、エイワスであり、この虚数学区そのものであり―――学園都市を覆うAIMそのものだ」


垣根「俺たちの意識がアレイスターの手元にデータとして届く頃にはもう、『奴』によって上書きされてやがる」


垣根「そもそも俺は、別にアレイスターになんざ教えるつもりはないしな」

垣根「ま、どの道ここから出れるのは事が始まってからだ。考えるべきなのは回避法じゃなく、解決法だ」

ステイル『…………くっ!!』


垣根「そこで一つ。ちょっとした助けになるプランを俺は思いついたんだが。聞くか?」

ステイル『な、何だ!?』


垣根「そんな大きなものでもないんだが、少なくとも天界からの侵攻の対処はずっと楽になる」

103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:10:26.29 ID:EdL2s1VTo

ステイル『―――教えてくれ!!』

今や藁をもつかむ気持ちだ。
プラスになることだったら何でも良い。
どんな僅かなことでも、それで可能性が増えるのならば。

垣根「魔術師には理解できねえと思うから、今から俺の言葉を丸暗記しろ。悪魔ならそんくらいできるだろ」



垣根「いいか、虚数学区を顕現させて、学園都市の上に『重ねろ』」



垣根「人間界の上にもう一層置いて、界で『コーティング』しちまえってことだ。覚えたか?」



ステイル『ああ!!』

垣根「『表』に戻ったらこれを話のわかる奴、そうだな、シスターズやラストオーダー……いや、連中は死んでるかも知れねえ」

垣根「だったらあのアステカの魔術師とかでもいい。とにかく一方通行周りの、能力者側の事情に詳しい奴に言え」

ステイル『これだけ言えばそれでいいのか?』

垣根「ああ、わかる奴ならわかる。そしてわかる奴なら、具体的な方法もまあ思いつくだろ」


垣根「うまく行けばそのメガネちゃんも戦力になる。エイワスまでとはいかないが、虚数学区上で『完全稼動』すれば恐ろしく強いぞ」

垣根「ま、さすがに四元徳辺りが相手じゃかなり厳しいだろうが」

垣根「それにセフィロトの樹に繋がってる魔術師が入っちまったら、どうなるかは知らねえが。ま、その辺りの対処法はおたくらの方が詳しいだろう」


ステイル『そうだな……その方面はこちらに任せてくれ!』


セフィロトの樹、となれば今神裂らが取り掛かっていることだ。
彼女やバージル、魔女達に伝えれば、例の魔術師に対する『障害』の問題も何とかなるかもしれない。

104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:12:40.07 ID:EdL2s1VTo

と―――その時だった。


ステイル『―――!!』


突然この陽炎の世界に、
耳鳴りに似た強烈な力の衝撃が走り抜けていった。

それも断続的に、更に徐々に強くなっていく。

垣根「……始まったか。ということで俺はここまでだ」

ステイル『……何処かへ行くつもりなのか?』

垣根「まあな」

ステイル『待て!!話じゃまだここから出れないはずじゃ!!』

垣根「ああ悪い。一箇所だけ行けるところがあった」

ステイル『なぜそれを言わなかった?!』

垣根「好き好んで行く場所じゃねえからさ。それに行ったらお終いだ」

ステイル『―――おしまい?』


そこで垣根はにっこりと、わざとらしい笑みを浮べて。


垣根「『あの世』だよ」



垣根「そういえば言ってなかったな。俺は今この段階で―――『消える』んだ」



さらりと告げた。
目前に迫った己の寿命を終点を。

105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/21(金) 03:15:09.04 ID:EdL2s1VTo

ステイル『―――…………』

突然のその自己宣告に、
ステイルは何も言葉を返せなかった。

垣根「おおっと、湿っぽいのは止せよ。少なくとも俺は赤の他人に悲しまれるようなガラじゃねえ」

垣根「それに本当は去年の十月に死んでたはずなんだ。ここまで楽しめただけでも儲けもんだ」

と、そんな垣根帝督に向けて。


風斬「垣根さん…………あなた、やっぱり本当は良い人なんだよ……」


ステイルの後ろから風斬が、やや俯きながらそう言うと。

垣根「ははは、やっぱりメガネちゃんはちょっと純粋すぎるんじゃないかな」

垣根「俺が『良い人』じゃ、人類の99%を『聖人君子』と呼ばなきゃならねえ」

垣根提督は笑った。
そしてあっけらかんとした調子で言葉を連ねていく。

垣根「俺はとてもそんな奴じゃあない」

垣根「自分でもウンザリするくらいにプライド高くて、自己主張が激しいだけさ」

徐々に―――その姿にノイズが混じり。

垣根「そのせいで、ここで『負けっぱなし』で消えちまうのはどうも食わねえ」

垣根「それにこの街が、異世界の連中に良い様にされるのは―――はっきり言ってかなり気分が悪い」

風斬「あ…………っ!」

体が見る見る薄れていっても変わらずに。
最後まで、最期の最期まで自身に溢れて不遜な物言いで。

垣根「人類絶滅しようが地球が砕けようが、それは別にどうだって良い」


そうして彼は―――消滅した。




垣根「でもな、この『薄汚れた街』をぶっ潰しても良いのは――――――俺たち『能力者』だけなんだよ」




最期にそう断言して。

―――

111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/21(金) 12:42:20.73 ID:PiYPz5JIO
ていとくん( ;ω;)

113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/10/21(金) 18:38:56.73 ID:6P/bA+770
乙tylish!
ていとくんかっこいいなおい

116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/10/21(金) 20:49:57.64 ID:HQIQpGKio

周りの反応見てようやく神化一方さんが次元が違う領域までいったってことに実感湧いてきたわ
アスタロト戦のせいでだいぶ感覚が麻痺してたんだなあ

117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:13:59.26 ID:oGtMbEbto

―――

遡ること少し。
学園都市第一学区地下。


そこは何百と言う複合装甲板の下、深さ500m、
最深部は実に1000mにも達する巨大な地下施設。

総括理事会長アレイスターが『個人所有』する、学園都市の中で最も強固で安全なシェルターだ。

そしてその中でも一際安全な、最深部に近い位置にて。


唯一の違いは窓が無いくらいか、
五つ星ホテルのスウィートルームと見紛うほどに広く上品なとある一室の。
これまた上質な革張りの大きなソファーに今、

毛布を肩にかけた初春飾利が、背を丸めるようにして座っていた。


初春「……ふっー……」

深く息を吐きながら手をあわせ、寒さを凌ぐかのように絡ませ動かす初春。
いまだに小刻みに震えている細い指を。

しかし震えがおさまる気配は無く、むしろ徐々に強くなってさえいるかもしれない。

指先だけではなく肩や腕、歯までもが小刻みに鳴っている。
全身隅々、まるで内臓までが痙攣してるような感覚だ。

しかしこうして安全で暖かな場所にいるおかげで、
少なくとも精神状態は、万全とは程遠いものの少しずつ安定しつつあった。

118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:15:03.61 ID:oGtMbEbto


正常に稼動しつつある頭の中では、
今しがた今しがた目にした事、出来事がぐるぐると回り始めている。

初春「……ふー……」

絡める両手に今度は息を吹きかけながら、
『現実として受け入れよう』とそれらに思考を巡らせて行く。

まず御坂美琴と瓜二つな姿の二人だ。

一人は、ボーっとしながらもガードマンのように壁際に立ち。
もう一人はこの『スウィートルーム』の端にあるカウンターに座しては、暇そうな面持ちで雑誌を捲っていた。

初春「……」

見れば見るほど御坂美琴そのものだ。
姉妹、三つ子というレベルではない。

そのままコピー、まさにクローンでもないと。


初春「……本当……だったんだ……」

初春はぽつりと、まず誰にも聞えないであろう小さな声で呟いた。
あの『噂』は本当だったのだ、と。
少し前に囁かれていた『超電磁砲のクローンが生産されている』という、出来の悪い冗談が。

この二人が先ほど、〜号とナンバーで自己紹介したのもはっきりと覚えている。
間違いないのだろう。


となればおそらく。


テーブルを挟んで向かいのソファー、そこにさながら蓑虫のごとく毛布に包まっている、
『小さな御坂美琴』―――『アホ毛ちゃん』も同じく。

119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:17:21.29 ID:oGtMbEbto

鼻まで毛布に潜り、
見るからに不機嫌な目つきな茶髪の『アホ毛』の少女。

『あの時』は耳栓したくなるくらい活発すぎたのに、
今は一言も発さずただじっと毛布の中に潜っている。

初春「…………」

そんな幼い少女の姿、
『あの時』は気付かなかったが、今一度その顔を意識すると。


これまた見れば見るほど、御坂美琴の面影があるのだ。


年齢に差があるため、
これだけなら妹と考える方が普通であろうが。

だがクローンの噂が現実だとわかってしまった今では、こう第一に思ってしまう。
この少女もまた同じなのではないか、と

初春「…………」

『アホ毛ちゃん』。

この幼い女の子と最初に出会ったのは忘れもしない、
去年の十月九日、学園都市の独立記念日だ。

はっきり覚えているのは、なにも祝日だからという訳じゃない。
何せあの日は肩関節を脱臼し、挙句に殺されかけるという破目に遭ったのだからだ。

このアホ毛ちゃんを探していた、胡散臭いホストのような男にだ。
あの時は、良くわからないが周囲に『爆発のような現象』が起こって何とか生き永らえた―――。

初春「……………………」

と、あの日の記憶を遡っていたところで初春は気付く。
あの日と今日の類似点を。

危険から解放された経緯も似通っていたし、何よりも―――同じ声を聞いた。

そうだ。
あの『白い少年』は十月九日にも、己を死の淵から引き上げていたのだ、と。

120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:20:26.09 ID:oGtMbEbto

「アドレナリンの過剰分泌よ。慣れてないとそうなるの」

とその時だった。
いつのまにかテーブル脇に立っていた女、芳川と名乗った女の声。
震えている様子を見ての言葉だろう。

初春「……あっ」

芳川「まあ……原因はそれだけじゃないけれど。『悪魔』を見たんだし」

初春「(……あくま?)」

ここで唐突に放たれた、
その場違いにも聞える言葉に少し引っかかりながらも。

芳川「はい、どうぞ」

初春「あ……ありがとうございます……」

芳川「熱いから気をつけてね。あと味は期待しないで」

初春は、芳川が差し出した紅茶が注がれているカップを両手で受け取った。
震えてるこちらが零さないようにか、そのカップは両側に取っ手がある大き目のものだ。

初春はそのカップを、大切なものを扱うようにして両手で包み込み、
ゆっくりと顔の前に持っていった。

初春「……ふーっ……」

鼻、そして頬に当たる熱気がとても愛おしく感じられる。
冬の寒さと恐怖で固まりきったこの体に浸み込み、解凍を促してくれる暖かな刺激だった。

121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:22:01.41 ID:oGtMbEbto

彼女はそんなカップに静かに口をつけながら、
今しがた耳にした『悪魔』、という言葉の意味を考えていた。

芳川は言った。

その震えは、『悪魔』を見たからでもある、と。

悪魔と言う単語のイメージから思い当たるのは当然―――さっき目にした異形のバケモノ。
先ほどまでの一連の出来事の中で、最も信じ難い存在だ。

その現実実の無い感覚を振り返れば、この『悪魔』というオカルト的表現もしっくりくる。
きっと『悪魔』と呼ばれるに相応しい、凶悪な生物兵器か何かの類なのだろう。

初春「『あれ』が悪魔なんですね?」

芳川「ええ」

クローンの噂も現実だったのだ。
ならばあのくらいの生物兵器が存在していたって不思議では―――そう初春は一先ず結論付けて。

初春「何なんですかあれは?」

机を挟んで向かいのソファー、毛布に包まる打ち止めの横に座った芳川に向け、
『悪魔』の正体を問うたが。


芳川「ん?だから『悪魔』」


返って来たのは、彼女にとって少し頓珍漢な答えだった。


初春「……ん?」

122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:23:16.83 ID:oGtMbEbto

つまりは単に比喩したものではなく、元からそのような名称なのか。
だがその認識は―――前提そのものから誤りであった。

初春「―――悪魔、ですか?」

芳川「ええ。悪魔。小説とか映画とかに出てくるような」

初春「そ、その『悪魔』ですか?何かの神話とか伝説に登場するような、『あの悪魔』ですか?」

芳川「そうよ」


初春「ちょ、ちょっと待ってください!そんな…………!」


もちろん、いきなり信じられるわけも無かった。
そんなことは無理だ。

最先端の科学の街で、こんな―――オカルトなことを本気で信じろと。

ただ芳川はこの初春の反応を半ば予想していたのか、可笑しそうに小さく笑って。

芳川「信じられないのもわかるけど……どう説明したらいいかしらね」


芳川「私も詳しくは知らないけど……言うならば『異世界の生命体』、かしら」


初春「―――い、異世界?」


芳川「私達が存在するこの宇宙とは違う、法則も何もかもが異なっている別の宇宙よ」

123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:24:06.53 ID:oGtMbEbto

初春「は、はあ」

話が飛躍しすぎて、全く理解が追いつかない。

初春はカップを置くどころか瞬きすることすら忘れ、
ただ目をまん丸にして呆然としていた。
一体この女性は何を言っているのだろうか、と。

だが不思議な事に。

初春「……」

心のどこかでは、納得してしまっている自分がいた。
思考の奥底、決して嘘をつけない本能が感じた通り―――『あれ』はこの世のものではない、と。

目にしてその肌で感じた存在感が異質すぎるのだ。

どう言い表せばいいのか、いや、そもそも合致する表現など無いのかもしれない。
それも芳川の言う通り、そして本能が感じる通りだとすれば。

初春「………………」

当然なのかもしれない。

ただ。

やはり今まで作り上げてきた『常識』がある以上、
すぐに受け入れることはできないが。

芳川の言葉をそのまま飲み込むには、少し時間が必要だった。

124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:27:02.22 ID:oGtMbEbto


と、そんな初春を案じてのか。

芳川「そういえばまだ聞いてなかったわね」

ぱん、と芳川は手を叩いてはそう話を切り替えて、
その手を机の端に置いてあった携帯端末に伸ばした。

初春「……初春飾利です」

芳川「ウイハルカザリ、っと」

その名の響きを入力したのだろう、画面を指で叩き。


芳川「えっと柵川中学一年、ジャッジメント第177支部所属の?」


初春「は、はいっ!」

そうして一瞬で済んでしまった身元特定。
初春は少し驚き、その返事の声色がやや張ってしまった。

初春「……?!」

あの携帯端末にはこちらの個人情報が映し出されているのだろうか。
名前で検索できる権限を持っているのならば、この芳川はアンチスキルの関係者か、

いや、公にされていない第一学区の地下深くの、こんな特別なシェルターにいる者。
アンチスキルどころか、学園都市上層部の者などであってもおかしくはない。

125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:28:31.30 ID:oGtMbEbto

初春「…………」

一体あそこには、その他に何が表示されているのか。

ふうんと意味深な反応を示す芳川を、
彼女がカップに口をつけながら神妙な面持ちで見つめていると。


芳川「……あながち全く関係無い、って訳でも無いのね」


芳川が妙に納得したような表情を浮べてぼつりと呟いた。
明らかに独り言であろう、聞き逃してしまうくらいに小さな声でだ。

初春「……?」

芳川「ああ、色々とね色々。まあ、とにかく中々すごい」

と、初春が意識していることに気付き、そんなふうに今の言葉を有耶無耶に流しては。

初春「はい?」

芳川「自作のファイアウォールを第177支部のシステムに。評価は+Sであり、アンチスキルのメインサーバーと同等の堅牢度である」

芳川「更にそのソースを各公的機関へ無償提供し、一部は『バンク』にも使用されている」

表示をスクロールさせているのか、画面を指で撫でながら『読み上げた』。
彼女の得意分野を示す、その経歴の中でも特に自慢できる点を。

初春「あはは……まあ……そんなことも」

126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:32:00.71 ID:oGtMbEbto

芳川「その歳でここまでの水準なんて、この街の子供達は本当にどうしちゃってるの」

芳川「でもおかしいわね。ここまでできるのに、専門の開発系に従事したことないなんて。どこかから声かからなかった?」

初春「いえ……特には……」

芳川「ああ……なるほど。結構やることやってたのね」

とそこで芳川は、更にスクロールしたところで再び納得の表情を浮べて。

初春「?」

芳川「ジャッジメント設備を私的目的で無断使用、権限外のアクセス行為、」

芳川「公的サーバーの破壊行為、機密領域への侵入多数、高セキュリティ指定の情報を無断取得etc……」

今度は『負の点』を読み上げた。

初春「―――!!」

これには初春も、その温まりかけていた体から再び血の気が引いてしまった。
そんなことまであの端末には表示されているのか、いや、
そもそもまさか『あれら』の行いがバレていたとは思っていなかったのだ。


芳川「超電磁砲とも近い関係を有しているため、監視レベルは7指定、だって。貴女そこらのテロリストよりも厳しい監視されてるわよ」


初春「わわっ……!!ち、ちが、いえ、違いませんが……!!でもちちちがッ!!テロリストなんかじゃ!!」

127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:33:35.32 ID:oGtMbEbto

芳川「まあ、ここまでやっても監視維持に留まってるから、反社会的思想は無いみたい?」

初春「も、もちろんですよ!!あるわけ無いじゃないですかッ!!私は正義を貫くジャッジメントですよッ!!」

芳川「言うわね。起訴されたら問答無用で少年院行きなことやってる口で」

初春「うっ……!!」

芳川「……ま、こうして今、悪魔を知ってここにいる時点でこんな意地悪言うのも野暮ね」

芳川「ところで何で、あんなところにいたの?厳戒令布かれてる中で封鎖区に入ってまで」

芳川「問答無用で殺されててもおかしくないのよ?わかってる?」

初春「………………それは…………」

芳川「確かに学園都市は闇を抱えてるけど、それだけじゃない」

芳川「上も今は一枚岩じゃなくて、この厳戒令だって本当に市民を守るために発令されたものよ」

芳川「それに率先して従い、安全を保つべきジャッジメントがここまで勝手な行動するなんて」


初春「わかっています!!でも……!!」


さすがに悪魔に遭遇するとは思ってもいなかったが、でもわかってる。
自身の行動が命令違反で決して許されないのも、
戦時下での厳戒令の意味、それを無視することがどれだけ危険かということも。

しかしそれでも―――それでも黙ってなどいられなかった。

行方がわからない大切な友達を―――。

初春「―――」

と、その時。
初春は、その尋ね人の消息を知るに役立つ、
あるものが目の前にあることに気付いた。


初春「それで―――探してほしい人が!!」

128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:34:52.35 ID:oGtMbEbto

一気に飲み干したカップを、叩くようにして机に置いた初春は、
芳川の手にある端末を指差して声を張り上げた。

初春「佐天涙子という人を!!私と同じ中学校の!!」

芳川「―――え、は、えっと……サテンルイコ、ね」

突然の初春の声にたじろぎながらも、
勢いに押される形でその名を入力していく芳川。

とその時。


―――ぴこん、とアホ毛を揺らして。


打ち止め「―――そのひと、知ってるよ、ってミサカはミサカは伝えてあげる」


幼い少女が恐らく初めて。
少なくとも、初春にとってはこの場で初めてとなる声を発したのだ。


初春「――――――ほ、本当?!」


打ち止め「デュマーリ島にいたよ。今はアメリカからこっちに―――…………」


だが、彼女が久しぶりにその声を聞いたのも束の間。

初春「―――…………?」

ぴたりとその声が途切れてしまった。
ゆらゆら揺れていたアホ毛も同じくして止まる。

そしてそれはほぼ同時だった。

直後。

壁際とカウンターにいた、御坂と瓜二つの少女が―――突然倒れたのと。


打ち止め「――――――…………あ……jhwえ―――」


再び幼い少女が―――。

妙な―――ノイズ、と言えるか、とても幼い少女の喉から発されるようなものではない、
異質な『音』を漏らしたのは。

129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:36:02.28 ID:oGtMbEbto

初春「―――っ?!!」

何が起きたのだろうか。
そう思考がこの状況を解き明かそうとする前に、体が動いてしまうのは職業病と言えるか。

音に振り返り倒れた彼女達を一目見るや、
初春は肩にかけていた毛布を払いのけて、まずは壁際の一人の方へと駆け寄り。

そして呼びかけと状態確認をしようとした―――その時。


芳川「―――触るな!!」


初春「―――え?!なっ?!」

突然の、あの芳川の風貌からとは思えない程に鋭い制止の声。
その声に従い初春はその場で留まったものの、目の前には倒れている人がいるのだ。
相応の理由が無ければ、制止し続けていることなどできない。

芳川「―――いいから離れて!!」

だがその理由は、聞くまでもなくすぐにわかることだった。

初春「―――!」

―――ばちり、と不気味に鳴り響く電空音。

良く見ると、倒れている御坂と瓜二つの彼女の全身、
そのあちこちからスパークが散っていたのだ。

130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:38:00.36 ID:oGtMbEbto

初春「(そうだ―――電撃使いなんだ―――!!)」

御坂美琴のクローンならば当然の事だ。
床に倒れている彼女、そしてカウンターに突っ伏している方も、
どう見ても触れるのは危険なレベルのスパークを発していた。

能力の暴走、のようなものなのだろうか。

とにかくこれではどうしようもない。
まずは芳川に事情を聞くべきであろう、と初春が振り向くと。

芳川はちょうど、ソファーにうずくまっていた『小さな御坂』から毛布を剥ぎ取ったところだった。
そうしてここでやっと目にする、ワンピースを纏った幼い少女の全身。

初春「!」

一見すると『小さい御坂』―――アホ毛ちゃんは、どうやら体に帯電はしていないよう。
しかし呼吸は不規則で、額には汗が噴出していて。
頬も真っ赤に火照っており明らかに容態は悪いものであった。


芳川「―――ラストオーダー、聞える?聞えたら瞬きして」


片手を少女の頬に当てては呼びかけて、
そしてもう片方の手に持っている端末に目を通す芳川。

こんな時まで画面を見るとは、あそこに一体何が表示されているのだろうか。
それを初春が知る術は無かったが、それでも画面を見つめる芳川の表情を見ていると、これだけはわかる。

きっとあそこに映っているのは―――どうしようもなく良からぬ事だったのだろう、と。


みるみる顔が青ざめ―――端末を持つ手が震え始める芳川を見ていると。

131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:39:29.07 ID:oGtMbEbto

すると、その身を縛る不安を振り払うためか、
芳川は一度鋭く息を吐いて。

芳川「―――…………手伝って!!この子を運ぶから!!」

小さな御坂を抱き上げてそう声を放った。

初春「―――か、彼女達は?!」


芳川「あの子達はあとでいい!!まずはこの子をどうにかしないと!!―――――――――皆死ぬ!!」


初春「―――!!わ、わかりました!!」

芳川「ドア開けて!!」

初春「はい!!すぐに―――……」

そうして初春は、まずは声に従いドアに駆け寄―――ろうとした瞬間だった。

初春「―――」


『音』が聞えた。


耳鳴り、地響きか、いや、違う。

それはそれは形容し難い、比喩にしてもぴたりと当て嵌まる言葉が見つからない―――『初めて聞く音』だった。

不快ながらも、なぜか沸々と気分は昂揚し。
耳障りであるにもかかわらず、ずっと聞いていたいとも思える、そんな音。

耳に手を当てても、塞いでもまるで変わらない、発信源がわからない不思議な響き―――。

132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:40:52.24 ID:oGtMbEbto

芳川「ねえ!!ボサッとしてないで!!」

芳川には聞えていないのだろうか、
彼女は動きをとめてしまっている初春に対して、思わず憤りを抱いてしまったよう。
ただ、初春がこの『音』について説明する必要は無かった。

その直後だ。


『音の源』である少年が、突然―――いや、いつの間にか―――芳川の前に立っていたのだから。


芳川「―――」

初春「あ―――っ」

その拍子に、打ち止めを抱いたまま尻餅をついてしまう芳川。
そんな彼女の前に現れた少年は、実は良く見知っていた者であり、
初春にとっても先ほども会ったばかりの恩人だった。

しかし。

彼女が『彼』の正体、先ほど自身を救ってくれた少年と同一人物だった、
という点に気付くには、少しの時間を要することとなった。

なぜなら、彼を良く知っている当の芳川ですら。


芳川「―――アクセラレータ………………なの……?」


そんな風に問うてしまうくらいに、その姿は―――。


―――

133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:41:57.26 ID:oGtMbEbto

―――

一方通行はそこに立っていた。

大きく変質してしまったその体で。

背中からは黒曜石のような翼が幾本も伸び、手足は蠢く闇に覆われ。
黒い葉脈のような筋が刻まれているその顔は、石灰岩の彫刻の如く蒼白で。


そして『黒髪』と―――仄かにオレンジ色に光る瞳。


彼は芳川の問いかけには答えぬまま、その異質な目で唖然としている彼女の腕の中、
苦しそうに喘いでいる打ち止めを見下ろしていた。

一方『…………』

瞬き一つせず、ただジッと。

芳川に打ち止めの状態を聞く必要など、今の彼には無かった。

なにせ手に取るようにわかるのだから。
存在を認識できるようになってから更に進み、今や―――AIMに含まれている『意味』を読み取れる。

AIMを補足して、そこに知りたいと欲すると『理解できる』のだ。

134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:42:41.62 ID:oGtMbEbto

一方『…………』

打ち止めと妹達に、この自身の『稼動』がどれだけの負荷をかけているのか。
稼動方法は、その構造は、といった様々なことが意識内に飛び込んでくる。

そしてそれらは全て―――『最悪』を示していた。

今回は、打ち止めや妹達側からどうにかできるものではなかった。

一方通行はもちろん、更に専門である芳川もプログラムを再三チェックした通り、
打ち止め側に原因、もしくはこの稼動状態のONOFFに干渉できる因子は無い。

以前、天井の手から打ち止めを救った時のような手法は不可能。
ここにもし0930事件のようにインデックスがいてくれたとしても無理だ。

稼動状態を維持している『核』はネットワークの外部に存在しているのだ。

では『核』とは、それは明白だ。


全ては―――アレイスターだ。


一刻も早くあの男を止めるのだ。

そう、一秒すら無駄にしないで―――いますぐ行くべきなのに。



一方通行は動けなかった。


その時。
気を失っていたはずの少女の目が開き、虚ろながらもしっかりと―――彼の方へと視線を向けて。
弱弱しくもはっきりと、こう口にしたから。


打ち止め「……いかないで…………」

135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:44:14.32 ID:oGtMbEbto

芳川「…………!!ラストオーダーッ!!」


一方『―――』

『また』だった。
数日前、病院で、決別したときと同じく―――心が揺らいでしまったのは。

この幼い少女の声はまるでセイレーンの歌だ。
揺さぶられるその感情の振り幅は、一瞬―――この身を満たしている怒りを超えかけそうになるほど。

更に今や、五感だけではなくAIMからも感情を読み取ってしまうため、
それまでとは比べ物にならないくらいに強烈に。


打ち止め「……ねえ……いかないで…………って…………」


何度もそう呟いて、細く小さな手を伸ばす少女。

一方『……』

差し出されたその震える手を、思わず取ってしまいたくなる。
火照った頬を伝う涙が、まるで蜜のようにこちらを引き寄せようとする。

一方『……』

奥底に厳重に閉じ込めた『愚かな分身』から、許されない声が響く。

この小さな少女の望みを、叶えさせてやりたい。
彼女が望むのなら、その言葉に従いたい、と。


そして―――また―――『ありもしない幻想』を描いてしまう。

己が打ち止めと共に生きていく未来を。
己が、彼女と共に『普通』の生活をしている未来を。


彼女の成長を―――傍で見守っていく未来を。

136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:45:31.61 ID:oGtMbEbto

なぜそんな事を思ってしまうのだ。

ここで手を取ってしまえば、そんな未来なんか訪れる訳が無いのに。

そもそもこれは結論を出し、決着が着いた問題ではないのか。
何度も何度も、何重にも何重にも覚悟して決意したことではないのか。


それでなぜ―――こんな事を考えている場合ではないのに―――なぜこの期に及んでまで意識する?


なぜ思考に除けられずに、ここまで意識してしまうのだ?


一方『―――……ッ』


わからない。


原因がわからない。
この問題の本質がわからない―――『答え』がわからない。

本当はどうしたいんだ。
何を感じ、何を思っているのだ。

『俺は本当は―――何をするべきなンだ』

それは―――打ち止めを守るためだ
即ちアレイスターの手の上から彼女を解き放つということ。

『俺は結局―――何をしたいンだ?』

打ち止めの本当の自由が保障されたのち、死んで全てに決着をつける、ということ。


『それが「本当」ならば―――他に方法はあったはず』


そうだ、例えば。

上条が悪魔の力を覚醒させた段階にでも打ち止めを託して、自害するという選択肢などがあったのでは?
己自身よりもあの男の方がずっと信頼できるし、何もかもが丸く収まるではないか。

137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:49:24.14 ID:oGtMbEbto
とにかく方法はいくらでもあったはずだ。
こんなどうしようもない状況は、簡単に避けられたはずなのだ。

一方『―――』

思考が冷酷にかつ合理的に導き出すそんな指摘。
それらへの反論が出てこない。

なぜそうしなかったのか、その『答え』がわからない。

そもそも、己の手でいつまでも打ち止めを守ろうとした理由は?

妹達を殺した責任?償い?

上条の側に託していた方が、どう考えても安泰ではないか。
彼には強い仲間が大勢いるし、何よりもあの男自身が『鉄の存在』だ。

打ち止めの事が第一ならなぜそうしない?
『責任』、『償い』という鎖を利用して、『なぜ』打ち止めを手元に置いた―――。


打ち止め「…………おねがい……だから……って……」


一方『―――』

彼女のか細い声が、
まるでハンマーに側頭部を叩かれたかのように響き渡り。

少年のアイデンティティの基盤を砕いていく。


『なぜ』なんだ。


『答え』はどこなんだ。


『俺』の『答え』は何なんだ。


打ち止め「…………ミサカは……ミサカはあなたを―――」



その先の言葉はもう、彼は聞けなかった。
AIMから流れ込んでくる意識はこれ以上―――覗くことはできなかった。

耐えられなかったのだ。


彼はそこから逃げるように、一気に空間を『飛んでいった』。

138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:51:45.51 ID:oGtMbEbto

意識するだけで、『奇妙な文様』で形成されたオレンジの『光の輪』、
―――魔方陣と言えるかそんなものが出現し、そして『飛べる』。

しかしどうも、あの窓の無いビルの中にだけは行けないようだ。
次の瞬間に彼が目にしたのは、目の前に聳えるあの黒い―――墓標のような建造物。

ただ、中に直接いけなくとも特に困ることなど無い。


それならば―――力ずくでぶち破るだけだ。


ちなみにこの窓の無いビルは0930事件の際に彼が破壊を試みるも、
傷一つつけられずという結果に終った過去がある。

しかし今この時、一方通行の意識内にはそんな過去の出来事など全く浮かんでいなかった。
記憶を参照する程度のことすら、まともに機能していなかったのだ。


少年の意識は、たった今の出来事、それだけでもうボロボロだった。
あれがトリガーとなり、何もかもがぐちゃぐちゃの滅茶苦茶になってしまった。

何も知りたくない、何も気付きたくない、何も考えたくない、と。


今まで巧妙に仕込まれて植えつけられてきた『ストレス』が、『器』の中身を『更地』にするべくついに最後の大爆発を起こす。

その衝撃は容易に―――『彼』を砕くほど。

『答え』を見つけられない『彼』は成すすべなく―――崩壊するしかない。


『一方通行』という人格はここに―――『割れ始めた』。


139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:53:12.20 ID:oGtMbEbto

砕かれつつある彼の意識の断片も、それにはもう抗おうとはしていなかった。

どうせ今終る、どうせここで終るのだ、と。
己を保つことなんか、もう意味無い。
自己分析して自己同一性を確立する必要なんて、もう無い。


幸いにも、『今どうしたらいいのか』だけはわかっているのだ。
それだけは唯一、確かにこの意識の中に形を保っている。

壊れてしまう前に、ぶっ壊すだけ。
食われてしまう前に、食ってしまうだけ。


この魂が消え去ってしまう前に―――殺す。


そう。



『――――――アレイィ゛ィ゛スタァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛―――!!!!』



―――アレイスターのもとに向かう、それ『だけ』は。



壁の前に屹立する少年。

闇同士が摩擦を起こしているのか、
黒曜石に似た表面が揺れ乱れるたびに、耳障りな音と共に『オレンジの火の粉』が飛び散っていく。

そんな闇を纏う右拳を、少年は大きく引き。
無造作に、ただ乱暴に目の前の壁に叩きつけた。


『―――ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』


すると―――以前の試みが嘘のように―――抵抗無く沈む拳。

そしてこれまた雑に彼が手を引き抜くと。
闇に『引っかかった』何重にも重ねられた分厚い特殊鋼版が、さながら紙細工の如く引き剥がされて行く。

140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/24(月) 01:54:33.24 ID:oGtMbEbto

入り口を作るには、その一度で充分であった。
彼の身長ほどもの厚さがあった壁は、そのたった一度でぶち抜かれ―――そしてトラックでも通れそうな大穴が穿たれたのだ。

そうして彼は亡霊のようにゆらりと、闇を引きながらその中に入っていく。
『目的物』は探すまでも無かった。


アレイスター『―――ようこそ。ふむ、良い「仕上がり」だ』


穿たれた穴の真正面に立っていたのだから。


『―――……アレイスター。アレイスター……アレイスター=クロウリー……』


一歩一歩、進みながら彼は繰り返す。
これまた怨霊のように、『純粋な怒り』のみで形成された声で。
何度も何度も目的物の名を。

最早彼の中では、形を保っているのはそれだけ。
目的物の後ろ、宙に磔にされている少年の顔を識別するどころか、その存在すら把握できず。

そして少年が何度も叫び繰り返している―――。


「ダメだ!!来るな!!こっちに来ちゃだめだ!!『――――』!!」


―――『誰か』の名前すら。




「―――おい!!『――――』!!『――――』!!止まれええええ!!」




もう認識できなかった。


―――

143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 01:56:49.51 ID:yoPDtzmDO
一方さんが強さ的にも精神的にもヤバい

147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/24(月) 22:40:22.40 ID:qYZUgCDGo
乙です。時に一方さんはハデスをトレスしたようですが、本家のハデスの格も同程度なのでしょうか?

150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/26(水) 01:51:04.76 ID:SfkefR7uo
>>147
一方通行は、セフィロトの樹を掌握しつつ四元徳にも対抗できるようにと生み出されたハイパー特別製ですので、
本家のハデスよりもずっと強大だと考えております。

ちなみに垣根は成長が早かった分、
このアレイスターの求めるスケールに達しないと判定されてサブに回されてしまった、と。


ダンテ「学園都市か」9(学園都市編)




posted by JOY at 01:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 禁書クロスSS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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